矢作川研究 N o .1 :59 ∼80 ,1 99 7 59 矢作川における付着藻類 と底生動物の基礎調査報告 A tt a c h e d A lg a e a n d B e n th ic In v e rt e b r a te s o f th e Y a h a g i R iv e r 内田 朝 子 A sa k o UCHIDA 1 . は じめ に 矢作川 で は過去十 数年,春∼秋 にか けて カワシオ グサ と推定 され る付着藻 類 の繁茂 が顕著 とな ってい る.近年 , これが原 因で アユ漁へ の悪影 響が懸念 され,漁場 の消失や景観 の悪化 などが問題視 され始 めて いる. 本調査 は糸状 藻類 の繁殖消長 の実態 を把 握 し, 同時 によ りよい水辺 環境 の創 造 を行 うた め の基礎資料 を得 る ことを目的 として いる. 1 994 年 10 月∼ 1996 年 2 月 に矢作 川 中流域 (阿摺 ダム下流∼犬伏川合 流点) で付着藻類相 と底 生動物相 を調べ た. また,豊 田市矢作 川研究 所が 1995 年 4 月, 8 月,10 月 に豊 田市 の 矢作 川全域 か ら採取 した糸状 藻類 を同定 した. ここで は, 主 として 1995 年 4 月以降 の結果 について報告 す る. 2 .調 査地 点 及 び調査 時 期 調査地域 は矢作 川 の豊 田市側 の区域 とした (図− 1 ).調査 地点 として 5 月・ 8 月・ 11 月 ・ 2 月 の調 査 で は, 河川 に 5 地点 (地点 1∼ 5) , ダム に 1 地 点 の計 6 地 点 を, 6 月・ 7 月 ・ 10 月・ 12 月・ 1 月 の調 査 で は,河川 に 3 地 点 (地 点 2 ,地 点 4 ,地 点 5 ), ダム に 1 地点 の計 4 地点 を設定 した (表 − 1 ). ふっ そ また, 古鼡水辺公園(左岸)において6月,8月,11月,1月,2月の計5回にわたっ て付 着藻類 を採集 し, クロロフ ィル a 量 の分析 を行 った. 3 . 調査 項 目 ( 1) 現地調査 ・ 河 川 :付 着藻類及 び クロロフ ィル a 量,底 生動物 ,砂利 投入 の影響評 価 (糸状藻類 発 生対 策 として 1995 年 4 月 6 日,1995 年 6 月 6 日, 1996 年 2 月 3 日の計 3 回 に わた って砂利 の投入 を行 った.投入 量 は 1 回に約 500 m 3 とした), その他 の環 境要因 (水温・透 視度・ 流速 な ど) 阿妻川 出合 大橋 明智川 大川橋 笹戸 ダム 田代川 相走橋 矢作 第 二 ダ ム 旭大橋 矢作川 季川 奥矢作橋 矢作第一ダム 黒田川 笹戸橋 百月 ダ ム 介木川 段戸 川 飯野 川 加茂橋 犬伏川 阿摺 川 阿摺 ダ ム 広瀬橋 富国橋 枝下大橋 御船川 力石 川 越戸 ダム 平戸橋 阿摺 ダム 篭川 荒井橋 古鼡水辺公園 S t .6 久澄橋 st.1 犬伏橋 S t .2 田朝子) 富国橋 S t .5 S t.4 s t .3 St. 2 ’ 図− 1 調 査地 点 砂利投入地点 矢作川研究 N o .1 :59 ∼80 ,19 97 表− 1 61 調査地点 河 川 地 点 調 査 年 月/s t. 1 9 9 5 年 5 月 ・8 月 ・1 1 月 1 2 3 ○ ○ ○ 4 阿摺ダム 5 6 合計 ○ ○ 6 ○ ○ 4 1996 年 2 月 1 9 9 5 年 6 月 ・7 月 ・10 月 ・1 2 月 ○ 1996 年 1 月 ・ 阿摺ダ ム :動 物 プ ラ ンク トン,植物 プ ラ ンク トン, その他 の環 境 要 因 (水 温・ 透 視度 な ど) ( 2 ) 文献調査 矢作川 のカ ワシオ グサお よび底 生動物 に関す る既存 の文献 資料 を収集 した. 4 .調 査方 法 ( 1) 現 地 調査 ①付着藻類調査 各調査地 点の瀬 において石面 の付 着藻類 を一 定量採 取 し,現存 量及 び構成 種 を把握 した. 現存量 は乾重量 及 びクロ ロフ ィル a 量 によ り測定 した.供 試サ ンプル はホルマ リン液による 固定後,顕微鏡 下で種 の同定 を行 った. ②底 生動物 ①定量採集調査 調査定点 を設 け,瀬 にお いて コ ドラー ト(50 cm X 50 cm ) を設 定 し, コ ドラー ト内 の底 生動物 を採集 しサ ンプル とした. ②定性採集調査 定量採 集調査 の補足 を目的 として,種 々の環境 を選 び タモ綱等 を用い て底生動 物 を採集 し た. ①及 び② で採集 したサ ンプル は室内 で ソーテ ィングの後,顕微鏡下 で同定 を行 った.定量 採集 に よる試料 について は種 ごとの個体数 を計 数 した. ③植物 プランク トン(阿摺ダ ム) 表層水 を 1L採取し,ホルマリン液で固定し室内に持ち帰った.試料水は自然沈澱法によ り濃縮後,顕 微鏡下 で種 の同定,細胞 数 の計測 を行 った. 62 矢作川 におけ る付 着藻類 と底生動物 の基礎調査報告 (内田朝子) ④動物プラ ンク トン(阿摺 ダム) プラ ンク トンネ ッ トを用 い表 層 を水平 曳 きし採取 した.採 取 した試料 は, ホル マ リン液で 固定 し室内 に持 ち帰 った.試料 は濃縮後,顕微 鏡下 で種 の同定,個体数 の計測 を行 った. (2)文献調査 カワシオグサ に関 する文献 収集 を行 い, カワシオグサの生態 的情 報 を取 りまとめた.矢作 川の底生動物 に関す る既 存資料 の収集 も合わせ て行 い,底生動物相 の変化 を把握 した. 5 .現地調査結果 ( 1) 付着藻類 ①糸 状藻類の発 生状況 ①本 調査 (阿摺ダム下流∼犬 伏川合流 点) 本調査範 囲 内 において出現 した大 型糸状 藻類 は主 に緑藻Spirogyra sp.(アオミドロ属の 一種 )(写 真一 1 )で,近 年, 問題 に なって い る緑 藻 Cladophora glomerata(カワシオグ サ)(写 真− 2 ) はほ とん ど確認 され なか った. 調査範 囲 の水 位 は上流 のダ ムの放水量 の影響 によ る変動 が著 しか った. 5 月∼10 月の各 調査 日の放水 量 は 30∼40 t と多 く, この期 間中 は流心部 の河床 状況 はほ どん ど観 察 で きな ( 写真− 1 ) 矢作 川研 究 N o .1 :5 9 ∼80 ,19 97 63 ( 写真− 2 ) かった.11 月∼ 2 月の各調査 日の放 水量 は 10 t 以 下 と少な く, 河床状 況 を全域 にわた って 把握 す る ことがで きた. ダムの放水量 に よって調査範 囲 は制限 された. 1 1 月∼ 2 月 に糸状 藻類 の顕著 な発生 が み られた.緑 藻Spirogyrasp.(アオミドロ属の一 種)が ほ とん どで,緑 藻 Cladophora glomerata(カワシオグサ)は,8月に地点3(出現 頻度 :極 めて少ない), 2 月 に地点 1 (局部 的に付着 してい る)で確認 した にす ぎない. ( 卦 豊 田市矢作 川研究所 に よる調査 (豊 田市 におけ る矢作川全域) 矢作 川全域 を対 象 に行 った豊 田市矢 作川 研究 所 の調査 (1995 年 )で は, 4 月, 8 月,10 月の各調査 日に糸状藻類 を確 認 してい る. その発生分 布 を図− 2 に示 した. 確認 さ れ た 主 な 糸 状 藻 類 は 緑 藻 Cladophoraglomerata(カワシオグサ),緑藻 O edogonium sp.(サヤミドロ属の一種),緑藻Spirogyrasp.(アオミドロ属の一種)であっ た. 緑藻Cladophoraglomerata(カワシオグサ)は,4月の調査で5ケ所(飯野川合流点, 古鼡水辺公園,高橋下,水源頭首工下流,家下川合流点),8月の調査で3ケ所(犬伏川合 流点, 古脱水辺公 園,籠川),10月の調査で6ケ所(飯野川合流点,古鼡水辺公園,籠川合 流点 ,高橋下 ,巴川合 流 点,家下 川合 流点 )で確 認 され てい る.緑藻Spirogyrasp.(アオ ミドロ属の一種) は 8 月の調査 で 1 ケ所 (飯野 川合流 点),10 月 の調査 で 2 ケ所 (犬伏川 合 流点 ,家下川合流 点)で確認 され てい る.緑藻 O edogonium sp.(サヤミドロ属の一種)は 1 0 月の調査 で 2 ケ所 (籠川合 流点,水源頭 首工下流) で確認 されてい る. 4 月 の調 査で確 認 された糸状 藻類 はいずれ の地 点 で も緑 藻Cladophoraglomerata(カワ シオ グサ)で あったが, 8 月及 び 10 月の調 査 で緑藻Spirogyrasp.(アオミドロ属の一種) 矢作川 にお ける付 着藻類 と底生動物 の基礎調査報 告 (内田朝子) 64 矢 作川 川 投 川 伊 保 力石 川 川 一の瀬川 籠 川 水 無 伊保川 岩本川 瀬 川 籠川 市木川 加茂川 仁王 川 薪川 滝川 長田川 郡界川 男川 大 切 川 犬 伏 猿 地 前川 点 4 月 8 月 10 月 1 富田町 ( 右岸) 2 犬 伏 川合 流 点 ( 右岸) 3 飯 野 川合 流 点 ( 右岸) 4 大 曲 下流 (中 州 ) 鼡 5 古 6 篭 川合 流 点 (右岸 ) 7 高橋 下 ( 右岸) カ ワ シオ グ サ カ ワ シオ グサ 8 水 源頭 首 工 下 流 ( 左岸) カ ワ シオ グサ サヤ ミ ドロ 9 巴川合 流 点 (左岸 ) 10 家 下 川合 流 点 ( 左岸) 水辺公園 ( 左岸) lカ ワ シオ グサ アオ ミ ドロ カ ワ シオ グ サ ア オ ミ ドロ カ ワ シオ グ サ カ ワ シオ グ サ カ ワ シオ グサ カ ワ シオ グサ カ ワ シオ グサ カ ワ シオ グサ サ ヤ ミ ドロ カ ワ シオ グサ カ ワ シオ グサ アオ ミ ドロ カ ワ シオ グサ カワ シオ グ サ :Cladophoraglomerata アオ ミ ド ロ :Spirogyrasp. サヤ ミ ド ロ :Oedogoniumsp 「 −」:糸状藻類の発生 は確認 されなかった. 図− 2 糸状藻類 の発生状況 (1995 年) 矢作川研究 N o . 1 :5 9∼8 0 ,19 97 65 や緑藻 O ed og oniumSp.(サヤミドロ属の一種)も確認されている. 3 回の調 査 を通 して緑藻Cladophoro glomerata(カワシオグサ)が確認されたのは,古 鼡水辺公園のみであった.富田町や大曲下流では糸状藻類の発生は確認されていない. 発生分布 状況 をみる と, 4 月及 び 10 月の調査 で は飯 野川 合流 点∼家下 川合 流点 まで の広 範囲で確認 され たが, 8 月の調査 で は犬伏川∼籠 川合流点 まで と縮小 した. ②付着 藻類相 各調査 時期 にお ける付着藻 類の主要種 を表− 2 に示 した. 5 月 に は各調査地 点 とも珪 藻Achnanthes japonica,珪藻Cymbella minutaの出現が顕著 であった.地 点 2,5 で は これ ら以外 に藍藻Homoeothrix janthina,地点1,3,4,5では 藍藻Phormidium sp.の出現が多かった.糸状藻類は地点1の早瀬で緑藻Oedogoniumsp., 地点 1 の平 瀬及 び地 点 2 の平瀬 で緑藻Ulothrix zonataが比較的多くみられた. 6 月 か ら 8 月 まで は各調査地 点の早瀬, 平瀬 とも藍 藻Homoeothrix janthina,珪藻Ach nanthesjaponicaの出現が顕著であり,この2種で出現種の上位を占めることがほとんどで あった.他 には珪藻類 が あげ られ るが,各地 点 とも出現種数 は多 い ものの, 出現頻度 はいず れの種 も小 さか った. 1 0 月に は各調査地 点 とも藍 藻Homoeothrix janthina,藍藻Phormidium spsp.の出現が顕 著で あった. しか し,地 点 5 の平 瀬 で は これ らの出現頻 度 は小 さか った.糸状 藻類 の緑藻 Spirogyrasp.は地点5の平瀬で,緑藻OedogoniumSp.は地点2の早瀬,平瀬及び地点4の 平瀬で確認 された. 1 1 月 の調 査で は地 点 1 の早瀬 で は珪藻Synedra acus,珪藻Achnanthes japonica,珪藻 Cymbella turgidulaゎが,平瀬では藍藻Phormidium sp.の出現が顕著であった.緑藻Spi r ogyrasp.は地点2∼5で出現が顕著で,地点2(早瀬・平瀬),地点3(早瀬),地点4 ( 早 瀬・ 平 瀬),地 点 5 (早 瀬 )で は 出現 頻 度 が 特 に高 かった.地 点 5 の 早 瀬 で は紅 藻 Batrachospermumsp.,地点4,5の平瀬では珪藻Melosira varians,地点2の平瀬や地点 4 の早瀬で は珪 藻Cymbella turgidulaの出現が多かった. 1 2 月 の調査 で は地 点 2 の早瀬 及 び平 瀬 で 藍藻 此Homoeothrix janthina,珪藻Achnanthes japonicaが,地点4の早瀬及び平瀬で珪藻Melosira variansが,地点5の早瀬で紅藻 Batrachospermumsp.,珪藻Synedra inaequalisが,地点5の平瀬で珪藻Cymbella tur gidulaがそれぞれ多く出現した.11月に顕著であった緑藻Spirogyrasp.は地点4の早瀬と 地点 5 の早瀬及 び平瀬で 出現 を確認 したが, その出現頻 度 は小 さか った. 1 月 には各調査 地点 とも珪 藻Synedra inaequalis,Achnanthes japonicaの出現が多かっ た. 地点 2 の早瀬 で は これ ら 2 種 に加 え藍 藻Homoeothrix janthinaの出現が顕著であっ た. 2 月 には各調査 地点 とも珪藻Synedra inaequalisの出現が顕著であった.これに加え地 点2,3 の早 瀬 及 び平 瀬 で は珪 藻Achnanthes japonica,地点4の早瀬では珪藻Cymbella tumida,地点5の早瀬では紅藻Batrachospermumsp.や緑藻Ulothrix zonataが多く出現し た.緑藻Ulothrix zonataも糸状藻類の一種で,カワシオグサやアオミドロより細いが,出 現数 が多 くなる と肉眼で もその糸状体 を確 認す る ことがで きる. 緑Ulothrix zonataは2月にほとんどの調査地点で確認されたが,地点4の早瀬では確認 表− 2 地 点 St .1 /月 1 9 9 5 年 / 5 月 6 月 7 月 8 月 付着藻類 の主要種 1 0 月 1 1 月 1 2 月 19 9 6 年 / 1 月 2 月 早 瀬 平 sp . . 瀬 S t .2 . 瀬 . 瀬 sp . . . . St.3 早 瀬 . . 平 瀬 St.4 . 瀬 . . 瀬 . S t.5 . 瀬 . . . 瀬 . . 矢作川研究 N o .1 :5 9∼糾 ,19 97 67 確認されなかった.原因として,調査日より20日以前に行われたの砂利投入の影響が考えら れる. 2 月 には各 調査地 点 とも付着 藻類 の出現 量 は多 く, クロロ フィル a 現存量 の値 もほ と んどの地 点で調査期 間 中の最高値 を示 した. ③付着 藻類現存量 各調 査 月 の各地 点 (早 瀬) にお ける クロ ロフ ィル α量, フェオ フイチ ン量,石 表 面付 着 物の乾燥重量 及 び強熱減 量 を図− 3 − 1 ∼ 図− 3 − 2 にそれ ぞれ示 した. 各地点 の クロ ロフ ィル a 現 存量 は 5 月∼ 8 月の調査 で は,5μg/cm2以下と小さな値を示 したが,10 月の調査 で は約 10μg/cm2の値を示し増加した.11月∼2月の調査ではクロロ フィル a 現存量 は,地点 1,2, 3,4 にお いて 10∼20μg/cm2の値で顕著な増減はみられな かった.地点 5 で は,10 月の調 査以 降,徐々 に増 加 の傾 向 を示 し 2 月 の調査 時 には 45μg/ c m 2 と大 きな値 を示 した. 各地点 の乾燥 重量 は 6,7,8 月 の夏 期 の調 査 で は 1∼2 m g/cm 2,10 月,11 月 の調査 で は 地点 2 で 12. 7 m g /cm 2,地 点 4 で 4 . 3 m g/cm 2,地 点 5 で 5 . 0 m g/cm 2 の値 を示 した.10 月∼ 2 月に は調査地 点 によって多少 の増減 が み られ るものの, 5 月∼ 8 月の調査期 間 と比 べ て大 きい値 を示 した. 2 月 の調査 時 に地点 4 で は 28 m g/cm 2 と大 きな値 を示 した. 強熱減量 の変動パ ター ン と乾燥 重量 の変動 は類似 の傾 向 を示 した.乾燥重量 に対 す る強 熱 減量 の割 合 は,乾 燥 重 量 の比 較 的 少 ない 夏期 に は約 50∼80% と高 く,乾 燥 重 量 の 多 い秋 ∼冬 期 に は 25∼50% と低 くかった. この こ とは,石面 付着物 は夏 期 に はほ とん どが付 着藻 類であ るが,秋∼ 冬期 には シル トな どの無機物 を多 く含 んでい る ことを示 してい る. 緑藻Cladophoro glomerata(カワシオグサ)の発生が顕著であった古鼡水辺公園の付着 藻類現存 量 を本調 査地点 と比較 した.古鼡水辺公園のクロロフィルa量は6月,8月の調査 時には本 調査地点 とほぼ同程度 で あ ったが, 1 月, 2 月 の調 査時 には本 調査地 点 を上 回 り, 1 月 の調査 で は 86 . 3μg/cm2と大きな値を示した.乾燥重量及び強熱減量も6月,8月の 調査 時で は本調査 地点 と同程 度 の値 を示 した が,11 月, 1 月, 2 月 の調 査時 で は本調 査地 点を上 回 る大 きな値 を示 した. ④砂利投入 による付 着藻類への 影響 糸状藻類 の発 生 を押 さえる ことを 目的 とした砂利 投入 は以 下の とお り行 われ た. 第1 回 目 1995 年 4 月 6 日 第2 回 目 1995 年 6 月 6 日 第3 回 目 1996 年 2 月 3 日 砂利 投入 が付 着藻類 発生 に与 え る影 響 を比較 す るため,砂利 投入 地 点 (図− 1 ) の上 流 ( 地 点 5 ),下流 (地 点 4 ) で付着藻類相 の比 較 を行 った. 第1 回 目,第 2 回 目投入後 の現地調査 の結果か らは,付着藻類 の主要種及 び クロロフ ィル a 現存量 は地点 4 と地点 5 で差 はみ られなか った.第 3 回 目投入後 ,投入上流部 の地点 5 の 早瀬 で緑 藻Ulothrix zonataの顕著な出現がみられたが,投入下流部の地点4の早瀬ではこ の種 の出現 は確認 されな かった. ク ロロ フィル α現 存量 は,地 点 5 で 45 . 7μg/cm2と大き な値 を示 した のに対 し地 点 4 で は 25 . 1μg/cm2にとどまった.また,乾燥重量と強熱減量 矢作川 にお ける付着藻類 と底 生動物の基礎調査報告 (内田朝 子) 68 s t .1 80 60 40 20 0 9 4 /1 0 12 9 5 /5 8 11 9 6 /2 s t .2 80 60 40 20 0 9 4 /1 0 1 2 9 5 /5 6 7 8 10 11 1 2 9 6 /1 2 s t. 3 80 60 40 20 0 9 4 /1 0 1 2 9 5 /5 8 1 1 9 6 /2 st.4 80 60 40 20 0 9 4 /1 0 12 9 5 /5 6 7 8 1 0 1 1 12 9 6 /1 2 10 1 1 12 9 6 /1 2 st.5 80 60 40 20 0 9 4 /1 0 1 2 9 5 /5 6 7 クロロフィルa 図− 3 − 1 8 フェオフィチン 各 調 査地 点 にお ける ク ロ ロ フ ィル a 量 及 び フ ェオ フ イテ ン量 矢作川研究 N o .1 :5 9∼ 80 ,19 97 69 st.1 1 7 9 .0 50 40 30 20 10 0 9 4 /1 0 1 2 9 5 /5 8 1 1 9 6 /2 s t .2 1 9 0 .0 50 40 30 20 10 0 9 4 /1 0 1 2 9 5 /5 6 7 8 1 0 1 1 12 9 6 /1 2 s t .3 5 7 .5 50 40 30 20 10 0 9 4 /1 0 12 9 5 /5 8 1 1 9 6 /2 s t .4 1 9 0 .0 50 40 30 20 10 0 9 4 /1 0 12 9 5 /5 6 7 8 10 1 1 12 9 6 /1 2 1 0 1 1 12 9 6 /1 2 s t .5 1 7 5 .0 50 40 30 20 10 0 9 4 /1 0 12 9 5 /5 6 7 乾燥 重量 図− 3 − 2 8 強熱減量 各調査地点 にお ける乾燥重量及 び強熱減量 矢作川 におけ る付着藻類 と底生動物 の基 礎調査報告 (内 田朝子) 70 古鼡水辺公園 12 0 10 0 80 60 40 20 0 9 5 /6 8 クロ ロ フ ィ ル 11 9 6 /1 2 フェ オ フ イ チ ン 50 40 30 20 10 0 9 5 /6 8 乾燥 重量 図− 3 − 3 1 1 9 6 /1 2 強熱減量 古鼡水辺公園における付着藻類現存量 の比較結 果か ら地点 4 で は無機物 量が多 い ことが伺 えた. ( 2 ) 底生動物 ①種構成 各調査 にお ける底生動物 の主要種 を表− 3 に示 した. 5 月に は各調査地点 ともオ オシマ トビケラ,ア カマダラカゲ ロウが 主要種 となっていた. 6 月に は各調査地点 ともウル マー シマ トビケ ラ, ヒゲナガカ ワ トピケ ラが優 占 し, ヒメ ト ビイロカグ ロウ, チ ャバ ネ ヒゲナガカ ワ トピケ ラ,オ オ シマ トビケラが これ に次 いでいた. 7 月の調査で は他 の調 査月 に比 べて全地点 で出現個体 数が少なか った.出現種,個体 数 に 大きな差 はない ものの地点 4 で は ウル マー シマ トビケ ラ,地点 5 で ヒゲナ ガカ ワ トピケラ, エル モ ンヒラタカゲロ ウ, アカマダ ラカゲ ロ ウが主要種 とな って いた. 8 月は冬 期の調査 に次いで底生 動物個体数 が多 く,各調 査地点 ともオオ シマ トビケ ラが優 占し, 次いで, ウルマー シマ トビケ ラ, ナカハ ラシマ トビケ ラの 出現 が顕 著で あった. シマ トビケラ類 以外 に もアカマ ダラカゲ ロウ, エルモ ン ヒラタカゲ ロウ, フタバ コカゲロ ウの一 種, ヒゲナガ カワ トピケ ラな どの出現 も多 か った. 1 0 月 には各調査 地点 ともオオ シマ トビケ ラが優 占 していた. 1 1 月∼ 2 月 の調査 で は地点 2∼5 で はオオ シマ トビケ ラ,ナ カハ ラシマ トビケ ラ, ウル 表− 3 1 9 95 年 t .1 t .2 5 月 6 月 7 月 オオシマ トビケラ アカマダラカゲロウ ウル マー シマ トビケラ オオシマ トビケラ ヒゲナガカ ワトピケラ ア ミメカゲロウ 8 月 底生動物 の主要種 10 月 11 月 12 月 2 月 オオシマ トビケ ラ ウルマー シマ トビケラ オオシマ トビケラ ウルマ ーシマ トビケ ラ オオ シマ トビケラ オオシマ トビケラ オオ シマ トビケラ ウルマーシマ トビケラ オオシマ トビケラ 1 月 ウルマーシマ トビケラ ウルマー シマ トビケ ラ ウルマーシマ トビケラ アカマダラカゲロウ オオ シマ トビケラ ナカハ ラシマ トビケラ ナカハラシマ トビケラ ウルマーシマ トビケラ ウルマー シマ トビケラ オオ シマ トビケ ラ オオシマ トビケラ オオシマ トビケラ アカマダ ラカゲロウ ヒゲナ ガカワ トピケ ラ t .3 1996 年 オオシマ トビケラ ナカハラシマ トビケラ ナカハ ラシマ トビケラ オオ シマ トビケラ ウルマ ーシマ トビケ ラ ナカハ ラシマ トビケラ オオ シマ トビケ ラ t .4 t .5 オオシマ トビケラ オオシマ トビケラ ウル マー シマ トビケラ ヒゲナガ カワトピケラ ウルマー シマ トビケラ ウルマーシマ トビケラ ヒゲナガカワ トピケラ オオシマ トビケラ オオシマ トビケラ オオ シマ トビケラ オオ シマ トビケラ ナカハ ラシマ トビケ ラ ナカハラシマ トビケラ オオシマ トビケラ ナカハ ラシマ トビケラ オオ シマ トビケ ラ オオシマ トビケラ ナカハラシマ トビケラ オオ シマ トビケラ ウルマーシマ トビケラ ウルマーシマ トビケラ アカマダラカゲロウ アカマダラカゲロウ ナカハ ラシマ トビケラ ウルマーシマ トビケラ ナカハラシマ トビケラ ウルマ ーシマ トビケ ラ ナカハラシマ トビケラ ウルマーシマ トビケラ ウルマー シマ トビケラ オオ シマ トビケ ラ アカマダラカゲロウ オオシマ トビケラ オオ シマ トビケラ アカマ ダラカゲ ロウ アカマダラカグロウ ナカハ ラシマ トビケラ 7 2 矢作川 にお ける付着藻類 と底生動物 の基礎調査報告 (内田朝子) マー シマ トビケ ラ, アカマ ダ ラカゲ ロウの出現が顕 著で あった. これ らの以 外 に もク ラカ ケ カワゲ ラの一種 , コガタ シマ トビケラ, エチ ゴシマ トビケラ, ヤマナ カナガ レ トビケラな ど の出現 も多 か った. ②現存量 各調査 月 にお ける底生動物 の現存量 (総湿重量 ) を図− 4 に示 した. 地点 1 の現 存量 は 5 月, 8 月, 11 月 に は 2∼4 g/m 2 と小 さ く, 2 月 に は 45 g / m 2 と大 き な値 を示 した.地 点 2 ∼ 5 にお け る現存 量 は 5∼ 7 月 には約 5∼20 g/m 2 と小 さ く,11 月∼ 2 月 は増 大 した.地 点 2 で 33・88∼ 94・97 g/ m 2,地 点 4 で 49 . 25∼ 67 . 49 g/ m 2,地 点 5 で 37. 03∼89. 25 g/m 2 で あった . ( 3 ) 植物プランク トン 5 月の調査 では褐 色鞭 毛藻Rhodomonas sp.が4×103cells/ml出現し優占種となってい た.珪 藻Asterionella formosaは1∼2×103cells/ml出現し,5,6月とも出現細胞数が多 かった. 7,8 月の調 査 で も珪 藻Asterionella formosaが優占したが,その出現量は2×102 C ells/m l と 5,6 月 に 比 べ て 減 少 し た.10 月 の 調 査 で は 珪 藻Melosira distans,珪藻 Melosira japonicaが主要種であったが,これらの出現量は小さいものであった.11月∼1 月の調査 では顕 著 な出現種 は認 め られず,植物 プ ランク トン相 は極 めて貧弱で あった. 2 月 の調 査 で は珪 藻Asterionella formosaが最も多く,その出現量は1×102cells/mlであっ た. 緑藻Cladophoro glomerata(カワシオグサ)の遊走子である可能性のある鞭毛藻は,6 月の調査 時 に 8 ×101cells/ふ1確認 され た. (4)動物プランクトン 各調査 日とも出現種数及 び 出現量 ともに極 めて少 な く,動物 プ ラ ンク トン相 は貧 弱で あっ た ・ 12 月の調査で確認された水温の低い時期に多く出現する輪虫類戯批0才 オ ぁわプ 如 才 乃 α の42 . 5 個体 /J が最 も多い値 であ った. 緑藻Cladophoro glomerata(カワシオグサ)の遊定子に該当する可能性のあるものは動 物プ ランク トンのネ ッ トサ ンプル について は確認 され なか った. ( 5 ) ま とめ ①本 調査 の調 査範 囲 におい て 5 月∼ 10 月 の調 査 で は,大型 糸状藻類 の発 生 は確認 され な かった. この時 期 は藍藻Homoeothrix janthina,珪藻Achnathes japonicaが主要種と なっていた.11 月∼ 2 月の調 査で確 認 された糸状 藻類 は緑藻Spriogyrasp.(アオミドロ 属の一 種) であ り,問題 視 され て い る緑 藻Cladophoro glomerata(カワシオグサ)では なか っ た . 矢作川研究 N o .1 :59 ∼80 ,19 97 73 st.1 10 0 80 60 40 20 0 9 4 /1 0 12 9 5 /5 8 1 1 9 6 /2 st.2 100 80 60 40 20 0 9 4 /1 0 12 9 5 /5 6 7 8 1 0 11 12 9 6 /1 2 s t .3 10 0 80 60 40 20 0 9 4 /1 0 12 9 5 /5 8 1 1 9 6 /2 st.4 10 0 80 6 0 40 20 0 9 4 /1 0 12 9 5 /5 6 7 8 10 1 1 1 2 9 6 /1 Z 10 1 1 12 9 6 /1 2 st.5 100 80 60 40 20 0 9 4 /1 0 12 9 5 /5 6 7 8 現存量 図− 4 各調査地点 における底生動物 の現存量 (総湿重量) 7 4 矢作川 にお ける付着藻類 と底生 動物の基礎調査報告 (内田朝 子) ②豊田市 を対 象 として行 った豊 田市矢作 川研 究所 の広域調査 で は,犬伏川 よ り下流 におい て数種 の糸状 藻類 の発生 が確認 された. それ らは緑 藻Cladophora glomerata(カワシオ グサ) ,緑 藻Spirogyrasp.(アオミドロ属の一種),緑藻Oedogoniumsp.(サヤミドロ属 の一種 )で あ った. ③広域 調査 の結 果, カワ シオ グサの発生状況 は 4 月 の調査 で は飯野川合 流点 よ り下流部家 下川合 流点 にか けて確認 されたが, 8 月 の調査 で は犬伏川合 流点 よ り寵川合 流点 まで発生 区域 が縮 小 した. 10 月の調査 では 4 月の調査結 果 とほぼ同様 の分布状況 を示 した. ④底生動物 は各調査 地点,各 調査月 ともオオ シマ トビケラ及 び シマ トビケラ類 が主 要種 と なっていた. これ らの出現量 は秋∼冬期 に増大 した. ⑤阿摺 ダム の植 物 プラ ンク トンの試料 中 に緑 藻Cladophora glomerata(カワシオグサ) の遊 走子 であ る可能性 の ある鞭 毛藻が確認 され た. 6 .文 献調 査 結果 ( 1 ) カワシオクサ に関する文献 カワシオグサ に関す る文献収集 を行 った結 果,表− 4 に示 した 2 文献 を収集 した. 各文献 の要約 は次 の通 りで あ る. 表一 4 N o. Cladophrgmet 1 著 者 新 山優 子 年 題 1986 名 北 海 道 カ モ ジ シオ グ サ ( L . )K u T Z IN G の形 態 と季 節 的変 化 . Cladophr カワシオグサ に関する文献 リス ト 藻 類 J a p .J .P h y c o l.3 4 : 2 1 6 2 2 4 . 2 W a lte r K .D o d d s an d 1 9 92 T h e E c o lo g y o f . J .P h y c o l.2 8 : 4 15 −4 2 7 D o lly A .G u d d e r ①文献 1 :北海道カ モジ シオ クサCladophora glomerata(L.)KUTZINGの形態 と季節 的変化. 北海道の河川や湖沼に生育するC / α 拗ゐ 0和属を採集,観察した結果Cladophora の初期 生長様 式や分枝 法 な どは どの生 育地 で も同 じで あ る こ とか ら形 態 的 に は同一種 でClado phora glomerataとして扱うべきであると考えられる.Cladophora glomerataが形態的変異 に富む種 であ るこ とは B RA N D (1899)や V A N D EN H OEK (1963) らに指摘 されてい る. Cladophora glomerataは春に生長を始め,次々と分枝する.分枝は上部での発達が い. 夏, あるい は秋 に遊走子 が形成 され,藻体 の増殖 が見 られる.生長後期 の形 態 は生育場 所に よってかな り違 って くる.河川 では流れが あ るので何か に付着 しな けれ ば藻体 は生育 で きない.一方,湖 で は浮遊状態 で も生育可 能で ある. 矢作川研究 N o .1 :5 9∼8 0 ,19 97 75 ②文献 2 :T h e Ecologyof Cladophora. Cladophoraは海水中,淡水中にも生育し,他の生物の生息場所や餌を提供する.Clado phoraは世界中の淡水域の様々な環境下でみられる大型藻類である.この糸状藻類は河川等 の富 栄養化 の結 果 として増 殖が活 発 とな り異常発 生す る こ とが ある.Cladophoraの分類は 困難 で今 後 の研究 が待 たれ る. Cladophoraは主に底生藻であり,一定方向の流れや定期的な波ある環境下でしばしばみ られ る. その生育 に は窒 素 や リンが最 も一般 的な制 限栄養 塩 とな る.Cladophoraは顕著な 捕食者 のない淡水環境 下 では遷 移 の中間か ら後半 にか けて出現 す る.一 方,海水域 で は遷移 の早期 に他 の藻類 の生 育が活発 化 しない時期 に発生 し,無脊椎動 物 の餌 とな る もの と考 え ら れてい るCladophoraは様々な付着生物や小動物らとともに群体を形成し,この群体は小 動物 に とって,餌 (付 着 生物 もし くはCladophoraそのもの)として,隠れ場として,ま た,流れ に対 す るア ンカー としての役割 を担 って いる.Cladophora群落で生じる種間の相 互作 用 としては次の ものが あげ られ る. 1 )他の一次生産 者 との競 合 2 ) 生物 量 の制御 3 )窒 素固定 を行 う付着物 との関連 4 )無脊 椎動物 の付着物 の捕 食 5 )潮感 帯や淡水群 落 の複雑 な捕食綱 Cladophoraの生態は地方によって異なるので様々な環境下で見い出される. ( 2 ) 矢作川の水生生物 (底生動物)に関する既存資料 矢作川 の底 生動物 に関 す る既 存文献 を収 集 し(表 一 5 ),矢作川 中流部 の底 生動物 の変遷 を整理 した (表 − 6 ).調査 年 に よって調査 方法・ 季節・ 場所 な どが異 なって い るた め,一 概に比較 す るこ とはで きな いが,大 まか な傾 向 を把握 す る資料 とな り得 る. 各調査 年 の主要種 は,1961 年 に はチャバ ネ ヒゲナ ガカ ワ トピケ ラ及 びナ カハ ラ シマ トビ ケラ,1971 年,1977 年及 び 1980 年 に はシマ トビケ ラ属, 1988 年 にはオ オ シマ トビケ ラ と なっ て い る . 表− 5 N o. 著者名 八 田 耕 吉 年 矢作川の底生動物 に関す る既存文献 題 名 1980 矢 作 川 河 口堰 河 川水 域 環 境影 響 調 査 報告 書 (中 間報 告 書 ) 1 9 80 指 標 生物 に よ る矢作 川 の 水質 判 定 (第 1 報 )矢 作川 にお け る生 物 学 的 水 質 判定 .名 古 屋 女子 大 学紀 要 , (2 6 ):1 2 3 −1 34 . ③ 八 田 耕 吉 1 9 80 指 標 生物 に よ る矢作 川 の 水質 判 定 ( 第 2 報 )矢 作川 にお ける汚 濁 の状 況 .名 古屋 女 子 大学 紀 要 , ( 2 6 ):1 3 5 −14 9 . 八 田 耕 吉 1 9 87 東 海 地 方主 要 河 川 にお け る底 生 動物 群 集 の遷 移 (第 一 報 ). 名 古 屋女 子 大 学紀 要 , (3 3):8 7 −9 4 . ⑤ 八 田 耕 吉 1 98 8 矢 作 川 の水 生 昆虫 .名 古 屋女 子 大 学紀 要 , (3 4 ):1 3 5 −14 6 . 7 6 矢作川 にお ける付着藻類 と底生動物 の基礎調 査報告 (内田朝子) 表− 6 /年 1961 主 要 種 チャバネヒゲナガカワトピケラ ウルマーシマトビ ギフシマ トビ キイロカワカゲロウ ナ ケラ ケラ 富田 富田 中流部 中流 部 支 川 ③ ① ⑤ ハ カ 既存 文 献 に よる矢 作 川 中 流域 にお ける主 要 種 の変 遷 ラシマトビケラ 19 7 1 1977 1 9 80 19 8 8 オオシマトビケラ コガタシマトビケラ エチゴシマトビケラ 調査地点 富田 文 献 番号 ③ 備 水 質 はか な りきれ い 底 質 は 砂 質 . 飯 野 川 ,犬 で,源 流 部 に 似 た も 底 生 動物 相 は 伏 川 で は汚 ので あ る. 貧弱. 濁が進行. 考 ここ 30 年で水質 の悪化 が進行 してい る こ とが 既存文献 か ら追跡 す る ことが で き る.1961 年の水質 は源 流部 に近 い状態 であ り(文献③ ) , 1977 年 で は有機 的 な汚 れ は少 な く良好 で あ るに もかか わ らず底生動 物相 は貧 弱で あ る. この原 因 として河床 への陶土,砕 石,川砂 の流 入及 び採取, あ るいはダム に よるシル トの石面付着 お よび浮石 の沈積 を指摘 して いる (文献 ③) . 1988 年 には飯 野川 や犬伏川 の汚 濁 を指摘 して い る(文献⑤). 7 .考 察 1 995 年 4 月∼10 月 にか けて豊 田市矢作 川研 究所 によって行 わ れた矢作 川全域 を対 象 とし た広域 調査で は,夏期 に は範囲 は縮 小す る ものの, カワ シオ グサ は犬伏 川合流点 か ら家下川 合流 点 まで の広 い範 囲 に分 布 して い る ことが確認 されて いる (図− 6 ). しか し,本 調査 の 調査対 象 区間 (阿 摺 ダム下流∼ 犬伏川 合流 点)で は,平成 6,7 年 の両調 査 にお いて もカ ワ シオグサの発生 を確認 す るこ とはで きなか った. この区間で は日本 の河 川 に一般 的 にみ られ る付 着藻類相 を示 していた. 既存 文献 の調 査結 果か ら 1961 年以 降徐々 に水 質汚 濁が進 行 し, 同時 に河床形 態 の変 化が 起こって い った こ とが, そ こに生育 す る底生動物 相,特 に,優 占種 の変遷 か ら伺 うこ とが で きる (図−5).1961年には貧腐水性∼β中腐水性の指標種であり,広い礫空間のある底質 の細礫 間 に営巣 す るチャバ ネ ヒゲナガ カワ トピケ ラが主 要種 とな一 ってお り有機汚濁 は少 な く 良好 な水 質環境 を示 していた. 1980 年 に は礫表 面 に営巣 す るコガ タシマ トビケ ラが,1988 年に は安定 した浮 き石環境 下で営巣 す るオ オシマ トビケラが主要種 とな り矢作川 の水質 は β 中腐水性∼ α 中腐 水性 へ と変化 し河川 の有 機汚 濁 が進行 して いった ことを示 して い る.有 機汚 濁 と平行 して河床形 態 は,変動 しやす い浮 き石 の礫底 →砂 泥 の流下 が多 い沈 み石の礫底 →安 定 した浮 き石の礫底 へ と変化 し,極 めて安 定 した状態 とな った ことが上述 した優 占種 の 営巣 生態的特徴 か ら も判 断 され る. 河床 の安定 化 は建設 されたダ ムに よって上流部 か ら細礫 や砂 の流入 の減 少 に起 因 して いる と考 え られる. また, ダムの完成 は上 流 に止水環境 を提供 するこ とにな り植 物 プラ ンク トンの増 殖 を促 す結果 となった こ とが予想 され る. これが流下 藻類量の増加 を招き河川の富栄養化準行の要因の一つになっていると推測 される. このよう 矢作川研究 N o . 1 :59 ∼80 ,1 99 7 77 貧腐 水性 流下物 チャ バ ネ ヒ ゲ ナ ガ カ ワ ト ビ ケ ラ 1 960 年 代 浮き石 β中腐水性 流下物 1 970 年代 ウル マ ー シ マ ト ビ ケ ラ 砂 沈み石 α中腐 水性 流下物 1 980 年代 オオ シ マ ト ビ ケ ラ カワ シ オ グ サ 安定 した 浮き石 図− 5 底生動物か らみた水質・ 河床・ 流下物の変化 矢 作 犬 伏 川 矢 作 川 犬 伏 川 矢 作 作川 作川 犬 伏 犬 伏 川 川 カ石川 籠川 犬 伏 川 川 カ石川 籠川 籠川 新川 薪川 籠川 籠川 新川 新川 新川 家下川、 田朝子 冬 春 夏 秋 冬 カワ シオ グサ 発 生場 所 図− 6 矢作川 におけるカワシオグサの発生分布 (1995 年) 矢作川研 究 N o .1 :5 9∼8 0, 19 97 79 な河川環境 の変 化が カ ワシオ グサ発生繁茂 につなが った もの と考 え られ る. カワシオ グサ対 策 として行 われた砂利投 入 は, 3 回 目の投入 の後 に投入 地点 の下 流で付着 藻類 の現存量 が減少 した こ とか らその効 果が あった と判断 され る. 8 .今後の課題 ①季節的 な変化 はあ るものの, カワ シオ グサ は,犬伏川合流 点か ら家下 川合流点 までの比 較的広範 囲 に分 布 してい る (図− 6 ) .今 後 の調査 で は,矢作 川 の流域全体 を対 象 とした カワシオグサ発生状 況の把握 を行 うことが必要 であ る.発生環境 の解析 を行 う ことによっ て,大型 糸状 藻類 の駆 除対策 につ なげ るこ とが 可能 となる. ②大型糸状 藻類 の異 常発生 は,アユ な ど水産資源 上重要 な魚類 の生育 に影 響が あ ると推測 され る.今後 ,大型 糸状藻類 の発生 量 とアユの生育 の間 にどの ような関連 が あるのか を, アユ の食性 調査 を併 せて行 うこ とに よって解明 す る ことが望 まれ る. 〔 豊 田市矢作川研究所共同研究員 :〒 520−30 滋賀県栗太郡栗東 町川辺 477−1〕 S u m m a ry A tta ch ed a lg a e a n d b e n th ic in v e rte b ra tes fro m th e m id d le re a ch o f th e Y a h a g i R iv er ( fro m AzuriDam to the confluence of theInubuse River)wereinvestigated from O cto b er ,19 94 to F eb ru a ry ,1 99 6 .F ila m e n tou s g re en a lg ae ,w h ic h w ere c o llec te d fro m th e w h o le stre tch o f th e Y ah a g i R iv er in T o y o ta city in A p ril,A u g u st an d O cto b e r,199 5 b y t h e T o y o ta Y a h a g i R iv er In stitu te (Y R I),w e re a lso id e n tified . I n th e m id d le r e a c h o f th e r iv e r ,o c c u r r e n c e o f f ila m e n t o u s g r e e n a lg a e w e r e r e s tr ic t e d i n a u t u m n a n d w in t e r ,a n dSpirogyrasp.wasdominantinthealgae.Inthealgaecollected b y Y R L ,Cladophora glomerata wasthemostdominantandSpirogyrasp.andOedgonium s p . w e r e also abundant butless than the former.Cladophora glomerata tends to be a b u n d an t in th e u p p e r r ea c h o f th e r iv er in A u g u st.In b e n th ic in v erteb ra te s in th e m id d le o f t h e r iv e r ,Macrostemum radiatum wasalmostalwaysdominant. T h e se re su lts a n d th e d a ta o n th e in v e rteb r ate s o f th e Y a h a g i R iv e r fro m sug g e s t e In 1 9 n v i 6 0 ’s r o n m e n t a l c h a n g e o f t h e r i v e r s i n c e 1 9 6 0 ’s a s f o l l o w s liter a tu re ・ ,Stenopsyche esauteriwasdominantintheinvertebrates,butitwasreplaced b yHydropsyche andthenMacrostemum radiatumsucceededthelatter・Thisreplacement ind i emb e c a d t d e e s d f i o n l l s o w a i n d n g a c n h d a s n i g l t e o ( 1 f 9 t 7 0 h e ,s ) s u b , 3 . s t l o r a o t s e e : s 1 t a . b l l e o o s s t e o u n n e s s t a ( 1 b 9 l 8 e 0 s ’s t ) o n . e I s t ( 1 a l s 9 6 o 0 ’s s u ) g , g 2 e . s s t s t o n t h e s e w a te r h a s g ra d u a lly b e c o m e e u tro p h ic . T h is c h a n g e o f su b str a te a n d w a te r q u a lity w a s p r o b a b ly c a u s e d b y th e c o n s t r u c t io n o f a r t ific ia l r e s e r v o ir s a n d it m ig h t h a v e le d t o th e 8 0 g r o w th 矢作川 にお ける付着 藻類 と底生動物 の基礎 調査報告 (内 田朝子) o f fila m e n t o u s g r e e n a lg a e . A la rg e a m o u n t o f g r av e l w a s p o u re d th r ee tim es in 19 95 −19 96 b y Y R I in to th e riv er t o p re v e n t th e g ro w th o f th e a lg a e b e lo w A z u ri D a m ・ T h e b io m a ss of th e a lg a e d e c rea s ed t h e r e afterthepouring.
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