Reflections on the Current State of Japan

Reflections on the Current State of Japan-Korea Relations
Kan Kimura
日韓間の関係は 1965 年の両国国交正常化以降から 50 年。日韓関係は大きな節目を迎え
ている。2012 年 8 月の李明博大統領竹島上陸以降、
両国の関係は大きく冷え込む事となり、
首脳会談をスムーズに開催することすらままならなくなっている。関係が悪化しているの
は、政治的関係だけでなく。この数年間、両国民の互いに対する感情も悪化を続け、その
水準は過去最悪に近い状態になっている。
それでは日韓関係はどうしてこのような状況になってしまったのだろうか。第一に明ら
かなのは、今日の状況が 80 年代末から 90 年代初頭にはじまる一連の大きな歴史認識問題
を巡る状況の変化の中にある、という事だ。教科書問題にせよ、慰安婦問題にせよ、今日
重要な問題として取り上げられている日韓間の懸案は 80 年代から 90 年代にかけて「発見」
されたものである。言い換えるなら、それ以前の日韓間においては、教科書問題や慰安婦
問題が「政治的懸案」として議論された事はなく、突如これらの問題が一斉に火を噴き、
今日に至ったという事になる。
そしてこの 80 年代末から 90 年代初頭にはじまった状況は、
大きな変化なく今日に至る事と成っている。
そしてこのことは一見奇妙に見える。なぜなら通常、この 80 年代末から 90 年代初頭の
時期以降が、日韓間の交流が本格的に高まり、両国の相互依存が高まった時期だと考えら
れているからである。仮に相互依存が両国間の相互理解に資するとするならば、状況は明
らかに矛盾しているように見える。
にも拘らず、どうして日韓間の状況はこの時期以降悪化して行ったのだろうか。ここに
おける重要な要因の変化は、両国間、とりわけ韓国の日本に対する依存度の低下である。
例えば 70 年代前半には、
実に韓国の貿易総額において40%に達していた日本のシェアは、
その後の急速に低下し、今日に10%を切るまでに至っている。当然の事ながら、日本に
対する経済的依存度の低下は、韓国の政府、世論、そしてビジネスをして、歴史認識問題
等において日本を批判しやすい素地を作り出した。例えば、1980 年代、日韓関係が悪化し
た時には、両国の政財界のエリートが協力して、日韓の融和関係を作り出した。しかしな
がら、現在においてはそのような動きは存在しない。何故なら、そこにおいては日韓関係
改善により得られる利益が、この為に動く事により民族主義的な世論から批判されること
により生まれる不利益よりも大きくなってしまっているからだ。即ち、誰も関係改善のた
めに動かないから、甞てとは異なり様々な問題は一旦火が付くとそのまま放置され、関係
悪化が延々続く事になる。
互いの重要性の低下が歴史認識問題等が起こりやすい素地を作り出し、また、一旦問題
が現実となると、関係改善努力の為のインセンティブが見出し難い状況を生み出すことに
なる。ここで重要なのは、このような「韓国にとっての日本の重要性低下」という現象が
不可逆的なものとして起こっている事である。即ち、この現象は主として三つの要因、即
ち、冷戦終焉と、韓国の経済発展、更にはグローバル化により、韓国にとっての国際的選
択肢が急増したことによって起こっている。そしてそれが例えば日本の経済的停滞、のよ
うな日本側の事情により引き起こされていない以上、甞てと同じような大きな経済的重要
性を日本が韓国に対して持つ時代が、再び訪れるとは考え難い。
とはいえそれだけでは状況は説明できない。何故なら、日韓両国、とりわけ韓国にとっ
ての日本の重要性には、経済的要素以外も存在するからである。とりわけここで重要なの
は、安全保障上の協力の必要である。仮に日韓関係の悪化が、両国の安全保障上の協力の
大きな妨げとなり、それに日韓両国のどちらか、或いは双方の安全保障上の利益が損なわ
れるなら、両国のエリートは共同利益のために歴史認識問題等の早期解決のために努力す
る、可能性もあるように思える。
しかし、現実ではこのような可能性も大きくは存在しない。何故なら、両国の安全保障
上の利益が全く異なるものとなってしまっているからである。尖閣問題を抱えて、中国を
最大の仮想敵とする日本と異なり、韓国政府は中国に対して融和的姿勢を取り、世論もこ
れを支持している。このような中、両国のアメリカとの同盟関係に対する理解も異なるも
のとなっている。日米同盟を米中対立の中での基軸的な存在と考え、積極的な役割を果た
そうと考える日本とは異なり、現在の韓国では米韓同盟は基本的に対北朝鮮限定同盟であ
り、中国に対して向けられたものではない、という説明をするようになっている。
このような両国の中国に対する姿勢の違いを齎す原因は二つある。一つは、中国に対す
る経済的依存度の違いである。貿易依存度が100%近くに達する韓国では GDP に対する
対中貿易の寄与度は、同じ貿易依存度が30%余りに過ぎない日本の3倍以上になってい
る。当然の事ながら、このような状況において中国との関係を損なう事は韓国の財界にと
って致命的なものであり、従って政財界は一致してこの安定を望む事になる。もう一つは
米中対立の中での日韓両国の立ち位置いである。世界有数の海軍力を持つ日本がその能力
ゆえ当然に、南シナ海等海洋を舞台とする米中対立において、大きな役割を期待されてい
るのに対し、北朝鮮の脅威を控えて陸軍に偏重した軍事力を持つ韓国が米中対立の中で果
たせる役割は小さい。結果、両国においてはアメリカの中国政策に対する理解も異なって
来る。軍当局者を中心とするハードライナーの意見を聞く機会が日本に対して、同じ機会
が少ない韓国では逆にソフトライナーの米中融和論が大きく響く。だからこそ日本ではア
メリカの真意は中国の対決にあるという認識が一般化し、韓国ではアメリカは中国との対
決など望んでいない、という理解が広まる事になる。
ではこのような状況において日韓関係はどうやって改善されるべきか。今日の状況を考
える上で最も重要なのは甞ては存在していた経済的・安全保障上の協力の理由が日韓両国
において失われてしまっている事だ。とりわけ世論は、民族主義と結びついた歴史認識問
題等に関わる利益を犠牲にしてまで、関係改善に乗り出す事に負担を感じており、この為
には個々の国民にとって両国関係の安定がどのように役立つのかをきっちりと考えていく
ことが重要だ。