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圏論とは何か
alg-d
http://alg-d.com/math/
2015 年 10 月 11 日
ここでは圏の定義と例を使って,圏論がどういうものなのかを紹介する.
目次
1
圏論とは
1
2
圏の例
6
3
関手の例
9
4
圏同値
11
1 圏論とは
「Z/4Z と Z/5Z は (加法群として) 同型か?」という問題を考える.これはもちろん同型
ではない.何故かと言うと Z/4Z は 4 つの元からなる集合で,Z/5Z は 5 つの元からなる
集合だから,つまりそもそも濃度が違う (=全単射が無い) ので,同型になりえないのであ
る.これは少し難しく言えば
群として同型 =⇒ 集合として同型
(濃度が同じと言うことを、あえてこう書く)
という命題の対偶を考えているのである.
もう少し難しい例を出すと,位相空間には「基本群」という概念がある.位相空間 X
に対して基本群と呼ばれる群 π(X) が構成される.(あとで書くように厳密には少し異な
1
るが,今は気にしないことにする.) この「基本群」は次を満たす.
位相空間が同型 (= 同相) =⇒ 基本群が同型
式で書けば
X∼
= Y =⇒ π(X) ∼
= π(Y )
という定理が成り立つことになる.故に位相空間が同相かどうか調べるには,まず基本群
を調べればよい.(基本群が同型でなければ、元の位相空間は同相ではない.)
この考え方を一般化したものが圏論である.絵で書けば
群を集合として見る
群全体
集合全体
基本群を取る
位相空間全体
群全体
が先の二つの例であるが,これを一般化したのが「圏」と「関手」である.
関手
圏
圏
定義. 圏 (category) C とは二つの (集合とは限らない) 集まり Ob(C), Mor(C) の組であっ
て,以下の条件をみたすものをいう.なお元 x ∈ Ob(C) を対象 (object),f ∈ Mor(C)
を射 (morphism) と呼ぶ.
(1) 各 f ∈ Mor(C) に対して,ドメイン (domain) と呼ばれる対象 dom(f ) ∈ Ob(C)
とコドメイン (codomain) と呼ばれる対象 cod(f ) ∈ Ob(C) が定められている.
dom(f ) = x,cod(f ) = y であることを f : x −→ y と書いて表す.また x, y ∈ C
に対して HomC (x, y) := {f ∈ Mor(C) | f : x −→ y} と書く.
(2) 二つの射 f : x −→ y ,g : y −→ z に対して合成射と呼ばれる射 g ◦ f : x −→ z が
定められている.
(3) 射の合成は結合律を満たす.即ち,f : x −→ y ,g : y −→ z ,h : z −→ w に対して
(h ◦ g) ◦ f = h ◦ (g ◦ f ) である.
2
(4) 各 x ∈ Ob(C) に対して,恒等射と呼ばれる射 idx : x −→ x が存在し,射の合
成に関する単位元となる.即ち f : x −→ y ,g : y −→ x に対して f ◦ idx = f ,
idx ◦ g = g である.
文脈から明らかな場合,x ∈ Ob(C) を単に x ∈ C ,f ∈ Mor(C) を単に f ∈ C と書く
ことがある.
定義を見ると,圏は「集合と写像」を意識して定義されていることが分かると思う.な
ので一番基本的な例は次に出す「集合と写像のなす圏」である.
例. 集合を対象,写像を射とすれば圏になる.この圏を Set で表す.より詳しく書けば以
下のようになる.
• Ob(Set) := {X | X = X} =「全ての集合の集まり」と定める.
• Mor(Set) := {f | f はある集合 X からある集合 Y への写像 } と定める.
• X から Y への写像 f に対して dom(f ) := X ,cod(f ) := Y と定める.
• 射の合成 g ◦ f は通常の写像の合成で定める.勿論この合成は結合律を満たす.
• 集合 X に対して恒等射 idX を恒等写像 X −→ X で定める.勿論 f ◦ id = f ,
id ◦ g = g を満たす.
以上により圏 Set が得られた.
同じようにして,以下のような圏が得られる.
例. 群を対象,群準同型を射とすれば圏になる.この圏を Grp で表す.(恒等写像は群準
同型であること,群準同型の合成が群準同型になること,に注意すればよい.)
例. 位相空間を対象,連続写像を射とすれば圏になる.この圏を Top で表す.
次に関手を定義する.これは圏の「準同型」とでも言うべきものである.
定義. C, D を圏とする.C から D への関手 (functor) F : C −→ D とは x ∈ Ob(C) に
F (x) ∈ Ob(D) を,f ∈ Mor(C) に F (f ) ∈ Mor(D) を対応させる関数であって,以下を
満たすものである.
(1) f : x −→ y のとき F (f ) : F (x) −→ F (y) である.
(即ち dom(F (f )) = F (dom(f )),cod(F (f )) = F (cod(f )) となる.)
(2) cod(f ) = dom(g) のとき F (g ◦ f ) = F (g) ◦ F (f ).
(3) x ∈ C に対して F (idx ) = idF (x) .
3
この定義を絵で書くと次のようになる.
F
C
D
idx
F (idx )=idF (x)
x
F (f )
f
y
F (y)
g◦f
g
F (g)
z
F (x)
F (g◦f )=F (g)◦F (f )
F (z)
F (x) を F x,F (f ) を F f と書くこともある.
例. U : Grp −→ Set を以下のように定義する.
• 群 ⟨G, ·⟩ ∈ Grp に対して U (⟨G, ·⟩) := G と定める.即ち,群 G に対してその「演
算を忘れた」集合 G を与える.
• 群準同型 f : G −→ G′ に対して U (f ) := f と定める.(群準同型は写像であること
に注意する.)
このように定めれば明らかに U は関手である.このような構造を忘れる関手 U を一般に
忘却関手 (forgetful functor) と呼ぶ.
こ の と き 最 初 に 指 摘 し た よ う に f ∈ Mor(Grp) が 群 の 同 型 写 像 な ら ば U (f ) ∈
Mor(Set) が集合の同型写像 (即ち全単射) となるのであるが,この性質は一般の関手
に対して成り立つのである.それを示す為,一般の圏 C における同型を定義する.
定義. C を圏,x, y ∈ C を対象とする.
(1) C の射 f : x −→ y が同型射 (もしくは可逆)
⇐⇒ ある射 g : y −→ x が存在して g ◦ f = idx ,f ◦ g = idy となる.
(2) x と y が同型 (x ∼
= y で表す) ⇐⇒ ある同型射 f : x −→ y が存在する.
例. 圏 Set の同型射とは,全単射のことである.
4
例. 圏 Grp の同型射とは,群同型写像のことである.
例. 圏 Top の同型射とは,同相写像のことである.
命題. C, D を圏,F : C −→ D を関手とする.このとき f : x −→ y が C の同型射なら
ば,F (f ) : F (x) −→ F (y) も D の同型射である.
証明. f : x −→ y を同型射とする.定義から,ある射 g : y −→ x が存在して g◦f = idx と
f ◦g = idy を満たす.これに F を適用すれば F (g)◦F (f ) = idF (x) ,F (f )◦F (g) = idF (y)
となる.故に F (f ) : F (x) −→ F (y) は同型射である.
例. G, G′ を群,U : Grp −→ Set を忘却関手とするとき,群の同型 G ∼
= G′ が成り立て
ば U (G) ∼
= U (G′ ) である.
例. 位相空間 X と点 x ∈ X の組 ⟨X, x⟩ を基点付き位相空間と呼ぶ.基点付き位相空間
の圏 Top∗ を以下のように定める.
• 基点付き位相空間を対象とする.
• 射 ⟨X, x⟩ −→ ⟨Y, y⟩ は連続写像 f : X −→ Y であって,f (x) = y を満たすもので
ある.
• 射の合成 g ◦ f は通常の写像の合成で定める.
基点付き位相空間 ⟨X, x⟩ に対して,基本群 (ホモトピー群) と呼ばれる群 π1 (X, x) が定
義される.このとき連続写像 f : X −→ Y に対して準同型 f∗ = π1 (f ) : π1 (X, x) −→
π1 (Y, f (x)) が定まり,
π1 (g ◦ f ) = π1 (g) ◦ π1 (f ),
π1 (idX ) = idπ1 (X,x)
を満たすのであった.即ち π1 : Top∗ −→ Grp は関手となるのである.よって同相写像
f : X −→ Y が存在すれば同型 π1 (X, x) ∼
= π1 (Y, f (x)) が成り立つ.
ここで一つ簡単な注意をしておく.f : x −→ y を同型射としたとき,g : y −→ x で
g ◦ f = idx ,f ◦ g = idy を満たすものは唯一つしかないことが容易に分かる (群において
逆元が一意なのと同じである).この g を f の逆射といい,f −1 で表す.
5
2 圏の例
さて,今まで出てきた圏は全て対象が「集合に構造が入ったもの」で,射が「写像」で
あった.しかし,圏はこのようなものとは限らない.つまり,圏の定義を満たしてさえい
ればよいのである.
例. Ob(C) = Mor(C) := ∅ とすれば,この C は明らかに圏となる.これを空圏といい 0
で表す.
例. 対象を唯一つ ∗ だけとし,射も恒等射 id∗ だけとすれば,これも明らかに圏となる.
これを一点圏といい 1 で表す.1 は絵で書けば
id∗
∗
のようになる.
例. 対象を二つ x, y とし,射は恒等射 idx , idy 以外は f : x −→ y 唯一つだけとする.即
ち絵で書けば
idx
x
f
idy
y
のようになる.これも圏となることが分かる.これを 2 で表す. 例. 対象を三つ x, y, z とし,射は恒等射 idx , idy , idz 以外は f : x −→ y ,g : y −→ z と,
その合成 g ◦ f : x −→ z だけとする.絵で書けば
idy
y
f
idx
x
g
g◦f
z
idz
のようになる.これも圏となることが分かるこれを 3 で表す.
6
例. もう最初から絵で書くことにすれば
f
idx
idz
y
x
g
や
idy
idx
x
y
f
g
y
idz
や · → · ← · と表すことがある.
も圏となる.これらの圏は記号でそれぞれ
例. M をモノイドとする.このとき圏 C を以下のように定める.
• Ob(C) := {∗}
• HomC (∗, ∗) := M
• 射の合成をモノイド M の積で定める.
こうしてモノイドから対象が唯一つの圏を得ることができる.逆に対象が唯一つ ∗ のみの
圏 C に対して M := HomC (∗, ∗) として,M の二項演算を射の合成で定義すれば,モノ
イドが得られる.この見方で,モノイドは対象が唯一つの圏と同一視することができる.
※ これは厳密には嘘である.というのも一般に対象が唯一つ ∗ のみの圏 C を考えた
とき,HomC (∗, ∗) が集合となるとは限らないからである.
一般に,任意の c, d ∈ C に対して HomC (c, d) が集合となる圏を locally small な
圏という.(locally small を圏の定義に入れる流儀もある.) この言葉を使えば,モノ
イドとは対象が唯一つの locally small な圏のこと,ということになる.ところで当サ
イトの PDF 内で考える圏は殆どが locally small である.そこで以後,特に断らない
限り圏は locally small であるとする.
またこの見方で言えば,群とは対象が唯一つで全ての射が同型とな圏である.
例. X を集合とする.このとき Ob(C) := X で射は恒等射のみとすれば,C は明らかに
圏となる.これを離散圏という.通常,集合はこの方法で圏とみなす.
例. ⟨X, ≤⟩ を順序集合とする.このとき
7
• Ob(C) := X
{
• x, y ∈ X に対して HomC (x, y) =
{fxy }
(x ≤ y のとき)
∅
(それ以外のとき)
と定義すると C は圏になる.それを示すため,射の合成と恒等射を定義しよう.
まず恒等射であるが,x ∈ X に対して x ≤ x だから,定義より射 x −→ x は唯一つ存
在し,それは fxx である.よって idx := fxx と定義するしかない.
次に合成を定義するため,f : x −→ y と g : y −→ z を射とする.定義から,射が存
在するためには x ≤ y ,y ≤ z でなければならない.また勿論 f = fxy ,g = fyz であ
る.このとき x ≤ z だから x から z への射は唯一つ fxz : x −→ z が存在する.そこで
fyz ◦ fxy := fxz と定義する.
この定義が圏の条件を満たすことは容易に分かる.こうして順序集合は圏とみなすこと
ができる.
逆に圏 C が次を満たすとする.
• Ob(C) は集合である.
• x, y ∈ C に対して |HomC (x, y)| ≤ 1
このとき X := Ob(C) に二項関係 R を
xRy ⇐⇒ |HomC (x, y)| = 1
で定めれば,(X, R) は前順序集合∗ になる.前順序集合は順序集合と同じやり方で圏と見
なせるから,前順序集合を「Ob(C) が集合で,|HomC (x, y)| ≤ 1 となる圏」と同一視す
ることができる.
例. 実は,「圏と関手」も圏をなす.つまり,
• 圏を対象とする.
• 圏 C から圏 D への射とは関手 C −→ D のこととする.
• 関手 F : C −→ D,G : D −→ E に対して合成関手 G ◦ F : C −→ E を次で定義す
る.(G ◦ F を単に GF と書くことも多い.)
– x ∈ C に対して G ◦ F (x) := G(F (x)).
– C の射 f : x −→ y に対して G ◦ F (f ) := G(F (f )).
∗
反射律と推移律を満たすもの (つまり順序の定義から反対称律を除いたもの) を全順序 (preorder) とい
う.
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• 圏 C に対して恒等射 idC : C −→ C を次で定義する.(idC を恒等関手と呼ぶ.)
– x ∈ C に対して idC (x) := x.
– C の射 f : x −→ y に対して idC (f ) := f .
と定義すると,これは圏となることが分かる∗ .この圏を Cat と書く.
3 関手の例
例. X, Y を 集 合 ,f : X −→ Y を 写 像 と す る .F (X) := P(X) を 冪 集 合 と し て ,
F f : P(X) −→ P(Y ) を「像」で定める.即ち,S ⊂ X に対して F f (S) := {f (a) | a ∈ S}
である.これにより F : Set −→ Set は関手となる.
例. 集合 X, Y を離散圏と見なす.このとき,X の射は恒等射しかないから,関手 X −→ Y
は写像 X −→ Y と同一視することができる.
例. 順序集合 (X, ≤X ), (Y, ≤Y ) を圏とみなし,関手 F : (X, ≤X ) −→ (Y, ≤Y ) を考える.
a, b ∈ X ,a ≤X b とする.このとき射 f : a −→ b が存在する.よって F (f ) : F a −→ F b
である.即ち F a ≤Y F b でなければならない.よってこの場合,関手とは順序を保つ写
像のことである.
例. モノイド M, N を圏とみなすとき,関手 M −→ N とはモノイド準同型のことであ
る.
例. モノイド M を圏とみなしたものを C とする.関手 F : C −→ Set を考える.
C の対象は一つだけなのでそれを ∗ とする.このとき X := F (∗) は集合である.
HomC (∗, ∗) = M だから,m ∈ M に対して F m : X = F (∗) −→ F (∗) = X は写像であ
る.x ∈ X に対して mx := F m(x) と書くことにする.今 F は関手だから,m, n ∈ M
に対して F (mn) = F m ◦ F n である.故に (mn)x = F (mn)(x) = (F m ◦ F n)(x) =
F m(F n(x)) = m(nx) となる.また単位元 e ∈ M に対して F e = idF (∗) = idX だから
ex = F e(x) = idX (x) = x である.
以上により,演算 M × X ∋ (m, x) 7−→ mx ∈ X によりモノイド M は集合 X に左から
∗
「全ての集合の集まり」を集合だとみなすと矛盾してしまうように,「全ての圏の集まり」を圏とみなす
のも,集合論的に危ない所があり,厳密には気をつけて扱わないと矛盾してしまう.ただ,特に必要がな
ければ,圏論をやる時にそういう集合論の技術的なことを気にしてもしょうがないと思うので,このサイ
トの圏論の PDF では基本的にそういうことにはあまり気を配らないことにする.
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作用している.逆に,モノイド M が集合 X に左から作用していれば,関手 F : C −→ Set
を定めることが分かる.こうして関手 F : C −→ Set を左 M -集合 X と同一視すること
ができる.
位相空間 X に対して F (X) で「X 上の複素数値連続関数全体がなす集合」を表すこ
とにする.このとき,連続写像 f : X −→ Y に対して写像 F f : F (Y ) −→ F (X) が,
g ∈ F (Y ) に対して F f (g) := g ◦ f で定義できる.
F (X)
g
Y −
→ C)
∈
(
Ff
∈
F (Y )
(
f
g
X−
→Y −
→ C)
この F は関手にはならない.というのも,f : X −→ Y に対して F f : F (Y ) −→ F (X)
と,射の向きが逆になっているからである.ただ,逆向きになることを除くと,関手と似
たような条件を満たしている.即ち
• f : X −→ Y ,g : Y −→ Z に対して F (g ◦ f ) = F (f ) ◦ F (g).
• F (idX ) = idF (X) .
このような逆向きになる「関手」を反変関手という.ちゃんと定義すると次のようになる.
定義. C, D を圏とする.C から D への反変関手 F : C −→ D とは x ∈ Ob(C) に
F (x) ∈ Ob(D) を,f ∈ Mor(C) に F (f ) ∈ Mor(D) を対応させる関数であって,以下を
満たすものである.
(1) f : x −→ y のとき F (f ) : F (y) −→ F (x) である.
(2) cod(f ) = dom(g) のとき F (g ◦ f ) = F (f ) ◦ F (g).
(3) F (idx ) = idF (x) .
反変関手に対して,通常の関手を共変関手と呼ぶ.
例. 上で定義した F : Top −→ Set は反変関手である.
例. X, Y を 集 合 ,f : X −→ Y を 写 像 と す る .F (X) := P(X) を 冪 集 合 と し て ,
F f : P(Y ) −→ P(X) を「逆像」で定める.即ち,S ⊂ Y に対して F f (S) := f −1 (S) =
{a ∈ X | f (a) ∈ S} である.これにより F : Set −→ Set は反変関手となる.
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このように圏論には「共変関手」と「反変関手」の二つがあるのだが,実はこの二つを
あまり意識する必要はない.というのも,反変関手は共変関手と見なせるからである.
定義. C を圏とする.このとき C op を以下のように定める.
• Ob(C op ) := {xop | x ∈ Ob(C)} とする.
• xop , y op ∈ Ob(C op ) に対して HomC op (xop , y op ) := {f op | f ∈ HomC (y, x)} とす
る.つまり,圏 C の射 f : x −→ y に対して,C op の射 f op : y op −→ xop が与えら
れているのである.
• f op : xop −→ y op ,f op : y op −→ z op に対して射の合成 g op ◦ f op : xop −→ z op を
g op ◦ f op := (f ◦ g)op で定める.
• idxop := idop
x とする.
この C op が圏の定義を満たすことは容易に分かる.これを圏 C の双対圏,反転圏
(opposite category) などと呼ぶ.絵で書けば,次のように射の向きを全て反対にした圏
である.
C op
C
xop
x
y op
y
z
z op
通常は,xop , f op などと一々書かず,xop を単に x,f op を単に f と表す.
この C op を使えば,反変関手 C −→ D とは共変関手 C op −→ D のことである.
4 圏同値
さて,数学的な概念 (例えば群,環,位相空間,などなど) があればそこから圏を作る
ことができた.そこで考えるのは,二つの概念から作られた二つの圏を比較することであ
る.特に,もしこの二つの圏が《同じ》であることが分かれば,元の二つの概念が本質的
に同じものであると言えるであろう.
そのような例としてよく知られているのが,幾何学における「空間」と「関数」の関係
である.例えば二つの空間として円周 S 1 と直線 R を考える.これらの空間は明らかに違
11
うものであろう (例えば同相ではない).ところで S 1 上の実数値連続関数を考えるとこれ
は必ず最大値を持つが,一方 R 上の実数値連続関数は最大値を持つとは限らない.この
ように空間の違いは関数が持つ性質の違いとして現れる.実は,逆に関数が持つ性質が違
えば元の空間は異なるであろう,という事が古くから経験的に知られていたのである.
この事は圏を使って定式化できる.ここでは「空間」としてコンパクト Hausdorff 空間
を考える.コンパクト Hausdorff 空間を対象とし,連続写像を射とすれば,これは圏とな
ることがわかる.この圏を CptHaus と書くことにする.X ∈ CptHaus に対して,X
上の複素数値連続関数全体 F (X) を考えると,これは単位的可換 C ∗ -環と呼ばれる種類
の環となる.また f : X −→ Y を連続写像とするとき,C ∗ -環の射 F f : F (Y ) −→ F (X)
が F f (g) := g ◦ f により定義できる.単位的可換 C ∗ -環がなす圏を C ∗ -Alg と書け
ば,関手 F : CptHausop −→ C ∗ -Alg が定義されたことになる.この関手により,圏
CptHausop と C ∗ -Alg が《同じ》であることが分かるのである.
さて,その為にはまず圏が《同じ》であることを定義しなければならない.圏の準同型
である関手は既に定義したから,圏の同型を次のように定義することができる.
定義. C, D を圏とする.
(1) 関手 F : C −→ D が同型関手
⇐⇒ ある関手 G : D −→ C が存在して G ◦ F = idC ,F ◦ G = idC となる.
(2) 圏 C と D が同型 ⇐⇒ ある同型関手 F : C −→ D が存在する.
さて,先の F : CptHausop −→ C ∗ -Alg の《逆》が構成できることは,実はよく知られ
ているのである.それには C ∗ -環 A に対して G(A) := {m ⊂ A | m は極大イデアル } と
定め,G(A) に Zarski 位相と呼ばれる方法で位相を入れる.このとき G(A) はコンパクト
Hausdorff 空間になることが知られており,これにより関手 G : C ∗ -Alg −→ CptHausop
を構成することができる.すると,任意のコンパクト Hausdorff 空間 X に対して同相
G(F (X)) ∼
= X が,任意の C ∗ -環 A に対して同型 F (G(A)) ∼
= A が成り立つのである.
こうして「空間」と「関数環」が対応し,この意味で「空間」と「関数環」を同一視する
のである.
この意味で G は F の《逆関手》なのであるが,しかしこの F と G は圏の同型を与えな
い.というのも,同型の定義によれば F ◦ G = id かつ G ◦ F = id となければならない.
すなわち G(F (X)) = X や F (G(A)) = A が成り立たなければならないが,これは成り
立たず G(F (X)) ∼
= X や F (G(A)) ∼
= A が成り立つだけなのである.
この例からわかるように圏の同型という条件は非常に強く,これでは使いづらい.そこ
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でこの条件を弱め「同型程度の違いは許す」ようにしたのが圏同値という概念である.
定義. C, D を圏,F, G : C −→ D を関手とする.F から G への自然変換 θ とは,D の射
の族 θ = {θx : F x −→ Gx}x∈C であって,C の射 f : x −→ y に対して Gf ◦ θx = θy ◦ F f
となるものである.絵で書けば次のようになる.
G
C
D
F
x
f
Fx
θx
Ff
y
Fy
Gx
Gf
θy
Gy
更に各 θx が同型射となるとき,θ を自然同型という.
θ が F から G への自然変換の時,記号で θ : F =⇒ G と表す.また,自然同型
θ : F =⇒ G が存在するとき,記号で F ∼
= G と表す.また θx を θ の x 成分と呼ぶ.
定義. 圏 C, D が圏同値 (C ∼
= D で表す)
⇐⇒ 関手 F : C −→ D,G : D −→ C と自然同型 GF ∼
= idC ,F G ∼
= idD が存在する.
例. 圏同値 CptHausop ∼
= C ∗ -Alg が成り立つことが分かる.
例. 実線型空間と線型写像がなす圏を VectR と書く.今,圏 C を以下のように定める.
• Ob(C) := N.
• HomC (m, n) := M(n, m, R) =「実 n × m 行列全体」とする.
• 射の合成は行列の積で定める.
すると関手 F : C −→ VectR が
• F (n) := Rn
• M ∈ HomC (m, n) に対して F (M ) で対応する線型写像 Rm −→ Rn を表す
により定められる.この F が圏同値 C ∼
= VectR を与えることがわかる.つまりこの意
味で,線型写像を考えることと行列を考えることは同等なのである.
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