SMGレポート 2711 有事のルール-:「ファーイーストと部分最適」 [迫

SMGレポート 2711
有事のルール-:「ファーイーストと部分最適」 [迫りくる法改正の荒波-21]
●序文の例からは、アッセンブルメーカーが最適在庫=最適解の達成によって得
た収益は、納入業者・関係下請け業者あるいは外部環境に転嫁された費用に見
合う、という現実(A⁺-a1⁻-a2⁻-a3⁻…-an⁻=0の関係)が見えてきます。つまりJIT
はその仕組み上、部分最適を目指すものであって、部分最適が部分不適の総和
に等しいケース=ゼロサムゲーム=もあるという事なのです。大概の場合は、A⁺+
a1⁺-a2⁻-a3⁻+a4⁺…-an⁻の様に、一つの生産ラインでも或いはバリューチェーンで
もプラス/マイナスが入り乱れるのが一般的でしょう。しかし仮にそうだとしても、
部分最適≠全体最適という結論に変わりはありません。一生産ラインに限れば、J
ITはゴールの理論=出荷又は出荷直前の製造工程での製品滞留が、ライン全体
の生産性を低下させる最大の根本要因だとする理論=の究極の発展形とも云い
得るでしょう。●もし部分最適≠全体最適が公理とすれば、しばしば取り上げたト
リクルダウン論等は、正にその典型と云って良いかも知れません。富める者に集
積した富は、やがて下方にも滴り落ちて全体を潤す-という、部分最適が恰も全
体最適に通ずるかの様な錯覚を生む、お伽噺に過ぎないからです。企業収益の
向上はやがて設備投資を促し、賃金上昇をもたらす-だから、先ずは企業体力を
底上げし、富を集中させる政策こそ優先されるべき-という論法により「部分最適
が全体最適を導く」とする屁理屈(単なる目眩ましか方便程度かと思いきや、政策
筋は本気でそう信じていた節があります)を推進してきた筈の為政者側=財務当
局・官邸・日銀等=から時々漏れてくる’恨み節’と云ってもよい愚痴や要望の形
で発せられる、押しつけがましい上に筋違いな「設備投資を急かし、賃上げを要求
する発言」の背景には、財界の意向を汲んだ税制面での優遇措置の他、株価の
維持上昇支援等、収益を上げ易い環境を整備し、内部留保も着実に積み上がる
よう後押ししたにも拘らず、吹聴して来たトリクルダウンが一向に始まらない事へ
の苛立ちが、明らかに見て取れます。●当局の思惑通りに事が運ばない理由は、
何なのでしょう? 受益者が恩知らずだからなのでしょうか?-その訳は、ある意
味明瞭です。旧来の日本型(弱者救済・平等志向型)資本主義が、ファンドに代表
される最大利潤追求型の株主資本主義(信奉者をマキシミストと呼ぶ事にします。
その本質は、如何に安く「豚=企業」を仕入れ、太らせて高く売り抜け、最大利潤
を得て資金を回収するか-であり、経営理念や社員、関係者の思いなど端から眼
中になく、「高く売る為に豚を飼育し飼育させる養豚業者」そのものです。)に変質
してしまったからです。覇権主義を源流とする株主資本主義が跋扈する世界で、
部分最適が全体最適に収斂する事はあり得ません。この考え方に基づく部分最
適は、他の部分不適なしには成立せず、又それらの集合和となる為です。次の
「問い」がその証明となるでしょう。●[Q]銀座の賃貸物件で永年営業中の中華店
は、どうして一杯300円のラーメンを提供し続けて来れたのか?…そもそも坪3万
もの賃料を払って低価格の商品を扱う等、マキシミストには想像すらできず、「皆さ
ん(の懐に響かず)に喜んで貰えるなら、私達は食べていけるだけで満足」という
店主夫妻の心情=一部の者が他の者の分まで分捕って圧倒的に果実を手にする
より、関係者の共存共栄を良しとする、仏教的世界観にも通ずる「適正利潤」の思
想が背景=など到底理解出来ないでしょう。けれども、極東の地に住む我々に
とって、そこに共感し得る答えが滲むこの問いは、必ずしも難題とは云えず、難題
にならない風土だからこそ、そこに欧米型の政策を丸輸入し、欧米型の法整備を
進めようとする当局の姿勢は、尚更厳しく問われなければならないのです。