3 らせん葉序の開度はなぜ一定か

3 らせん葉序の開度はなぜ一定か
ヒマワリに種の連なりらせんを真似てわかったことに種
と種の間隔の開度がフィボナッチ角付近でのみ一様に充填
することがある。自然界での他の植物はどうなっているか。
ハクサイの葉の開度を調べる
手に入り易い植物からのヒントを探してみよう。身近で
いつもお世話になっているハクサイ,キャベツ,ブロッコ
リー,レタス,大根などはらせん状に葉を順に付けるらせ
ん葉序なので都合が良い。ある程度成長したハクサイをデ
ジカメで記録して印刷する。その印刷画像を持ってハクサ
イの隣にかがみ,途中の記録しやすい葉に付いて順を確認
して相当する画像に番号を付ける。持ち帰って机上に広げ,
葉①の白い葉脈に沿って中心から線を引く,次の葉②の葉
脈も同じように線を引き,2葉間の開度を分度器で測る。
葉②と③の間も同様に開度を測り,順に測って記録する。
葉は途中で曲がったりして角度変化が大きいが,測定数を
多くすれば,期待値の精度は良くなるはずである。
①と②の間は 131°,②と③の間は 151°,次は 117°,
その次から 164°,140°,131°,136°,141°,157°,
118°,136°,119°,149°と測定できた。これを平均す
ると 137.7°になる。同じように 2 株目以降のハクサイの平
均開度が 137.8°,138.3°,136.7°,138.0°である。それぞ
れの株の開度平均についての 5 株の平均は 137.7°になる。
なかにはうまく数えられない株もあるがここでは省いた。
キャベツはというと,10 株平均で 137.5°,ブロッコリーは
10 株平均で 137.4°である。レタスと大根も調べてみたが,
葉の付く順番をうまく決められない。
他方,野生植物では,北アメリカ原産で繁殖力が高く,
秋に黄色い花で目立つセイタカアワダチソウを調べる。こ
の葉は密集しているので一枚一枚を取り除きながら番号を
付ける。最初の株の①から
までのそれぞれの順に測っ
た開度平均は 137.8°,6 株平均で 137.3°である。これらの調査をまとめると下表になる。
ハクサイ
キャベツ
ブロッコリー
セイタカ
アワダチソウ
開度平均(調査数)
137.7°(5 株)
137.5°(10 株)
137.4°(10 株)
137.3°(6 株)
開度の偏差(バラツキ)
±0.8°
±3.5°
±2.7°
±2.6°
葉の付く方向(時計/反時計,株数)
2/3
5/5
4/6
3/3
品
種
12
これらの平均開度はバラツキが大きく,最も大きなキャベツでは±3.5°もある。しかし,彼らはこの
ファイ
開度で次々に葉を付け,それぞれの葉が互いに重なる部分が少なくなっている。らせん葉序の開度を φ
で代表させることにすると,この調査から「その開度φ」は測定平均から 137.5°と求まる。
開度 φ の付近での葉の重なり
「開度φ」によって葉の重なりがどう変化するか。それを確かめるために円周上をいくつかの任意角
度で順に刻んでみよう。開度φは 137°と 138°の中間に予想されることから,有理数の開度としては
136°,137°,138°,139°が,無理数の開度としては, 2 を使って 360   (1  1 / 2 ) から 105.44…°,
同じ方法で
3
から 152.15…°,そして
タウ
2
と 3 の中間の黄金数(τ=1.618...
)から同様にして 137.5…°
が得られる。これらの有理数や無理数の開度で円周を刻み,この分布を見やすくするために円周 360°
を横軸にとり,それぞれの開度で順に刻んだ位置が 0~360°の間のどこに位置するかを 200 点まで描画
した。結果の 136°と 138°の描画結果の点数が 200 点に満たないのは点が重なってしまったためであ
る。
有理数の開度で刻む場合,何周かすればその点はいつか必ず重なるが無理数の開度ならば重ならない。
しかし,137°や 139°であっても 200 枚であれば約数がないので重なりはない。にもかかわらず,ハク
サイたちの示す開度は 137°と 138°の間の特別な角度を示唆する。それはなぜか?ここに大きななぞ
がある。
図を一見しただけでは有理数の開度と無理数の開度とによる点のバラツキの違いが区別できない。そ
こで,描画した結果についての 1 点を示す角度と隣り合う点の角度との間の角度差のバラツキの程度,
つまり分散の程度を調べてみる。選んだ刻み開度7種類のそれぞれについて,刻む点数を適当に 10 点,
100 点,200 点と選んで描画し,得られた点の間の角度差の標準偏差を求めて比較した。その結果,137.5
…°の標準偏差が 0.51~0.58 の間に入ったのに対し,それ以外の開度で得られた標準偏差は 0.7~0.9 と
なり系統的に大きな差が見られた。これは開度φとして 137.5…°を保って葉が出れば枚数に関係なく
いつでもうまく散らばり,重なりにくくなることになる。
105.44
137.0
137.5…
139.0
152.15
10 点
0.69
0.78
0.51
0.87
0.80
100 点
0.68
0.78
0.59
0.87
0.83
200 点
0.68
0.79
0.58
0.86
0.83
開度(°)
角度差の
標準偏差
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では,フィボナッチ角(黄金角)と少しだけ異なる無理数の角度の場合もうまく分散するだろうか。
そのために (1  4 . 99 ) / 2 と (1  5 . 01 ) / 2 から得られる開度 137.35…°と 137.66…°について 200 点描画
の点分布を調べた(2 章)
。この場合の隣り合う角度差の標準偏差は,それぞれ 0.93 と 2.88 となりフィ
ボナッチ角の標準偏差 0.58 に比べてかなり大きい。フィボナッチ角に近い角度だからといってうまく分
散するわけではないことになる。この結果は葉の多いセイタカアワダチソウなどで短い期間に影響が現
れる可能性を示す。身近な野菜の開度を調べた結果でも開度は 137.5°に収れんした。それゆえ,ここ
で調べたらせん葉序の開度 137.5...°は植物にとっては必然と言える
シミュレーションの結果から,らせん葉序の「開度φ」は 137.50…°のフィボナッチ角が最も重なり
の少ない角度ということが明らかになった。恩田はこのフィボナッチ角の開度による分散が最小になる
ことを理論的に証明し,黄金比の必然性を示した(補足 B)
。
文献
Douady, S. and Couder, Y. (1992): PHYSICAL REVIEW LETTERS, 68, pp2098-2101.
The Fibonacci Association:http://www.mscs.dal.ca/fibonacci/
Knott, R.: http://www.maths.surrey.ac.uk/hosted-sites/R.Knott/Fibonacci/fibnat.html.
Negishi, R., and Sekiguchi, K.(2007): “Pixel-Filling by using Fibonacci Spiral”, FORMA, 22, pp207-215.
根岸利一郎,ほか(2005):”黄金比を利用する画素充填”,形の科学会誌,20,pp238-239.
中村 滋(2002): フィボナッチ数の小宇宙(日本評論社).
日本フィボナッチ協会:http://fibonacci.is.ocha.ac.jp/
根岸利一郎:“身近な野菜葉序の実際と連なりらせん”,
日本フィボナッチ協会・第 11 回研究集会,東京海洋大学(2013.03).
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