RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自 然 免 疫 による病 原 体 成 分 の認 識 は炎 症 反 応 の誘 導 や、獲 得 免 疫 の成 立 に重 要 な役 割 を果 たす生 体 防 御機 構 です。今 回 、私 達 はウイルス RNA を模倣 する合成 二 本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用 いて、自然 免 疫応 答 メカニズムの解 析 を行いました。その結 果、Poly I:C により一 部の樹 状細 胞にネクローシス様の細 胞 死 が誘 導 されること、さらにこの細 胞 死 がシグナル伝 達 経 路 の活 性 化 により制 御 されていることが分 かりました。さ らに、死 細 胞 から放 出される内 因性 因 子の一つ HMGB1 が Poly I:C と結 合し、Poly I:C の作 用を増強 すること も分 かりました。これらの結 果 は、一 部 の樹 状 細 胞 の細 胞 死 というものが、免 疫 賦 活 化 において重 要 な役 割 を 果たすことを強 く示 唆 するものです。 今後の展望 樹 状細 胞の死 が免 疫 賦 活 化に重 要な役 割を果 たしていることから、将来 的には、内 因性 因 子を用 いた新た なアジュバント開 発 や、細 胞 死に感 受性 の高い樹 状 細 胞を用 いた新 たな免疫 賦 活化 法 や樹状 細 胞 療 法 の開 発などが期 待されます。 掲載論文・雑誌 The double stranded RNA poly IC triggers a cathepsin D -IPS-1-dependent pathway to enhance cytokine production and mediate dendritic cell necroptosis (訳)二 本 鎖 RNA の Poly IC はカテプシン D-IPS-1 依存 的 経路 を介してサイトカイン産 生を増 強するとともに 樹状 細 胞の細胞 死を誘 導 する Jian Zou, Taro Kawai, Tetsuo Tsuchida, Tatsuya Kozaki, Hiroki Tanaka, Kyung -Sue Shin, Himanshu Kumar and Shizuo Akira Immunity 38(4):717-28, 2013 1 <詳細な解説> 研究の背景 自 然 免 疫 は病原 体 の侵 入 を察知 し、炎 症 をはじめとする病 原 体 排 除に必 要な生 体 防 御応 答 を誘 導する生 体 防 御 システムである。病 原 体 成 分 の認 識 は、Toll-like receptor (TLR)ファミリーに代 表 されるパターン認 識 受容 体 (Pattern Recognition Receptors: PRRs)により行 われる。PRRs は病 原 体の生存 に必 須 かつ特 有 の分 子パターン(Pathogen-associated molecular pattern: PAMP)を直 接あるいは間 接的 に認 識し、生 体防 御 に必 要な反応 を惹起 するセンサーである。 現 在、TLR 以 外にも、RNA 型 ウイルスを認識し抗 ウイルス応 答を誘 導 する細 胞 質内 RIG-I-like receptor (RLR)が知られている。 自 然 免 疫 担 当細 胞 の一 つ樹 状 細 胞 は、PRRs を介してサイトカイン産 生 、共 刺 激 分 子 発 現を誘 導し、最 終 的に T 細 胞の活性 化 や抗 体産 生 といった獲 得 免疫 を成立させるいわば自 然 免 疫と獲 得免 疫の橋 渡しの役割 を果たす細 胞 である。樹状 細 胞には様 々なサブセットが存 在しているが、サブセット間 での PRRs の発 現 様 式 やシグナル伝 達 経 路 には違 いがある。したがって、こうした違 い を理 解 することは、より適 切 な獲 得 免 疫 誘 導 を 可 能 とする基 盤 技 術 の確 立 に繋 がるものと期 待 される。特 に、感 染 症 、アレルギー、腫 瘍 に対 するに対 するア ジュバントとして、PRR やそのシグナル伝 達 分子 は良 い標 的になると期 待される。 Poly I:C はウイルス RNA を模 倣するような合成 RNA アナログであり、マクロファージ、樹状 細 胞、上 皮細 胞 といった様 々な細胞 から I 型インターフェロンや炎 症 性サイトカイン産生 を促す。その結 果、NK 細 胞 、抗 体 産 生 、キラーT細 胞 活 性 化 などが誘 導 される。また、抗 腫 瘍 効 果 も高 いことが知 られている。こう した誘 導 には、I 型 インターフェロンが中 心 的 な役 割 を果 たしている。 Poly I:C の認 識 に関 わる PRRs として TLR3 と RLRs (RIG-I、MDA5)が知 られている(図 1)。その一 方 、生 体 内 におけるそれぞれの経 路 の役 割 については不 明 な 点が多 かった。今 回、我々はマウス骨髄 由 来の樹状 細胞 を用 いて Poly I:C による免疫 賦 活化 メカニズムの解 析を行った。 2 結果 1) 樹 状 細 胞 において、Poly I:C によるサイトカイン産 生は RLRs 経 路 に依 存 する マウス骨髄 由 来樹 状 細胞 を用 いて Poly I:C に対するサイトカイン産 生を調べたところ、RLRs のアダプター分 子 IPS-1 を欠 損したマウスからの樹 状細 胞 では、I 型 インターフェロンや炎症 性 サイトカインの産 生が顕 著 に減 少 していた(図 2)。一 方 、TLR3 欠 損 マウスではサイトカイン産 生 に異 常 は認 められなかった。このことから、樹 状細 胞においては RLRs 経路 がサイトカイン産生 に主要 な役 割 を果 たしていると考えられた。 続いて、Poly I:C の細 胞内 局在 を調 べたところ、刺激 後 2 時 間で poly I:C はリソソーム内 に取 り込 まれてい るが、24 時 間後 にはリソソームから細 胞 質 内 へと移 行 していた。この移 行が RLRs 活 性化 に重 要な役 割を果た していると考えられるが詳 細 は不 明なままである。 2) Poly I:C 刺 激 によりリソソームから細 胞 質 へと漏 出したプロテアーゼ Cathepsin D が IPS-1 と結 合 する Poly I:C がリソソームに取 り込 まれた後、リソソームの崩 壊が誘 導されることをアクリジンオレンジ染 色で確 認 した。このことからリソソーム内に存在 する蛋白 質なども Poly I:C と共に細胞 質 内 へと移 行すると考えられた。私 達 は、IPS-1 と結 合する蛋 白質 を同 定 する目的 で酵 母ツーハイブリッドスクリーニングを行 い、リソソームに存在 するアスパラギン酸 プロテアーゼ Cathepsin D を得 た。そこで、Cathepsin D の細 胞 内 局 在 を調 べてみると、 Poly I:C 刺 激に伴って細 胞質 内 へと漏 出することが認められた(図3)。さらに、この漏 出 は IPS-1 非 依存 的で あった。従 って、Poly I:C によるリソソームの崩壊 に伴 い、Cathepsin D が細胞 質 へと移 行し IPS-1 と複合 体 を 形成 すると考えられた。 3 3) Cathepsin D-IPS-1 複 合 体 による細 胞 死(ネクロプトーシス)の誘 導 。 Poly I:C 刺 激により一部 の樹 状細 胞に細 胞死(Annexin V 陽 性、PI 陽 性)が誘導されることが認められた (図 4A)。さらに詳しく調 べてみると、細 胞 内 小 器 官 の膨 潤 や細 胞 質 の透 明 化 といった典 型 的 なネクローシス 様 の形 態 を示 した(図 4B)。最 近 、プログラムされたネクローシス(ネクロプトーシス)という概 念 が提 唱 されてい る。ネクロプトーシスはネクローシスと似 た表現 形 を示 す一 方、RIP-1、RIP-3 と呼 ばれるキナーゼ群の活性 化に より制 御されている。この細 胞死 は TNF、紫外 線 、ウイルス感 染等 で誘導される。つまり、ネクロポトーシスはネ クローシスとは異 なり、シグナル伝 達 経 路 で制 御 されているネクローシス様 の細 胞 死 である。そこで、我 々は Cathepsin D の阻 害 剤である Pepstatin A (PepA)を用 いて細胞 死の検 討を行ったところ、Poly I:C による樹 状 細胞 の死 が抑 制された。さらに、Poly I:C 刺激 依 存 的に IPS-1 が RIP-1 と結 合すること、Cathepsin D の強 制 発現 が RIP-1 の活性 化(K63 型ユビキチン化)を誘導 することを見出した。これらのことから、Poly I:C 刺激 によ り Cathepsin D と IPS-1 の複合 体 形成 が誘 導され、そこに RIP-1 がリクルートされることで活 性 化し、ネクロプト ーシスが誘 導されることが示唆された。 4 4) 死 細 胞 由 来 の HMGB1 が Poly I:C と協 調 して自 然 免 疫 を活 性 化 する ネクローシスを起こした細 胞 からは、様 々な細 胞 内 容 物が放 出し、炎 症 が誘導 される。我々は、 Poly I:C 刺 激により死滅した細胞 から放出される内 因 性因 子に着目し、HMGB1 と呼 ばれる蛋 白質 が IPS-1 依 存 的 に細 胞 外 へ と 放 出 さ れ る こ と を 見 出 し た ( 図 5 ) 。 さ ら に 、 こ の 放 出 は PepA 処 理 や 、 RIP-1 の 阻 害 剤 で あ る Necrostatin-1 (Nec1)処 理 で抑 制されたことから、細胞 死依 存 的であると考えられた。興 味深 いことに、 Nec1 は Poly I:C 刺激 による I 型インターフェロン産 生を部 分 的に抑えた。このことは、細 胞死 が I 型インターフェロン産 生 を増 強する役 割 を担 っていることを示 唆 している。そこで、核 酸 と結 合 すると知られていた HMGB1 が Poly I:C と結合 するか検討したところ、両 者の結 合が認められた。さら に Poly I:C で樹 状細 胞を刺 激する際 に、両 者 の結 合を阻害 する抗 体を培養 液 中に加えたところ、I 型インターフェロンの産 生 の部 分的 減 少が認められた。 まとめ 以 上のように、Poly I:C が樹 状細 胞 の一 部にネクロプトーシスを誘導 すること、さらにこの経 路が Cathepsin D-IPS-1-RIP1 依存 的に制 御されていることが明らかとなった(図6)。さらに死 滅した樹 状 細胞 からは HMGB1 が放 出され、これが Poly I:C と協 調 することで I 型インターフェロン産 生を増 強することが示された。これらのこと から、RLRs を介したシグナル伝達 経 路の活性 化によりもたらされる樹 状細 胞の死 というものが、免 疫賦 活 化 に おいて重 要な役 割を果たすことが強 く示唆された。 今後の展開 今 後 は、感 染 や癌 に伴 いネクロプトーシスを起 こす樹 状 細 胞 サブセットを生 体 内 より単 離 、解 析 する必 要 が ある。こうした細 胞 死 に感 受 性 の高 い樹 状 細 胞 からは、免 疫 賦 活 化 に関 わる様 々な内 因 性 因 子 が放 出 される と考えられることから、癌や感染 に対 する新たな免 疫 療法 開 発の新たな基 盤 となる可 能 性がある 5
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