状態空間モデルの経済学への応用

状態空間モデルの経済学への応用
− 可変パラメータ・モデルによる日米マクロ計量モデルの推定 −
神戸学院大学経済学研究叢書
谷崎 久志 著
はじめに
本書は題名の通りカルマン・フィルター・モデルの経済学への応用を主題とし、経済学の分野にカルマン・フィル
タ・モデルを紹介する事が本書の目的である。経済学に関するカルマン・フィルタ・モデルの文献は、海外では数多
く発表されてきているにもかかわらず、わが国ではほとんど皆無に近い状態である。米国では、必ずと言っていいほ
ど大学院レベルの計量経済学の授業でカルマン・フィルタに関する講義はある。本書では、このような観点から、わ
が国の経済学の分野にカルマン・フィルタ・モデルを紹介しようという意図を持ち入門書の意味も込めて、できるだ
け多くの実証例を含めて本書を完成させたつもりである。同時に、研究叢書という面からも多くの未発表な事柄もま
た本書には含まれている。
筆者が、カルマン・フィルタ・モデルを初めて知ったのは、神戸大学大学院経済学研究科博士課程前期課程の 1 年
目のときだった。それまでは、最小自乗法、一般化最小自乗法、操作変数法等の固定パラメータによる推定が唯一の
ものだと思っていた。固定であるべきパラメータが確率的に変動するという可変パラメータ・モデルなど思いもよら
なっかたのである。その後、自らフォートランでプログラムを作り、データを入力して、消費関数・投資関数・輸出
関数・輸入関数・貨幣需要関数等の考えられるすべての関数を推定して、さらに、パラメータの変動をグラフに表し
た。それらのグラフを眺めてみると、第 1 次オイル・ショックは日本経済に大きな影響を及ぼしたが第 2 次オイル・
ショックはそれほどではなかったということをパラメータの推移から強く感じ、深い感銘を受けたものだった。研究
を進めていくうちに、カルマン・フィルタ・モデルは可変パラメータの推定だけに用いられるのではなく、より一般
的に観測不可能な変数を推定するのに有効であり、その他にも多くの応用例が考えられるということを知ったのであ
る。しかし、それらすべてを書き記すことは紙面上の制約もあり無理なことである。そこで本書では、筆者が最初に
受けた感銘に基づき、再び出発点に戻って、可変パラメータの推定にカルマン・フィルタ・モデルを用いる事にした。
前述の通り、本書には入門書という意図もあって、できるだけ多くの推定例を示したつもりである。パラメータが毎
期変動するという可変パラメータ・モデルの性質上、ほとんどの期間では符号条件が満たされいても、ごく一部の期
間に符号条件が合わないということも十分あり得ることである。通常、実証研究においてある一つの方程式を推定を
する際には、その裏に何十倍もの推定を行う。多くの文献に見られるのはその中のごく一部分であり、しかも著者に
とって都合の良い結果のみである。筆者は、悪い結果も良い結果と同様に報告されるべきであると考える。そうでな
ければ真のその推定の善し悪しを読者は判断できないからである。この考えに基づいて、テキストのレベルによく見
られる定式化で、すべての推定式の結果を包み隠さず本書に載せた。推定結果の思わしくないものも含まれているの
はこの理由からである。パラメータの変動をすべてグラフに示すことを心がけたために、本書には他に類を見ないほ
ど多くのグラフが含まれている。しかし、これがかえって本書を煩雑にしてしまったかもしれない。また、紙面の都
合上、説明不足の箇所が多々あることも否めない。
本書の構成は以下の通りである。
第 1 章では、状態空間モデルについて簡単に述べる。状態空間モデルの定義から始まり、その必要な仮定について
触れる。状態空間モデルとは元来、工学の分野で開発されたのものであり、経済学にこのモデルを適用する場合、そ
の応用例を示さなければならない。本書の第 3 章以降の実証研究では可変パラメータの推定のみを扱ったが、その他
にも第 1 章で簡単に説明が加えられる応用例は自己回帰移動平均過程の推定、季節調整、恒常消費の推定、速報値を
与えたもとで確報値の推定等の例である。状態変数の推定問題には 3 種類あり、それらはプレディクション (予測問
題)、フィルタリング (濾波問題)、スムージング (平滑問題) として知られている。プレディクションとは今期に利用
可能な情報に基づいて将来の状態変数を推定するものであり、フィルタリングは今期の情報を与えたもとで今期の状
態変数を推定する。さらに、スムージングとは今期に利用可能な情報に基づいて過去の状態変数を推定しようという
ものである。このように同じ状態変数を推定するにしても 3 つの異なった推定問題が存在する。これら 3 つの推定問
題についてそれぞれアルゴリズムが紹介されるが、その中のフィルタリング・アルゴリズムに限って、導出方法を示
i
す。フィルタリング・アルゴリズムの導出には様々な方法が考えられるが、本書では、3 つの導出方法を紹介する。攪
乱項に正規分布を仮定した分布関数に基づく導出、混合推定量としてのカルマン・フィルタ、線形最小分散推定量と
してのカルマン・フィルタの 3 種類の導出方法が示される。また、状態空間モデルに未知パラメータが含まれている
場合、そのパラメータの推定についても述べられる。このように第 1 章は、過去に行われた様々な研究を筆者なりに
まとめあげたサーヴェイである。
カルマン・フィルタの問題点の 1 つは、状態変数の初期値とその分散を与えなければならないことである。カルマ
ン・フィルタのアルゴリズムによると、状態変数の初期値とその分散の値を与えておくと、それ以降のすべての期の
状態変数の値が逐次的に計算されるという逐次アルゴリズムになっているのである。第 2 章では、まず、初期値とそ
の分散の値がそれ以降の状態変数の推定値にどの程度影響するのかをモンテ・カルロ実験によって調べる。この分析
は、プレディクション、フィルタリング、スムージングの 3 者の比較によって行われる。さらに、状態空間モデルに未
知パラメータが含まれる場合、未知パラメータと状態変数を同時に推定する必要がある。初期値とその分散の値が、
未知パラメータの推定にどのような影響を与えるかについて考察する。初期値と未知パラメータの推定値との関係も
またモンテ・カルロ実験によって分析される。第 2 章で得られる結論は、状態変数の初期値がどのような値であって
も、その初期値の分散に十分大きな数値を与えておけば、それ以降の状態変数の推定値 (プレディクション、フィル
タリング、スムージングによる推定値すべてについて) はそれほど影響を受けないというものである。さらに、未知
パラメータの推定と初期値との関係についても同様の結果が得られる。すなわち、状態変数の初期値の分散に大きな
値をとれば、初期値の値にかかわらず、未知パラメータの推定値は真の値に近づくという重要な結論が導かれる。
第 3 章から第 6 章までは、可変パラメータ・モデルを用いて代表的な関数が 2,3 の定式化で推定される。日米比較に
基づいているため、これらの推定は日米について同じ定式化で行われる。参考のため、最小自乗法とコクレン=オー
カット法による推定結果もまた加えられている。第 3 章では消費関数の推定が行われる。国民総生産の変動要因の中
で最も重要な投資関数が第 4 章で推定され、第 5 章では貨幣需要関数の推定が扱われる。近年特に重要性を増してき
ているのは国際部門であり、第 6 章で輸出関数と為替レート関数が推定される。これらの各関数の推定で得られた結
果は以下の通りに要約される。
長期の限界消費性向について、日本では推定期間を通して安定的に推移しているが第一次オイル・ショック期に落
ち込みが見られる。これに対して、米国の長期限界消費性向は上下の変動を示しながらも上昇傾向にある。短期の限
界消費性向について、日本では長期限界消費性向とは逆に第一次オイル・ショック期に上昇しその後はほぼ一定であ
るが、米国ではかなり変動が激しく第二次オイル・ショックの頃に大きな山がある。また、習慣的効果については、
日本でかつてない 1973 年のオイル・ショックに過去の消費行動を参考にできなくなった様子がうかがえ、米国では第
二次オイル・ショックや最近にそれが現れている。さらに、資産効果や流動性制約の面から消費行動を分析すると、
日本では推定期間を通して銀行預金等の金融資産を考慮に入れながら消費をしているのに対し、米国では 1970 年代
以降に入ってその傾向が現れている。
投資関数の所得要因の係数推定値の変動は、経済の景気局面にかなり対応しているようである。しかし、利子率の
係数は日米両国共に符号条件が満たされず満足できる推定結果とは言えない。最小自乗法のような推定期間を通して
の平均的な推定値が得られる場合は符号条件が満たされるが、可変パラメータ・モデルによるその時々の経済構造を
推定する場合には符号条件の満たされない時期が多々ある。
マーシャルの k は、日本について、1971 年まではやや減少傾向はあるものの安定的な推移であったが、1971 年から
1974 年の過剰流動性による急増、また 1975 年 ∼1985 年には上昇傾向、さらに 1985 年以降は再び急増している。米
国については 1965 年 ∼1967 年と 1987 年以降に減少傾向がみられるが、かなり安定的な推移を示している。貨幣需
要の所得弾力性をみると、日本の場合ほぼ一定しているが、米国の場合安定的ではあるがやや減少傾向がみられる。
利子半弾力性については、両国とも絶対値で減少し続け、近年ではほとんどゼロとなっている。言い換えれば、貨幣
需要の中で利子率に影響される部分、すなわち、投機的需要が近年ではゼロになっているということである。物価の
変化は、両国共に、実質貨幣需要に大きな影響を及ぼしている。日本では、1964 年から 1974 年にかけて、物価は貨
幣需要に正の影響を与え、その他の期間では負となっている。過剰流動性の 1970 年 ∼1971 年頃には、約 0.6 の値で
推定期間内で最大の値をとっている。しかし、1990 年には物価は貨幣需要にほとんど影響していない。米国では、推
定期間を通して一貫して、物価は貨幣需要に正の影響を与えている。理論モデルでは一般的に、物価は実質貨幣需要
ii
に影響を与えない (すなわち、貨幣錯覚はない) とされているが、実証分析ではこのように物価は実質貨幣に大きな影
響を及ぼすのである。
日本の対米輸出関数について、所得弾力性の値が長期についても短期についても大きな推定値であった。米国経済
が日本経済に与える影響はかなり大きいものであると言えるだろう。また長期・短期共に近年では、日本の対米輸出
の価格弾力性と米国の対日輸出の価格弾力性の和が 1 より小さく、マーシャル・ラーナーの条件が満たされていない。
よって、円高の進行が進んでも対米経常収支の改善は期待されないであろう。
為替レートの推定によると、累積経常収支を説明変数とする方が単に経常収支を説明変数に選ぶよりも当てはまり
の面から見て良い結果が得られた。推定値の変動についても、累積経常収支と経常収支とではその係数の推定値の変
動傾向は大きく異なる。実質金利の影響については、符号条件が満たされず不安定な推定結果であったが、総じて言
えば、近年日本の実質金利は為替レートにほとんど影響しないのに対して、米国の実質金利はより大きな影響力を為
替レートに与える。
連立方程式体系で日米マクロ計量モデルの推定が第 7 章で扱われる。周知の通り、単一方程式から連立方程式体系
へと拡張する場合、問題になるのは説明変数と各方程式に含まれる攪乱項との相関が生じることである。この相関を
無視して第 3 章 ∼ 第 6 章と同じ様に各方程式を一本づつ推定してマクロ・モデルを構成すると、係数の推定値は偏り
を持つことが知られている。この点を回避するために、第 7 章ではまず、2 段階最小自乗法と同じ考え方に基づき、
操作変数を用いてカルマン・フィルタ・アルゴリズム (いわゆる、2 段階カルマン・フィルタ) を提示する。次に、定
義式 10 本・推定式 11 本の計 21 本の方程式から構成される単純な日米マクロ計量モデルを構築する。21 本のマクロ・
モデルから部分的に取り出し、輸出入と為替レートを通した米国からの影響を除いた日本の閉鎖経済モデル、同様に
日本からの影響を考慮に入れない米国の閉鎖経済モデル、さらには、21 本全部から成る日米両国の相互関係を調べる
日米連結モデルの 3 つのマクロ・モデルで、最終テスト・乗数分析が行われる。2 段階最小自乗法による固定パラメー
タ・モデルと 2 段階カルマン・フィルタによる可変パラメータ・モデルとの比較によってこれらの分析がされる。操
作変数を用いた 2 段階カルマン・フィルタによるパラメータの変動傾向は第 3 章 ∼ 第 6 章で得られた係数値の変動パ
ターンとは異なる場合が起こる。概して、操作変数を用いるとパラメータの変動は安定的になるようである。
日本の閉鎖経済モデル, 米国の閉鎖経済モデル, 日米連結モデルの 3 つのマクロ・モデルを用いて、モデルの当ては
まりを分析するためにそれぞれ最終テスト、さらには、政府支出・貨幣供給量の乗数分析を行う。最終テストについ
ては、2 段階カルマン・フィルタの方が 2 段階最小自乗法よりも誤差が小さく当てはまりの良い推定方法であると言
え、また日本モデル、米国モデルの閉鎖経済モデルよりも日米連結モデルの方がモデルのパーフォーマンスは良いと
いう結果が得られる。さらに、乗数分析については、政府支出、貨幣供給量の増加の効果が短期、長期について、ま
た日米両国について分析がなされる。政府支出の短期乗数に関して、日米両国共に推定期間を通して安定的にほぼ一
定値で推移しているが、日本の短期乗数は米国のものよりもやや小さい結果を得る。2 段階カルマン・フィルタに基
づいて算出された長期乗数を見ると、日本と米国とでは政策効果の推移に違いが見られる。日本の場合、政府支出の
長期乗数は 1977 年あたりまでは低い値で安定的な動きを示すが、その後上昇傾向にある。貨幣供給量の長期乗数に
ついては 1973 年頃までは高い値で安定的であったが、徐々に低下傾向にある。日本では金融政策による国民総生産
創出の効果は年々薄れ、逆に財政政策の効果が強まっているようである。米国の場合は、日本とは全く逆で、財政政
策の効果が弱まり金融政策の効果が強まっている。
さらに、日米連結モデルを用いて日米の相互作用に関する乗数分析が行われる。その結果、日本経済は米国経済に
ほとんど影響を及ぼさないが、逆に米国の経済状態は日本経済に大きな影響を与え、特に短期的効果についてその影
響力は年々高まっている。米国経済が日本経済に与える長期的効果は、1984 年 ∼1988 年に低下傾向が見られ、それ
以降は安定している。1988 年 ∼1990 年の長期効果について、米国の政府支出 1 ドル増加は日本の国民総生産を約 40
円前後増加させ、米国の貨幣供給量 1 ドルの増加は日本の国民総生産を約 10 円 ∼15 円増加させる。
第 8 章では、本書のまとめと展望を記す。第 7 章までは、状態空間モデルが線形に限って扱われる。しかし、最近
の計量経済学の流れは、非線形・非正規モデルに集中しており、この点を考慮して、非線形・非正規フィルタについ
て簡潔に述べる。数値積分を応用した非線形・非正規フィルタやモンテ・カルロ積分を用いた非線形・非正規フィル
タの説明がなされる。また、最後に筆者の思うままに、計量経済学の流れと展望についても若干触れる。コンピュー
iii
タの発展に伴い、より計算量の必要とされる推定方法が考案されてきている。ノンパラメトリック推定による分布関
数の近似、シミュレーションに基づいた積率法等が代表的であろう。前者は分布関数自体が未知でこれを推定しよう
というものであり、後者は一般化積率法のシミュレーション版である。さらに、検定についても、古くから考案され
ていたが計算上の問題から実用可能ではなかったものが、最近になって研究が進めらている。例えば、ウィルコクソ
ンのランク・サム・テスト, フィシャーのランダマイゼイション・テスト等のものである。これらの推定方法、検定
方法について若干触れ本書の結びとするつもりである。
本書の要約は以上の通りであるが、本書は筆者が神戸大学大学院経済学研究科に所属して以来数年間、取り組んで
きた研究の集大成である。本書を出版するにあたって、筆者は実に多くの先生のご指導とご助言を受けてきた。この
機会にお礼を申し上げたい。
関西学院大学経済学部在学中には、井上勝雄先生のご指導の下に、卒業論文で日本の簡単なマクロ計量モデルを作
成した。思えば、このときが本書の出発点になっていたのかもしれない。
その後、筆者は学問の道を志し、神戸大学大学院経済学研究科に進み、斎藤光雄先生を指導教官として現在に到る
まで様々な教えを公私共に請うこととなった。斎藤先生は、筆者に可変パラメータ・モデルに関する研究をすすめら
れた。神戸大学在学中には、その他にも、豊田利久先生、新庄浩二先生、大谷一博先生、小川一夫先生、その他多く
の先生方からご指導とご助言を頂いた。この時期の修士論文を初めとする研究が本書の下地になっているのである。
斎藤先生は、筆者にペンシルヴァニア大学大学院へ留学をすすめられた。そのときの筆者の正直な感想は「日本か
ら離れたくない」
「留学なんてしたくない」だった。筆者は英語が大の苦手なのである。ペンシルヴァニア大学在学中
に、Roberto S. Mariano 先生からは Ph.D. 論文の指導教官として、また、Marc Nerlove 先生と Francis X. Diebold
先生からはリサーチ・アシスタントを通して様々なご指導を受けた。留学中に学んだ事柄もまた本書には数多くの箇
所に含まれている。例えば、第 1 章で扱われる状態空間モデルの経済学への応用例について、筆者は留学前には可変
パラメータ・モデルと自己回帰移動平均過程の推定に用いられるということしか知らなかった。より広い意味で観測
できない変数を推定するにカルマン・フィルタ・モデルは有用であるということを知ったのは留学中のことだった。
さらに、最後の第 8 章のフィルタリング理論と計量経済学の展望で述べる事柄もまたその時期に学んだ事柄である。
このように、留学という経験が本書をより深いものにしたといっても過言ではない。筆者は今、留学前の気持ちとは
裏腹に、「留学して良かった」と心から思っている。あらためて、留学をすすめて下さった斎藤先生に感謝の意を表
したい。
帰国後、松田和久先生をはじめとする多くの諸先生方の労によって、筆者は神戸学院大学経済学部に勤めることと
なった。そして、松田先生から研究叢書の出版を強くすすめられた。斎藤先生からのご助言もあって、カルマン・フィ
ルタ・モデルを経済学により広く紹介するという意図を込めて、筆者は本書を完成することに心がけたつもりである。
しかし、申し上げるまでもなく、本書に含まれている誤りはすべて筆者の責任である。
その他にも、個々に名前をあげることはしないが、神戸大学在学中やペンシルヴァニア大学在学中に多くの方々か
らのご助言や励ましを与えられた。ここに深く感謝したい。
最後に、本書を神戸学院大学経済学研究叢書として刊行させて頂いたことに対して、経済学会員各位に厚く感謝す
る。
1993 年 8 月
谷崎 久志
iv
目次
·······························································
1.1 状態空間モデルの定義
································································
1.2 状態空間モデルの経済学への応用例
···················································
1.2.1 可変パラメータ・モデル
··························································
1.2.2 自己回帰移動平均過程
····························································
1.2.3 季節要素モデル
···································································
1.2.4 速報値に基づいた確報値の予測
····················································
1.2.5 恒常消費の推定
···································································
1.3 状態変数の推定問題
··································································
1.3.1 プレディクション (予測問題)
··················································· · ·
1.3.2 フィルタリング (濾波問題)
·······················································
1.3.3 スムージング (平滑問題)
·························································
1.4 カルマン・フィルタ・モデルの導出と解釈
·············································
1.4.1 正規分布の仮定
···································································
1.4.2 混合推定
·········································································
1.4.3 線形最小分散推定量 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · ·
1.5 最尤法による未知パラメータの推定
···················································
補論
···················································································· · ·
証明
···················································································· · ·
1
1
2
2
4
5
5
6
8
8
9
11
13
14
16
17
18
21
22
······························································· · ·
2.1 初期値に関する考察
··································································
2.2 未知パラメータの推定
································································
2.3 状態空間モデルの推定手順
····························································
26
26
43
45
···························
3.1 消費関数 I
···········································································
¡
¢
3.1.1 日本の消費関数:Ct = f Y dt
···················································
¢
¡
3.1.2 米国の消費関数:Ct∗ = f Y d∗t
···················································
3.2 消費関数 II
········································································ · ·
¡
¢
3.2.1 日本の消費関数:Ct = f Y dt , Ct−1
·············································
¡ ∗
¢
∗
∗
3.2.2 米国の消費関数:Ct = f Y dt , Ct−1
·········································· · ·
3.3 消費関数 III
·········································································
¡
¢
3.3.1 日本の消費関数:Ct = f Y dt , M 1t−1
···········································
¡ ∗
¢
∗
∗
3.3.2 米国の消費関数:Ct = f Y dt , M 1t−1
···········································
49
49
50
52
55
55
58
60
61
63
第 1 章 状態空間モデルの紹介
第 2 章 モンテ・カルロ実験
第 3 章 可変パラメータ・モデルによる分析 I − 消費関数の推定 −
v
···························
4.1 投資関数 I
············································································
¡
¢
4.1.1 日本の投資関数:It = f Yt , rt − pt
··············································
¢
¡ ∗ ∗
∗
∗
4.1.2 米国の投資関数:It = f Yt , rt − pt
·············································
4.2 投資関数 II
···········································································
¡
¢
4.2.1 日本の投資関数:log(It ) = f log(Yt ), rt − pt
·····································
¡
¢
4.2.2 米国の投資関数:log(It∗ ) = f log(Yt∗ ), rt∗ − p∗t
································· · ·
67
67
67
70
72
73
76
·····················
5.1 貨幣需要関数 I
····································································· · ·
¡
¢
5.1.1 日本の貨幣需要関数:M 1t = f Yt , rt
·········································· · ·
¡
¢
5.1.2 米国の貨幣需要関数:M 1∗t = f Yt∗ , rt∗
··········································
5.2 貨幣需要関数 II
·····································································
¡
¢
5.2.1 日本の貨幣需要関数:log(M 1t ) = f log(Yt ), rt
··································
¡
¢
∗
∗
∗
5.2.2 米国の貨幣需要関数:log(M 1t ) = f log(Yt ), rt
·································
5.3 貨幣需要関数 III
·····································································
¡
¢
5.3.1 日本の貨幣需要関数:log(M 1t ) = f log(Yt ), log(rt ), log(Pt )
·····················
¢
¡
∗
∗
∗
∗
···················
5.3.2 米国の貨幣需要関数:log(M 1t ) = f log(Yt ), log(rt ), log(Pt )
79
79
79
82
84
84
87
89
89
92
·········
6.1 輸出関数 I
············································································
¡
et Pt∗ ¢
)
························
6.1.1 日本の対米輸出関数: log(Eust ) = f log(Yt∗ ), log(
Pt
¡
Pt ¢
6.1.2 米国の対日輸出関数:log(Ejp∗t ) = f log(Yt ), log(
)
························ · ·
et Pt∗
6.2 輸出関数 II
···········································································
¡
¢
et Pt∗
6.2.1 日本の対米輸出関数: log(Eust ) = f log(Yt∗ ), log(
), log(Eust−1 )
········· · ·
Pt
¡
¢
Pt
6.2.2 米国の対日輸出関数:log(Ejp∗t ) = f log(Yt ), log(
), log(Ejp∗t−1 )
············
∗
et Pt
6.3 為替レート関数 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · ·
¢
¡
6.3.1 日本の為替レート関数:et = f Eust − M ust , (rt − pt ) − (rt∗ − p∗t )
···············
¢
¡
6.3.2 日本の為替レート関数: et = f Eust − M ust , rt − pt , rt∗ − p∗t
···················
96
96
第 4 章 可変パラメータ・モデルによる分析 II − 投資関数の推定 −
第 5 章 可変パラメータ・モデルによる分析 III − 貨幣需要関数の推定 −
第 6 章 可変パラメータ・モデルによる分析 IV − 輸出関数, 為替レート関数の推定 −
t−1
¡X
¢
Eust−i − M ust−i , (rt − pt ) − (rt∗ − p∗t )
97
99
102
102
105
109
109
112
·······
115
············
117
·················· · ·
7.1 連立方程式体系でのフィルタリング・アルゴリズム · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · ·
7.2 方程式リスト · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · ·
7.3 最終テストと政策シミュレーション · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · ·
7.3.1 日本モデル · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · ·
7.3.2 米国モデル · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · ·
7.3.3 日米モデル · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · ·
7.4 まとめ · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · ·
121
121
123
146
147
153
159
171
6.3.3 日本の為替レート関数: et = f
6.3.4 日本の為替レート関数:et = f
¡
i=0
t−1
X
i=0
Eust−i − M ust−i , rt − pt , rt∗ − p∗t
第 7 章 可変パラメータ・モデルによる分析 V − 日米マクロ計量モデル −
vi
¢
···········································································
8.1 まとめ · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · ·
8.2 フィルタリング理論の展望 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · ·
8.2.1 数値積分法 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · ·
8.2.2 モンテ・カルロ積分法 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · ·
8.3 計量経済学の展望:推定と検定 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · ·
173
173
177
180
181
182
·······························································
187
·····················································································
193
第 8 章 総括と展望
変数名リスト,データ・リスト
参考文献
vii
第 1 章 状態空間モデルの紹介1
フィルタリング (filtering) 理論は、Kalman(1960), Kalman and Bucy(1961) を初めとして、1960 年代に工学の分
野で発展してきた。経済学に応用されはじめたのは、1970 年代に入ってからである。可変パラメータ・モデル、自己
回帰移動平均モデル、季節調整モデル、経済変数の予測問題、恒常消費または所得の推定等、観測されない変数を推
定するのに、状態空間モデルは有効である。本章では、状態空間モデルの紹介を目的とし、その経済学への応用例・
導出方法等を中心として、簡単にサーベイを行う2 。
1.1 状態空間モデルの定義
状態空間モデル (state-space model) は、次のように、観測方程式 (measurement equation) と遷移方程式 (transition
equation) の 2 つの式によって表される。状態空間モデルの標準的なテキストとしては、Jazwinski(1970), Gelb(1974),
Anderson and Moore(1979), 片山 (1983), Harvey(1989) 等が適当である。
観測方程式
yt = Zt αt + dt + St ²t
(1.1)
遷移方程式
αt = Tt αt−1 + ct + Rt ηt
õ ¶ µ
µ ¶
²t
0
Ht
∼N
,
ηt
0
0
(1.2)
0
Qt
¶!
,
t = 1, · · · , T
(1.3)
α0 ∼ N (a0 , Σ0 )
yt : g × 1,
αt : k × 1,
Zt : g × k,
Tt : k × k,
dt : g × 1,
ct : k × 1,
St : g × g,
Rt : k × k,
²t : g × 1,
ηt : k × 1,
yt , Zt , dt , St , Tt , ct , Rt は観測可能な変数、²t , ηt は撹乱項とする。T は標本数を表す。αt は状態変数と呼ばれ、
推定されるべき変数である。(1.1) 式は観測方程式と呼ばれ、(1.2) 式は遷移方程式と呼ばれる。このように、このモ
デルでは、観測される変数を用いて、観測されない変数を推定しようというものである。以下の 2 つの仮定を必要と
する。
(i) 初期値 α0 は平均 a0 , 分散 Σ0 の確率ベクトルとする。すなわち、E(α0 ) = a0 , V ar(α0 ) = Σ0 である。
(ii) 撹乱項 ²t , ηs はすべての t, s について、互いに独立であり、初期値ベクトル α0 とも無相関である (すなわち、
すべての t, s について E(²t ηs0 ) = 0、すべての t について E(²t α00 ) = 0, E(ηt α00 ) = 0 が成り立つ)。
注意すべき点は以下の通りでる。
0
1) 仮定 (ii) は、²t と αt の間の無相関、ηt と αt−1 との無相関を保証する。すなわち、E(²t αt0 ) = 0, E(ηt αt−1
) = 0。
2) Zt , dt , St , Tt , ct , Rt は未知パラメータ (例えば、θ) に依存してもよい。この場合には、未知パラメータ θ は状
態変数 αt と共に推定されなければならない。αt の推定問題については 1.3 節に述べられ、θ については 1.5 節で触
れる。
1
本章は、Tanizaki(1991a, 1992a, 1993c) に基づいて、加筆・修正したものである。
2 フィルタリングに関する邦語文献としては、有本 (1977), 砂原 (1981, 1982a, 1982b), 片山 (1983), 加藤 (1987) 等があるが、これらのもの
はすべて理工系のものである。経済学に関連したものは、青木 (1984), 翁 (1985), 刈谷 (1985), 日銀統計局 (1985), 小川 (1988) があるがまだま
だその数は少ない。
1
3) 初期値 α0 と撹乱項 ²t , ηt には正規分布を仮定するのが一般的ではあるが、アルゴリズムの導出方法によっては、
この仮定を必要としない。例えば、混合推定によるフィルタリング・アルゴリズムの導出は誤差項 ²t , ηt に分布を仮
定する必要はない。しかし、分布関数に基づいたアルゴリズムの導出には、正規性の仮定を必要とする (詳しくは、後
述の 1.3 節を見よ)。
4) 観測方程式に含まれる撹乱項 ²t と遷移方程式の撹乱項 ηt は互いに無相関 (この仮定は (1.3) に相当する) とし
て、本書では、以下の議論を進める。しかし、この仮定を緩めることも可能である。その場合の議論については、例
えば、片山 (1983) や Harvey(1989) 等に述べられている。
1.2 状態空間モデルの経済学への応用例
状態空間モデルの経済面への応用例として、可変パラメータ・モデル、自己回帰移動平均過程、季節調整、確報値
の推定、恒常所得の推定等が考えられ、観測されない変数の推定に状態空間モデルは応用される。
1.2.1 可変パラメータ・モデル
計量モデルの基本である最小自乗法 (OLS) の大前提として挙げられるものに、「パラメータは推定期間を通して一
定である」というものがある。この根拠は、
「十分に長い期間をとれば、確かに経済構造は徐々に変化しているが、そ
の一部分のごく短期的な期間をとれば、十分に線形近似できる」というところにある。通常の回帰モデルは次のよう
に表される。
yt = xt β + ²t
ここで、yt は被説明変数、xt は 1 × k の説明変数ベクトル、β は推定されるべき k × 1 の未知パラメータ、²t は撹乱
項である。
この回帰式の推定方法としては、最小自乗法 (ordinary least squares, OLS), 一般化最小自乗法 (generalized least
squares, GLS), 操作変数法 (instrumental variable method, IV) 等がある。いずれの推定方法にしても、推定された
パラメータは推定期間を通して固定的である。このようなモデルは固定パラメータ・モデル (fixed parameter model)
として知られている。
しかし、実際には近年特に、様々な外生的なショック (為替の変動相場制への移行、第一次・第二次石油ショック、
貿易摩擦による輸出規制、円高の進行等)、または他の政策的な要因3 等により経済構造は徐々に変化していると考
えるのがより適当である。このように徐々に経済構造が変化している状況において、従来の OLS 等の固定パラメー
タ・モデルによる推定では、この経済構造の変化を表すことは出来ない。また、パラメータが可変的であり得る理由
としては、特定化に誤りのあるモデルを OLS 等で推定した場合、真のモデルは非線形であるにもかかわらず間違って
線形で推定した場合、代理変数 (proxy variable) が含まれる場合等もある (Sarris(1973))。誤って、OLS で推定した
場合、パラメータの推定値は推定期間内における平均的な構造を表しているに過ぎない。よって、パラメータの変動
を明示的に取り入れたモデルを考える必要がある。これは可変パラメータ・モデル (time-varying parameter model)
と呼ばれる。可変パラメータを扱ったモデルにはいくつかの種類4 が考えてられいるが、パラメータの変動をランダ
3
これは Lucas(1976) の批判に対応している。これについて、刈谷 (1985) からの引用を以下にあげておく。
さらに最近の経済理論において重要視されている人々の期待 (expectations) を明示的に考慮してモデルを構築する場合、特に
中長期のレンジで考えるならば、固定パラメータモデルでは表現し難い点がいくつかある。たとえば、民間部門がさまざまな情報
を用いて政策当局の行動に対応して自らの行動を決定すると仮定すると、その反応関数 (reaction function) は民間の学習過程によ
り時を追って変化すると考えることができる。その場合、民間部門の行動を表すパラメータは、固定的なものとは考え難い。特に
経済主体の期待形成が合理的 (rational) であるモデルについては可変パラメータモデルを用いなければ表せないともいわれている。
このように、民間部門が政策当局の行動に反応して行動するならば、政策当局が行動を起こす度毎に経済構造を表すパラメータは変動するといわ
れている。
4
可変パラメータ・モデルには大きく分けて次の 3 つの種類がある。
• Systematically Varying Parameter Model
– 決定論的定式化 (deterministic formulation):
yt = xt βt + ut
2
ムな確率的なものとする状態空間モデルを応用することを考える。
観測方程式
yt = xt βt + ²t
遷移方程式
βt = Ψt βt−1 + ηt
õ ¶ µ
µ ¶
²t
0
σ2
∼N
,
ηt
0
0
(1.4)
(1.5)
0
R
¶!
(1.6)
t = 1, · · · , T
(1.5) 式によれば、パラメータの動きは AR(1) モデルと仮定されている (この動きは AR(p) モデルに簡単に拡張さ
れ得る)。仮定 (1.6) によれば、²t は ηt と独立で、平均ゼロ, 分散 R の分布である。可変パラメータ βt は観測でき
ない変数であり、観測される変数 yt と xt を使って推定される。(1.1) 式と (1.2) 式との対応では、Zt = xt , dt = 0,
St = Ik , Tt = Ψ, ct = 0, Rt = Ik となっている (ただし、Ik は k × k の単位行列を表す)。
βt = zt α
のモデルで、α を推定する。α を推定することによって、βt を推定することができる。実際に推定する場合は、βt をモデルから消
去して、
yt = xt zt α + ut
を推定することになる。ただし、ut は撹乱項である。このようなモデルは、Belsley(1973) によって議論されている。
– 確率的定式化 (stochastic formulation):
yt = xt βt + ut
βt = zt α + v t
のモデルで、α を推定する。ただし、ut , vt は撹乱項である。決定論的定式化では、パラメータ βt は何らかの外生変数に依存する
が非確率的と仮定する。一方、この確率的定式化によると、パラメータは他の外生変数に依存し、しかも確率変数と仮定される。
• Switching Regression Model
– ダミー変数 (dummy variable):
広く用いられているように、ダミー変数によって、構造変化を表現しようというものである。徐々に経済構造 (gradual shift) が変
わるというのではなく、突然の変化 (discrete jump) を対象にしている。
– Piecewise Regression Model:
Quandt(1958) は以下のモデルを提示した。
yt =
n
xt β1 + u1t ,
xt β2 + u2t ,
t = 1, · · · , s
t = s + 1, · · · , T
β1 , β2 は推定されるべきパラメータであり、u1t , u2t は撹乱項である。s 期以前と (s + 1) 期以降とで突然の経済構造の変化がある
と想定したモデルである。時点 s が未知のモデルも考えられている。
• Time-varying Parameter Model
– クーリー・プレスコット・モデル (Cooley-Prescott model):
Cooley and Prescott(1973, 1976) は、パラメータが確率的に動くモデルを考案した。
y t = xt β t ,
t = 1, · · · , T
p
そして、パラメータ βt の変動は、恒常的な部分 βt と一時的な部分 ut に分けられるとした。さらに、恒常的な部分は前期のそれ
に依存するとし、自己回帰モデルとして仮定した。すなわち、βt の動きは
βt = βtp + ut
p
+ vt
βtp = βt−1
によって、書き表される。このモデルは、βt を消去して、次の状態空間モデルに書き換えられる。
観測方程式
yt = xt βtp + xt ut
遷移方程式
p
βtp = βt−1
+ vt
これは、本書で紹介するカルマン・フィルタ・モデルに一致する。
– カルマン・フィルタ・モデル:
パラメータの動きは、AR(1) モデルと仮定され、確率的に変動する。アルゴリズムは複雑になるが、遷移方程式を AR(p) モデルに
従うとすることも可能である。
可変パラメータ・モデルについて詳しくは、Belsley and Kuh(1973), Judge, Griffiths, Hill and Lee(1980), Judge, Griffiths, Hill, Lutkepohl
and Lee(1984), 刈谷 (1985) 等を参照せよ。
3
可変パラメータ・モデルを扱ったものには、Cooper(1973), Belsley and Kuh(1973), Sarris(1973), Cooley and
Prescott(1973, 1976), Laumas and Mehra(1976), Garbade(1977), Cooley(1977), Sant(1977), Pagan(1980), 日銀統
計局 (1985), 谷崎 (1987a), Dziechciarz(1989), Tanizaki(1989, 1992b, 1993b) 等数々ある。
このモデルは、徐々に経済構造が変化していく場合のみをとらえていて、急激な経済構造の変化を表すことはでき
ないという欠点を持つ。本書ではこの可変パラメータ・モデルを扱う。簡単化のため Ψ = Ik (パラメータの動きはラ
ンダム・ウォークを意味する) として、第 3 章から第 7 章では、日米の簡単なマクロ・モデルを推定して、両国の経
済構造の変化を調べる。
1.2.2 自己回帰移動平均過程
任意の自己回帰移動平均過程 (autoregressive-moving average process, ARMA process) は状態空間モデルによっ
て、書き換えられることが知られている (青木 (1984), Aoki(1987), Burridge and Wallis(1988), Gardner, Harvey and
Phillips(1980), Harvey(1981, 1989) 等数多くの文献がある)。例えば、次の ARMA(p, q) モデルを考えよう。
yt = a1 yt−1 + · · · + ap yt−p + ²t + b1 ²t−1 + · · · + bq ²t−q
撹乱項 ²t はすべての t についてホワイト・ノイズ (white noise) であるとする。この ARMA(p, q) モデルは次のよう
に書き換えられる。
yt = a1 yt−1 + · · · + am yt−m + ²t + b1 ²t−1 + · · · + bm−1 ²t−m+1
そこでは、m = max(p, q + 1) であり、a1 , · · · , am , b1 , · · · , bm−1 の中でいくつかはゼロであり得る。さらに、上に示
された ARMA(m, m − 1) モデルは、次のように表される。
観測方程式
yt = zαt
遷移方程式
αt = Aαt−1 + B²t
行列 z, A, B はそれぞれ、以下の通りである。

a1

..

.
Im−1

z = (1, 0, · · · , 0), A = 
 am−1
am
1×m
0





, B = 




m×m
1
b1
..
.
bm−1





m×1
カルマン・フィルタ・モデルをこのような ARMA モデルの推定に用いた場合、目的はパラメータ a1 , · · · , am , b1 , · · · , bm−1
の推定にある。よって通常の ARMA モデルと同じく、識別性の問題が生じる。そして、上の行列 A によって識別の
条件は表される (Pagan(1980), Chow(1983), Watanabe(1985), Hannan and Deistler(1988))。
このモデルの拡張として、Kirchen(1988) は定数項を含んだ ARMA(p, q) モデルを考え、予測にはより有効である
ことを示した。すなわち、モデルは
観測方程式
yt = zαt
遷移方程式
αt − ᾱ = Cβt
βt = Dβt−1 + Eηt
で表される。ここで、C は CC 0 = I という特徴を持った 0 と 1 から成る行列とした。遷移方程式をまとめて、
遷移方程式
αt − ᾱ = CDC 0 (αt − ᾱ) + CEηt
が得られる。上にあげた通常の ARMA(p, q) モデルとの関連は、A = CDC 0 , B = CE であり、また、αt が αt − ᾱ
によって置き換えられている。
4
1.2.3 季節要素モデル
次に、Pagan(1975), Chow(1983) に沿って、季節要素モデル (seasonal component model) を考える。時系列データ
は通常、循環的要素 (cyclical component)、季節的要素 (seasonal component)、撹乱的要素 (irregular component) か
ら成る。それぞれの要素は観測されない変数である。状態空間モデルを適用することによって、それらの要素を別々
に推定することができる。原系列データは次のように書き表される。
yt = ytc + yts + vt
yt , ytc , yts , vt は、それぞれ原系列データ、循環的要素、季節的要素、撹乱的要素を表す。そして、循環的要素は、一
期前の循環的要素と他の外生変数に依存すると仮定され、次のように表される。
c
ytc = Ayt−1
+ Cxt + ut
A, C は係数、xt は k × 1 の外生変数のベクトル、ut は撹乱項である。さらに、季節的要素は一年前の同じ期のそれ
に依存すると考えられるので、以下の式で表される。
s
yts = Byt−m
+ wt
B は係数、wt は撹乱項である。また、m は四半期モデルのとき 4、月次モデルのとき 12 となる。以上、3 つの式を
まとめると、次の状態空間モデルが得られる。
観測方程式
yt = zαt + vt
遷移方程式
αt = M αt−1 + N xt + ²t
それぞれの記号は以下に示される。

z = (1, 1, 0, · · · , 0),
1 × (m + 1)

M =
0
A
0
0
B


Im−1  , N =
0
(m + 1) × (m + 1)
µ
C
0
¶
,
(m + 1) × k


ut
 
²t =  w1 
0
(m + 1) × 1
(m + 1) × 1 ベクトル αt の第 1, 第 2 要素は、それぞれ循環的要素、季節的要素である。このように、状態空間モデ
ルを用いて、季節調整の問題を扱うことが可能である。
1.2.4 速報値に基づいた確報値の予測
通常、経済データを得るとき、まず初めに速報値 (preliminary data) が得られる。次にしばらくしてから、確報値
(final data) または改訂値 (revised data) が公表される5 。問題は、速報値が利用可能であるときに、いかに確報値 (ま
たは改訂値) を推定するのかということである。例えば、国民所得統計のようなデータは最初の数年にわたって毎年
改訂され、その後も一定期間 (5 年, 10 年) ごとに改訂される6 。図 1 は名目国民総支出 (GNP) の改訂の様子を 1970
年から 1991 年までの暦年のデータ使って示している。1981 年版 (昭和 56 年版) から 1993 年版 (平成 5 年版) までの
『国民経済計算年報』(経済企画庁) から、毎年名目 GNP のデータを書き出す。例えば、1982 年版の『国民経済計算
年報』によると、1980 年までの名目 GNP のデータが公表されており、特に、1980 年のデータは『国民経済計算年
報』に初めて現れ、その数字は 234871.7 である。この 1980 年の名目 GNP は、1983 年版では 235834.0、1986 年版
で 240098.4、さらに 1991 年版で 240098.5 へとそれぞれ改訂されている。このように、1980 年のデータは過去 3 度
改訂されている。
5
ほとんどの経済データは改訂されるが、改訂が行われないデータとしては、金利,為替レート等のごく一部である。
6
詳細な解説については、『国民経済計算年報』(経済企画庁) の参考資料にある用語解説の「速報と確報」を参照せよ。
5
図 1. 名目国民総支出 (10 億円) の改訂
年
1970
1971
1972
1973
1974
1975
1976
1977
1978
1979
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
81 年版
82 年版
83 年版
84 年版
85 年版
73128.2
— — — — 80522.3
— — — — 92312.8
— — — — 112440.9
— — — — 133921.7
— — — — 147873.8
— — — — 165694.7
— — — — 184368.2
— — — — 202708.0 202707.9
— — — 219335.6 218894.1
— — — 234871.7 235834.0
— — 251259.2 251999.5
— 264775.1 264865.7
275230.1
注:
86 年版
87 年版
88 年版
89 年版
90 年版
73188.4
— — — — 80591.9
— — — — 92400.8
— — — — 112519.5
— — — — 133996.8
— — — — 148169.9
— — — — 166416.9
— — — — 185530.1
— — — — 204474.5
— — — — 221824.5
— — — — 240098.4
— — — — 256816.8
— — — — 269697.1
— — — — 280567.6
— — — — 298589.4 298452.7
— — — 317251.8 317440.9
— — 331345.5 331253.5
— 345292.3 345476.2
367388.6
91 年版
92 年版
93 年版
— — — — — — — — — — — — — — — — — — — — — — — — — — — — — — 240098.5
— — 257416.5
— — 270669.3
— — 282078.2
— — 301048.2
— — 321555.9
— — 335837.8
— — 350478.9
— — 373731.1
— — 398693.3 399046.4
— 428667.5 427469.2
453984.6
(1) 空欄はデータがまだ公表されていない (利用可能ではない) ことを表す。
(2) — はデータが改訂されなかったことを意味し、左隣のデータと同じ値である。
このようにデータは最初の 2,3 年間そして一定期間毎に改訂されるため、確報値は観測されない変数とみなされ得
る。元来、速報値も確報値も同じデータであるので、速報値と確報値との間にはなんらかの関係が存在する。これを
観測方程式として表す。また、ある経済理論から導き出された関係式は、速報値よりむしろ、確報値に基づいたもの
であると考えるのが適当である。この関係式は遷移方程式となる7 。このように、状態空間モデルを使って、この確
報値の推定問題を考えることができる。Howrey(1978,1984), Conrad and Corrado(1979), Harvey(1989) 等の文献が
あげられる。
観測方程式
ytp = γytf + ut
遷移方程式
f
ytf = θ1 yt−1
+ θ2 xt + vt
ytp , ytf は、それぞれ速報値、確報値を表し、ut と vt は撹乱項である。xt は他の外生変数であり、さらに、γ, θ1 , θ2
は推定されるべき未知パラメータである。速報値 ytp , xt は観測可能な変数であるが、確報値 ytf は観測できない変
数である。このように、観測されない変数を観測可能な変数を使って推定することができるのである。Tanizaki and
Mariano(1992b, 1993) は、効用最大化問題を解くことによって得られる消費関数を遷移方程式として、消費の確報値
を推定した。
1.2.5 恒常消費の推定
Hall(1978) の恒常所得仮説 (permanent income hypothesis) によると、消費はランダム・ウォーク (random walk) に
よって表される。その後、Hall の定式化に基づいて恒常所得仮説が成り立つかどうかの検定が盛んに行われてきた。しか
し、多くの実証研究ではこの仮説は棄却されている。そのため、Hall(1978) のモデルを様々な方向で緩める試みがなさ
れてきた。可変利子率 (variable interest rate) の導入、流動性制約 (liquidity constraint) や耐久性 (durability) の導入、
変動所得 (transitory income) の存在、オイラー方程式の非線形性 (nonlinearity) 等の方面から議論されている (例え
ば、Ban(1982), Campbell(1987), Campbell and Deaton(1989), Campbell and Mankiw(1987, 1990), Deaton(1987),
Diebold and Nerlove(1989), Diebold and Rudebusch(1991a), Flavin(1981), Hall(1990), Hall and Mishkin(1982),
Hayashi(1985a, 1985b), Mankiw(1981), Mankiw and Shapiro(1985), West(1888), 山本 (1988) 等多くの文献があげ
7 「ある経済理論から導き出された関係式」を遷移方程式とするためには、方程式にラグ構造を含む必要がある。状態空間モデルの遷移方程式
は、(1.2) 式に表されるように、観測不可能な変数の AR(1) 過程として表現された。よって、ラグ構造を含むような「ある経済理論から導き出さ
れた関係式」とは、動学的最適化問題を解くことによって得られるオイラー方程式が最も適当であろう。
6
られる)。さらに、Tanizaki(1993c) は、Hall の仮定を可変利子率、変動消費、非線形性の 3 つの面から緩め、状態空
間モデルを利用して、恒常所得仮説を検定を試みたが棄却された。本節では、Tanizaki(1993c) に基づき状態空間モ
デルの一例として、議論を簡単にするために、効用関数は 2 次式で表され、利子率は固定的であるとして、恒常消費
(permanent consumption) と変動消費 (transitory consumption) を別々に推定することを考える。
消費は恒常消費と変動消費から成り、定義式によって表される。この関係式は観測方程式としてとらえられ、そこ
では、消費は観測可能であるが、恒常消費、変動消費は共に観測不可能な変数として考えられる。代表的家計の効用
関数 (2 次式と仮定する) を最大化して、動学的最適化問題を解いて、また割引率を貯蓄の収益率の逆数と仮定すると、
恒常消費はランダム・ウォークとなることが示される。すなわち、次の問題を解くことに等しい。
¡X t p ¢
Max E0
β u(ct ) , subject to At+1 = Rt (At + yt − ct )
{cpt }
t
ただし、
1
u(cpt ) = − (c̄ − cpt )2 , ct = cpt + cTt ,
2
とする8 。それぞれの記号は以下の通りである。
0 < β < 1,
βRt = 1
消費
ct
cpt
cTt
Rt
At
yt
β
u(·)
Et (·)
恒常消費
変動消費
t 期から (t + 1) 期にかけての貯蓄の収益率
t 期首の資産
労働所得
割引率
代表的家計の効用関数
t 期までの情報を与えたもとでの数学的期待値
また、変動所得に関する仮定は、Friedman(1957) によると、クロス・セクション (cross section) の枠組みの中で、
X
T
T
T
Cit
= 0 とした。ただし、Cit
は t 期における i 番目の家計の変動消費である。さらに、Friedman(1957) は、Cit
i
は恒常消費、恒常所得、変動所得と独立であると仮定した (Branson(1979) を参照せよ)。Lt を t 期の総人口とする
1 X T
1 X T
T
T
と、cTt =
Cit であることに注目して、
Cit ≈ E(Cit
) として近似することができる。Cit
= ²it は、平均
Lt
Lt
i
i
ゼロ、分散 σ²2 の互いに独立に分布すると考えると、代表的家計の変動消費 cTt は平均ゼロ、分散 σ²2 /Lt の分布にな
る。
よって、次の状態空間モデルが得られる。
観測方程式
ct = cpt + cTt
遷移方程式
cpt = cpt−1 + ηt
õ ¶ µ
µ T¶
ct
0
σ²2 /Lt
∼N
,
ηt
0
0
0
ση2
¶!
遷移方程式は代表的家計の効用の最大化問題を解くことによって得られるオイラー方程式 (Euler equation) である。こ
こでは、恒常消費 cpt と変動消費 cTt は観測不可能な変数とみなされる。そして、状態変数は恒常消費 cpt となる。この
8 蛇足ではあるが、次のことに注意せよ。割引率が 1 より小さいという 0 < β < 1 の仮定は一般的であるが、Kocherlakota(1990) は、一人あ
たりの消費支出が時間と共に増加し続けるとき、利子率が正であるにもかかわらず、1 より大きな割引率になる可能性があるということを示した。
実証研究において、度々、割引率の推定値が 1 より大きいという結果を持つが、この点をそれほど気に留める必要はないということを意味する。
時系列データを扱う場合、消費支出は年々成長を続けているのは明かである。
7
ように、状態空間モデルを使って、恒常消費と変動消費を別々に推定することができる。Tanizaki and Mariano(1992c)
は、より一般的に、効用関数を非線形 (例えば、相対的危険回避度一定の効用関数) にして、恒常消費の推定を行っ
た。
いくつかの応用例を示したが、その他にも合理的期待変数の推定にも状態空間モデルは用いられる (McNelis and
Neftci(1983), Burmeister and Wall(1982)) ことを付け加えておく。
以上のように、(1.1) と (1.2) の 2 つの式から成る状態空間モデルは観測されない変数 (αt , ²t , ηt ) と観測される変数
(yt , Zt , dt , St , Tt , ct , Rt ) から構成される。そして、観測されない変数 (すなわち、状態変数ベクトル αt ) を推定する
問題として、予測問題 (prediction)、瀘波問題 (filtering)、平滑問題 (smoothing) の 3 種類を考えることが出来る。次
節ではこの 3 つの推定問題について述べる。そして、それぞれの 3 つの推定問題について、状態変数を算出するため
のアルゴリズムが示される。
1.3 状態変数の推定問題
1.1 節で状態空間モデルを定義し、1.2 節では経済分野への応用例を示した。本節では、状態変数の推定問題を考
える。
まず、E(·|·)、Cov(·|·) をそれぞれ数学的条件付き期待値、条件付き分散共分散行列とする。Ωs を s 期に利用可能
な情報集合と定義する。すなわち、Ωs = {ys , ys−1 , · · · , y1 } である9 。状態ベクトル (state-vector) の推定問題として、
情報量の多さによって次の 3 種類を考えることが出来る。
E(αt |Ωs ) = at|s , Cov(αt |Ωs ) = Σt|s
推定: t > s のとき予測 (プレディクション, prediction)
t = s のとき瀘波 (フィルタリング, filtering)
t < s のとき平滑 (スムージング, smoothing)
定義:
さらに、P (·|·) を条件付き分布関数とする。このとき、プレディクション, フィルタリング, スムージングのアルゴ
リズム (algorithm) はそれぞれ 1.3.1 節, 1.3.2 節, 1.3.3 節で取り扱われる。
1.3.1 プレディクション (予測推定)
本節では、予測 (プレディクション) 問題を考える。そこでは、上記の添字記号 t, s をそれぞれ (t + k), t に置き換
えて述べられる。すなわち、以下の問題を考える。
E(αt+k |Ωt ) = at+k|t ,
k = 1, 2, · · ·
まず分布関数に基づいたプレディクション・アルゴリズムをあげておく。
P (αt+k |Ωt ) =
=
=
Z
Z
Z
P (αt+k , αt+k−1 |Ωt )dαt+k−1
P (αt+k |αt+k−1 , Ωt )P (αt+k−1 |Ωt )dαt+k−1
(1.7)
P (αt+k |αt+k−1 )P (αt+k−1 |Ωt )dαt+k−1
k = 1, 2, · · ·
3 つ目の等号が成り立つ理由 (すなわち、P (αt+k |αt+k−1 , Ωt )=P (αt+k |αt+k−1 ) が成り立つ理由) は、遷移方程式
9 (1.1) 式や (1.2) 式の中で、Z , d , S , T , c , R , t = 1, · · · , T , のような、すべての外生変数もまた情報集合 Ω の中に含まれていること
t
t
t
t
t
t
s
に注意せよ。しかし、煩雑になるのを避けるため、ここではそれらを省略する。
8
は t 期までの情報集合 Ωt に依存しないからである。分布関数に基づいたプレディクション・アルゴリズムについ
ては、Kitagawa(1987), Harvey(1989) 等を参照せよ。上に記したプレディクション・アルゴリズムでは、P (αt |Ωt )
を既知の分布関数と考える。分布関数 P (αt+k |αt+k−1 ), k = 1, 2, · · · , は (1.2) 式で表される遷移方程式 (すなわち、
αt+k = Tt+k αt+k−1 + ct+k + Rt+k ηt+k ) とその中の撹乱項 ηt+k の分布関数をもとにして、ηt+k から αt+k への変
数変換によって計算される。それゆえに、P (αt+k |αt+k−1 ), k = 1, 2, · · · , の関数形もまた既知である。したがって、
P (αt |Ωt ) が与えられると、P (αt+1 |αt ) を掛け合わせて、αt について積分すると、P (αt+1 |Ωt ) が得られる。同様に、
P (αt+1 |Ωt ) と P (αt+2 |αt+1 ) から、P (αt+2 |Ωt ) を得ることができる。
このように、P (αt+k |Ωt ), k = 1, 2, · · · , が逐次的 (recursive) に計算されるのである。周知の通り、分布関数が得ら
れると期待値や分散が求められる10 。
さらに、上の分布関数に基づく逐次アルゴリズム (recursive algorithm) について、遷移方程式の線形性と撹乱項の
正規性の仮定を置くと、次の線形の逐次アルゴリズム (linear recursive algorithm) が得られる11 。
at+k|t = Tt+k at+k−1|t + ct+k
0
(1.8)
0
Σt+k|t = Tt+k Σt+k−1|t Tt+k + Rt+k Qt+k Rt+k
(1.9)
k = 1, 2, · · ·
at|t , Σt|t が与えられているとき、(1.8) 式と (1.9) 式から次の期の予測値 at+1|t とその分散 Σt+1|t が得られる。同様
にして、at+1|t , Σt+1|t から at+2|t , Σt+2|t が求められる。このように (1.8) 式, (1.9) 式は、逐次計算によって、at+k|t ,
Σt+k|t , k = 1, 2, · · ·, を求めるアルゴリズムになっている。ここで、at|t , Σt|t は次節で述べるフィルタリング推定値
とその分散である。
1.3.2 フィルタリング (瀘波推定)
予測問題では、現在 (t 期) の情報をもとにして将来 (k 期先) の状態変数を推定するものであるが、濾波 (フィルタ
リング) 問題では、現在 (t 期) に利用可能な情報をもとに現在 (t 期) の状態変数を推定するものである。ゆえに、フィ
ルタリング問題は次の数学的期待値を求めることに等しい。
E(αt |Ωt ) = at|t ,
t = 1, 2, · · · , T
分布に基づいたフィルタリング・アルゴリズムは以下のように示される。
P (αt |Ωt−1 ) =
10
Z
P (αt |αt−1 )P (αt−1 |Ωt−1 )dαt−1
(1.10)
自明のことではあるが、一応、期待値 at|s と分散 Σt|s の定義を記しておく。
at|s = E(αt |Ωs )
=
Z
αt P (αt |Ωs )dαt
Σt|s = E(αt |Ωs )
=
Z
(αt − at|s )(αt − at|s )0 P (αt |Ωs )dαt
(t, s) はそれぞれ、プレディクションでは (t + k, t), フィルタリングでは (t, t), スムージングでは (t, T ) として置き換えられる。
11 導出方法によっては、撹乱項の正規性の仮定は必要としない。遷移方程式が線形であれば、(1.2) 式の両辺に条件付き期待値と分散をとるこ
とによって、(1.8) 式と (1.9) 式に表される線形の逐次アルゴリズムが得られる。詳しくは、後述の 1.4 節を見よ。
9
P (αt |Ωt ) = P (αt |yt , Ωt−1 )
=
P (αt , yt |Ωt−1 )
P (yt |Ωt−1 )
= Z
= Z
= Z
P (αt , yt |Ωt−1 )
P (αt , yt |Ωt−1 )dαt
(1.11)
P (yt |αt , Ωt−1 )P (αt |Ωt−1 )
P (yt |αt , Ωt−1 )P (αt |Ωt−1 )dαt
P (yt |αt )P (αt |Ωt−1 )
P (yt |αt )P (αt |Ωt−1 )dαt
t = 1, 2, · · · , T
分布に基づいたフィルタリング・アルゴリズムについては、Kitagawa(1987), Harvey(1989) 等を参照せよ。(1.10) 式
は予測方程式と呼ばれる。それは、(1.7) 式において、k = 1 かつ t を t − 1 に置き換えたものに一致する。(1.11)
式については、最初の等号では Ωt = {yt , Ωt−1 } であることが利用されている。また、5 つ目の等号について、
P (yt |αt , Ωt−1 )=P (yt |αt ) が成立するのは、(1.1) 式の観測方程式に過去の情報集合 Ωt−1 が含まれていないためであ
る。(1.11) 式は更新方程式と呼ばれる。それは、過去の情報 Ωt−1 と t 期に得られたデータ yt とを結び付ける役割を
果たす。
(1.10) 式と (1.11) 式で与えられるアルゴリズムでは、まず、初期分布 P (α0 |Ω0 ) を既知とすると、(1.2) 式の遷移方
程式 α1 = T1 α0 + c1 + R1 η1 を通して、(1.10) 式から P (α1 |Ω0 ) を得ることができる。次に、(1.1) 式の観測方程式
y1 = Z1 α1 + d1 + S1 ²1 から得られる分布関数 P (y1 |α1 ) と (1.10) 式から得られた P (α1 |Ω0 ) とを結び付けて、P (α1 |Ω1 )
が導かれる。さらに、(1.10) 式によって、P (α1 |Ω1 ) から P (α2 |Ω1 )、(1.11) 式によって、P (α2 |Ω1 ) から P (α2 |Ω2 ) がそ
れぞれ得られる。このように、初期分布 P (α0 |Ω0 ) が与えられると、それ以降のすべての分布 (P (αt |Ωt−1 ), P (αt |Ωt ),
t = 1, · · · , T ) が逐次的に計算される。
初期分布に関連して、α0 が確率変数か非確率変数かで t = 1 の場合の予測方程式は異なることに注意せよ。

P (α1 |α0 )
α0 が非確率変数のとき



P (α1 |Ω0 ) = Z


 P (α1 |α0 )P (α0 )dα0
α0 が確率変数のとき
ただし、α0 が確率変数のとき、その分布関数は P (α0 ) とする。
線形の観測・遷移方程式と撹乱項の正規性の仮定のもとで、(1.10) 式, (1.11) 式から得られる 1 次, 2 次の積率
(moment) から次の線形のフィルタリング・アルゴリズムが導出される12 。
at|t−1 = Tt at−1|t−1 + ct
0
(1.12)
0
Σt|t−1 = Tt Σt−1|t−1 Tt + Rt Qt Rt
(1.13)
yt|t−1 = Zt at−1|t−1 + dt
(1.14)
12 この (1.12) 式 (1.18) 式によって表される線形の逐次アルゴリズムを、特に、カルマン・フィルタと呼ぶ。Kalman は線形確率システムの状
態空間表現と最小分散推定の理論を組み合わせることにより、フィルタリング問題も定式化を行い、直交射影の定理を用いてフィルタリング・ア
ルゴリズムを導出した。
一般に、このカルマン・フィルタ・アルゴリズムは攪乱項の正規性の仮定を必要としない。観測・遷移方程式の線形性の仮定のみで線形の逐次
アルゴリズムは導出され得る。
10
0
0
Ft|t−1 = Zt Σt−1|t−1 Zt + St Ht St
(1.15)
0
−1
kt = Σt|t−1 Zt Ft|t−1
(1.16)
at|t = at|t−1 + kt (yt − yt|t−1 )
(1.17)
0
Σt|t = Σt|t−1 − kt Ft|t−1 kt
(1.18)
t = 1, 2, · · · , T
ただし、初期条件は a0|0 = a0 , Σ0|0 = Σ0 である。
(1.12) 式と (1.13) 式は、(1.10) 式の予測方程式 P (αt |Ωt−1 ) から得られ、αt の (t − 1) 期からみた予測に相当する。
(1.14) 式と (1.15) 式は、(1.11) 式の更新方程式の分母にあたる P (yt |Ωt−1 ) から得られる。これは、yt の (t − 1) 期ま
での情報を与えたもとでの予測である。(1.17) 式と (1.18) 式は、(1.11) 式の更新方程式 P (αt |Ωt ) から得られる。こ
のように、(1.12) 式 ∼ (1.15) 式は予測方程式と解釈され、(1.17) 式と (1.18) 式はフィルタリング推定値を与え、過去
の情報をもとに現在に入手されたデータで予測値を更新する働きを持つ。さらに、(1.16) 式の kt はカルマン・ゲイ
ン (Kalman gain) と呼ばれ、yt の予測誤差 (yt − yt|t−1 ) とフィルタリング推定値 at|t との共分散がゼロ13 という条
件を満たしている。
(1.12) 式 ∼(1.18) 式によって表されるアルゴリズムによると、まず初期値 a0|0 , Σ0|0 が与えられると予測方程式
(1.12)∼(1.15) によって、a1|0 , Σ1|0 , y1|0 , F1|0 が得られる。そして、カルマン・ゲイン k1 を通して、更新方程式 (1.17),
(1.18) から、a1|1 , Σ1|1 が得られる。このようにして、at−1|t−1 , Σt−1|t−1 から、(1.12)∼(1.15) 式によって at|t−1 , Σt|t−1 ,
yt|t−1 , Ft|t−1 が、さらに、(1.17) と (1.18) 式によって at|t , Σt|t が逐次計算によって得られる。yt|t−1 ,Ft|t−1 は、yt
の予測,予測誤差分散をそれぞれ表す。
このように、(1.12)∼(1.18) の逐次アルゴリズムをみると、カルマン・フィルタ・モデルとはある新しい観測値が
利用可能となる度ごとに状態変数を推定しなおすというモデルであり、逐次一般化最小自乗法に等しいことがわかる
14
。これは元来工学的な手法15 であるため、経済面にこれを適用するにはいくつかの問題点がある。一つは初期値
を推定しなければならないこと (カルマン・フィルタでは状態変数の初期値とその分散が与えられると、逐次的な計
算によって、それ以降のすべての期の状態変数の推定値を求めることができる) である。そして、初期値に近いほど
フィルタリング推定値は初期値の値に影響され、推定値の動きは不安定である16 。初期値に近いほど状態変数を推定
するための情報量は少ないからである。
1.3.3 スムージング (平滑推定)
状態変数の推定問題の中のスムージングについて述べる。スムージングには、3 つの種類がある (Anderson and
Moore(1979), 片山 (1983), Harvey(1989))。すなわち、
13
このことを、「yt の予測誤差 (yt − yt|t−1 ) とフィルタリング推定値 at|t とは直交する」ともいう。
14 (1.2) 式において、T = I , c = 0, R = 0 のとき、(1.12) 式から (1.18) 式で表されるモデルは、逐次最小自乗法 (recursive least squares)
t
t
t
k
に一致する。ただし、Ik は k × k の単位行列とする。逐次最小自乗法とは、t 期 (t = k, · · · , T ) までのデータを用いてパラメータを推定すると
いう方法であり、すなわち、データが追加される度毎にその都度パラメータを推定する方法である。カルマン・フィルタ・モデルは、t 期の状態
変数を推定するのに、t 期に近いデータに分散共分散のウエイト (weight) を大きく置き、t 期から過去に離れれば離れるほどそのウエイトを減少
させて、推定値を求めるという方法であり、いわゆる、逐次一般化最小自乗法に一致する。詳しくは、逐次最小自乗法については Harvey(1981,
1990) を参照せよ。またカルマン・フィルタ・モデルと GLS の同値性については Sant(1977), Chow(1983) を参照せよ。
15 経済学では、毎期毎期の状態変数の推定値の値が問題になるのに対して、工学では、何期間位で状態変数の推定値は安定するのかが主題に
なっているようである。問題の着眼点が異なるようである。
16
これについては、第 2 章で初期値に関する考察を述べる。
11
固定点 (fixed-point) スムージング:
固定ラグ (fixed-lag) スムージング:
固定区間 (fixed-interval) スムージング:
ak|t ,
at|t+L ,
at|T ,
t = 1, 2, · · ·
t = 1, 2, · · · , T − L
t = 1, 2, · · · , T
ただし、k はある固定された点
ただし、L はある一定の値
ただし、T は標本数
の 3 種類である。初期状態をデータから推定するのに固定点スムージングは有効であり、一定時間の遅れを伴う場合
には固定ラグ・スムージングが有効とされ、過去に起こったことをデータから分析する場合には固定区間スムージン
グが適している。経済学においては、いままでに利用可能なデータを用いて過去の経済状況を分析する場合が多いよ
うであるので、ここでは、スムージングの中でも、経済学で最も有用な固定区間スムージングのみを考える17 。すな
わち、以下の期待値について述べる。
E(αt |ΩT ) = at|T ,
t = T, T − 1, · · · , 1
1.3.1 節, 1.3.2 節と同様に、まず初めに、分布に基づいたスムージング・アルゴリズムについて説明する。アルゴ
リズムは以下の通りである。
P (αt−1 |ΩT ) =
=
=
Z
Z
Z
P (αt , αt−1 |ΩT )dαt
P (αt |ΩT )P (αt−1 |αt , ΩT )dαt
P (αt |ΩT )P (αt−1 |αt , Ωt−1 )dαt
(1.19)
Z
P (αt−1 , αt |Ωt−1 )
dαt
= P (αt |ΩT )
P (αt |Ωt−1 )
Z
P (αt |ΩT )P (αt |αt−1 )
= P (αt−1 |Ωt−1 )
dαt
P (αt |Ωt−1 )
t = T, T − 1, · · · , 1
である。以上の分布に基づいたスムージング・アルゴリズムについては、Kitagawa(1987), Harvey(1989) 等を参照せ
よ。フィルタリング・アルゴリズムの (1.10) 式と (1.11) 式から得られる分布関数 P (αt−1 |Ωt−1 ), P (αt |Ωt−1 ) と遷移
方程式から得られる P (αt |αt−1 ) をもとにして、P (αt |ΩT ) から P (αt−1 |ΩT ) へと、分布関数に基づいたスムージング
の分布関数は (1.19) によって逐次的に求められる。ただし、スムージングの T 期の分布関数は、フィルタリングの T
期のものに一致することに注意せよ。このように、固定区間スムージングは、(1.10)∼(1.11) によって表される分布関
数に基づいたフィルタリング・アルゴリズムと共に用いられる。そして、計算の手順としては、フィルタリング・ア
ルゴリズムから得られた分布関数をもとにして、スムージングの分布関数は逆向きの逐次計算 (backward recursion)
によって求められる。また、フィルタリングにおいては、初期値に近い推定値は不安定であると述べた。しかし、固
定区間スムージングは、すべての t について、同じ情報量 ΩT で t 期の状態変数 αt を推定する。よって、フィルタ
リングのように初期値に近い状態変数の推定値はばらつきが大きいという意味で不安定であるという欠点をスムージ
ングは持たない。経済学に状態空間モデルを応用する場合、この固定区間スムージングによる状態変数の推定が最も
有用であるように思われる。なぜなら、先に述べた通り、経済学では利用可能なすべてのデータをもとにして過去の
出来事を分析することが多いようである。
線形の観測・遷移方程式と撹乱項の正規性の仮定のもとで、本書では証明を加えないが、(1.19) 式から αt の条件
付き期待値と分散を計算することによって
0
Ct−1 = Σt−1|t−1 Tt Σ−1
t|t−1
17
(1.20)
固定点スムージング,固定ラグ・スムージングについては、Anderson and Moore(1979), 片山 (1983), Harvey(1990) 等を参照せよ。
12
at−1|T = at−1|t−1 + Ct−1 (at|T − at|t−1 )
(1.21)
0
Σt−1|T = Σt−1|t−1 + Ct−1 (Σt|T − Σt|t−1 )Ct−1
(1.22)
t = T, T − 1, · · · , 1
の固定区間スムージング・アルゴリズムが導かれる。プレディクション Σt|t−1 とフィルタリング Σt−1|t−1 が与えられ
ると、(1.20) 式から、Ct−1 が計算される。同様に、Σt|t−1 , Σt−1|t−1 , Ct−1 , at|t−1 , at−1|t−1 , Σt|T , at|T から、(1.21) 式
と (1.22) 式を通して、Σt−1|T と at−1|T が得られる。計算手順としては、まず (1.12)∼(1.18) を用いて at|t−1 , Σt|t−1 ,
at|t , Σt|t (t = 1, 2, · · · , T ) を求めておく。次に (1.20)∼(1.22) によって、at|T , Σt|T (t = T, T − 1, · · · , 1) が得られる。
このように、スムージング・アルゴリズムは、プレディクションとフィルタリングをもとにして、逆向きの逐次アル
ゴリズム (backward recursive algorithm) となっている。
最後に、遷移方程式について、Tt = Ik , ct = 0, Rt = 0 の場合を考える。この場合、(1.12)∼(1.18) のカルマン・
フィルター・アルゴリズムは逐次最小自乗法に等しいことが知られていることは既に述べたが、(1.20)∼(1.22) で与
えられるカルマン・スムージング・アルゴリズムの場合は、すべての t について、状態変数の推定値 at|T とその分散
Σt|T は同じ値になり、その値は T 個のすべてのデータを使って最小自乗法によって推定された推定値に等しい。
本節では、プレディクション, フィルタリング, スムージングについて、分布関数の逐次アルゴリズム (1.7), (1.10) ∼
(1.11), (1.19) とよく知られた通常用いられる線形の逐次アルゴリズム (1.8) ∼ (1.9), (1.12) ∼ (1.18), (1.20) ∼ (1.22)
の 2 つのタイプのアルゴリズムを紹介した。3 つの推定問題について、分布関数の逐次アルゴリズムから、観測・遷
移方程式の線形性と攪乱項の正規性の仮定を置いて計算すると、線形の逐次アルゴリズムを導出することができる。
しかし、線形の逐次アルゴリズムを求めるためには正規性の仮定を必ずしも必要としない。詳しくは、次節のカルマ
ン・フィルタ・モデルのアルゴリズムの導出方法を参照せよ。第 2 章以降では、線形の逐次アルゴリズムのみを使っ
て分析を行う。分布関数による逐次アルゴリズムは、線形の逐次アルゴリズムを導出する際に、利用されるので本節
で紹介しておいた18 。次節では、プレディクション, フィルタリング, スムージングの 3 つのアルゴリズムのうち、特
にフィルタリングのみに焦点をあてて議論を進める。
1.4 カルマン・フィルタ・モデルの導出と解釈
1.3 節では、プレディクション, フィルタリング, スムージングのアルゴリズムをそれぞれ紹介した。本節では、(1.12)
式 ∼ (1.18) 式によって表されるカルマン・フィルタ・モデルのアルゴリズムを導出のみを考える19 。導出方法はいく
つか考案され、それぞれはカルマン・フィルタ・モデルの解釈に密接に関連している。ここでは、分布関数に基づい
て導出する方法 (Anderson and Moore(1979), Kitagawa(1987), Harvey(1989))、混合推定による導出 (Cooley(1977),
Harvey(1981), Diderrich(1985), Fomby, Hill and Johnson(1988))、線形最小分散推定量 (片山 (1983), Burridge and
Wallis(1988)) としての解釈の 3 つを紹介する。分布関数に基づく導出は線形性と正規性の両方の仮定を必要とする
が、混合推定や線形最小分散推定量としての導出には、線形性は必要な仮定であるが、正規性の仮定は必要でない。
混合推定量、線形最小分散推定量としての導出について、単に 2 次の積率までわかれば、アルゴリズムは導き出せる。
その他にも、直行斜影の利用 (Anderson and Moore(1979), 片山 (1983), Chow(1983), Brockwell and Davis(1987))、
一般化最小自乗法 (Sant(1977), Chow(1983)) による証明等が考えられる。
このように、同じフィルタリング・アルゴリズムが得られるにしても、導出方法は様々である。
18 最近の流れとしては、この分布関数自体を数値積分やモンテ・カルロ積分で近似しようという方向に向かっている。分布関数の近似による方
法は非線形関数や非正規分布を取り扱うことができる。これについては、第 8 章のフィルタリング理論の展望で触れるが、第 7 章までは線形で正
規分布のケースを扱う。
19 プレディクション, スムージング・アルゴリズムの導出については、Jazwinski(1970), Anderson and Moore(1979), 片山 (1983), Harvey(1989)
等の他の文献に譲る。最も考え方の簡単な導出方法 (計算自体は複雑であるが) は、(1.7) 式と (1.19) 式で表される分布関数のプレディクション、
スムージング・アルゴリズムをもとにして、観測・遷移方程式の線形性と攪乱項の正規性を仮定すると、プレディクション (1.8), (1.9) 式とスムー
ジング (1.20) 式 ∼(1.22) 式の線形の逐次アルゴリズムがそれぞれ導き出される。
13
1.4.1 正規分布の仮定
(1.10) 式, (1.11) 式に基づいて、カルマン・フィルタ・モデルのアルゴリズム (1.12)∼(1.18) を導出する。もし、初期分
布 P (α0 |Ω0 ) と撹乱項 ²t , ηt が正規分布なら、P (αt |Ωt−1 ), P (αt |Ωt ) も正規分布となる。ゆえに、まず P (αt−1 |Ωt−1 )
を平均 at−1|t−1 , 分散 Σt−1|t−1 の正規分布とする。k × 1 の次元の確率変数 x が平均 µ, 分散 Σ の正規分布 P (x) に
従うとするとき、P (x) = Φ(x − µ, Σ) と書くことにする。すなわち、
¡ 1
¢
k
1
Φ(x − µ, Σ) = (2π)− 2 |Σ|− 2 exp − (x − µ)0 Σ−1 (x − µ)
2
と定義する。このとき、条件付き分布 P (αt−1 |Ωt−1 ) は、次のように書き表される。
P (αt−1 |Ωt−1 ) = Φ(αt−1 − at−1|t−1 , Σt−1|t−1 )
同様に、αt の分布 P (αt |αt−1 ) と P (αt |Ωt−1 ) は、それぞれ、
0
P (αt |αt−1 ) = Φ(αt − Tt αt−1 − ct , Rt Qt Rt−1
)
P (αt |Ωt−1 ) = Φ(αt − at|t−1 , Σt|1−1 )
となる。一方、分布関数による一期先の予測方程式は上述の (1.10) 式
Z
P (αt |Ωt−1 ) = P (αt |αt−1 )P (αt−1 |Ωt )dαt−1
で表されるので、
P (αt |Ωt−1 ) = Φ(αt − at|t−1 , Σt|t−1 )
Z
= P (αt |αt−1 )P (αt−1 |Ωt−1 )dαt−1
=
Z
Φ(αt − Tt αt−1 − ct , Rt Qt Rt0 ) Φ(αt−1 − at−1|t−1 , Σt−1|t−1 )dαt−1
= Φ(αt − Tt at−1|t−1 − ct , Tt Σt−1|t−1 Tt0 + Rt Qt Rt0 )
を得る。1 行目の等号は定義による。4 行目の等式が成り立つことは章末の証明 1 で証明されている20 。1 行目と 4 行
目のそれぞれの要素を比較して、(1.12) 式, (1.13) 式の予測方程式が得られる。
更新方程式については、
P (αt |Ωt ) = Φ(αt − at|t , Σt|t )
P (yt |αt )P (αt |Ωt−1 )
= Z
P (yt |αt )P (αt |Ωt−1 )dαt
= Z
Φ(yt − Zt αt − dt , St Ht St0 ) Φ(αt − at|t−1 , Σt|t−1 )dαt
Φ(yt − Zt αt − dt , St Ht St0 ) Φ(αt − at|t−1 , Σt|t−1 )
¡
¢
= Φ αt − at|t−1 − kt (yt − yt|t−1 ), Σt|t−1 − kt Ft|t−1 kt0
が得られる。1 行目は定義であり、2 行目以降は
Z
Z
P (yt |αt )P (αt |Ωt−1 )dαt = P (yt , αt |Ωt−1 )dαt
= P (yt |Ωt−1 )
20
= Φ(yt − yt|t−1 , Ft|t−1 )
このあたりの多変量正規分布に関する計算については、岩田 (1967) を参照せよ。
14
P (yt |αt )P (αt |Ωt−1 ) = Φ(yt − Zt αt − dt , St Ht St0 ) Φ(αt − at|t−1 , Σt|t−1 )
¡
¢
= Φ αt − at|t−1 − kt (yt − yt|t−1 ), Σt|t−1 − kt Ft|t−1 kt0 Φ(yt − yt|t−1 , Ft|t−1 )
(1.23)
であることに注意せよ。(1.23) 式の 2 つ目の等式が成立することは章末の証明 2 で証明されている。ただし、
yt|t−1 = Zt at|t−1 + dt
Ft|t−1 = Zt Σt|t−1 Zt0 + St Ht St0
−1
kt = Σt|t−1 Zt0 Ft|t−1
である。
同様に、更新方程式についても、平均と分散をそれぞれ比較することにより、(1.17) 式と (1.18) 式が得られる。
正規分布に基づいた導出について、以下に示す方法はより簡単である。まず、予測方程式については、両辺に条件
付き期待値とその分散をとることにより、容易に得られる21 。更新方程式を得るために、αt と yt の条件付き結合分
布 P (αt , yt |Ωt−1 ) を考える。そして、これは多変数正規分布であるので22 、情報 Ωt−1 を与えたもとでの条件付き結
合分布 P (αt , yt |Ωt−1 ) は
õ
µ ¶
¶ µ
αt
at|t−1
Σt|t−1
∼N
,
yt
yt|t−1
Zt Σt|t−1
Σt|t−1 Zt0
Ft|t−1
¶!
として書ける23 。ここで、定理 3 を使うと、条件付き分布 P (αt |yt , Ωt−1 ) は
αt ∼ N (at|t−1 − kt (yt − yt|t−1 ), Σt|t−1 − kt Ft|t−1 kt )
−1
を定義する。さらに、P (αt |Ωt ) は αt ∼ N (at|t , Σt|t ) として書き表す
として得られる。ただし、kt = Σt|t−1 Zt0 Ft|t−1
こともでき、これを利用して、それぞれの要素を比較すると
at|t = at|t−1 − kt (yt − yt|t−1 )
Σt|t = Σt|t−1 − kt Ft|t−1 kt
が容易に導き出される。
21 遷移方程式は線形なので、α , η が正規分布なら α もまた正規分布に従う。よって、すべての α , t = 1, · · · , T , もまた正規分布となる。
t
0
1
1
同様に、条件付き分布もまた正規分布である。
22
さらに、観測方程式についても、αt , ²t , t = 1, · · · , T , は正規分布なので、2 つの正規分布の和である yt も正規分布に従う。
23
平均と分散の各要素を求めておく。まず、それぞれの条件付き期待値の要素は
E(αt |Ωt−1 ) = at|t−1
= Tt at|t−1 + ct
E(yt |Ωt−1 ) = yt|t−1
= Zt at|t−1 + dt
となり、その分散共分散のそれぞれの要素は
¡
¢
E (αt − at|t−1 )(αt − at|t−1 )0 |Ωt−1 = Σt|t−1
¡
¢
¡
E (yt − yt|t−1 )(αt − at|t−1 )0 |Ωt−1 = Zt E (αt − at|t−1 )(αt − at|t−1 )0 |Ωt−1
¡
¢
= Zt Σt|t−1
E (yt − yt|t−1 )(yt − yt|t−1 )0 |Ωt−1 = Ft|t−1
として計算される。
15
¢
正規分布の仮定に基づいて、ここでは 2 つの導出方法を紹介した。このように、観測方程式と遷移方程式が共に線
形で、2 つの方程式に含まれる撹乱項が共に正規分布に従うとき、フィルタリング・アルゴリズムは (1.10)∼(1.11) か
ら (1.12)∼(1.18) へ書き換えられる。
次の 2 つの節では、正規分布の仮定を置かないで、同じフィルタリング・アルゴリズムが導出される。
1.4.2 混合推定
予測方程式 (1.12), (1.13) については、遷移方程式の両辺に条件付き期待値とその分散をとって容易に得られる。こ
こには、撹乱項に正規分布の仮定を必要としない。
αt は、以下のように、期待値 at|t−1 と撹乱項 ξt の和の形で書き直すことができる。
αt = at|t−1 + ξt
(1.24)
ただし、E(ξt |Ωt−1 ) = 0, V ar(ξt |Ωt−1 ) = Σt|t−1 であることに注意せよ。
更新方程式を得るためには、観測方程式と (1.24) 式を使う。2 つの式をもう一度以下に書く。
yt = Zt αt + dt + St ²t
at|t−1 = αt − ξt
すでに利用可能な情報と新しく入手される情報とを結び付ける役割を果たすのが更新方程式である。ここで、すでに
利用可能な情報とは at|t−1 を指し、新しく入手される情報とは yt のことである。αt の期待値 at|t−1 は (t − 1) 期ま
での情報 Ωt−1 を使って得られたものであり、事前情報 (prior information) を意味する。他方、観測方程式は標本情
報 (sample information, すなわち、t 期の情報) となる。2 つの式を結び付けて αt を同時推定すると、t 期までの情
報をすべて含んで αt が推定されることになる24 。
上の 2 つの式をまとめて行列で表示し直すと、
µ
¶ µ ¶
µ
¶µ ¶
yt − d t
Zt
St
0
²t
=
αt +
at|t−1
Ik
0 −Ik
ξt
(1.25)
となる。そして、撹乱項の期待値はゼロであり、その分散は、
õ
¶
¶µ ¶! µ
0
St 0
²t
St Ht St0
V ar
=
0
Σt|t−1
0 Ik
ξt
と表される。ここに一般化最小自乗法 (GLS) を適用すると αt の推定値は at|t として与えられる。すなわち、
Ã
µ
¶−1 µ ¶ !−1
µ
¶−1 µ
¶
0
S
H
S
0
Zt
St Ht St0
0
yt − d t
t
t
t
0
0
at|t = (Zt Ik )
(Zt Ik )
0
Σt|t−1
Ik
0
Σt|t−1
at|t−1
¡
¢−1 ¡ 0
¢
= Zt0 (St Ht St0 )−1 Zt + Σ−1
Zt (St Ht St0 )−1 (yt − dt ) + Σ−1
t|t−1
t|t−1 at|t−1
また、at|t の分散 Σt|t は、
−1
Σt|t = (Zt0 (St Ht St0 )−1 Zt + Σ−1
t|t−1 )
= Σt|t−1 − Σt|t−1 Zt0 (Zt Σt|t−1 Zt0 + St Ht St0 )−1 Zt Σt|t−1
= Σt|t−1 − kt (Zt Σt|t−1 Zt0 + St Ht St0 )kt0
= Σt|t−1 − kt Ft|t−1 kt0
となる。計算の途中 (2 行目の等式) で本章末の定理 1(行列の逆転公式) を使っている。ただし、kt は
−1
kt = Σt|t−1 Zt0 Ft|t−1
24 混合推定に関する文献は、Johnston(1972) が適当である。また、カルマン・フィルタ・モデルは、混合推定の考え方に一致することを示し
たものは、Diderrich(1985), Harvey(1981) がある。
16
として表される。
このように更新方程式が導出される。導出の過程で、Ht 6= 0 が仮定されなければならない。なぜなら、Ht = 0 の
場合は (1.25) 式の撹乱項の分散共分散行列が特異になるためである。しかし、この仮定は Theil(1971) によって緩め
られた。すなわち、Ht = 0 の場合にも (1.12) 式 ∼(1.18) 式のカルマン・フィルター・アルゴリズムは適用され得る
ということが示されるのである。この Ht = 0 は 1.2.2 節の ARMA モデルのケースに相当するということを記してお
く。
1.4.3 線形最小分散推定量
線形最小分散推定量としてのカルマン・フィルタもまた撹乱項に分布関数の仮定を必要としない。予測方程式 (1.12),
(1.13) は前節と同様、遷移方程式 (1.2) の両辺に (t − 1) 期までの情報をもとにした条件付き期待値とその分散をとる
ことによって得られる。
更新方程式を導出するために、まず、at|t は以下の式で表されることを記しておく。
at|t = At at−1|t−1 + Bt ct + Dt dt + kt yt
at|t は情報 Ωt のもとでの αt の条件付き期待値を意味する。また、観測・遷移方程式は線形である。この 2 つのこと
から、at|t は、上式に表されるように、Ωt−1 までの情報を含む at−1|t−1 と今期の情報 ct , dt , yt の線形関数として表
される。at|t は最小線形不偏推定量になるように、At , Bt , Dt , kt を求める。et = αt − at|t を定義する。このとき、
et = αt − At at−1|t−1 − Bt ct − Dt dt − kt yt
¡
¢
= (Tt αt−1 + ct + Rt ηt ) − At (αt−1 − et−1 ) − Bt ct − Dt dt − kt Zt (Tt αt−1 + ct + Rt ηt ) + dt + St ²t
= At et−1 + (Tt − At − kt Zt Tt )αt−1 + (Ik − Bt − kt Zt )ct − (Dt + kt )dt + (Ik − kt Zt )Rt ηt − kt St ²t
として変形される。計算の際には、以下のものを代入している。
αt = Tt αt−1 + ct + Rt ηt
at−1|t−1 = αt−1 − et−1
yt = Zt αt + dt + St ²t
= Zt (Tt αt−1 + ct + Rt ηt ) + dt + St ²t
at|t が不偏であるためには、et の式の両辺に期待値をとるとゼロになることから、
Tt − At − kt Zt Tt = 0
Ik − Bt − kt Zt = 0
Dk + kt = 0
とならなければならない。よって、At , Bt , Dt を消去して整理すると、et は以下のように書き直される。
et = (Ik − kt Zt )(Tt et−1 + Rt ηt ) − kt St ²t
上の式には kt が含まれている。次に et が最小分散を持つような kt を求める。et−1 , ηt , ²t は互いに無相関であるの
で、et の分散 (et は t 期までの情報 Ωt を含むので、Σt|t と定義することができる) は、
Σt|t = (Ik − kt Zt )(Tt Σt−1|t−1 Tt0 + Rt Qt Rt0 )(Ik − kt Zt )0 + kt St Ht St0 kt0
= (Ik − kt Zt )Σt|t−1 (Ik − kt Zt )0 + kt St Ht St0 kt0
となり、kt が
−1
kt = Σt|t−1 Zt0 Ft|t−1
ただし、Ft|t−1 = Zt Σt|t−1 Zt0 + St Ht St0 とする。
17
の値をとるとき、他のどんな kt についても (すなわち、kt∗ とする)、Σt|t (kt∗ ) − Σt|t (kt ) は半正値定符号行列となる
ことが証明される (片山 (1983))。ただし、Σt|t (kt ) は、Σt|t が kt の関数であることを明示的に表したものであるこ
とを示す。at|t−1 = Tt at−1|t−1 + ct を考慮にいれて、まとめると、
at|t = at|t−1 + kt (yt − Zt at|t−1 − dt )
Σt|t = Σt|t−1 − kt Ft|t−1 kt0
となる。このようにして、カルマン・フィルタ・アルゴリズムが導出される。kt は、at|t が最小分散になるように求
められることから、カルマン・ゲインと呼ばれる。
本節では、カルマン・フィルタの線形の逐次アルゴリズムにのみ焦点をあてて、その導出方法を考察した。同じア
ルゴリズムが 3 つの異なった方法で導き出された。1.4.1 節では正規分布に基づいて導出を行ったが、1.4.2 節, 1.4.3
節では分布には依存しない方法をとった。また、1.4.3 節の線形最小分散推定量としての導出については、(1.1) 式と
(1.2) 式の状態空間モデルの撹乱項 ²t , ηt が互いに相関がある場合にでも、簡単にフィルタリング・アルゴリズムを求
めることができる25 。
本章の最後に、未知パラメータ θ が状態空間モデルに含まれている場合の θ の推定問題について考える。すなわ
ち、(1.1) 式と (1.2) 式の Zt , dt , St , Ht , Tt , ct , Rt , Qt が θ の関数である場合は、θ の推定値を使って、状態変数の
推定値 at+k|t , at|t , at|T を対応するアルゴリズムから求めなければならない。このケースの 1 つの例として、1.2.1 節
の可変パラメータ・モデルをとると、未知パラメータ θ は (1.6) の σ 2 , R に対応する。
1.5 最尤法による未知パラメータの推定
線形の逐次アルゴリズムとして知られているカルマン・フィルタ・アルゴリズムは分布関数の仮定を必要としなく
ても導出され得るということを前節で証明した。前節までは、観測・遷移方程式の中に未知パラメータが含まれてい
ない状況を考えた。しかし、通常の推定には大抵の場合、方程式に未知パラメータが含まれる。本節では、(1.1) 式と
(1.2) 式の観測・遷移方程式に未知パラメータ (例えば、θ) が含まれる場合、どのようにして未知パラメータと状態変
数を推定するのかを考える。
未知パラメータの推定に通常よく用いられる方法は最尤法 (maximum likelihood estimation) である。これは尤度
(likelihood) を最大にするような未知パラメータの値をその推定値とするものであるので、この場合、撹乱項の分布
関数の仮定を必要とする。1.4.1 節で述べたように、正規分布を仮定した場合は通常の線形の逐次アルゴリズムが導か
れるのでここでは正規分布を用いる。
次の尤度関数はイノヴェーション・フォーム (innovation form) と呼ばれる。
P (yT , yT −1 , · · · , y1 ) = P (yT |ΩT −1 )P (yT −1 |ΩT −2 ) · · · P (y2 |y1 )P (y1 )
=
T
Q
t=1
(1.26)
P (yt |Ωt−1 )
ここで、P (y1 ) = P (y1 |Ω0 ) とみなされる。P (yt |Ωt−1 ) は (1.11) 式の分母に当たり、次のように表される。
Z
P (yt |Ωt−1 ) = P (yt |αt )P (αt |Ωt−1 )dαt
25
撹乱項に相関がある場合のフィルタリング・アルゴリズムについては、Burridge and Wallis(1988), Harvey(1989) を参照せよ。
18
もし、観測・遷移方程式が線形で、撹乱項が正規分布ならば、P (yt |Ωt−1 ) は、平均 yt|t−1 = Zt at|t−1 + dt , 分散
Ft|t−1 = Zt Σt|t−1 Zt0 + St Ht St0 の正規分布に従う。すなわち、
P (yt |Ωt−1 ) = Φ(yt − yt|t−1 , Ft|t−1 )
¡ 1
¢
g
1
−1
= (2π)− 2 |Ft|t−1 |− 2 exp − (yt − yt|t−1 )0 Ft|t−1
(yt − yt|t−1 )
2
である。よって、線形性・正規性の仮定のもとで (1.26) 式のイノヴェーション・フォームによる対数尤度関数は次の
ように表される。
T
¡
¢ X
¡
¢
log P (yT , yT −1 , · · · , y1 ) =
log Φ(yt − yt|t−1 , Ft|t−1 )
t=1
(1.27)
T
Tg
T
1X
−1
= − log(2π) − log|Ft|t−1 | −
(yt − yt|t−1 )0 Ft|t−1
(yt − yt|t−1 )
2
2
2 t=1
Zt , dt , St , Ht , Tt , ct , Rt , Qt が未知パラメータ θ に依存しているとき、(1.27) 式の尤度関数が θ について最大化さ
れる。明示的に θ の推定値が得られることは稀なので、単純サーチ法 (simple grid search), スコアリング法 (scoring
method) 等の方法で尤度関数が最大化されることが多い。最尤法で求められた未知パラメータの推定値を所与として、
それぞれのアルゴリズムに代入し状態変数の推定値が求められるのである。この最大化方法の際には、収束計算が用
いられる。すなわち、最初に適当な値を未知パラメータに与えておいて、(1.12) 式 ∼(1.18) 式のアルゴリズムから尤
度関数の値を求める。次に、得られたプレディクション、フィルタリング推定値 at|t , Σt|t , at|t−1 , Σt|t−1 を与えたも
とで、尤度関数を最大にする未知パラメータの推定値を求める。この過程が繰り返され、未知パラメータの推定値の
値が安定するまで続けられる。
このイノヴェーション・フォームを利用した最尤法によると、最大化に必要な yt|t−1 , Ft|t−1 は (1.12) ∼ (1.18) の
カルマン・フィルタ・アルゴリズムの中で計算される。そこでは余分な計算を必要としない。このように考え方の単
純明解さから、(1.27) 式が最尤法に広く利用されるのである。
次章以降の推定では取り上げないが、このイノヴェーション・フォームの尤度最大化の他に、別の方法で尤度関数
を最大化する方法もある。この方法をここに簡単に紹介する。この最大化の方法は EM アルゴリズムと呼ばれ、すべ
てのデータ ΩT = {y1 , y2 , · · · , yT } を与えたもとで、対数尤度関数の期待値が最大にされる方法である26 。観測され
26
以下の単純な状態空間モデルを使って、EM アルゴリズムについて簡単に述べる。
観測方程式
yt = Zt αt + ²t
遷移方程式
αt = Ψαt−1 + ηt
³
²t
ηt
´
∼N
Ã
³ ´ ³
0
0
,
H
0
0
Q
´
!
t = 1, · · · , T
,
α0 ∼ N (a0 , Σ0 )
仮定 (1.3) のもとで (1.1) 式, (1.2) 式で表されるモデルとの対応は dt = 0, St = Ig , Ht = H, Tt = Ψ, ct = 0, Rt = Ik , Qt = Q となってい
る。ただし、Ig , Ik は g × g, k × k の単位行列である。各行列の次元は (1.1)∼(1.3) で用いられたものと同じものである。推定されるべき未知パ
ラメータ θ はこの場合、H, Q, Ψ である。
y1 , · · · , yT , α0 , α1 , · · · , αT の結合分布の対数を取った対数尤度関数は
¡
log P (y1 , · · · , yT , α0 , α1 , · · · , αT )
=−
T
1
Tg
log(2π) − log|H| −
2
2
2
T
X
¢
(yt − Zt αt )0 H −1 (yt − Zt αt )
t=1
−
T
1
Tk
log(2π) − log|Q| −
2
2
2
T
X
(αt − Ψαt−1 )0 Q−1 (αt − Ψαt−1 )
t=1
1
1
k
− log(2π) − log|Σ0 | − (α0 − a0 )0 Σ−1
0 (α0 − a0 )
2
2
2
19
ない状態変数 αt , t = 1, 2, · · · , T , は、すべての情報 ΩT を与えたもとでの条件付き期待値 (すなわち、at|T , Σt|T ) に
置き換えられる。このように、EM アルゴリズムは対数尤度関数の最大化にスムージング推定値を必要とする。その
ため、イノヴェーション・フォームを用いる方法よりも、余分の計算 (すなわち、(1.20) ∼ (1.22) のスムージング・ア
ルゴリズム) をしなければならない。(1.4), (1.5) で表される可変パラメータ・モデルにおいて、σ 2 , R を推定するの
に EM アルゴリズムは有効である。先に述べたように、イノヴェーション・フォームの尤度最大化によると未知パラ
メータの解は明示的には得られず、単純サーチ法等によって行われるが、この EM アルゴリズムでは σ 2 , R の推定値
はスムージング推定値の関数として明示的に得られる。収束計算によって σ 2 , R は推定される。この方法は真のパラ
メータの近傍をすばやく探し出すことができるが、収束は非常に遅いという欠点を持つ。Shumway and Stoffer(1982),
Watson and Engle(1983), Tanizaki(1989) は状態空間モデルに EM アルゴリズムを応用した。また一般的な EM ア
ルゴリズムの文献としては、Dempster, Laird and Rubin(1977), Ruud(1991) があげられる。
以上、本章では、状態空間モデルの定義 (1.1 節), 経済学への応用例 (1.2 節), 状態変数の推定問題 (1.3 節), フィル
タリング・アルゴリズムの導出 (1.4 節), 加えて、未知パラメータの推定 (1.5 節) について解説した。プレディクショ
ン, フィルタリング, スムージングの具体的な計算手順については次章で述べる。状態空間モデルを適用する場合に問
題となるのは、初期値 (a0 , Σ0 ) の扱いと未知パラメータ (θ) の推定である。フィルタリング・アルゴリズムについて
は、未知パラメータが状態空間モデルの中に含まれていないとき、初期値が与えられるとそれ以降のすべての期の状
態変数が計算されるアルゴリズムになっている。また、未知パラメータの推定については、θ の推定値を明示的な形
として表される。
この尤度関数に ΩT を与えたもとで条件付き期待値を取ると、
³
¡
¢
E log P (y1 , · · · , yT , α0 , α1 , · · · , αT ) |ΩT
=−
Tg
T
1
log(2π) − log|H| −
2
2
2
T
³
X
¡
tr H −1 (yt − Zt at|T )(yt − Zt at|T )0 + Zt Σt|T Zt0
t=1
−
´
T
³
1X
Tk
T
log(2π) − log|Q| −
2
2
2
¡
¢´
tr Q−1 (at|T − Ψat−1|T )(at|T − Ψat−1|T )0
t=1
³
+Σt|T − ΨΣ0t,t−1|T − Σt,t−1|T Ψ0 + ΨΣt−1|T Ψ0
¡
¢
1
1
k
(a0|T − a0 )(a0|T − a0 )0 + Σ0|T
− log(2π) − log|Σ0 | − tr Σ−1
0
2
2
2
¡
´
となる。tr はトレースを表す。Σt,t−1|T は Σt,t−1|T = E (αt − at|T )(αt−1 − at−1|T )0 |ΩT
0
0
Σt−1,t−2|T = Pt−1|t−1 Ct−2
+ Ct−1 (Σt,t−1|T − ΨΣt−1|t−1 )Ct−2
,
¢
(1.28)
¢´
として定義され、次のように計算される。
t = T, T − 1, · · · , 2
ただし、末端条件は
ΣT,T −1|T = (Ik − kT ZT )ΨΣT −1|T −1
である (Shumway and Stoffer(1982) を見よ)。at|T , Σt|T は (1.20) 式 ∼(1.22) 式によって計算されるスムージング推定値である。kT は (1.12)
式 ∼(1.18) 式で計算される T 期のカルマン・ゲインであり、Ct は (1.20) 式 ∼(1.22) 式のスムージング・アルゴリズムで求められる。
(1.28) 式で表される対数尤度関数の期待値が H −1 , Q−1 , Ψ について最大化される。そして、H, Q, Ψ は次のように定まる。
H=
1
T
T
X
¡
(yt − Zt at|T )(yt − Zt at|T )0 + Zt Σt|T Zt0
t=1
Q=
1
T
T
X
¡
¢
(at|T − Ψat−1|T )(at|T − Ψat−1|T )0 + Σt|T − ΨΣ0t,t−1|T − Σt,t−1|T Ψ0 + ΨΣt−1|T Ψ0
t=1
Ψ=
T
³X
t=1
(Σt,t−1|T + at|T a0t−1|T )
T
´³X
(Σt−1|T + at−1|T a0t−1|T )
t=1
¢
´−1
スムージング推定値 at|T , Σt|T , Σt,t−1|T をもとにして、収束計算によって H, Q, Ψ が求められる。このように EM アルゴリズムによると、
H, Q, Ψ はスムージング推定値の関数として明示的に得られる。これに対して、インオヴェーション・フォームを最大化する方法によると EM
アルゴリズムのように H, Q, Ψ の推定値を明示的な形で得ることができない。
20
で得ることが難しく、ほとんどの場合は不可能である。したがって、(1.26) 式を最大化するには単純サーチ法等の方
法に頼らざるをえない。未知パラメータの数が増えるとこの方法も難しくなる。また、スコアリング法も尤度関数を
最大にするのに使われるが、この方法は尤度関数の 1 階微分を必要とするので、時には複雑になる。例えば、(1.4) 式
と (1.4) 式の可変パラメータ・モデルでは、σ 2 と R が未知パラメータになるので、R が正値定符号行列であるとい
う条件を加えながら、単純サーチ法やスコアリング法を行うことはほとんど不可能といってもいい。この場合 R に
何らかの条件を新たに加える必要があるだろう。
補論
A, C をそれぞれ n × n, m × m の非特異行列、B を n × m の行列とする。このとき、
定理 1 (行列の逆転公式):
(A + BCB 0 )−1 = A−1 − A−1 B(C −1 + B 0 A−1 B)−1 B 0 A−1
が成立する。
定理 2:
A, B, D をそれぞれ k × k, k × g, g × g の行列とする。ただし、A, D は非特異行列である。このとき次の
関係が成り立つ。
µ
A
B0
B
D
¶−1
=
µ
X
Y0
Y
Z
¶
X, Y , Z は次に与えられる。
X = (A − BD−1 B 0 )−1
= A−1 + A−1 B(D − B 0 A−1 B)−1 B 0 A−1
Y = −(A − BD−1 B 0 )−1 BD−1
= −A−1 B(D − B 0 A−1 B)−1
Z = (D − B 0 A−1 B)−1
= D−1 + D−1 B 0 (A − BD−1 B 0 )−1 BD−1
X, Z の 2 つ目の等式には、定理 1 の行列の逆転公式が使われている。
定理 3:
y, x はそれぞれ k × 1, g × 1 の確率変数ベクトルとする。それらは以下の 2 変数正規分布に従うとする。
õ ¶ µ
µ ¶
¶!
y
µy
Σyy Σyx
∼N
,
x
µx
Σxy Σxx
これは x と y の結合分布 P (x, y) である。このとき、x を与えたもとでの y の条件付き分布 P (y|x) は、平均
−1
µy + Σyx Σ−1
xx (x − µx ), 分散 Σyy − Σyx Σxx Σxy の正規分布となる。さらに、x の周辺分布 P (x) は、平均 µx ,
分散 Σxx の正規分布に従う。すなわち、以上をまとめると、
¡
¢
−1
P (y|x) = Φ y − µy − Σyx Σ−1
xx (x − µx ), Σyy − Σyx Σxx Σxy
P (x) = Φ(x − µ, Σxx )
となる。P (x, y) = P (y|x)P (x) となることに注意せよ。
21
定理 4:
定理 3 に関連して、次の行列式に関する定理をあげておく。
¯
¯A
¯
¯C
¯
B ¯¯
= |D| |A − BD−1 C|
D¯
定理 3 の例においては、
¯
¯ Σyy
¯
¯Σ
xy
¯
Σyx ¯¯
= |Σxx | |Σyy − Σyx Σ−1
xx Σxy |
Σxx ¯
が成り立つことに注意せよ。
証明
証明 1:
次式が成り立つことを証明する。
Z
Φ(αt − Tt αt−1 − ct , Rt Qt Rt0 ) Φ(αt−1 − at−1|t−1 , Σt−1|t−1 )dαt−1
= Φ(αt − Tt at−1|t−1 − ct , Tt Σt−1|1−1 Tt0 + Rt Qt Rt0 )
まず記号を簡略化するために、
x = αt−1 − at−1|t−1
Σxx = Σt−1|t−1
y = αt − Tt at−1|t−1 − ct
Σyy = Rt Qt Rt0
A = Tt
とそれぞれ再定義する。そして、それぞれ代入して、
Z
Φ(y − Ax, Σyy ) Φ(x, Σxx )dx = Φ(y, AΣxx A0 + Σyy )
を証明する。
初めに、2 つの正規分布を記しておく。
¡ 1
¢
k
1
Φ(y − Ax, Σyy ) = (2π)− 2 |Σyy |− 2 exp − (y − Ax)0 Σ−1
yy (y − Ax)
2
¡ 1
¢
1
k
Φ(x, Σxx ) = (2π)− 2 |Σxx |− 2 exp − x0 Σ−1
xx x
2
22
この 2 つの正規分布の積は以下のように変形される。
Φ(y − Ax, Σyy ) Φ(x, Σxx )
¡ 1
¢
1
k
= (2π)− 2 |Σyy |− 2 exp − (y − Ax)0 Σ−1
yy (y − Ax)
2
¡ 1
¢
1
k
(2π)− 2 |Σxx |− 2 exp − x0 Σ−1
xx x
2
1
1
= (2π)−k |Σyy |− 2 |Σxx |− 2
Ã
¶0 µ
µ
Σyy
1 y − Ax
exp −
2
0
x
1
0
Σxx
¶−1 µ
y − Ax
x
¶!
1
= (2π)−k |Σyy |− 2 |Σxx |− 2
Ã
¶0 µ
µ ¶0 µ
Σyy
Ik −A
1 y
exp −
2 x
0
Ik
0
1
0
Σxx
¶−1 µ
−A
Ik
Ik
0
¶µ ¶!
y
x
1
= (2π)−k |Σyy |− 2 |Σxx |− 2
Ã
µ ¶0 µ
¶0−1 µ
Ik A
Σyy
1 y
exp −
2 x
0 Ik
0
0
Σxx
¶−1 µ
Ik
0
A
Ik
¶−1 µ ¶ !
y
x
1
1
= (2π)−k |Σyy |− 2 |Σxx |− 2
Ã
µ ¶0 Ã µ
¶µ
Ik A
Σyy
1 y
exp −
2 x
0 Ik
0
0
Σxx
¶µ
Ik
0
A
Ik
¶0 !−1 µ ¶ !
y
x
1
1
= (2π)−k |Σyy |− 2 |Σxx |− 2
Ã
µ ¶0 µ
AΣxx A0 + Σyy
1 y
exp −
2 x
Σxx A0
AΣxx
Σxx
¶−1 µ ¶ !
y
x
上の計算の過程に、以下の逆行列
µ
Ik
0
−A
Ik
¶−1
=
µ
Ik
0
A
Ik
¶
が使われている。
さらに、定理 4 を使うと、
¯
¯
¯ AΣxx A0 + Σyy AΣxx ¯
¯
¯ = |Σxx | |Σyy |
¯
Σxx A0
Σxx ¯
であることがわかる。
よって、x と y の結合分布は以下のような 2 変数正規分布であることを意味する。
õ ¶ µ
µ ¶
¶!
y
0
AΣxx A0 + Σyy AΣxx
∼N
,
x
0
Σxx A0
Σxx
y の周辺分布は、定理 3 より、
P (y) = Φ(y, AΣxx A0 + Σyy )
23
(1.29)
となる。
変数を元に戻して、
P (αt |Ωt−1 ) = Φ(αt − Tt at−1|t−1 − ct , Tt Σt−1|1−1 Tt0 + Rt Qt Rt0 )
を得る。
証明 2:
次式が成り立つことを証明する。
Φ(yt − Zt αt − dt , St Ht St0 ) Φ(αt − at|t−1 , Σt|t−1 )
¡
¢
= Φ αt − at|t−1 − kt (yt − yt|t−1 ), Σt|t−1 − kt Ft|t−1 kt0 Φ(yt − yt|t−1 , Ft|t−1 )
証明 1 で行ったのと同様に、以下のように変数を再定義する。
x = αt − at|t−1
Σxx = Σt|t−1
y = yt − Zt at|t−1 − dt
Σyy = St Ht St0
A = Zt
次の 3 つの式
yt|t−1 = Zt at|t−1 + dt
Ft|t−1 = Zt Σt|t−1 Zt0 + St Ht St0
−1
kt = Σt|t−1 Zt0 Ft|t−1
に注意すると上の証明すべき等式は、
Φ(y − Ax, Σyy ) Φ(x, Σxx )
¡
¢
= Φ x − Σxx A0 (AΣxx A0 + Σyy )−1 y, Σxx − Σxx A0 (AΣxx A0 + Σyy )−1 AΣxx Φ(y, AΣxx A0 + Σyy )
として書き換えられる。この等式が成り立つことを証明すればよいが、再定義された変数を証明 1 と同じように
定義したので、証明 1 でとられた途中の式はすべて有効である。よって、x と y の結合分布 P (x, y) は (1.29)
と同じ 2 変数正規分布となる。定理 3 を用いて、x の条件付き分布 P (x|y) と y の周辺分布 P (y) を求めると、
P (x, y)
= P (x|y) P (y)
¡
¢
= Φ x − Σxx A0 (AΣxx A0 + Σyy )−1 y, Σxx − Σxx A0 (AΣxx A0 + Σyy )−1 AΣxx Φ(y, AΣxx A0 + Σyy )
が得られる。ただし、
¡
¢
P (x|y) = Φ x − Σxx A0 (AΣxx A0 + Σyy )−1 y, Σxx − Σxx A0 (AΣxx A0 + Σyy )−1 AΣxx
24
P (y) = Φ(y, AΣxx A0 + Σyy )
であることに注意せよ。さらに、変数を元に戻して、
Φ(yt − Zt αt − dt , St Ht St0 ) Φ(αt − at|t−1 , Σt|t−1 )
¡
¢
= Φ αt − at|t−1 − kt (yt − yt|t−1 ), Σt|t−1 − kt Ft|t−1 kt0 Φ(yt − yt|t−1 , Ft|t−1 )
が成り立つことが示される。
25
第 2 章 モンテ・カルロ実験1
本章では第 1 章で紹介したプレディクション, フィルタリング, スムージングのアルゴリズムを使って、それぞれの
推定値が初期値の影響をどの程度受けるかをモンテ・カルロ実験で考察する。さらに、初期値と未知パラメータの推
定との関係に関するシミュレーションもあわせて考える。
2.1 初期値に関する考察
本章を通して、以下の単純な状態空間モデルを取り扱う。
観測方程式
yt = xt αt + ²t
遷移方程式
αt = Ψαt−1 + ηt
õ ¶ µ
µ ¶
²t
0
σ²2
∼N
,
ηt
0
0
(2.1)
(2.2)
0
ση2
¶!
,
t = 1, · · · , T
(2.3)
α0 ∼ N (a0 , Σ0 )
ただし、xt = 1, Ψ = 1 とする。上式の記号 yt , xt , αt , Ψ, ²t , ηt , σ² , ση はすべてスカラーで考える。真の初期値は
a0 = 0, Σ0 = 1 とする。
上のモデルではパラメータ θ = (σ² , ση ) である。そして、本節ではパラメータは既知 (すなわち、σ² = 1, ση = 1
とする) としてプレディクション, フィルタリング, スムージングのそれぞれの推定値の違いを比較し、さらにそれぞ
れの推定値が初期値の影響をどの程度受けるかを考察する。また、次節では、本節で既知とするパラメータの推定が
どの程度うまく行われるかを、初期値の値を変えて考察する。そこでは前章で示したイノヴェーション・フォームの
尤度関数が最大になるようなパラメータの値をその推定値とする。
真の初期値は、前述の通り、a0 = 0, Σ0 = 1 であるが、これらは本来未知であり、フィルタリングの初期値 a0|0 ,
Σ0|0 に何らかの値を与える必要がある。仮に、a0 , Σ0 が既知であるならば、フィルタリングの初期値は a0|0 = a0 ,
Σ0|0 = Σ0 と置けばよい。
分析に入る前に、初期値 a0|0 , Σ0|0 に関して、次の 2 通りの方法をいくつかの文献から見つけることができる。
(1)
カルマン・フィルタのアルゴリズムと一般化最小自乗法 (GLS) との同値性 (Sant(1977)) から、最初のいくつ
かのデータ (例えば、N 個のデータ) を使って、以下の式を用いて GLS で推定したものを初期値とする。
−1
−1
0
0
aN |N = (ZN
MN
ZN )−1 ZN
MN
YN
−1
0
ΣN |N = (ZN
MN
ZN )−1
ただし、ZN , MN , YN はそれぞれ以下に与えられる行列である。
1
0 0
ZN = (z10 , z20 , · · · , zN
),
µ
¶
Q 0
MN =
,
0 σ²2
zt = xt Ψt−T (t = 1, 2, · · · , N )
Q : (N − 1) × (N − 1)
本章は、谷崎 (1987c) に大幅な修正を加えたものである。
26
ただし、行列 Q について、Q の (i, j) 要素を qij (i = 1, · · · , N − 1, j = 1, · · · , N − 1) としたとき、aij は
N −1−max(i,j)
qij = xi Ψ−j (
X
Ψ−m ση2 Ψ0−m )Ψ0−i x0j + σ²2 δij
m=0
として与えられる。また、δij はクロネッカー・デルタと呼ばれ

 0
i 6= j のとき
δij =
 1
i = j のとき
として定義される。
この場合、aN |N , ΣN |N がフィルタリングの初期値となり、(N + 1) 期以降をカルマン・フィルタ・アルゴリズ
ムで求める (すなわち、at|t , Σt|t , t = N + 1, · · · , T , となる)。前述の通り、上の GLS と第 1 章の線形のカルマン・
フィルタ・アルゴリズムは同値である。1.4 節のカルマン・フィルタ・アルゴリズムの導出ではとりあげなかった
が2 、この GLS 推定量からフィルタリング・アルゴリズムを導き出すことも可能である。詳しくは、Sant(1977)
を参照せよ。
この方法によると、最初の N 個のデータを余分にとっておかなければならない。そのため、状態変数の推定
期間が短くなり、その分析期間も短くなるという欠点を持つ。
(2)
初期値の推定を行わずに、a0|0 = 0, Σ0|0 = κIk とおく。ただし、κ は十分大きな正数とする。したがって、初
期値を推定するのに余分なデータを必要としない。しかし、初期値の影響を受け易いという欠点を持つ。
さて、上の (2.1) 式と (2.2) 式で表される状態空間モデルで分析を始める。 標本数は T = 10 とする。²t ∼ N (0, σ²2 ),
ηt ∼ N (0, ση2 ), α0 ∼ N (0, 1) として乱数を発生させ、yt と αt のデータを求める。ただし、σ²2 = 1, ση2 = 1 として
データを作り出す。初期値を a0 = 0, 1, 3, 10, Σ0 = 0, 1, 10, 100 として、yt , t = 1, 2, · · · , T , を与えたもとで、一期先
のプレディクション、フィルタリング、スムージングの推定値をそれぞれ求める。a0 の 4 通りを考察するのに対して、
Σ0 もまた 4 通りであるので、計 4 × 4 = 16 通りのシミュレーションを一期先のプレディクション, フィルタリング,
スムージングについて行う3 。
ここで、以下で使われる記号を整理しておく。
αti : 第 i 回目のシミュレーションで、(2.2) 式の遷移方程式から生成された状態変数 αt の値
yti : 第 i 回目のシミュレーションで、αti を与えたもとで、(2.1) 式の観測方程式から生成されたデータ yt の値
ait|s : 第 i 回目のシミュレーションで、初期値を a0 = 0, 1, 3, 10, Σ0 = 0, 1, 10, 100 として、yti , t = 1, 2, · · · , T , を与
えたもとで、一期先のプレディクション (s = t − 1), フィルタリング (s = t), スムージング (s = T ) の推定値
b
ait|s : ait|s の中で、特に初期値を a0 = 0, Σ0 = 1 として得られた一期先のプレディクション (s = t − 1), フィルタリ
ング (s = t), スムージング (s = T ) の推定値 (真の初期値とその分散の値はそれぞれ a0 = 0, Σ0 = 1 であるの
で、この b
ait|s を基準解と呼ぶことにする)
以上を n 回のモンテ・カルロ実験を行い、偏り BIASt|s と平均自乗誤差の平方根 RM SEt|s を、それぞれ
n
BIASt|s =
RM SEt|s
1X i
(a − αti )
n i=1 t|s
v
u n
u1 X
(ai − αti )2
=t
n i=1 t|s
2 (1.1) 式, (1.2) 式のように、すべての変数が時点 t に依存する形で、(1.12) 式 ∼(1.18) 式のカルマン・フィルタ・アルゴリズムを導出するこ
とはかなり複雑かつ煩雑になる。
3
特に、初期値の分散を Σ0 = 0 とした場合、分析者は初期値 a0 を確率変数でない (nonstochastic) と想定していることに注意せよ。
27
として計算し、初期値がそれ以降の期の推定値に与える影響を考察する。ただし、ait|s は、前述の通り、初期値を
a0 = 0, 1, 3, 10, Σ0 = 0, 1, 10, 100 として選んだ時の第 i 回目のシミュレーションで得られた t 期の推定値とする。す
なわち、16 通りの BIASt|s , RM SEt|s が一期先のプレディクション, フィルタリング, スムージングについてそれぞ
れ計算される。²t , ηt の分散は既知 (すなわち、共に 1 とおく) とする。BIASt|s は、推定値の偏りを表し、ゼロであ
ることが望ましい。また、RM SEt|s は、平均自乗誤差の平方根であり、できるだけ小さいものが良い推定値である。
さらに、n = 10000, s = t − 1, t, T とする。
特に、初期値を a0 = 0, Σ0 = 1 として得られた一期先のプレディクション、フィルタリング、スムージングの推定
値b
ait|s , s = t − 1, t, T , とシミュレーションで生成された αti との差の平均 BIASt|s , 平均自乗誤差の平方根 RM SEt|s
をそれぞれ
n
X
d t|s = 1
(b
ai − αti )
BIAS
n i=1 t|s
d
RM
SE t|s
v
u n
u1 X
=t
(b
ai − αti )2
n i=1 t|s
として定義する。
d t|s , RM
d
まずは、プレディクション, フィルタリング, スムージングの推定値の比較を BIAS
SE t|s , s = t − 1, t, T
によって行う。次に、初期値が状態変数の推定値に与える影響を調べる。
d t|s , s = t − 1, t, T を、プレディクション, フィルタリング, スムージングの偏りを調べるために、
図 0.1.1 は BIAS
時間 t を横軸にとって、プロットしたものである。
d t|s
図 0.1.1 プレディクション, フィルタリング, スムージングの BIAS
ケース:a0 = 0, Σ0 = 1
3.0
2.5
··×··×··
2.0
··?···?··
1.5
··◦···◦··
1.0
d t|t−1
BIAS
d t|t
BIAS
d t|T
BIAS
0.5
0
·×· · · · · · · · ·◦·
· · · · · · · · · ·◦·
×
?·· ·· ·· ·· · · · · ··◦·
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·×
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·×· · · · · · · · ·◦
·?·
·×· · · · · · · · ·◦·
·?·
·×· · · · · · · · ·◦·
·?
×
-0.5
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
図 0.1.1 によると、3 つの推定値はいずれもすべての t についてゼロに近いことがわかる。そのため、プレディク
ション, フィルタリング, スムージングは不偏推定量であるといえる。この結果は驚くに値しない。むしろ、当然の帰
結といえよう。なぜなら、第 1 章で得られた線形のプレディクション, フィルタリング, スムージング・アルゴリズム
は状態変数の推定値に偏りが生じないように導出されているからである。
次に RM SE 基準による 3 つの推定量を比較する。図 0.1.2 は、プレディクション, フィルタリング, スムージング
d t|s , s = t − 1, t, T をプロットしたものである。。
の精度を平均自乗誤差の平方根 BIAS
28
d
図 0.1.2 プレディクション, フィルタリング, スムージングの RM
SE t|s
ケース:a0 = 0, Σ0 = 1
3.0
2.5
··×··×··
2.0
1.5
··?···?··
×· · · ·
·
· · · ·×
· ··
· · · · · · ·×· · · · · · · · ·×· · · · · · · · ·×· · · · · · · · ·×· · · · · · · · ·×· · · · · · · · ·×· · · · · · · · ·×· · · · · · · · ·×
1.0
0.5
?· · · · · · · · ·?· · · · · · · · ·?· · · · · · · · ·?· · · · · · · · ·?· · · · · · · · ·?· · · · · · · · ·?· · · · · · · · ·?· · · · · · · · ·?· · · · · · · · ··?
·
··· ◦
◦· · · · · · · · ·◦· · · · · · · · ·◦· · · · · · · · ·◦· · · · · · · · ·◦· · · · · · · · ·◦· · · · · · · · ·◦· · · · · · · · ·◦· · · · · · · · ·◦· · · ·
··◦···◦··
d
RM
SE t|t−1
d
RM
SE t|t
d
RM
SE t|T
0
-0.5
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
図 0.1.2 から明らかなように、
RM SEt|t−1 > RM SEt|t ≥ RM SEt|T ,
∀t = 1, 2, · · · , 10
という結果が得られる。RM SEt|t と RM SEt|T との間の等号は t = T のときには必ず成立する。なぜなら、最後の
期のフィルタリング推定値とスムージング推定値は同じ値になるからである。情報量の違いから考えて、ここで得ら
れた結果もまた合理的なものである。t 期の状態変数を推定するのに、一期先のプレディクションは (t − 1) 期の利用
可能な情報を使い、フィルタリングは t 期までに得られた情報を利用し、さらにスムージングは標本期間のすべての
情報を使う。すなわち、情報集合 Ωs , s = t − 1, t, T , の包含関係は
Ωt−1 ⊂ Ωt ⊆ ΩT
∀t = 1, 2, · · · , 10
と書き表すことができる。情報量 (データ) が多ければより良い推定値4 が得られるというのは明かである。この情報
量の関係がそのまま RM SE の関係に表れている。
本節のここまでは、プレディクション, フィルタリング, スムージングの比較を行ってきたが、次に、初期値はどの
程度状態変数の推定値に影響するのかについて調べる。初期値を a0 = 0, Σ0 = 1 として得られた一期先のプレディク
ション、フィルタリング、スムージングの推定値を基準解として、それぞれの異なった初期値の値を選んだときの推
定値との乖離を計算する。すなわち、b
ait|s を、第 i 回目のシミュレーションで (a0 , Σ0 ) = (0, 1) として得られた基準
解とするとき、
n
X
d t|s = 1
BIASt|s − BIAS
(ai − b
ait|s )
n i=1 t|s
d
RM SEt|s − RM
SE t|s
v
v
u n
u n
u1 X
u1 X
i
i
2
t
(at|s − αt ) − t
(b
ai − αti )2
=
n i=1
n i=1 t|s
を計算する (ただし、s = t − 1, t, T である)。この 2 つの指標を、プレディクション, フィルタリング, スムージングの
3 つについて、時間 t を横軸にとって、プロットしたものが以下の図 1.1.1 ∼ 図 4.2.3 のグラフである。24 もの図が示
され、煩雑になるのを避けるため、まず初めに、それぞれのグラフがどのケースを扱っているかを次の表 1.1 に記す。
4 良い推定値というのは、ここでは平均自乗誤差の小さな推定値のことを指す。推定値が不偏のときは、平均自乗誤差は分散に一致する。先に
得られた結果から、プレディクション, フィルタリング, スムージング推定値は不偏であるので、ここでは分散の小さな推定値を意味する。
29
表 1.1 図 1.1.1 ∼ 図 4.3.2 の表す内容
a0
0
1
3
10
プレディクション
BIAS
RM SE
図 1.1.1 図 1.2.1
図 2.1.1 図 2.2.1
図 3.1.1 図 3.2.1
図 4.1.1 図 4.2.1
フィルタリング
BIAS
RM SE
図 1.1.2 図 1.2.2
図 2.1.2 図 2.2.2
図 3.1.2 図 3.2.2
図 4.1.2 図 4.2.2
スムージング
BIAS
RM SE
図 1.1.3 図 1.2.3
図 2.1.3 図 2.2.3
図 3.1.3 図 3.2.3
図 4.1.3 図 4.2.3
d t|s ), s = t − 1, t, T を示す。
(1) BIAS は (BIASt|s − BIAS
d
(2) RM SE は (RM SEt|s − RM
SE t|s ), s = t − 1, t, T を表す。
(3) 図 1.1.1 ∼ 図 4.2.3 のそれぞれのグラフに、Σ0 = 0, 1, 10, 100
の 4 通りのケースを同時に描いている。
これらの図を次のような観点から考察する。
(1) 初期値 a0 に偏りがない場合 (すなわち、a0 = 0 の場合) でかつ BIAS の場合、プレディクション (図 1.1.1),
フィルタリング (図 1.1.2), スムージング (図 1.1.3) について
(2) 初期値 a0 に偏りがない場合 (すなわち、a0 = 0 の場合) でかつ RM SE の場合、プレディクション (図 1.2.1),
フィルタリング (図 1.2.2), スムージング (図 1.2.3) について
(3) BIAS について、初期値 a0 が真の値から離れていくケース (すなわち、a0 = 0, 1, 3, 10)、プレディクション (図
1.1.1, 図 2.1.1, 図 3.1.1, 図 4.1.1) を調べる
(4) BIAS について、初期値 a0 が真の値から離れていくケース (すなわち、a0 = 0, 1, 3, 10)、フィルタリング (図
1.1.2, 図 2.1.2, 図 3.1.2, 図 4.1.2) の考察
(5) BIAS について、初期値 a0 が真の値から離れていくケース (すなわち、a0 = 0, 1, 3, 10)、スムージング (図 1.1.3,
図 2.1.3, 図 3.1.3, 図 4.1.3) の分析
(6) RM SE について、初期値 a0 が真の値から離れていくケース (すなわち、a0 = 0, 1, 3, 10)、プレディクション
(図 1.2.1, 図 2.2.1, 図 3.2.1, 図 4.2.1) の考察
(7) RM SE について、初期値 a0 が真の値から離れていくケース (すなわち、a0 = 0, 1, 3, 10)、フィルタリング (図
1.2.2, 図 2.2.2, 図 3.2.2, 図 4.2.2) の分析
(8) RM SE について、初期値 a0 が真の値から離れていくケース (すなわち、a0 = 0, 1, 3, 10)、スムージング (図
1.2.3, 図 2.2.3, 図 3.2.3, 図 4.2.3) についての分析
(9) a0 , Σ0 を共に一定とした場合、プレディクション, フィルタリング, スムージングの BIAS による比較
(10) a0 , Σ0 を共に一定とした場合、プレディクション, フィルタリング, スムージングの RM SE による比較
以下では、上に振り分けられた番号の順に得られた結果を述べる。
30
d t|t−1 ) の比較 −
図 1.1.1 初期値の与える影響 − (BIASt|t−1 − BIAS
ケース:a0 = 0
3.0
2.5
··×··×··
2.0
··?···?··
··◦···◦··
1.5
··•···•··
Σ0
Σ0
Σ0
Σ0
=0
=1
= 10
= 100
Σ0
Σ0
Σ0
Σ0
=0
=1
= 10
= 100
1.0
0.5
0
·•·
·•·
·•·
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·•·
·◦·
·◦·
·◦·
·•·· · · · · · · · ·•·
·◦·· · · · · · · · ·◦·
·•·· · · · · · · · ·◦
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×· · · · · · · · ·?·
×· · · · · · · · ·?·
··◦·
··◦·
×· · · · · · · · ·?·
-0.5
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
d t|t ) の比較 −
図 1.1.2 初期値の与える影響 − (BIASt|t − BIAS
ケース:a0 = 0
3.0
2.5
··×··×··
2.0
··?···?··
··◦···◦··
1.5
··•···•··
1.0
0.5
0
•·· · · · · · · · ·?·
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··◦·
×· · · · · · · · ·?·
·×· · · · · · · · ·?·
·×· · · · · · · · ·?·
×
-0.5
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
(1) 状態変数の初期値が真の値に等しい a0 = 0 の場合、推定値に偏りがあるかどうかを考える。図 1.1.1∼ 図 1.1.3
を見ると、プレディクション (図 1.1.1), フィルタリング (図 1.1.2), スムージング (図 1.1.3) の 3 つのどの推定量につ
いても、分散の初期値 Σ0 のどんな値に対してもほとんどゼロである。すなわち、初期値に偏りのない値を与えると、
その初期値の分散がどんな値であっても、それ以降の期のプレディクション, フィルタリング, スムージングの推定値
に偏りは生じないという結論が引き出される。
31
d t|T ) の比較 −
図 1.1.3 初期値の与える影響 − (BIASt|T − BIAS
ケース:a0 = 0
3.0
2.5
··×··×··
2.0
··?···?··
··◦···◦··
1.5
··•···•··
Σ0
Σ0
Σ0
Σ0
=0
=1
= 10
= 100
Σ0
Σ0
Σ0
Σ0
=0
=1
= 10
= 100
1.0
0.5
0
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×
-0.5
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
d
図 1.2.1 初期値の与える影響 − (RM SEt|t−1 − RM
SE t|t−1 ) の比較 −
ケース:a0 = 0
3.0
2.5
··×··×··
2.0
··?···?··
··◦···◦··
1.5
··•···•··
1.0
0.5
0
•
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×
-0.5
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
(2) 状態変数の初期値が真の値に等しい a0 = 0 の場合を RM SE 基準で考える。図 1.2.1∼ 図 1.2.3 を見ると、プ
レディクション (図 1.2.1), フィルタリング (図 1.2.2), スムージング (図 1.2.3) の 3 つのどの推定量についても、分散
の初期値 Σ0 のどんな値に対してもほとんどゼロである。ただし、プレディクションについて 2 期に、フィルタリン
d
グやスムージングについては 1 期に真の初期値を与えたときの平均自乗誤差 (RM
SE t|s ) よりもやや大きい平均自乗
誤差 (RM SEt|s ) が得られたが、これはほとんど無視できるくらい小さなものである。平均自乗誤差の大きさの順番
は、初期値の分散が Σ0 = 100 のケースが一番大きく、次に Σ0 = 10, 0, 1 の順となっている。特に、Σ0 = 1 のケー
d
スの RM SEt|s は RM
SE t|s に等しいことに注意せよ。最後に、すべてのプレディクションの図について、1 期には
すべての Σ0 = 0, 1, 10, 100 について、等しい値になっていることに注意せよ。なぜなら、(2.1) 式と (2.2) 式で表され
る状態空間モデルに注意すると、at|t−1 = at−1|t−1 となる。初期値については、すべての i について ai1|0 = ai0|0 = a0
であるので、1 期のプレディクションの推定値 ai1|0 は i にかかわらず一定の値 a0 をとる。さらに、t 期のプレディク
ションの推定値 at|t−1 と (t − 1) 期のフィルタリング推定値 at−1|t−1 は等しいので、BIAS の図もまたフィルタリン
グを 1 期前にずらしたものがプレディクションに一致している。
32
d
図 1.2.2 初期値の与える影響 − (RM SEt|t − RM
SE t|t ) の比較 −
ケース:a0 = 0
3.0
2.5
··×··×··
2.0
··?···?··
··◦···◦··
1.5
··•···•··
Σ0
Σ0
Σ0
Σ0
=0
=1
= 10
= 100
Σ0
Σ0
Σ0
Σ0
=0
=1
= 10
= 100
1.0
0.5
0
•
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-0.5
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
d
図 1.2.3 初期値の与える影響 − (RM SEt|T − RM
SE t|T ) の比較 −
ケース:a0 = 0
3.0
2.5
··×··×··
2.0
··?···?··
··◦···◦··
1.5
··•···•··
1.0
0.5
0
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-0.5
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
(3) 状態変数の初期値が真の値から乖離する場合 (a0 = 0, 1, 3, 10) をプレディクションについて BIAS の基準で考
える。a0 = 0 の場合 (図 1.1.1), a0 = 1 の場合 (図 2.1.1), a0 = 3 の場合 (図 3.1.1), a0 = 10 の場合 (図 4.1.1) をそれ
ぞれ見る。a0 に真の値を与えた場合 (図 1.1.1) は Σ0 のどんな値に対しても推定値に偏りはないということは、前述
した通りであるが、a0 が真の値から離れれば離れるほど推定値の偏りも大きくなっている。Σ0 = 0 のケースを取り
上げると、図 2.1.1 では 6 期, 図 3.1.1 では 7 期, 図 4.1.1 では 8 期ぐらいに推定値の偏りはなくなっている。これは、
初期値の偏りが大きければ大きいほど、プレディクション推定値の偏りが消滅する期間も長くなるということを意味
する。
また、例えば図 3.1.1 をとって、初期値の分散の値によって比べる。Σ0 に大きな値をとれば、2 期以降のプレディ
クション推定値の偏りも小さくなる。すなわち、Σ0 を大きくとればとるほど、推定値の偏りがなくなる期間が短く
なる。この傾向は a0 の偏りが大きくなればなるほど顕著に現れる。
33
d t|t−1 ) の比較 −
図 2.1.1 初期値の与える影響 − (BIASt|t−1 − BIAS
ケース:a0 = 1
3.0
2.5
··×··×··
2.0
··?···?··
··◦···◦··
1.5
··•···•··
1.0
0.5
0
Σ0
Σ0
Σ0
Σ0
=0
=1
= 10
= 100
Σ0
Σ0
Σ0
Σ0
=0
=1
= 10
= 100
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1
2
3
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9
10
d t|t ) の比較 −
図 2.1.2 初期値の与える影響 − (BIASt|t − BIAS
ケース:a0 = 1
3.0
2.5
··×··×··
2.0
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1.5
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1.0
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9
10
(4) 状態変数の初期値が真の値から乖離する場合 (a0 = 0, 1, 3, 10) をプレディクションについて RM SE の基準で
考える。a0 = 0 の場合 (図 1.2.1), a0 = 1 の場合 (図 2.2.1), a0 = 3 の場合 (図 3.2.1), a0 = 10 の場合 (図 4.2.1) をそ
れぞれ見る。偏りが増すと平均自乗誤差も大きくなるというのは明らかなので、初期値 a0 に偏りが大きいほど、ま
d
た初期値の分散 Σ0 の値が小さいほど RM SEt|t−1 と RM
SE t|t−1 との間の乖離も大きくなっている。
34
d t|T ) の比較 −
図 2.1.3 初期値の与える影響 − (BIASt|T − BIAS
ケース:a0 = 1
3.0
2.5
··×··×··
2.0
··?···?··
··◦···◦··
1.5
··•···•··
Σ0
Σ0
Σ0
Σ0
=0
=1
= 10
= 100
Σ0
Σ0
Σ0
Σ0
=0
=1
= 10
= 100
1.0
0.5
0
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d
図 2.2.1 初期値の与える影響 − (RM SEt|t−1 − RM
SE t|t−1 ) の比較 −
ケース:a0 = 1
3.0
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-0.5
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
(5) 状態変数の初期値が真の値から乖離する場合 (a0 = 0, 1, 3, 10) をフィルタリングについて BIAS の基準で考
える。a0 = 0 の場合 (図 1.1.2), a0 = 1 の場合 (図 2.1.2), a0 = 3 の場合 (図 3.1.2), a0 = 10 の場合 (図 4.1.2) をそれ
ぞれ見る。(3) で得られた結果がそのまま当てはまる。すなわち、初期値 a0 が真の値に近づけば、フィルタリング
推定値の偏りは減る。初期値の分散 Σ0 を大きくとれば、フィルタリング推定値の偏りは減る。
35
d
図 2.2.2 初期値の与える影響 − (RM SEt|t − RM
SE t|t ) の比較 −
ケース:a0 = 1
3.0
2.5
··×··×··
2.0
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··◦···◦··
1.5
··•···•··
Σ0
Σ0
Σ0
Σ0
=0
=1
= 10
= 100
Σ0
Σ0
Σ0
Σ0
=0
=1
= 10
= 100
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d
図 2.2.3 初期値の与える影響 − (RM SEt|T − RM
SE t|T ) の比較 −
ケース:a0 = 1
3.0
2.5
··×··×··
2.0
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1.5
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1.0
0.5
0
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-0.5
1
2
3
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5
6
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8
9
10
(6) 状態変数の初期値が真の値から乖離する場合 (a0 = 0, 1, 3, 10) をフィルタリングについて RM SE の基準で考
える。a0 = 0 の場合 (図 1.2.2), a0 = 1 の場合 (図 2.2.2), a0 = 3 の場合 (図 3.2.2), a0 = 10 の場合 (図 4.2.2) をそれ
ぞれ見る。これまでに得られた結果がそのまま当てはまる。特に付け加えるなければならない事項はない。すなわち、
d
初期値 a0 に偏りが大きいほど、また初期値の分散 Σ0 の値が小さいほど RM SEt|t と RM
SE t|t との間の乖離も大き
くなっている。
36
d t|t−1 ) の比較 −
図 3.1.1 初期値の与える影響 − (BIASt|t−1 − BIAS
ケース:a0 = 3
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
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Σ0
Σ0
Σ0
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= 10
= 100
Σ0
Σ0
Σ0
Σ0
=0
=1
= 10
= 100
-0.5
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2
3
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5
6
7
8
9
10
d t|t ) の比較 −
図 3.1.2 初期値の与える影響 − (BIASt|t − BIAS
ケース:a0 = 3
3.0
2.5
··×··×··
2.0
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0
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-0.5
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
(7) 状態変数の初期値が真の値から乖離する場合 (a0 = 0, 1, 3, 10) をスムージングについて BIAS の基準で考え
る。a0 = 0 の場合 (図 1.1.3), a0 = 1 の場合 (図 2.1.3), a0 = 3 の場合 (図 3.1.3), a0 = 10 の場合 (図 4.1.3) をそれぞ
れ見る。(3), (5) と同じ結果が得られた。
37
d t|T ) の比較 −
図 3.1.3 初期値の与える影響 − (BIASt|T − BIAS
ケース:a0 = 3
3.0
2.5
··×··×··
2.0
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1.5
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Σ0
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Σ0
Σ0
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= 100
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Σ0
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-0.5
1
2
3
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9
10
d
図 3.2.1 初期値の与える影響 − (RM SEt|t−1 − RM
SE t|t−1 ) の比較 −
ケース:a0 = 3
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
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1
2
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10
(8) 状態変数の初期値が真の値から乖離する場合 (a0 = 0, 1, 3, 10) をスムージングについて RM SE の基準で考え
る。a0 = 0 の場合 (図 1.2.3), a0 = 1 の場合 (図 2.2.3), a0 = 3 の場合 (図 3.2.3), a0 = 10 の場合 (図 4.2.3) をそれぞ
れ見る。この場合も、(4), (6) と同じ結果である。
38
d
図 3.2.2 初期値の与える影響 − (RM SEt|t − RM
SE t|t ) の比較 −
ケース:a0 = 3
3.0
2.5
··×··×··
2.0
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1.5
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Σ0
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Σ0
Σ0
=0
=1
= 10
= 100
Σ0
Σ0
Σ0
Σ0
=0
=1
= 10
= 100
·
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··
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2
3
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10
d
図 3.2.3 初期値の与える影響 − (RM SEt|T − RM
SE t|T ) の比較 −
ケース:a0 = 3
3.0
2.5
··×··×··
2.0
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1.5
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1.0
0.5
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0
-0.5
1
2
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9
10
(9) a0 , Σ0 を共に一定とした場合、プレディクション, フィルタリング, スムージングの BIAS による比較を考
える。例えば、図 4.1.1, 図 4.1.2, 図 4.1.3 の Σ0 = 1 を見る。すなわち、a0 = 10, Σ0 = 1 のケースを、プレディク
ション, フィルタリング, スムージングについて比べる。プレディクションよりフィルタリング、フィルタリングより
スムージングが偏りの少ない推定量と結論づけることができる。この結論はプレディクション、フィルタリング、ス
ムージングのそれぞれの推定値に含まれる情報量の違いから明らかである。
39
d t|t−1 ) の比較 −
図 4.1.1 初期値の与える影響 − (BIASt|t−1 − BIAS
ケース:a0 = 10
3.0
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Σ0
Σ0
Σ0
Σ0
=0
=1
= 10
= 100
Σ0
Σ0
Σ0
Σ0
=0
=1
= 10
= 100
-0.5
1
2
3
4
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8
9
10
d t|t ) の比較 −
図 4.1.2 初期値の与える影響 − (BIASt|t − BIAS
ケース:a0 = 10
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
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-0.5
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
(10) a0 , Σ0 を共に一定とした場合、プレディクション, フィルタリング, スムージングの RM SE による比較を
する。(9) と同じケースを取り上げる。すなわち、a0 = 10, Σ0 = 1 のケースであり、図 4.2.1, 図 4.2.2, 図 4.2.3 に対
応している。同様に、情報量の多さに対応して、プレディクション, フィルタリング, スムージングの順に平均自乗誤
差の小さな推定量となっている。
40
d t|T ) の比較 −
図 4.1.3 初期値の与える影響 − (BIASt|T − BIAS
ケース:a0 = 10
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
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Σ0
Σ0
Σ0
=0
=1
= 10
= 100
Σ0
Σ0
Σ0
Σ0
=0
=1
= 10
= 100
-0.5
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
d
図 4.2.1 初期値の与える影響 − (RM SEt|t−1 − RM
SE t|t−1 ) の比較 −
ケース:a0 = 10
3.0
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2.0
1.5
1.0
0.5
0
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··?···?··
··◦···◦··
··•···•··
-0.5
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
(1) ∼ (10) で得られた結果をまとめると、次の通りになる。まず第一に、初期値 a0 に真の値を入れた場合、その
初期値の分散 Σ0 がどんな値であっても、状態変数の推定値 at|t−1 , at|t , at|T , t = 1, · · · , 10, には偏りがなく、その平
均自乗誤差も a0 = 0, Σ0 = 1 のケースとほぼ同じである。第二に、初期値の分散 Σ0 を与えたもとで、初期値 a0 の
偏りが大きければ、それ以降の推定値 at|t−1 , at|t , at|T の偏りも平均自乗誤差も大きくなる。第三に、初期値 a0 を固
定したとき、初期値の分散 Σ0 を大きくすればするほど、それ以降の推定値 at|t−1 , at|t , at|T の偏りも平均自乗誤差
も小さくなる。最後に、偏り, 平均自乗誤差の両方の基準から、スムージングが最良の推定量でありプレディクショ
ンは最も偏りも平均自乗誤差も大きい推定量であるといえる。
41
d
図 4.2.2 初期値の与える影響 − (RM SEt|t − RM
SE t|t ) の比較 −
ケース:a0 = 10
3.0
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2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0
··×··×··
··?···?··
··◦···◦··
··•···•··
Σ0
Σ0
Σ0
Σ0
=0
=1
= 10
= 100
Σ0
Σ0
Σ0
Σ0
=0
=1
= 10
= 100
-0.5
1
2
4
3
5
6
7
8
9
10
d
図 4.2.3 初期値の与える影響 − (RM SEt|T − RM
SE t|T ) の比較 −
ケース:a0 = 10
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0
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·×
×· · · · · · · · ·•·
··×··×··
··?···?··
··◦···◦··
··•···•··
-0.5
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
偏りのない初期値とその分散をとることが一番であるが、ほとんどの場合において、初期値もその分散も通常未知
である。このことを考えると、初期値には適当な値、その分散には十分大きな値を与えておくのが一番現実的である
ように思われる。初期値 a0 がどんな値であっても、その分散 Σ0 に十分大きな値を与えておけば、それ以降の推定
値 at|t−1 , at|t , at|T (t = 1, · · · , T ) にはそれほど影響しないという結果がその根拠となる。第 3 章 ∼ 第 6 章で扱う可
変パラメータ・モデルの例では、1 期のフィルタリング推定値を初期値として、T 期間のデータを使って最小自乗法
で得られた分散の T 2 倍をその初期値の分散として5 、推定を行う (ただし、T は標本数である)。
5
これは次のことを意味する。(2.1) 式と (2.2) 式の状態空間モデルで考える。
yt = xt αt + ²t
αt = Ψαt−1 + ηt
t = 1, · · · , T
のモデルで αt を推定するとき、まず次の回帰式
yt = xt α + ²t
42
ここまでは、σ² , ση を既知として、初期値のそれ以降の推定値へ与える影響を取り扱った。次の節では、σ² , ση を
未知として最尤法でそれを推定したとき、初期値 a0 とその分散 Σ0 が σ² , ση の推定値にどのような影響を及ぼすの
かを検討する。
2.2 未知パラメータの推定
前節では、未知パラメータを含まない状態空間モデルで、フィルタリングの初期値 a0|0 がいかにその期以降のプレ
ディクション at|t−1 , フィルタリング at|t , スムージング at|T 推定値に影響を与えるかを考察した。
本節では、真の初期値を α0 ∼ N (0, 1) として、また、未知パラメータを σ² = 1, ση = 1 として、データ yt を
(2.1) 式と (2.2) 式から生成する。標本数は 3 通り T = 10, 20, 50 を考える。そして、フィルタリングの初期にいろ
いろな値 (a0 = 0, 3, 10, Σ0 = 0, 1, 10, 100) を与え、yt をもとにして、未知パラメータ σ² , ση を推定する。そこで
は、第 1 章で紹介されたイノヴェーション・フォームの尤度関数を最大にするように、σ² と ση が単純サーチ法で
推定される6 。これを n = 10000 回繰り返す。それぞれの a0 = 0, 3, 10, Σ0 = 0, 1, 10, 100, T = 10, 20, 50 につい
て、n 個の σ² , ση の推定値を計算し、その標本平均 (AV E), 標準偏差 (SE), 平均自乗誤差の平方根 (RM SE), 分布
(10%, 25%, 50%, 75%, 90%)7 をそれぞれ求める。表 2.1 ∼ 表 2.3 が得られた結果である。
表 2.1 推定値の比較:n=10 のケース
a0
Σ0
0
1
0
10
100
0
1
3
10
100
0
1
10
10
100
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
AV E
0.837
0.890
0.861
0.821
0.862
0.792
0.850
0.798
0.673
1.118
0.751
0.969
0.851
0.803
0.850
0.799
0.338
1.474
0.418
1.385
0.762
0.903
0.848
0.801
SE
0.504
0.512
0.505
0.553
0.508
0.574
0.508
0.581
0.482
0.477
0.491
0.555
0.508
0.579
0.507
0.581
0.319
0.401
0.356
0.445
0.487
0.601
0.507
0.581
RM SE
0.529
0.524
0.524
0.582
0.527
0.611
0.529
0.615
0.582
0.492
0.550
0.555
0.529
0.611
0.529
0.614
0.735
0.621
0.682
0.589
0.542
0.609
0.530
0.614
10%
0.00
0.13
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.50
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.98
0.00
0.84
0.00
0.00
0.00
0.00
25%
0.51
0.53
0.54
0.39
0.54
0.29
0.53
0.29
0.29
0.83
0.40
0.60
0.52
0.31
0.52
0.29
0.00
1.19
0.00
1.09
0.41
0.43
0.52
0.29
50%
0.90
0.90
0.93
0.85
0.93
0.81
0.92
0.82
0.69
1.14
0.80
1.02
0.92
0.83
0.92
0.82
0.32
1.45
0.44
1.38
0.84
0.94
0.92
0.83
75%
1.19
1.25
1.22
1.22
1.22
1.22
1.21
1.23
1.01
1.44
1.10
1.36
1.21
1.23
1.21
1.23
0.58
1.74
0.69
1.68
1.12
1.35
1.21
1.23
90%
1.46
1.55
1.47
1.54
1.47
1.54
1.46
1.56
1.30
1.71
1.36
1.65
1.46
1.56
1.46
1.56
0.78
2.00
0.89
1.95
1.35
1.67
1.46
1.56
を最小自乗法 (OLS) で推定して、α の推定値の分散を計算する。この α の推定値の分散の T 2 倍したものを、フィルタリング推定値の初期値の
分散 Σ0|0 とする。フィルタリングの初期値 a0|0 については、a1|1 の値を使う。ここでは収束計算が必要になる。
この場合、初期値の分散 Σ0 に標本期間全部のデータを使って OLS で得られた分散の T 2 倍したものを与えるという根拠は次の通りである。
OLS で得られた分散は T 期間のデータから得られた分散であるので、情報が 1/T である 1 期だけを考えると分散は T 倍と考えることができ
る。また、過去に逆戻ればその分散は大きくなると考えて、さらに T 倍する。このような理由から、全部のデータを使って推定した OLS の分散
の T 2 倍の値をフィルタリングの初期値の分散 Σ0|0 とする。
また、フィルタリングの初期値 a0|0 に a1|1 を使うのは、初期値の推定値と第 1 期の推定値はそれほどかけ離れたものではないだろうという理
由からである。
6 データ y , t = 1, · · · , T , とフィルタリングの初期値 a , Σ を与えたもとで、σ , σ の 2 つをイノヴェーション・フォームの尤度関数を最
t
²
η
0
0
大にするように単純サーチ法で求める。言うまでもないが、σ² , ση の真の値は共に 1 である。
具体的な推定については、まず σ² に適当な値 (1 を与えた) を与え、ση を 0.01 刻みに値を変えて尤度関数を最大にする ση を探査して求め
る。次に、この ση を与えたもとで、σ² を 0.01 刻みに値を変えて尤度関数を最大にさせる。この過程を、探査によって求められた σ² , ση の値が
安定するまで繰り返す。安定した σ² , ση をその推定値とする。
7 10000 個の推定値を大きさの順に並べて、1000 番目, 2500 番目, 5000 番目, 7500 番目, 9000 番目に小さい推定値をそれぞれ 10%, 25%,
50%, 75%, 90% とする。よって、50% は中央値 (median) を表す。
43
表 2.2 推定値の比較:n=20 のケース
a0
Σ0
0
1
0
10
100
0
1
3
10
100
0
1
10
10
100
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
AV E
0.912
0.947
0.926
0.912
0.926
0.902
0.921
0.907
0.796
1.113
0.858
1.004
0.920
0.909
0.920
0.907
0.455
1.470
0.559
1.360
0.872
0.959
0.920
0.907
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
σ²
ση
AV E
0.964
0.984
0.972
0.971
0.973
0.968
0.971
0.969
0.906
1.070
0.942
1.010
0.971
0.970
0.971
0.969
0.643
1.381
0.753
1.246
0.952
0.989
0.971
0.969
SE
0.386
0.395
0.388
0.419
0.394
0.433
0.395
0.435
0.378
0.359
0.382
0.409
0.393
0.432
0.395
0.435
0.310
0.276
0.331
0.318
0.388
0.438
0.395
0.435
RM SE
0.396
0.399
0.395
0.428
0.401
0.444
0.403
0.445
0.430
0.376
0.407
0.409
0.401
0.442
0.403
0.445
0.627
0.545
0.552
0.480
0.408
0.440
0.403
0.445
10%
0.39
0.43
0.40
0.35
0.38
0.31
0.37
0.31
0.23
0.66
0.32
0.47
0.38
0.32
0.37
0.31
0.00
1.12
0.00
0.96
0.30
0.36
0.37
0.31
25%
0.72
0.69
0.73
0.65
0.72
0.62
0.72
0.63
0.59
0.90
0.66
0.76
0.72
0.63
0.72
0.63
0.21
1.28
0.36
1.14
0.68
0.69
0.72
0.63
50%
0.95
0.96
0.97
0.93
0.98
0.93
0.97
0.93
0.83
1.12
0.90
1.02
0.97
0.93
0.97
0.93
0.49
1.46
0.61
1.36
0.93
0.98
0.97
0.93
75%
1.17
1.21
1.18
1.20
1.19
1.20
1.19
1.21
1.05
1.35
1.11
1.28
1.18
1.20
1.19
1.21
0.68
1.65
0.79
1.57
1.13
1.26
1.18
1.21
90%
1.35
1.45
1.37
1.44
1.38
1.45
1.37
1.46
1.24
1.56
1.30
1.51
1.37
1.45
1.37
1.45
0.84
1.83
0.95
1.77
1.31
1.51
1.37
1.45
50%
0.98
0.99
0.99
0.97
0.99
0.97
0.99
0.97
0.92
1.07
0.96
1.01
0.99
0.97
0.99
0.97
0.67
1.38
0.78
1.24
0.97
0.99
0.99
0.97
75%
1.11
1.15
1.12
1.14
1.12
1.14
1.12
1.14
1.06
1.23
1.09
1.18
1.12
1.14
1.12
1.14
0.79
1.50
0.90
1.39
1.10
1.16
1.12
1.14
90%
1.23
1.30
1.24
1.29
1.24
1.30
1.24
1.30
1.17
1.37
1.21
1.33
1.24
1.30
1.24
1.30
0.90
1.62
1.01
1.53
1.22
1.32
1.24
1.30
表 2.3 推定値の比較:n=50 のケース
a0
Σ0
0
1
0
10
100
0
1
3
10
100
0
1
10
10
100
SE
0.228
0.249
0.229
0.257
0.231
0.261
0.232
0.261
0.231
0.239
0.230
0.255
0.231
0.261
0.232
0.261
0.226
0.181
0.223
0.218
0.230
0.263
0.232
0.261
RM SE
0.231
0.250
0.231
0.258
0.233
0.263
0.234
0.263
0.250
0.249
0.237
0.255
0.233
0.263
0.234
0.263
0.423
0.422
0.333
0.329
0.235
0.264
0.234
0.263
10%
0.69
0.67
0.70
0.64
0.69
0.64
0.69
0.64
0.63
0.77
0.66
0.69
0.69
0.64
0.69
0.64
0.36
1.15
0.48
0.97
0.67
0.66
0.69
0.64
25%
0.84
0.82
0.84
0.81
0.85
0.80
0.84
0.80
0.77
0.92
0.81
0.85
0.84
0.80
0.84
0.80
0.52
1.26
0.64
1.10
0.82
0.82
0.84
0.80
まずは、表 2.3 に注目して分析を進める。a0 = 0 のケース (真の初期値) をみると、Σ0 がどのような値であっても、
σ² , ση の AV E は過小推定されているが共に 1 に近い。a0 = 3 から a0 = 10 へと初期値の値を大きくするにつれて、
初期値の分散の変化にも敏感になっている。すなわち、a0 = 10 の場合をとると、Σ0 を大きくするにつれて、AV E
は共に 1 に近づき、RM SE は小さくなる。そして、大きな値を Σ0 に与えておけば、a0 がどのような値であっても、
パラメータの推定値には影響しないという結論を得ることができる (Σ0 = 100 のケースを、a0 = 0, 3, 10 について調
べると、それぞれの値は全く同じ値となっている)。
さらに、標本数が増えた場合、パラメータの推定値の様子について調べる。表 2.1 から表 2.3 を順番にみると、標
本数が増えるにつれて RM SE はそれぞれの推定値について一様に小さくなっている。また推定値の値も、標本数が
多くなるにつれて、真の値に近づくことがわかる。
44
本節で得られた結論をまとめると、真の初期値を与えれば、その分散にどの値を与えても、一様に良い未知パラメー
タの推定値が得られる。しかし、実際の推定には、ほとんどの場合、初期値とその分散は未知である。その場合、次
に得られた結論が有用である。初期値の分散 Σ0 に大きな値を与えておけば、初期値 a0 がどの値であっても、未知
パラメータの推定値には影響しないというものである。これは、状態空間モデルに未知パラメータが含まれていると
き、初期値の分散を大きくとっておけば未知パラメータは真の値の近くに推定されるということを意味する。また、
標本数が増えれば、未知パラメータの推定値は不偏性や有効性の意味で改善される。
1.1 節では、一期先のプレディクション, フィルタリング, スムージング推定値が状態変数の初期値とその分散にど
のように影響するのかについて調べた。本節では、状態空間モデルに未知パラメータが含まれているとき、初期値と
その分散の値によって、どのように未知パラメータの推定値は影響を受けるのかについて考察した。両方のモンテ・
カルロ実験で共通に得られた結論は、(1) a0 に真の値を与えると、Σ0 がどんな値であっても、うまく推定される。
(2) Σ0 に十分大きな値を与えておくと、a0 の値にかかわらず、良い推定値が得られる。
現実には、初期値とその分散の値は未知であるので、(2) が最良の方法であるように思われる。次の節では、第 3 章
から第 7 章まで各関数を可変パラメータ・モデルで推定するが、そこで使われる推定手順を述べておく。
2.3 状態空間モデルの推定手順
第 3 章 ∼ 第 6 章では、状態空間モデルを第 1 章の 1.2.1 節で紹介した可変パラメータ・モデルに応用して、消費・
投資・貨幣需要・輸出・為替レート関数を日米について推定して、その時々の経済状況または経済構造を分析するこ
とを目的とする。モデルは (1.4) 式と (1.5) 式で、撹乱項の仮定は (1.6) で表される。状態変数の初期値は β0|0 , その
分散は Σ0|0 とする。また、未知パラメータ θ は σ 2 と R である。そして、本節では、以降の第 3 章 ∼ 第 6 章で実際
に行う推定の手順を述べる。
(1)
データ yt , xt , t = 1, · · · , T , を与えて、次の固定パラメータ・モデル
yt = xt β + ²t ,
t = 1, · · · , T
b
を OLS で、パラメータ β の推定値とその不偏分散、²t の分散の不偏推定値をそれぞれ計算する。それらを、β,
2
b σ
V ar(β),
b とする。
²
(2)
(3)
b Σ0|0 = T 2 V ar(β)
b として、初期値とその分散の値を設定する。(1.6) の分散をそれぞれ R = 0,
β0|0 = β,
σ²2 = σ
b²2 とおく。この設定のもとで、第 1 章で紹介したカルマン・フィルタ・アルゴリズムで、βt|t−1 , βt|t ,
t = 1, · · · , T , を求める8 。
ステップ (2) で得られた βt|t−1 , βt|t , t = 1, · · · , T , をもとにして、R を R = λQ として、
Q=
T
1X
(βt|t − βt|t−1 )(βt|t − βt|t−1 )0
T t=1
を計算する。推定されるべき未知パラメータの数を減らすために、Q は固定されたものとして、λ のみをサー
チ法で推定する。これは、分散共分散行列 R の各要素の比率を固定していることを意味する。
(4)
ステップ (2) で計算された 1 期のフィルタリング推定値 β1|1 を初期値 β0|0 に代入して、ステップ (2) で得ら
れた Σ0|0 をそのまま使い、ステップ (3) の λ をゼロから無限大の範囲で 10−9 の刻み幅で動かして、単純サー
チ (探査) 法によってイノヴェーション・フォームの尤度関数が最大になるような λ を求める。
(5)
ステップ (4) で得られた値を λ に与えたもとで、カルマン・フィルタ・アルゴリズムをもとにして、イノヴェー
ション・フォームの尤度関数を最大にするような σ² をニュートン・ラプソン (Newton-Paphson) 法で求める。
8
この場合、R = 0 としているので、フィルタリング推定値 βt|t は、t 期までのデータを使って OLS で得られた推定値に等しいことに注意せ
よ。この方法は逐次最小自乗法と呼ばれる。
45
(6)
このように、Σ0|0 , Q を固定して、
(i)
σ² をニュートン・ラプソン法で収束計算によって求める。
(ii)
β1|1 を β0|0 に代入して、λ を探査 (サーチ) 法で求める。
(iii)
ステップ (i) と (ii) の過程を繰り返して、最もイノヴェーション・フォームの尤度関数が最大になる β0|0 ,
λ, σ² をその推定値とする。
以上の手順の注意点をいくつか記しておく。
b とした理由は、2.1 節, 2.2 節で得られた「初期値は、その分散
先にも述べたが、ステップ (2) で Σ0|0 = T 2 V ar(β)
に十分大きな値を与えておけば、状態変数の推定値にも未知パラメータの推定値にも影響を及ぼさない」という命題
からである。OLS の分散の T 倍は 1 期あたりの平均の分散を表し、さらに T 倍は過去に逆戻るほど分散は大きいと
いう意味を大ざっぱではあるが含んでいる。
ステップ (4), (5) では、イノヴェーション・フォームの尤度関数を最大になるように λ と σ² を求めるが、初期値
の影響を考慮に入れて、最初の k 期間を除いて尤度関数が最大化される。ただし、k は説明変数の数を表す。
ステップ (3) で求めた Q は R の推定値としてみなすができる (この場合は λ = 1 である)。その理由は以下の通り
である。
(1.12) 式から (1.18) 式のアルゴリズムで、at|t−1 = βt|t−1 , at|t = βt|t , Tt = Ik , ct = 0, Rt = Ik , Qt = R, Zt = xt ,
dt = 0, St = 1, Ht = σ²2 (ただし、Ik は k × k の単位行列を表す) とそれぞれ置き換えて、フィルタリング・アルゴ
リズムを書き直すと、次のようになる。
βt|t−1 = βt−1|t−1
(2.4)
Σt|t−1 = Σt−1|t−1 + R
(2.5)
yt = xt βt|t−1
(2.6)
Ft|t−1 = xt Σt|t−1 x0t + σ²2
(2.7)
−1
kt = Σt|t−1 x0t Ft|t−1
(2.8)
βt|t = βt|t−1 + kt (yt − yt|t−1 )
(2.9)
Σt|t = Σt|t−1 − kt Ft|t−1 kt0
(2.10)
それぞれの変数の次元は
yt ,
yt|t−1 , σ²2 ,
Ft|t−1 :
xt ,
βt|t ,
βt|t−1 :
Σt|t , Σt|t−1 , R :
スカラー
k×1
k×k
である。このアルゴリズムを利用すると、Q は R に近似的に一致する (すなわち、λ = 1 である) ことがわかる。こ
れを証明するために、まずは、(2.5) 式から得られる R から始めて、次々に変形していく。それぞれの等式または近
46
似式の説明は後述する。
T
1X
R=
(Σt|t−1 − Σt−1|t−1 )
T t=1
=
=
≈
=
T
1X
1
(Σt|t−1 − Σt|t ) + (ΣT |T − Σ0|0 )
T t=1
T
T
1X
1
kt Ft|t−1 kt0 + (ΣT |T − Σ0|0 )
T t=1
T
(2.11)
T
1X
kt (yt − yt|t−1 )2 kt0
T t=1
T
1X
(βt|t − βt|t−1 )(βt|t − βt|t−1 )0
T t=1
各行の等式または近似については以下に示される。
1 行目の等式は (2.4) 式から明かである。
3 行目の等式は (2.10) 式から、
T
T
1X
1X
(Σt|t−1 − Σt|t ) =
kt Ft|t−1 kt0
T t=1
T t=1
が成り立つ。
4 行目の近似は、(2.11) 式の 3 行目の右辺第 2 項を無視して、Ft|t−1 を (yt − yt|t−1 )2 で置き換えて近似される9 。
5 行目の等式は (2.9) 式から
T
T
1X
1X
(βt|t − βt|t−1 )(βt|t − βt|t−1 )0 =
kt (yt − yt|t−1 )2 kt0
T t=1
T t=1
成り立つ。
このように、ステップ (3) の Q を R とみなすことができる。しかし、R = λQ として、λ を推定する。また、Q
を固定して、R の各要素間の比率を一定としたのは、推定すべきパラメータの数を減らすためである。正値定符号行
列という条件のもとに、サーチ法で R の各要素を推定することは計算時間が極端に増加して、プログラムも煩雑に
なるので10 、以降の章では、単純化のために、Q を一定におき λ について最大化を行う。
ステップ (5) で採用された σ² のニュートン・ラプソン法について述べておく。(1.27) 式をもとにして対数尤度関数
L は、この場合
T
T
T
1X
1 X (yt − yt|t−1 )2
L = − log(2π) −
log(Ft|t−1 ) −
2
2 t=1
2 t=1
Ft|t−1
として書き表される。yt|t−1 , Ft|t−1 は (2.6) 式, (2.7) 式によって示されていることに注意せよ。σ² について、1 階微
分 D(·) と 2 階微分の期待値 S(·) を求めると、それぞれ、
T
X
¡ σ²
σ² (yt − yt|t−1 )2 ¢
D(σ² ) = −
−
2
Ft|t−1
Ft|t−1
t=1
S(σ² ) = −
9
10
T
X
2σ²2
F2
t=1 t|t−1
予測誤差 (yt − yt|t−1 ) の分散は Ft|t−1 であることに注意せよ。すなわち、E(yt − yt|t−1 )2 = Ft|t−1 が成り立つ。
本書では触れないが、R の全部の要素を推定しても、βt の推定値 βt|t , βt|T にはほとんど影響しなかった。
47
(i)
となる。σ²
を第 i 回目の収束計算で得られた値とする。第 (i + 1) 回目の値は
(i)
σ²(i+1) = σ²(i) −
D(σ² )
(i)
S(σ² )
(i+1)
によって、新たに、σ²
へと更新される。この過程を収束するまで繰り返す。
このように、ステップ (5) では計算される。
以上が、第 3 章 ∼ 第 6 章で使われる推定方法である。第 7 章では日米マクロ・モデルの同時方程式体系を扱うの
で、推定方法を操作変数を伴ったフィルタリング・アルゴリズムへ修正する。詳しくは、7.1 節で述べる。
48
第 3 章 可変パラメータ・モデルによる分析 I1
− 消費関数の推定 −
消費支出は国民総生産の約 6 割を占め、研究の対象とされ易くこれまで様々な文献が発表されてきた。この発端と
なったのが、言うまでもなく、1936 年の Keynes(1936) であった。その後、統計的情報の発達によって、「景気循環
の過程や任意の時点における各家計について消費と所得の比率は所得水準の変化と負の相関を持つが、長期間につ
いては所得が上昇するにつれてこの比率の低下傾向は見られない」という興味深い事実が明らかになった。この事実
を説明しようとする試みが Duesenberry(1949), Modigliani and Brumberg(1954), Friedman(1957) によってなされ、
それぞれは相対所得仮説 (relative income hypothesis), ライフ・サイクル仮説 (life cycle hypothesis), 恒常所得仮説
(permanent income hypothesis) として知られている。その他にも、Sidrauski(1967), Hall(1978), Stockman(1981) 等
数多くの文献が見つけられる。
本章では、3 つの消費関数をとりあげ、日米について同じ関数形で推定する。それらは、絶対所得仮説といわれる
Keynes 型消費関数 (可処分所得のみによって消費を説明する), 習慣形成仮説 (habit persistence hypothesis) に基づい
た消費関数 (可処分所得と一期前の消費を含める), 資産効果を考慮に入れた消費関数 (可処分所得と一期前の貨幣供給
量) である。
3.1 消費関数 I
まず、ケインズ型消費関数または長期の消費関数を推定する。推定方法は最小自乗法 (OLS), コクラン=オーカッ
ト法 (C-O)
2
, カルマン・フィルタリング推定量とスムージング推定量 (K-Filter) である3 。
1 本章から第 7 章までは、谷崎 (1987a, 1987b) に基づいている。各章の推定方程式の理論的背景については、Branson(1979), Pindyck and
Rubinfeld(1991), 井上 (1983), 小川・玉岡・得津 (1991), 置塩・野沢 (1983), 斎藤 (1985), 浜田・黒田・堀内 (1987), 森 (1976), 森田 (1970)
等の他の文献に譲る。また、パラメータ変動のためには歴史的背景を知る必要があるが、参考文献としては毎日新聞社 (1993), 日本経済研究セン
ター (1992), 森口 (1988) が適当である。
第 3 章 ∼ 第 6 章では、消費関数, 投資関数, 貨幣需要関数, 輸出関数をそれぞれ日米両国のデータを用いて同じ関数形を推定する。また、第 3
章 ∼ 第 7 章で使われる変数やデータについては、本書の最後の変数名リストとデータ・リストを見よ。原則として、米国のデータやパラメータ
には右肩に*をつける。
2 実際には、コクラン=オーカット法を採用していない。しかし、撹乱項に 1 階の自己相関がある場合の推定には、コクラン=オーカット法が
最も有名であるので、この呼び名を用いた。
MicroTSP Ver.7.0 を用いて推定を行い、その推定方法は Rao and Griliches(1969) に基づき、次の通りである。回帰モデルを
yt = xt β + ²t
²t = ρ²t−1 + et
として、撹乱項 et , t = 2, · · · , T , は独立で同じ分布をすると仮定する。²t を消去すると、次の非線形モデル
yt = ρyt−1 + xt β − xt−1 ρβ + et
として書き直される。MicroTSP はこの非線形モデルの ρ と β を推定する。この場合、ρ の推定値が 1 を超えることもあり得ることに注意せよ。
3
各推定結果の記号について、記しておく。
OLS と C-O について、各係数の下の括弧はその係数の推定値の標準誤差を示す。R2 , se, DW , log(L) は自由度修正済み決定係数, 撹乱項の
標準誤差, ダービン=ワトソン比, 撹乱項に正規分布を仮定した場合の尤度関数の推定値をそれぞれ表す。
C-O について、ρ は 1 階の自己相関の推定値を表す。
K-Filter に関して、β0|0 , Σ0|0 は状態変数の初期値とその分散の値を示す。R は第 1 章の (1.5) 式の ηt の分散の推定値を表し、パラメータの
変動が激しければ R の各要素の値は大きくなる。さらに、log(L) は最初の k 個のデータを除いて計算されたイノヴェーション・フォームの尤度
関数の推定値の値 (第 2 章の 2.3 節で既に述べた通りである) であり、右隣の括弧の値は R = 0, β0|0 と ση には OLS で得られた推定値を代入し
て同じく最初の k 個のデータを無視して得られた尤度関数 (すなわち、これは全部のデータを用いて OLS で推定し、最初の k 個のデータを除い
て算出された尤度関数の値に等しい) である。時間に関する各パラメータの変動については、フィルタリングとスムージングのプロットを共に同
じグラフに示しておく。実際に推定を行うと、スムージングに比べて、フィルタリングは初期値に近いほど変動は激しくなることがわかる。以降、
パラメータの推移等の分析にはスムージング推定値を使う。フィルタリング推定値は参考程度に載せておく。
49
まずは、日本の消費関数から推定する。
³
3.1.1 日本の消費関数: Ct = f Y dt
´
4
日本の貯蓄率は世界的にも高いと言われているが、国民経済計算年報によると 1976 年以降低下傾向にある。この
事実を可変パラメータ・モデルを使って、限界消費性向を推定し、調べる。
OLS
Ct = − 1586.0 + 0.83863 Y dt
(1186.2)
(0.00691)
2
R = 0.9917, se = 5092.9, DW = 0.290, log(L) = −1233.4
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
C-O
Ct =
18527442
+ 0.18560 Y dt
(756905865)
(0.03241)
ρ = 0.9999, se = 1319.7, DW = 2.015
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
K-Filter
初期値: β0|0 =
µ
µ
2241.8
0.81930
¶
¶
21634000000 −116350
Σ0|0 =
−116350
0.73505
µ
¶
843710
−13.409
se = 1108.5, R =
−13.409 0.00022634
log(L) = −1108.8 (−1220.8)
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
4
関数 f (·) は、定数項を含む線形関数であるということを表すのもとする。すなわち、
f (x) = α + βx
f (x, y) = α + βx + γy
..
.
のように表される。ただし、α, β, γ は推定されるべきパラメータを表す。
50
図 1.1.1 日本の消費関数 − 定数項 α の変動 −
関数形:C = α + βY d
15000
10000
5000
0
•
••
••
• •◦
•
◦••
◦
◦ ◦•
•
• •
◦◦
•◦
◦
◦◦◦• ◦ •
•
◦
••
◦
◦◦ •
•
•
•
•
•
•
•• ◦
•
◦◦
◦
•
• •• • ••• ◦
◦••• ••• ◦••
◦
•• ◦ •
•
• ◦ •
•• •
◦ ◦ ◦◦ ◦ •• •
◦
••
◦ ◦◦
◦
•
◦
◦◦◦
◦
•• • •• • ••
◦
◦ ◦ ◦ ◦◦
•
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•
◦◦ ◦ • • • •• ••
◦
•••••••
◦
◦
•
◦•◦ ◦ ◦
•
•
◦
• •
• •
••
◦
◦◦
•
◦
◦◦◦• •• •◦• •
◦
◦
•
•
◦ ••
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◦
◦ ◦◦
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•
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◦
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•
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•
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◦◦ ◦ • ◦
◦ ◦ ◦
◦ ◦
◦••••••• ◦
•••
◦ ◦ ◦ ◦ ◦••
◦◦◦
◦◦
◦ ◦◦
◦
◦◦
◦ •
◦
◦
◦
◦◦◦ ◦ ◦
◦
◦
◦
◦ ◦
◦
◦
◦
-5000
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 1.1.2 日本の消費関数 − Y d の係数 β の変動 −
関数形:C = α + βY d
1.0
0.8
◦
◦◦
◦
◦ ◦
◦
◦
◦◦ ◦◦◦◦◦ ◦ ◦◦ •
◦◦
• •• ◦◦◦ ◦◦ ◦ ◦
◦◦◦
◦ ◦
•••
◦••••••••
••
◦•••••••••••••••
•◦••••••◦•◦ ◦ ◦◦•◦◦•◦◦◦
◦
•
◦◦ ◦ ◦ ◦
• •••◦•• •• ••• ◦
◦
•
◦
•◦
◦
••
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◦•
◦•
◦◦ •
◦
◦•
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•◦•
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◦◦
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◦◦ •
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◦•
◦◦ •
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••
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◦
•
•
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◦
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◦•◦•
◦•
◦•
•◦◦•
•
◦• • •
◦•
◦•
•
◦•◦ •
◦•◦
◦◦ ◦
••
◦•
◦◦
••
•••
◦•
◦•◦
◦•
◦•
•
◦
•◦
◦
0.6
0.4
0.2
0.0
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
定数項は基礎消費、Y d の係数は限界消費性向として知られている。図 1.1.1 は定数項の変動、図 1.1.2 は可処分所得
Y d の係数の変動を表す。多くの研究で消費関数はかなり安定的であるという結果が得られているが、可変パラメー
タ・モデルにおいても、図 1.1.2 の限界消費性向では 0.8 前後のかなり安定的な結果がでている。しかし、限界消費
性向の値が第一次オイル・ショック (1973.4) の影響を受けて 1974 年から 1976 年あたりの期間に 0.7 位まで低下して
いるが、この事実は従来から知られている通りである (例えば、豊田 (1978) を参照せよ)。また、1975 年 ∼1976 年以
51
降、限界消費性向は上昇傾向 (すなわち、逆に限界貯蓄性向は減少傾向) にあるという事実も認められる。さらに、限
界消費性向は実質利子率, 年齢, 嗜好に依存すると考えられ、様々な角度からこの事実を実証しようという試みがな
されてきた (豊田 (1978), Ban(1982) 等)。ここでは、限界消費性向のスムージング推定値 βt|T を実質利子率 (rt − pt )
に回帰させて、限界消費性向が実質利子率に依存するかどうかを調べる。この場合、実質利子率の係数は消費の異時
点間の代替効果が所得効果を上回れば負、所得効果が代替効果を上回れば正となる。
OLS
βt|T =
0.7729 + 0.003555 (rt − pt )
(0.0041)
(0.000772)
R2 = 0.1421, se = 0.0359, DW = 0.212, log(L) = 235.8
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
C-O
βt|T =
0.7907 + 0.000457 (rt − pt )
(0.0270)
(0.000225)
ρ = 0.9685, se = 0.0102, DW = 1.986
推定期間:1960.3 ∼ 1990.4
推定結果から、実質利子率は限界消費性向に統計的に有意に影響を及ぼしているのは明かである。また、実質利子率
の係数の符号が正であることから、消費の異時点間の所得効果は代替効果を上回っていると結論できる。定数項は限
界消費性向の実質利子率に影響されない部分を示す。OLS の結果では決定係数がかなり低い値となっているが、これ
は限界消費性向の変動を説明するのに実質利子率だけではなくそれ以外の他の要因5 にも依存するためであると考え
られる。
次に、米国の消費関数を推定する。同様に、ケインズ型消費関数の定式化を行う。
³
3.1.2 米国の消費関数: Ct∗ = f Y d∗t
´
米国のデータを用い、OLS, C-O, K-Filter によって、前節で行ったのと同じ推定期間で、ケインズ型消費関数を推
定する。さらに、スムージングによって推定された限界消費性向の値を実質利子率に回帰させて、米国の限界消費性
向が実質利子率に依存するかどうかを調べる。
OLS
Ct∗ = − 61.441 + 0.93896 Y d∗t
(11.380)
(0.00506)
2
R = 0.9964, se = 33.487, DW = 0.339, log(L) = −610.32
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
C-O
Ct∗ = − 1685.8 + 0.29145 Y d∗t
(2929.3)
(0.05596)
ρ = 1.0034, se = 13.534, DW = 2.149
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
5
限界消費性向の変動を説明する要因としては、斎藤・大鹿 (1979) によると、失業率, 有効求人倍率等をあげている。
52
K-Filter
初期値: β0|0 =
µ
µ
38.798
0.89934
¶
¶
1991300 −853.41
Σ0|0 =
−853.41 0.39320
µ
¶
400.82
−0.3264
se = 5.3472, R =
−0.3264 0.00026885
log(L) = −512.44 (−607.75)
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
図 1.2.1 米国の消費関数 − 定数項 α∗ の変動 −
関数形:C ∗ = α∗ + β ∗ Y d∗
500
◦◦
400
◦◦
◦
◦
◦
300
◦
200
100
0
◦
•••••
•••
••
•
•
•
•
◦
•
•••
◦
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•◦◦ •
• ••
•••••◦ ◦•••
••• •
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◦◦•
••
◦ •
•
◦
◦ ◦•
•
◦
•
◦
-100
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
53
1985
スムージング
1990
図 1.2.2 米国の消費関数 − Y d∗ の係数 β ∗ の変動 −
関数形:C ∗ = α∗ + β ∗ Y d∗
1.0
◦•
•
◦
◦◦ •
◦ •
•
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◦◦•
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•
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• ◦•
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•••
•◦◦•••
•• •◦
◦
•◦
•
••••
◦
•
◦• ••◦
••
•
••
••••••••• ◦
◦
◦◦
0.8
0.6
◦◦
◦
◦
◦
◦◦
0.4
0.2
0.0
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 1.2.2 によると、限界消費性向はある程度の上下の変動はあるが一貫して長期的には上昇傾向にあるようである。
最近では 0.9 程度で推移している。対して、定数項 (図 2.1.1) は逆に下降傾向を示している。限界消費性向が実質利
∗
子率に依存するかどうかを調べるため、限界消費性向 βt|T
を実質利子率 (rt∗ − p∗t ) に回帰する。
OLS
∗
βt|T
=
0.8269 + 0.008349 (rt∗ − p∗t )
(0.0053)
(0.001301)
2
R = 0.2479, se = 0.0455, DW = 0.220, log(L) = 206.7
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
C-O
∗
βt|T
=
0.8866 − 0.000019 (rt∗ − p∗t )
(0.0380)
(0.000591)
ρ = 0.9617, se = 0.0128, DW = 2.100
推定期間:1960.3 ∼ 1990.4
OLS の結果をみる限りでは、実質利子率の係数の統計的有意性と決定係数の値から判断して、実質利子率が限界
消費性向に与える影響は日本の場合よりも大きいといえるだろう。しかし、C-O の結果をみると、係数の有意性は低
く、実質利子率は限界消費性向に影響を与えないとすることもできる。
本節では、最も単純な定式化によって、消費関数を日米両国について推定した。限界消費性向の推移は両国にお
いて多少異なるが、ほぼ安定的な値を示した。日本では、オイル・ショック期に限界消費性向は下落し、その後徐々
に上昇傾向を辿っている。米国の限界消費性向は一貫して上昇傾向にある。OLS の結果から、日本の限界消費性向
は 0.83863 で、その中で実質利子率を除いた部分は 0.7729 となっているのに対し6 、米国の場合は限界消費性向が
0.93896 と日本の場合より高く、また実質利子率を除いた部分は 0.8269 となっている。それらの値の差、すなわち、
0.93896 − 0.8269 > 0.83863 − 0.7729 という結果から、米国の方が、限界消費性向の中で実質利子率に依存する部分
6
これは、日本の限界消費性向のスムージング推定値 βt|T に実質利子率 (r − p) を回帰させたときの推定結果である。前節を参照せよ。
54
は大きいということが言えるだろう7 。次に、別の関数形で消費関数を推定する。
3.2 消費関数 II
相対所得仮説とは、現在の消費水準は現在の所得だけでなく過去の最高所得にも依存するという仮説で、消費水準
の不可逆性8 を重視するものである。すなわち、消費者の消費習慣が消費行動に影響を与えるという仮説である。同
じ観点から出発して、本節では、習慣形成仮説に基づく消費関数を推定する。
習慣形成仮説によると、消費者はある望ましい消費水準を各時点にもっており、現在の所得をもとにこの望ましい
消費水準の実現に向けて消費を行うが、望ましい消費水準は一気に実現するのではなく、徐々に行われるというもの
である。消費関数の各係数の意味を明確にするために、この習慣形成仮説に基づいて消費関数を導出する。
e とする。このとき、
今期の所得を Y d, 現実の消費を C, 望ましい消費水準を C
e = a + bY d
C
の関係が成り立っていると想定する9 。また、現実の消費水準は次のような調整関数に従うと仮定する。
e − C−1 )
C = C−1 + λ(C
ただし、C−1 は前期の消費である。この調整関数の意味は次の通りである。今期の望ましい消費水準は今期の所得に
依存するが、現実の消費水準は前期の消費水準と望ましい消費水準との差の一定割合 λ を前期の消費に加えて決定さ
れるのである。今期の消費水準は前期の消費水準と望ましい消費水準との間に決定されるのである。すなわち、過去
の消費習慣が将来の消費行動に影響するということをである。この場合、調整係数 λ が 1 に近いほど、今期の消費水
e を消去すると、
準は望ましい水準に近づくことになり、今期の調整は大きいことを意味する。以上の 2 つの式から C
C = aλ + bλY d + (1 − λ)C−1
という消費関数が得られる10 。可処分所得の係数 (短期の限界消費性向) は b, λ に依存し、調整係数が上昇すれば短
期の限界消費性向も上昇する。また、前期の消費の係数 (習慣形成効果) も λ の関数であるが、調整係数が上昇すれ
ば習慣形成効果は下落する。
このような各係数の意味を踏まえながら、次に短期の消費関数 (習慣形成仮説に基づいた消費関数) を推定する。
³
´
3.2.1 日本の消費関数: Ct = f Y dt , Ct−1
3.1.1 節で推定した長期の消費関数の限界消費性向は、第 1 次オイル・ショック期に落ち込みが見られた。本節では、
短期の消費関数を推定し、限界消費性向の動きを長期と短期で比較する。
OLS
Ct =
954.76 + 0.05052 Y dt + 0.94290 Ct−1
(349.58)
(0.02127)
(0.02532)
R2 = 0.9993, se = 1447.2, DW = 2.037, log(L) = −1068.1
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
7 日本の場合、金利の自由化は 1970 年代後半以降のことであり、このため金利変数があまり限界消費性向に影響しなかったと考えることも可
能である。
8 これは以下のことを意味する。不況期に入って現在の所得が減少したからといっても、急に消費を減らすことはできず、過去の消費水準を維
持しようとする。
9 この関係式は長期の消費関数として考えることができ、前節で推定した消費関数と同じものとなる。そして、この場合、b は長期の限界消費
性向と呼ばれる。
10 被説明変数の一期前の変数を説明変数に加えた場合、一期前の変数の係数は調整度を表し、調整過程を関数の中に含めているという意味で短
期の関数と呼ばれる。それに対して、 遅れのある被説明変数を説明変数として含めなかった場合、現実値と最適値が等くなるという意味で長期の
関数と呼ばれる。よって、前節の消費関数は「長期の消費関数」、本節のものは「短期の消費関数」と呼ばれる。さらに、b を長期の限界消費性
向、bλ を短期の限界消費性向とそれぞれ呼ぶ。
55
K-Filter


−332.54


初期値: β0|0 =  0.083648 
0.91050

1848900000 −32410

Σ0|0 =  −32410
6.8463
27375
−8.1132

176080
25.893

0.0089329
se = 660.23, R =  25.893
−34.165 −0.011081
log(L) = −1029.5 (−1053.5)
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4

27375

−8.1132 
9.6990

−34.165

−0.011081 
0.013789
図 2.1.1 日本の消費関数 − 定数項 α の変動 −
関数形:C = α + βY d + γC−1
5000
4000
3000
2000
1000
0
◦◦
◦◦
•
◦ ◦
◦◦
◦◦
• ••
◦◦◦
••
•
◦◦
•
◦◦◦
•
•
•
•
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•
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•◦
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◦
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◦ •
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◦
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◦
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• ◦◦
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◦
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• ◦◦
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•
•
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•••
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◦
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◦•
•
◦◦
◦
◦
•••• ◦◦
◦
◦
-1000
◦
◦
◦ ◦◦
◦
◦◦ ◦◦
◦
-2000
-3000
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
56
1985
スムージング
1990
図 2.1.2 日本の消費関数 − Y d の係数 β の変動 −
関数形:C = α + βY d + γC−1
1.5
1.0
◦◦
0.5
0.0
◦
◦
◦
◦◦
◦◦ ◦
◦
•• •• ◦
◦
•• •
◦
◦
◦
•
◦◦
◦
◦◦ ◦
◦
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•
•
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◦◦
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•◦◦•
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◦ ◦ ••◦◦◦ •• ◦
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◦◦•◦ ◦ • • ◦•
◦◦◦◦
◦
◦◦••
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•••
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◦
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••
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••••••• ••
◦ ◦
◦
• ••
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◦◦
••
◦◦
•
◦
◦
•
••
◦
◦◦
◦ •
◦
••
•• ◦◦ •
•••••◦• ◦◦◦◦
◦
◦◦
◦
-0.5
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 2.1.3 日本の消費関数 − C−1 の係数 γ の変動 −
関数形:C = α + βY d + γC−1
1.5
1.0
0.5
◦
◦◦
◦
•••• ◦◦◦◦
•••
◦
•
◦
•
◦◦
•
•
•
◦
◦◦
••
•
◦◦
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•••
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◦◦•◦ ◦ • • ◦
•••◦ ••
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•• • •••
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◦
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◦
◦◦ ◦ ◦◦◦
◦
◦◦ ◦
••
◦
◦
•
•
◦◦◦
• •• ◦
◦
0.0
◦
◦◦
-0.5
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 1.1.2 と図 2.1.2 を比べると、調整が完全ではない短期の限界消費性向と調整が完全に行われる長期の限界消費性
向とでは、その変動傾向は異なるということがわかる。短期の限界消費性向は、1967 年まで減少傾向、その後 1974
年までは上昇傾向、1975 年あたりからは多少の変動はあるものの一定の値で推移している。長期の限界消費性向は第
1 次オイル・ショック期に下落しているのに対し、短期の限界消費性向はその時期上昇していて、その動きは対称的
57
である。また、変動幅も異なり、短期では 0.0∼0.5、長期では 0.7∼0.85 となっており、短期の方がその変動幅は大き
い11 。
図 2.1.3 の一期前の消費水準の係数の変動の様子をみると、大きく 4 つの期間に分けられる。1960 年 ∼1967 年は
C−1 の係数は上昇傾向にあり、1967 年 ∼1974 年には反転して下降傾向、また 1974 年 ∼1976 年には上昇し、最後の
1976 年 ∼1990 年は上下しながらほぼ安定的に推移している。調整係数 λ からみると12 、この傾向はまったく逆にな
り、傾向としては短期の限界消費性向の推移 (図 2.1.2) に類似している。特に、オイル・ショック前後に短期の限界消
費性向の上昇、一期前の消費の下落が著しいが、この期間、消費者は大幅なインフレによって過去の習慣を参考にで
きなくなり、その期その期の所得のみによって消費が決定される傾向が強まったと解釈することができるだろう。
次に、米国の短期の消費関数を推定する。
³
∗
3.2.2 米国の消費関数: Ct∗ = f Y d∗t , Ct−1
´
米国の長期の限界消費性向は 1960 年以降上昇傾向を示しているということを 3.1.2 節で見た。本節では、短期の限
界消費性向を推定し、そのパラメータの変動を長期のものと比べる。
OLS
Ct∗ =
∗
1.6117 + 0.09542 Y d∗t + 0.90127 Ct−1
(5.8248)
(0.03754)
(0.03998)
2
R = 0.9993, se = 14.598, DW = 1.596, log(L) = −502.76
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
K-Filter


12.691


初期値: β0|0 =  0.046922 
0.94986


513310 −1827.3 1774.8


Σ0|0 =  −1827.3 21.316 −22.661 
1774.8 −22.661 24.177


22.426
0.29698
−0.34368


se = 9.507, R =  0.29698
0.013276 −0.014743 
−0.34368 −0.014743 0.016385
log(L) = −483.34 (−501.86)
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
11 この変動幅の違いは、K-Filter の推定結果の R を見てもわかる。R は (1.5) 式の撹乱項 η の分散共分散行列である。R の対角要素は対応す
t
るパラメータの撹乱項の分散を表す。よって、この対角要素の分散が大きければ、パラメータの変動も大きいということが言える。3.1.1 節の R
の第 2 行目第 2 列目の数字は 0.00022634 であり、本節の R の第 2 行目第 2 列目の要素は 0.013276 となっている。前者の値は後者のものより
も小さい。したがって、短期の限界消費性向の動きは、長期のものと比べて、激しいことがわかる。
12
一期前の消費支出の係数は (1 − λ) であるため、調整係数 λ の変動傾向は図 2.1.3 に表されるのものとは全く逆の変動傾向になる。
58
図 2.2.1 米国の消費関数 − 定数項 α∗ の変動 −
∗
関数形:C ∗ = α∗ + β ∗ Y d∗ + γ ∗ C−1
100
◦
◦
◦◦
80
60
40
◦
◦◦
◦◦
◦◦
◦
◦◦◦◦◦ ◦◦
◦
◦
•
•
◦◦
• • ••
••◦•
◦
◦
•
◦ ◦◦
•
•• ◦ ◦
◦
◦
•
•
◦
•
• ◦◦ ◦
••
•
•
◦
•
•
•
•
•
••••••••••••••••••••••••
•
•
•
•
••••• •
•••
•
•••
◦
••
◦◦ ◦◦◦
••••••••• ••••••
◦•
◦
◦◦
◦◦◦
•
•••
◦
◦
◦
◦
•
◦
◦◦
◦
◦
◦◦
•
◦◦◦◦◦
◦◦
◦
◦
◦
◦
◦
◦◦ ◦◦
•
••
◦◦
◦
• •
◦◦
◦
•
•◦ •
◦•
◦
•
◦
• •
◦◦
◦ ◦• •
•
◦•
•
◦
◦
•
•
◦
•◦
◦
◦
◦
•• • ◦
•
•
••◦
•
•
◦
•• ◦
◦
◦•
◦ •
◦
◦
◦ ◦◦
◦◦
◦◦
◦
◦◦◦
◦◦ ◦
20
0
-20
◦
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 2.2.2 米国の消費関数 − Y d∗ の係数 β ∗ の変動 −
∗
関数形:C ∗ = α∗ + β ∗ Y d∗ + γ ∗ C−1
1.5
1.0
◦
◦
◦
◦◦◦
◦
•
◦◦
•••
◦
•
•• ••••◦ • ◦◦
••
◦
◦
◦ •• ◦
•
◦
◦◦ ••
◦◦◦ ◦ •
◦◦◦◦
◦•
••
◦
◦◦◦◦◦
◦◦ •
◦
◦◦
•
◦ ◦
◦◦◦◦
••••••◦ •◦
•• ◦◦
•
•
◦••
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◦•••
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◦••
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• ◦ ◦ •• •
• ◦◦
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◦ •••
◦◦
◦•
◦•
◦
• ◦
◦ ◦◦
◦•
◦
0.5
0.0
◦
◦
-0.5
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
59
1985
スムージング
1990
∗
図 2.2.3 米国の消費関数 − C−1
の係数 γ ∗ の変動 −
∗
関数形:C ∗ = α∗ + β ∗ Y d∗ + γ ∗ C−1
1.5
◦
◦
1.0
0.5
◦
◦◦
◦
◦
◦
••• ◦
◦ ••
•
◦
◦ •◦
•
•
•
•
◦
•••
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0.0
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◦
-0.5
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
まず、OLS について日米比較を行う。日本の短期の限界消費性向は 0.05052 であり、米国の短期の限界消費性向の
値は 0.09542 であるため、米国の限界消費性向は日本のものより大きい。また、習慣的効果を表す消費の一期前の係
数は、日本で 0.9429, 米国で 0.90127 となっており、日本の消費関数は過去の消費習慣に依存する部分が大きいとい
えるだろう13 。
次に可変パラメータによる結果を調べる。習慣効果を表す図 2.2.3 によると、1974 年 ∼1980 年と 1985 年 ∼1990 年
に一期前の消費の係数が大きく下降している。最初の期間は第一次オイル・ショックから第二次オイル・ショックまで
の期間に対応し、図から判断して日本はそれほど影響なかった第二次オイル・ショックに米国は不況に悩まされていた
ことを意味する14 。また、最近の米国の不況を反映して 1985 年以降一期前の消費の影響が薄れているようである。
日米どちらの場合についても、短期の限界消費性向は長期の限界消費性向より変動が激しく、不況期には短期の限
界消費性向が上昇する傾向がある。逆に、不況期に習慣的効果が落ち込む傾向も見られる。
本章の最後に、消費を可処分所得と一期前の貨幣供給量で回帰させる。一期前の貨幣供給量 (M 1+ 準通貨,1985 年
価格) を家計の金融資産とみなし、資産効果を含めて消費関数を推定する。
3.3 消費関数 III
本節では、貨幣供給量 (M 1+ 準通貨) を消費の決定要因の一つとみなす。貨幣供給量を含めることの意味付けは、
Modigliani and Brumberg(1954) のライフ・サイクル仮説, Stockman(1981) のキャッシュ・イン・アドヴァンス・モ
デル (cash-in-advance model), Sidrauski(1967) による効用関数に貨幣を入れるモデル等が考えられる。
ライフ・サイクル仮説によると、
「人々の消費行動は短期的視野に基づいて行われるのではなく、将来何年間働くの
か、退職後何年間生活するのか、資産をどのように保有するか等を考慮にいれて、長期的視野に基づいて行われる」
13
くだけた言葉で書き表すと、米国の方がその日暮らしの人々が多いということになるだろう。
14 図 2.2.2 の短期の限界消費性向の変動は、1970 年後半から 1972 年後半, 1974 年初期から 1979 年後半, 1985 年半ばから 1990 年にそれぞれ
上昇傾向にある。この時期、Deibold and Rudebusch(1990), Diebold and Rudebusch(1992) に利用されている NBER(National Bureau of
Economic Research) の景気循環年表によると、いずれも谷から山にかけて経済の拡張期に対応していることがわかる。
60
というものである。この仮説のもとで消費関数を導き出すと
C = aY d + bW
となる。C, Y d, W はそれぞれ消費, 所得, 資産を表し、a, b は係数パラメータである。特に、b は社会全体の人工構
成, それぞれの世代の消費パターンによって決定される15 。資産には、在庫, 純固定資産, 土地, 現金通貨・通貨性預
金等の金融資産等があるが、本節では、M 1 と準通貨のみからなる金融資産を資産とみなす。
さらに、貨幣供給量を消費関数に含めることの別の理由付けは、Stockman(1981) のキャッシュ・イン・アドヴァン
ス・モデルによる。このモデルは流動性制約 (liquidity constraint) のもとで貨幣は消費に影響を与えるというもので
あり、貨幣保有が減少すれば、財を購入できなくなるため、消費も減少する
以上の理由から、本節では、(M 1+ 準通貨)を消費関数に含めて推定する。短期, 長期の区別をすると、ここで得
られる Y d の係数は短期の限界消費性向となる。貨幣供給量を資産として考えるならば、資産は所得が増加するにつ
れて増加するので、長期的には資産は所得の一次関数であると考えられる。
³
3.3.1 日本の消費関数: Ct = f Y dt , M 1t−1
´
前節の消費関数は短期の消費関数と呼ばれ、可処分所得の係数は短期の限界消費性向と呼ばれる。本節で推定され
る消費関数もまた、短期の消費関数として知られ、前節のパラメータの変動パターンとの違いを考察する。
OLS
Ct =
8713.5 + 0.61367 Y dt + 0.13752 M 1t−1
(874.74)
(0.01339)
(0.00784)
2
R = 0.9976, se = 2716.0, DW = 0.597, log(L) = −1145.6
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
C-O
Ct =
304288 + 0.17059 Y dt + 0.12103 M 1t−1
(334801)
(0.03200)
(0.04564)
ρ = 0.9963, se = 1283.6, DW = 2.172
推定期間:1960.3 ∼ 1990.4
K-Filter
15


5939.3


初期値: β0|0 =  0.64235 
0.12585


11576000000 −149020
70429


2.7113 −1.5246 
Σ0|0 =  −149020
70429
−1.5246 0.92949


117930
−49.214
37.942


se = 632.18, R =  −49.214 0.0022644 −0.0018495 
37.942 −0.0018495 0.0015622
log(L) = −1048.7 (−1129.7)
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
このあたりの詳細については、小川・玉岡・得津 (1991) を参照せよ。
61
図 3.1.1 日本の消費関数 − 定数項 α の変動 −
関数形:C = α + βY d + γM 1−1
16000
14000
12000
10000
8000
6000
◦
◦
◦
◦◦
◦
◦
◦
◦◦
4000
2000
◦
•• ◦
•
••
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•••
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◦◦ ◦
◦
◦
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◦
◦
0
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 3.1.2 日本の消費関数 − Y d の係数 β の変動 −
関数形:C = α + βY d + γM 1−1
1.5
1.0
◦
◦
◦
◦
◦◦ ◦◦ ◦
◦◦
◦◦
◦
◦ ◦◦◦
◦ ◦◦◦◦◦◦ •
• ◦◦
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◦ • ◦◦◦
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•••
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•
◦ ◦
◦••◦
•• ◦◦◦
◦◦◦
◦
◦◦◦
◦◦◦
◦
◦◦
0.5
0.0
-0.5
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
62
1985
スムージング
1990
図 3.1.3 日本の消費関数 − M 1−1 の係数 γ の変動 −
関数形:C = α + βY d + γM 1−1
1.5
1.0
◦
◦◦◦
◦◦
◦◦ ◦ ◦
◦◦◦ ◦
•
•
•••◦
••◦ ◦ ••
◦◦◦◦
••
◦
••••
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◦◦◦•
◦•
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◦◦◦◦◦•
◦•
◦
◦
◦
◦◦
0.5
◦
◦
0.0
-0.5
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 3.1.2 は、1968 年までの減少傾向, 1975 年あたりの突然の上昇, また 1977 年以降のなだらかな上昇傾向がみられ
る。短期の限界消費性向の動きについて、1975 年頃の急上昇は、図 2.1.2 で見られる程顕著ではないが、図 3.1.2 で
もまた見られる。図 3.1.3 については、1960 年 ∼1968 年, 1975 年 ∼1977 年の上昇傾向、1968 年 ∼1975 年, 1977 年
∼1990 年の減少傾向となっている。しかし、両方の係数についても約 0.4 前後と安定的である。第一次オイル・ショッ
クの影響と考えられる 1974 年後半に、限界消費性向の急騰, 資産効果の急落は、やはり所得のみで消費生活を切り抜
けようという傾向が強まったためとみられる。それは、物価の急騰により、資産価値の下落、資産への依存度の低下
を通して、相対的に所得の影響度の増大という結果につながったものと見られる。
³
3.3.2 米国の消費関数: Ct∗ = f Y d∗t , M 1∗t−1
´
日本の消費関数の場合、短期の限界消費性向, 資産効果共に 0.4 前後の値で安定的に推移している。米国について
も同様の推定を行う。
OLS
Ct∗ =
50.458 + 0.59987 Y d∗t + 0.28027 M 1∗t−1
(11.815)
(0.02713)
(0.02217)
R2 = 0.9853, se = 21.875, DW = 0.490, log(L) = −552.51
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
C-O
Ct∗ =
104113
(6441083)
+ 0.25482 Y d∗t + 0.19779 M 1∗t−1
(0.05538)
(0.05726)
ρ = 0.9999, se = 13.072, DW = 2.351
推定期間:1960.3 ∼ 1990.4
63
K-Filter


147.01


初期値: β0|0 =  0.51880 
0.32114

2112100

Σ0|0 =  −4072.7
3051.2

653.17

se = 4.261, R =  −1.8061
1.4153
log(L) = −480.93 (−550.36)
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
300
200
100

−1.8061
1.4153

0.0058359 −0.0048321 
−0.0048321 0.0040713
図 3.2.1 米国の消費関数 − 定数項 α の変動 −
関数形:C ∗ = α∗ + β ∗ Y d∗ + γ ∗ M 1∗−1
500
400

−4072.7 3051.2

11.132 −9.0289 
−9.0289 7.4358
◦◦
◦
◦
◦
◦◦
◦
◦
◦◦ ◦
◦
◦
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0
-100
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
64
1985
スムージング
1990
図 3.2.2 米国の消費関数 − Y d∗ の係数 β の変動 −
関数形:C ∗ = α∗ + β ∗ Y d∗ + γ ∗ M 1∗−1
1.5
1.0
0.5
0.0
◦◦◦
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•••
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-0.5
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 3.2.3 米国の消費関数 − M 1∗−1 の係数 γ の変動 −
関数形:C ∗ = α∗ + β ∗ Y d∗ + γ ∗ M 1∗−1
1.5
1.0
0.5
0.0
◦
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••••
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-0.5
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
日本の場合、可処分所得や貨幣供給量が消費に与える効果はほぼ安定的であったのに対し、米国では、図 3.2.2, 図
3.2.3 によると、貨幣供給量の消費に与える効果は徐々に増加傾向にあり、限界消費性向はかなり変動的である。しか
し、前節の可処分所得と一期前の消費を説明変数とした消費関数で得られた各係数の変動と比較すると、本節で得ら
れた推定結果はより安定的なパラメータの推移を示している。すなわち、図 2.2.2 の限界消費性向の変動幅を小さく
したものが図 3.2.2 の限界消費性向の推移となっているようである。流動性制約の面からみれば、もし流動性制約が
65
なければ貨幣供給量は消費に影響を与えないという事実から判断して、米国では 1960 年代には流動性の制約にかか
らないように消費を差し控えていた16 が 1970 年代以降は流動性の制約が強まった17 ということである。
以上のように、本章では 3 つのタイプの消費関数を推定した。長期の限界消費性向について、日本では第一次オイ
ル・ショック期に落ち込みがあるが、米国では推定期間を通して上下しながら上昇傾向にある。また、長期の限界消
費性向に与える金利の影響は米国の方が日本より大きいという結果が得られた。短期の限界消費性向について、日本
では逆に第一次オイル・ショック期に上昇しその後はほぼ一定であるが、米国ではかなり変動が激しく第二次オイル・
ショックの頃に大きな山がある。また、習慣的効果については、日本でかつてない 1973 年のオイル・ショックに過去
の消費行動を参考にできなくなった様子がうかがえ、米国では第二次オイル・ショックや最近にそれが現れている。さ
らに、資産効果や流動性制約の面から消費行動を分析すると、日本では推定期間を通して銀行預金等の金融資産を考
慮に入れながら計画的に消費をしているのに対し、米国では 1970 年代以降になって初めてその傾向が現れている。
次の章では、投資行動について分析する。
16
流動性制約がないということは、手持ちのお金だけ (所得のみ) で品物を購入するということを意味する。
17
資産を取り崩して品物を購入する、または、銀行にお金があればばそれをその場で使うという家計が増えたことを意味する。
66
第 4 章 可変パラメータ・モデルによる分析 II
− 投資関数の推定 −
国民総生産 (GNP) の構成要素として最も大きなものは消費であるが、消費の伸び率は GNP 成長率が高い (低い)
ときには低く (高く) なる傾向があり、非常に安定的な成長率を示し景気を下支えする役割がある。成長率の観点から
みれば、投資の伸び率は大きく変動し、GNP の変動の大きな要因となっている (例えば、小川・玉岡・得津 (1991),
日本経済研究センター (1992) を参照せよ)。本章では、経済変動に重要な要因の 1 つとなる投資関数を 2 つの関数形
で推定し、パラメータ変動を分析する。
4.1 投資関数 I
投資関数の理論としては、加速度原理, ストック調整原理, ジョルゲンソンの投資理論 (Jorgenson(1963)), トービ
ンの q 理論 (Tobin and Brainard(1977)) 等がある。しかし、これらの理論の基になっているのは、やはりケインズで
ある。そこでは、「投資の限界効率」という概念が導入される。投資の限界効率とは、ある投資から得られる将来収
益の割引現在価値がその投資費用に等しくなるような割引率として定義される。すなわち、It をその投資費用, Rt+i ,
i = 0, · · · , n, を収益, ρ を投資の限界効率としたとき、投資の限界効率とは次の式を満たす ρ として定義される。
Rt+2
Rt+n
Rt+1
+
+ ··· +
It = Rt +
2
1 + ρ (1 + ρ)
(1 + ρ)n
さらに、P Vt を t 期の投資から得られる割引現在価値, r を利子率としたとき、t 期の投資から得られる将来の収益の
割引現在価値 P Vt は以下のように表される。
Rt+2
Rt+1
Rt+n
+
P V t = Rt +
+ ··· +
1 + r (1 + r)2
(1 + r)n
将来収益の割引現在価値 P Vt と利子率 r との関係、投資費用 It と限界効率 ρ との関係はそれぞれ、以上の 2 つの関
係式によって表されることが分かった。この 2 つの式から投資行動が決定される。ある投資から得られる将来収益の
割引現在価値 P Vt がその投資にかかる費用 It より大きい場合、投資は行われる。言い換えれば、限界効率 ρ が利子
率 r より大きい場合、その投資計画は実行されるのである。そして、利子率と限界効率が一致するところまで投資は
行われる。企業はいくつかの投資計画をもっており、それぞれは異なる限界効率である。投資は限界効率の高いもの
から順に実行され、投資額が増えれば (多くの投資計画が実行されれば) 限界効率は低下する。また、将来収益が増え
ると予想されれば割引現在価値も増加し投資額も増える。
このように、投資は予想収益と限界効率の関数となっていることがわかる。実際の計量分析においては、GNP を
予想収益の代理変数とみなし、利子率を限界効率とみなして、推定が行われる。本章では、投資を国民総支出と実質
利子率に線形回帰したもの (4.1 節)、投資と国民総支出に対数をとって回帰したもの (4.2 節) の 2 つのタイプの投資
関数を推定する。
³
4.1.1 日本の投資関数: It = f Yt , rt − pt
´
投資関数は消費関数と比べて変動が大きく、回帰分析では通常当てはまりや推定値の有意性・符号条件等の点から
良い結果が得られにくい。これは、以下に示す推定結果を前章の消費関数の推定結果と比べると明らかである。
問題点はあるがとりあえずは推定結果を見てみよう。
OLS
It = − 8205.5 + 0.1944 Yt − 70.419 (rt − pt )
(1193.5)
(0.0049)
(113.29)
R2 = 0.9292, se = 5248.6, DW = 0.029, log(L) = −1226.6
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
67
C-O
It = − 1938.2 + 0.1450 Yt − 12.215 (rt − pt )
(2226.4)
(0.0136)
(15.819)
ρ = 1.0682, se = 755.32, DW = 1.302
推定期間:1960.3 ∼ 1990.4
K-Filter


−5155.0


初期値: β0|0 =  0.18210 
39.574


21551000000 −75821 −503430000


0.35792
−629.97 
Σ0|0 =  −75821
−503430000 −629.97 194180000


319870
−3.2576
−6777.2


se = 344.46, R =  −3.2576 0.000038699 0.023173 
−6777.2
0.023173
946.22
log(L) = −994.29 (−1206.9)
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
図 1.1.1 日本の投資関数 − 定数項 α の変動 −
関数形:I = α + βY + γ(r − p)
5000
◦
◦
◦
◦
0
◦
-5000
-10000
◦
◦
◦◦
◦
◦
◦
◦◦
•••
•••••• ◦◦ ◦◦◦ •••
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•
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•
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◦•••
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• ◦
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•• ••
◦◦•
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◦
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•
•◦
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◦
• ◦
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•
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•••••••◦
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••••
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◦
◦
••
••◦
◦
◦
◦
•
◦
•
◦
•
◦•
◦•
◦
◦
•
-15000
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
68
1985
スムージング
1990
図 1.1.2 日本の投資関数 − Y の係数 β の変動 −
関数形:I = α + βY + γ(r − p)
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
◦
◦ ◦
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦◦ ◦
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•• ◦
◦•
◦◦◦◦••••
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦••• ◦◦
◦◦ ◦◦
◦
0.0
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 1.1.3 日本の投資関数 − (r − p) の係数 γ の変動 −
関数形:I = α + βY + γ(r − p)
200
100
0
-100
◦
◦◦
◦
◦
◦
◦
◦◦
•
◦
◦
•
◦◦◦◦◦
••••••
•
•
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◦◦
••• ◦
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◦• ••◦ •••
◦•
••••••••
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◦ ◦ ◦◦◦◦ •• ••••• ◦ ◦
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•••
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◦◦◦◦
•••
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• •• ◦◦
••
•••
◦
◦
◦ ◦◦◦ ◦
◦
◦◦
◦
◦◦
◦ ◦
◦ ◦◦◦
◦
-200
-300
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
OLS の結果によると、係数の符号条件は満たされているが、実質利子率の有意性は低い1 。また、自由度修正済み
決定係数 R2 は 0.9292 であり、前章の消費関数の結果と比べるとかなり低い。
1 係数の推定値の有意性を示すものは t 値である。この場合、実質利子率の係数推定値の t 値は 70.419/113.29 = 0.621 となっており、低い値
である。このように、特に日本の場合、長期の時系列データを扱って投資関数を推定するとあまり良い結果が得られない。多くの場合は、利子率
の係数に問題があるようである。一つの理由としては、データの問題である。金利が自由化され始めたのは 1970 年代半ば以降のことである。長
期の時系列データを扱った実証研究でよく用いられる金利は、本書でも用いられる「利付電電債利回り」である。他の金利 (例えば、
「全国銀行平
69
さらに、C-O では、1 を越える自己相関係数の推定値が得られた。
次に K-Filter の結果に注目する。図 1.1.2 の需要見込み要因 (ここでは、Yt に対応する) の係数パラメータの変動
では、かなり安定的に推移しているが、1966 年から 1970 年半ばまでの上昇傾向, 1983 年あたりからの上昇傾向が目
につく。最初の上昇傾向はいざなぎ景気に対応する。近年の上昇傾向は 1986 年以降の旺盛な内需拡大, 情報化の進展
への適応, 人手不足深刻化への対応等が増加要因であろう。また、この時期設備資金を自己資金で調達する割合が高
まったと言われている。そのため、図 1.1.3 によると、1988 年以降、実質利子率の係数が正に転じる現象が起こって
いる2 。しかし、金利の係数は 1960 年代後半から 1970 年代半ばにかけて係数値が絶対値においてやや大きく推定さ
れているが、それ以外の期間については金利は投資にほとんど影響を与えていない。この事実から、投資は金利要因
よりも需要要因に大きく左右されると結論づけられるであろう。
³
4.1.2 米国の投資関数: It∗ = f Yt∗ , rt∗ − p∗t
´
次に、米国の投資関数を同じ定式化で推定する。
OLS
It∗ = − 67.120 + 0.18544 Yt∗ − 1.64526 (rt∗ − p∗t )
(9.0140)
(0.00301)
(0.75523)
2
R = 0.9750, se = 23.175, DW = 0.208, log(L) = −559.61
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
C-O
It∗ =
240.75 + 0.3202 Yt∗ − 0.5637 (rt∗ − p∗t )
(1283.0)
(0.0279)
(0.4278)
ρ = 1.0045, se = 9.4214, DW = 2.212
推定期間:1960.3 ∼ 1990.4
K-Filter


−46.628


初期値: β0|0 =  0.17872 
−0.49658


1229300 −392.36 −30202


Σ0|0 =  −392.36 0.13740 −16.483 
30202
−16.483 8629.1


284.78
−0.13250
−8.1260


se = 3.701, R =  −0.13250 0.000064529 0.0023050 
−8.1260
0.0023050
1.1395
log(L) = −465.98 (−555.98)
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
均約定金利」) に比べて、比較的動きが大きいために、金利の代理変数として用いられることが多い。しかし、これが本当に投資に関連している
かどうかは疑問である。
この利子率に関する問題は、次章の貨幣需要関数についても同様のことが言える。
2 第 7 章のマクロ・モデルによる分析では、投資を一期前の国民総支出と一期前の実質利子率とで回帰させて、符号条件の正しい投資関数を推
定することができた。このとき、一期前の国民総支出の係数の動きは図 1.1.2 とほぼ同じ値で推移しているが、一期前の実質利子率の係数の変動
はその動きは 1975 年以降において大きく異なる。符号条件から判断して、第 7 章の投資関数がより現実を追っていると考えられる。
70
図 1.2.1 米国の投資関数 − 定数項 α∗ の変動 −
関数形:I ∗ = α∗ + β ∗ Y ∗ + γ ∗ (r∗ − p∗ )
200
◦
100
◦
0
-100
◦ ◦
◦
◦◦◦
◦
•
•••
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◦
◦◦
◦
◦◦ ◦◦◦
◦ ••
•
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••• •••• ••◦
••••
◦◦•
◦◦
••
◦◦ • •
•••
• ◦◦
◦
◦◦
-200
-300
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 1.2.2 米国の投資関数 − Y ∗ の係数 β ∗ の変動 −
関数形:I ∗ = α∗ + β ∗ Y ∗ + γ ∗ (r∗ − p∗ )
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
◦
◦•
◦•
◦◦◦
••
◦•
◦•
••
••
◦◦
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•••••••• ◦◦◦ ◦
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◦•
◦
◦
◦•
•••
◦
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦ ◦◦
◦◦•
◦
◦
0.0
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
71
1985
スムージング
1990
図 1.2.3 米国の投資関数 − (r∗ − p∗ ) の係数 γ ∗ の変動 −
関数形:I ∗ = α∗ + β ∗ Y ∗ + γ ∗ (r∗ − p∗ )
4
◦
3
◦
◦
2
◦
◦
◦
◦◦
◦
◦◦ ◦
◦
◦
◦
••
•• •
◦ ◦◦
•
• •••
•
• ◦◦◦◦◦◦◦◦
◦•
•• •
•
•◦
◦ ◦◦ ••
•••• ◦◦
◦
◦
••
•
••
◦
•
◦
◦
1
0
-1
••
◦◦
•• ••◦
◦
•◦ ••••••
◦◦ ◦
◦ ◦◦ ◦
•
◦◦ ◦◦ •
◦
◦
•
• •
• •
••
◦◦ ◦
• •
•
•
◦◦
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◦
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•◦ •
◦
◦
-2
◦
•• ◦ ◦◦
• •
•
••◦
◦
•• ◦
◦◦
•
•••
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•
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◦•
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◦•
◦•
•
◦
••
◦
◦
•◦◦•
•
◦◦◦
◦
◦
◦
◦
◦◦
◦
-3
-4
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
国民総生産の係数の OLS 推定値は、日本で 0.1944、米国で 0.1854 と共に同じような値が得られた。当てはまり、
係数の有意性の面からみると (OLS の結果から、日本の場合は決定係数が 0.9292 で利子率の係数の t 値が 0.621 で
あったのに対して、米国の場合は決定係数が 0.9750 で利子率の係数の t 値が 2.178 である)、米国の投資関数の推定
結果は日本のものよりも良い結果であるといえる。
図 1.2.2 の国民総支出の係数の変動については、日本の場合と同様に約 0.2 で安定的に推移している。しかし、1965
年半ばから 1966 年半ばにかけて、1973 年から 1975 年にかけて推定値にやや落ち込みが見られる。最初の落ち込み
はベトナム戦争に対応し、次の落ち込みは第一次オイル・ショックに対応する。
一方、図 1.2.3 の実質利子率の係数はかなり激しく変動している。多くの期間で利子率の係数の符号は正となって
いるが、この一つの原因としては、限界効率が利子率より十分大きい時期として解釈される。限界効率が十分大きけ
れば、利子率が少々増加してもまだ限界効率が利子率を上回っているため、投資は増え続ける。よって、このとき利
子率が増加しても投資は増えるということを意味する。すなわち、利子率の係数が正の時期には、企業は強気に投資
行動を行っていると言えるだろう。
次節では、投資と国民総支出に対数をとって、弾力性で各係数の変動を比較する。
4.2 投資関数 II
本節で推定する投資関数の各係数は、弾力性で表される3 。対数をとって消費を GNP で回帰させた場合、消費の
GNP に対する弾力性は日本の場合約 0.92 でほぼ安定的であるが、米国では約 1.12 と日本よりやや高い数字を示す
3 ただし、利子率の係数については半弾力性の 100 分の 1 で示される。投資の所得弾力性とは、所得が 1%増加したとき投資は何%増加するか
というものであるのに対して、投資の利子半弾力性とは利子率が 1 パーセント・ポイント増加すると投資は何%増加するかというものである。式
で示すと以下の通りである。
dY
Y = d log(Y )
dX
d log(X)
100
X
100
Y の X 弾力性 =
dY
Y = 100 d log(Y )
dX
dX
100
Y の X 半弾力性 =
72
4
。先に、消費の伸び率は GNP 成長率が高い (低い) ときには低く (高く) なる傾向があり非常に安定的な成長率を示
し景気を下支えする役割があるということを述べたが、日本についてはこれが成り立っている5 。また、投資の成長
率の変動は大きく GNP の成長率の重要な要因になっていることは統計データから明かであるが、弾力性を用いると
この事実が実証される。すなわち、投資の所得弾力性が 1 を超えることは、所得 1%の増加に対し投資はそれ以上の
割合で増加することなので、GNP 成長率より投資の成長率が大きいことを意味する。
³
4.2.1 日本の投資関数: log(It ) = f log(Yt ), rt − pt
´
OLS の推定結果は、投資の所得弾力性が 1.24 であり、投資の利子半弾力性が −0.413 であることを示している。1
を越える投資の所得弾力性は、国民総生産の変動よりも、投資の変動の方が激しいことを裏付けるものである。また、
投資の利子半弾力性が −0.413 であるということは、利子率が 1 パーセント・ポイント上昇すると、投資は 0.413%減
るということを表す。
OLS
log(It ) = − 4.8176 + 1.2385 log(Yt ) − 0.00413 (rt − pt )
(0.2236)
(0.0183)
(0.00230)
2
R = 0.9739, se = 0.1069, DW = 0.077, log(L) = 102.040
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
C-O
log(It ) = − 12.197 + 1.8094 log(Yt ) − 0.00058 (rt − pt )
(2.891)
(0.2162)
(0.00055)
ρ = 0.9852, se = 0.0250, DW = 1.202
推定期間:1960.3 ∼ 1990.4
K-Filter


−5.4573


初期値: β0|0 =  1.2904 
−0.0056465


756.13
−61.954
−0.26194


Σ0|0 =  −61.954
5.0915
−0.00017208 
−0.26194 −0.00017208
0.080041


0.091272
−0.0081750 −0.00017193


se = 0.0303, R =  −0.0081750 0.00073252 0.000014696 
−0.00017193 0.000014696 0.0000023917
log(L) = 192.27 (89.78)
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
ここでは、Y に投資がとられ、X には国民総支出 (弾力性の場合) や実質利子率 (半弾力性の場合) が代入される。半弾力性は、利子率のように、
データ X の単位がすでにパーセントで表されているものに使われる。
4
対数をとって、消費を国民総生産に回帰させた場合の OLS の推定結果を日米について記しておく。
日本の場合: log(Ct ) =
R2
0.4451
+
(0.0368)
0.9236 log(Yt )
(0.0030)
= 0.9987, se = 0.0179, DW = 0.269, log(L) = 323.6,
米国の場合: log(Ct∗ ) = − 1.4502
(0.0514)
+
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
1.1216 log(Yt∗ )
(0.0064)
R2 = 0.9960, se = 0.0186, DW = 0.221, log(L) = 319.2,
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
この推定結果は、国民総生産の成長率が 1%上昇したとき消費は、日本の場合で 0.92%、米国の場合で 1.12%の成長率の上昇ということを意味す
る。
5 日本の場合、消費の所得弾力性が 0.92 であり、消費の伸び率が GNP のそれより小さいことを意味する。よって、消費の伸び率は GNP 成
長率が高い (低い) ときには低く (高く) なる傾向があるということが言える。
73
図 2.1.1 日本の投資関数 − 定数項 α の変動 −
関数形:log(I) = α + βlog(Y ) + γ(r − p)
0
-5
◦
◦
◦
◦
•
• ◦
•
◦
•◦
◦
• •• ◦
••
◦◦
◦•
◦•
◦
••
••
◦•
◦•
•
◦•
◦•
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1970
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フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 2.1.2 日本の投資関数 − log(Y ) の係数 β の変動 −
関数形:log(I) = α + βlog(Y ) + γ(r − p)
2.5
◦
2.0
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1.0
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0.0
1960
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◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
74
1985
スムージング
1990
図 2.1.3 日本の投資関数 − (r − p) の係数 γ の変動 −
関数形:log(I) = α + βlog(Y ) + γ(r − p)
0.10
0.05
0.00
-0.05
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-0.10
◦
-0.15
-0.20
◦
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
可変パラメータみよる推定では、図 2.1.2 から、弾力性の値は 1.0 から 1.5 の範囲で変動していることがわかる。よっ
て、OLS の結果と同じく、投資は GNP の成長を増幅させる働きがあると言えるだろう。1965 年から 1966 年にかけ
ての所得弾力性の落ち込みは昭和 40 年不況に対応し、それ以降 1971 年までの増加傾向はいざなぎ景気、また 1979
年までのなだらかな減少傾向はドル・ショック, 第一次・第二次オイル・ショックの時期である。最近では緩やかな上
昇傾向を辿っている。以上の所得弾力性の変動に関する結果は、実際に得られたデータから算出された GNP 成長率
と投資の伸び率との関係に対応したものとなっている。すなわち、国民総生産の 1%上昇に対する投資の伸び率を表
す所得弾力性は景気に敏感に反応し、不況期に下落、好況期に上昇する。
次に、図 2.1.3 をみると、大きい時期 (1966 年) で、利子率の 1 パーセント・ポイントの引き上げにつき投資は 3%の
減少となっている。利子率の動きと推定値の変動との関連を調べると、一般的に低金利の時期に利子率が下がると、
利子率の 1 パーセント・ポイントの変動が投資に与える影響は高金利の時期に比べて大きくなるようである。高金利
の時代に 1 パーセント・ポイント金利が上がるのと、低金利の時代に 1 パーセント・ポイント上がるのとでは、同じ
1 パーセント・ポイントの変化でも投資に与える影響に差が生じるのは明かである。また、不況期には金利を下げて
経済の活性化を図ろうとするのが通常の政策であり、投資の利子率に対する半弾力性の値が低い時期 (絶対値でみる
と高い時期に相当する) は不況期に対応している。
本章の最後に、米国について同様の推定を行う。
³
4.2.2 米国の投資関数: log(It∗ ) = f log(Yt∗ ), rt∗ − p∗t
´
日本の投資の所得弾力性は 1.24、利子半弾力性は −0.413 という結果を前節の OLS の推定結果から得た。米国に
ついては、OLS の推定によると、所得弾力性が 1.15、利子半弾力性が −0.357 という結果となった。米国の値は絶対
値で日本のものよりもやや低いが大差はない。注目すべき点は、米国の消費の所得弾力性は 1.12 だったのに対して、
投資の所得弾力性は 1.15 であり、その差は小さい。日本に関しては、消費の所得弾力性は 0.92、投資は 1.24 と両者
の差は大きい。米国では、消費は投資と同じぐらい変動するのである。通常、消費は景気変動の安定化に寄与し、投
75
資は経済を牽引する役割をもつと言われているが、米国でこれは当てはまらないことになる。
OLS
log(It∗ ) = − 2.9879 + 1.1461 log(Yt∗ ) − 0.00357 (rt∗ − p∗t )
(0.1356)
(0.0171)
(0.00140)
2
R = 0.9777, se = 0.0442, DW = 0.218, log(L) = 210.721
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
C-O
log(It∗ ) = − 7.2468 + 1.6267 log(Yt∗ ) − 0.000924 (rt∗ − p∗t )
(2.6433)
(0.1763)
(0.000856)
ρ = 0.9968, se = 0.0188, DW = 1.788
推定期間:1960.3 ∼ 1990.4
K-Filter

−2.7255


初期値: β0|0 =  1.1133 
−0.0019180


278.31
−35.014
1.1627


4.4113
−0.15421 
Σ0|0 =  −35.014
1.1627 −0.15421 0.029550


0.086004
−0.011336 −0.00014375


se = 0.0111, R =  −0.011336
0.0014954
0.000016707 
−0.00014375 0.000016707 0.0000052070
log(L) = 271.00 (195.72)
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4

図 2.2.1 米国の投資関数 − 定数項 α∗ の変動 −
関数形:log(I ∗ ) = α∗ + β ∗ log(Y ∗ ) + γ ∗ (r∗ − p∗ )
10
5
◦
◦
0
◦
◦◦
••
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-5
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-10
1960
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◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
76
1985
スムージング
1990
図 2.2.2 米国の投資関数 − log(Y ∗ ) の係数 β ∗ の変動 −
関数形:log(I ∗ ) = α∗ + β ∗ log(Y ∗ ) + γ ∗ (r∗ − p∗ )
2.5
2.0
1.5
1.0
◦
◦◦◦
◦
◦◦ •••
◦•• • ◦
•••••
•
◦◦
••••• ◦ ◦◦◦ ••
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0.0
1960
1970
1965
フィルタリング
◦◦◦◦◦
◦
-0.05
•••••
1985
1990
スムージング
◦
◦
0.00
1980
図 2.2.3 米国の投資関数 − (r∗ − p∗ ) の係数 γ ∗ の変動 −
関数形:log(I ∗ ) = α∗ + β ∗ log(Y ∗ ) + γ ∗ (r∗ − p∗ )
0.10
0.05
1975
◦
◦
◦
•• ••◦
◦◦◦◦◦◦◦
••• ••
◦
◦
◦
◦
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•◦◦••
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-0.10
-0.15
-0.20
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 2.2.2 の所得弾力性の変動によると、日本と同様 1.0 から 1.5 の間で上下しながら動いている。所得弾力性の
下降時期はそれぞれ、ベトナム戦争 (1965∼1966)、第 1 次オイル・ショック (1973∼1975)、第 2 次オイル・ショック
(1979∼1982) に対応しているようである。投資の利子率に対する半弾力性 (図 2.2.3) については、-5%から 5%の範囲
にあり、日本より大きな値で激しく変動している。
77
投資関数の所得要因の係数推定値の変動は、経済の景気局面にかなり対応しているようである。しかし、利子率の
係数が、両国共にうまく推定されていない。OLS のような推定期間を通しての平均的な推定値の場合は符号条件が満
たされるが、可変パラメータ・モデルによるその時々の経済構造を推定する場合には符号条件の満たされない時期が
多々ある。この理由の一つとしては、先にも述べたが、データの問題がある。今期の投資を説明する需要要因として、
本章では、今期の国民総生産 (国民総支出)を選んだ。しかし、理論的には、国民総生産の代わりに将来の予想収益、
または需要見込を説明変数として選ぶべきである。本章の投資関数は、将来の予想値を今期の実質国民総生産として
推定を行った。このために、良い推定結果が得られなかったと考えられる。さらに、投資を説明する利子率に、日本
の場合は「利付電電債利回り」を用い、米国の場合は「長期国債利回り」(10 年以上の債権) を用いた。これらの金利
が投資関数に適当かどうかという問題がある。
本章の投資関数の推定で用いられた説明変数を用い、次章では貨幣需要関数を推定する。これまでと同様に、日米
で同じ関数形を用いて、OLS, C-O, K-Filter の推定方法で推定を行う。
78
第 5 章 可変パラメータ・モデルによる分析 III
− 貨幣需要関数の推定 −
金融の動きを表す指標として金利が重要な役割を果たしてきた。しかし、過剰流動性や金融緩和政策の結果、マ
ネー・サプライの急激な増加, 物価の急騰, 株価・地価の大幅な上昇が起きたためマネー・サプライの動向が注目され
るようになっている。マネー・サプライの伸びは景気の上昇 (下降) と共に高く (低く) なる一方、逆にマネー・サプラ
イの動向が景気を左右する。またマネー・サプライの増加 (減少) は物価の上昇 (減少) にも影響する。1985 年 ∼1989
年の超低金利、過剰流動性による資産インフレ (株価と地価の上昇) の反省から、日銀は政策判断の指標として採用し
たマネー・サプライの増加を抑制してきた。しかし、民間金融機関の貸出姿勢の変化や新しい金利自由商品の登場で
指標に含まれない金融資産への資金シフトが起きたり、クレジット・カードの普及でマネー・サプライの管理が難し
くなっている。
金融市場は、利子率のない金融資産である貨幣市場とそれ以外の利子付きの資産を総称した債権市場の、2 種類に
分けて考えられる。このように流動性資産 (金融資産) は貨幣と債権の 2 つの種類に分けられ、各経済主体はこの金融
資産を貨幣で保有するか債権で保有するかの選択を行う。経済主体は、債権の収益率 (利子率) が高くなれば、債権を
多くもち貨幣の保有を減らす。逆に、債権の収益率 (利子率) が低くなれば、債権から貨幣への切り替えが起こる。こ
のような債権の収益率によって貨幣保有量を決める貨幣需要を「貨幣の投機的需要」と呼ぶ。この貨幣の投機的需要
は利子率の減少関数であり、利子率の上昇につれて低下する。
一方、貨幣を保有する理由として「貨幣の取引需要」と言われるものもある。貨幣の機能は取引の決済手段であり、
すなわち、貨幣で品物を購入することを意味する。日常的な取引に備えて貨幣を保有するのである。貨幣の取引需要
は所得水準の上昇と共に増大する。所得が増えれば収入と支出の流れが共に増加し、現金の流れを円滑にするために
貨幣の保有量も増大するからである。
以上のように、貨幣需要は取引需要と投機的需要から成り1 、取引需要は GNP の増加関数, 投機的需要は利子率の
減少関数となっている。
本章では、3 つの関数形で貨幣需要関数を推定する。
5.1 貨幣需要関数 I
先にも述べたように、貨幣需要は取引需要と投機的需要によって表される。貨幣供給と貨幣需要は常に等しいとい
う仮定、すなわち、貨幣市場では常に均衡が成り立っていると仮定する。したがって、貨幣需要関数の被説明変数に
貨幣供給量 (マネー・サプライ) をとる。本節では、取引需要を GNP の線形関数, 投機的需要を利子率の線形関数と
仮定して、貨幣需要関数を推定する。
³
5.1.1 日本の貨幣需要関数: M 1t = f Yt , rt
´
1 貨幣需要のもう一つの要因として、
「貨幣の予備的需要」をあげることができる。この予備的需要は、不意の支出に備えていくらか余分の貨
幣を保有するというものであり、所得が増えれば余分な出費も増えることから取引需要と同様に所得の増加関数と考えられる。よって、本書では
取引需要と予備的需要を 1 つにまとめて取引需要と呼ぶことにする。
79
貨幣需要関数を以下のように国民総生産と利子率の線形関数として表し、各係数を推定する。
OLS
M 1t = − 33356.9 + 1.1135 Yt − 2460.7 rt
(14889.8)
(0.0255)
(1296.2)
2
R = 0.9665, se = 21010.4, DW = 0.021, log(L) = −1408.6
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
C-O
M 1t =
1619.1
(13123.2)
+ 0.55519 Yt − 741.95 rt
(0.09339)
(354.89)
ρ = 1.0268, se = 2320.1, DW = 1.479
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
K-Filter

6484.8


初期値: β0|0 =  0.99202 
−3278.7


3408900000000 −4882000 −282450000000


Σ0|0 =  −4882000
9.99999
334120

−282450000000
334120
25832000000


105760000
−143.55
−9624800


se = 554.77, R =  −143.55 0.00035830
11.485 
−9624800
11.485
894220
log(L) = −1123.3 (−1386.0)
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4

図 1.1.1 日本の貨幣需要関数 − 定数項 α の変動 −
関数形:M 1 = α + βY + γr
100000
◦
◦ ◦◦◦
◦
◦
◦
50000
•••
◦
•••
◦
••
•
◦
◦
•
◦◦◦
•
••
◦
◦
• ◦ • ••• ••• ◦ •
• • ◦ ◦ •◦
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••◦• • •
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••• ◦
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••••◦ •
•
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•
•
◦
•
•
•◦◦
• •
•◦◦
•
••
0
-50000
-100000
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
80
1985
スムージング
1990
図 1.1.2 日本の貨幣需要関数 − Y の係数 β の変動 −
関数形:M 1 = α + βY + γr
1.5
1.0
◦
◦•
•
•
◦
◦•
•••
◦
•• ◦
•
• ◦
•
•
◦
•• ◦◦
•• ◦◦◦
◦
••• ◦
◦
•
◦•
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◦•
◦•
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◦ ◦◦◦◦◦
◦•
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◦•
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◦•
•
•
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◦•
◦•
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•
•
••••◦••••• ◦◦
••◦
•••
◦ ◦
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••••• •
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••••
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◦
◦◦◦•
◦
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0.5
0.0
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 1.1.3 日本の貨幣需要関数 − r の係数 γ の変動 −
関数形:M 1 = α + βY + γr
5000
◦◦
◦
•
•◦◦
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0
-5000
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•
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◦ ◦ ◦◦◦
◦
◦
◦
-10000
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
GNP の係数 (図 1.1.2) はマーシャルの k と呼ばれるものである2 。1971 年 ∼1974 年と 1985 年 ∼1990 年の係数パ
ラメータの急上昇はこれらの時期の過剰流動性によるものであるとみられる。さらに、1974 年 ∼1975 年と 1980 年
2 ケインズは貨幣の機能として、取り引き需要の他に予備的動機や投機的動機を重要視し、貨幣の需要に影響を与えるものとして、所得と並ん
で利子率を考えたが、これに対して貨幣数量説は決済手段としての貨幣の機能、すなわち取引需要のみに着目し、貨幣需要は所得だけに依存する
という考え方をとる。これは以下の式に書き表される。
M 1 = kY
81
のマーシャルの k の下落は貨幣供給量の抑制による物価鎮静化をねらった金融政策のためであると考えられる。1975
年以降、GNP の係数値は年々上昇傾向を示している。
図 1.1.3 については多くの時期に符号条件が合わないが、1969 年から 1972 年にかけての利子率の係数の急落, 1987
年以降の急増が特徴となっている。
³
5.1.2 米国の貨幣需要関数: M 1∗t = f Yt∗ , rt∗
´
日本の貨幣需要関数を前節では推定したが、その結果から GNP の係数 (マーシャルの k) は 1975 年以降上昇し続
けているということが分かった。本節では、米国の貨幣需要関数の推定をする。その推定結果は以下の通りである。
OLS
M 1∗t = − 624.92 + 0.93203 Yt∗ − 9.03988 rt∗
(31.580)
(0.01540)
(4.59802)
2
R = 0.9864, se = 85.305, DW = 0.103, log(L) = −725.76
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
C-O
M 1∗t =
8139.0
(12560.8)
+ 0.31104 Yt∗ − 13.446 rt∗
(0.05740)
(3.8959)
ρ = 0.9981, se = 18.988, DW = 1.190
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
K-Filter


−590.99


初期値: β0|0 =  0.92158 
−8.5612


15335000 −5279.7 300640


Σ0|0 =  −5279.7
3.6453 −849.19 
−300640 −849.19 325080


706.63
−0.25337
−53.336


se = 14.725, R =  −0.25337 0.00042221 −0.13271 
−53.336
−0.13271
74.136
log(L) = −581.14 (−719.88)
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
M 1, Y は実質貨幣需要, 実質国民総生産である。このときの k が、マーシャルの k と呼ばれる。よって、厳密にいえば、本節で推定した貨幣需
要関数には投機的要因も含まれているので、GNP の係数はマーシャルの k とは異なる。しかし、本節の貨幣需要関数から金利を除いて推定した
場合の GNP の係数のスムージング推定値と本節で得られた GNP の係数のスムージング推定値はほとんど同じ変動を示し、また、同じ位の値
だったので、本節の推定式の GNP の係数をマーシャルの k と本書では呼ぶことにする。
82
図 1.2.1 米国の貨幣需要関数 − 定数項 α∗ の変動 −
関数形:M 1∗ = α∗ + β ∗ Y ∗ + γ ∗ r∗
1000
◦
500
◦
0
-500
◦
◦◦◦
◦
◦
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◦
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•◦
•••• ••◦
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• ◦
◦◦◦
•◦
•◦
•◦
◦
•
◦
◦
◦◦
-1000
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 1.2.2 米国の貨幣需要関数 − Y ∗ の係数 β ∗ の変動 −
関数形:M 1∗ = α∗ + β ∗ Y ∗ + γ ∗ r∗
1.5
◦
1.0
0.5
◦
◦
◦
◦
◦◦◦◦ ◦
◦•
•
◦◦
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◦•
•
◦
◦ •
◦
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•
◦
◦
◦
◦
◦
◦
◦
◦
◦◦
◦
•••
◦
◦◦◦ ◦◦◦◦
◦◦◦
◦
0.0
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
83
1985
スムージング
1990
図 1.2.3 米国の貨幣需要関数 − r∗ の係数 γ ∗ の変動 −
関数形:M 1∗ = α∗ + β ∗ Y ∗ + γ ∗ r∗
100
0
-100
◦◦◦◦
◦◦ • ◦◦
◦
◦
•• •• ◦◦ ◦◦◦◦◦◦
◦
◦ ◦
◦•
◦•
◦
◦•
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• • ••• ◦ ◦ • •••••
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•••
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• •••••• ◦ ◦ ◦•◦ ◦
•
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••••
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•••
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•••••••
◦
◦
◦◦
◦
◦◦
◦ ◦◦◦◦ ◦ ◦ ◦◦
◦◦
◦
◦
◦◦◦
◦ ◦◦
◦
-200
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
OLS の結果によると、国民総生産の係数 (マーシャルの k) は、日本で 1.11、米国で 0.93 となっている。日本の推
定値が米国のそれを上回る。
スムージング推定による可変パラメータの動きを調べる。日本と比べて、米国のマーシャルの k(図 1.2.2) は低い値
(1 以下) で安定的に推移している。1965 年 ∼1967 年, 1986 年半ば以降、マーシャルの k は減少傾向にある。さらに、
図 1.2.3 の利子率の係数について、利子率の貨幣需要に与える影響は 1975 年以降ほとんどゼロに近い水準までに落ち
てきている。それ以前は金利規制下にあったため、金利の動きに貨幣需要は敏感であったことを示している。
5.2 貨幣需要関数 II
次に、5.1 節で推定した貨幣需要関数の M 1 と Y に対数をとって、弾力性または半弾力性によって、パラメータの
変動を分析する。
³
5.2.1 日本の貨幣需要関数: log(M 1t ) = f log(Yt ), rt
´
貨幣需要と国民総生産に対数をとって、貨幣需要を国民総生産と利子率に回帰させる。よって、国民総生産の係数
は弾力性で表され、利子率の係数は半弾力性で示される。貨幣供給量の伸びは景気の上昇 (下降) と共に高く (低く)
なると言われている (日本経済新聞社 (1992))。もしこれが現実的に妥当するならば、以下の可変パラメータ・モデル
による貨幣需要関数の推定において、国民総生産の係数値 (所得弾力性) は景気の上昇 (下降) 期に上昇 (下降) するは
ずである。まずは OLS による推定から始める。
OLS
log(M 1t ) = − 3.1645 + 1.2551 log(Yt ) − 0.02092 rt
(0.1673)
(0.0122)
(0.00336)
2
R = 0.9937, se = 0.05568, DW = 0.095, log(L) = 183.69
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
84
C-O
log(M 1t ) =
9.8328 + 0.36236 log(Yt ) − 0.007936 rt
(1.6198)
(0.10773)
(0.001942)
ρ = 0.9932, se = 0.0126, DW = 1.266
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
K-Filter


−3.2189


初期値: β0|0 =  1.2593 
−0.020584


430.36 −31.127 −6.3314


0.40408 
Σ0|0 =  −31.127 2.2896
−6.3314 0.40408 0.17434


0.031329
−0.0022334 −0.00066786


0.00016657 0.000039282 
se = 0.0124, R =  −0.0022334
−0.00066786 0.000039282 0.000023692
log(L) = 293.61 (168.09)
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
図 2.1.1 日本の貨幣需要関数 − 定数項 α の変動 −
関数形:log(M 1) = α + βlog(Y ) + γr
0
-2
-4
-6
••••
•••• ◦◦◦•◦◦◦◦◦◦◦
•◦◦◦◦◦ ◦•
◦
•
•
◦
•
••
••
•• ◦◦
•
•
• ◦
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•
••
◦◦
◦ ◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦
◦••
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••
◦
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••◦
◦•
•••••••••••◦
◦
••
◦•
•••
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•◦
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◦•••
◦
◦
•
◦◦
◦•
◦◦◦◦ ◦•
•
•
◦•
◦
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◦
◦ ◦◦◦ ◦◦◦◦◦◦◦
•
◦•
•
◦
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◦•
◦•
◦•
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•
••••
◦◦
◦
•
•••
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◦
•
◦◦ ◦◦
•••
◦ •• ◦ •
◦◦◦◦◦
••• ◦
•••
◦• ••••
•••••••
◦•
◦
◦•
◦
◦•
◦
◦
◦
◦
◦
◦
◦◦
-8
-10
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
85
1985
スムージング
1990
図 2.1.2 日本の貨幣需要関数 − log(Y ) の係数 β の変動 −
関数形:log(M 1) = α + βlog(Y ) + γr
2.5
2.0
1.5
1.0
◦◦◦
◦
◦
◦
◦
••
◦ ◦◦◦◦◦◦
◦•
••••••
◦
◦•
◦•
••••
◦••••••
◦ •••••◦
••••••••◦◦◦
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••••• ◦◦◦◦◦◦
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••••
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•••
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•
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•
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•
•
•
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◦ ◦◦◦◦
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••••◦◦◦◦
•
◦
••
•••
◦•
◦•
◦•
••
◦◦◦◦◦◦◦
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
0.5
0.0
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 2.1.3 日本の貨幣需要関数 − r の係数 γ の変動 −
関数形:log(M 1) = α + βlog(Y ) + γr
0.1
◦
◦◦
◦
◦
0.0
◦◦◦◦ ◦◦◦◦◦◦ ◦
◦•
◦◦◦◦◦◦•
◦ ◦
•◦
•◦
◦•
◦◦
••
◦
◦•
•◦
◦•
••••••••
••••••••
•••◦
◦••••••••••••••••••
◦◦
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◦◦
◦◦ ◦
•••••
◦◦◦◦◦◦◦◦
◦◦ ◦ ◦
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◦• •••••• ◦
••
••••••••◦◦•••◦◦◦ ◦◦◦ ◦ ◦
◦
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◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
•◦◦
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•
••••
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◦ ◦◦◦
•••• ◦ ••••••••••◦
•••• ◦ ◦••••
•••
••••••
◦
◦
◦
◦
◦
◦
◦◦
◦
-0.1
-0.2
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 2.1.2 の貨幣需要の所得弾力性の動きは、1.1∼1.4 でかなり安定している。GNP が 1%変化すると貨幣の取引需
要はそれ以上変化することを意味する。貨幣供給量の伸びは景気の上昇 (下降) と共に高く (低く) なると言われてい
るが、この事実は図 2.1.2 からは明らかではない。なぜなら、貨幣需要の所得弾力性は、岩戸景気の時期 (1962 年ま
で) に横ばい、昭和 40 年不況をはさみオリンピック景気からいざなぎ景気にかけて (1962 年 ∼1970 年) は下落傾向、
86
ドル・ショックから第 1 次オイル・ショックまでの期間 (1970 年 ∼1974 年) は確かに上昇傾向にあるが、その後 (1975
年以降) はわずかに上昇傾向にあるがほぼ横ばいといっていい状態で推移しているからである。
図 2.1.3 によると、利子率の貨幣需要に対する半弾力性は 1970 年 ∼1971 年頃に最も絶対値で大きい値を示してい
たが3 、1977 年以降はほとんどゼロである。すなわち、1977 年以降貨幣の投機的需要の部分はゼロに等しい。この
ような状況では、利子率が低下 (上昇) しても債権 (貨幣) から貨幣 (債権) への切り替えは起こらない。
³
5.2.2 米国の貨幣需要関数: log(M 1∗t ) = f log(Yt∗ ), rt∗
´
米国については以下の推定結果を得た。
OLS の推定結果を日米比較すると、所得弾力性の値は日米共に同じ位の値 (日本で 1.255、米国で 1.289) であるが、
利子率の効果は日米で大きく異なる。すなわち、利子率の 1 パーセント・ポイントの上昇は、日本では約 2%の貨幣
需要の減少となるのに対して、米国ではわずかに 0.1%の減少を引き起こす。
OLS
log(M 1∗t ) = − 2.6719 +
(0.1418)
1.2893 log(Yt∗ ) − 0.00121 rt∗
(0.0190 )
(0.00186)
R2 = 0.9905, se = 0.0329, DW = 0.147, log(L) = 249.07
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
C-O
log(M 1∗t ) =
4.1308 + 0.4023 log(Yt∗ ) − 0.005469 rt∗
(0.6721)
(0.002159)
(0.0987)
ρ = 1.0054, se = 0.0106, DW = 0.798
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
K-Filter


−3.3051


初期値: β0|0 =  1.3700 
−0.0042115


308.96
−413.31
3.1124


Σ0|0 =  −41.331
5.5496
−0.43643 
3.1124 −0.43643 0.053211


0.031889
−0.0045168
0.00051058


se = 0.00993, R =  −0.0045168
0.00064178
−0.000075981 
0.00051058 −0.000075981 0.000014877
log(L) = 326.47 (231.61)
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
3 利子率の貨幣への影響が最も大きかった 1970 年 ∼1971 年頃は、半弾力性の値は約 −0.03 であった。利子率の 1 パーセント・ポイントの上
昇に対して、貨幣需要は約 3%の減少を意味するのである。
87
図 2.2.1 米国の貨幣需要関数 − 定数項 α∗ の変動 −
関数形:log(M 1∗ ) = α∗ + β ∗ log(Y ∗ ) + γ ∗ r∗
0
-2
-4
-6
-8
◦
◦•
◦•
◦◦◦◦
◦•
◦•
◦•
◦◦◦◦◦◦◦◦
◦•
••
◦◦◦◦◦◦◦
◦
•
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•••
◦•
◦••••• • ••••◦
◦◦
◦
•••
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••
◦
••
◦
◦•
••
•
•
•
•
•
◦
◦
•
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•
•
•
•
◦
•
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•
•
•
◦
•
◦
◦
◦
◦•
◦••
•
••••••••••◦
•◦◦◦
◦
••
◦◦
• ◦•• •◦
◦••
•
◦◦
◦◦
••
◦
••
•
◦•◦
••
•
••••••• •••
◦•
◦
◦ ◦
◦••
◦ ◦◦•
◦ ◦◦
•
◦◦•
◦
◦
• ◦◦ ◦ ◦
◦◦◦◦◦◦◦◦ ◦◦◦
◦
◦
◦
◦
◦
•
••• ◦◦ •• ◦◦
••••••••• ••••
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-10
1960
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◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 2.2.2 米国の貨幣需要関数 − log(Y ∗ ) の係数 β ∗ の変動 −
関数形:log(M 1∗ ) = α∗ + β ∗ log(Y ∗ ) + γ ∗ r∗
2.5
2.0
◦
◦
1.5
1.0
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0.5
0.0
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
88
1985
スムージング
1990
図 2.2.3 米国の貨幣需要関数 − r∗ の係数 γ ∗ の変動 −
関数形:log(M 1∗ ) = α∗ + β ∗ log(Y ∗ ) + γ ∗ r∗
0.1
0.0
-0.1
◦◦
◦◦◦◦•
◦◦
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◦◦◦ ◦◦
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◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦◦◦◦
◦
-0.2
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
所得弾力性 (図 2.2.2) は 1.2∼1.6 の値で、日本の場合と同様に、安定的である。しかし、全体的に推定期間を通し
てやや減少傾向にある。特に、1965 年前後の下落、1986 年後半以降の下落は米国経済の不況期を反映しているよう
である。図 2.2.3 の利子半弾力性は、1960 年には約 0.7 であったが、その後絶対値で減少傾向にある。米国の利子半
弾力性について、1980 年以前は日本の利子半弾力性より貨幣需要に大きな影響力をもっていたが、1980 年以降は日
本の場合と同様にその値はほとんどゼロに等しく利子率の貨幣需要に対する影響度は落ちてきている。
5.3 貨幣需要関数 III
次に、前節で推定した実質貨幣需要関数に、物価 P の影響を考慮に入れて、P の対数を推定方程式に含めて、各
パラメータの変動を分析する。本来ならば、理論的には実質貨幣需要関数に物価の影響は入ってこない。しかし、多
くの実証研究で実質貨幣需要は物価の影響を受ける、すなわち、貨幣錯覚が存在するということが報告されている
(Sargent and Wallace(1973), Black(1974), Burmeister and Wall(1982) 等で、これらはいずれも Muth(1961) の合理
的期待に基づいている)。よって、本節では物価の影響を考慮に入れて貨幣需要関数を推定する。
³
´
5.3.1 日本の貨幣需要関数: log(M 1t ) = f log(Yt ), rt , log(Pt )
貨幣需要、国民総生産、物価指数に対数をとって、貨幣需要を国民総生産、物価指数、利子率に回帰させる。よっ
て、国民総生産、物価指数の係数は弾力性で表され、利子率の係数は半弾力性で示される。
OLS、C-O による推定結果は以下の通りである。
OLS
log(M 1t ) = − 2.5693 + 1.2088 log(Yt ) − 0.02168 rt + 0.04963 log(Pt )
(0.5456)
(0.0422)
(0.00343)
2
(0.04331)
R = 0.9937, se = 0.05561, DW = 0.097, log(L) = 184.37
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
89
C-O
log(M 1t ) = 13.0388 + 0.1452 log(Yt ) − 0.00278 rt − 0.8922 log(Pt )
(1.0995)
(0.0768)
(0.00141)
(0.0786)
ρ = 0.9913, se = 0.00867, DW = 0.779
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
K-Filter

−2.9058
 1.2349 


初期値: β0|0 = 

 −0.020727 
0.030381


4576.6 −353.84 −11.562
345.85
 −353.84 27.406
0.81143
−26.917 


Σ0|0 = 

 −11.562 0.81143
0.18053 −0.43757 
345.85 −26.917 −0.43757
28.840


0.29127
−0.022398
−0.00021284
0.030115
 −0.022398
0.0017278
0.0000084005 −0.0023283 


se = 0.0117, R = 

 −0.00021284 0.0000084005 0.000014733 0.000018337 
0.030115
−0.0023283
0.000018337
0.0033035
log(L) = 291.19 (162.99)
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4

図 3.1.1 日本の貨幣需要関数 − 定数項 α の変動 −
関数形:log(M 1) = α + βlog(Y ) + γr + δlog(P )
10
◦
◦
◦
5
◦
0
-5
◦
◦
◦
◦◦◦
◦◦◦
◦
◦◦◦
◦
◦◦◦◦
◦◦◦ ◦
◦◦
◦◦
◦
◦ ••• •••••
•
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◦◦◦ •
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◦
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•
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•
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•
•
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•
•
◦◦◦ ◦◦◦
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◦◦◦
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◦◦
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•
◦◦◦
•
◦◦◦◦◦◦
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•
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•••••••••
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•
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•
•
•
•••
••••
•
•
•
•
••
•••••••• ••••
◦◦
◦
◦
-10
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
90
1985
スムージング
1990
図 3.1.2 日本の貨幣需要関数 − log(Y ) の係数 β の変動 −
関数形:log(M 1) = α + βlog(Y ) + γr + δlog(P )
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
◦◦
••◦
•◦
••
••••••••••••••• ••••••••••••••••••••••••
••• ◦••
•••••••••••
••••••••
•••••••• ◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
•
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◦◦◦◦
◦
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◦◦◦◦◦◦
◦
◦
◦
◦◦◦
◦◦◦ ◦◦◦
◦
◦
◦◦
◦
0.0
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 3.1.3 日本の貨幣需要関数 − r の係数 γ の変動 −
関数形:log(M 1) = α + βlog(Y ) + γr + δlog(P )
0.1
◦
◦
◦ ◦◦
0.0
◦•
◦•
◦•
◦•
◦
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦◦
◦•
◦•
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◦◦
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•••
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•••
◦◦◦ ◦
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◦
•
•
◦◦
••••••
••••
◦••
◦
•••••••
◦ ◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦
-0.1
-0.2
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
91
1985
スムージング
1990
図 3.1.4 日本の貨幣需要関数 − log(P ) の係数 δ の変動 −
関数形:log(M 1) = α + βlog(Y ) + γr + δlog(P )
1.5
◦
◦
◦
1.0
◦
0.5
0.0
◦
◦
◦
◦
◦
◦
◦◦
◦◦◦ ◦
◦◦◦
◦
◦
◦◦◦◦◦◦
◦ ◦
◦◦
◦◦
◦◦
•
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• •••••••
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◦
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••• ◦◦
◦◦◦◦◦
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•
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◦◦
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•••
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•
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◦◦◦◦
•
◦◦◦ ◦◦
•
•••••◦
◦
•
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•
•
•• ◦
◦
◦ •••••• ••••••••••
• •••••• ◦◦◦ ◦◦◦◦◦
•
••• ◦ •••••••••• ••
•
•••
◦
◦◦◦
-0.5
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
5.2.1 節で得られた OLS の結果と比較すると、物価による影響を考慮に入れて OLS で推定しても、所得弾力性や
利子半弾力性の値はほとんど変わらないという結果が OLS の推定結果から判断できる。
しかし、可変パラメータ・モデルによる推定結果については、利子半弾力性の動きは前節で得たグラフとほとんど
同じであるが、所得弾力性の推移は前節のものとは若干異なる。図 3.1.2 によると、図 2.1.2 と比べて、1970 年頃の所
得弾力性の落ち込み方が激しく、全体に所得弾力性の変動幅も大きい。利子率の係数 (半弾力性) ついては、前節と同
様に 1977 年以降貨幣の投機的需要の部分はゼロに等しい結果となっている。。さらに、図 3.1.4 のグラフは、物価の
1%の上昇に対して実質貨幣需要は何%増加するかというのを表し、1964 年 ∼1974 年に正の値をとり、その期間内で
も特に 1970 年 ∼1971 年頃に最大値を記録し約 0.6%の上昇となっている。全体としては、係数の変動幅は −0.3 ∼ 0.6
の範囲で推移している。物価の係数が正 (負) であることは、物価の 1%の上昇は実質貨幣需要を増加 (減少) させるこ
とを意味する。1964 年 ∼1974 年の期間では、経済主体は将来も物価が上昇することを予想して、品物を購入するた
めに債権から貨幣への切り替えが起こり実質貨幣の需要を増やしたと解釈されるであろう。この期間は過剰流動性の
時期に対応している。その他の期間では、逆に、物価の上昇にもかかわらず手元の名目の貨幣量が実質で減少したこ
とに気がつかなかった4 、すなわち貨幣錯覚が存在していたと解釈される。
´
³
5.3.2 米国の貨幣需要関数: log(M 1∗t ) = f log(Yt∗ ), rt∗ , log(Pt∗ )
5.3.1 節と同様の推定を米国について行ったところ、以下の推定結果を得た。
日本の場合、5.2.1 節と 5.3.1 節の OLS の推定結果は、所得弾力性も利子半弾力性もあまり変わらず、似た結果であっ
た。しかし、米国の場合、本節の OLS による推定結果は 5.2.2 節のものとは異なる。所得弾力性の値が 1.2893(5.2.2
節) から 1.0779(本節) へと小さくなり、また、利子半弾力性は −0.00121(5.2.2 節) から −0.00815(本節) へと大きく絶
対値で上昇した。さらに、物価の影響も、日本の場合と比較して、米国の場合は推定値も大きく統計的に有意である。
4
言い換えれば、経済主体は、実質貨幣量ではなく、名目貨幣量に注目していたことになる。
92
OLS の結果を見る限りでは、物価の上昇に対して貨幣需要は大きく影響を受けると結論づけられるであろう。
OLS
log(M 1∗t ) = − 0.8387 +
(0.3259)
1.0779 log(Yt∗ ) − 0.00815 rt∗ + 0.1440 log(Pt∗ )
(0.0385 )
(0.00199)
(0.0237)
2
R = 0.9927, se = 0.0289, DW = 0.147, log(L) = 265.74
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
C-O
log(M 1∗t ) = − 347.16 + 0.3004 log(Yt∗ ) − 0.00252 rt∗ − 0.6048 log(Pt∗ )
(11437)
(0.0815)
(0.00176)
(0.1206)
ρ = 1.0000, se = 0.00818, DW = 0.868
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
K-Filter

−3.2133
 1.3598 


初期値: β0|0 = 

 −0.0048305 
0.0097187


1632.2 −192.71 −2.8816
109.62
 −192.71 22.824
0.27248
−12.640 


Σ0|0 = 

 −2.8816 0.27248 0.060680 −0.41485 
109.62 −12.640 −0.41485
8.6137


0.14015
−0.017017
0.00024661
0.010239
 −0.017017
0.0020754
−0.000036456
−0.0012108 


se = 0.00833 R = 

 0.00024661 −0.000036456 0.0000060838 −0.0000021300 
0.010239
−0.0012108 −0.0000021300
0.00087452
log(L) = 335.89 (241.72)
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4

図 3.2.1 米国の貨幣需要関数 − 定数項 α∗ の変動 −
関数形:log(M 1∗ ) = α∗ + β ∗ log(Y ∗ ) + γ ∗ r∗ + δ ∗ log(P ∗ )
20
◦
15
10
5
0
◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦◦
••
••
•◦
•◦
•◦
•◦
••••••••••• ◦◦
•◦
•◦
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•◦
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•◦
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•◦
•◦
•◦
•◦
•••◦
•
•◦
••◦
•
•
•
•
•
•
•
•
•• ◦◦ ◦ ◦◦
•◦
◦
◦
•
◦
◦
◦
•
◦
•••◦
◦
◦
◦
•
•
•
•
◦
•
◦
•• •• •
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦ ◦
••
◦ ◦◦◦◦
◦
◦ •••••
•• ◦◦◦◦◦
◦◦◦◦••
◦◦• ◦ •
•••••••••◦
••
◦◦ •
•◦◦ ◦ ••••◦ ◦◦◦
◦
◦◦◦◦
◦ ◦
◦
•
•
•
◦
◦
◦
◦
◦
•
◦
◦◦◦◦◦ ••
◦•
• ••••
•
•
◦•
◦•• •••
••
•
◦
•••••••
◦◦
-5
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
93
1985
スムージング
1990
図 3.2.2 米国の貨幣需要関数 − log(Y ∗ ) の係数 β ∗ の変動 −
関数形:log(M 1∗ ) = α∗ + β ∗ log(Y ∗ ) + γ ∗ r∗ + δ ∗ log(P ∗ )
2.5
2.0
1.5
1.0
◦
•••••••
••
◦•
••••••••◦
•••• ◦◦◦◦◦ ◦•
◦
◦◦
◦
•
◦
••◦◦
◦◦•• ◦ ◦
• ◦• ◦ ◦
◦◦◦
•◦
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◦◦◦◦
◦
•
•••
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◦ ◦◦◦◦◦ ••••••••••••◦
◦•
◦ ◦◦◦
••
••
•
•◦•• ◦ ◦◦ ◦ ◦ •• ◦◦◦◦◦
◦◦◦◦◦ ◦ ◦ ◦
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••••• •
••
•••• ◦◦◦
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◦•
•
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◦•
◦
•••••• •
•• ••◦
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◦•
◦•
◦•
◦◦
◦•
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
0.5
0.0
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 3.2.3 米国の貨幣需要関数 − r∗ の係数 γ ∗ の変動 −
関数形:log(M 1∗ ) = α∗ + β ∗ log(Y ∗ ) + γ ∗ r∗ + δ ∗ log(P ∗ )
0.1
0.0
-0.1
◦•
◦•
◦•
◦
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
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◦•
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•
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◦•
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•
•
◦◦◦ ◦ ••
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•
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•
•••• ◦◦◦◦
•
•
•
•
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•••••
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••••••
◦◦ ◦
••••••
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•••••••
◦◦◦ ◦◦◦◦
•••
•
•
◦
◦
•
◦
◦
•• •••••
◦◦◦
•••••••••• •••
◦◦
◦
◦
◦
◦
◦
◦
◦◦◦ ◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦ ◦◦◦
◦◦◦◦
-0.2
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
94
1985
スムージング
1990
図 3.2.4 米国の貨幣需要関数 − log(P ∗ ) の係数 δ ∗ の変動 −
関数形:log(M 1∗ ) = α∗ + β ∗ log(Y ∗ ) + γ ∗ r∗ + δ ∗ log(P ∗ )
1.5
1.0
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0.5
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• •••••
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••
◦
•
◦
◦
••••••••
0.0
◦◦
-0.5
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
前節の図 2.2.2 の所得弾力性は 1.2∼1.6 の値で安定的であったが、図 3.2.2 の所得弾力性の推移は全体的に明らかに
減少傾向にある。また、その値は、1965 年の約 1.5 から 1985 年には約 0.75 へと半減している。
図 2.2.3 の利子半弾力性は、前節の図 2.2.3 で得られたものと同様に、1960 年には約 0.6 であったが、その後絶対
値で減少し続けている。そして、1990 年には、利子率が貨幣需要に与える影響は、ほとんどゼロに近い。
物価が貨幣需要に与える影響は、図 3.2.4 によると、推定期間を通して一貫して正の値をとり、1964 年の約 0.3 を
最少、1987 年の約 0.8 を最大として安定的な動きを示している。米国の経済主体は、恒常的に、将来も物価が上昇す
ると予想して財の購入を早めるために貨幣需要を実際の物価上昇以上に増やしていると考えられる。
各パラメータの変動傾向については、前節で推定したものとほとんど同じ変動傾向を示している。
本章では、貨幣需要関数を日米両国について推定したが、得られたパラメータの変動は次の通りである。
マーシャルの k は、日本について、1971 年まではやや減少傾向はあるものの安定的であったが、1971 年から 1974
年の過剰流動性による急増、また 1975 年 ∼1985 年には上昇傾向、さらに 1985 年以降は再び急増している。米国に
ついては 1965 年 ∼1967 年と 1987 年以降に減少傾向がみられるが、かなり安定的な推移を示している。所得弾力性
でみると、日本の場合ほぼ一定しているが、米国の場合安定的ではあるがやや減少傾向がみられる。
利子半弾力性については、両国とも絶対値で減少し続け、近年ではほとんどゼロとなっている。図 3.1.3 について、
1970 年代前半までは −0.1 ∼ −0.3 の値で推移していたが、それ以降はその値は絶対値で減少していき、1977 年以降
はゼロに近い値となっている。また、図 3.2.3 についても、絶対値で年々減少していき 1990 年にはほとんどゼロに等
しい。言い換えれば、貨幣需要の中で利子率に影響される部分、すなわち、投機的需要が近年ではゼロになっている。
物価の変化は、両国共に、実質貨幣需要に大きな影響を及ぼしている。日本では、1964 年から 1974 年にかけて、
物価は実質貨幣需要に正の影響を与え、その他の期間では負となっている。過剰流動性の存在した 1970 年 ∼1971 年
頃には、約 0.6 の値で推定期間内で最大の値をとっている。1990 年には物価は実質貨幣需要にほとんど影響していな
い。米国では、推定期間を通して一貫して、物価は貨幣需要に正の影響を与えている。理論モデルでは一般的に、物
価は実質貨幣需要に影響を与えない (すなわち、貨幣錯覚はない) とされているが、実証分析ではこのように物価は実
質実質貨幣に大きな影響を及ぼすのである。
95
第 6 章 可変パラメータ・モデルによる分析 IV
− 輸出関数,為替レート関数の推定 −
本章では、年々重要性を高めている国際経済部門をとりあげ、日本の対米輸出 , 米国の対日輸出, 円・ドル為替レー
トを推定する。
日本について、輸出の国民総生産に占める割合は、1960 年頃の約 5%から年々増加傾向にあり、1990 年には 20%弱
までに増加している。輸入の国民総生産に占める割合もまた同様に、1960 年頃の 10%弱から増減の変動はあるものの
1990 年には 20%弱にまで増加し続けている。総輸出の中でも特に、対米輸出の割合は、1973 年前半まではの 30%前
後から 1975 年には 20%弱まで急激に減少し1 、1983 年まで 25%前後で推移した後、再び急激に上昇し 1986 年には
40%弱になり、その後減少傾向にあるものの 1990 年には 30%の割合で米国へ輸出している。総輸入の中で米国からの
輸入は、1960 年頃の約 35%から減少傾向を示し 1990 年には 20%前後で推移している。このように、1960 年 ∼1990
年の間において、日本の場合、国民総生産に占める輸出と輸入の割合は共に 5%∼20%となっており、さらに、その輸
出・輸入の中で米国への輸出・米国からの輸入は 15%∼40%と大きな割合を占めている。
米国については、国民総生産に占める輸出・輸入の割合は共に 1960 年の 5%強から年々増加し、1990 年には共
に 15%程度になっている。総輸出に占める日本への輸出の割合をみると、1986 年頃までは 5%∼10%, 1990 年には
15%∼20%へと増加している。一方、総輸入に占める日本からの輸入の割合について、1960 年にはわずかに約 2%だっ
たのが、1975 年までのなだらかな増加傾向, それ以降の急激な増加傾向をたどり、1990 年には 20%∼25%へと日本か
らの輸入の比重が増大している。
このように、日本の対米輸出入または米国の対日輸出入が共に年々増大し続けていることから、日米間の輸出入の
分析の重要性は増している。日本の対米輸入 (輸出) は為替レートで修正すると米国の対日輸出 (輸入) に等しいこと
を考慮にいれて、本章の前半では、日本の対米輸出関数と米国の対日輸出関数を推定する2
本章の後半部分では、円・ドル為替レートの推定を行う。1949 年以来続いていた固定相場制 (1 ドル=360 円) は、
1971 年 8 月のニクソン・ショックを契機に崩壊し、1973 年 2 月以降、変動相場制へ移行した。東京外国為替市場で
1978 年 10 月一時 1 ドル=175.50 円を記録した後、1980 年代前半、円の対ドル・レートは 220∼250 円と円安方向にふ
れた。この時期の円安の原因の 1 つは、レーガン政策によるといわれている。すなわち、レーガン政策の大幅減税と
通貨供給の抑制は、財政赤字を膨らませ、資金需要の増加、金利上昇、ドル需要増大、ドル高へと波及していった。
1985 年 9 月のプラザ合意以降、急速に円高が進み、1988 年 1 月には瞬間的に 1 ドル=120.45 円を記録し、固定相場
制の時に比べ実に円のドルに対する相対的な価値は 3 倍に上昇するに到った。しかし、このような急速な円高にもか
かわらず、経常収支 (= 輸出 − 輸入) の大幅な黒字は 1985 年以降も続いている。
6.1 輸出関数 I
輸出の決定要因について考える。1 つは相手国の所得水準である。相手国の所得水準が高まれば、相手国はその生
活水準を維持するために様々な財の輸入を増やす3 。したがって、相手国の所得水準が高まれば、自国にとって財の
輸出は増加する。所得要因の他に重要なものは価格要因である。自国の輸出品の価格と相手国の同じ商品の為替レー
トで調整された価格との比較を行い、相対的に価格の低い商品を購入する。すなわち、相手国の価格と比べて、自国
の価格が相対的に低ければ輸出は増大すると考えられる。
1
この急激な減少は変動相場制への移行に伴い、円評価の切り上げによるものと考えられる。
2
すなわち、日本の対米輸入関数や米国の対日輸入関数を推定しない。
3
相手国の輸入は自国にとっては輸出になることに注意せよ。
96
自国の輸出は、相手国の所得水準 (需要要因) と自国と相手国との間の為替レートで修正された相対価格 (価格要因)
eP ∗
の関数となる。日本の対米輸出の場合、説明変数は米国の国民総生産 Y ∗ と為替レートで修正された日米価格比
P
である。そして、日本の対米輸出は米国の国民総生産の増加関数、日米相対価格の増加関数となる。円安 (円高) は日
本の対米輸出を増加 (減少) させる。本章では、所得要因・価格要因を表す変数に対数をとって各係数を弾力性で表
し、その変動を分析する。
³
6.1.1 日本の対米輸出関数:log(Eust ) = f log(Yt∗ ), log(
et Pt∗ ´
)
Pt
日本の対米輸出 (すなわち、米国の対日輸入) を米国の国民総生産と為替レートで調整された相対価格で回帰させ
る。それぞれの変数には対数がとられているので、得られた係数の推定値は弾力性で表されている。対米輸出の一期
前の変数が説明変数に加えられていないので、各弾力性は長期の弾力性を表すことに注意せよ。
OLS
log(Eust ) = − 33.635 + 4.6851 log(Yt∗ ) + 0.8457 log(
(1.1140)
(0.0897)
(0.0760)
et Pt∗
)
Pt
2
R = 0.9891, se = 0.1044, DW = 0.328, log(L) = 105.81
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
C-O
log(Eust ) = − 4.2921 + 1.5741 log(Yt∗ ) + 0.4238 log(
(4.6394)
(0.4666)
(0.1031)
ρ = 0.9910, se = 0.0497, DW = 1.568
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
K-Filter


−33.434


初期値: β0|0 =  4.6631 
0.8417


19083
−1518.5 −1255.6


Σ0|0 =  −1518.5 123.63
95.863 
−1255.6 95.863
88.560


8.8289
−0.63575 −0.67445


se = 0.0441, R =  −0.63575 0.046833 0.047222 
−0.67445 0.047222 0.053239
log(L) = 143.38 (91.98)
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
97
et Pt∗
)
Pt
図 1.1.1 日本の対米輸出関数 − 定数項 α の変動 −
eP ∗
関数形:log(Eus) = α + βlog(Y ∗ ) + γlog(
)
P
20
◦
0
◦◦
◦
◦
-20
-40
•••◦
• ◦•
•••• ◦◦ •
••••
•◦
◦
•
◦
◦
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◦ •
◦◦◦•••
◦
•
•
•• ••
◦
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•
◦◦◦◦
◦
◦
◦ ◦
◦◦ ◦◦
-60
1960
1965
◦◦◦◦◦
4
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 1.1.2 日本の対米輸出関数 − log(Y ∗ ) の係数 β の変動 −
eP ∗
関数形:log(Eus) = α + βlog(Y ∗ ) + γlog(
)
P
8
6
1970
◦ ◦◦
◦◦
◦ ◦
◦
◦◦ ◦
••
◦•
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◦ ••••◦◦•
•
◦••
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•
◦
•
◦
•
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◦ ◦
•••
••◦ •
◦
◦◦
••
2
◦
◦
◦ ◦◦
◦
0
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
98
1985
スムージング
1990
eP ∗
) の係数 γ の変動 −
P
eP ∗
∗
関数形:log(Eus) = α + βlog(Y ) + γlog(
)
P
図 1.1.3 日本の対米輸出関数 − log(
4
3
◦
◦ ◦ ◦◦
◦
◦
2
••••••
••••
•
◦◦ ••
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◦
• •
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•••
◦
•••
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◦◦
◦◦◦ ◦
1
0
◦
◦
◦ ◦
◦
◦
◦
◦
◦
◦
1960
◦
◦
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
OLS, C-O, K-Filter の結果によると、すべての符号条件が満たされている。図 1.1.2 の所得弾力性は 3.5∼5.7 とか
なり高い値を示している。1967 年までは 4 弱でほぼ一定、1967 年から 1971 年半ばまでは 6 近くにまで急上昇、それ
以降は減少傾向をたどり、1990 年には 4 強位の数字となっている4 。
価格弾力性 (図 1.1.3) については、1967 年半ばから 1973 年まで急騰 (約 0.1 から約 1.5 へ) した後、傾向的に減少
し、1987 年 ∼1990 年には 0.4 を前後した値になっている。
このように、近年、日本の対米輸出は価格要因より所得要因に大きく依存している。1987 年以降の数字でみると、
1%の相対価格比上昇5 は対米輸出を 0.4%しか上昇させないのに対して、1%の米国の国民総生産の増加は対米輸出を
実に 4%も増加させるのである。日本の対米輸出は米国経済の好不況に大きく左右されることを意味する。
³
6.1.2 米国の対日輸出関数:log(Ejp∗t ) = f log(Yt ), log(
Pt ´
)
et Pt∗
前節で、日本の対米輸出の所得弾力性は、OLS で約 4.7、K-Filter で 3.5∼5.7 と高い値が推定され、米国経済は日
本経済に大きな影響力を与えるということをみた。逆に、日本経済は米国経済にどのような影響を及ぼすのか。本節
では、米国の対日輸出関数、すなわち、日本の対米輸入関数を推定する。6.1.1 節と同様の関数形を用いるため、各係
数の値は弾力性で示される。
OLS
log(Ejp∗t ) = − 1.7446 + 0.8996 log(Yt ) + 1.1155 log(
(1.7013)
(0.0806)
(0.1395)
Pt
)
et Pt∗
2
R = 0.9339, se = 0.2141, DW = 0.079, log(L) = 16.70
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
4 オイル・ショック以降の所得弾力性の低下傾向は日銀統計局 (1985) にも示されている。また、日本の対米輸出の長期の所得弾力性は非常に高
いことは、他の文献でも報告されている。例えば、稲田 (1991) は米国の対日輸入関数を推定したが、3.8544 という高い数字の所得弾力性が推定
されている。
5 1%の相対価格比上昇というのは、為替レートの 1%の切り下げと同値である。すなわち、得られた結果によると、1%の円高は 0.4%だけ対米
輸出を減らす。
99
C-O
log(Ejp∗t ) = − 13.980 + 1.8531 log(Yt ) + 1.0839 log(
(6.029)
(0.4620)
(0.1216)
Pt
)
et Pt∗
ρ = 0.9737, se = 0.0589, DW = 1.538
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
K-Filter


1.1655


初期値: β0|0 =  0.7173 
1.2361


44504
−2066.0 3526.4


Σ0|0 =  −2066.0 99.987 −154.74 
3526.4 −154.74 299.34


9.0545
−0.38261
0.80607


se = 0.0498, R =  −0.38261 0.016496 −0.033451 
0.80607 −0.033451 0.072894
log(L) = 129.63 (4.284)
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
図 1.2.1 米国の対日輸出関数 − 定数項 α∗ の変動 −
P
関数形:log(Ejp∗ ) = α∗ + β ∗ log(Y ) + γ ∗ log( ∗ )
eP
60
◦
◦◦◦
40
20
0
••••••••••
••
•
•
•
◦◦
◦
•
◦
•
•••
••
◦
◦
•
•
•
◦
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◦
◦ ◦◦
◦
•
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◦••
◦◦◦
◦◦◦◦ ◦
◦◦•••••
◦ •• ◦◦◦
◦
◦
•• ◦◦◦
◦◦
◦
◦
◦ ◦•
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•
•
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•••
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◦
◦•• •
◦◦◦
••••••••• ◦
◦◦◦ ◦◦
•◦
◦
•
◦
•
◦
◦◦◦
••
◦
••
◦◦◦
•
◦
-20
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
100
1985
スムージング
1990
図 1.2.2 米国の対日輸出関数 − log(Y ) の係数 β ∗ の変動 −
P
関数形:log(Ejp∗ ) = α∗ + β ∗ log(Y ) + γ ∗ log( ∗ )
eP
2
◦
••
••
•• ◦
◦◦◦
•• ◦
•
◦••
•
•
◦◦◦
◦• •◦
••••
◦
◦
◦◦◦•••◦
•
◦•
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•
◦••• •◦◦◦ •
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• •• ◦◦
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◦◦◦
◦•••
◦ ◦
◦•
◦ •• ◦◦◦ ◦
◦•
•
◦
◦
◦
◦
•
◦◦◦◦
◦◦◦◦
•◦
1
◦◦
0
-1
◦
◦◦
◦
•◦
•
•
•
◦
•
•
◦
•
••••
◦
•
•
◦◦
•
•
•
••••••••••••
◦◦◦
◦
◦◦◦◦
-2
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
P
) の係数 γ ∗ の変動 −
eP ∗
P
関数形:log(Ejp∗ ) = α∗ + β ∗ log(Y ) + γ ∗ log( ∗ )
eP
図 1.2.3 米国の対日輸出関数 − log(
6
◦◦
◦
5
4
••••••••◦
••
••
•
◦
•
◦
3
◦
2
1
◦◦
◦
0
1960
◦◦
•
•
◦
•
••
••
◦
•
•
•
•
•
•
•◦
•◦
◦
•
◦◦
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◦◦◦
◦◦◦ ◦◦
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◦
◦
◦
◦
◦◦ ••••
◦
◦
◦
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◦
◦ ◦◦◦
◦
•
•••••••
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◦ ◦•
◦
◦ •••
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•• • ◦
◦◦◦◦ •••
• • ◦◦
◦◦◦ ◦
•
◦
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•
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•
◦
•
•
•
•
•• ◦
••
•
◦◦ •
•
•
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•
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•
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•
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◦
•
◦ ••••
◦
◦◦◦
••
◦◦◦ ◦◦
◦
•
◦
◦
◦
◦◦◦
◦
◦◦◦
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
OLS によると、米国の対日輸出の所得弾力性は 0.8996、価格弾力性は 1.1155 という結果が得られた。前節の日本
の対米輸出の所得弾力性 4.6851、価格弾力性 0.8457 を比べると、所得弾力性の違いが大きい。
次に、K-Filter によるパラメータの推定値の推移を調べる。1966 年以前は図 1.2.2 の所得弾力性の値が負になって
おり、符号条件が満たされていない。全体としては、1971 年までの所得弾力性の上昇、やや下落した後、1970 年代
101
後半までは安定的に推移、その後 1986 年に一時下落がみられるものの上昇傾向を示している。特に、1986 年以降の
上昇 (0.6 から 1.4 へ) が目立つ。
これに対して、価格弾力性 (図 1.2.3) については、1960 年の 4.5 から 1970 には 0.8 程度までの急落が見られる。そ
の後、その値は 1 を上下しながら動いていたが、1990 年には 0.5 位まで減少している。固定相場制の 1%の円切り上
げと変動相場制の 1%の円切り上げとを比べると、その影響力は異なる。
米国の対日輸出もまた、所得弾力性の変動の様子から判断すると、近年では、価格要因よりもむしろ日本経済の需
要要因に依存する度合が強まっているように思われる。
図 1.1.3 の日本の対米輸出の価格弾力性と図 1.2.3 の米国の対日輸出の価格弾力性 (すなわち、日本の対米輸入の価
格弾力性) をみると、1989 年以降共に減少傾向を示し、1990.4 にはそれぞれ 0.295, 0.509 程度の値となっている。これ
は、1%の円切り上げに対して、日本の対米輸出は 0.295%減少し、米国の対日輸出は 0.509%の増加を意味する。1990
年第 4 四半期のデータでみると、日本の対米輸出は 22153(1985 年価格,10 億円)、米国の対日輸出は 115.5(1985 年価
格,10 億ドル)、円ドル・レートは 1 ドル当たり 130.81 円である。仮に、円が1ドル =130.81 円から 129.50 円へ 1%だ
¡
¢
¡
け切り上げられたとする。このとき、両国の輸出はそれぞれ 22088 = 22153 × (1 − 0.295/100), 10 億円 , 106.1 =
¢
115.5×(1+0.509/100), 10 億ドル となる。1990.4 のデータを使って、円ベースに換算して日本の対米貿易黒字を計算す
ると、1%の円高の進行によって、7044(= 22153−130.81×115.5, 10 億円) から 8348(= 22088−129.50×106.1, 10 億円)
¡
¢
へと貿易不均衡が 18.5% = 100 × (8348 − 7044)/7044 拡大することがわかる。ドル・ベースで考えても、米国の貿易
¡
¢
赤字は 53.8(= 7044/130.81, 10 億ドル) から 64.5(= 8348/129.50, 10 億ドル) へと 19.9% = 100 × (64.5 − 53.8)/53.8
も拡大することになる。円高の進行によって逆に貿易不均衡が拡大するという理由は、米国の対日輸出の価格弾力性
の値の低さによる。この値が 1 を越えなければ、円ベースに換算したときに日本の対米輸入は減少しないのである。
また、日本の対米輸出の価格弾力性 (図 1.1.3) と米国の対日輸出の価格弾力性 (図 1.2.3) との和が 1 以上でなければ、
日本の対米経常収支は円高の進行が起こっても改善されないのである (例えば、小田 (1981)、小野 (1982) 等を参照せ
よ)。これはマーシャル・ラーナーの条件と呼ばれる。このマーシャル・ラーナーの条件が満たされている時期、すな
わち、両国の輸出の価格弾力性の和が 1 を越えている時期は、上の推定結果から、1990.1 以前である。1990.2 以降は、
マーシャル・ラーナーの条件が満たされず、円高によっても経常収支が改善されないという状況が起こっている6 。
6.2 輸出関数 II
³
6.2.1 日本の対米輸出関数:log(Eust ) = f log(Yt∗ ), log(
´
et Pt∗
), log(Eust−1 )
Pt
前節で推定した輸出関数は、習慣的効果の影響が十分に調整され尽くした長期の輸出関数であった。本節では、調
整過程を考慮にいれた短期の輸出関数を推定する。すなわち、前節で扱った輸出関数に一期前の輸出を説明変数に加
えて分析する。
OLS
log(Eust ) = − 7.8673 + 1.0376 log(Yt∗ ) + 0.2478 log(
(1.3010)
(0.1744)
(0.0444)
et Pt∗
) + 0.7910 log(Eust−1 )
Pt
(0.0367)
2
R = 0.9977, se = 0.0476, DW = 1.264, log(L) = 202.12
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
6
日米両国の価格弾力性の和をスムージング推定値を使って毎期求めると、1960 年には 5∼6 であったのが、傾向としては減少し続けている。
102
K-Filter


−5.7141
 0.76206 


初期値: β0|0 = 

 0.19474 
0.83263


25609
−3382.5 −760.32 665.69
 −3382.5 460.06
90.875 −94.225 


Σ0|0 = 

 −760.32 90.875
29.788 −15.446 
665.69 −94.225 −15.446 20.429


0.52790
−0.21764
−0.051563 −0.0082405
 −0.21764
0.0026613
0.00082549 −0.0047224 


se = 0.0390, R = 

 −0.051563
0.00082549
0.0060157
0.0013854 
−0.0082405 −0.00047224 0.0013854 0.00051831
log(L) = 186.37 (181.78)
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
図 2.1.1 日本の対米輸出関数 − 定数項 α の変動 −
eP ∗
) + δlog(Eus−1 )
関数形:log(Eus) = α + βlog(Y ∗ ) + γlog(
P
20
0
-20
-40
◦◦
◦◦
◦◦
◦ ••◦
◦
◦◦
••••••••• ◦•••
◦◦◦
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•••
••••••••••••••••••
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•
◦
◦
◦◦
••• ◦◦ ◦◦
••••••••••
◦ ◦◦◦◦
◦◦
◦
◦◦◦
◦
◦◦◦
◦
-60
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
103
1985
スムージング
1990
図 2.1.2 日本の対米輸出関数 − log(Y ∗ ) の係数 β の変動 −
eP ∗
関数形:log(Eus) = α + βlog(Y ∗ ) + γlog(
) + δlog(Eus−1 )
P
8
6
◦
◦
◦ ◦◦
◦
◦
◦
◦
◦
◦
4
2
◦◦◦
◦
◦◦◦
◦
◦
◦◦◦ ◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
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◦•
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••••••••◦
◦
◦
•
◦
•
◦◦
◦◦
◦
◦
◦◦◦◦◦
◦◦ ◦
◦◦◦◦◦ ◦ ◦◦◦
◦◦
0
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
eP ∗
) の係数 γ の変動 −
P
eP ∗
関数形:log(Eus) = α + βlog(Y ∗ ) + γlog(
) + δlog(Eus−1 )
P
図 2.1.3 日本の対米輸出関数 − log(
4
◦
3
◦
◦
◦◦ ◦
2
◦◦
◦◦
◦◦
◦◦◦
◦
1
0
◦◦◦
◦
◦
••••••••••••◦
•◦
◦◦◦◦◦◦
◦◦◦◦◦•
◦•
•
◦◦◦◦◦
•◦
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•
◦
••• ••••• ◦◦
◦
•◦
◦◦
••◦
••◦
•◦
◦ ••◦
•◦
••••◦
•
◦◦
◦
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
104
1985
スムージング
1990
図 2.1.4 日本の対米輸出関数 − log(Eus−1 ) の係数 δ の変動 −
eP ∗
関数形:log(Eus) = α + βlog(Y ∗ ) + γlog(
) + δlog(Eus−1 )
P
1.0
0.8
0.6
◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦ ◦
◦
◦
◦◦◦◦
◦
◦
◦••••••••••
◦
••
•
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◦
◦
••••
◦ ◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦•
◦•
◦
◦
◦◦
◦
◦
◦◦◦
◦◦
◦
0.4
◦
◦
◦◦
◦
0.2
0.0
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
短期の所得弾力性 (図 2.1.2) について、1.5∼1.8 の範囲で、推定期間を通して安定的に推移している。長期の所得
弾力性 (図 1.1.2) の変動とは対称的である。図 2.1.3 の短期の価格弾力性についても、その変動は図 1.1.3 の長期の価
格弾力性と比べて少なく、1971 年 ∼1973 年の期間に約 0.7 まで上昇したが、その後年々減少傾向をたどり、1990 年
には 0.1 程度の値になっている。すなわち、近年、為替レートが 1%切り上げられてたとしても、短期的にはわずか
に 0.1%しか輸出は減少しない。図 2.1.4 の習慣的効果については、推定期間を通して 0.55∼0.75 の間にあり、ニクソ
ン・ショック当時にはやや高まりを示したが、それ以降は減少し続けている。円高の進行に伴い、過去の習慣を参考
にできなくなってきているのが読み取れる。
³
6.2.2 米国の対日輸出関数:log(Ejp∗t ) = f log(Yt ), log(
´
Pt
∗
),
log(Ejp
)
t−1
et Pt∗
米国の短期の対日輸出関数についても、同様の推定を行う。すなわち、過去の習慣的効果を取り入れて、一期前の
輸出を説明変数に加える。
OLS
log(Ejp∗t ) =
1.0289 + 0.02698 log(Yt ) + 0.1962 log(
(0.6097)
(0.04159)
(0.0582)
2
Pt
) + 0.9165 log(Ejp∗t−1 )
et Pt∗
(0.0314)
R = 0.9917, se = 0.0753, DW = 1.236, log(L) = 145.61
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
105
K-Filter


0.13065
 0.10636 


初期値: β0|0 = 

 0.19236 
0.88499


5623.5 −300.55 384.31
47.404
 −300.55 26.170 −4.7022 −14.326 


Σ0|0 = 

 384.31 −4.7022 51.324 −14.840 
47.404 −14.326 −14.840 14.891


3.0082
−0.13944
0.25012
0.018312
 −0.13944 0.0087159 −0.0082613 −0.0038187 


se = 0.0424, R = 

 0.25012 −0.0082613
0.025744
−0.0028055 
0.018312 −0.0038187 −0.0028055 0.0042583
log(L) = 148.67 (125.53)
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
図 2.2.1 米国の対日輸出関数 − 定数項 α∗ の変動 −
P
関数形:log(Ejp∗ ) = α∗ + β ∗ log(Y ) + γ ∗ log( ∗ ) + δ ∗ log(Ejp∗−1 )
eP
60
◦
◦
40
◦
◦
◦
◦ ◦
◦◦◦
◦◦
20
0
◦
•••••••••••
◦
••
◦
•••
••••
••
•• ◦
••
••◦
◦ ◦
•••
◦
◦•
◦◦◦◦◦◦◦◦ ◦◦
◦◦•
◦•• ◦
◦
◦◦◦◦◦◦◦ ◦•
◦◦◦◦◦◦◦◦
◦◦ ◦◦◦ ◦
◦◦••
◦◦
•
◦
• •••••• ◦◦ ◦
••••••••
◦•
◦
◦•
•
••••• ◦◦◦◦• •••••••◦◦
•••••
◦
◦••
◦•
• ••••••••
••••◦
◦
•
•
•
•
••••• •
•
•••
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•
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◦
•
◦
◦
•
•
•
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•
•
◦
◦◦
◦◦••••
◦
◦ ◦◦◦◦
◦
◦
◦
◦
◦◦◦◦◦
◦ ◦◦
◦◦◦
-20
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
106
1985
スムージング
1990
図 2.2.2 米国の対日輸出関数 − log(Y ) の係数 β ∗ の変動 −
P
関数形:log(Ejp∗ ) = α∗ + β ∗ log(Y ) + γ ∗ log( ∗ ) + δ ∗ log(Ejp∗−1 )
eP
2
1
◦
◦
◦◦
◦◦◦
◦◦◦
◦◦
◦◦◦ ◦ ◦◦
◦◦
◦◦
◦
◦•
◦••
••
◦
◦•
••••••◦ ••
◦◦• ◦◦◦•
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•••
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•◦◦◦
◦
◦
•
•◦
•◦
•
•
•
••
•••••••
◦
•••••••••••••
◦
◦
◦
0
◦◦
-1
◦
◦
◦◦◦
◦
◦◦
◦
◦
-2
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
P
) の係数 γ ∗ の変動 −
eP ∗
P
関数形:log(Ejp∗ ) = α∗ + β ∗ log(Y ) + γ ∗ log( ∗ ) + δ ∗ log(Ejp∗−1 )
eP
◦
図 2.2.3 米国の対日輸出関数 − log(
6
◦
◦
5
◦
◦
◦ ◦
◦◦◦
4
◦
3
◦◦
◦
2
1
0
◦
◦
•••••••
•••
•••
◦
••
•••
••
◦
••
◦
••
◦◦◦◦ ◦ ◦
•• ◦
◦◦
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◦◦
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••••
••
◦ ◦
◦
◦◦◦◦
•••• ◦
◦
◦
◦
◦◦
◦
◦
◦◦◦◦
◦◦ ◦◦
◦◦
◦
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
107
1985
スムージング
1990
図 2.2.4 米国の対日輸出関数 − log(Ejp∗−1 ) の係数 δ ∗ の変動 −
P
関数形:log(Ejp∗ ) = α∗ + β ∗ log(Y ) + γ ∗ log( ∗ ) + δ ∗ log(Ejp∗−1 )
eP
1.0
◦◦
0.8
0.6
0.4
0.2
◦◦
◦
◦
••••
•
•
••
••
•
••••• ••••
◦◦•
•
•
•
◦
◦
•◦
•
•••
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•◦ •
◦
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◦•
◦ •••
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•• ••••••••• ◦◦•
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◦
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•••
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◦◦ ◦
◦◦•• •
◦
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••
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◦ ◦
◦◦
◦
◦◦
◦
◦
◦
◦
◦ ◦
◦◦
◦
◦
◦◦
◦
◦
◦
0.0
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 2.2.2 の短期の所得弾力性について、1967 年以前は長期の所得弾力性と同様に係数の符号条件が満たされていな
い。全体の変動傾向として、1987 年頃までは、長期の所得弾力性と同じ動きであるが、その変動幅は長期のものより
小さくなっている。しかし、1987 年以降の所得弾力性の変動は、長期 (図 1.2.2) と短期 (図 2.2.2) では異なる。長期
の所得弾力性は、1987 年以降、急上昇しているのに対し、短期の所得弾力性はやや減少傾向にある。
一方、価格弾力性については、長期 (図 1.2.3) と短期 (図 2.2.3) は同じ変動傾向を示し、その変動幅は短期のものが
小さい。1967 年以降、短期の価格弾力性は 1 よりもやや低い水準で推移している期間が多い。
特筆すべき点は、図 2.2.4 に描かれている習慣的効果を示す係数の変動である。1965 年の 0.7 強の値から 1972 年に
は 0.4 弱へと減少し、1974 年初期まではほぼ一定、その後上昇し、1977 年後半にピークを迎える。さらに、1981 年
後半まで (0.5 強から 0.3 強へ) 減少し、安定的に推移 (約 0.3) した後、1986 年後半から 1990 年初期まで急上昇 (0.3
から 0.65 へ)、再び減少する。このように、図 2.2.4 には、1964 年後半 ∼1965 年前半, 1977 年後半, 1990 年前半の 3
つの山がみられる。
3.1 節で行ったのと同様の為替レート切り上げに対する短期的効果を、1990 年第 4 四半期のデータを使って行う。
1990.4 の価格弾力性の値は、日本の対米輸出で 0.121 米国の対日輸出で 0.654 という結果が得られた。日本の対米
輸出は 22153(1985 年価格,10 億円)、米国の対日輸出は 115.5(1985 年価格,10 億ドル)、円ドル・レートは 1 ドル当
たり 130.81 円である。仮に、円が1ドル =130.81 円から 129.50 円へ 1%だけ切り上げられたとする。このとき、両
¡
¢
¡
¢
国の輸出はそれぞれ 22126 = 22153 × (1 − 0.121/100), 10 億円 , 106.3 = 115.5 × (1 + 0.654/100), 10 億ドル とな
る。1990.4 のデータを使って、円ベースに換算して日本の対米貿易黒字を計算すると、1%の円高の進行によって、
7044(= 22153 − 130.81 × 115.5, 10 億円) から 8360(= 22126 − 129.50 × 106.3, 10 億円) へと貿易不均衡が 18.7%
¡
¢
= 100×(8360−7044)/7044 拡大することがわかる。ドル・ベースで考えても、米国の貿易赤字は 53.8(= 7044/130.81,
¡
¢
10 億ドル) から 64.6(= 8360/129.50, 10 億ドル) へと 20.1% = 100 × (64.6 − 53.8)/53.8 も拡大することになる。こ
のように、短期的には、長期的にみた場合 (円ベースで 18.5%、ドル・ベースで 19.9%の経常収支悪化) よりも貿易不
均衡は若干拡大するのである。
日米両国について、短期の価格弾力性の和を求めると、1960 年には約 2.5 であったのが、1989 年第 2 四半期以降
は 1 を下回っており、短期についても近年ではマーシャル・ラーナーの条件が満たされていない。よって、短期的に
も、長期の場合と同様に、近年では円高による経常収支の改善は見られない。
108
6.3 為替レート関数
為替レートは 1949 年に 1 ドル =360 円と決定され、円のドルに対する為替レートの変動幅は 1963 年 4 月以前は
1 ドル =360 円の上下 0.5%、それ以降 1971 年 8 月までは上下 0.75%と定められていた。もし為替レートの変化がこ
の変動幅を越えるときには、政府は外国為替市場に介入して、為替レートの変動をこの範囲内に抑えなければならな
かったのである。累積する国際収支の赤字により米国は 1971 年 8 月に金・ドル交換停止というニクソン・ショックが
起こった。そして、固定相場制から変動相場制へと移行したのである。
固定為替相場制のもとでは、ドルに対する超過需要・超過供給が発生したとしても、為替レートは固定されている
ので、外国為替市場において民間のドルに対する超過需要・超過供給は解消されない。これに対して、変動相場制の
場合、ドルの超過需要 (超過供給) は円安 (円高) によって解消される。日本の場合、輸入契約のほとんどがドル建てで
行われている。輸入が増加することはドルの需要が増加することを意味するのである。言い換えれば、輸入増加 (減
少) は円安 (円高) を引き起こす。さらに、輸出によって得たドルは、外国為替市場で円に換えられる。これは、輸出
の増加は円の需要の増加を意味する。よって、輸入は円の供給, 輸出は円の需要と考えられる。すなわち、為替レート
の決定要因の 1 つは経常収支 (輸出 − 輸入) であり、経常収支の増加 (減少) は円高 (円安) へと向かう。このように、
円ドル・為替レートは、経常収支の減少関数である。
もう 1 つの決定要因として、両国の金利が考えられる。ある経済主体が、自国の債権を購入するか、外国の債権を
購入するかの選択に直面しているとする。利子率が増加すれば債権の需要が増えるということは第 5 章で述べた通り
である。相手国の利子率が高く相手国の債権を購入しようとするとき、相手国の通貨 (例えば、米ドル) で決済が行わ
れる。すなわち、この場合もまた、ドルの需要が増え、ドル高・円安へと向かう。逆に、自国の金利が高い場合、ド
ル安・円高へと向かう。よって、円ドル・為替レート (e) は、自国の金利 (r) の減少関数、相手国の金利 (r∗ ) の増加
関数となる。
さらに、為替レートを説明する変数には両国の物価も重要な要因である。自国 (日本) の物価が相手国 (米国) の物
価に比べて高い場合、自国の財を購入せずに相手国の財を購入する。そのためには、米国の通貨であるドルが必要に
なり、ドルの需要が増える。したがって、ドル高・円安へと向かう。逆に、日本の物価が低い場合、円の需要が増加
し、ドル安・円高になる。このように、為替レートは、自国の物価の増加関数、相手国の物価の減少関数となる。
推定の際には、説明変数を減らすために、両国の実質金利を使う。説明変数の選択から、4 つのタイプを推定する。
³
´
6.3.1 日本の為替レート関数:et = f Eust − M ust , (rt − pt ) − (rt∗ − p∗t )
対米経常収支と日米実質金利差の 2 つを説明変数として、円ドル・為替レートの推定を行う。推定期間は 1973 年
第 1 四半期以降とし、これは変動相場制に移行して以降に対応する。係数の符号は、対米の経常収支についても日米
実質金利差についても負が期待される。
OLS
et = 254.80 − 0.008516 (Eust − M ust ) − 1.5586
(6.924)
(0.001212)
(1.2815)
2
¡
¢
(rt − pt ) − (rt∗ − p∗t )
R = 0.4019, se = 43.05, DW = 0.136, log(L) = −371.51
推定期間:1973.1 ∼ 1990.4
C-O
et = − 26.507 + 0.004569 (Eust − M ust ) + 0.6113
(356.83)
(0.001691)
(0.3175)
ρ = 0.9874, se = 10.94, DW = 1.358
推定期間:1973.1 ∼ 1990.4
109
¡
¢
(rt − pt ) − (rt∗ − p∗t )
K-Filter


253.29


初期値: β0|0 =  −0.0082572 
−1.2365


248540
−29.582 −6493.0


Σ0|0 =  −29.582 0.0076190 2.0512 
−6493.0
2.0512
8513.7


70.713
0.011221
5.6732


se = 4.0267, R =  0.011221 0.0000036853 0.00033756 
5.6732
0.00033756
0.66631
log(L) = −291.55 (−365.07)
推定期間:1973.1 ∼ 1990.4
図 3.1.1 日本の対米為替レート関数 − 定数項 α の変動 −
¡
¢
関数形:e = α + β(Eus − M us) + γ (r − p) − (r∗ − p∗ )
400
◦◦◦◦
◦•
◦••
◦ ••
◦•
•••
◦◦
•◦
•••••
◦•
•
◦
•
◦
◦
•
◦
◦
•
◦
•
◦◦
◦
•◦
•
◦
300
◦◦◦
◦•
◦•
••
••
◦•
◦◦◦•
◦•
◦•
◦•
◦◦
• •
•
◦
•◦◦ •
◦•
•
•
•
•
◦
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◦
◦•
•
•◦•
◦
◦
•
◦
◦
◦•
◦•
◦•
◦
•
◦◦•
◦•
◦
•• •
◦•
◦ •••••
◦•
◦••
◦
◦•
••
◦
•
◦◦◦◦◦◦
◦
•
◦
•
200
100
0
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
110
1985
スムージング
1990
図 3.1.2 日本の対米為替レート関数 − (Eus − M us) の係数 β の変動 −
¡
¢
関数形:e = α + β(Eus − M us) + γ (r − p) − (r∗ − p∗ )
0.02
◦
•••• • •
◦◦◦◦
•◦•
◦ •••◦
◦•
••
◦
•
◦◦◦
◦
••
0.01
◦
•
◦
•
•
0.00
◦
◦◦
-0.01
◦◦
•
◦
•◦•
•
◦••
◦◦ •
◦
•
◦ ◦•
◦
•••
◦
◦
•
◦
◦
• • •• ◦
◦
• ◦•
◦
•
◦•
•
◦ ◦ •
◦
•
•
◦◦•
•
◦
•
◦
◦•
◦
•
•
◦◦
◦•
◦
•
◦
•
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•
◦•
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•
•
◦◦
◦
◦
••
◦ ◦
•
◦ •◦◦◦••
◦◦
•◦ ••• •
◦
◦•
◦•
•
-0.02
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
1990
スムージング
•••••
¡
1985
¢
図 3.1.3 日本の対米為替レート関数 − (r − p) − (r∗ − p∗ ) の係数 γ の変動 −
¡
¢
関数形:e = α + β(Eus − M us) + γ (r − p) − (r∗ − p∗ )
10
5
•
◦ •••
◦•
•
◦◦◦◦•
◦•
◦•
◦••
•
•
◦◦◦•
•
◦
◦
◦◦
•••
◦•
•
•
◦◦
◦◦
•
•
◦
0
•
◦
••
◦
◦
◦
-5
◦•
◦◦
◦•
◦◦•
◦•
•••
•◦
◦•
◦•
◦•
◦•
◦◦
•
•••
• •
◦•• • •
•◦◦
•• • ••••◦◦ ••
• ◦
◦• ◦◦ ••
•
••
◦
•◦ •
◦◦ ◦
•
◦
◦◦ ••
◦•
◦ ◦ ◦◦
◦◦◦◦◦◦
•• ◦ ◦ ◦
◦◦
-10
-15
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
OLS の推定結果から、日米実質金利差の係数は −1.5586 となっている。これは日米の実質金利差が 1 パーセント・
ポイント増加すると、1.5586 円の円高になることを意味する。
図 3.1.1 の定数項は、経常収支, 日米実質金利差で説明されない部分の動きを表す。全体の推移は為替レートの動き
そのものに類似している。すなわち、1976 年から 1978 年後半までの円高に対応して定数項は下落、また 1985 年の
プラザ合意以降の円高の影響で 1988 年まで下落している。
111
経常収支の係数 (図 3.1.2) は、1986 年まで正となっており、符号条件を満たしていない。日本の対米貿易黒字が増
加し始めたのは、1975 年以降のことであり、1978 年の円高まで係数は減少 (絶対値では増加) し続けている。また、
1985 年前半からの円高を反映してさらに下落傾向 (絶対値で増加傾向) にある。
実質金利差 (図 3.1.3) については、1978 年前後の円高の時期を除いて、係数の値はゼロに近く為替レートにはほと
んど影響を与えていないことがわかる。図 3.1.1、図 3.1.3 から判断すると、1978 年の円高の影響は 1985 年以降の円
高に比べて大きかったようである。
³
6.3.2 日本の為替レート関数:et = f Eust − M ust , rt − pt , rt∗ − p∗t
´
両国の金利の効果を見るために、日本の実質金利と米国の実質金利を別々に説明変数に加えて推定する。すなわち、
説明変数には、対米経常収支, 日本の実質金利, 米国の実質金利の 3 つを使う。
以下に示す OLS の推定結果の特徴は、日本の実質金利と米国の実質金利が為替レートに与える影響には大きな違
いが見られることである。日本の実質金利の係数値は −0.8446 であるのに対して、米国の実質金利の係数値は 5.4398
とかなり大きな影響を為替レートに及ぼす。実質金利の係数値から判断して、為替レートは米国に大きく依存するこ
との証明になっている。
OLS
et = 252.25 − 0.01166 (Eust − M ust ) − 0.8446 (rt − pt ) + 5.4398 (rt∗ − p∗t )
(6.972)
(0.00214)
(1.3256)
(2.5355)
2
R = 0.4196, se = 42.40, DW = 0.178, log(L) = −369.90
推定期間:1973.1 ∼ 1990.4
C-O
et = − 35.638 + 0.003898 (Eust − M ust ) + 0.8576 (rt − pt ) + 0.1556 (rt∗ − p∗t )
(381.78)
(0.001781)
(0.3784)
(0.7202)
ρ = 0.9878, se = 10.91, DW = 1.386
推定期間:1973.1 ∼ 1990.4
K-Filter
初期値: β0|0


250.47
 −0.011327 


=

 −0.46641 
5.0271

251980 −15.360 −9331.4 −10179
 −15.360 0.023825 −1.7435 −22.286 


Σ0|0 = 

 −9331.4 −1.7435 9108.8 −3649.1 
−10179 −22.286 −3649.1
33327


57.694
0.011698
4.4377
−6.1419
 0.011698 0.0000095594 −0.0012011 −0.0041754 


se = 5.2367, R = 

 4.4377
−0.0012011
0.98240
0.35788 
−6.1419 −0.0041754
0.35788
2.1575
log(L) = −294.86 (−360.98)
推定期間:1973.1 ∼ 1990.4

112
図 3.2.1 日本の対米為替レート関数 − 定数項 α の変動 −
関数形:e = α + β(Eus − M us) + γ(r − p) + δ(r∗ − p∗ )
400
◦
◦ ◦◦◦
◦
•••••••
◦
•
◦•◦
•
◦•
•
•
◦•
••• ◦
◦
•
◦
◦
•
◦•
◦•
◦
◦
◦•
◦•
◦ ••
••
•
◦•
◦
◦◦
◦•
◦•
•
◦
◦•
◦•
◦•◦
••
◦◦◦◦◦◦
•◦
◦◦◦
••
•
◦
◦ ◦
◦ ◦◦• •
•
•••••
◦
◦
•
•
◦•
◦
◦
•• •
•
◦
◦
◦
•
◦
◦•
◦••
• •
◦
••••
◦
•••
•
◦•
◦
◦
◦◦◦◦◦◦
•
◦
◦
•
300
200
100
0
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 3.2.2 日本の対米為替レート関数 − (Eus − M us) の係数 β の変動 −
関数形:e = α + β(Eus − M us) + γ(r − p) + δ(r∗ − p∗ )
0.02
◦◦
◦
◦◦◦
◦ ◦
◦
••
◦
•• • ••••
•
••• ••
•
◦
◦•
◦ •
◦
•
◦
◦
•
•
◦
◦◦
◦ •
◦
•
0.01
0.00
◦
◦
◦
◦
-0.01
◦◦
◦
-0.02
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
113
◦
••
◦
•◦
•◦ ◦•
◦◦
◦ ◦
◦◦
•
•
•
•
•
◦
••• • ••◦◦
• •
◦
••
•
•
•
•
◦ ◦◦◦
◦
◦
◦
•
◦◦
◦•••
•
◦◦◦•
◦◦•
•
◦ ◦ •
◦◦•◦
••
◦•
◦ ◦•
◦◦
◦◦ •
•
◦••
•
◦
◦
•
••• •••
1985
スムージング
1990
図 3.2.3 日本の対米為替レート関数 − (r − p) の係数 γ の変動 −
関数形:e = α + β(Eus − M us) + γ(r − p) + δ(r∗ − p∗ )
10
5
◦
◦• ••••
◦◦◦ •
•• •
◦◦◦
••
◦◦◦ ••◦
◦
◦◦◦
• ◦◦
••••
• ◦◦
0
◦◦
-5
◦
◦◦◦◦◦◦◦
••◦ ◦
◦
◦◦◦◦••
◦•
•••
••••
••
◦•
◦•
◦••
◦•
◦••••
◦••••••◦◦ ••
••
•
◦◦
•
• ◦
◦
•◦
◦◦◦ ◦
◦
• • ◦ ••
•
•
◦
••
◦ ◦◦
◦◦
•
◦
••
◦
•
◦◦
• •◦◦
• ◦
•
•◦
◦
-10
◦
-15
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 3.2.4 日本の対米為替レート関数 − (r∗ − p∗ ) の係数 δ の変動 −
関数形:e = α + β(Eus − M us) + γ(r − p) + δ(r∗ − p∗ )
10
◦◦
◦◦
◦ ◦◦
◦
◦••
◦◦
• ◦◦•
◦
◦•
◦
◦◦
•• • •
••
◦
•
•
• •••
•
◦•
◦•
◦
5
◦
◦◦
◦
◦
◦
◦
◦
◦◦◦
◦◦
•
◦
◦
◦◦
••
• •• ◦◦◦
◦•
•
•
•• ◦◦•• ◦◦
• •
◦
•
•
•
•
•
◦
• ••
◦◦
•
••◦
•
◦◦
•••
◦ •
◦
◦ ◦
◦
••
••◦◦•
◦•• ◦ ◦
•
◦◦ ◦
◦
◦◦
•
•
•
•
•
•••••••••
◦◦
0
◦
-5
-10
-15
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 3.2.1∼ 図 3.2.3 の各係数については、前節で得られた図 3.1.1∼ 図 3.1.3 の推定結果と同じような結果が見られ
る。すなわち、図 3.2.1 について、1978 年までの円高の進行に伴って、定数項も下落、また 1985 年のプラザ合意か
ら 1989 年前半までの円高による定数項の減少傾向が見られる。図 3.2.2 についても、貿易収支の急増に伴って 1985
年以降の係数の下落、さらに図 3.2.3 では 1978 年の円高の時期にあたる前後数年を除くと日本の実質金利が為替レー
トに与える影響は無視されるほど小さい。
114
しかし、図 3.2.4 の米国の実質金利の影響は図 3.1.3 や図 3.2.3 に見られるものとは少し異なる。1980 年代半ばま
では、図 3.2.3 の係数の動きと逆の動きを示し、符号を逆にすると図 3.1.3 や図 3.2.3 のものと同じ動きになる。1986
年以降、米国の実質金利の為替レートに与える影響は増しているのが見られる。日本の実質金利や両国の実質金利差
は、この時期、ほとんどゼロに近く、為替に与える影響は無視され得るほど小さかった。米国の実質金利は近年為替
レートへの影響が大きくなってきている。
6.3.3 日本の為替レート関数:et = f
t−1
³X
i=0
´
(Eust−i − M ust−i ), (rt − pt ) − (rt∗ − p∗t )
説明変数にその期の経常収支だけではなく、過去からの累積経常収支が為替レートに影響を与えるということはよ
く言われていることである (例えば、植田 (1983), 深尾 (1982) 等を参照せよ)。本節と次節では、6.3.1 節と 6.3.2 節で
t−1
X
用いた経常収支 (Eust − M ust ) を累積経常収支
(Eust−i − M ust−i ) に置き換えて為替レート関数を推定する。こ
i=0
こで用いられる t 期の累積経常収支とは、第 1 期 (1960.1) から第 t 期までの経常収支の総和を意味する。為替レート
の推定は第 53 期 (1973.1) から第 124 期 (1990.4) までの期間を扱うが、累積経常収支はそれ以前の期間、すなわち、
第 1 期 (1960.1) から第 52 期 (1972.4) までのデータも用いる。
累積経常収支は、1975 年末まで減少し続け、1976 年以降上昇し始め、1984 年に負から正に転じ、それ以降も急速
に上昇し続けている。その動きの形は、英語の J の文字に似ている。
OLS
et = 221.21 − 0.0004803
(3.327)
(0.0000334)
t−1
X
i=0
(Eust−i − M ust−i ) − 1.6456
(0.8286)
R2 = 0.7432, se = 28.20, DW = 0.237, log(L) = −341.07
推定期間:1973.1 ∼ 1990.4
¡
¢
(rt − pt ) − (rt∗ − p∗t )
C-O
et =
213.34 − 0.0004015
(14.931)
(0.0001036)
t−1
X
i=0
(Eust−i − M ust−i ) + 0.4624
(0.3326)
ρ = 0.9051, se = 11.11, DW = 1.097
推定期間:1973.1 ∼ 1990.4
K-Filter

¡
¢
(rt − pt ) − (rt∗ − p∗t )

223.62


初期値: β0|0 =  −0.00050844 
−2.9967


57391
0.0062924
662.65


Σ0|0 =  0.0062924 0.0000057856 0.028666 
662.65
0.028666
3559.5


267.35
0.0032351
2.6932


se = 10.231, R =  0.0032351 0.000000042857 −0.0000024166 
2.6932
−0.0000024166
0.40671
log(L) = −308.38 (−336.28)
推定期間:1973.1 ∼ 1990.4
115
図 3.3.1 日本の対米為替レート関数 − 定数項 α の変動 −
関数形:e = α + β
400
X
i
¡
¢
(Eus−i − M us−i ) + γ (r − p) − (r∗ − p∗ )
300
◦
◦
◦ ◦
◦◦
•
◦
• •◦
•◦ •
◦
•• ◦ •◦
◦•
•
◦
◦•
◦•
◦
•
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•
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•
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•◦
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••
◦
••
••
••
◦ •• ◦
••
•••••••••••••
◦
◦
◦ ◦
◦◦
◦◦
◦◦◦
◦
200
100
0
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
•••••
図 3.3.2 日本の対米為替レート関数 −
関数形:e = α + β
0.003
1980
X
i
P
1985
1990
スムージング
(Eus − M us) の係数 β の変動 −
¡
¢
(Eus−i − M us−i ) + γ (r − p) − (r∗ − p∗ )
0.002
0.001
◦
◦
◦
◦
0.000
◦
◦
◦◦
•
•
◦ •◦
•
◦ •
◦••
◦
◦•
•
◦◦••
◦•
◦•
• •
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•••
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• ◦
••
◦◦◦◦◦ ◦
•
••••
◦
•
••••••
◦
◦◦
◦◦◦
-0.001
-0.002
-0.003
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
116
1985
スムージング
1990
¡
¢
図 3.3.3 日本の対米為替レート関数 − (r − p) − (r∗ − p∗ ) の係数 γ の変動 −
関数形:e = α + β
10
X
i
¡
¢
(Eus−i − M us−i ) + γ (r − p) − (r∗ − p∗ )
5
◦◦
•
•◦ ◦◦◦◦
•• •
◦••••
•
◦
◦•
••
◦••
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
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◦
•◦ ◦•
◦◦
◦
•
•
◦
◦ •
•
◦◦
••
◦◦
◦
0
-5
-10
-15
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
まず、特筆すべきことは、OLS の結果である。6.3.1 節, 6.3.2 節の OLS の結果に比べて、当てはまりが極端に改善
されている。自由度修正済み決定係数は、6.3.1 節では 0.40, 6.3.2 節では 0.42 であったのが、本節では 0.74 という値
が得られた。明らかに、単なる経常収支でなく累積経常収支がより為替レートの決定には重要であることがわかる。
当てはまりが極端に改善されたが、日米実質金利差の係数値は 6.3.1 節で −1.5586、本節で −1.6456 と大差はないこ
とも付け加えるべき点である。
各係数の動きに注目すると、実質金利差の係数の変動 (図 3.3.3) を除いて、係数の変動パターンが 6.3.1 節や 6.3.2
節のものとは大きく異なる。累積対米経常収支と日米実質金利差を除いた他の要因を含む定数項の変動 (図 3.3.1) は、
1976 年まで減少傾向、それ以降 1982 年半ばまで上昇、1985 年や 1990 年初期にも山が見られる。図 3.3.2 の累積経常
収支の係数の推移については、1975 年末までの赤字の累積に伴い係数の値は減少 (しかし、為替への影響度は増大)、
累積経常収支が負から正になる 1980 代半ばまで増加し続けた。1980 年代半ば以降、累積貿易収支が為替レートに与
える影響は減少している。しかし、図 3.3.3 の実質金利格差の影響は 1982 年以降ほとんどゼロであることと図 3.3.1
の定数項の動きは 1982 年以降 230(円) 程度の値を示していることから判断すると、累積経常収支の異常な黒字の急
増が円高の原因になっていると考えられる7 。
6.3.4 日本の為替レート関数:et = f
t−1
³X
i=0
(Eust−i − M ust−i ), rt − pt , rt∗ − p∗t
´
次に、6.3.3 節の定式化で、実質金利の効果を両国で別々に推定するために、累積経常収支, 日本の実質金利, 米国
の実質金利の 3 つを説明変数として、為替レートを推定する。
OLS
et = 223.17 − 0.0004702
(4.895)
2
(0.0000384)
t−1
X
i=0
(Eust−i − M ust−i ) − 1.8013 (rt − pt ) + 1.1945 (rt∗ − p∗t )
(0.8800)
(1.1710)
R = 0.7406, se = 28.35, DW = 0.243, log(L) = −340.91
推定期間:1973.1 ∼ 1990.4
7
本節で得られた推定結果によると、仮に累積経常収支がゼロであれば、1982 年以降の為替レートは 1 ドル=230 円程度になる。
117
C-O
et =
207.03 − 0.0004144
(16.615)
(0.0001095)
t−1
X
i=0
(Eust−i − M ust−i ) + 0.8713 (rt − pt ) + 0.6897 (rt∗ − p∗t )
(0.3919)
(0.6971)
ρ = 0.9119, se = 10.91, DW = 1.169
推定期間:1973.1 ∼ 1990.4
K-Filter
初期値: β0|0

227.12
 −0.00047707 


=

 −2.8959 


1.5695

124230
0.34960
−4596.0
−15923
 0.34960 0.0000076233 0.0016786 −0.10799 


Σ0|0 = 

 −4596.0
0.0016786
4014.5
−2383.6 
−15923
−0.10799
−2383.6
7108.2


215.40
0.0025475
2.2348
2.9706
 0.0025475 0.000000033036 0.00000065401 0.000041116 


se = 9.208, R = 

 2.2348
0.00000065401
0.26431
−0.055218 
2.9706
0.000041116
−0.055218
0.43834
log(L) = −307.31 (−334.15)
推定期間:1973.1 ∼ 1990.4
図 3.4.1 日本の対米為替レート関数 − 定数項 α の変動 −
関数形:e = α + β
400
X
i
(Eus−i − M us−i ) + γ(r − p) + δ(r∗ − p∗ )
300
◦
◦
◦•
◦◦
◦
•
•
◦•
◦•
◦•
•
◦ •
◦
◦•
◦•
••
◦
•
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•
• ◦◦
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•◦
◦◦ ◦◦◦◦◦◦◦
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•
◦
◦
•••
•
••••
••••• ••
•
◦
◦
◦
◦
◦
◦◦
◦
◦◦
◦
200
100
◦
◦
◦
◦ ◦◦
◦
0
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
118
1985
スムージング
1990
図 3.4.2 日本の対米為替レート関数 −
関数形:e = α + β
0.003
X
i
P
(Eus − M us) の係数 β の変動 −
(Eus−i − M us−i ) + γ(r − p) + δ(r∗ − p∗ )
0.002
0.001
◦
◦
0.000
◦
◦
◦◦◦
◦•
◦•••
◦•
◦•
•
◦•
◦
◦
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•
•
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•
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•••••
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◦
•••••• ◦◦
◦
◦
◦◦
◦◦◦ ◦
◦
-0.001
-0.002
◦◦◦ ◦
◦
-0.003
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
図 3.4.3 日本の対米為替レート関数 − (r − p) の係数 γ の変動 −
関数形:e = α + β
10
X
i
(Eus−i − M us−i ) + γ(r − p) + δ(r∗ − p∗ )
5
◦◦
•••••••••◦
•◦◦◦◦◦
◦
◦ •••••◦◦◦
•••
◦•••
••
••••••
◦•
◦•
◦•
◦•
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◦
◦
◦
• ◦
•
•
◦
•
•◦
•• ◦
◦◦
◦
◦
0
-5
-10
-15
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
119
1985
スムージング
1990
図 3.4.4 日本の対米為替レート関数 − (r∗ − p∗ ) の係数 δ の変動 −
関数形:e = α + β
10
X
i
5
(Eus−i − M us−i ) + γ(r − p) + δ(r∗ − p∗ )
◦◦
◦◦
◦ ◦
◦◦
◦
◦ ◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦◦◦◦◦◦•
◦
◦•••••••••••••◦•
•
◦◦◦ •••••••
◦◦
•••••
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••••••••
◦•
◦◦ ◦
••
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••
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•
••
◦•
◦•
◦•
◦•
◦ ◦ ◦◦◦ ◦
◦•
◦•
◦•
••••
◦
◦
◦
◦
0
◦
-5
-10
-15
1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
フィルタリング
1980
•••••
1985
1990
スムージング
まず、6.3.2 節で得られた OLS の推定結果と本節の結果を比較しよう。両国の実質金利の係数値に注目する。日本
の実質金利の係数は、6.3.2 節で −0.8446、本節で −1.8013 と本節で得られた値が絶対値で大きい。また、米国の実
質金利の係数については、6.3.2 節で 5.4398、本節で 1.1945 となっており、本節のものが極端に小さな推定値である。
6.3.1 節 ∼ 本節の推定結果について調べると、推定式によって係数値が大きく異なっていることから、実質金利の係
数値はかなり不安定であることがわかる。
図 3.4.1∼ 図 3.4.3 は図 3.3.1∼ 図 3.3.3 と似た変動を示している。図 3.4.4 について、米国の実質金利が為替レート
に与える影響は 1975 年のゼロから年々わずかながら上昇傾向にある。1985 年以降は 2.5 程度となっており、これは
米国の金利が 1 パーセント・ポイント上昇すると 2.5 円の円安になることを意味する。図 3.4.3 によると、同時期、日
本の金利がほとんど為替レートに影響しないことを考えると、図 3.4.4 の結果もまた、米国経済の依存度が高いこと
を表している。
本章では、輸出関数、為替レート関数の推定を行った。
日本の対米輸出関数について、所得弾力性の値が長期についても短期についても大きな推定値であった。米国経済
が日本経済に与える影響はかなり大きいものであると言える。また長期・短期共に近年では、日本の対米輸出の価格
弾力性と米国の対日輸出の価格弾力性の和が 1 より小さく、マーシャル・ラーナーの条件が満たされていない。よっ
て、円高の進行が進んでも対米経常収支の改善は期待されないであろう。
為替レートの推定によると、累積経常収支を説明変数とする方が単に経常収支を説明変数に選ぶよりも当てはまり
の面から見て良い結果が得られた。しかし、実質金利の影響については、不安定な推定結果であったが、総じて言え
ば、近年日本の実質金利は為替レートにほとんど影響しないのに対して、米国の実質金利はより大きな影響力を為替
レートに与える。
120
第 7 章 可変パラメータ・モデルによる分析 V 1
− 日米マクロ計量モデル −
マクロ計量モデルを扱った文献は数多くある。井上 (1983) は多重共線性を考慮に入れながら中規模のマクロ・モデ
ルを扱った。他にも、森 (1976)、置塩・野澤 (1983) 等があり、また、テキスト・レベルでも、尾崎 (1985)、伴・中
村・跡田 (1988)、Pindyck and Rubinfeld(1991) 等で一部取り上げられている。さらに、稲田 (1991) は日米両国を連
結させて大型マクロ計量モデルを推定した。本章でも日米マクロ計量モデルを取り扱うが、本章で扱う日米マクロ計
量モデルは方程式の数は計 21 本と極めて単純なモデルである。日米両国について生産物市場と金融市場のみを取り
上げ、輸出入と為替レートで日米を連結させるというものである。
よく知られているように、連立方程式体系を単純に OLS で推定する場合に問題となるのは、説明変数と攪乱項と
の間に相関が生じることである。説明変数と攪乱項との間に相関がある場合、OLS 推定量は偏りを持つ。この点を改
善するために、これまで様々な推定方法が考案されてきた。2 段階最小自乗法 (two-stage least squares estimator)、
3 段階最小自乗法 (three-stage least squares estimator)、k クラス推定 (k-class estimator)、制限情報最尤法 (limited
information maximum likelihood estimator)、完全情報最尤法 (full information maximum likelihood estimator)) 等
が代表的な連立方程式体系のもとでの推定方法である。本章では、2 段階最小自乗法の考え方に基づいてフィルタリ
ング・アルゴリズムを導出し、内生変数である説明変数に操作変数を用いることによってその説明変数と攪乱項との
相関を除き推定を行う。
7.1 連立方程式体系でのフィルタリング・アルゴリズム
可変パラメータ・モデルは第 1 章の 1.2.1 節で既に紹介したが、再び、観測方程式 (1.4) 式と遷移方程式 (1.5) 式と
その中に含まれる攪乱項の仮定 (1.6) を再び書くと、
観測方程式
yt = xt βt + ²t
遷移方程式
βt = Ψβt−1 + ηt
õ ¶ µ
µ ¶
²t
0
σ2
∼N
,
ηt
0
0
(1.4)
(1.5)
¶!
0
,
R
t = 1, · · · , T
(1.6)
と表された。第 3 章 ∼ 第 6 章の単一方程式については、撹乱項 ²t と説明変数 xt との間に無相関の仮定をおいて、可変
パラメータ・モデルの推定を行った。本章では、連立方程式体系における可変パラメータ・モデルの推定を取り扱う。
連立方程式体系の場合、問題は説明変数 xt と撹乱項 ²t との間に相関が生じ、フィルタリング推定値に偏りが生じるこ
とである。そこで、本章では、xt が確率変数であり、xt と ²t との間に相関がある場合、すなわち、E(x0t ²t |Ωt−1 ) 6= 0
の場合を考える。2 段階最小自乗法と同様に、操作変数法 (IV) をここに応用する。これは、2 段階最小自乗法のカル
マン・フィルタ版であり、いわゆる、2 段階カルマン・フィルタと呼ぶことができるであろう。撹乱項 ²t と無相関で、
説明変数 xt とは相関のある 1 × k ベクトルの操作変数 Zt を使って、以下のように観測方程式 (1.4) 式を書き直す。
観測方程式
yt = Zt βt + ut
(7.1)
ただし、新しい撹乱項 ut は、βt|s を s 期までの情報を与えたもとでの t 期の状態変数 βt の期待値、すなわち、E(βt |Ωs ) =
βt|s として定義したとき、
ut = (xt − Zt )βt + ²t
(7.2)
= (xt − Zt )(βt − βt|t−1 ) + (xt − Zt )βt|t−1 + ²t
1 谷崎 (1987a, 1987b) では、日本のマクロ・モデルによって、モデルの最終テストや乗数分析を行った。本章では、日米の相互関連を調べる
ために米国のマクロ・モデルを加えて、日米マクロ計量モデルによって分析を行う。
121
¡
¢
として表される。また、E (xt − Zt )(xt − Zt )0 |Ωt−1 = Pt|t−1 という仮定と、(xt − Zt ) と (βt − βt|t−1 ) との無相関
の仮定をおいて、ut の分散は、
¡
¢
0
E(ut u0t |Ωt−1 ) = tr (Σt|t−1 + βt|t−1 βt|t−1
)Pt|t−1 +σ 2
(7.3)
となる (Zt と Pt|t−1 の計算については後述する)。ただし、tr はトレースを表し、Σt|s は s 期までの情報を与えたも
とでの t 期の状態変数 βt の分散共分散行列、すなわち、Cov(βt |Ωs ) = Σt|s と定義する。よって、(7.1) 式、(1.5) 式
で表される状態空間モデルの分散共分散行列は次のように書き換えられる。
õ ¶ µ ¡
¢
¶!
µ ¶
0
tr (Σt|t−1 + βt|t−1 βt|t−1
)Pt|t−1 +σ 2 0
ut
0
,
∼N
0
R
0
ηt
(7.4)
撹乱項の分散共分散行列が (7.4) のもとで、(7.1) 式、(1.5) 式で表される状態空間モデルのフィルタリング・アルゴリ
ズムは、第 1 章で紹介された (1.12) 式 ∼ (1.18) 式で表されるフィルタリング・アルゴリズムを撹乱項の分散を修正
することにより、以下のように書き直される。
βt|t−1 = Ψβt−1|t−1
(7.5)
Σt|t−1 = ΨΣt−1|t−1 Ψ0 + R
(7.6)
¢
¡
0
Ft|t−1 = Zt Σt|t−1 Zt0 + tr (Σt|t−1 + βt|t−1 βt|t−1
)Pt|t−1 +σ 2
(7.7)
yt|t−1 = Zt βt|t−1
(7.8)
−1
kt = Σt|t−1 Zt0 Ft|t−1
(7.9)
Σt|t = Σt|t−1 − kt Ft|t−1 kt0
(7.10)
βt|t = βt|t−1 + kt (yt − yt|t−1 )
(7.11)
(7.5) 式 ∼(7.11) 式で表されるフィルタリング・アルゴリズムもまた (1.12) 式 ∼(1.18) 式と同様に逐次アルゴリズム
となっている。スムージング・アルゴリズムは第 1 章で与えられたものと同じもの ((1.20) 式 ∼(1.22) 式) であり、単
に、Tt を Ψ で、at|s を βt|s で置き換えるだけで良い (ただし、s = t − 1, T )。
フィルタリング、スムージング・アルゴリズムはこのように求められるが、問題はアルゴリズムに含まれる Zt と
Pt|t−1 の扱いである。観測方程式 (1.4) に含まれる説明変数 xt は 2 つの部分に分解される。1 つは連立方程式体系に
含まれる内生変数 (これを Y1t とする) であり、もう 1 つの部分は外生変数 (x1t とする。ただし、x1t の中には当該方
程式に含まれるラグ付き内生変数をも含む) である。すなわち、xt は次のベクトルで表示される。
xt = (Y1t , x1t ),
Y1t : 1 × (k − k1 ),
x1t : 1 × k1
当該方程式には (k − k1 ) 個の内生変数が含まれ、k1 個の外生変数が含まれているのである。先程から問題にしてい
るのは、連立方程式体系の場合、内生変数ベクトル Y1t と観測方程式に含まれる攪乱項 ²t との間に相関があることで
ある。本章では Y1t の代わりに操作変数を用いることを考えているのである。さらに、1 × k2 ベクトルの x2t を当該
方程式に含まれない外生変数として定義する (x2t の中にはラグ付き内生変数を含めない2 )。Y1t の各要素の説明変数
に (x1t , x2t ) を使って、SURE(seemingly unrelated regression equations) で推定された Y1t の予測値を Yb1t として3 、
以下に定義された Zt を xt の操作変数とする。
2
Zt = (Yb1t , x1t ),
Yb1t : 1 × (k − k1 ),
x1t : 1 × k1
通常の 2 段階最小自乗法においては、x2t にラグ付き内生変数を含めても何ら差し障りはない。しかし、次節のマクロ・モデルの推定では、
x2t にラグ付き内生変数を含めなっかったので、本節ではその方法に従っている。ただし、前述の通り、x1t には当該方程式に含まれるラグ付き
内生変数を含んでいることに注意せよ。
3 Y
1t の各要素の予測値を推定するために使われる説明変数は、Y1t の要素にかかわらず、(x1t , x2t ) である。この場合、Y1t の予測値について
SURE は各方程式を一本づつ OLS で回帰されたものに一致することに注意せよ (例えば、Johnston(1984) を参照せよ)。しかし、予測値の分散
は SURE と OLS とでは異なる。
122
このようにして操作変数 Zt を求める。
次に、Pt|t−1 について説明を加える。Pt|t−1 は Zt の分散行列として定義した。よって、Pt|t−1 の Y1t に対応する
(k − k1 ) × (k − k1 ) の左上のブロックは Yb1t の予測分散行列であり、その他の要素はすべてゼロである。すなわち、
Pt|t−1 は次のように書ける行列とする。
¡
¢
Pt|t−1 = E (xt − Zt )(xt − Zt )0 |Ωt−1

=

=
V ar(Yb1t )
Cov(x1t , Yb1t )
V ar(Yb1t ) 0
0
(k − k1 )

Cov(Yb1t , x1t )
V ar(x1t )


 (k − k1 )
k1
0
k1
ただし、V ar(Yb1t ) は Y1t の各要素を (x1t , x2t ) に SURE を使って回帰させて得られた予測値 Yb1t の予測分散である。
x1t は非確立変数なので、上の分散行列で x1t に関連するところはすべてゼロとなる。このように、Pt|t−1 はその左
上の (k − k1 ) × (k − k1 ) の部分は Y1t の予測値 Yb1t の予測分散行列となり、他はゼロとなる。
(7.5) 式 ∼(7.11) 式に含まれる Zt , Pt|t−1 は以上のようにして求められる。次に、未知パラメータ R, σ の推定につ
いて記しておく。
未知パラメータ R, σ は推定されなければならないが、この推定については、簡単化のため近似を用いる。(7.1) 式
に含まれる新しい撹乱項 ut は、もとの撹乱項 ²t が正規分布に従っていたとしても、もはや正規分布ではない。さら
に、(7.4) に表される撹乱項 ut の構造から、ut の分布を求めることは不可能に近い。したがって、厳密にいえば、最
尤法による未知パラメータ R, σ の推定はできないことになる。ここで用いる近似とは、(1.26) 式における分布関数
P (yt |Ωt−1 )、すなわち、(t − 1) 期までの情報をもとにした yt の条件付き分布関数を (1.27) 式のように平均 (7.8), 分
散 (7.7) の正規分布とすることである。そして、正規分布として近似された尤度関数を用いて最尤法で未知パラメー
タ R, σ を推定する。具体的なフィルタリング (IV-K-Filter と略す) の推定手順については、この正規分布への近似を
除いて、2.3 節で述べたのと同じである。
IV 法については、R = 0 として、前述のフィルタリング・アルゴリズム (7.5) 式 ∼(7.11) 式, 尤度関数 (1.27) 式よっ
て、ut を正規分布と近似して未知パラメータ σ を推定し、βT |T , ΣT |T を IV 法による推定値として用いる4 。
以下の可変パラメータによるマクロ・モデルの推定では、本章で示されたフィルタリング・アルゴリズム (7.5) 式
∼(7.11) 式をもとにして、スムージングによってパラメータ (状態変数) の分析を行う。なぜなら、第 2 章で示したよ
うに、また、第 3 章 ∼ 第 6 章の推定結果からも明らかなように、フィルタリングは初期値に近いほど推定値は分散が
大きく不安定であるが、スムージングはすべてのデータを使って各期のパラメータ (状態変数) を推定するため推定値
の分散はフィルタリングより小さく安定しているからである。
7.2 方程式リスト
以下の日米マクロ計量モデルを考え、(7.5) 式 ∼ (7.11) 式で表される操作変数を伴ったカルマン・フィルタ・モデ
ル (IV-K-Filter) と通常よく用いられる操作変数法 (2 段階最小自乗法, IV) との比較を行う。右肩の*印は米国の変数
または、パラメータを表す。
モデルは日本モデル部門、米国モデル部門、日米モデルの連結部門の計 3 つの部門に分解される。日本モデルと米
国モデルは輸出入と為替レート (為替レートの推定期間は 1973.1 以降) で結び付けられている。
4 R = 0 として得られた β
t|t は、t 期までのデータを使って操作変数法 (いわゆる、逐次操作変数法) で推定することに一致する。したがって、
最後の期 T の推定値 βT |T は、全部のデータを使って操作変数法で推定することになる。
123
日本モデル:
Y =C +I +G+E−M
(7.12)
Yd=Y −T
(7.13)
E = Eus + Eo
(7.14)
M = M us + M o
(7.15)
C = b10 + b11 Y d + b12 M 1−1 + b13 C−1
(7.16)
T = b20 + b21 Y
(7.17)
I = b30 + b31 Y−1 + b32 (r−1 − p−1 )
(7.18)
log(r) = b41 log(Y ) + b42 log(M 1) + b43 log(P )
(7.19)
log(Eus) = b50 + b51 log(Y ∗ ) + b52 log(
eP ∗
) + b53 log(Eus−1 )
P
(7.20)
米国モデル:
Y ∗ = C ∗ + I ∗ + G∗ + E ∗ − M ∗
(7.21)
Y d∗ = Y ∗ − T ∗
(7.22)
E ∗ = Ejp∗ + Eo∗
(7.23)
M ∗ = M jp∗ + M o∗
(7.24)
∗
C ∗ = b∗10 + b∗11 Y d∗ + b∗12 M 1∗−1 + b∗13 C−1
(7.25)
T ∗ = b∗20 + b∗21 Y ∗
(7.26)
log(I ∗ ) = b∗30 + b∗31 log(Y ∗ ) + b∗32 (r∗ − p∗ )
(7.27)
log(r∗ ) = b∗40 + b∗41 log(Y ∗ ) + b∗42 log(M 1∗ ) + b∗43 log(P ∗ )
(7.28)
log(Ejp∗ ) = b∗50 + b∗51 log(Y ) + b∗52 log(
P
)
eP ∗
(7.29)
日米モデルの連結:
M us = Ejp∗ e
M jp∗ =
(7.30)
Eus
e
(7.31)
e = b60 + b61 (Eus−1 − M us−1 ) + b62 (r − p) + b63 (r∗ − p∗ )
124
(7.32)
bij , b∗ij は推定されるべきパラメータである。内生変数, 外生変数リストは以下に示される5 。
内生変数
Y,
Y ∗,
C,
C ∗,
I,
I ∗,
T,
T ∗,
Y d,
Y d∗ ,
M 1,
M 1∗ ,
Eo,
Eo∗ ,
M o,
M o∗ ,
P
P∗
r,
r∗ ,
E,
E∗,
M,
M ∗,
Eus,
Ejp∗ ,
M us,
M jp∗
e
外生変数
G,
G∗ ,
同時方程式の場合、説明変数と撹乱項との間に相関があるため、推定値に偏り (bias) が生じることが知られている。
この問題を回避するために、前節で示したように、操作変数を使ったフィルタリング・アルゴリズム (IV-K-Filter と
以下の推定結果では略す) をここに適用する。固定パラメータ・モデルで考えると、これは 2 段階最小自乗法 (IV と
以下の推定結果では略す) に相当する。操作変数には、定数項、上に示した外生変数、各方程式に含まれる遅れのあ
る内生変数、対数変換された外生変数・内生変数を使用する6 。(7.12) 式 ∼ (7.15) 式, (7.21) 式 ∼ (7.24) 式, (7.30)
式, (7.31) 式の 10 本は定義式である。また、推定方程式は (7.16) 式 ∼ (7.20) 式, (7.25) 式 ∼ (7.29) 式, (7.32) 式の 11
本となっている。
以上の (7.12) 式 ∼ (7.32) 式で表されるマクロ・モデルの各方程式を簡単に説明しておく。
(7.12) 式, (7.21) 式: 支出面からみた国民総生産 (Y, Y ∗ ) は消費 (C, C ∗ )、投資 (I, I ∗ )、政府支出 (G, G∗ )、輸
出 (E, E ∗ ) から輸入 (M, M ∗ ) を差し引いた経常収支の和から構成されるという定義式
(7.13) 式, (7.22) 式: 分配面からみた国民総生産 (Y, Y ∗ ) は可処分所得 (Y d, Y d∗ ) とそれ以外のもの (T, T ∗ ) の
和となる定義式7
(7.14) 式, (7.23) 式: 日本の場合、(7.14) 式で示されるように輸出 (E) は米国への輸出 (Eus) とそれ以外の地域
への輸出 (Eo) に分けられるという定義式、(7.23) 式の米国の場合、輸出 (E ∗ ) は日本への輸出 (Ejp∗ ) とそれ以
外の地域への輸出 (Eo∗ ) に分けられるという定義式
(7.15) 式, (7.24) 式: 上で示された輸出の定義式と同様に、日本の場合、輸入 (M ) は米国からの輸入 (M us) とそ
れ以外の地域からの輸入 (M o) に分けられるという定義式、米国の場合、輸入 (M ∗ ) は日本からの輸入 (M jp∗ )
とそれ以外の地域からの輸入 (M o∗ ) に分けられるという定義式
(7.16) 式, (7.25) 式: 消費関数を表し、資産効果と習慣的効果を取り入れ、両国共に消費 (C, C ∗ ) を可処分所得
∗
(Y d, Y d∗ ), 前期の消費 (C−1 , C−1
), 前期の貨幣供給量 (M 1−1 , M 1∗−1 ) で回帰させる
(7.17) 式, (7.26) 式: 租税関数で、単純に国民総生産の増加関数とし、両国共に租税 (T, T ∗ ) を国民総生産 (Y, Y ∗ )
で回帰させる8
(7.18) 式, (7.27) 式: 投資関数で、日本の場合、前期の国民総生産 (Y−1 ) と前期の実質利子率 (r−1 − p−1 ) で投資
¡
¢
(I) を回帰させ、米国の場合は対数変換によって国民総生産 (log(Y ∗ )) と実質利子率 (r∗ − p∗ ) で投資 log(I ∗ )
を回帰させる9
5
各変数の記号については、本書の終わりに変数名リストとしてまとめられている。
6
以下に示す推定結果では、各推定式に用いられる操作変数もまた記述される。
7 それ以外のもの (T, T ∗ ) とは、直接税・固定資本減耗・統計上の不突合等を含むが、本章では簡単化のためそれらを一括して租税または税金
とみなす。
8
租税関数は本書ではこれまで取り上げなかった。この関数の各係数に関する理論的な意味付けは後の推定結果の評価の箇所で詳しく述べる。
9 日米両国について同じ関数形での推定を試みたが、符号条件が満たされなかったので、異なる関数形を採用した。利子率関数, 輸出関数につ
いても、同様の理由で、日米で異なる関数形を用いた。
125
(7.19) 式, (7.28) 式: 利子率関数を表し、両国共に物価の影響をも考慮に入れ、また変数に対数をとって、利子
¡
¢
¡
¢
¡
¢
率 log(r), log(r∗ ) を国民総生産 log(Y ), log(Y ∗ ) と物価指数 log(P ), log(P ∗ ) で回帰させる (ただし、日
本の場合、定数項を除いて推定する) 10
¡
¢
(7.20) 式, (7.29) 式: 輸出関数で、日本の場合には前期の対米輸出 log(Eus−1 ) を説明変数に加えることを除
¡
¢
¡
eP ∗
P ¢
いて同じ定式化で、国民総生産 log(Y ∗ ), log(Y ) と相対価格比 log(
), log( ∗ ) を説明変数として輸出
P
eP
(Eus, Ejp∗ ) を推定する11
(7.30) 式, (7.31) 式: 日本にとって米国からの輸入 (M us) は、米国にとっては日本への円換算された輸出 (Ejp∗ e)
に等しいという定義式、また米国にとって日本からの輸入 (M jp∗ ) は、日本にとっては米国へのドル換算され
Eus
) に等しいという定義式
た輸出 (
e
(7.32) 式: 為替レートの推定式で、日本の対米貿易収支の一期前の変数 (Eus−1 − M us−1 ), 日本の実質金利 (r − p),
米国の実質金利 (r∗ − p∗ ) を為替レート (e) に回帰させる
以上の推定方程式を操作変数法 (IV) と操作変数を伴ったカルマン・フィルタ・モデル (IV-K-Filter) の 2 通りで推
定する。そして、可変パラメータ・モデルと固定パラメータ・モデルとの比較を行う。各方程式の推定は以下の通り
であるが、操作変数を用いることによって各パラメータの変動の様子は前章までに示した推定結果とはかなり異なる
ものになる。
日本の消費関数
IV
Ct =
2565.1 + 0.036514 Y dt + 0.016011 M 1t−1 + 0.92541 Ct−1
(1599.9)
(0.041738)
(0.009202)
(0.05995)
se = 1267.7, log(L) = −1092.8
操作変数:定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P, P ∗ , Eo, Eo∗ , M o, M o∗ , M 1−1 , C−1
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
10 物価指数を説明変数に加える理由は次の通りである。利子率関数は、見方を変えると、貨幣需要関数を利子率について解き直したものとみな
される。第 5 章で述べたように、実質貨幣需要は理論的には物価による影響を受けない。物価指数 (log(P ), log(P ∗ )) の係数がゼロのときは貨幣
錯覚のない状態である。しかし、現実には、貨幣錯覚が存在すると考えられ、その他種々の要因から物価の影響を無視することはできない。よっ
て、本章では物価指数を説明変数に加えて推定する。
11
日本の場合は短期の輸出関数を推定し、米国の場合は長期の輸出関数を推定することを意味する。
126
IV-K-Filter


742.27
 0.14239 


初期値: β0|0 = 

 0.019726 
0.80230


4447000000
87518
45557
−204040
 87518
10.885
1.8865 −16.649 


Σ0|0 = 

 45557
1.8865
0.73924 −3.7049 
−204040
−16.649 −3.7049 27.169


34341
−2.8333
1.0280
1.8736
 −2.8333 0.00056277 −0.00012535 −0.00051162 


se = 848.84, R = 
,
 1.0280 −0.00012535 0.000037698 0.000097858 
1.8736 −0.00051162 0.000097858 0.000049229
log(L) = −1087.0
操作変数:定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P, P ∗ , Eo, Eo∗ , M o, M o∗ , M 1−1 , C−1
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
図 2.1.1 日本の消費関数 − 定数項 b10 の変動 −
C = b10 + b11 Y d + b12 M 1−1 + b13 C−1
6500
6000
•••••••••
••••••
•
••••••••
•••• •••
••••••••••••••
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•••••••
•
•
•
•
•
5500
••
•• •••••
••
••
• •••••
•
•
••
••••••
••••
•
•••••
•
• •
•• •
5000
• •
•
•
•
4500
4000
1960
1965
1970
1975
127
1980
1985
1990
図 2.1.2 日本の消費関数 − 各パラメータの変動 −
C = b10 + b11 Y d + b12 M 1−1 + b13 C−1
1.0
0.8
0.6
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦◦◦
◦
◦
◦
◦
◦◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦◦◦◦◦◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦◦◦ ◦◦
◦ ◦◦
◦
◦
0.4
0.2
•
•
• ••
•
•
•
•
•
••••••••••••
•••••
••••••••••• •••••••
••
••
•
•
•
•
********************************************************************•
•
**
**
•
*
*
*************************************
••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••
**********
***
0.0
1960
•••••
1965
1970
Y d の係数 b11
◦◦◦◦◦
1975
1980
C−1 の係数 b12
日本の租税関数
IV
Tt = − 13712
+ 0.3316 Yt
(1860.5)
(0.0078)
se = 8363.2, log(L) = −1279.4
操作変数:定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P, P ∗ , Eo, Eo∗ , M o, M o∗
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
IV-K-Filter
初期値: β0|0 =
µ
µ
−5899.9
0.30373
¶
¶
47893000000 −183550
−183550
0.84823
µ
¶
166980
−18.329
se = 1077.9, R =
−18.329 0.00021866
log(L) = −1147.5
操作変数:定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P, P ∗ , Eo, Eo∗ , M o, M o∗
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
Σ0|0 =
128
1985
*****
1990
M 1−1 の係数 b13
図 2.2.1 日本の租税関数 − 定数項 b20 の変動 −
T = b20 + b21 Y
5000
•
•• •• •
••
•
•
•
•
• ••
•
•
0
•
-5000
••
••••••••••••••
••••
••••
••
••
•
•
•
•• ••
•
•
•
•
•
•
•
• •
• • • •••
•
•
•••• •
•
•••
•
•
•• • •
•
•
••
• ••• •
•
•
•• • •
••
•
•
•
••••
•
•
•
••
• •
•
•
-10000
•
••
• •
•
•
-15000
-20000
1960
1965
1970
1975
1980
1985
1990
図 2.2.2 日本の租税関数 − Y の係数 b21 の変動 −
T = b20 + b21 Y
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
•
••
••• •••
• •• •
••
•••••••••••••• ••• •
•••••
•
•••
•
•
•
•
•
•
•
•• ••
• ••• •••••• ••
••
••
•••••••••••••••••••••••••••
•
•• •
••
••
•
•••
•• •
••••••• •••• ••
•
0.0
1960
1965
1970
1975
129
1980
1985
1990
日本の投資関数
IV
It = − 8001.3 + 0.1956 Yt−1 − 46.260 (rt−1 − pt−1 )
(1274.5)
(0.0052)
(120.12)
se = 5569.4, log(L) = −1199.1
操作変数:定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P, P ∗ , Eo, Eo∗ , M o, M o∗ , Y−1 , (r−1 − p−1 )
推定期間:1960.3 ∼ 1990.4
IV-K-Filter

−4637.6


初期値: β0|0 =  0.18188 
73.712


22319000000 −79356 −510850000


0.37737
−661.69 
Σ0|0 =  −79356
−510850000 −661.69 198240000


350330
−3.6605
−6362.0


se = 432.44, R =  −3.6605 0.000043548 0.028997 
−6362.0
0.028997
718.23
log(L) = −998.23
操作変数:定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P, P ∗ , Eo, Eo∗ , M o, M o∗ , Y−1 , (r−1 − p−1 )
推定期間:1960.3 ∼ 1990.4

図 2.3.1 日本の投資関数 − 定数項 b30 の変動 −
I = b30 + b31 Y−1 + b32 (r−1 − p−1 )
0
-3000
-6000
••
•• ••••
•••
••
•••••••••••
•
•
•
•
•
•
•
•
••
•
•
•
••
•• •
•
•
••
••
••••
•••
•• ••
•
••
•••
•••••
••
•
•
•
••
••
•
• • ••
•• • ••
••••• •
••
••
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•••
-9000
•
•
•
••
•
-12000
-15000
1960
1965
1970
1975
130
1980
1985
1990
図 2.3.2 日本の投資関数 − Y−1 の係数 b31 の変動 −
I = b30 + b31 Y−1 + b32 (r−1 − p−1 )
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
•
••••
•••••••
•••
••
••
•••
•
•
•••••••••••
•••• •
•
•
•
•
•
•• ••••
••••
••
••••••
•••••••••••••••••••
•••••••••••••••••••••••••••
••••••••••••••
0.0
1960
1970
1965
1975
1980
1985
1990
図 2.3.3 日本の投資関数 − (r−1 − p−1 ) の係数 b32 の変動 −
I = b30 + b31 Y−1 + b32 (r−1 − p−1 )
0
-20
-40
••
•
• •
•
••
•••
•
•
•• ••
• •
•
••• •
•
•
•••
•
•••
••
•
•
•
•
•
•
•
• ••••••••
•
••
•
•
•
•
•
•
•
• •
•
•
••
•
•
••
• •
••• ••• •
••
••
•
•
••• •••
•
•
•
••
•
•••
••
•
•
• ••
•
• •••
•••
•
•••
•
•
•
-60
-80
-100
1960
1965
1970
1975
131
1980
1985
1990
日本の利子率関数
IV
log(rt ) =
1.9472 log(Yt ) − 1.8061 log(M 1t ) + 0.14265 log(Pt )
(0.2127)
(0.2138)
(0.07567)
se = 0.160, log(L) = 32.087
操作変数:定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P, P ∗ , Eo, Eo∗ , M o, M o∗ , log(M 1), log(P )
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
IV-K-Filter

1.8092


初期値: β0|0 =  −1.6663 
0.15310


592.74 −595.80
194.14


Σ0|0 =  −595.80 598.93 −194.464 
194.14 −194.64
75.818


0.075361 −0.075690 0.026611


se = 0.001765 R =  −0.075690 0.076052 −0.026494 
0.026611 −0.026494 0.011243
log(L) = 128.90
操作変数:定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P, P ∗ , Eo, Eo∗ , M o, M o∗ , log(M 1), log(P )
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4

図 2.4.1 日本の利子率関数 − 各パラメータの変動 −
log(r) = b41 log(Y ) + b42 log(M 1) + b43 log(P )
4
3
2
1
0
-1
-2
-3
•••••
•
••
•
•••••
•••
••
•
•••
••••••••••••••••
•••
•
••
•
•
••
•
•
•
••
•
•
•
•••
•
•
•
••
•••
••• •••
•••
•••
••
•
•••
•
•
•
•
•
•
•••••••••••••••
•
•
••
••
•
•
•••••
•
••
*******
*
**
*
••
**
*
**
**
*
*
*
**
*****
*****************
****
********************
********************************
◦
*
*
***** ◦◦ ◦
**
**
*******
******
◦
◦
◦
◦
◦
◦
◦
◦◦
◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦
◦
◦◦◦◦◦◦◦◦
◦
◦
◦◦◦
◦
◦
◦
◦◦◦
◦
◦◦◦
◦
◦◦
◦◦ ◦◦◦
◦◦
◦
◦
◦
◦
◦◦◦◦
◦
◦◦
◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦
◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦◦
◦◦◦
◦◦◦
◦
◦
◦◦◦
◦◦◦◦◦
◦ ◦◦◦
◦◦◦
-4
1960
•••••
1965
log(Y ) の係数 b41
1970
◦◦◦◦◦
1975
1980
log(M 1) の係数 b42
132
1985
*****
1990
log(P ) の係数 b43
日本の対米輸出関数
IV
log(Eust ) = − 9.0032 + 1.1822 log(Yt∗ ) + 0.29267 log(
(2.8196)
(0.3698)
(0.09469)
et Pt∗
) + 0.75985 log(Eust−1 )
Pt
(0.07550)
se = 0.0393, log(L) = 128.61
操作変数:定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P, P ∗ , Eo, Eo∗ , M o, M o∗ , log(Eus−1 )
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
IV-K-Filter
初期値: β0|0


−5.9201
 0.78429 


=

 0.20385 

0.82998

25609
−3382.5 −760.32 665.69
 −3382.5 460.06
90.875 −94.225 


Σ0|0 = 

 −760.32 90.875
29.788 −15.446 
665.69 −94.225 −15.446 20.429


1.0024
−0.12314
−0.037832
0.022649
 −0.12314
0.015621
0.0042475
−0.0029821 


se = 0.0301, R = 

 −0.037832 0.0042475
0.0017641
−0.00070376 
0.022649 −0.0029821 −0.00070376 0.00060031
log(L) = 129.49
操作変数:定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P, P ∗ , Eo, Eo∗ , M o, M o∗ , log(Eus−1 )
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
図 2.5.1 日本の対米輸出関数 − 定数項 b50 の変動 −
eP ∗
) + b53 log(Eus−1 )
log(Eus) = b50 + b51 log(Y ∗ ) + b52 log(
P
0
-5
-10
•••••••••••••••••••
•••••
••••••••
••••••••••••••••••••••••••••••••••
•••
••••
•••
•••
•
•
•
•
•
•
•
•
•••
••
•••
•• • ••
•••
•••• • •
••
••
•
•••••
•
••••
-15
-20
1960
1965
1970
1975
133
1980
1985
1990
図 2.5.2 日本の対米輸出関数 − 各パラメータの変動 −
eP ∗
) + b53 log(Eus−1 )
log(Eus) = b50 + b51 log(Y ∗ ) + b52 log(
P
2.0
•
••• •••
•••
••••
••
•••••••
•
••
•
••• •••
••
•
• •••
•
•
•••
•
•
•
••
•
•
••
••
•
••••••••
•
••
•••
•
•
•
•••••••••••••••••••••••••••••••
•••• ••
••• ••••••••••
1.5
1.0
*******************************************
*******************************
********
*******
**************
*********************
0.5
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
0.0
1960
•••••
1965
log(Y ∗ ) の係数 b51
1970
1975
◦◦◦◦◦
log(
1980
eP ∗
) の係数 b52
P
1985
*****
1990
log(Eus−1 ) の係数 b53
米国の消費関数
IV
Ct∗ =
∗
33.237 + 0.1138 Y d∗t + 0.09319 M 1∗t−1 + 0.75946 Ct−1
(18.194)
(0.0768)
(0.02650)
(0.09427)
se = 14.583, log(L) = −530.83
∗
操作変数:定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P, P ∗ , Eo, Eo∗ , M o, M o∗ , M 1∗−1 , C−1
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
IV-K-Filter
初期値: β0|0


34.937
 0.043241 


=

 0.056537 
0.87874

866060 −659.88 1566.2 −1476.3
 −659.88 204.84
3.4297 −26.228 


Σ0|0 = 

 1566.2
3.4297
5.8202 −11.199 
−1476.3 −26.228 −11.199 42.491


27.921
−0.0068717
0.051700
−0.068090
 −0.0068717
0.0010962
−0.00016809
−0.0010279 


se = 12.066, R = 
,
 0.051700
−0.00016809 0.000037698 −0.000071978 
−0.068090 −0.0010279 −0.000071978
0.0012649
log(L) = −528.76
∗
操作変数:定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P, P ∗ , Eo, Eo∗ , M o, M o∗ , M 1∗−1 , C−1
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4

134
図 2.6.1 米国の消費関数 − 定数項 b∗10 の変動 −
∗
C ∗ = b∗10 + b∗11 Y d∗ + b∗12 M 1∗−1 + b∗13 C−1
60
•
••• •••
•••• • •
••
••
••
••
•••
••
•• ••
••
•
•
•••
•
•••••
•
50
40
30
20
•
•
•
•
•
•
•••
•
•
•
••
•
•••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••
•
••••••
•
•
•
•
•
•
• •••
•
10
0
1960
1965
1970
1975
1980
1985
1990
図 2.6.2 米国の消費関数 − 各パラメータの変動 −
∗
C ∗ = b∗10 + b∗11 Y d∗ + b∗12 M 1∗−1 + b∗13 C−1
1.0
0.8
0.6
◦◦
◦◦◦ ◦◦◦
◦◦
◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦◦
◦◦
◦◦
◦◦◦
◦◦
◦◦
◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦◦
◦◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦◦◦
◦◦
◦ ◦◦◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦ ◦
0.4
0.2
0.0
••••••••••••••••••
••••••••••• •
•••
•••
••••
•••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••
******
••• ****************
••
••••***********•
•
•• •••
***
••••
•••
**** ••••••••
*
**
**
*
*
**
***
***
*********************************************************************
1960
•••••
1965
Y d∗ の係数 b∗11
1970
◦◦◦◦◦
1975
∗
C−1
の係数 b∗12
135
1980
1985
*****
1990
M 1∗−1 の係数 b∗13
米国の租税関数
IV
Tt∗ =
178.45 + 0.25405 Yt∗
(17.264)
(0.00529)
se = 45.262, log(L) = −644.45
操作変数:定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P, P ∗ , Eo, Eo∗ , M o, M o∗
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
IV-K-Filter
初期値: β0|0 =
µ
221.16
0.24242
¶
¶
3821300 −1140.6
−1140.6 0.36217
¶
µ
1019.2
−0.51904
se = 5.3186, R =
−0.51904 0.00026811
log(L) = −562.45
操作変数:定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P, P ∗ , Eo, Eo∗ , M o, M o∗
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
Σ0|0 =
µ
図 2.7.1 米国の租税関数 − 定数項 b∗20 の変動 −
T ∗ = b∗20 + b∗21 Y ∗
300
•
••
200
•
• ••
•• •
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
100
•
•
•
•
•••
•
•
•
•
•
••
•
•
•
••• •
•
••••
••• ••
•
•••
•
••
•
•• •
•
• •
•
•
•• •
• • •••••••
•
•
•
0
•
-100
••••
•••
••
•• •
•
•
•
•
••
•
••
••
•
••
•• •• •••
•
•
•••
•
-200
1960
1965
1970
1975
136
1980
1985
1990
図 2.7.2 米国の租税関数 − Y ∗ の係数 b∗21 の変動 −
T ∗ = b∗20 + b∗21 Y ∗
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
•
••••• ••••••••••••
•••••
•
•
•••••
•••••••• •
•
•
•
•• •••••••••••
•••••••••••••
••
••
• •
••••• • ••• ••
•
•• • •• ••• ••
•• ••
•
•• •
•• ••••
• ••
•
• •••••
•
•
••
•
0.0
1960
1965
1970
1975
1980
1985
米国の投資関数
IV
log(It∗ ) = − 3.2475 + 1.1774 log(Yt∗ ) − 0.004269 (rt∗ − p∗t )
(0.3515)
(0.002649)
(0.0434)
se = 0.03523, log(L) = 132.96
操作変数:定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P, P ∗ , Eo, Eo∗ , M o, M o∗
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
IV-K-Filter


−2.7320


初期値: β0|0 =  1.1142 
−0.0022557


278.31
−35.014
1.1627


4.4113
−0.15421 
Σ0|0 =  −35.014
1.1627 −0.15421 0.029550


0.013919
−0.0017748 −0.00013425


se = 0.0003602, R =  −0.0017748 0.00022644 0.000016747 
−0.00013425 0.000016747 0.0000026848
log(L) = 152.78
操作変数:定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P, P ∗ , Eo, Eo∗ , M o, M o∗
推定期間:1960.2 ∼ 1990.4
137
1990
図 2.8.1 米国の投資関数 − 定数項 b∗30 の変動 −
log(I ∗ ) = b∗30 + b∗31 log(Y ∗ ) + b∗32 (r∗ − p∗ )
0
-1
-2
-3
•
•• •
••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••
•
••
••
••
•••••••
••
•
•
••••••
•
••
•
••• ••••
•
•••
••
•
•
•
•
••
••
•••••
-4
-5
1960
1965
1970
1975
1980
1985
1990
図 2.8.2 米国の投資関数 − log(Y ∗ ) の係数 b∗31 の変動 −
log(I ∗ ) = b∗30 + b∗31 log(Y ∗ ) + b∗32 (r∗ − p∗ )
1.5
1.2
•••••••••
•••
•••
•••••••••••
••••••••••••••
••
••••
•••••
••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••
•••••
0.9
0.6
0.3
0.0
1960
1965
1970
1975
138
1980
1985
1990
図 2.8.3 米国の投資関数 − (r∗ − p∗ ) の係数 b∗32 の変動 −
log(I ∗ ) = b∗30 + b∗31 log(Y ∗ ) + b∗32 (r∗ − p∗ )
0.000
••
• •
•
•
•
•
•
•
•
-0.005
•
•••••••••
••••
•••
•••
•••••
••••••••
•
•
•
•
•
•
•
•
•
••
•••••
•
••••••••••••••••••••••••••••••
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
••
-0.010
•
•
•
•
•
•• ••
•••••
•
••
-0.015
-0.020
1960
1965
1970
1975
1980
1985
1990
米国の利子率関数
IV
log(rt∗ ) =
6.6688 + 1.9618 log(Yt∗ ) − 2.5711 log(M 1∗t ) + 1.2390 log(Pt∗ )
(2.2724)
(0.5814)
(0.4828)
(0.1356)
se = 0.139, log(L) = 48.418
操作変数:定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P, P ∗ , Eo, Eo∗ , M o, M o∗ , log(M 1∗ ), log(P ∗ )
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
IV-K-Filter
初期値: β0|0


−2.9291
 2.1399 


=

 −1.5597 
0.62078

4382.2 −8766.6 3620.8
2047.9
 −8766.6 4242.3 −3296.9 8.3108 


Σ0|0 = 

 3620.8 −3296.9 2958.7 −262.15 
2047.9
8.3108 −262.15 175.61


0.42822
−0.11903
0.072646
0.032245
 −0.11903
0.047240
−0.034594 −0.0048666 


se = 0.0171 R = 

 0.072646 −0.034594
0.027007
0.0014928 
0.032245 −0.0048666 0.0014928
0.0047503
log(L) = 147.96
操作変数:定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P, P ∗ , Eo, Eo∗ , M o, M o∗ , log(M 1∗ ), log(P ∗ )
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4

139
図 2.9.1 米国の利子率関数 − 定数項 b∗40 の変動 −
log(r∗ ) = b∗40 + b∗41 log(Y ∗ ) + b∗42 log(M 1∗ ) + b∗43 log(P ∗ )
3
2
•
••
•
1
0
•
••
•••
•••
•••
•
•••
•
•
•••
•
•••••••••••••
•••
•
•
•
•
•
•
•
•
-1
•
•
•• •
••
•
••
•••
•
•
•
•
••
•••
•
••
••
•
•
• •
•
•••
•
•
•
••
• •
••
•
•
•
•
•
•
••
•
•• ••
•
-2
•
••
• ••
•
•
•
•
•
•
• ••
• •
-3
1960
1965
1970
1975
1980
1985
1990
図 2.9.2 米国の利子率関数 − 各パラメータの変動 −
log(r∗ ) = b∗40 + b∗41 log(Y ∗ ) + b∗42 log(M 1∗ ) + b∗43 log(P ∗ )
3
2
1
••••••••
••
••
•
•
•
•
•
•
•
••
•••
••••••••••••••••••
••
•• •• ••• •••••••• •
••••••
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• ••
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•••
•••
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•••
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•••• •• •••••• •••
••
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**************************************
*****
**
******
**
* ***
****************
************
**
**
*
*
*
*
****
********
*** *** **
** * ***
******
0
-1
-2
◦
◦◦◦◦◦◦◦
◦◦◦◦◦◦ ◦◦◦◦◦◦◦
◦◦◦
◦◦◦◦◦◦
◦◦◦◦◦ ◦◦◦◦◦◦◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
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◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦◦
◦
◦◦
◦◦
◦◦
◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦
-3
1960
•••••
1965
log(Y ∗ ) の係数 b∗41
1970
◦◦◦◦◦
1975
1980
log(M 1∗ ) の係数 b∗42
140
1985
*****
1990
log(P ∗ ) の係数 b∗43
米国の対日輸出関数
IV
log(Ejp∗t ) = − 6.5040 + 1.2185 log(Yt ) + 0.97102 log(
(2.8363)
(0.1484)
(0.20667)
Pt
)
et Pt∗
se = 0.2386, log(L) = −35.11
操作変数:定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P, P ∗ , Eo, Eo∗ , M o, M o∗
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4
IV-K-Filter

−0.23509


初期値: β0|0 =  0.78667 
1.1352


44504
−2066.0 3526.4


Σ0|0 =  −2066.0 99.987 −154.74 
3526.4 −154.74 299.34


4.7779
−0.19991
0.42621


se = 0.0000176, R =  −0.19991 0.0089321 −0.016714 
0.42621 −0.016714 0.040235
log(L) = 40.854
操作変数:定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P, P ∗ , Eo, Eo∗ , M o, M o∗
推定期間:1960.1 ∼ 1990.4

図 2.10.1 米国の対日輸出関数 − 定数項 b∗50 の変動 −
P
log(Ejp∗ ) = b∗50 + b∗51 log(Y ) + b∗52 log( ∗ )
eP
2
•
••
0
•
•
••
••
•
•
•
•
•
•
•
••
•
-2
-4
••••••••••••••••••••••••••••••••••
••
•
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•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
• •
••
-6
•
•
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• •
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•
•
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•••• •
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•
•
•
••
•
•
•
•
•
•
••
•• •
•
•
•
••
•
••
•
••
-8
-10
1960
1965
1970
1975
141
1980
1985
1990
図 2.10.2 米国の対日輸出関数 − 各パラメータの変動 −
P
log(Ejp∗ ) = b∗50 + b∗51 log(Y ) + b∗52 log( ∗ )
eP
2.0
1.6
1.2
0.8
0.4
••
••
••
••
••
•
•
•
◦
◦
••
◦
•
◦
•••••
•
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•
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••••
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••
◦
◦
◦◦ ◦
◦•••••
◦
◦
◦◦
◦
◦
◦
◦
◦
◦ ◦
◦
◦◦
0.0
1960
1965
•••••
1970
1975
1980
log(Y ) の係数 b∗51
1985
◦◦◦◦◦
log(
1990
P
) の係数 b∗52
eP ∗
日本の対米為替レート関数
IV
et =
180.28 − 0.01396 (Eust−1 − M ust−1 ) − 7.6060 (rt − pt ) + 26.515 (rt∗ − p∗t )
(29.309)
(0.00349)
(4.6864)
(6.3003)
se = 12.33, log(L) = −387.21
操作変数:定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P, P ∗ , Eo, Eo∗ , M o, M o∗ , (Eus−1 − M us−1 )
推定期間:1973.1 ∼ 1990.4
IV-K-Filter
初期値: β0|0


256.79
 −0.011877 


=

 −1.9281 
5.4468

228130 −11.887 −8771.2 −11569
 −11.887 0.017818 −1.1083 −16.128 


Σ0|0 = 

 −8771.2 −1.1083 8238.6 −3799.6 
−11569 −16.128 −3799.6
25951


15.770
0.00029914
−0.69935
0.17757
 0.00029914 0.0000037834 −0.00040965 −0.0033980 


se = 0.5292, R = 

 −0.69935 −0.00040965
0.94426
−0.29078 
0.17757
−0.0033980
−0.29078
5.0240
log(L) = −380.54
操作変数:定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P, P ∗ , Eo, Eo∗ , M o, M o∗ , (Eus−1 − M us−1 )
推定期間:1973.1 ∼ 1990.4

142
図 2.11.1 日本の対米為替レート関数 − 定数項 b60 の変動 −
e = b60 + b61 (Eus−1 − M us−1 ) + b62 (r − p) + b63 (r∗ − p∗ )
240
•••••••••••••••
•••
•••
••
••
•••
••
••
••
•••
••••
•••
••••
••
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
••
•••••
••••
230
210
200
190
180
1960
1965
1970
1975
1980
1985
1990
図 2.11.2 日本の対米為替レート関数 − (Eus−1 − M us−1 ) の係数 b61 の変動 −
e = b60 + b61 (Eus−1 − M us−1 ) + b62 (r − p) + b63 (r∗ − p∗ )
0.000
••••••••••••••••••••••••••••••••••••
••
••
••••••••••
•
•
•
-0.005
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•• ••••••
••
-0.010
-0.015
-0.020
1960
1965
1970
1975
143
1980
1985
1990
図 2.11.3 日本の対米為替レート関数 − 各パラメータの変動 −
e = b60 + b61 (Eus−1 − M us−1 ) + b62 (r − p) + b63 (r∗ − p∗ )
15
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦◦◦◦
◦◦◦◦
◦◦
◦◦
◦◦◦◦◦
◦◦
◦
◦
◦
◦◦
◦◦◦◦◦
◦◦◦◦◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
10
5
0
••••••••••••
••••••••••••••••••••••••••••••••••
••••••••••
••••
•••
••••
••••••
-5
-10
1960
1965
•••••
1970
1975
(r − p) の係数 b62
1980
◦◦◦◦◦
1985
1990
(r∗ − p∗ ) の係数 b63
本章では、連立方程式体系を扱い、各方程式の撹乱項と説明変数との間の相関を除くために、操作変数を用いてカ
ルマン・フィルタの 2 段階推定を採用した。さらに、フィルタリング推定値をもとにして (1.20) 式 ∼(1.22) 式からス
ムージング推定値を求め、各パラメータのスムージング推定値の推移をグラフに示した。操作変数を用いた 2 段階推
定のため、全般的に、第 3 章 ∼ 第 6 章で得られたものとパラメータの変動傾向が異なる結果が得られたので、以下に
簡単に各方程式の結果を記しておく。
消費関数: (7.16) 式, (7.25) 式
日本の消費関数について、第 3 章の図 2.1.1∼ 図 2.1.3, 図 3.1.1∼ 図 3.1.3 で推定された係数の動きとは異なっ
た推移をしている。すなわち、本章の図 2.1.2 によると、1977 年頃まではいずれの係数についても非常に安定的
であるが、それ以降、Y d の係数 b11 は増加傾向、C−1 の係数 b12 , M 1−1 の係数 b13 は減少傾向となっている。
第 2 次オイル・ショック (1978 年第 4 四半期) 前後に構造変化が認められる。
一方、米国の消費関数についても、第 3 章の図 2.2.1∼ 図 2.2.3, 図 3.2.1∼ 図 3.2.3 で得られた推定結果とは異
なる結果を本章の図 2.6.1, 図 2.6.2 で得られた。1972 年までは、いずれのパラメータについても安定的であっ
たが、それ以降、Y d の係数 b∗11 は 1972 年までと同じ値のまわりを変動しているものの、C−1 の係数 b∗12 は減
少傾向、M 1−1 の係数 b∗13 は 1976 年以降増加傾向となっている。
租税関数: (7.17) 式, (7.26) 式
これまでの章では、租税関数の推定を行わなかった。ここで示す租税とは、大ざっぱには、直接税に固定資
本減耗を加えたものであるが、正確には、(7.13) 式, (7.22) 式が表すように国民総生産と可処分所得との残差で
ある。租税関数の立場からみると、国民総生産の係数は税率を表し、不況時 (好況時) に減税 (増税) によって経
済を刺激 (抑制) する政策がとられることから、国民総生産の係数は不況時に上昇し好況時に下落すると考えら
れる。一方、固定資本減耗の立場から考えると、国民総生産の係数は資本係数と資本減耗率との積で表される。
不況時には、機械設備の操業が好況時に比べて少なく、機械の摩耗も少なく、したがって、資本減耗率も低下
するので、国民総生産の係数は不況時に上昇し好況時に低下すると考えられる12 。
日本については図 2.2.2 に、米国については図 2.7.2 に国民総生産の係数の変動の様子が示される。図 2.2.2
12
によると、1974 年 ∼1976 年に係数の落ち込みが見られ、それ以降は上昇傾向を続けている。1970 年後半から
以上のことをまとめて、式で表すと以下の通りである。
144
1972 年末までの不況期から第 1 次オイル・ショックによる 1973 年末から 1975 年前半までの不況期にかけて、
Y の係数 b22 は減少し続けた。不況期における減税政策、設備投資の落ち込みによる資本係数の低下、固定資
本減耗率の低下がこの時期に進行したものと思われる。
米国の租税関数 (図 2.7.2) では、1968 年 ∼1970 年に係数の落ち込みが目立ち、この時期米国経済に大きな
転換期があったことが示される。また、1970 年以降は上下の変動はあるが一定値のまわりを安定的に推移して
いる。
投資関数: (7.18) 式, (7.27) 式
日本の場合、2 つのラグ付き内生変数 Y−1 , (r−1 − p−1 ) で投資 I を回帰させたため、ここで得られた IV 法の
結果は OLS に一致する。また同様に、IV-K-Filter は前章までの推定方法 (すなわち、K-Filter) に等しくなる。
第 4 章ではある期間について利子率の符号条件が合わなかったが、国民総生産, 実質利子率の一期前の変数で回
帰させることにより、満足できる結果が得られた。Y−1 の係数 b32 については、第 4 章で得られた Y の係数の
変動傾向とほぼ同じであったが、(r−1 − p−1 ) の係数 b33 は 4.1.1 節の図 1.1.3 とはかなり異なる結果となった。
本節の図 2.3.3 では、1975 年前半から 1983 年まで係数は低下傾向 (絶対値で増加傾向) を示しており、実質利
子率の投資への影響度がこの時期年々増しているのが読み取れる。さらに、1987 年後半から、利子率の係数は
上昇傾向 (絶対値で減少傾向) にある。
米国の投資関数では、国民総生産と投資に対数をとって、Y ∗ の係数を弾力性で表し、実質利子率 (r∗ − p∗ ) の
係数を半弾力性で表す。図 2.8.2 と図 2.8.3 も第 4 章で得られた結果とはかなり異なる。図 2.8.3 によると、1985
年前後にパラメータの値が急上昇しており、この時期の高金利政策による利子率の投資に与える影響が低下し
ているのが図から判断される。
固定資本減耗を D 、直接税を T p、市場価格表示の国民所得を N I で表すと、国民総生産 Y との関係は、大ざっぱに示すと、
Y = NI + D
= (Y d + T p) + D
となる。これは、分配面から国民総生産をみたものである。本章で定義した T は直接税 T p と固定資本減耗 D との和であることがわかる。直接
税 T p は国民所得 N I の増加関数である。すなわち、直接税率を t とすると、
T p = tN I
= t(Y − D)
として書き直せる。
さらに、資本ストックを K で表す。資本ストックが増加すると、機械設備の摩耗を補填するため固定資本減耗額も増加する。固定資本減耗率
を δ とすると、この関係は以下の式によって表される。
D = δK
また、資本ストックは国民総生産の増加関数とするのが一般的であり、資本係数を ρ とするとき、
K = ρY
となる。2 つの式から、固定資本減耗は国民総生産の増加関数となり、
D = δρY
として書き直される。
最後に、D と T p の和 T は、
T = Tp + D
= t(Y − D) + D
= tY + (1 − t)D
¡
¢
= t + (1 − t)δρ Y
となる。現実的には、0 ≥ t ≥ 1, 0 ≥ δρ ≥ 1 の制約があるべきであるので、T を Y に回帰させた場合、直接税率・固定資本減耗率・資本係数の
うち、いずれが上昇しても T を増加させることになる。
各パラメータ t, δ, ρ の変動は次のように解釈される。税率 t は、不況期には政府は減税政策により経済を活発化させようとし不況期に低下、
逆に好況期に上昇するものと考えられる。固定資本減耗率 δ は、不況期には機械設備の稼動が少ないため機械設備の磨耗も少なくなり、したがっ
て、不況期に低下、好況期に上昇すると考えるのが適当である。また、資本係数 ρ については、不況期には機械設備を増やして投資を増加させる
ことを避けるため ρ もやはり下落する。これらのパラメータのいずれについても不況期に下落、好況期に上昇する。
145
利子率関数: (7.19) 式, (7.28) 式
日本の場合、利子率の推定には定数項を除いて、変数を対数変換して、利子率 log(r) を国民総生産 log(Y ),
貨幣供給量 log(M 1), 物価指数 log(P ) で回帰させた。図 2.4.1 によると、1972 年 ∼1978 年に log(Y ) の係数 b41
の低下傾向、log(M 1) の係数 b42 の増加傾向が見られ、また、1987 年には b41 の増加、b42 の低下、さらには
1990 年、国民総生産・貨幣供給量の両方の変数の利子率に対する影響度は著しく低下している。このように、
b41 と b42 は対称的な動きを見せている。また、(7.19) 式を変形して、log(M 1) についてまとめると、(7.19) 式
は貨幣需要関数として見ることができ、そこでは、log(P ) は貨幣錯覚を表す変数となる。したがて、係数 b43
がゼロならば貨幣錯覚はないと結論づけられる。ここで得られた結果によると、b43 はゼロのまわりで小さく変
動しており、日本では推定期間のほとんどについて貨幣錯覚は存在しないという結果となった13 。
一方、図 2.9.2 によると、log(Y ∗ ) の係数 b∗41 と log(P ∗ ) の係数 b∗43 は対称的に動いていて、日本の場合と同
じ結果である。しかし、log(P ∗ ) の係数 b∗43 は推定期間を通して正であり、米国では貨幣錯覚が存在しているこ
とを示している。b∗43 が正であることは、貨幣需要関数で考えた場合、物価の上昇は実質貨幣需要を増加させる
ことを意味する。物価の上昇は人々を過剰に反応させ、取引動機による貨幣需要を必要以上に増加させると解
釈されるであろう。
輸出関数: (7.20) 式, (7.29) 式
図 2.5.2 で、日本の対米輸出弾力性は 1967∼1975 年の上昇、1975 年以降の減少傾向が特徴となっているが、
他の係数 b52 , b53 については安定的な動きを見せている。
第 6 章で得た米国の対日輸出関数とはかなり異なる結果をここでは得た。特に、輸出の所得弾力性 b∗51 は 1985
年以降上昇している。これは、日本の内需拡大により、需要要因の輸出に与える影響が増加していることを意味
する。日米の輸出関数の価格弾力性の係数の和が 1 以上というマーシャル・ラーナーの条件は、1975 年 ∼1976
年を除いて、満たされている。
為替レート関数: (7.32) 式
変動相場制に移行した 1973 年第 1 四半期以降のデータを使って、為替レート e を前期の対米経常収支 (Eus−1 −
M us−1 ), 日本の実質金利 (r − p), 米国の実質金利 (r∗ − p∗ ) で回帰させて推定する。(Eus−1 − M us−1 ) の係数
(図 2.11.3) は 1985 年 ∼1988 年に急激な低下が見られ、経常収支の黒字に伴う円高圧力の増加が示されている。
図 2.11.3 の両国の実質利子率の影響は、日本の利子率については推定期間を通してほぼ一定、米国の実質利子
率については 1977 年 ∼1985 年の増加傾向の後、減少傾向に転じている14 。
以上の推定結果では、符号条件はすべて満たされている。係数の変動が第 3 章 ∼ 第 6 章で得られたものと大きく異
なる推定結果が多かったが、この理由としては操作変数を用いたことによると考えられる。また、操作変数を用いた
ことにより、パラメータの変動はかなり安定的になったようである。本節では、操作変数法と操作変数を伴ったカルマ
ン・フィルタ・モデルの 2 つで日米マクロ・モデルを構築した。次節では、このマクロ・モデルを使ってモデルの当て
はまりを調べる最終テスト (final test) と政府支出増加や貨幣供給量増加の政策シミュレーション (policy simulation)
による分析を行う。
7.3 最終テストと政策シミュレーション
(7.12) 式 ∼(7.32) 式によって表されるマクロ・モデルを以下の 3 つのタイプに分けて分析する。
13 しかし、(7.19) 式から log(P ) を除いて推定すると 1989 年後半から log(M 1) の係数は正となり、符号条件が合わなかったので log(P ) を含
めて推定した。
14 第 6 章 6.3.4 節の為替レートの推定によると、単に経常収支を説明変数として取るのではなく、累積経常収支取る方が当てはまりが極端に良
い結果が得られた。本章でこの関数形を採用しなかった理由は、累積経常収支を取ることによる誤差の累積を避けるためである。誤差が蓄積する
とモデルが発散し解けなくなる可能性がある。
146
(1) 日本モデル (7.3.1 節): (7.12) 式, (7.13) 式, (7.16) 式 ∼(7.19) 式
(2) 米国モデル (7.3.2 節): (7.21) 式, (7.22) 式, (7.25) 式 ∼(7.28) 式
(3) 両国モデル (7.3.3 節): (7.12) 式 ∼(7.32) 式
(1) は日本の閉鎖経済モデルの場合、(2) は米国の閉鎖経済モデルの場合をそれぞれ表す。(1) と (2) の両方のモデル
について、輸出入 (E, M , E ∗ , M ∗ ) は外生とされる。(3) は日米両国を輸出入 (Eus, M us, Ejp∗ , M jp∗ ) と為替レー
ト (e) で結び付け、両国の相互作用を分析する。以下の 7.3.1 節, 7.3.2 節, 7.3.3 節で扱う 3 つのマクロ・モデルの IV
法による固定パラメータの推定値や IV-K-Filter による可変パラメータの推定値については、前節で得られたものを
そのまま用いる15 。
7.3.1 日本モデル
(7.12) 式, (7.13) 式, (7.16) 式 ∼(7.19) 式の 6 本から成る日本のマクロ・モデルを使って分析を行う。輸出入 (E, M )
と為替レート (e) は外生変数とした閉鎖経済モデルを扱う。内生変数は国民総生産 Y , 消費 C, 投資 I, 可処分所得 Y d,
税金 T , 利子率 r である。
モデルの当てはまりを調べるために、まず、最終テストから始める。図 3.1.1, 図 3.1.2, 表 3.1.1, 表 3.1.2, 表 3.1.3 が
その結果である。次に、政府支出増加や貨幣供給量増加による国民総生産への影響を調べる乗数分析を行う。図 3.1.3,
図 3.1.4 はそれぞれ政府支出増加による短期乗数, 長期乗数のグラフであり、図 3.1.5 は貨幣供給量増加による長期乗
数を表す16 。
図 3.1.1 は国民総生産の現実値とそのシミュレーション解17 との乖離 (単位:10 億円) を示し、図 3.1.2 は同じく
国民総生産の現実値とその解との誤差率 (単位:%) を表す。すなわち、yt , ybt をそれぞれ t 期の現実に得られたデー
タ18 , t 期の IV 法や IV-K-Filter によって得られた推定値をもとにして計算されたシミュレーション解とするとき、
図 3.1.1 は次のものを時間 t についてプロットしたものである。
ybt − yt
(7.33)
また、図 3.1.2 は次式で計算される値を時間 t についてプロットしたものである。
100
ybt − yt
yt
(7.34)
誤差 (7.33), 誤差率 (7.34) は共に、正ならばシミュレーション解は過大推定、負ならばシミュレーション解は過小
推定されていることを示す。
15 したがって、7.3.1 節の日本モデルでは、本来、2 段階最小自乗法で操作変数として用いるべき外生変数は定数項, G, E, M , M 1, P と各推
定式に含まれる遅れのある内生変数のみであるが、米国の変数や国際部門の変数も加えて、定数項, G, G∗ , M 1, M 1∗ , P , P ∗ , Eo, Eo∗ , M o,
M o∗ と各方程式に含まれる遅れのある内生変数を操作変数として用いる。7.3.2 節の米国モデルについても同様である。
上記の 3 つのモデルについて、対称とする分析期間は、1960 年第 3 四半期 (t =3) から 1990 年第 4 四半期 (t =124) である。ただし、両国モデ
ル (7.3.3 節) の為替レートについては、変動相場制に移行した 1973 年第 1 四半期 (t =53) 以降は内生変数とし、それ以前は外生変数として扱う。
16
変数はすべて 1985 年価格の実質値を用いているため、これらの乗数についても、実質政府支出または実質貨幣供給量を増加させたときのも
のである。以下の 7.3.2 節や 7.3.3 節についても同様である。
17 ここで指すシミュレーション解とは、(7.12) 式, (7.13) 式, (7.16) 式 ∼(7.19) 式で表されるマクロ・モデルを解いたときに得られる解、また
は基準解のことを言う。マクロ・モデルを解く際には、前節で推定された係数の値は与えられたものとする。
18
bt に対応する。
この場合、yt は国民総生産 Yt に対応し、b
yt はモデルを解いたときに得られる Yt のシミュレーション解 Y
147
図 3.1.1 最終テスト (Y の残差の比較) − 日本の閉鎖経済モデルのケース −
25000
15000
5000
-5000
◦
◦◦ ◦◦
◦
◦
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◦
◦
•
◦◦
◦
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•••
◦
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•
◦
◦
◦
◦◦
••
•
•
◦
-15000
◦
◦
◦
◦ ◦
◦
◦
-25000
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
IV
1980
•••••
1985
1990
IV-K-Filter
図 3.1.2 最終テスト (Y の誤差率の比較) − 日本の閉鎖経済モデルのケース −
15
10
5
◦
◦◦
◦
◦
◦
◦
••••
◦
◦
• ◦•◦ ◦
• ◦ •◦ ◦
◦
•
◦
•
◦ • ••
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•
••
•
•
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◦◦◦
•
•
◦
◦
•
◦
•
•
◦
◦
0
-5
••
◦◦◦◦
◦
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◦◦◦◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦ ◦◦◦◦◦◦◦
•
◦
◦
•
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◦ ◦•••••• •
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◦ •• ••• •• ••• ◦
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◦◦•••
•• ••• •• •••••••◦◦
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◦•••
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◦
◦◦
• • ◦◦
•
•
••
◦
•
• ◦
◦
◦
◦
◦
-10
-15
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
IV
1980
•••••
1985
1990
IV-K-Filter
図 3.1.1, 図 3.1.2 のいずれについても、IV-K-Filter による推定が IV によるものより優れた結果が表れている。すな
わち、IV-K-Filter が全体的に IV よりゼロに近い値となっている19 。次に、残差の平方和の平均の平方根 (RM SE)、
絶対誤差率の平均 (M AP E)、残差の平均 (BIAS) を一定期間に区切って IV と IV-K-Filter をそれぞれ表 3.1.1, 表
19 これは当然の結果である。IV 法は固定パラメータ・モデルであるが IV-K-Filter は可変パラメータ・モデルである。扱う推定期間は 1960
年 ∼1990 年の長期間であるので、経済構造は徐々に変化していると考えるのがより適当である。よって、このような構造変化を考慮にいれた
IV-K-Filter が IV より優れているのは当然の帰結である。
148
3.1.2, 表 3.1.3 で比較する。
表 3.1.1 は平均自乗誤差の平方根 (RM SE)、表 3.1.2 は平均絶対誤差率 (M AP E)、表 3.1.3 は平均誤差 (BIAS)
の結果を表し、その算出の方法は次の通りである。yt , ybt をそれぞれ t 期の現実に得られたデータ, t 期の IV 法や
IV-K-Filter によって得られたその推定値とする20 。L 期から N 期までの RM SE, M AP E, BIAS は以下で計算さ
れる。
v
u
N
u
X
1
RM SE = t
(b
yt − yt )2
(7.35)
N −L+1
t=L
N
M AP E =
X
1
|b
y t − yt |
100
N −L+1
yt
(7.36)
t=L
N
X
1
BIAS =
(b
yt − yt )
N −L+1
(7.37)
t=L
この 3 つの基準を用いてモデルを評価する21 。RM SE, M AP E, BIAS はモデルの当てはまりが良いほどゼロに近
づく。BIAS が正ならばシミュレーション解は過大推定、負ならばシミュレーション解は過小推定されていることを
示す。表 3.1.1, 表 3.1.2, 表 3.1.3 共に、IV, IV-K-Filter の 2 つの推定方法について、期間を 6 つに区切った場合と推
定期間全体を通した場合とに分けて、最終テストの比較をする。
表 3.1.1 最終テスト:RM SE による比較 −
期間
Y
C
1960.3 ∼ 1965.4
7260
7293
1966.1 ∼ 1970.4
7180
5819
1971.1 ∼ 1975.4
4782
3148
IV
1976.1 ∼ 1980.4
4879
4187
1981.1 ∼ 1985.4
5713
1319
1986.1 ∼ 1990.4
12815
2022
1960.3 ∼ 1990.4
7608
4538
1960.3 ∼ 1965.4
6268
5414
1966.1 ∼ 1970.4
4354
3400
1971.1 ∼ 1975.4
3715
3136
IV-K-Filter 1976.1 ∼ 1980.4
2605
2233
1981.1 ∼ 1985.4
1308
1180
1986.1 ∼ 1990.4
1913
1622
1960.3 ∼ 1990.4
3801
3205
20
日本の閉鎖経済モデル −
I
Yd
T
2235
8703
3746
3591
7364
4560
2660
10855
9987
6569
9939
13490
6532
4520
4276
11522
5022
13358
6325
8096
9185
926
4815
1586
1017
4158
1649
724
3732
2276
407
2758
1189
200
1610
861
436
2268
1643
689
3437
1595
r
1.57
1.46
1.74
1.34
0.31
1.83
1.47
1.97
0.43
0.53
0.17
0.17
0.17
0.89
yt には、国民総生産 Yt , 消費 Ct , 投資 It , 可処分所得 Y dt , 税金 Tt , 利子率 rt 等の内生変数が対応する。
21 RM SE, BIAS による最終テストの評価はあまり良い基準であるとはいえない。なぜなら、異時点間の分散が均一ではないからである。す
なわち、t 期の yt と s 期の ys の推定値の分散は V ar(b
yt ) 6= V ar(b
ys ) である。よって、単純に算術平均を取って比較することは無意味である。
本来ならば、以下のように分散で修正された加重平均が取られるべきである。
v
u
u
W RM SE = t
W BIAS =
1
N −L+1
1
N −L+1
N
X
(b
yt − yt ) 2
t=L
V ar(b
yt )
N
X
b
y − yt
pt
V ar(b
yt )
t=L
このように RM SE, BIAS の代わりに W RM SE, W BIAS で結果の評価を行うべきであるが、W RM SE, W BIAS では IV 法と IV-K-Filter
の分散は異なるので、両者の推定方法の比較はできなくなる。推定方法の比較を行うには、W RM SE, W BIAS は不適当であるので、RM SE,
BIAS に問題点はあるが、本章では、あえて RM SE, BIAS を評価基準として採用する。
149
表 3.1.2 最終テスト:M AP E による比較 − 日本の閉鎖経済モデル −
期間
Y
C
I
Yd
T
1960.3 ∼ 1965.4
6.94
11.73
21.21
12.72
19.44
1966.1 ∼ 1970.4
5.03
6.26
13.21
6.78
8.99
1971.1 ∼ 1975.4
1.84
1.81
7.57
5.26
18.31
IV
1976.1 ∼ 1980.4
1.79
2.00
19.57
4.97
24.56
1981.1 ∼ 1985.4
1.87
0.63
14.58
1.75
4.59
1986.1 ∼ 1990.4
2.54
0.76
10.93
1.83
8.58
1960.3 ∼ 1990.4
3.39
3.99
14.62
5.67
14.17
1960.3 ∼ 1965.4
7.24
9.57
8.01
7.09
7.92
1966.1 ∼ 1970.4
2.69
3.44
4.36
3.46
3.88
1971.1 ∼ 1975.4
1.62
2.17
2.01
1.78
4.20
IV-K-Filter 1976.1 ∼ 1980.4
0.96
1.32
1.11
1.37
1.85
1981.1 ∼ 1985.4
0.35
0.56
0.38
0.51
0.85
1986.1 ∼ 1990.4
0.39
0.54
0.47
0.77
1.06
1960.3 ∼ 1990.4
2.29
3.04
2.81
2.57
3.37
r
13.88
14.62
12.72
14.89
3.20
27.05
14.39
17.98
4.15
5.51
1.45
1.91
2.79
5.83
表 3.1.3 最終テスト:BIAS による比較 −
期間
Y
C
1960.3 ∼ 1965.4
5504
6669
1966.1 ∼ 1970.4
3123
4772
1971.1 ∼ 1975.4
-2895
-1906
IV
1976.1 ∼ 1980.4
3268
-3115
1981.1 ∼ 1985.4
5476
-708
1986.1 ∼ 1990.4
-8125
-989
1960.3 ∼ 1990.4
1131
884
1960.3 ∼ 1965.4
6035
5244
1966.1 ∼ 1970.4
-952
-749
1971.1 ∼ 1975.4
-146
-34
IV-K-Filter 1976.1 ∼ 1980.4
-162
-151
1981.1 ∼ 1985.4
-212
-187
1986.1 ∼ 1990.4
233
185
1960.3 ∼ 1990.4
885
792
r
0.31
1.14
-1.01
0.53
-0.07
-0.06
0.14
1.75
0.17
-0.15
0.02
-0.07
0.03
0.31
日本の閉鎖経済モデル −
I
Yd
T
-1166
8336
-2832
-1649
6163
-3039
-990
-7665
4770
6383
-9313
12581
6186
3455
2021
-7139
2501 -10627
248
707
425
790
4587
1448
-203
-840
-112
-112
-341
194
-12
59
-221
-23
-54
-158
46
161
71
93
661
224
表 3.1.1 によると、どの期間をとっても IV-K-Filter の RM SE は IV のそれより小さい。推定期間を通して (すなわ
ち、1960.3∼1990.4 の期間) 比較した場合を例にあげると、国民総生産 Y については IV が 7608, IV-K-Filter が 3801
となっていて、IV は IV-K-Filter の約 2 倍である。また、投資 I を見ると、IV は 6325, IV-K-Filter は 689 であり、IV
は IV-K-Filter の 10 倍近くにもなっている。期間を短く区切って両者について比較しても、一様に IV は IV-K-Filter
より大きな RM SE となっている。
表 3.1.2 についても、ほぼ同様の結果が得られた。全部ではないが、ほとんどの変数または期間について、IV の
M AP E は IV-K-Filter のそれより大きい。特に、I, T , r の平均絶対誤差率は、IV の方が IV-K-Filter よりも極端に
大きい値である。
表 3.1.3 の BIAS はゼロに近い方が望ましいが、極端に大きな正の値とそれと同じくらい大きな負の値が対象期間
内にあった場合、正と負が相殺されてゼロに近い値が得られることがある。例えば、1960.3∼1990.4 の r を見ると、
IV で 0.14, IV-K-Filter で 0.31 となっており、IV の方がゼロに近く IV-K-Filter よりも良い結果であるように見え
る。しかし、表 3.1.1 を見ると、同じ期間について、IV は 1.47, IV-K-Filter は 0.89 となり、明らかに IV-K-Filter の
RM SE は小さい。これは IV による r の残差はゼロの回りで大きく散らばっていることを意味する。このような極端
なケースを避けるため、表 3.1.1 の RM SE 基準との併用が望ましい。全体としては、r を除いて、IV-K-Filter の方
がゼロに近い数字である。また、表 3.1.1 の結果からも、誤差の大きさは IV の方が大きいと判断することができる。
次に、図 3.1.3∼ 図 3.1.5 において、次の 3 つの乗数分析22 を行う。
22
乗数分析の種類は様々であるが、ここでは短期 (インパクト) 乗数と長期 (累積) 乗数をグラフに示す。乗数の種類については、例えば、
150
(1) 図 3.1.3: 政府支出増加の短期 (インパクト) 乗数 (G 増加の Y への影響)
(2) 図 3.1.4: 政府支出増加の長期 (累積) 乗数 (G 増加の Y への影響)
(3) 図 3.1.5: 貨幣供給量増加の長期 (累積) 乗数 (M 1 増加の Y への影響)
図 3.1.3 の政府支出の短期乗数は、IV では 1.025、IV-K-Filter では 1.039∼1.262 という結果であった23 。両者の政
府支出増加の場合の短期乗数は同じ位の値である。
図 3.1.3 短期 (インパクト) 乗数:政府支出 (G) 増加の Y への効果
− 日本の閉鎖経済モデルのケース −
5
4
3
2
1
•
•
••••••••••••••
•••••••••••••••••••••••••••••••• ••••
•◦
•◦
•◦
•◦
•◦
•◦
•◦
•◦
•◦
•◦
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•◦
•◦
•
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•◦
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•◦
•◦
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•◦
•◦
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•◦
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•◦
•◦
•◦
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦◦
◦•
◦•
◦•
◦◦
◦•
◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
0
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
IV
1980
•••••
1985
1990
IV-K-Filter
Chow(1983) を参照せよ。
短期乗数を求める際に、まず、外生変数と内生変数の初期値 (本書では 1960 年第 2 四半期の値、すなわち、t =2) を与えたもとで、すべての t
についてモデルを解いて内生変数の値を計算しておく。この内生変数の解を基準解 (シミュレーション解) と呼ぶ。次に、外生変数 (政府支出や貨
幣供給量等) を現実値よりも 1 円 (米国の場合は 1 ドル) 増やして、モデルを解きなおしたときに得られる解と基準解との差を短期乗数という。t
期の短期乗数とは、t 期に外生変数を 1 円増やしたときに、t 期の内生変数 (本書では、国民総生産のみを扱う) が何円増えるかというものであ
る。すなわち、t 期の政府支出の短期乗数とは、他の外生変数に現実値を代入し t 期に政府支出を 1 円増やしたとき (t 期以外の政府支出は現実値
を用いる) の t 期の国民総生産の増加分である。
また、本書では、t 期の長期乗数とは定常状態 (steady state) における乗数と定義する。この定義に基づくと、定常状態とはマクロ・モデル
(7.12) 式 ∼(7.32) 式に含まれる遅れのある変数 (すべての外生変数、内生変数について) を t 期の変数としてモデルを解き直して得られた解が定
常状態の解である。すなわち、日米モデルについて言えば、(7.12) 式 ∼(7.32) 式のモデルに含まれる一期前の変数 M 1−1 , C−1 , Y−1 , r−1 , p−1 ,
∗ , M us
∗
∗
Eus−1 , M 1∗−1 , C−1
−1 を今期の変数 M 1, C, Y , r, p, Eus, M 1 , C , M us で置き換えて連立方程式を解き直して得られた解が定常解
である。そして、一期前の変数を今期の変数で置き換えた同じモデルで、ある外生変数 (G, M 1, G∗ , M 1∗ の中の 1 つ) を 1 円 (または、1 ドル)
増やして再度モデルを解いたときに得られる解と定常解との乖離を長期乗数として算出する。
日本モデルの場合、貨幣供給量の短期乗数はゼロである。(7.18) 式と (7.19) 式に注目すると、t 期の貨幣供給量 M 1t を増加させると、(7.19)
式により t 期の利子率 rt が上昇する。しかし、(7.18) 式から t 期の利子率の上昇は、t + 1 期の投資 It+1 には影響するが、t 期の投資 It に影響
を与えない。また、閉鎖経済モデルを扱っているので、為替レートに与える影響も除外される。したがって、日本モデルの場合、貨幣供給量の短
期乗数はすべての t についてゼロである。7.3.3 節の日米モデルについて、為替レートの推定期間前は、同じ理由から、貨幣供給量の短期乗数は
ゼロであり、また、それ以降の為替レートの推定期間でも最大で短期の乗数値は 0.013 と極めて小さい結果だった。以上の理由から、貨幣供給量
の短期乗数を本書では分析しない。
23 日本モデルの場合、政府支出の短期乗数は消費関数 (7.16) と租税関数 (7.17) と他の定義式のみによって決定される。すなわち、投資関数
(7.18) や利子率関数 (7.19) には依存しない。投資関数の説明変数は一期前の国民総生産と一期前の実質利子率であるので、今期の国民総生産と
今期の利子率の影響をまったく受けない。さらに、消費関数, 租税関数, 定義式はすべて線形関数であるので、短期の政府支出乗数は次のように計
算される。
1
1 − b11 (1 − b21 )
IV では、推定結果から b11 = 0.036514, b21 = 0.3316 であったので、乗数値は 1.025 となる。IV-K-Filter の場合は、b11 と b21 は時間につい
て可変的となり、b11 の上昇 (下落) は乗数値を上昇 (下落) させ、b21 の上昇 (下落) は乗数値を下落 (上昇) させる。このように、b11 の効果と
b21 の効果は互いに相殺し合い、結果として乗数のグラフ (図 3.1.3) は短期の限界消費性向 b11 と同じ形状でその変動幅を小さくしたものになる。
151
図 3.1.4 長期 (累積) 乗数:政府支出 (G) 増加の Y への効果
− 日本の閉鎖経済モデルのケース −
5
4
3
2
•
••
•
••••
•
•
••
••••••••
•
•
•
•
•
•
•
•
• • •••••
•
◦◦•
◦◦
◦•
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦•
◦◦•
◦•
◦•
◦◦◦◦◦◦•
◦◦◦◦◦◦•
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••
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1
0
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
IV
1980
•••••
1985
1990
IV-K-Filter
図 3.1.5 長期 (累積) 乗数:貨幣供給量 (M 1) 増加の Y への効果
− 日本の閉鎖経済モデルのケース −
1.0
0.5
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• ••
••
0.0
-0.5
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
IV
1980
•••••
1985
1990
IV-K-Filter
次に、一期前の変数を今期のものに置き換えてモデルを解いた定常状態で、政府支出を 1 円増やした場合の効果を
調べる。図 3.1.4 に長期均衡における政府支出乗数24 の結果を示している。IV の場合、1.991∼2.093 の範囲で安定し
24 長期乗数については、短期乗数のように、消費関数 (7.16) と租税関数 (7.17) だけでは決定されない。遅れの効果が長期乗数には含まれ、
(7.12) 式, (7.13) 式, (7.16) 式 ∼(7.19) 式のすべてから算出される。先にも述べたが、具体的な計算方法は次の通りである。まず、(7.16) 式の消
費関数、(7.18) 式の投資関数に含まれる遅れのある変数 M 1−1 , C−1 , Y−1 , r−1 , p−1 を今期の変数 M 1, C, Y , r, p に置き換えてモデルを解
く。得られた解は定常状態における長期均衡解である。次に、政府支出 G を 1 円増やして、遅れのある変数を今期のもので置き換えたモデルを
解いて、この解と定常解との乖離を計算する。この数値が長期乗数である。これを、t = 3. · · · , 124 について繰り返す。得られた数値を横軸に時
152
た長期乗数値となっていて、わずかながら徐々に毎年上昇し 1990 年には乗数値は 2.093 にまで上昇する。IV-K-Filter
については、1977 年までは 1.5 位の値で IV より低い値で乗数値は推移していたが、1977 年から急激に乗数値が上昇
し始め、1979 年半ばには IV-K-Filter は IV に追いつき、さらには、1984 年頃まで IV と IV-K-Filter は同じくらいの
値で推移していたが、それ以降 IV-K-Filter は再び上昇を続け 1990.4 には 3.199 まで上昇する。
本節の最後に、貨幣供給量増加の場合の長期乗数を分析する。前述したように、(7.12) 式, (7.13) 式, (7.16) 式 ∼(7.19)
式から構成されるマクロ・モデルによると、短期乗数はゼロである。図 3.1.5 では、貨幣供給の長期乗数の動きを調
べる。IV の長期乗数値は 1960 年に 0.561 であったが徐々に低下していき、1990 には 0.449 まで低下している。対し
て、IV-K-Filter については、1960 年第 3 四半期の 0.694 を最大とし、1978 年までは IV を上回っていたが、1983 年
前半までは IV とほぼ同じ位の値で推移し、それ以降は IV を下回り、1990.4 には 0.253 まで低下した。
IV-K-Filter による政府支出と貨幣供給量の長期乗数 (図 3.1.5, 図 3.1.6) に注目すると、1980 年頃を境に政策効果
の変化が見られる。1980 年頃までは金融政策がより有効であったのに対し、それ以降では財政政策の方がより有効に
なってきている25 。消費は国民総生産の約 6 割を占めていることから考えて、消費関数の可処分所得の係数 b11 の変
動が政府支出乗数の値に大きな影響を与える。図 2.1.2 で b11 の値が大きくなる近年において、政府支出の長期乗数
も大きくなっている。また、貨幣供給乗数に直接影響するのは利子率関数の貨幣供給量の係数 b42 である図 2.4.1 の
b42 の推移によると、1978 年以降、b42 の値は絶対値において小さくなっている。このように、主要な係数が乗数の
推移を決定しているのである。
本節では日本の閉鎖経済モデルによって、最終テスト, 乗数分析を行ったが、次節では、同じ分析を米国の閉鎖経
済モデルによって行う。
7.3.2 米国モデル
(7.21) 式, (7.22) 式, (7.25) 式 ∼(7.28) 式で表される米国の閉鎖経済モデルによって、前節と同様の分析を行う。
(7.21) 式は国民総支出の定義式、(7.22) 式は可処分所得の定義式、(7.25) 式は消費関数、(7.26) 式は租税関数、(7.27)
式は投資関数、(7.28) 式は貨幣需要関数をそれぞれ表す。国際部門は外生変数として扱い、日本からの影響は考慮さ
れない。内生変数は国民総支出 Y ∗ , 消費支出 C ∗ , 投資支出 I ∗ , 可処分所得 Y d∗ , 租税 T ∗ , 利子率 r∗ の 6 つである。
このようなモデルによって、まず初めに、IV と IV-K-Filter の 2 つの推定方法を比較するために、国民総支出 Yt∗
の現実値とその基準解との間の (7.33) で表される残差, (7.34) によって算出された誤差率をプロットする。図 3.2.1 が
残差のプロットであり、図 3.2.2 が誤差率のプロットを表す。
間を取ってグラフにしたものが図 3.1.4 である。
シミュレーション解 (または、基準解) と定常解 (または、長期均衡解) とは、本書では区別されていることに注意せよ。シミュレーション解 (ま
たは、基準解) とは、すべての期の外生変数 (1960.2∼1990.4 のデータ) と内生変数の初期値 (1960.2 のデータ) に現実値を与えたもとで元のモ
デルを解いたときに得られる解を指し、日本モデル (7.12) 式, (7.13) 式, (7.16) 式 ∼(7.18) 式の外生変数 Gt , Et , Mt , M 1t−1 , pt−1 , M 1t , Pt
(t = 3, · · · , 124) と内生変数の初期値 C2 , Y2 , r2 に現実に得られたデータを代入し、Yt , Y dt , Tt , Ct , It , rt (t = 3, · · · , 124) に関する定差方程
式を解いた解をシミュレーション解 (または、基準解) と本書では呼んでいる。
現実値とシミュレーション解との乖離を示すモデルの当てはまりを表したものを最終テストと呼び、本書では RM SE, M AP E, BIAS をそ
の指標として選んでいる。この最終テストに関連した図や表は 7.3.1 節で図 3.1.1, 図 3.1.2, 表 3.1.1∼ 表 3.1.3、7.3.2 節で図 3.2.1, 図 3.2.2, 表
3.2.1∼ 表 3.2.3、7.3.3 節で図 3.3.1∼ 図 3.3.4, 表 3.3.1∼ 表 3.3.6 である。
シミュレーション解 (基準解) に関連した乗数分析を表す図 (短期乗数のグラフ) は、図 3.1.3, 図 3.2.3, 図 3.2.5, 図 3.3.5, 図 3.3.6, 図 3.3.9 で
ある。さらに、長期均衡解 (定常解) と関係のある図 (長期乗数のグラフ) は、図 3.1.4, 図 3.1.5, 図 3.2.4, 図 3.2.6, 図 3.3.7, 図 3.3.8, 図 3.3.10,
図 3.3.11 となっている。
25 この結果は、図 3.1.4, 図 3.1.5 の IV の結果と比較した場合のものである。IV の乗数値の推移は、推定期間 1960 年 ∼1990 年の平均的な構
造を表している。それに対し、IV-K-Filter による推定は、その時々の経済構造の変化を IV より的確に反映しているものと思われる。よって、IV
より IV-K-Filter の乗数値が高い場合は「その政策はより有効であった」と本書では呼ぶことにする。
153
図 3.2.1 最終テスト (Y ∗ の残差の比較) − 米国の閉鎖経済モデルのケース −
250
◦
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•
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150
50
-50
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-150
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-250
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
IV
1980
•••••
1985
1990
IV-K-Filter
図 3.2.2 最終テスト (Y ∗ の誤差率の比較) − 米国の閉鎖経済モデルのケース −
15
10
5
0
-5
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◦◦ ◦ ◦
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◦ ◦
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••
◦◦◦
◦◦
•
•
-10
-15
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
IV
1980
•••••
1985
1990
IV-K-Filter
図 3.1.2 の誤差率によると、日本の場合には 1970 年頃までの期間の誤差率が大きく、モデルの当てはまりが悪かっ
た。米国の場合には、図 3.2.1, 図 3.2.2 共に、1971 年のニクソン・ショックから 1973 年の第一次オイル・ショック以
降に誤差が大きい。
より具体的に調べるために、6 つの内生変数全部について、平均自乗誤差の平方根 (RM SE), 平均絶対誤差率
(M AP E)、平均誤差 (BIAS) をいくつかの期間に区切って数値で示す。表 3.2.1 は (7.35) で定義される RM SE によ
154
る IV と IV-K-Filter との比較であり、表 3.2.2 は (7.36) で表される M AP E による比較であり、表 3.2.3 は (7.37) の
BIAS による両者の推定方法を比較したものである。
表 3.2.1 最終テスト:RM SE による比較 − 米国の閉鎖経済モデル −
期間
Y∗
C∗
I∗
Y d∗
T∗
1960.3 ∼ 1965.4
8.9
18.6
15.1
27.4
24.5
1966.1 ∼ 1970.4
60.2
48.6
15.8
92.6
42.4
1971.1 ∼ 1975.4
99.1
54.8
48.1
75.9
65.4
IV
1976.1 ∼ 1980.4
92.7
53.9
42.7
76.4
39.6
1981.1 ∼ 1985.4
94.3
50.1
48.5
74.6
54.0
1986.1 ∼ 1990.4
66.4
44.6
23.1
78.6
41.2
1960.3 ∼ 1990.4
76.2
46.4
35.1
73.3
46.0
1960.3 ∼ 1965.4
32.0
22.8
16.3
29.7
9.1
1966.1 ∼ 1970.4
28.1
18.2
12.9
19.4
11.5
1971.1 ∼ 1975.4
101.4
54.5
48.5
80.2
25.3
IV-K-Filter 1976.1 ∼ 1980.4
72.0
39.0
34.8
59.7
14.8
1981.1 ∼ 1985.4
23.0
14.0
13.8
21.0
9.5
1986.1 ∼ 1990.4
22.5
10.5
15.6
15.0
13.1
1960.3 ∼ 1990.4
54.9
30.6
27.0
44.4
14.8
r∗
1.31
0.37
0.75
0.60
1.89
1.98
1.31
0.30
0.20
0.48
0.36
0.29
0.21
0.32
表 3.2.2 最終テスト:M AP E による比較 − 米国の閉鎖経済モデル −
期間
Y∗
C∗
I∗
Y d∗
T∗
1960.3 ∼ 1965.4
0.35
1.28
3.60
1.71
2.90
1966.1 ∼ 1970.4
2.03
2.86
3.50
5.04
4.40
1971.1 ∼ 1975.4
2.96
2.62
8.89
3.19
5.53
IV
1976.1 ∼ 1980.4
2.45
2.19
6.99
2.94
3.38
1981.1 ∼ 1985.4
2.30
1.87
7.30
2.48
4.05
1986.1 ∼ 1990.4
1.31
1.37
2.55
2.19
2.74
1960.3 ∼ 1990.4
1.87
2.02
5.44
2.90
3.82
1960.3 ∼ 1965.4
1.30
1.70
3.64
1.93
1.11
1966.1 ∼ 1970.4
0.84
1.00
2.52
0.85
1.01
1971.1 ∼ 1975.4
2.81
2.38
8.93
3.18
2.36
IV-K-Filter 1976.1 ∼ 1980.4
1.90
1.60
5.80
2.22
1.23
1981.1 ∼ 1985.4
0.47
0.52
1.85
0.63
0.68
1986.1 ∼ 1990.4
0.40
0.31
1.77
0.39
0.77
1960.3 ∼ 1990.4
1.29
1.26
4.08
1.54
1.19
r∗
29.53
5.61
9.79
5.02
14.32
17.20
13.84
6.16
3.17
6.47
3.42
1.97
1.88
3.88
表 3.2.3 最終テスト:BIAS による比較 − 米国の閉鎖経済モデル −
期間
Y∗
C∗
I∗
Y d∗
T∗
1960.3 ∼ 1965.4
4.0
16.2
-12.1
17.9
-13.9
1966.1 ∼ 1970.4
51.7
43.1
8.6
76.3
-24.6
1971.1 ∼ 1975.4
-4.8
2.4
-7.2
-44.1
39.3
IV
1976.1 ∼ 1980.4
-59.6
-41.2
-18.5
-59.5
-0.1
1981.1 ∼ 1985.4
-16.6
-17.8
1.2
-38.1
21.5
1986.1 ∼ 1990.4
-13.7
-5.9
-7.8
19.0
-32.7
1960.3 ∼ 1990.4
-6.3
-0.3
-6.1
-4.4
-1.9
1960.3 ∼ 1965.4
5.2
12.9
-7.8
4.0
1.1
1966.1 ∼ 1970.4
-14.9
-13.4
-1.5
-11.8
-3.1
1971.1 ∼ 1975.4
-5.0
2.5
-7.6
1.8
-6.9
IV-K-Filter 1976.1 ∼ 1980.4
-5.7
-1.8
-3.9
-7.9
2.2
1981.1 ∼ 1985.4
3.1
1.0
2.0
2.6
0.4
1986.1 ∼ 1990.4
-3.7
-1.1
-2.5
-0.6
-3.1
1960.3 ∼ 1990.4
-3.4
0.2
-3.6
-1.9
-1.5
r∗
1.17
0.09
-0.50
-0.24
-1.71
1.46
0.06
0.19
-0.01
-0.07
0.06
-0.04
-0.01
0.02
全体的には、IV-K-Filter の方が IV よりも、RM SE, M AP E の両方の基準について、小さくモデルの当てはまり
が良いようである。また、BIAS も全体的に IV-K-Filter の方が小さい。表 3.2.1 の RM SE では、1960.3∼1965.4 の
155
期間の国民総支出, 消費, 投資, 可処分所得、また、1971.1∼1975.4 の期間に国民総支出, 投資, 可処分所得について、
IV の方が小さい。表 3.2.2 の M AP E で比較すると、1960.3∼1965.4 の期間の国民総支出, 消費, 投資, 可処分所得、
1971.1∼1975.4 の期間の投資について、IV の方が小さいという結果となった。表 3.2.3 の BIAS では、1971.1∼1975.4
の期間の国民総支出, 消費, 投資、1976.1∼1980.4 の租税、1981.1∼1985.4 の投資については IV の方が IV-K-Filter よ
り小さい。しかし、表 3.2.1∼ 表 3.2.3 のその他の期間または変数については IV-K-Filter が IV より 3 つの基準で優
れているという結果である。
表 3.1.2 と表 3.2.2 の誤差率 M AP E で日本モデルと米国モデルを比較すると、全体として、米国の閉鎖経済モデル
の方が良い当てはまりを示しているようである。1960.3∼1990.4 の推定期間全部を通して IV-K-Filter に注目すると、
表 3.1.2 の日本モデルでは Y の 2.29(%), C の 3.04, I の 2.81, Y d の 2.57, T の 3.37, r の 5.83、表 3.2.2 の米国モデル
では Y ∗ の 1.29(%), C ∗ の 1.26, I ∗ の 4.08, Y d∗ の 1.54, T ∗ の 1.19, r∗ の 3.88 という結果が得られ、この中で投資を
除いて日本モデルは米国モデルより当てはまりが悪い。
次に、図 3.2.3∼ 図 3.2.6 において、次の 4 つの乗数分析を行う。
(1)
(2)
(3)
(4)
図 3.2.3: 政府支出増加の短期 (インパクト) 乗数 (G∗ 増加の Y ∗ への影響)
図 3.2.4: 政府支出増加の長期 (累積) 乗数 (G∗ 増加の Y ∗ への影響)
図 3.2.5: 貨幣供給量増加の短期 (インパクト) 乗数 (M 1∗ 増加の Y ∗ への影響)
図 3.2.6: 貨幣供給量増加の長期 (累積) 乗数 (M 1∗ 増加の Y ∗ への影響)
図 3.2.3 短期 (インパクト) 乗数:政府支出 (G∗ ) 増加の Y ∗ への効果
− 米国の閉鎖経済モデルのケース −
5
4
3
2
•••••••••••◦•
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••
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◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
•
•◦
••
◦•
◦•
◦◦
•◦
••
1
0
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
IV
1980
•••••
156
1985
IV-K-Filter
1990
図 3.2.4 長期 (累積) 乗数:政府支出 (G∗ ) 増加の Y ∗ への効果
− 米国の閉鎖経済モデルのケース −
5
•
4
3
2
•
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•••••••• •
••• •
••
• ••••
••
•••
•••••••
1
0
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
IV
1980
•••••
1985
1990
IV-K-Filter
図 3.2.3 と図 3.2.4 では政府支出乗数を横軸に時間をとってグラフにしたものである。短期の政府支出乗数は図 3.2.3
によって示され、長期の政府支出乗数は図 3.2.4 に表されている。
図 3.2.3 の短期乗数は、IV で 1.329∼1.376, IV-K-Filter で 1.288∼1.461 となっていて、両者ともに近い値である。
この乗数値は前節で示した日本の乗数値 (IV で 1.025、IV-K-Filter で 1.039∼1.262) よりやや大きい。また、この短
期の政府支出乗数は図 2.6.2 の消費関数の可処分所得の係数、すなわち、短期の限界消費性向 b∗11 の影響を強く受け、
b∗11 の変動傾向と乗数値の変動傾向は類似している。この理由は、前述したように、国民総支出に占める消費支出の
割合は約 6 割と最も大きいからである。
図 3.2.4 の長期乗数を見ると、IV は 2.062∼2.146 の範囲に落ちついているが、IV-K-Filter の方は、1975.2 にピー
クで 4.476 の値を記録した後、1983.2 には 1.743 まで落ち込み、その後、2.0 前後に安定している。前節の日本モデ
ルとの比較では、IV については同じ位の値であるのに対して、IV-K-Filter については 1982 年以降日本の政府支出
乗数が米国のものよりも大きくなっている。
図 3.2.5 と図 3.2.6 は貨幣供給量を増加させた場合の短期乗数と長期乗数の値を、横軸に時間をとって、グラフにし
たものである。
157
図 3.2.5 短期 (インパクト) 乗数:貨幣供給量 (M 1∗ ) 増加の Y ∗ への効果
− 米国の閉鎖経済モデルのケース −
1.0
0.5
0.0
•••••••
••••••
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◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦◦
◦•
◦•
◦•
◦•
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•••• •
-0.5
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
IV
1980
•••••
1985
1990
IV-K-Filter
図 3.2.6 長期 (累積) 乗数:貨幣供給量 (M 1∗ ) 増加の Y ∗ への効果
− 米国の閉鎖経済モデルのケース −
1.0
0.5
••••••••
••
•••◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦ ◦◦◦◦◦◦•
◦•
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦•
◦•
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••• •••• •••••••
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••••
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•• •••
••••
•
•
•
•
•
• •••
••••••••
•••••••••••
•
••••••••••••••••••
0.0
-0.5
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
IV
1980
•••••
1985
1990
IV-K-Filter
日本の閉鎖経済モデルでは、貨幣供給量の短期乗数はゼロだった。米国モデルの場合は、(7.21) 式, (7.22) 式, (7.25)
式 ∼(7.28) 式で表されるマクロ・モデルによると、内生変数は同時点で相互に決定されるため短期の乗数値はゼロで
はない。しかし、(7.27) 式の投資の利子率の係数 b∗32 (半弾力性) の値は −0.015 ∼ 0.000 と非常に小さいため、短期の
貨幣供給量の乗数も非常に小さく、IV で 0.014∼0.041、IV-K-Filter で 0.004∼0.071 となっている。
図 3.2.6 の長期乗数については、IV は年々わずかながら上昇傾向にあり 0.831∼0.891 の範囲で推移しており、IV-K-
Filter は 1982 年頃までは IV の長期乗数値を下回り、その後は IV と同じ位の値で推移している。日本の貨幣供給量の
158
長期乗数 (図 3.1.5) と比較すると、IV については米国の乗数が約 2 倍程度日本のものより大きい。また、IV-K-Filter
については、1977 年頃までは日本の方が貨幣供給量の国民総支出に与える影響が大きかったが、それ以降は逆転し米
国の方が大きくなっている。
日本モデルと米国モデルの長期乗数では対称的な動きをしている。IV の長期乗数値で比較をすると、日本の場
合、1980 年以前の政府支出乗数については IV が IV-K-Filter より小さく、貨幣供給量乗数については IV-K-Filter が
IV より大きかったが 1984 年以降は逆の結果となっている。米国の場合は、1981 年以前の政府支出乗数については
IV-K-Filter が IV より大きいが、貨幣供給量については IV の方が IV-K-Filter より大きい。
次の 7.3.3 節では、(7.12) 式 ∼(7.32) 式のすべての式を用いて、日米モデルを分析する。そして、その結果を日本
の閉鎖モデル (7.3.1 節), 米国の閉鎖モデル (7.3.2 節) で得られた結果と比較する。
7.3.3 日米モデル
7.3.1 節の日本モデルと 7.3.2 節の米国モデルとを輸出入と為替レートで結び付けることによって、(7.12) 式 ∼(7.32)
式で表される日米モデルが構成される。内生変数は、日本モデルの 6 つ, 米国モデルの 6 つに加えて、国際部門の 9
つで計 21 個である。方程式リストについては 7.2 節で既に述べた。図 3.3.1, 図 3.3.2 は国民総生産の現実値と基準解
との残差 (7.33) を日米両国についてグラフにしたものであり、図 3.3.3, 図 3.3.4 は国民総生産の現実値と基準解との
誤差率 (7.34) を日米両国についてプロットしたものである。
図 3.3.1 最終テスト (Y の残差の比較) − 日米モデルのケース −
25000
15000
5000
-5000
-15000
◦
◦◦ ◦◦◦
◦
◦
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◦◦ ◦
◦ ◦◦◦
◦◦◦
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•
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◦◦ ◦ ◦
◦
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◦◦◦ ◦◦◦◦ ◦◦
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•◦◦
•
• ◦ ◦
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•••
• •••
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•
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•• •• ••••
◦◦
◦
••
•
◦◦
◦ ◦
◦
◦◦
◦
•
◦◦
◦◦
◦
◦
◦
◦
◦
-25000
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
IV
1980
•••••
159
1985
IV-K-Filter
1990
図 3.3.2 最終テスト (Y ∗ の残差の比較) − 日米モデルのケース −
250
◦
◦◦
• ••
◦
•◦
150
50
-50
•
◦ ◦◦ ◦
◦
◦
•
◦
◦
◦◦◦◦
◦◦
••
•
•
◦
••
◦◦
◦
••• • • •
◦
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•
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◦ ••◦◦◦ ◦
• • ••
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◦ ◦◦◦ ◦ ◦◦ ◦◦◦•
◦ ◦◦
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••• ◦◦ ◦ •
•
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•
•••
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•
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◦•
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◦ ◦
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◦
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•
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•• •••
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• • ••
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◦
◦◦
◦◦
◦ ◦◦ ••
◦
◦
◦◦◦
◦
•
•
◦◦
•
-150
-250
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
IV
1980
•••••
1985
1990
IV-K-Filter
図 3.3.3 最終テスト (Y の誤差率の比較) − 日米モデルのケース −
15
10
5
0
-5
◦
◦◦
◦
◦
◦
◦◦
◦
◦
◦
◦
◦
••••• ◦
◦
• •• ◦ • ◦
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◦
•
•
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•••
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◦
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•
◦◦◦ ◦
•
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• •••◦•••
•• • ••
◦◦• •• ◦ ◦••
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◦◦◦
◦◦
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◦•
◦◦ •• ◦ ••••
◦ ◦◦
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•
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•
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•
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•
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◦
•
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◦◦
•◦
◦ ◦
•••• ◦
•
• ◦ ◦
◦◦◦ ◦ ◦◦ ◦◦
◦• •• ◦
◦
◦◦•
◦◦◦ ◦
◦
◦
◦
••
••••••◦
◦ ◦
◦••◦◦
◦
◦
◦
• • ••••
◦◦
◦
◦◦
• ••
◦
•
◦
◦
-10
-15
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
IV
1980
•••••
160
1985
IV-K-Filter
1990
図 3.3.4 最終テスト (Y ∗ の誤差率の比較) − 日米モデルのケース −
15
10
◦
◦◦
•◦••
•◦
• ◦
•••
5
0
-5
◦ ◦◦
◦ ◦ ◦◦
•
◦◦◦◦
◦•
• • •••
◦◦
•
•• • • •
◦◦
◦
◦
•
••◦ ◦
•
• ••••
◦◦ ◦◦◦ ◦ •• • ••
◦ ◦◦◦ ◦ ◦◦◦◦◦◦•
◦
◦ ◦◦
•
•••
◦◦◦ •
••••••• •
•
• ◦
◦
◦◦
•
•• ••
•
◦
•
•
◦
◦◦•
•
◦ ◦
••
◦◦
◦◦
◦
◦◦
◦◦ •
•◦◦◦◦◦
••
•
◦•
•
•
•◦
•• ••• • ◦
◦
•
•• •••
• • •• •• •••• •
◦ •
◦
•
◦◦• ••
•
••
◦◦◦•◦ •
•
•
•
◦
•
◦ •
◦•
◦
◦•◦
◦◦ • •
◦◦
◦
◦
◦
◦
◦◦◦ •••◦ ◦•
◦
◦
◦◦◦ ◦◦◦ ◦◦
◦◦◦◦ ••
◦
•
◦◦
•
-10
-15
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
IV
1980
•••••
1985
1990
IV-K-Filter
図 3.3.1 は 7.3.1 節の日本モデルの図 3.1.1 とほとんど同じであり、同様に、図 3.3.3 は 7.3.1 節の日本モデルの図
3.1.2、図 3.3.2 は 7.3.2 節の米国モデルの図 3.2.1、図 3.3.4 は 7.3.2 節の米国モデルの図 3.2.2 とそれぞれ同じ形をして
いる。これは、輸出入を含めることによる新たに生じる誤差の日米モデルへの影響は少ないということを意味する。
表 3.3.1∼ 表 3.3.6 では、(7.35) 式, (7.36) 式, (7.37) 式で表される RM SE, M AP E, BIAS で主要な内生変数の当
てはまりを調べる。表 3.3.1, 表 3.3.3, 表 3.3.5 は日本の変数に関する RM SE, M AP E, BIAS を表し、表 3.3.2, 表
3.3.4, 表 3.3.6 は米国の変数に関するものである。
IV
IV-K-Filter
表 3.3.1 最終テスト:RM SE による比較 − 日米モデル −
期間
Y
C
I
Yd
T
r
1960.3 ∼ 1965.4
7926
7493
2124
9307
3463
1.56
1966.1 ∼ 1970.4
7650
6083
3297
8301
3977
1.63
1971.1 ∼ 1975.4
4013
2915
2363
11406
9561
1.79
1976.1 ∼ 1980.4
4019
5097
5543
13340
11839
1.19
1981.1 ∼ 1985.4
3519
2319
5883
2608
4281
0.40
1986.1 ∼ 1990.4
6449
2317
10379
6215
11450
1.70
1960.3 ∼ 1990.4
5921
4858
5647
9212
8199
1.46
1960.3 ∼ 1965.4
6069
5397
892
4670
1537
1.98
1966.1 ∼ 1970.4
4010
3352
958
3939
1626
0.37
1971.1 ∼ 1975.4
3657
3087
704
3653
2324
0.55
1976.1 ∼ 1980.4
2789
2355
438
2668
1326
0.17
1981.1 ∼ 1985.4
1376
1063
203
1649
858
0.17
1986.1 ∼ 1990.4
2466
1687
531
2573
1657
0.17
1960.3 ∼ 1990.4
3749
3196
678
3371
1614
0.89
IV と IV-K-Filter 共に、1971.1∼1975.4 と 1960.3∼1990.4 の為替レート e の RM SE については、
それぞれ、1973.1∼1975.4, 1973.1∼1990.4 の平均自乗誤差の平方根であることに注意せよ。
161
Eus
90
722
1160
1973
2194
2629
1693
110
333
832
877
588
933
678
e
—
—
116.19
50.08
27.62
43.94
60.79
—
—
64.56
37.54
19.42
17.18
35.68
IV
IV-K-Filter
IV
IV-K-Filter
表 3.3.2 最終テスト:RM SE による比較 − 日米モデル −
期間
Y∗
C∗
I∗
Y d∗
T∗
1960.3 ∼ 1965.4
7.7
17.6
15.5
26.0
24.9
1966.1 ∼ 1970.4
54.8
47.0
15.0
89.3
43.0
1971.1 ∼ 1975.4
117.7
59.1
50.9
82.3
70.4
1976.1 ∼ 1980.4
70.6
44.7
39.5
56.2
39.6
1981.1 ∼ 1985.4
89.8
49.3
47.9
68.8
54.7
1986.1 ∼ 1990.4
54.1
33.3
20.2
52.7
49.8
1960.3 ∼ 1990.4
73.4
43.6
34.7
65.5
48.8
1960.3 ∼ 1965.4
31.1
22.6
16.1
29.1
9.0
1966.1 ∼ 1970.4
26.9
17.8
12.7
18.9
11.0
1971.1 ∼ 1975.4
102.5
55.6
48.5
81.6
24.9
1976.1 ∼ 1980.4
69.7
38.7
34.2
58.0
14.4
1981.1 ∼ 1985.4
21.6
14.4
13.3
21.2
8.4
1986.1 ∼ 1990.4
22.2
10.9
14.9
17.2
11.9
1960.3 ∼ 1990.4
54.5
30.8
26.8
44.5
14.3
表 3.3.3 最終テスト:M AP E
期間
Y
C
1960.3 ∼ 1965.4
7.70
12.07
1966.1 ∼ 1970.4
5.23
6.66
1971.1 ∼ 1975.4
1.48
1.75
1976.1 ∼ 1980.4
1.12
2.58
1981.1 ∼ 1985.4
0.94
1.18
1986.1 ∼ 1990.4
1.23
0.93
1960.3 ∼ 1990.4
3.03
4.32
1960.3 ∼ 1965.4
7.10
9.55
1966.1 ∼ 1970.4
2.51
3.38
1971.1 ∼ 1975.4
1.70
2.15
1976.1 ∼ 1980.4
0.91
1.34
1981.1 ∼ 1985.4
0.36
0.50
1986.1 ∼ 1990.4
0.54
0.57
1960.3 ∼ 1990.4
2.27
3.02
r∗
1.29
0.37
0.75
0.53
1.79
1.74
1.22
0.30
0.20
0.48
0.36
0.27
0.20
0.32
による比較 − 日米モデル −
I
Yd
T
r
19.74
13.79
17.87
14.44
12.40
7.96
8.00
17.29
6.67
5.47
17.41
13.54
16.47
6.89
21.28
13.77
12.75
0.99
4.38
3.95
9.53
1.99
7.73
25.66
13.04
6.31
12.86
14.77
7.86
6.95
7.75
17.67
4.08
3.29
3.80
3.66
2.08
1.83
4.35
5.90
1.07
1.26
2.11
1.32
0.38
0.56
0.81
1.91
0.64
0.88
1.10
2.76
2.77
2.54
3.39
5.73
Ejp∗
1.8
2.4
26.6
15.3
6.8
35.3
19.2
0.9
1.2
4.0
2.4
2.5
10.1
4.7
Eus
6.12
22.18
20.88
26.10
12.68
9.15
16.02
7.50
10.23
15.17
10.97
3.51
3.43
8.45
e
—
—
32.52
16.37
9.59
25.22
19.64
—
—
17.75
11.50
6.71
10.72
10.99
IV と IV-K-Filter 共に、1971.1∼1975.4 と 1960.3∼1990.4 の為替レート e の M AP E については、
それぞれ、1973.1∼1975.4, 1973.1∼1990.4 の平均絶対誤差率であることに注意せよ。
IV
IV-K-Filter
表 3.3.4 最終テスト:M AP E による比較 − 日米モデル −
期間
Y∗
C∗
I∗
Y d∗
T∗
1960.3 ∼ 1965.4
0.27
1.19
3.73
1.66
2.94
1966.1 ∼ 1970.4
1.85
2.77
3.23
4.89
4.44
1971.1 ∼ 1975.4
3.46
2.83
9.41
3.61
5.92
1976.1 ∼ 1980.4
1.92
1.86
6.58
2.16
3.39
1981.1 ∼ 1985.4
2.27
1.92
7.31
2.39
4.04
1986.1 ∼ 1990.4
1.00
0.98
2.15
1.37
3.40
1960.3 ∼ 1990.4
1.77
1.91
5.37
2.66
4.00
1960.3 ∼ 1965.4
1.27
1.69
3.61
1.90
1.09
1966.1 ∼ 1970.4
0.81
0.97
2.49
0.83
0.98
1971.1 ∼ 1975.4
2.83
2.43
8.92
3.23
2.36
1976.1 ∼ 1980.4
1.80
1.56
5.68
2.12
1.19
1981.1 ∼ 1985.4
0.47
0.53
1.81
0.64
0.59
1986.1 ∼ 1990.4
0.41
0.31
1.66
0.44
0.70
1960.3 ∼ 1990.4
1.26
1.26
4.02
1.53
1.15
162
r∗
29.10
5.59
10.14
4.59
13.48
15.57
13.34
6.09
3.12
6.35
3.33
1.81
1.83
3.79
Ejp∗
23.36
11.76
56.43
51.24
18.57
28.73
31.54
11.30
9.31
11.98
8.23
6.02
8.41
9.24
IV
IV-K-Filter
表 3.3.5 最終テスト:BIAS
期間
Y
C
1960.3 ∼ 1965.4
6449
6858
1966.1 ∼ 1970.4
5138
5173
1971.1 ∼ 1975.4
-2989
-1490
1976.1 ∼ 1980.4
-2137
-4044
1981.1 ∼ 1985.4
1073
-2052
1986.1 ∼ 1990.4
-4664
-1606
1960.3 ∼ 1990.4
585
578
1960.3 ∼ 1965.4
5878
5230
1966.1 ∼ 1970.4
-961
-780
1971.1 ∼ 1975.4
-912
-154
1976.1 ∼ 1980.4
-981
-401
1981.1 ∼ 1985.4
82
-100
1986.1 ∼ 1990.4
73
108
1960.3 ∼ 1990.4
618
724
による比較 − 日米モデル −
I
Yd
T
r
-988
9001
-2502
0.56
-1289
7509
-2371
1.40
-9443
-7728
4739
-1.02
5358 -12926
10789
0.17
5355
512
561
-0.28
-6694
4815
-9479
0.01
115
342
244
0.15
772
4475
1404
1.73
-203
-855
-106
0.16
-249
-904
-8
-0.24
-126
-570
-401
0.00
27
146
-64
-0.06
9
49
24
0.02
50
457
161
0.29
Eus
50
635
-1022
-1883
-1217
701
-448
60
201
-758
-692
114
44
-168
e
—
—
-91.14
-34.42
-7.41
23.04
-20.41
—
—
-52.04
-24.49
-0.01
6.11
-13.78
IV と IV-K-Filter 共に、1971.1∼1975.4 と 1960.3∼1990.4 の為替レート e の BIAS については、
それぞれ、1973.1∼1975.4, 1973.1∼1990.4 の残差の平均であることに注意せよ。
IV
IV-K-Filter
表 3.3.6 最終テスト:BIAS による比較 −
期間
Y∗
C∗
I∗
1960.3 ∼ 1965.4
0.6
15.1
-12.7
1966.1 ∼ 1970.4
45.0
41.2
7.4
1971.1 ∼ 1975.4
7.8
4.6
-4.8
1976.1 ∼ 1980.4
-24.6
-29.0
-12.1
1981.1 ∼ 1985.4
2.7
-10.5
4.6
1986.1 ∼ 1990.4
-40.4
-9.4
-12.7
1960.3 ∼ 1990.4
-1.5
2.2
-5.2
1960.3 ∼ 1965.4
5.7
13.0
-7.7
1966.1 ∼ 1970.4
-14.5
-13.0
-1.4
1971.1 ∼ 1975.4
1.1
4.9
-6.5
1976.1 ∼ 1980.4
0.0
1.3
-2.9
1981.1 ∼ 1985.4
1.2
0.8
1.7
1986.1 ∼ 1990.4
1.3
0.4
-1.6
1960.3 ∼ 1990.4
54.5
-0.8
1.4
日米モデル −
Y d∗
T∗
15.3
-14.7
71.3
-26.2
-34.7
42.5
-33.4
8.8
-23.7
26.4
-1.0
-39.4
-0.8
-0.7
4.3
1.4
-11.6
-2.9
6.5
-5.4
-3.7
3.8
1.3
0.0
3.0
-1.7
-3.1
0.0
r∗
1.15
0.07
-0.44
-0.08
-1.61
1.33
0.09
0.19
-0.01
-0.04
0.09
-0.05
0.00
-0.8
Ejp∗
-1.6
-1.7
9.9
13.1
5.8
-26.8
-0.2
0.5
0.5
2.1
1.2
0.0
-2.1
0.4
表 3.3.1, 表 3.3.3, 表 3.3.5 は 7.3.1 節の表 3.1.1, 表 3.1.2, 表 3.1.3 に対応しており、また、表 3.3.2, 表 3.3.4, 表 3.3.6
は 7.3.2 節の表 3.2.1, 表 3.2.2, 表 3.2.3 に対応し比較可能である。7.3.1 節, 7.3.2 節の日米の閉鎖経済モデルで得られた
結果と、本節の日米連結モデルとの結果はほとんど同じであるが、やや日米連結モデルの方が良いようである。例え
ば、国民総生産の RM SE で比べると (表 3.1.1, 表 3.2.1, 表 3.3.1, 表 3.3.2)、1960.3∼1990.4 の期間について、日本モ
デルの表 3.1.1 では IV の 7608, IV-K-Filter の 3801 に対して、表 3.3.1 では IV の 5921, IV-K-Filter の 3749 となって
おり、また、米国モデルの表 3.2.1 では IV の 76.2, IV-K-Filter の 54.9 に対して、表 3.3.2 では IV の 73.4, IV-K-Filter
の 54.5 という結果である。このように、単独の閉鎖経済モデルよりも両国の連結モデルの方の誤差が若干小さい。
次に、7.3.1 節と 7.3.2 節で行った分析と同じく、図 3.3.5∼ 図 3.3.11 において、次の 7 つの乗数分析を行う。
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
図 3.3.5 :
日本の政府支出増加の短期 (インパクト) 乗数 (G 増加の Y への影響)
図 3.3.6 :
米国の政府支出増加の短期 (インパクト) 乗数 (G∗ 増加の Y ∗ への影響)
図 3.3.7 :
日本の政府支出増加の長期 (累積) 乗数 (G 増加の Y への影響)
図 3.3.8 :
米国の政府支出増加の長期 (累積) 乗数 (G∗ 増加の Y ∗ への影響)
図 3.3.9 :
米国の貨幣供給量増加の短期 (インパクト) 乗数 (M 1∗ 増加の Y ∗ への影響)
図 3.3.10: 日本の貨幣供給量増加の長期 (累積) 乗数 (M 1 増加の Y への影響)
図 3.3.11: 米国の貨幣供給量増加の長期 (累積) 乗数 (M 1∗ 増加の Y ∗ への影響)
163
日本の貨幣供給量増加の短期 (インパクト) 乗数については、分析の対象から除外する。なぜなら、前述の通り、為
替レートの推定期間以前の短期乗数はモデルの構造上 IV, IV-K-Filter 共にゼロであり、また為替レートの推定期間
についても IV は 0.002 ∼ 0.013, IV-K-Filter は −0.004 ∼ 0.006 と非常に小さい値だったので分析の対象から外すこ
とにする。
図 3.3.5 短期 (インパクト) 乗数:政府支出 (G) 増加の Y への効果
− 日米モデルのケース −
5
4
3
2
1
•••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••
••••••••
••
••
•
•◦
••
•◦
•◦
•◦
•◦
•◦
•◦
•◦
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◦•
◦◦
◦•
◦◦
◦•
◦◦
◦•
◦•
◦◦
◦•
◦•
◦◦
◦•
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
0
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
IV
1980
•••••
1985
1990
IV-K-Filter
図 3.3.6 短期 (インパクト) 乗数:政府支出 (G∗ ) 増加の Y ∗ への効果
− 日米モデルのケース −
5
4
3
2
1
◦
• ••••••••
◦•
•••••••••••••••••••••••◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦•
••
◦•
◦•
◦•
◦•
◦••
◦•
◦•
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•
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◦◦
••
••
••
••
••••••••••◦•
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦•
◦
0
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
IV
1980
•••••
1985
1990
IV-K-Filter
図 3.3.5 と図 3.3.6 はそれぞれ日米の短期の政府支出乗数を表し、閉鎖経済モデルの図 3.1.3 と図 3.2.3 に対応して
164
いる。図 3.3.5 の日本の短期の政府支出乗数は、IV について 0.981∼1.003, IV-K-Filter について 0.996∼1.185 となっ
ており、図 3.1.3 に示される日本の閉鎖モデルの場合より若干小さい値である (日本の閉鎖経済モデルの政府支出乗数
は IV で 1.025、IV-K-Filter で 1.039∼1.262 であった)。図 3.3.6 の米国の短期乗数についても、図 3.2.3 の閉鎖モデ
ルと比べてばらつきは大きくなったが、ほとんど同じ位の値で全体的には本節の日米モデルの方が若干小さい値であ
る。日米モデルの米国の政府支出乗数は IV で 1.126∼1.454、IV-K-Filter で 1.261∼1.422 であるのに対して、米国の
閉鎖経済モデルでは IV で 1.329∼1.376、IV-K-Filter で 1.288∼1.461 という結果であった。
このように、短期の政府支出乗数は 7.3.1 節, 7.3.2 節の閉鎖経済モデルで得られた短期乗数と、若干低い値ではあ
るが、ほとんど同じ値が得られた。次に、長期の政府支出乗数について分析する。
図 3.3.7 長期 (累積) 乗数:政府支出 (G) 増加の Y への効果
− 日米モデルのケース −
5
4
3
2
•
••
•••••
•
•
••
••••••••
••••••
•••••••••••
•
•◦•
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦•
◦•
◦•
◦•
◦◦
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••
••
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦•
◦•
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦•
•
•
•
••
••
••••••••••••••••••••••• ••••••
•••••••••••••••••••••••••••••••••••
1
0
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
IV
1980
•••••
165
1985
IV-K-Filter
1990
図 3.3.8 長期 (累積) 乗数:政府支出 (G∗ ) 増加の Y ∗ への効果
− 日米モデルのケース −
5
4
•
3
2
•
• ••
• •
••
•• • • •
•
• ••
••
•
•
••
• •
••
•
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•••••• •••••••• •••
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◦◦◦◦◦◦•
◦•
◦•
◦•
◦•
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦◦
••
•◦◦◦◦◦◦
• •• •
◦•
••••
◦•
••••••
◦•
◦◦
◦•
◦•
◦•
◦•
••
◦
••••••••••••• •
1
0
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
IV
1980
•••••
1985
1990
IV-K-Filter
図 3.3.7 と図 3.3.8 は長期の政府支出乗数を日米についてグラフにしたものである。図 3.3.7 は図 3.1.4 に、図 3.3.8
は図 3.2.4 にそれぞれ関連している。図 3.3.7 について、グラフの形は図 3.1.4 と同じであるが、その値は若干小さい。
1990.4 で比較すると、本節の日米連結モデルでは、IV は 2.018, IV-K-Filter は 2.765 であり、7.3.1 節の日本モデル
では、IV は 2.023, IV-K-Filter は 3.067 である。図 3.3.8 によると、IV は減少傾向が続き、1990 年には約 1.6 前後と
なっている。また、IV-K-Filter は 1974 年以降減少を続け 1990 年には約 1.6 前後である。このように、1990.4 で比較
すると、米国の閉鎖経済モデルより日米連結モデルの米国の政府支出増加の長期乗数値は全体的に 0.3 程度小さい。
日本モデルと米国モデルを輸出入・為替レートで連結させた場合、閉鎖経済モデルよりも乗数値は小さい。日米両
国モデルについて、日本の長期の政府支出乗数は日本の閉鎖経済モデルの乗数より 0.1 程度小さく、米国の長期の政
府政府支出乗数は、閉鎖経済モデルの乗数値より 0.3 程度小さい。米国の方が輸出入・為替レートの影響を受け易い
と結論づけられるであろう。また、国際部門を加えると乗数値が小さくなる理由としては、次のことが考えられる。
まず、政府支出増加により国民総生産が増加する (これは閉鎖経済モデルと同様である)。一方、国際部門を加えた場
合、国民総生産の増加は相手国の輸出 (自国の輸入) を増加させて、経常収支の改善、すなわち、国民総生産の減少へ
と結びつく。米国の場合、米国の国民総生産の増加が日本の対米輸出を増加させる効果が大きいと言えるだろう26 。
図 3.3.9 では、米国の貨幣供給量増加の場合の短期乗数について分析する27 。米国の閉鎖モデルのケースは図 3.2.5
を参照せよ。
26
これは、日本の対米輸出関数の所得弾力性に関連している。IV による推定結果を見ると、短期の所得弾力性は b51 =1.1664、前期の輸出の
b51
=4.9192 と非常に大きな弾力性の値である。
1 − b53
∗
対して、米国の対日輸出関数の長期の所得弾力性は b51 =1.1678 である。この長期の所得弾力性の差が長期乗数の値の低下の度合いに影響し
ている。日本の対米輸出の長期所得弾力性が大きいことから、日米連結モデルでの米国の長期の政府支出乗数は米国の閉鎖モデルのそれよりも大
きく低下するのである。
以上は次のように要約される。日本と米国では国際部門を考慮にいれた場合の乗数値は、閉鎖経済モデルの乗数値と比べて低下する。この低下
の程度が日米で大きく異なるのは輸出の長期所得弾力性の値の大きさが異なるためである。
係数は b53 =0.76289 である。これらの推定値から長期の所得弾力性を算出すると、
27
前述のように、日本の貨幣供給量に関する短期乗数は、その値が非常に小さい結果を得たので、本節では無視される。
166
図 3.3.9 短期 (インパクト) 乗数:貨幣供給量 (M 1∗ ) 増加の Y ∗ への効果
− 日米モデルのケース −
1.0
0.5
0.0
◦
◦
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•••••••••••••
◦•
◦•
◦•
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◦•
◦•
◦◦
◦◦•◦
◦◦◦•
••
◦◦
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1960
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1965
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1975
IV
1980
•••••
1985
1990
IV-K-Filter
図 3.3.9 と図 3.2.5 の IV を比べると、図 3.3.9 の方は 1975 年前後と 1989 年前後の乗数値のばらつきが大きい。表
3.3.3 の M AP E によると、IV について為替レート e の当てはまりがこの時期非常に悪い。この為替レートの当ては
まりの悪さが、米国の乗数値を不安定にさせていると考えられる。IV-K-Filter については、IV に見られるような乗
数値の不安定さは見られない。これは、可変パラメータ・モデルによって、為替レートについてより良く推定がなさ
れているからであろう。IV-K-Filter を見ると、貨幣供給量増加の短期乗数の値は図 3.2.5 の 0.004∼0.071 に対して、
図 3.3.9 の −0.011 ∼ 0.068 であり、両者はほぼ同じ位の値である。
次の乗数分析は貨幣供給量の長期乗数に関する分析である。それは図 3.3.10, 図 3.3.11 に示される。閉鎖経済モデ
ルで対応するグラフは、日本モデルについては図 3.1.5、米国モデルについては図 3.2.6 である。
167
図 3.3.10 長期 (累積) 乗数:貨幣供給量 (M 1) 増加の Y への効果
− 日米モデルのケース −
1.0
0.5
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1975
IV
1980
•••••
1985
1990
IV-K-Filter
図 3.3.11 長期 (累積) 乗数:貨幣供給量 (M 1∗ ) 増加の Y ∗ への効果
− 日米モデルのケース −
1.0
0.5
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0.0
-0.5
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
IV
1980
•••••
1985
1990
IV-K-Filter
日本について見ると、図 3.1.5 の閉鎖経済モデルの場合と図 3.3.10 の連結モデルの場合では、IV と IV-K-Filter 共
に、その長期乗数値にはほとんど差異はないが、図 3.3.10 で示される乗数値が 1972.4 以前について図 3.1.5 のものよ
りも若干小さい。図 3.1.5 の IV は 0.449∼0.561、IV-K-Filter は 0.253∼0.694 であるのに対して、図 3.3.10 の IV は
0.424∼0.533、IV-K-Filter は 0.245∼0.674 となっている。一方、米国については、1990.4 の値を例に取ると、図 3.2.6
の乗数値は図 3.3.11 のものより、IV で約 0.15, IV-K-Filter で約 0.1 程度大きい。全体的にも、図 3.2.6 が図 3.3.11 の
乗数値を上回っている。この傾向は 1980 年以降顕著に現れる。
168
図 3.3.10 と図 3.3.11 の IV について、1973.1 以前と以降とでは明らかに乗数値がシフトしている。これは為替レー
トの推定期間が 1973.1∼1990.4 であるために生じたものである。IV-K-Filter にはこのような突然のジャンプは見ら
れない。固定パラメータ・モデルではこのような為替レートの推定に伴う突然の経済構造のシフトを追うことができ
ないということは、この 2 つの図から明かである。
さらに、閉鎖経済モデルと相互連関モデルの乗数値をそれぞれ比較すると、日米両国について閉鎖経済モデルの方
が相互連関モデルよりも乗数値は全般的に高いという結果が得られた。特に、米国閉鎖経済モデルで得られた乗数値
(図 3.2.3∼ 図 3.2.6) と日米連関モデルの米国の乗数値 (図 3.3.6, 図 3.3.8, 図 3.3.9, 図 3.3.11) との差が日本の場合と比
較して年々拡大しており、この意味で米国の対日貿易のウェイトが高まるにつれて政府支出乗数 (G∗ 増加の Y ∗ への
効果) と貨幣供給量乗数 (M 1∗ 増加の Y ∗ への効果) に低下傾向があると結論づけることができる。
本節の最後に、日米両国の相互作用を調べる。日本の財政・金融政策が米国の国民総支出に与える影響や逆に米国
の財政・金融政策が日本経済に与える影響を、本節で示した日米マクロ計量モデルを使って分析することができる。
すなわち、以下の相互関係を調べることが可能である。
(1)
(2)
(3)
(4)
G 増加の Y ∗ への影響
M 1 増加の Y ∗ への影響
G∗ 増加の Y への影響
M 1∗ 増加の Y への影響
(1)∼(4) を短期乗数と長期乗数の両方について考えることができる。(1) と (2) について、日本の政府支出 G や貨幣
供給量 M 1 の増加は米国の国民総生産 Y ∗ にほとんど影響を与えなかったので28 、これらに関する図を分析の対象か
ら除外する。さらに、図 3.3.10, 図 3.3.11 から、IV の乗数値は現実の経済構造の変化 (1973.1 以降の変動相場性への
移行) を明らかに追うことができないということが分かったので、これらの図も省略する。したがって、IV-K-Filter
による推定で、かつ、(3) と (4) のケースについて短期乗数と長期乗数を以下の図 3.3.12, 図 3.3.13 に示す。この 2 つ
の図の縦軸は円で表されている。すなわち、米国の政府支出 G∗ または貨幣供給量 M 1∗ が 1 ドル増加したときに日
本の国民総生産 Y は何円増加するのかを示したグラフである。
28 (1) の乗数を計算した結果、すなわち、日本の政府支出を 1 円増やした場合、米国の国民総生産の増加分は 0.001 ドルの単位であり、この数
字はほとんど誤差に等しい。(2) についても同じ様に小さい乗数値であった。よって、(1), (2) を分析しない。
169
図 3.3.12 政府支出 (G∗ ) 増加の Y への効果 (IV-K-Filter による推定)
− 日米モデルのケース −
80
•
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60
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40
20
0
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1960
1965
◦◦◦◦◦
1970
1975
短期乗数
1980
•••••
1985
1990
長期乗数
図 3.3.12 は、米国の政府支出増加の場合における日本の国民総生産の増加分を短期と長期で表したものである。短
期乗数については、米国の日本への輸出入のウエイトが高まるにつれて、年々増加しており、1990 年には G∗ の 1 ド
ルの増加は Y を約 13 円増加させている。これに対して、長期効果については、1960 年 ∼1971 年前半の期間は 1969
年に小さな落ち込みはあるが基本的には上昇傾向、その後大きく上下の変動を示しながら、1978 年 ∼1983 年前半は
55 円程度で安定的であり、その後の上昇期の後、1984 年前半の約 75 円から 1990 年には 45 円程度へと下降してい
る。全体的には、短期乗数・長期乗数共に 1960 年代前半と比較して大きくなっている。
次に、米国の貨幣供給量増加の場合の日本の国民総生産へ与える影響について見てみよう。これを短期と長期で調
べる。
170
図 3.3.13 貨幣供給量 (M 1∗ ) 増加の Y への効果 (IV-K-Filter による推定)
− 日米モデルのケース −
30
20
10
0
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-10
1960
1970
1965
◦◦◦◦◦
1975
短期乗数
1980
•••••
1985
1990
長期乗数
図 3.3.13 は、米国の貨幣供給量の増加が日本の国民総生産に与える影響を示したのもである。短期的には、1980 年
以降米国の貨幣供給量 M 1∗ の 1 ドルの増加は日本の国民総生産 Y を減少させる。その減少額は、1990 年で 2 円程度
である。しかし、長期的には、1975 年から 1984 年まで急上昇し、ピーク時には 26.01 円であったのが、次第に減少
し、1988 年には約 10 程度にまで落ち込んでいる。最近では再び、この長期効果は増加傾向にある。
米国の貨幣供給量の増加は、米国の金利を低下させ、為替レートを円安に導き、日本の対米輸出の増加・対米輸入
の減少、すなわち、日本の経常収支の黒字を増加させる。同時に、米国の金利の低下は、米国の投資の活性化を通じ、
米国の国民総生産を増加させ、日本の対米輸出を増加させる。このように、2 つのルートから、日本の経常収支の黒
字幅の増大、逆に見れば、米国の経常収支の赤字幅の増大となる。しかし、この米国の経常収支の悪化は、米国の国
民総生産の減少を導き、日本の対米輸出の低下となる。最終的には、日本の対米輸出を増加させる効果と減少させる
効果の大小関係によって、乗数値の符号が決定される。短期的には、日本の対米輸出を減少させる効果が増加させる
効果よりも強いと言えるだろう。
図 3.3.12 と図 3.3.13 のどちらのグラフについても、米国経済が日本経済に与える影響は 1984 年以降長期的効果は
減少している。短期的効果についてに見ると、米国の財政政策の効果は日本経済には正の効果が強まり、逆に、金融
政策の効果は日本経済には負の影響を及ぼす。財政・金融どちらの効果についても、年々米国経済が日本経済へ影響
する度合いは高まっているように思われる。しかしながら、本節では示さなかったが、G 増加の Y ∗ への効果と M 1
増加の Y ∗ への効果が共にほとんどゼロに近いことから、日本経済は米国経済にほとんど影響を与えないのである。
7.4 まとめ
本章で行った分析を以下にまとめておく。
第 3 章 ∼ 第 6 章では、説明変数と撹乱項に相関のない場合の推定方法を用いたが、本章では、マクロ計量モデルの
連立方程式体系を扱ったため、必然的に説明変数と撹乱項との間に相関が生じる。この点を回避するため、まず、7.1
節では操作変数を用いたカルマン・フィルタ・モデル (いわゆる、2 段階カルマン・フィルタ・モデル, IV-K-Filter)
を提案した。そのアルゴリズムは (7.5) 式 ∼(7.11) 式で表される。しかし、問題点が残ることは前に述べたが、それ
は撹乱項の分散 σ, R を推定する際に、操作変数を用いたために生じた新しい撹乱項を正規分布でないにもかかわら
ず正規分布として近似して最尤法を用いたことであった。これは今後の課題の 1 つである。
171
次に、IV-K-Filter を用いて、日米マクロ計量モデル (7.12) 式 ∼(7.32) 式を 7.2 節で推定した。2 段階最小自乗法
(IV) との比較を行ったため、各方程式について推定結果を示した。IV-K-Filter については、操作変数を用いたため
に、パラメータの変動傾向は第 3 章 ∼ 第 6 章で扱った推定結果とは異なる場合が生じた。概して、操作変数を用いる
とパラメータの変動は安定的になるようである。
7.3 節では、7.2 節で推定したパラメータの値をもとにして、3 つのマクロ・モデルを分析した。それらは、日本の
閉鎖経済モデル (7.3.1 節), 米国の閉鎖経済モデル (7.3.2 節), 日米連結モデル (7.3.3 節) である。この 3 つのマクロ・
モデルを用いて、モデルの当てはまりを分析するために RM SE, M AP E, BIAS 基準でそれぞれ最終テストを行い、
さらに、政府支出・貨幣供給量の乗数分析を行った。こらの分析もまた、IV と IV-K-Filter との比較に基づいて分析
された。最終テストについては、IV-K-Filter の方が IV よりも誤差が小さく当てはまりの良い推定方法であると言え、
また日本モデル、米国モデルの閉鎖経済モデルよりも日米連結モデルの方がモデルのパーフォーマンスは良かった。
さらに、乗数分析については、政府支出、貨幣供給量の増加の効果が短期、長期について、また日米両国について分
析がなされた。政府支出の短期乗数に関して、日米両国共に推定期間を通して安定的にほぼ一定値で推移しているが、
日本の短期乗数は米国のものよりも小さい結果となった。IV-K-Filter に基づいた長期乗数を見ると、日本と米国とで
は政策効果の推移に違いがあるのが分かる。日本の政府支出の長期乗数は 1977 年あたりまでは低い値で安定的な動
きを示していたが、その後上昇傾向にある。日本の貨幣供給量の長期乗数は 1973 年頃までは高い値で安定的であっ
たが、徐々に低下傾向にある。この結果から、日本では金融政策による国民総生産創出の効果は年々薄れ、逆に財政
政策の効果が強まっている。米国の場合は、日本とは全く逆で、財政政策の効果が弱まり金融政策の効果が強まって
いる。
特筆すべき点は、閉鎖経済モデルの乗数値 (7.3.1 節, 7.3.2 節) と日米両国モデルの乗数値 (7.3.3 節) の違いである。
日米両国モデルの乗数値は閉鎖経済モデルのそれより小さいが、特に米国ではこの乗数値の差が年々増大している。
日本の場合は、閉鎖経済モデルと日米モデルで得られた乗数値はほとんど同じくらいの値であるが (わずかに日米モ
デルで得られた乗数値の方が日本閉鎖経済モデルで得られた乗数値より小さい)、米国の場合、1990.4 では短期乗数
で約 0.1、長期乗数で 0.3 程度も日米モデルが米国閉鎖経済モデルよりも小さい。この結果をまとめると、モデルを
連結させると乗数値は小さくなり、この傾向は米国では顕著に表れるということが言える。
最後に、日米連結モデルを用いて日米の相互作用に関する乗数分析を行った。すなわち、G や M 1 の増加が Y ∗ に
どの程度影響するのか、また、G∗ や M 1∗ の増加が Y にどの程度影響するのかといった乗数分析である。その結果、
日本経済は米国経済にほとんど影響を及ぼさないが、逆に、特に短期的効果について米国の経済状態は日本経済に大
きな影響を与え、その影響力は年々高まっている。米国経済が日本経済に与える長期的効果は、1984 年 ∼1988 年に
低下傾向が見られ、それ以降は安定している。1988 年 ∼1990 年について、米国の政府支出 1 ドル増加は日本の国民
総生産を約 40 円前後増加させ、米国の貨幣供給量 1 ドルの増加は日本の国民総生産を約 10 円 ∼15 円増加させる。
172
第 8 章 総括と展望
8.1 まとめ
本書はカルマン・フィルタ・モデルの経済学への応用を主題としてきた。以下に各章の要約と気付いた点を簡単に
記しておく。
第 1 章では状態空間モデルについて簡単に述べた。状態空間モデルは観測方程式と遷移方程式から構成される。観
測方程式は観測可能な変数と観測不可能な変数を結び付ける働きをする方程式である。遷移方程式は観測されない変
数を AR(1) モデルとして表したものである。これら 2 つの方程式に基づいて、観測可能な変数から観測されない変
数、すなわち、状態変数を推定することを考える。状態空間モデルとは元来、工学の分野で開発されたのものであり、
経済学と工学とではその用途が多少異なる。経済学にこのモデルを適用する場合にもいくつかの応用例が考えられる。
本書の第 3 章以降の実証研究では可変パラメータの推定のみを扱ったが、その他にも第 1 章で簡単に説明が加えられ
る応用例は自己回帰移動平均過程の推定、季節調整、恒常消費の推定、速報値を与えたもとで確報値の推定等の例を
あげた。状態変数の推定問題には 3 種類あり、それらはプレディクション (予測問題)、フィルタリング (濾波問題)、
スムージング (平滑問題) として知られている。プレディクションとは今期に利用可能な情報に基づいて将来の状態
変数を推定するものであり、E(αt+k |Ωt ) = at+k|t , k = 1, 2, · · ·, を求めるものである。フィルタリングは今期の情報
を与えたもとで今期の状態変数を推定する。すなわち、E(αt |Ωt ) = at|t , t = 1, 2, · · · , T , である。さらに、スムージ
ングとは今期に利用可能な情報に基づいて過去の状態変数を推定しようというものである。スムージングの中にも 3
種類あり、本書で取り上げたのは最も経済学の分野で有用であると思われる固定区間スムージング E(αt |ΩT ) = at|T ,
t = T, T − 1, · · · , 1, のみである。このように同じ状態変数を推定するにしても 3 つの異なった推定問題が存在する。こ
れら 3 つの推定問題についてそれぞれアルゴリズムが 2 種類づつ紹介される。1 つは分布関数に基づいた逐次アルゴ
リズムであり、もう 1 つは通常用いられる線形の逐次アルゴリズムである。プレディクションの逐次アルゴリズムは
フィルタリングをもとにし、フィルタリングの逐次アルゴリズムは初期値を設定しなければならない。また、スムー
ジングの逐次アルゴリズムは一期先のプレディクションとフィルタリングを要する。このように 3 つのアルゴリズム
は相互に関連しあっているのである。
観測・遷移方程式の線形性・正規性の仮定を置くと、線形の逐次アルゴリズムは分布関数の逐次アルゴリズムから
導出されることが知られている。本書では 3 種類の推定問題の中のフィルタリングの線形の逐次アルゴリズムに限っ
て導出方法を示される (フィルタリングの線形でかつ逐次アルゴリズムのことを特にカルマン・フィルタ・アルゴリ
ズムと呼ぶ)。フィルタリング・アルゴリズムの導出には様々な方法が考えられるが、本書では、3 つの導出方法を紹
介した。攪乱項に正規分布を仮定した分布関数に基づく導出、混合推定量としてのカルマン・フィルタ、線形最小分
散推定量としてのカルマン・フィルタの 3 種類の導出方法が示される。分布関数に基づく導出は観測・遷移方程式の
線形性・正規性の仮定を必要とするが、混合推定量や線形最小分散推定量によるカルマン・フィルタ・アルゴリズム
の導出は観測・遷移方程式の線形性のみを必要とする (正規性の仮定は必要としない)。さらに、線形最小分散推定量
の考え方に基づくアルゴリズムの導出によると、(1.16) 式の kt は状態変数のフィルタリング推定値 at|t の分散が最小
になるように求められ、特にカルマン・ゲインと呼ばれる。最後に、状態空間モデルに未知パラメータが含まれてい
る場合、そのパラメータの推定について述べられた。尤度関数のイノヴェーション・フォームを利用する最尤法や尤
度関数の期待値を最大にする EM アルゴリズムによる方法がある。イノヴェーション・フォームによる尤度関数の
値はフィルタリング・アルゴリズムの中で得られ、そこには余分な計算を必要としないため、このインオヴェーショ
ン・フォームの尤度関数の最大化が広く用いられる。他方、EM アルゴリズムによる最尤法は、尤度関数の期待値が
最大にされる方法であるため、スムージング推定値を利用する。そのためインノヴェーション・フォームによる方法よ
り計算量が増えるとうい欠点を持つが、真の未知パラメータの値の近傍をすばやく探し出すことができるという利点
を持つ (真の値の近傍をすばやく探し出すが、収束は非常に遅いという欠点も同時に持つ)。本書では、インノヴェー
173
ション・フォームによる尤度関数の最大化方法を採用して、第 3 章 ∼ 第 7 章の推定を行った。このように第 1 章は、
過去に行われた様々な研究のサーヴェイであった。
カルマン・フィルタの問題点の 1 つは、状態変数の初期値とその分散の値 (a0|0 , Σ0|0 ) を与えなければならないこ
とである。第 2 章では、まず、初期値とその分散がそれ以降の状態変数の推定値にどの程度影響するのかをモンテ・
カルロ実験によって調べる。この分析は、プレディクション、フィルタリング、スムージングの 3 者の比較によって
行われる。さらに、状態空間モデルに未知パラメータが含まれる場合、未知パラメータと状態変数を同時に推定する
必要がある。初期値とその分散の値が未知パラメータの推定値にどのような影響を与えるかについて考察する。第 2
章で得られる結論は、状態変数の初期値がどのような値であっても、その初期値の分散に十分大きな数値を与えてお
けば、それ以降の状態変数の推定値 (プレディクション、フィルタリング、スムージングによる推定値すべてについ
て) にはそれほど影響を及ぼさないというものである。また、プレディクション、フィルタリング、スムージングの
比較においては、予想されるように、真の初期値を与えたもとでは 3 者の推定量は不偏であるが情報量の違いからス
ムージングが最も有効な推定量であるということができる。初期値の値に対して最も平均自乗誤差が小さく偏りも小
さいという意味でロバストな推定量は 3 つの中でスムージングであった。さらに、未知パラメータの推定と初期値と
の関係についても同様の結論が得られる。すなわち、状態変数の初期値の分散に大きな値をとれば、初期値の値にか
かわらず、未知パラメータの推定値は真の値に近づくという結論である。
1.2 節ではいくつかのカルマン・フィルタ・モデルの応用例を示したが、第 3 章から第 6 章までは、可変パラメー
タ・モデルの応用例をとりあげ、代表的な関数を 2,3 の定式化で推定した。日米比較に基づいているため、これらの
推定は同じ定式化で日米について行われる。参考のため、最小自乗法・コクレン=オーカット法による推定結果もま
た加えられている。消費関数、投資関数、貨幣需要関数、輸出関数と為替レート関数の推定がそれぞれ第 3 章、第 4
章、第 5 章、第 6 章で行われる。
長期の限界消費性向について、日本では第一次オイル・ショック期に落ち込みがあるが、米国では上下しながら上
昇傾向にある。しかし、日米共に、長期の限界消費性向の変動幅は小さく、安定的な推移を示した。短期の限界消費
性向について、日本では逆に第一次オイル・ショック期に上昇しその後はほぼ一定であるが、米国ではかなり変動が
激しく第二次オイル・ショックの頃に大きな山がある。短期の限界消費性向は長期のものよりその変動が激しいとい
う推定結果が得られれた。また、習慣的効果については、日本でかつてなかった 1973 年のオイル・ショック期に過去
の消費行動を参考にできなくなった様子がうかがえ、この係数の落ち込みが目立つ。米国では第二次オイル・ショッ
クや最近にそれが現れている。さらに、資産効果や流動性制約の面から消費行動を分析すると、日本では推定期間を
通して銀行預金等の金融資産を考慮に入れながら消費をしているのに対し、米国では 1970 年代以降にその傾向が現
れている。
投資関数の所得要因の係数推定値の変動は、経済の景気局面にかなり対応しているようである。すなわち、国民総
生産の係数は不況期に低下、好況期に上昇という傾向が見られる。しかし、利子率の係数が、両国共にうまく推定さ
れていない。OLS のような推定期間を通しての平均的な推定値の場合は符号条件が満たされるが、可変パラメータ・
モデルによるその時々の経済構造を推定する場合には符号条件の満たされない時期が多々ある。この理由の一つとし
てはデータの問題がある。今期の投資を説明する需要要因として、本章では、今期の国民総生産 (国民総支出)を選
んだ。しかし、理論的には、国民総生産の代わりに将来の予想収益、または需要見込を説明変数として選ぶべきであ
る。本章の投資関数は、将来の予想値を今期の実質国民総生産として推定を行った。さらに、投資を説明する利子率
に、日本の場合は「利付電電債利回り」を用い、米国の場合は「長期国債利回り」(10 年以上の債権) を用いた。これ
らの金利が投資関数に適当かどうかという問題がある。
マーシャルの k は、日本について、1971 年まではやや減少傾向はあるものの安定的であったが、1971 年から 1974
年の急増が見られ、これは過剰流動性によるものであると考えられる。また、この値は 1975 年 ∼1985 年には上昇傾
向、さらに 1985 年以降は再び急増している。米国については 1965 年 ∼1967 年と 1987 年以降に減少傾向がみられる
が、かなり安定的な推移を示している。所得弾力性でみると、日本の場合ほぼ一定しているが、米国の場合も安定的
ではあるがやや減少傾向がみられる。利子半弾力性については、両国とも絶対値で減少し続け、近年ではほとんどゼ
ロとなっており、貨幣需要の中で利子率に影響される部分、すなわち、投機的需要が近年ではゼロになっていると言
うことができるであろう。物価の変化は、両国共に、実質貨幣需要に大きな影響を及ぼしているようである。日本で
174
は、1964 年から 1974 年にかけて、物価は貨幣需要に正の影響を与え、その他の期間では負となっている。特に過剰
流動性の 1970 年 ∼1971 年頃には、約 0.6 の値で推定期間内で最大の値をとっている。1990 年には物価は貨幣需要に
ほとんど影響していない。米国では、推定期間を通して一貫して、物価は貨幣需要に正の影響を与えている。理論モ
デルでは一般的に、物価は実質貨幣需要に影響を与えない (すなわち、貨幣錯覚はない) とされているが、実証分析で
はこのように物価は実質貨幣に大きな影響を及ぼすのである。
日本の対米輸出関数について、所得弾力性の値が長期についても短期についても大きな推定値であった。日本の輸出
構造は米国の景気に左右され易く、米国経済が日本経済に与える影響はかなり大きいものであると言える。また長期・
短期共に近年では、日本の対米輸出の価格弾力性と米国の対日輸出の価格弾力性の和が 1 より小さく、マーシャル・
ラーナーの条件が満たされていない。よって、円高の進行が進んでも対米経常収支の改善は期待されないであろう。
為替レートの推定によると、累積経常収支を説明変数とする方が単に経常収支を説明変数に選ぶよりも当てはまり
の面から見て良い結果が得られた。累積経常収支がゼロの状況、すなわち、推定期間を通して経常収支が均衡してい
る状況を想定したとき、円ドル為替レートの値は 1985 年以降 1 ドル =230 円程度とかなり円安方向に触れていたも
のと考えられる。しかし、実質金利の影響については、不安定な推定結果であったが、総じて言えば、近年日本の実
質金利は為替レートにほとんど影響しないのに対して、米国の実質金利はより大きな影響力を為替レートに与える。
このように、為替レートについても米国の影響を大きく受けているようである。
さらに、連立方程式体系で日米マクロ計量モデルの推定が第 7 章で扱われる。周知の通り、単一方程式から連立方
程式体系へと拡張する場合、問題になるのは説明変数と各方程式に含まれる攪乱項との間に相関が生じることである。
この相関を無視して第 3 章 ∼ 第 6 章と同じ様に各方程式を一本づつ推定すると、係数の推定値は偏りを持つことが
知られている。この点を回避するために、第 7 章ではまず、2 段階最小自乗法と同じ考え方に基づき、操作変数を用
いてカルマン・フィルタ・アルゴリズム (いわゆる、2 段階カルマン・フィルタ) を提示した。次に、定義式 10 本・推
定式 11 本の計 21 本の方程式から構成される単純な日米マクロ計量モデルを構築する。21 本のマクロ・モデルから
部分的に取り出し、輸出入と為替レートを通した米国からの影響を除いた日本の閉鎖経済モデル、同様に日本からの
影響を考慮に入れない米国の閉鎖経済モデル、さらには、21 本全部から成る日米両国の相互関係を調べる日米連結モ
デルの 3 つのマクロ・モデルで、最終テスト・乗数分析が行われる。2 段階最小自乗法による固定パラメータ・モデ
ルと 2 段階カルマン・フィルタによる可変パラメータ・モデルとの比較によってこれらの分析がされる。
さらに、IV と IV-K-Filter を用いて、日米マクロ計量モデルを 7.2 節で推定した。IV-K-Filter については、説明変
数である内生変数に操作変数を用いたために、パラメータの変動傾向は第 3 章 ∼ 第 6 章で得られた推定結果とは異
なる場合が生じた。概して、操作変数を用いるとパラメータの変動は安定的になる傾向がある。
7.3 節では、7.2 節で推定したパラメータの値をもとにして、3 つのマクロ・モデルを分析した。それらは、日本の
閉鎖経済モデル (7.3.1 節), 米国の閉鎖経済モデル (7.3.2 節), 日米連結モデル (7.3.3 節) である。この 3 つのマクロ・
モデルを用いて、モデルの当てはまりを分析するために RM SE, M AP E, BIAS 基準でそれぞれ最終テストを行い、
さらに、政府支出・貨幣供給量の乗数分析を行った。こらの分析もまた、IV と IV-K-Filter との比較に基づいて分析
された。最終テストについては、IV-K-Filter の方が IV よりも誤差が小さく当てはまりの良い推定方法であると言
え、また日本モデル、米国モデルの閉鎖経済モデルよりも日米連結モデルの方がモデルのパーフォーマンスは良かっ
た。さらに、乗数分析については、政府支出、貨幣供給量の増加の効果が短期、長期について、また日米両国につい
て分析がなされた。政府支出の短期乗数に関して、日米両国共に推定期間を通して安定的にほぼ一定値で推移してい
るが、日本の短期乗数は米国のものよりもわずかながら小さい結果となった。IV-K-Filter に基づいた長期乗数を見る
と、日本と米国とでは政策効果の推移に違いがある。日本の政府支出の長期乗数は 1977 年あたりまでは低い値で安
定的な動きを示していたが、その後上昇傾向にある。日本の貨幣供給量の長期乗数は 1973 年頃までは高い値で安定
的であったが、徐々に低下傾向にある。この結果から、日本では金融政策による国民総生産創出の効果は年々薄れ、
逆に財政政策の効果が強まっている。米国の場合は、日本とは全く逆で、財政政策の効果が弱まり金融政策の効果が
強まっている。
3 つのマクロ・モデルで乗数値の比較を行ったところ、閉鎖経済モデルよりも日米連結モデルの方が乗数値は小さ
いという結果が得られた。同じ政府支出乗数にしても、日本の場合も米国の場合も、相手国を考慮に入れると乗数値
は小さくなるのである。閉鎖経済モデルで得られた乗数値と連結モデルで得られた乗数値との差は、特に近年、米国
175
の場合大きくなっている。米国の日本への依存度が高まるにつれて米国内の財政・金融政策の効果が年々薄れてきて
いる。
最後に、日米連結モデルを用いて日米の相互作用に関する乗数分析を行った。その結果、日本経済は米国経済にほ
とんど影響を及ぼさないが、逆に、特に短期的効果について米国の経済状態は日本経済に大きな影響を与え、その影
響力は年々高まっている。米国経済が日本経済に与える長期的効果は、1984 年 ∼1988 年に低下傾向が見られ、それ
以降は再び上昇している。具体的な数値をあげると、1988 年 ∼1990 年について、米国の政府支出 1 ドル増加は日本
の国民総生産を約 40 円前後増加させ、米国の貨幣供給量 1 ドルの増加は日本の国民総生産を約 10 円 ∼15 円増加さ
せる。このように、日本の経済政策は米国に影響しないのに対して、米国の経済政策の日本への影響力はかなり大き
いものである。
以上は、簡単な本書の要約である。本節の最後に、重要ではあるが本書では一言も触れなかった事柄について述
べる。
可変パラメータを推定する場合、まず、パラメータが可変的かどうかの検定をしなければならない。これは重要な
ことであるが、本書ではあえてこの検定問題を取り扱わなかった。ここに、簡単に触れておく。パラメータが安定的
かどうかの検定に、有名な Chow テストがある。しかし、Kramer(1989) によると、Chow テストはあまりロバストで
はない。また、構造変化の時点を知ることはできない。カルマン・フィルタを利用した可変パラメータの検定には、
CUSUM テストや CUSUMSQ テストが適当であるように思われる。これらの検定では、逐次残差 (recursive residual)
を使って検定統計量が導かれる (Durbin(1969), Brown, Durbin and Evans(1975), Riddell(1975), Harvey(1981,1990),
Johnston(1884), Ploberger(1989), Ploberger, Kramer and Alt(1989), Westlund and Tornkvist(1989), Greene(1990),
Tanizaki(1993b) 等)。フィルタリング・アルゴリズムの中で逐次残差は得られるため、余分な計算を必要としない。
逐次残差は (yt − yt|t−1 ) であり、その分散は Ft|t−1 であり、yt|t−1 は (1.14) 式、Ft|t−1 は (1.15) 式によって求められ
ることに注意せよ。被説明変数 yt がスカラーの場合を考えて、CUSUM テストと CUSUMSQ テストの検定統計量を
それぞれ Wt , St とすると、検定統計量は
Wt =
t
X
j=k+1
St =
t
X
j=k+1
T
X
i=k+1
yj − yj|j−1
p
Fj|j−1
(yj − yj|j−1 )2 /Fj|j−1
(yi − yi|i−1 )2 /Fi|i−1
t = k + 1, · · · , T
として定義される。そして、横軸に時間 t をとり、それぞれの検定統計量を別々にプロットする。このプロットがす
べての t についてある一定範囲内にあれば、構造変化がないと判定されるのである。CUSUM テストについては、点
√
√
(k, ±a T − k) と点 (k, ±3a T − k) の 2 点で表される 2 つの直線の範囲内に Wt があれば帰無仮説を棄却できな
い。ただし、a は有意水準に依存するパラメータであり、有意水準が 0.01 のとき a = 1.143、0.05 のとき a = 0.948、
t−k
0.10 のとき a = 0.850 となる。CUSUMSQ テストについても同様に、St が 2 つの直線 ±c0 +
の範囲に入って
T −k
いれば推定期間内に構造変化が起こっていないと判定される。ただし、c0 は T , k, 有意水準に依存するパラメータで
Johnston(1983) に表が掲載されている (2 つの検定について、詳しくは上述の文献を参照せよ)。CUSUM テストは構
造変化の時点を知るのに有効であるが、検出力は低く、プロットを見た目には明らかに構造変化が起こっているにも
かかわらず、統計的には構造変化と判定されにくい。一方、CUSUMSQ テストは検出力は高いが、どこで構造変化
が起こったかを判断することはできない。このように 2 つの検定は、別々のものであるが、実際には補完的に使用さ
れる。
176
検定をせずに、可変パラメータ・モデルを推定すると、実際にはパラメータが固定的であるにもかかわらず、パラ
メータが動いているように推定されることがある (Chow(1983))。このため、まずパラメータが固定的かどうかの検
定を行い、次に固定的でないと判定されれば、可変パラメータ・モデルで推定するのが正当な順番といえるであろう。
本書では、紙面上の制約もあり、これを省いた。
8.2 フィルタリング理論の展望
これまでは、(1.1) 式, (1.2) 式で表されるように、観測方程式・遷移方程式が線形の場合のみを取り扱ってきた。本
節ではフィルタリング理論の流れと今後の展望を述べる。
線形フィルタに関する研究が一段落すると次に行われるものは非線形フィルタである1 。非線形フィルタとしては、
非線形の観測方程式と遷移方程式を状態変数と撹乱項に関して、テーラー展開で一次近似、二次近似、または、より高
次の近似式を、そのまま第 1 章で示された線形のフィルタリング・アルゴリズムにあてはめるというものがある。特に、
一次近似したものは拡張カルマン・フィルタ (extended Kalman filter) と呼ばれる2 。さらに、分布関数に基づいたフィ
ルタリング・アルゴリズムとしては、ガウシアン・サム・フィルタ (Gaussian sum filter) というのもがある。Sorenson
and Alspach(1971), Alspach and Sorenson(1972) を主要な参考文献としてあげることができる。これは (1.7) 式, (1.10)
式, (1.11) 式, (1.19) 式における各々の分布関数、すなわち、P (αr|s ), (r, s) = (t + k, t), (t, t), (t, t − 1), (t, T ), を正
規分布の加重平均で近似する方法であり、観測方程式と遷移方程式を状態変数のとり得る範囲のそれぞれの点で線形
近似しているため、得られたフィルタリング・アルゴリズムもまた拡張カルマン・フィルタの加重平均として与えら
れる。ガウシアン・サム・フィルタを含めて、このようなテーラー展開によるフィルタリング推定値は偏り (bias) を
持ち、しかも、その偏りの方向は、すべての時間 t に関して、関数形には依存するが同じ方向であることが知られて
いる (Tanizaki(1991a, 1993c), Tanizaki and Mariano(1992a, 1993))。
しかし、近年、Tanizaki(1991a, 1993c) と Tanizaki and Mariano(1992a) は、テーラー展開に依存しながら、漸近
的に不偏なフィルタリング推定値を与える非線形のフィルタリング・アルゴリズムを提示した。それは、線形のフィ
ルタリング・アルゴリズムの中では、非線形関数の期待値の形で表される部分を、疑似正規乱数を発生させて近似す
るというものであり、Brown and Mariano(1984, 1989) と Mariano and Brown(1983, 1989) の方法が応用されてい
る。このフィルタリングはモンテ・カルロ実験フィルタ (Monte-Carlo simulation filter) と呼ばれる。この方法によ
ると、正規乱数の数を増やせばフィルタリング推定値は各々の時点 t について漸近的に不偏になるが、その推定値の
分散は大きいという欠点を持つ。
最近の傾向として、観測方程式, 遷移方程式の非線形性だけでなく、状態空間モデルに含まれる撹乱項の非正規性
にも注目されて、より一般的に、プレディクション, フィルタリング, スムージング・アルゴリズムが開発されてきて
いる。なぜなら、正規性のもとでのカルマン・フィルター・モデルはロバスト (robust) ではないということが、言わ
れ始めたからである (例えば、Meinhold and Singpurwalla(1989) を見よ)。この方法は (1.7) 式, (1.10) 式, (1.11) 式,
(1.19) 式に基づいて分布関数自体を数値積分, モンテ・カルロ積分等によって近似しようというもので、漸近的に最小
分散不偏推定という意味でより正確な非線形・非正規フィルタを得ることができる。その一つとして、Kitagawa(1987)
と Kramer and Sorenson(1988) は、数値積分によって分布関数を近似するという非線形・非正規フィルタを提示し
た。この数値積分フィルタ (numerical integration filter) は、状態変数ベクトルが低い次元のときは有効であるが、高
次になるとコンピュータ・プログラムが複雑になり、またコンピュータの計算時間も極端に長くなるので利用可能で
はない。さらに、数値積分の際にトランケーション誤差 (truncation error) も含まれるという計算上の欠点もある。
この点を改善して、Tanizaki(1991a, 1991b, 1993c) と Tanizaki and Mariano(1992a, 1992b, 1992c, 1993) は、モン
テ・カルロ積分 (Geweke(1988, 1989a, 1989b)) によって各々の積分を評価するというモンテ・カルロ積分フィルタ
(Monte-Carlo integration filter) を提示した。以下では、数値積分とモンテ・カルロ積分によって、分布関数を評価
1 「線形の次は非線形へ」
、これはいつの時代にも型にはっまた拡張である。例を挙げると、最小自乗法の推定・検定問題が終わると、次に撹乱
項の自己相関・不均一分散等の問題を含めて一般化最小自乗法の研究が進む。さらに、線形の仮定を緩めた非線形関数のケースをとりあげ、線形
関数で研究された事柄をそのまま応用する。フィルタリング理論の場合も同様に、線形から非線形へと研究の対象が移っていっている。
2 Wishner, Tabaczynski and Athans(1969) では、3 種類の線形近似に基づく非線形フィルタ (extended Kalman filter, second-order
nonlinear filter, single-stage iteration filter の 3 種類) が比較されている。
177
するという非線形性・非正規性の仮定に基づいたプレディクション, フィルタリング, スムージング・アルゴリズムに
ついて若干触れる。
まず初めに、数値積分による分布関数の評価について述べる。確率変数を x で表し、簡単化のため、確率変数 x を
スカラーで考える。P (x) を確率変数 x の分布関数であるとする。P (x) の関数形は既知である。ある関数 g(x) の期
待値を求めることを考える。すなわち、
Z
¡
¢
E g(x) = g(x)P (x)dx
を求める。積分する区間の端点を [x0 , xn ] と定め、この区間 [x0 , xn ] を n 等分し、それぞれの区間の幅を h とする。
xn − x0
n
i 番目の区間を [xi , xi+1 ] とするとき、xi = x0 + ih, i = 0, · · · , n, として与えられる3 。n 個の長方形の面積の和を
求めると積分値が近似的に以下のように計算される。
h=
n
¡
¢ X
E g(x) ≈
g(xi )P (xi )(xi − xi−1 )
i=1
また、長方形の面積和でなく、次のように n 個の台形の面積の和を求めると、積分値の近似的がより正確に計算さ
れる。
n
¡
¢ X
¢
1¡
E g(x) ≈
g(xi )P (xi ) + g(xi−1 )P (xi−1 ) (xi − xi−1 )
2
i=1
積分値の計算としては、シンプソンの公式のようにより精度の高い数値積分法も考えられる。例えば、森 (1986), 牛
沢 (1988), 伊理・藤野 (1985) を参照せよ。しかし、ここでは説明を簡単にするために、積分値の長方形公式による近
似で議論を進める。
この数値積分法の問題点は、確率変数 x がすべての実数をとる場合、すなわち、[−∞, ∞] の範囲に x がある場合、
x0 と xn の外側の面積を無視しなければならない。すなわち、トランケーション誤差 (truncation error) が含まれる。
これは数値積分の精度を落とす要因の 1 つである。
さらに、この数値積分を多次元に拡張した場合、計算時間とプログラムの作成という 2 つの面から問題が生じる。
それぞれの変数について領域を n 個に分割した場合、1 次元では n 回の計算、2 次元では n2 となり、k 次元になる
と nk もの繰り返し計算を必要としなければならない。これは、計算時間とプログラミングの両方の意味から実行可
能ではない。さらに、積分領域に特異点がある場合、あらかじめ、その特異点を変数変換で除いておかなければなら
ない。これも時には実行不可能である。伊理・藤野 (1985) を参照せよ。
このような数値積分の問題点を改善するために、モンテ・カルロ積分が用いられる。上の数値積分と同じ例を用い
る。x の分布関数 P (x) と同じ幅 (定義域) を持った別の分布関数を考え、その分布関数を Px (x) とする (この分布関
数は importance density と呼ばれる)。Px (x) の関数形は分析者によって定められなければならない。適当に定めら
れた分布関数 Px (x) を用いて、g(x) の期待値は次のように書き換えられる。
Z
¡
¢
E g(x) = g(x)P (x)dx
=
=
Z
Z
g(x)
P (x)
Px (x)dx
Px (x)
g(x)ω(x)Px (x)dx
ω(x) は重みを表す関数 (weighting function と呼ぶ) であり、次式によって定義される。
ω(x) =
3
P (x)
Px (x)
区間 [xi , xi+1 ], i = 0, · · · , n, は必ずしも等間隔とする必要はない。単に、[x0 , xn ] の範囲で n 個の区間を選べばよい。
178
ここで、分析者によって与えられた分布関数 Px (x) に基づいて、コンピュータで疑似乱数を n 個発生させる (乱数
生成に関する文献としては、伏見 (1989) を見よ)。その n 個の乱数を、xi , i = 1, · · · , n, とする。算術平均をとって、
¡
¢
E g(x) は次のように近似される。
n
¡
¢ 1X
E g(x) ≈
g(xi )ω(xi )
n i=1
(8.1)
¡
¢
この場合、x の次元にかかわらず、積分値の計算は n 回の繰り返し計算ですむ4 。n を大きくすれば、E g(x) の推定
√
値は真の値に近づくが、収束の速度は n で、かなり遅いことが知られている (例えば、Geweke(1988,1989a,1989b)
¡
¢
を見よ)。言い換えれば、E g(x) の推定値の分散は大きい。これはモンテ・カルロ積分の問題点の 1 つである。さら
に、もう 1 つの問題点としては、期待値の計算は分析者によって特定化されなければならない分布関数 Px (x) に依存
するということである。Px (x) は P (x) よりも幅が広い分布、同じ意味で言い換えると分散の大きい分布であること
が望ましいと言われている (例えば、Geweke(1988,1989a,1989b) や Shao(1989) を見よ)。
この期待値の推定値の精度が低いという問題点を、Tanizaki(1991a, 1993c) と Tanizaki and Mariano(1993) は、xi ,
i = 1, · · · , n, に、疑似乱数ではなく、Px (x) の分布の関数形と乱数の個数 n の値によって決まる固定点を与えること
によって改善した。この方法によると、xi , i = 1, · · · , n, は以下によって得られる。
Z xi+1
1
=
Px (x)dx,
i = 1, · · · , n − 1
n
xi
となる xi , i = 1, · · · , n, を求める。ただし、両端は
Z x1
1
=
Px (x)dx
2n
−∞
Z ∞
1
=
Px (x)dx
2n
xn
となるような x1 , xn である。Px (x) に正規分布が仮定されれば、柴田 (1981, 附表 1.3, p.273) が利用可能である。ま
た、一様 (uniform) 分布, ロジスティク (logistic) 分布やコーシー (Cauchy) 分布等についても、上の積分値を計算せ
ずに、xi を明示的に得ることができる5 。なぜ、xi に乱数ではなくこのような固定点を与えることができるのかが
4 確率変数 x の次元を k としたとき、まず、あらかじめ、P (x) に基づいて k 次元の乱数ベクトルを n 組 (x , i = 1, · · · , n) コンピュータで
x
i
発生させておく。そして、そのまま、(8.1) 式に示される積分法を使って g(x) が評価される。このように、x の次元にかかわらず積分値の計算は
n 回の繰り返し計算である。
5
ロジステック分布の累積分布 F (x) は
1
F (x) =
− x−α
β
1+e
として表される。ただし、α, β はパラメータである。x について解くと
x = α − βlog
³
1−F
F
´
となる。ただし、F = F (x) である。よって、Fi =
xi = α − βlog
³
1 − Fi
Fi
i−1
1
+
, i = 1, · · · , n, を定義すると、xi は以下のように求められる。
2n
n
´
同様に、コーシー分布の累積分布 F (x) は
F (x) =
³
1
1
x−α
+ arctan
2
π
β
´
である。ただし、α, β はパラメータである。xi は
¡
xi = α + βtan π(Fi −
1 ¢
)
2
1
i−1
+
, i = 1, · · · , n, として定義される。
2n
n
このように、ロジステック分布、コーシー分布に対応する xi , i = 1, · · · , n, は上のように明示的に計算される。
となる。Fi =
179
問題になるように思われる。乱数とはすべての i について等しい確率で得られる数であり、しかも、その大きさの
1
順番はランダムである。ここで用いる固定点は、等しい確率 ( の確率) で得られた数値を大きさの順番に並べ替え
n
たものであり、この意味で順序づけられた乱数とみなされる。モンテ・カルロ積分においては、乱数の関数 (すなわ
ち、g(xi )ω(xi ) ) の算術平均をとっているため、乱数の順番とは無関係である。したがって、上で得られた固定点 xi ,
i = 1, · · · , n, を使っても差し支えないのである。
このような xi を使用することによって、モンテ・カルロ積分はより精度の高いものとなる6 。しかしながら、この
固定点を使用することによって、数値積分法と同じ問題が新たに生じる。それは、確率変数 x を多変数 (例えば、k
次元とする) に拡張した場合、nk 回の繰り返し計算が必要になることである。そのため、計算時間の問題が再び起こ
る。しかし、この場合でも数値積分法と違ってプログラミングの煩雑さはない7 。
以上の 2 種類の積分法に基づいてプレディクション, フィルタリング, スムージング・アルゴリズムを示しておく。
そこでは、プレディクションの (1.7) 式、フィルタリングの (1.10) 式・(1.11) 式、スムージングの (1.19) 式に含まれ
る積分値が、数値積分法やモンテ・カルロ積分法によって、近似されるのである。
8.2.1 数値積分法
状態変数 αr のとり得る範囲を n 個の区間に分割する。すなわち、それぞれの区間は [αi−1,r , αi,r ], i = 1, · · · , n, であ
る。添字 (r, s) について、プレディクションの場合は (r, s) = (t+k, t)、フィルタリングの場合は (r, s) = (t, t−1), (t, t)、
スムージングの場合は (r, s) = (t, T ) である。また、r = 1, · · · , T についても、i = 1, · · · , n についても、区間の長さ
が同じである必要はない。数値積分によるアルゴリズムは以下の通りに表される。状態変数がスカラー (scalar) の場
合のみを以下に示す。
プレディクション (prediction):
P (αi,t+k |Ωt ) =
n
X
i=1
P (αi,t+k |αj,t+k−1 )P (αj,t+k−1 |Ωt )(αj,t+k−1 − αj−1,t+k−1 )
i = 1, · · · , n, k = 1, 2, · · ·
ここで、P (αi,t+k |αj,t+k−1 ) は、非線形・非正規の遷移方程式 (例えば、αt+k = gt (αt+k−1 , ηt+k )) を ηt+k から αt+k
の変数変換によって得られる。また、P (αt |Ωt ) は次のフィルタリング・アルゴリズムの中で得られる。
フィルタリング (filtering):
P (αi,t |Ωt−1 ) =
P (αi,t |Ωt ) =
n
X
i=1
n
X
j=1
P (αi,t |αj,t−1 )P (αj,t−1 |Ωt−1 )(αj,t−1 − αj−1,t−1 )
P (yt |αi,t )P (αi,t |Ωt−1 )
P (yt |αj,t )P (αj,t |Ωt−1 )(αj,t − αj−1,t )
i = 1, · · · , n, t = 1, · · · , T
同様に、P (αi,t |αi,t−1 ) は、非線形・非正規の遷移方程式 (例えば、αt = gt (αt−1 , ηt )) を ηt から αt の変数変換によっ
て、また、P (yt |αi,t ) は、観測方程式 (例えば、yt = ht (αt , ²t )) からそれぞれ得られる。
6 このようにして求められた x を用いたモンテ・カルロ積分は数値積分よりも精度が高い。特に、n が小さいときこの傾向は顕著に現れる
i
(Tanizaki and Mariano(1993))。
7 k 次元ベクトル x の固定点 x の nk 個の組をあらかじめ求めておいて、(8.1) 式にそのまま代入すればよい。数値積分の場合はベクトルの次
i
元 k 個のシグマが必要になるが、モンテ・カルロ積分の場合は次元の数にかかわらず 1 つのシグマで済ますことができる。このため、モンテ・カ
ルロ積分はプログラム作成の際の煩雑さがない。
180
スムージング (smoothing):
n
X
P (αj,t |ΩT )P (αj,t |αj,t−1 )
P (αi,t−1 |ΩT ) = P (αi,t−1 |Ωt−1 )
(αj,t − αj−1,t )
P (αj,t |Ωt−1 )
j=1
i = 1, · · · , n, t = T, T − 1, · · · , 1
このスムージング・アルゴリズムに含まれる P (αi,t−1 |Ωt−1 ), P (αj,t |Ωt−1 ) は、上のフィルタリング・アルゴリズム
の中で計算される。
それぞれの点 αi,r で得られた分布関数の値 P (αi,r |Ωs ), (r, s) = (t + k, t), (t, t), (t, t − 1), (t, T ), をもとにして、プ
レディクション, フィルタリング, スムージングの推定値とその分散は
E(αr |Ωs ) ≈ ar|s
=
n
X
i=1
αi,r P (αi,r |Ωs )(αi,r − αi−1,r )
V ar(αr |Ωs ) ≈ Σr|s
=
n
X
i=1
(αi,r − ar|s )(αi,r − ar|s )0 P (αi,r |Ωs )(αi,r − αi−1,r )
として計算される。
8.2.2 モンテ・カルロ積分法
P (αr |Ωs )
として定
Pα (αr )
の αi,r で評価された値を
αi,r を Pα (αr ) からの乱数 (または、固定点) とする。重み関数 (weighting function) を ωr|s =
義する。ただし、(r, s) = (t + k, t), (t, t), (t, t − 1), (t, T ) とする。さらに、重み関数 ωr|s
P (αi,r |Ωs )
ωi,r|s とおく。すなわち、ωi,r|s =
である。このとき、それぞれのアルゴリズムは次のように、分布関数
Pα (αi,r )
の逐次 (recursive) アルゴリズムの形ではなく、重み関数の形で与えられる。
プレディクション (prediction):
n
ωi,t+k|t =
1 X P (αi,t+k |αj,t+k−1 )
ωj,t+k−1|t
n j=1
Pα (αj,t+k−1 )
i = 1, · · · , n, k = 1, 2, · · ·
フィルタリング (filtering):
n
ωi,t|t−1 =
ωi,t|t =
1 X P (αi,t |αj,t−1 )
ωj,t−1|t−1
n j=1
Pα (αj,t )
P (yt |αi,t )ωi,t|t−1
n
1X
P (yt |αj,t )ωj,t|t−1
n j=1
i = 1, · · · , n, t = 1, · · · , T
181
スムージング (smoothing):
n
ωi,t−1|T = ωi,t−1|t−1
1 X ωj,t|T P (αj,t |αi,t−1 )
n j=1 ωj,t|t−1 Pα (αj,t )
i = 1, · · · , n, t = T, T − 1, · · · , 1
このように、モンテ・カルロ積分によるそれぞれのアルゴリズムは分布関数の逐次アルゴリズムから重み関数の逐次
アルゴリズムへと変換されるのである。
それぞれの点 αi,r で得られた重み関数の値 ωi,r|s , (r, s) = (t + k, t), (t, t), (t, t − 1), (t, T ), をもとにして、プレディ
クション, フィルタリング, スムージングの推定値とその分散は
E(αr |Ωs ) ≈ ar|s
n
=
1X
αi,r ωi,r|s
n i=1
V ar(αr |Ωs ) ≈ Σr|s
n
=
1X
(αi,r − ar|s )(αi,r − ar|s )0 ωi,r|s
n i=1
として計算される。
さらに分布関数の形は
P (αi,r |Ωs ) = ωi,r|s Pα (αi,r )
(r, s) = (t + k, t), (t, t), (t, t − 1), (t, T )
i = 1, · · · , n
として求められる。
ここでは 2 つの非線形・非正規フィルタを紹介したが、Carlin, Polson and Stoffer(1992) も乱数を使い分布関数を
ギブズ・サンプラー (Gibbs sampler)
8
という方法で状態空間モデルの推定を取り扱った。ギブズ・サンプラーにつ
いては、Gelfand and Hills(1990), Gelfand and Smith(1990), Geman and Geman(1990), Tanner and Wong(1987),
Zeger and Karim(1991) を参照せよ。
フィルタリング理論の流れとしては、以上の通りで、非線形の観測・遷移方程式をテーラー展開で近似して線形の
アルゴリズムに当てはめるというものから分布関数自体を近似するという方向にある。非正規分布を正規分布で近似
するのではなく、また非線形関数を線形関数で近似するのではなく、より一般的により正確に状態変数の推定値を求
めようという試みがなされている。
8.2 計量経済学の展望:推定と検定
最後に、計量経済学の展望についても若干触れたい。最近の計量経済学の動向としては、コンピュータのめざましい
発展につれて、より計算量の必要とされる推定方法が考案されてきている。本節で紹介された数値積分やモンテ・カル
ロ積分による分布関数の近似もまたそうである。その他にも、ノンパラメトリック推定 (nonparametric estimation) に
8
ギブズ・サンプラーとは次の乱数生成に関する方法である。
2 つの確率変数 x, y を考える。それぞれの条件付き分布 P (x|y), P (y|x) は既知であるとする。いま、y に適当な値 (例えば、y0 ) を与えて、
P (x|y0 ) から x の乱数を発生させる。この乱数の値を x1 とする。次に、x1 を与えて、P (y|x1 ) をもとにして y の乱数を発生させる。この y の
乱数の値を y1 とする。この過程を繰り返す。すなわち、yi−1 を与えて P (x|yi−1 ) から xi を発生させ、xi を与えて P (y|xi ) から yi を発生させ
る。i を無限大にすると、それぞれの条件付き分布からの乱数 (xi , yi ) は x, y の結合分布 P (x, y) からの乱数に近づく。
このような乱数生成過程の方法をギブズ・サンプラーと呼ぶ。
182
よる分布関数の近似、シミュレーションに基づいた積率法 (method of simulated moment, MSM) 等が代表的であろう。
前者は、分布関数自体が未知でこれを推定しようというものであり、Robinson(1983,1988), Diggle and Garton(1984),
Ullah(1988), Jones(1989), Staniswalls(1989a,1989b), Wang(1989), Izenman(1991) 等の論文が発表されている。後者
は、一般化積率法 (generalized method of moment, GMM) のシミュレーション版であり、McFadden(1989) をはじめと
して、Pakes and Pollard(1989), Lee and Ingram(1991) 等の文献がある。関連して、Diebold and Rudebusch(1991b)
は通常の自己回帰モデルについて、モンテ・カルロ・シミュレーションによって OLS よりも平均自乗誤差の小さい
不偏な推定値を求めることを考案した9 。また、マクロ経済モデルの分野においても、経済主体の動学的最適化問題
を解く際に、コンピュータを使ったシミュレーションによる数値的解法が盛んに用いられている (北坂 (1993) を参照
せよ)。
さらに、検定についても、コンピュータの発達につれて、古くから考案されていたが計算上の問題から実用可能で
はなかったものが、最近になって研究が進めらている。例えば、ウィルコクソンのランク・サム・テスト (Wilcoxon
rank sum test), フィシャーのランダマイゼイション・テスト (Fisher randomization test) , CUSUM・CUSUMSQ テ
スト10 等のものがある。
以下では、このような多くの推定方法・検定方法の中でノンパラメトリック推定、シミュレーションに基づいた積
率法、ウィルコクソン・テスト、フィシャー・テストについて簡単に説明する。
ノンパラメトリック推定
ノンパラメトリック推定の特徴は関数形を特定化する必要がないということである。この推定方法は得られたデー
タからもとになる分布関数自体の近似を行うものである。まずはノンパラメトリック法による分布関数の近似から始
める。
同じ分布からの n 個の確率変数 xi , i = 1, · · · , n, があるとする。xi の分布関数を P (x) とする。分布関数 P (x) が
未知であるとき、n 個の標本から分布関数を次のように推定することができる。
1
h
h
P rob(x − < X < x + )
h→0 h
2
2
1
h
h
≈
[ n 個の確率変数 x1 , · · · , xn の中で (x − , x + ) の範囲に入っている個数 ]
nh
2
2
n
X
1
x − xi
=
W(
)
nh i=1
h
P (x) = lim
ただし、h はある小さな数で、W (·) は

1

1
|z| < のとき
2
W (z) =

0
その他
Z
である。より一般的には、 W (z)dz = 1、かつ、すべての z について W (z) ≥ 0 となるような W (·) を選ぶことも
できる11 。x が k 次元の場合は x の分布関数は次のように拡張される。
P (x) =
n
1 X
x − xi
W(
)
nhk i=1
h
9 小標本で、最小自乗法による自己回帰モデルの推定に関して、自己回帰係数の推定値に偏りがあることを最初に発見したのは Hurwicz(1950)
である。1 階の自己回帰モデルについて、正確に不偏推定量を求めたのは Andrews(1993) であり、さらに、モンテ・カルロ・シミュレーション
を用いて、この方法を一般的な自己回帰モデルの推定を行ったのが Diebold and Rudebusch(1991b) である。
10 前述の通り、Brown, Durbin and Evans(1975) によって考案された CUSUM テスト・CUSUMSQ テストの信頼区間は 2 つの直線によっ
て表される。しかし、この信頼区間は近似であることが知られている。Tanizaki(1993a) はシミュレーションによって、この信頼区間をより正確
に求めた。
11
W (·) の選択として、代表的なものは標準正規分布である。
183
以上の分布関数の近似は古くから考案されていた。最近になって、この方法が回帰モデルに応用されはじめた。通
常の回帰モデルは次のように、y は x の関数と撹乱項 u の和で表される。
y = M (x) + u
ただし、E(y|x) = M (x) となる。M (x) の関数形は未知である。P (y, x), P (x) はそれぞれ y と x の結合分布, x の周
辺分布とする。E(y|x) はその期待値の定義と上の分布関数の近似を用いると
E(y|x) = M (x)
Z
P (y, x)
= y
dy
P (x)
≈
n
X
yi ri (x)
i=1
として計算される。ただし、ri (x) は
x − xi
)
h
ri (x) = n
X
x − xi
)
W(
h
i=1
W(
である。以上のような推定をノンパラメトリック推定と呼ぶ。計量分析において重要となるのは、y の x に関する傾
∂y
き (x の偏微分、すなわち、 ) である。上の条件付き期待値の近似を用いて、傾きは
∂x
∂M (x)
∂y
=
∂x
∂x
n
X
∂ri (x)
≈
yi
∂x
i=1
となる。ri (x) の関数形は W (·) より明示的に計算される。
数を選ばなければならないということである。
∂y
を求める際に重要なことは、W (·) に微分可能な連続関
∂x
以上がノンパラメトリック推定法であり、最大の特徴としては関数形を特定化する必要はない。欠点は h の選び方
である。h を大きくすると、分布関数は滑らかに近似され真の分布関数とは異なったものとなってしまう。逆に h を
小さくすると、分布関数は必要以上に凸凹になり、真の分布関数とはかけ離れたものになる。
シミュレーションによる積率法 (MSM)
MSM についても若干説明を加える。MSM は GMM のシミュレーション版である。非線形回帰モデルを
yt = g(xt , β, ut )
とする。yt は t 期の被説明変数ベクトル、xt は説明変数ベクトル、β は推定されるべきパラメータ・ベクトル、ut は
撹乱項ベクトルである。関数 g(·, ·, ·) は、ノンパラメトリック推定法とは違って、既知である。関数 g(·, ·, ·) の撹乱項
ut に関する期待値を次にように関数 M (·, ·) で表す。
¡
¢
M (xt , β) = E g(xt , β, ut )|xt
¡
¢
また、残差 g(xt , β, ut ) − M (xt , β) の分散共分散行列を
³¡
¢¡
¢0 ´
W (xt , β) = E g(xt , β, ut ) − M (xt , β) g(xt , β, ut ) − M (xt , β) |xt
として W (·, ·) で定義する。このとき、パラメータを推定するために、β について最小にされるべき目的関数は
T ³
X
t=1
´0
³
´
yt − M (xt , β) Wt∗−1 yt − M (xt , β)
184
となる。ただし、Wt∗ = W (xt , β ∗ ) であることに注意せよ。ニュートン・ラプソンの最適化方法により、次のような
収束計算によって、目的関数は最小化される。
β i+1 = β i +
T
T
³X
´
∂Mti 0 ∗−1 ∂Mti ´−1 ³X ∂Mti
(
)
W
(
)
(
)Wt∗−1 (yt − Mti )
t
0
0
0
∂β
∂β
∂β
t=1
t=1
ただし、Mti = M (xt , β i ) とする。また、計算の際に Wt∗ の中の β ∗ は β i に置き換えられる。ここで問題となるのは、
期待値 Mti , Wt∗ の値をどのようにして求めるかである。MSM では、ut に乱数を発生させて期待値 Mti , Wt∗ の値を
求めるのである。ut の乱数を uj,t , j = 1, · · · , N , とすると、Mti は以下のように近似される。
M (xt , β i ) ≈
N
1 X
g(xt , β i , uj,t )
N j=1
Wt∗ の計算においては、Mti と Wt∗ とは独立である必要があるので、Mti を求める際に用いた乱数 uj,t とは別の乱数
um,t , m = 1, · · · , L, を発生させる必要があり、Wt∗ は以下のように近似される。
W (xt , β ∗ ) ≈
L
´³
´0
1 X³
g(xt , β ∗ , um,t ) − M (xt , β ∗ ) g(xt , β ∗ , um,t ) − M (xt , β ∗ )
L m=1
これらの近似が、上のニュートン・ラプソンの公式に代入され、収束計算によって、β i の収束先が β の推定値として
得られるのである。
以上が MSM である。モンテ・カルロ積分の場合も同様のことが言えるが、このような擬似乱数を用いて推定値を
求める方法にはいくつかの問題点がある。まず一つに、乱数生成のプログラムに関する問題である。多くの方法は線
形合同法12 がもとになっている。この方法で乱数を発生させると、得られた乱数はある一定周期で同じ値が実現され
る。そのため、正確な意味での乱数ではない。もう一つの問題点は、モンテ・カルロによる方法は乱数生成プログラ
ムに依存するため、分析者によって推定値が異なるということである。
ノンパラメトリック・テスト
ノンパラメトリック推定と MSM の 2 つの推定方法を紹介した。次に、検定について触れる。ウィルコクソンのラ
ンク・サム・テスト (Wilcoxon rank sum test), フィシャーのランダマイゼイション・テスト (Fisher randomization
test) は共に分布に依存しない検定方法 (nonparametric test) として知られている。Mehta, Patel and Tsiatis(1984),
Mehta, Patel and Wei(1988), Diebold and Rudebush(1992), Diebold, Rudebush and Tanizaki(1992) がそれらの検
定に関するものである。これらの検定統計量の分布は離散型分布であり、検定を行う度毎に求められなければならな
い。しかし、この分布を求める際にかかる計算量は膨大な量である。そのため、これまでは t 分布で近似して用いら
れてきた。最近のコンピュータの発展につれて、これらの検定も正確に行われるようになってきたのである。この 2
つのテストはよく似たものであり、以下のものである。
2 つの標本のグループがある。それらを xi , yj , i = 1, · · · , n, j = 1, · · · , m, とし、互いに独立な確率変数とする。こ
の 2 つの検定の帰無仮説は「2 つの標本 xi と yj は同じ分布に従う確率変数である」となる。
12
線形合同法による乱数生成は以下のものである。
ある適当な値を X0 , a, c に設定して、次の漸化式を用いて非負整数列 Xn を生成する。
Xn = aXn−1 + c
次に、Xn をある整数 M で割った余りを求める。この余りが区間 [0, M ) の一様乱数とするという方法である。
また、区間 [0, 1) の乱数を得るためには得られた余りを M で割ればよい。
このような方法で一様乱数が生成され、これを変換することによって正規乱数等が得られるが、問題はこのようにして得られた一様乱数にはあ
る周期が存在するということである。
185
ウィルコクソン・テストの検定統計量は次のように計算される。2 つの標本 xi , yj を一緒に混ぜ合わして、(n + m)
個のデータを大きさの順に 1, 2, · · · , (n + m) の番号をつける。標本 xi に対応する番号を Rxi とし、標本 yj に対応す
る番号を Ryj とする。ウイルコクソン・テストの検定統計量 W は
W =
n
X
Rxi
i=1
で表される。(n + m) 個の数字 1, 2, · · ·, (n + m) から n 個 (標本 x の数) を取り出す組み合わせは、全部で n+m Cn =
(n + m)!
n!m!
通りある。それぞれの組み合わせは
の確率で現れることになる。すべての組み合わせについて、
n!m!
(n + m)!
その和を求めることができ、W より大きい場合、W に等しい場合、W より小さい場合に振り分けることができる。
そして、W 以上の確率、W 以下の確率が計算され、それらの確率が共に 0.025∼0.975 ならば、有意水準 5%で帰無
仮説を棄却できないことになる。
一方、フィシャー・テストの検定統計量 F は
F =x−y
である。ただし
n
x=
1X
xi
n i=1
y=
1 X
yj
m j=1
m
とする。総計が (n + m) 個の 2 つの標本 xi , yj , i = 1, · · · , n, j = 1, · · · , m, を混ぜて、無作為に n 個取り出すことを
(n + m)!
考える。このときの組み合わせは、前述と同様に、 n+m Cn =
通りである。すべての組み合わせについて、
n!m!
取り出された n 個の標本の平均と残された m 個の標本の平均の差を計算する。それらの 2 つの平均の差が F より大
きい確率、F より小さい確率、F に等しい確率を求めることができる。そして、F 以上の確率、F 以下の確率が共に
0.025∼0.975 ならば、有意水準 5%で帰無仮説を棄却できないことになる。
このように、ウィルコクソン・テストは標本の大きさの順番につけられた番号の総和を検定統計量とし、フィシャー・
(n + m)!
通りの計算を要するため、
テストは 2 つの標本の平均の差を検定統計量とする。どちらの検定も n+m Cn =
n!m!
n や m が増えると計算量も膨大になる。ひと昔前ではこれらの 2 つの検定は t 分布で近似されて用いられていた。コ
ンピュータの発展に伴い、最近では正確な確率が計算されるようになった。
以上は、関連する数多くの最近の研究のうちのごく一部分であるが、全体の流れとしては、近似ではなくより正確
な推定または検定へと向かっているようである。いずれも、ひと昔前までは、計算機上の問題から実行不可能なもの
ばかりである。今後もこのような傾向は続くであろう。
186
変数名リスト,データ・リスト
日本データ
Y
C
I
G
E
M
Yd
T
r
P
p
M1
Eus
M us
Eo
Mo
e
国民総生産 (1985 年価格,10 億円, 季節調整済)
消費者支出 (1985 年価格,10 億円, 季節調整済)
国内民間固定資産投資額・機械, 設備, 非住宅向け投資 (1985 年価格,10 億円, 季節調整済)
政府支出, 在庫変動, 住宅向け投資等 (1985 年価格,10 億円, 季節調整済,Y − C − I − E + M に相当)
財・サービスの輸出 (1985 年価格,10 億円, 季節調整済,Eus + Eo に相当)
財・サービスの輸入 (1985 年価格,10 億円, 季節調整済,M us + M os に相当)
可処分所得 (1985 年価格,10 億円, 季節調整済)
直接税, 間接税, 資本減耗等 (1985 年価格,10 億円, 季節調整済,Y − Y d に相当)
利付電電債利回り・平均 (%)
インプリシット価格レベル (1985=1, 季節調整済)
P − P−1
インプリシット価格レベルの上昇率 (400
に相当)
P−1
M 1+準通貨 (1985 年価格,10 億円, 季節調整済, 期末現在)
米国への財・サービスの輸出 (1985 年価格,10 億円, 季節調整済)
米国からの財・サービスの輸入 (1985 年価格,10 億円, 季節調整済)
他国への財・サービスの輸出 (1985 年価格,10 億円, 季節調整済)
他国からの財・サービスの輸入 (1985 年価格,10 億円, 季節調整済)
為替相場・対米ドル (円/アメリカ・ドル)
米国データ
Y∗
C∗
I∗
G∗
E∗
M∗
Y d∗
T∗
r∗
P∗
国民総生産 (1985 年価格,10 億ドル, 季節調整済)
消費者支出 (1985 年価格,10 億ドル, 季節調整済)
国内民間固定資産投資総額 (1985 年価格,10 億ドル, 季節調整済)
政府支出等 (1985 年価格,10 億ドル, 季節調整済,Y ∗ − C ∗ − I ∗ − E ∗ + M ∗ に相当)
財・サービスの輸出 (1985 年価格,10 億ドル, 季節調整済,Eus∗ + Eo∗ に相当)
財・サービスの輸入 (1985 年価格,10 億ドル, 季節調整済,M us∗ + M o∗ に相当)
可処分所得 (1985 年価格,10 億ドル, 季節調整済)
直接税, 間接税, 資本減耗等 (1985 年価格,10 億ドル, 季節調整済,Y ∗ − Y d∗ に相当)
長期国債利回り (%, 10 年以上の債権)
M 1∗
インプリシット価格レベル (1985=1, 季節調整済)
∗
P ∗ − P−1
に相当)
インプリシット価格レベルの上昇率 (400
∗
P−1
M 1+準通貨 (1985 年価格,10 億ドル, 季節調整済, 期末現在)
Ejp∗
日本への財・サービスの輸出 (1985 年価格,10 億ドル, 季節調整済,
p∗
M jp∗
Eo∗
M o∗
M us
に相当)
e
Eus
日本からの財・サービスの輸入 (1985 年価格,10 億ドル, 季節調整済,
に相当)
e
他国への財・サービスの輸出 (1985 年価格,10 億ドル, 季節調整済)
他国からの財・サービスの輸入 (1985 年価格,10 億ドル, 季節調整済)
上記のデータに関する注意点は
1. Y, C, I, E, M, P, e, Y ∗ , C ∗ , I ∗ , E ∗ , M ∗ , P ∗ , r ∗ は『OECD 経済統計 1960-1990』(1991) より入手
2. Y ∗ , C ∗ , I ∗ , E ∗ , M ∗ は『OECD 経済統計 1960-1990』(1991) によると 1982 年価格で表示されている。日本の基準年次 (1985 年) と整合
的に合わせるため、1982 年価格から 1985 年価格へデータを変換した。まず、名目国民総生産と 1982 年価格国民総生産が報告されているた
187
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
10.
11.
12.
13.
め、それらのデータから 1982 年基準のインプリシット価格レベルを算出する。次に、1985 年基準のインプリシット価格レベルもまた報告さ
れているので、2 つのインプリシット価格レベルの比をとり、1982 年価格の Y ∗ , C ∗ , I ∗ , E ∗ , M ∗ に乗じて算出した。
r は『経済変動観測資料』から入手
M 1, M 1∗ については、『OECD 経済統計 1960-1990』から得られた「M 1+準通貨」を「インプリッシト価格レベル」(P または、P ∗ ) で
割って、1985 年価格で実質化されている
Y d は『国民経済計算報告』、『国民経済計算年報』より得られた原系列の「家計 (個人企業を含む) の国民可処分所得」と「対家計民間非営利
団体の国民可処分所得」との和を EZ-X11 Ver.2.00 (Doan Associates) を使って、乗法型モデルで季節調整を行い、さらに、4 をかけて P
で割って、年ベースの実質データに変換されている。
Y d∗ について、Survey of Current Business から得られた四半期データの「国民総支出」と「可処分所得」の比率をとり、Y ∗ に乗じて算
出された
G, T, G∗ , T ∗ については、上記のように、それぞれ定義式から算出
Eus, M us について、「対米輸出通関実績」,「対米輸入通関実績」と「輸出通関実績」,「輸入通関実績」との比率をそれぞれとり、その比率
を EZ-X11 Ver.2.00 で季節調整 (乗法型モデル) して、E, M に乗じて作成
Ejp∗ , M jp∗ は Eus, M us を e でそれぞれ割って算出
Eo, M o, Eo∗ , M o∗ は上記に示された定義式より算出
p, p∗ は物価上昇率を表し、P, P ∗ の一期前からの上昇率に 400 をかけ、年ベースでかつパーセントに変換
r ∗ は月データの平均をとって四半期データに変換、また月データは毎日の平均
e は国内市場における 1 ドルあたりのスポット・レートの日平均
である。
188
日本のデータ・リスト
年
1960.1
1960.2
1960.3
1960.4
1961.1
1961.2
1961.3
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米国のデータ・リスト
年
1960.1
1960.2
1960.3
1960.4
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Y d∗
T∗
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M 1∗
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Eo∗
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35.7
34.8
37.2
37.7
36.9
39.8
44.3
45.1
46.7
49.6
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45.8
42.8
40.7
46.8
46.2
51.7
60.0
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73.7
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80.5
81.4
93.4
99.1
113.8
120.3
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118.9
130.5
131.0
142.6
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145.4
148.3
166.0
166.5
159.8
159.4
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150.3
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346.5
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354.0
364.5
357.2
333.4
306.6
324.4
327.2
337.7
340.4
332.7
322.8
327.7
343.2
318.9
315.2
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378.5
385.4
411.0
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430.0
441.2
440.7
453.1
458.8
463.6
480.8
481.0
480.3
488.8
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著者略歴
たにざき ひさ し
谷 崎 久志
1962 年 (昭和 37 年)
1985 年 (昭和 60 年)
1987 年 (昭和 62 年)
大阪府に生まれる
関西学院大学経済学部卒業
神戸大学大学院経済学研究科博士課程前期課程修了
同大学博士課程後期課程を経て 1988 年 (昭和 63 年) よりペンシルヴァニア大学へ留学
1991 年 (平成 3 年)
1992 年 (平成 4 年)
ペンシルヴァニア大学より博士号 (Ph.D.) 取得
神戸学院大学講師
現在に至る
著書
Nonlinear Filters - Estimation and Applications - (Springer-Verlag, 1993)