肝臓有限要素モデルを用いた灌流肝臓の 動的圧縮

JARI Research Journal
20151002 *
【研究速報】
肝臓有限要素モデルを用いた灌流肝臓の
動的圧縮条件下における損傷シミュレーション
Simulation of Tissue Damage of Perfused Liver under Dynamic Compression Loading
Using a Liver Finite Element Model
佐藤
房子 *1
Fusako SATO
山本
義洋 *1
高山
Yoshihiro YAMAMOTO
独古
泰裕
Shinichi TAKAYAMA
*3
安木
Yasuhiro DOKKO
晋一 *1
剛
江島
晋
*2
Susumu EJIMA
*3
Tsuyoshi YASUKI
Abstract
A liver Finite Element (FE) model with hyper-viscoelastic properties was developed.
Hyper-elastic and rate-dependent characteristics were modeled with an Ogden rubber
material model. Such characteristics were validated against an original series of porcine
exsanguinated livers under quasi-static and dynamic compression experiments. The
applicability of the validated liver FE model was evaluated against a series of compression
tests with the porcine perfused livers to closely model in vivo conditions. The regions where
the FE model showed highest strain concentrations corresponded with the regions where the
perfused livers, tested under dynamic loading, sustained tissue damage. Based on this,
ultimate strain for hepatic parenchyma and membrane were estimated by comparing strain
patterns of the FE model with damaged conditions of the tested livers.
1. まえがき
そこで本研究では,非灌流状態の食用ブタの肝
交通事故により自動車乗員が被る傷害のひとつ
臓を用いて肝臓有限要素モデルを構築し,灌流状
に内臓損傷がある.特に肝臓は中実臓器の中でも
態における肝臓圧縮試験結果との比較から,同モ
比較的大きな表面積と体積を有するだけでなく,
デルを用いての灌流肝臓の損傷評価の妥当性につ
内部に大量の血液を含んでいることから,外部か
いて検討した.なお,本研究で用いた肝臓圧縮試
らの衝撃により深刻な傷害が発生する頻度が高い
験の結果は,金田ら2), 3),佐藤ら4)の報告を含め,
臓器である.この外部からの衝撃が肝臓に与える
新潟大学との共同研究にて食用ブタ肝臓を用いて
影響は,近年,胸腹部の主要臓器を詳細にモデル
得られた成果を用いている.以下に実施内容ごと
化した人体全身の有限要素モデルを用いることに
に,方法と結果について述べる.
より検討されてきている1).しかしながら,肝臓
有限要素モデルの応答に対する損傷の有無の評価
2. 肝臓有限要素モデルの構築
が,大量に血液が循環している生体肝臓に対して
肝臓モデルの形状は,後述する肝臓圧縮実
も有効であるかどうかを実験的に検証した例はな
験2)~4)に使用された食用ブタ肝臓外側右葉の3次
く,課題の一つとなっている.
元形状計測データより取得し,要素サイズを約2
mmとしてメッシングした.肝実質はソリッド要
*1 一般財団法人日本自動車研究所
*2 元一般財団法人日本自動車研究所
*3 一般社団法人日本自動車工業会
安全研究部
安全研究部
素,被膜は膜要素で表現し,被膜の膜要素の厚さ
博士(工学)
は 0.045 mm5) と し た . な お , 解 析 コ ー ド は
* 本速報はJSAE著作権規則に基づくJSAE 20154040の転載である.
JARI Research Journal
- 1 -
(2015.10)
LS-DYNA(mpp971s R5.1.1, LSTC, USA)を用
いた.
2. 1 実質の材料特性
実質の材料特性は,静的な引張圧縮特性として
Sakumaら6)のブタ肝実質試験片(φ7 mm,h 5
±1 mm)の準静的単軸引張圧縮試験結果を参照
した.文献より取得した公称応力-公称ひずみ曲線
の非線形性から,実質の材料モデルには超弾性体
Ogdenモデル7)を用い,文献値と一致するようひ
ずみエネルギ関数の係数を同定した.文献値と同
定後のOgdenモデルの公称応力-伸張比特性をFig.
1に示す.なお,Sakumaらの試験速度より換算し
た ひ ず み 速度 は , 後述す る 肝 臓 準静 的 圧 縮試
験2)~4)のひずみ速度と同程度(約0.03 s-1)である
ことを確認した.
交通事故を想定した場合,肝臓は動的圧縮挙動
を示すことから,ひずみ速度依存性を考慮する必
要がある8).そこで,準静的圧縮特性を反映した
Ogdenモデルに対し線形粘弾性モデル(一般化
Maxwellモデル)を導入し,肝臓の圧縮速度依存
の影響を考慮した.線形粘弾性モデルのパラメー
タは,Tamuraら9), Navaら10)の肝臓の応力緩和特
性を参照し,肝臓の動的圧縮試験の再現シミュレ
ーションより,荷重-圧縮特性が実験結果と一致す
るよう同定した(Fig. 2参照)
.
肝実質の損傷は破断ひずみによる要素削除を導
入し,破断ひずみにはSantago11)による肝実質試
験片の圧縮破断ひずみを参照した(Table 1).
Santagoの結果は圧縮破断ひずみであることから,
これを実質の破断最小主ひずみとして定義した.
Table 1 Failure nominal strain of liver parenchyma
11)
from Santago
Desired Strain No. of
Average
Rate
-1
-1
Rate [s ]
tests Strain Rate [s ] Failure Strain
Rate 1
0.007
9
0.008±0.001
-0.61±0.05
Rate 2
0.070
9
0.074±0.001
-0.52±0.04
Rate 3
0.070
9
0.776±0.104
-0.46±0.05
Rate 4
7.000
9
8.011±0.834
-0.46±0.05
2. 2 被膜の材料特性
肝臓被膜の特性は金田ら2)の引張試験結果を参
照した.この結果および数値安定性確保の点から,
被膜を線形弾性体で表現し,ヤング率34 MPa,
ポアソン比0.49,破断ひずみを最大主ひずみ0.15
と設定した.
3. 肝臓有限要素モデルの検証
肝臓圧縮試験として金田らの肝臓準静的圧縮試
験2),3),ならびに動的圧縮試験結果を参照し,再現
シミュレーションを実施した.実験とシミュレー
ションの結果を比較することで,肝臓モデルの準
静的,動的圧縮特性を検証した.
後述する4章の灌流肝臓に対し,本章では血流
を考慮していない実質ならびに被膜単体の材料試
験結果を参照して構築した肝臓モデルの検証を目
的としているため,灌流させていない肝臓試料を
対象とした.
3. 1 実質の材料特性
3. 1. 1 ブタ肝臓圧縮試験と再現シミュレーション
実験は平板ならびに円柱(φ25 mm)負荷子を
用い,一定速度1.0 mm/sで肝臓の初期高さに対し
60%圧縮した(Fig. 3).シミュレーションにおい
ても実験と同条件となるよう,平板ならびに円柱
6000
4000
2000
0
-2000
-4000
-6000
-8000
Sakuma et al. 2003
Liver material model
0.6
0.8
1
1.2 1.4
Strech ratio
1.6
Fig. 1 Stress-Stretch ratio
curve of liver parenchyma
JARI Research Journal
σ/ε0 [N/m2]
Stress [Pa]
形剛体負荷子モデルに一定速度(1.0 mm/s)を与
1.0E+5
え,肝臓モデルを圧縮した.また,圧縮速度と肝
input
fitted
臓試料の初期高さからひずみ速度を概算すると約
0.03 s-1であったことから,実質の圧縮破断ひずみ
0.0E+0
1.0E-4 1.0E-3 1.0E-2 1.0E-1
time [s]
として,Table 1のRate 1,Rate 2の値を採用し,
各々再現シミュレーションを実施した.
Fig. 2 Relaxation curve in
logarithmic scale
rate-dependent properties
- 2 -
(2015.10)
験後の肝臓試料をホルマリン固定液中で保存し,
肝臓組織が硬化した後,スライスすることで内部
60%
Initial
Height
Fig. 3
損傷領域を測定した.これより,肝臓モデルの損
傷領域は,概ね実験と同様の傾向を示すことを確
認した.
Spesimen
800
3000
Compression ratio definition
Fig. 4に実験とシミュレーションから得られた
荷重-圧縮応答を示す.実験はそれぞれ5回以上実
400
200
0
0
20
40
60
Compression ratio [%]
0
20
40
60
Compression ratio [%]
FEA without element elimination
FEA with element elimination of membrane (0.15)
FEA with element elimination of menbrane (0.15) and parenchyma (-0.61)
FEA with element elimination of menbrane (0.15) and parenchyma (-0.52)
Experiment Average
Experiment Ave.±SD
変えた4つの条件における結果を,Fig. 4に併せ
て示す.各負荷子においてシミュレーションでの
再現できることを確認した.
1000
0
シミュレーションは肝実質と被膜の破断ひずみを
デルは灌流状態ではない肝臓の準静的圧縮挙動を
1500
500
施し,その平均,標準偏差(Ave.±S.D.)を示す.
荷重-圧縮応答は実験と同様の傾向を示し,肝臓モ
600
2000
Force [N]
3. 1. 2 結果
Force [N]
2500
Fig. 4 Force-Compression ratio curves from quasi-static
compression tests in comparison to simulated tests
for plate (left) and cylinder (right)
実験では圧縮率50%前後で急激な荷重減少が確
0.40
認された.その1例としてFig. 5に実験での円柱負
Liver Specimen 1
Liver Specimen 2
Liver Specimen 3
Liver Specimen 4
Liver Specimen 5
0.30
荷子条件における荷重-圧縮率応答を示す.シミュ
Force [kN]
レーションにおいても要素削除に伴い,Fig. 4の
とおり急激な荷重減少が確認できた.そこでこの
急激な荷重減少を損傷発生と捉え,損傷発生時の
0.20
0.10
0.00
圧縮率からモデルに定義した圧縮破断ひずみの妥
0
当性を検討した.Fig. 6に実験における損傷発生
時の圧縮率の平均値と標準偏差をまとめた.同様
20
40
60
Compression ratio [%]
Fig. 5 Experimental force compression ratio curves
showing damage as a sharp drop caused by tissue
damage (quasi-static test with cylindrical impactor)
に,シミュレーション結果をFig. 6中のプロット
として併せて示した.この結果から,実質の破断
最小主ひずみ-0.52(Rate 2)と定義したモデルで
Compression ratio
[%]
80
は,
実験と同程度の結果が得られていることから,
ここで対象としたひずみ速度域の肝臓実質部の破
断最小主ひずみは-0.52程度であると考えられる.
また,Fig. 4には被膜のみに破断ひずみを定義し
激な荷重の減少は見られず,この実験ならびにシ
ミュレーションから被膜の損傷を推定することは
困難であった.
-0.61
-0.52
60
50
40
30
たシミュレーション結果(FEA with element
elimination of membrane(0.15)
)も示すが,急
70
Plate
Cylinder
Fig. 6 Compression ratio at initiation of tissue damage
from the quasi-static tests (Average in colored bars and
standard deviation in black lines) and values at which
element elimination initiates in the simulations for ultimate
strain values of 0.52 (blue square dot) and of 0.61 (green
diamond dot)
Fig. 7に肝臓試料の損傷領域(肝臓試料上のハ
イライト領域)と肝臓モデルの要素削除箇所(肝
臓モデル上の濃色領域)を示す.実験では圧縮試
JARI Research Journal
- 3 -
(2015.10)
400
3000
300
Force [N]
Force [N]
(a) Plate
(b) Cylinder
Fig. 7 Comparison of damaged regions in the quasi-static
compression tests with eliminated regions in the FE
simulations
for plate (left) and cylinder (right) type impactors
4000
2000
1000
200
100
0
0
0
20
40
60
Compression ratio [%]
0
20
40
60
Compression ratio [%]
FEA without element elimination
FEA with element elimination of menbrane (0.15) and parenchyma (-0.46)
Experiment Ave
Experiment Ave±SD
3. 2 動的圧縮特性
3. 2. 1 肝臓圧縮試験と再現シミュレーション
実験は平板(200×200×30 mm,10.6 kg)
,円
柱(φ25×250 mm,9.6 kg)インパクタを自由
Fig. 8 Force‐Compression ratio curves from dynamic
compression tests in comparison to simulated tests for plate (left)
and cylinder (right) type impactors
落下させ,圧縮率約50%でインパクタに対しブレ
ーキ制動を開始し,約60%で停止させた.シミュ
レーションにおいても実験と同条件となるよう,
実験から得られたインパクタ平均速度(平板:3.48
m/s,円柱:2.84 m/s)を,実験と同じ仕様である
剛体インパクタモデルに与え,重力下において衝
突させ圧縮率60 %で停止させた.
実質の圧縮破断ひずみとして,Table 1より
Rate 3以上のひずみ速度では圧縮破断ひずみが一
定であるとの報告11)から,Rate 3の値を採用し,
再現シミュレーションを実施した.
(a) Plate
(b) Cylinder
Fig. 9 Comparison of damaged regions in the dynamic
compression tests with eliminated regions in the FE
simulations at 60% compression ratio of the initial height for
plate (left) and cylinder (right) type impactors
4. 肝臓有限要素モデルの灌流肝臓への適用性の確認
生体内の肝臓には多量の血液が循環しているこ
とから,佐藤ら4)の灌流状態の肝臓の準静的,動
的圧縮試験を参照し,構築した肝臓有限要素モデ
ルの灌流状態の肝臓への適用性について確認した.
3. 2. 2 結果
Fig. 8に実験とシミュレーションから得られた
実験はブタ肝臓試料に対し130 mmHgの圧力
荷重-圧縮率の関係を示す.平板インパクタではコ
になるような一定流量の模擬血液(メチルセルロ
リドーから外れてしまう箇所が見受けられるが,
ース溶液)を37℃に保温した状態で循環させるこ
動的圧縮時の荷重-変位特性の傾向を概ね再現で
とにより灌流状態とした(Fig. 10参照)
.
きていると考えられる.また,シミュレーション
Table 2に灌流前後の肝臓の平均寸法を示す.灌
では要素削除に伴い準静的圧縮条件と同様に急激
流後肝臓に圧入された液体の影響により,灌流前
な荷重減少が発生していたが,実験ではこのよう
よりも寸法が大きくなっていた.本章では灌流状
な急激な荷重の減少を確認することは困難であっ
た.
Fig. 9に試験直後の肝臓試料(平板インパクタ
態の肝臓を対象としていることから,Table 2の灌
流前後の寸法を参照し,Fig. 12のように肝臓モデ
ルの寸法を線形的にスケーリングした.
では試験時底面だった向きを上面にして撮影)と
肝臓モデルの要素削除箇所(図中の肝臓モデルの
濃色領域)を示す.シミュレーション結果では60%
まで圧縮したときに削除された要素の領域を示す.
これより,肝臓モデルの損傷領域は,概ね実験と
同様の傾向を示すことを確認した.
JARI Research Journal
- 4 -
(2015.10)
Inner diameter of
た荷重-圧縮応答を示す.実験はそれぞれ5回以上
ーブ内径:φ9.7
mm
the tube: φ9.7mm
実施し,その平均ならびに標準偏差(Ave.±S.D.)
圧力センサー
Pressure sensor
(PGM-20KE,KYOWA)
(PGM-20KE, KYOWA)
試料
Liver specimen
を示す.シミュレーション結果は両負荷子におい
て圧縮率約40%前後まで概ね実験と同様の傾向を
示した.それ以降の圧縮率が大きい範囲では実験
とシミュレーションの結果のずれは大きく,これ
は灌流による影響が顕著になったためと考えられ
Circulating
pump
チューブポンプ
(MASTERFEX, Yamato Scientific)
(MASTERFLEX,ヤマト科学)
Fig. 10
※流体は37℃に保温
37℃
The fluid circulation system
る.この結果より,圧縮率約40%程度までであれ
ば,本肝臓モデルを代替的に用いて灌流状態の肝
臓の準静的圧縮応答を再現できることを確認した.
Width
Force [N]
Length
1000
1000
800
800
600
Force [N]
Surge
tank
サージタンク
水槽(循環流体)
Tank
400
200
400
200
0
0
Fig. 11
600
20
40
60
Compression ratio[%]
0
0
20
40
60
Compression ratio [%]
FEA without element elimination
FEA with element elimination of menbrane (0.15) and parenchyma (-0.52)
Experiment Average
Experiment Ave.±SD
Measuring the size of liver specimen
Table 2
The average of 24 porcine liver specimens size
with the standard deviation
Length
Width
Height
[mm]
[mm]
[mm]
Exsanguinated 226 ( 1 9 )
143 (10)
34 (2)
Perfused
242 (22)
153 (11)
4 (9)
Fig. 13 Force‐Compression ratio curves from
quasi‐static compression tests of perfused liver in
comparison to the FE simulations for plate (left) and
cylinder (right) type impactors
4. 2 動的圧縮特性
4. 2. 1 ブタ肝臓圧縮試験と再現シミュレーション
実験は平板インパクタ(200×200×20 mm)
(a) Exsanguinated condition
(b) Perfused condition
L: 226mm, W:135mm, H:35mm
L: 242mm, W: 153mm, H 74mm
Fig. 12 Scaling up the liver FE model from exsanguinated to
perfused condition based on the average size of 24 porcine
4)
liver specimens
を自由落下させ,ブタ肝臓試料の動的圧縮特性を
取得した.Table 3に平板インパクタの落下高さ,
質量,実験で計測した平均衝突速度を示す.平板
インパクタの衝突速度は,供試体前突スレッド試
験(衝突速度40 km/h)における胸部変位速度12)を
4. 1 準静的圧縮特性
4. 1. 1 ブタ肝臓圧縮試験と再現シミュレーション
実験は平板ならびに円柱(φ40 mm)負荷子を
用い,一定速度(1.0 mm/s)で肝臓の初期高さに
参考に決定した.平板インパクタの質量は,灌流
状態の動的圧縮条件下における肝臓損傷発生のひ
ずみ閾値の検討に対し,肝臓に目視で確認できる
対し60%圧縮した.シミュレーションにおいても
程度の損傷領域を狙うため,インパクタの運動エ
実験と同条件となるよう,平板ならびに円柱形剛
ネルギを調整し,表のような質量設定とした.シ
体負荷子モデルに一定速度(1.0 mm/s)を与え,
ミュレーションでは実験と同条件となるよう,
肝臓モデルを圧縮した.また,圧縮破断ひずみと
Table 3の平均衝突速度をインパクタモデルに与
え,重力下において衝突させた. また,圧縮破断
して,Table 1のRate 2の値を採用した.
ひずみとして,Table 1のRate 3, 4の値を採用した.
4. 1. 2 結果
Fig. 13に実験とシミュレーションから得られ
JARI Research Journal
- 5 -
(2015.10)
Table 3
Compression test matrix of the perfused porcine
liver under dynamic loadings
Case No.
Case 1
Case 2
Case 3
Case 4
Case 5
Drop
height
[mm]
100
150
150
150
150
Impactor
mass [kg]
2.5
2.0
2.25
2.5
2.75
Impact velocity
Number
(Average)
of tests
[m/s]
1.18
3
1.54
2
1.52
5
1.57
3
1.59
3
示した範囲は,損傷ありと損傷なしが混在する領
域である.ここでは肝臓損傷の有無の評価につい
て検討するため,このFig. 15中のグレーで示した
範囲に着目した.
Fig. 16に実験後の肝臓損傷の典型的な例とし
て,衝突条件Case 4の肝臓試料に発生した底面の
亀裂を示す.Fig. 15の損傷ありの肝臓は,ほぼ全
ての肝臓でこのような底面表層に発生する亀裂の
みの損傷であった.Fig. 17に衝突条件Case 4の最
4. 2. 2 結果
実験とシミュレーションから得られた荷重-圧
大圧縮時における肝臓モデルの被膜の最大主ひず
縮率応答の比較の一例をFig. 14に示す.負荷過程
み分布(真ひずみ表示)を示す.本モデルで参照
の圧縮率が小さい領域において,実験に対しシミ
した被膜の単軸引張試験では,引張破断ひずみは
ュレーション結果の荷重が大きくなっているが,
公称ひずみで0.15程度,真ひずみに換算すると
全体的な傾向は概ね一致していることを確認した.
0.14程度であった.これより,Fig. 17において底
他の衝突条件においても同様の傾向を示すことを
面に発生した最大主ひずみ0.14以上の赤色領域で
確認した.本研究で実施した動的圧縮条件では,
被膜が破断すると考えられる.この被膜が破断す
実験,シミュレーション共に,肝臓の最大圧縮率
る領域は,肝臓モデルの厚さが最大となる部位付
は40%以内であり,この結果から本肝臓モデルは
近であり,実験で確認された亀裂発生箇所と同様
圧縮率約40%程度までは灌流状態の肝臓の動的圧
の傾向であった.また,Fig. 18に肝臓モデルの実
縮挙動も再現できると考えられる.また損傷に関
質中央部のひずみ分布を示す.ひずみ量が大きい
しては,要素削除は被膜にのみ発生した.そこで
箇所は肝臓実質の中心部であり,実験で確認され
次章において,灌流状態の肝臓試料に観察された
た肝臓底面の亀裂とは異なる傾向を示した.これ
損傷と肝臓モデルのひずみ分布との関係について
らの結果より,肝臓表層に発生する亀裂は被膜の
考察した.
破断が大きく関与していると考えられ,その発生
の評価値としては被膜の破断ひずみのデータを参
Force [N]
600
照することができると考えられる.
Experiment with damage
Experiment without damage
FEA
400
実質の損傷は衝突エネルギが最大となる衝突条
件Case 5のみで発生しており,損傷は底面の亀裂
200
と実質中心部の損傷であった.最大圧縮時におけ
る衝突条件Case 5の肝臓モデルのひずみ分布は,
0
0
10
20
30
Compression ratio [%]
40
Fig. 18に示す衝突条件Case 4と同様の傾向であ
り,実質の中心部でひずみ量が大きくなっていた.
Fig. 14 Force Compression ratio curves from dynamic
compression tests of perfused liver (Case: 4)
なお,このときの最大主ひずみの最大値は0.27(真
ひずみ),最小主ひずみの最小値は-0.51(真ひずみ)
5. 灌流肝臓の動的圧縮条件下における損傷
本肝臓モデルを用いて灌流状態の肝臓損傷の有
無を評価するため,肝臓試料に観察された損傷と
肝臓モデルのひずみ分布を比較した.
実験において肝臓試料に損傷ありの場合,最大
圧縮率は比較的大きい傾向を示した.そこで,衝
突エネルギと最大圧縮率に対する損傷有無の関係
をFig. 15のように整理した.Fig. 15中のグレーで
JARI Research Journal
であった.本モデルで参照している肝臓圧縮破断
ひずみは-0.46±0.05(Average±S.D.)
(Table 1,
Rate 4)である.Santago 11)は同ひずみ速度域に
おける引張破断ひずみも導出しており,0.24±
0.07(Average±S.D.)である.これらの値は公
称ひずみで,真ひずみに換算すると圧縮破断ひず
みの範囲は-0.71~-0.53,引張破断ひずみの範囲
は0.16~0.27となる.肝臓モデルの最大主ひずみ
- 6 -
(2015.10)
の最大値は0.27(真ひずみ)であり,Santagoが
報告している引張破断ひずみの内に収まっている.
また,肝臓モデルの最小主ひずみの最小値は-0.51
(真ひずみ)であり,Santagoの圧縮破断ひずみ
の範囲外ではあるが,非常に近い値を示している.
この結果から,Santagoの破断ひずみ近傍で実質
(a) Maximum principal strain
損傷が発生していると考えられる.
50
Impact condition
Compression ratio [%]
(Impactor mass - Impact velocity)
■Case1: 2.5kg- 1.18m/s
■Case2: 2.0kg- 1.54m/s
■Case3: 2.25kg-1.52m/s
■Case4: 2.5kg- 1.57m/s
■Case5: 2.75kg-1.59m/s
40
30
Experiment
● Tested liver without damage
× Tested liver with damage
FEA
△ Liver FE model
20
10
1.00
Fig. 15
2.00
3.00
Impactor energy [J]
4.00
(b) Minimum principal strain
Fig. 18 True strain distribution of parenchyma of the
liver FE model at maximum compression ratio without
element elimination definition (Case 4)
Maximum compression ratio and occurrence
of liver damage
6. まとめ
非灌流肝臓の圧縮試験に対して検証した肝臓有
Laceration on the bottom face
限要素モデルを用い,灌流肝臓の圧縮条件下にお
ける損傷評価の妥当性について検討した.以下に
得られた結果をまとめる.
1) 非灌流肝臓の準静的ならびに動的圧縮挙動を
検証した本肝臓モデルは,灌流肝臓の圧縮率約
40%程度までは準静的ならびに動的圧縮挙動
を再現できることを確認した.
Fig. 16
Liver damage in the Case 4
2) 灌流肝臓は動的圧縮率40%以内で被膜と実質
に損傷が発生しており,非灌流状態の場合と同
様に,被膜,実質の単軸引張,圧縮試験より得
られた破断ひずみにて灌流肝臓の動的圧縮条
Lateral view
件下における損傷を予測できることがわかっ
た.
参考文献
Bottom view
Fig. 17 True Strain distribution of membrane of the liver
FE model at maximum compression ratio without any
element elimination definition (Maximum principal strain,
Case 4)
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