十勝産雑穀を用いた新たな製品の開発 - 北海道立十勝圏地域食品加工

十勝産雑穀を用いた新たな製品の開発
事業部研究開発課 佐々木香子
総務部総務課 鎌田 晋
事業部プロジェクト推進課 梅沢 晃
1.目的と概要
小豆や菜豆等の雑豆の用途は、餡や煮豆等の伝統的な用途が中心であるが、嗜好の変化や食生
活の多様化の影響から、国内の消費量は減少傾向であった。このため、雑豆普及における課題に
関し、これまで当財団で様々な形で需要調査を行ってきた。
調査結果から浮かび上がる対策としては、新たな分野での利用促進及び広範囲なマーケットの
開拓が必要と考えられた。しかしながら、現状では新たな分野への利用拡大には至っていない。
また、前記調査では、若年層よりも高年齢層で雑豆喫食率が高いことが判明しているが、雑豆の
皮が硬いことや粒が大きいことなどから、嚥下力が低下した年齢層では、豆のままの形状で摂取
が困難な場合もある。
本研究では雑豆の高齢者食分野への利用促進を目的に、小豆を粉末化及びペースト化した素材
について、養護施設や介護施設を対象とした需要調査を行うとともに、高齢者食への利用の可能
性を検討した。
2. 検討内容
(1)雑豆素材の高齢者向け加工品への利用における調査
公益社団法人北海道栄養士会帯広支部の総会が開催され、総会に出席した管理栄養士・栄養士
を対象に雑豆に関する調査を行った。
1)回答者内訳および献立状況
回答者の約 4 割は病院・医療関係の施設に勤務、3 割が高齢者施設に勤務しており、それら施
設の献立状況について御回答頂いた。その結果、普段の献立・調理では、
「食事全体の栄養バラン
スを考慮している」との回答が殆どの回答者から得られた。また、回答者の約半数が「安心安全
な素材を選ぶ」
「野菜を多く使う」ことを心がけており、その他の回答の中では「地場産の食材を
多く取り入れるよう工夫している」とあったことから、栄養価だけでなく素材の品質にも考慮し
つつ献立・調理を行う傾向があった。一方、
「調理時間の短縮」や「原料価格を低く抑える」こと
を重視する回答者は比較的少なく、施設によっては価格や手軽さよりも栄養・品質の確保を最優
先にしていると考えられる。
2)雑豆の施設等における利用状況
雑豆について使用頻度を訪ねたところ、
「ほぼ毎週使う」が 29%、
「月に 1,2 回位使う」が半数
近くの 47%であった(図1)
。これは、高齢者は和菓子を好む(聞き取り調査より)ことから、お
やつとして雑豆加工品を提供しているからと考えられる。また、使った形態としては「乾燥豆」
が最も多く、次いで味を調節し易い「水煮」
、
「餡(缶詰等)
」と続いていた。これは、以前に行っ
た一般消費者対象のアンケート調査とは全く異なる結果であり、施設従事者が手間を掛けて調理
する体制が整っていることが伺える。一方、使用頻度が低い領域では「豆のメニューが限られる」
との意見が目立ち、今後のメニュー提案などで雑豆需要が高まる可能性が示唆された。
図1
【雑豆の使用頻度と使用形態】に関する回答
3)雑豆の利用意向
利用したい雑豆の形態(水煮、餡、ペースト、粉末)について御回答頂いた。水煮については
「思う」
「少し思う」を合わせて 84%、餡では 74%と利用意向が高かった。これは、水煮や餡につ
いては既に利用している施設があったためと考えられる。一方、ペースト素材では「思う」
「少し
思う」を合わせて 62%、粉末素材では 48%と割合が低くなり、「どちらとも言えない」の割合が増
加した。これは、ペースト素材および粉末素材の使い方について予測できず、判断がつかなかっ
たためと考えられる。この結果から、ペースト素材や粉末素材の提供を行う場合は、使用例の提
案を積極的に行う必要があると考えられた。
4)栄養価における認知度と魅力および興味のある取り組み
雑豆の栄養価に関する特長を設問し、認知度を伺ったところ、
「知らなかった」という回答は全
体的に低かったが、
「煮ることで餡粒子が形成され、食物繊維様の働きをする」という設問のみ、
約半数が「知らなかった」と回答した。また、特に魅力に思う栄養価については、各設問全てに
対して半数以上が魅力と感じており、特にミネラルやポリフェノールに関しては 6 割以上の回答
者が魅力を感じていると答えた。また、雑豆に関する取り組みについては、レシピや試食イベン
ト、料理教室、機能性成分についての講習会などに興味があるという回答が多かった。これらを
踏まえ、レシピ紹介や試食を交えながら栄養成分等の講習会を開催するなど、今後の効果的な取
り組みが必要と考えられた。
(2)配合検討の技術指導に関わる小豆素材の加工特性・成分の解析
1)小豆素材の粒度、膨潤度の比較
小豆は煮熟する工程で餡粒子が形成され、ざらつきの原因となる。今回使用した小豆パウダー
および小豆ペーストは、餡粒子を酵素処理で崩壊させ、減圧乾燥によって風味を出来るだけ残し
て調整されている。小豆パウダー及びペースト素材の粒度分布測定結果では、さらし餡の平均粒
子径が112μmであるのと比較して90μm前後であり、比較的粒度が小さいものを多く含んでいる
(図2)。そのため、さらし餡よりもざらつきを感じにくい素材であると考えられる。また、各
素材の冷水又は温水に対する膨潤度を測定したところ、小豆パウダーは冷水で2倍、温水で約3.5
倍に膨張することが判った(図3)。一方、小豆ペーストは水分を含んでいることから、それ以
上の膨張は殆ど見られなかった。吸水率が高い素材は加工に用いた場合、他の素材の水分を極端
に吸う可能性があることから、配合中の水分調整が必要と考えられる。
平均粒子径 112μm
平均粒子径 86μm
さらし餡(200 倍)
小豆パウダー(200 倍)
さらし餡(1000 倍)
図2
小豆パウダー(1000 倍)
さらし餡および小豆パウダーの平均粒子径及び電子顕微鏡写真
図3 さらし餡および小豆パウダーの膨潤度
2)小豆素材の成分比較
小豆パウダーおよび小豆ペーストの成分を乾燥豆、さらし餡と比較した(表1)。
表1 小豆素材と乾豆、さらし餡の成分比較
(g/100g)
炭水化物
食物繊維
不溶性
水溶性
総量
エネルギー
※
(kcal)
水分
タンパク質
脂質
灰分
小豆パウダー
335
5.2
28.3
1.4
2.7
42.4
18.9
1.1
20.0
小豆ペースト
131
62.8
11.1
0.5
1.1
16.6
7.4
0.4
7.8
小豆乾豆
300
15.5
20.3
2.2
3.3
40.9
16.6
1.2
17.8
小豆さらし餡
326
5.0
26.2
1.0
1.0
39.2
26.6
1.0
27.6
糖質
※エネルギーは炭水化物と食物繊維を分けて計算
※乾豆及びさらし餡栄養成分値は五訂食品分析表から抜粋
(mg/100g)
ナトリウム カリウム カルシウム マグネシウム
リン
鉄
亜鉛
銅
マンガン
小豆パウダー
1
806
67
75
240
6.8
2.0
0.64
1.03
小豆ペースト
0.5
316
26
29
94
2.7
0.8
0.25
0.40
小豆乾豆
1
1500
75
120
350
5.4
2.3
0.67
-
小豆さらし餡
11
180
60
85
220
7.4
2.4
0.41
-
※乾豆及びさらし餡栄養成分値は五訂食品分析表から抜粋
その結果、これらの素材は水さらし等の処理工程が無いことから、乾豆の成分を残したまま、
調整されていることが判った。食物繊維については、特にミネラルのうち、血圧調整に関わるカ
リウムは小豆パウダーで約800mg/100g、小豆ペーストで約300mg/100gであり、さらし餡が
180mg/100gであるのと比較しても多く含まれていた。このことから、小豆素材を食品に配合する
ことで、食物繊維やたんぱく質、カリウムなどの成分を補強できると考えられる。
3)小豆素材の微生物検査
小豆パウダーおよび小豆ペーストについて微生物検査を行った。表2に6月製のロットにおけ
る検査結果を示す。各素材は製造工程で加熱処理を行っていることから菌数は少なく、他のロッ
トについても菌数が多くなることはなかった。そのため、小豆素材は粉末飲料のような加熱せず
に摂取する食品への配合も可能である。
表2 小豆素材の微生物検査結果
一般生菌数
大腸菌群
真菌数
黄色ブドウ球菌
小豆粉末6/6製
1.7×103/g
陰性/0.2g
100以下/g
陰性/0.02g
小豆ペースト6/10製
300以下/g
陰性/0.2g
100以下/g
陰性/0.02g
4)小豆素材入り食パンの試作
展示会等でのバイヤーを対象とした小豆素材の調査では、小豆素材をパンに利用したいとの意
見が多く聞かれたため、小豆素材配合食パンの試作を行った(表3)。まず、小豆パウダーを対
小麦粉で10%および20%で配合し、他の副材料と試作条件が全て同じ場合について比較した。10%
配合した場合では、配合しない場合とほぼ同程度に生地の立ち上がりが良く、内相がもちもちと
したタイプの食パンとなった。パンの内相を一部切り出し、テクスチャーアナライザーで固さを
測定したところ、全粒粉パンと同程度の固さだった(図4)。また、20%配合では殆ど膨らまず、
プンパニッケル(ドイツのライ麦全粒粉のパン)のような形態であり、噛みごたえのあるパンと
なった。これは小豆パウダーが配合中の水分を吸収したため、小麦粉に水分が供給されにくくな
り、グルテン形成が抑えられたためと考えられる。配合中の水分を増量し、練時間を延長すると
ともに、発酵時間を長めにして生地の膨らみに変化があるかを検討した結果、20%の配合でも改善
が見られた。さらに、小豆ペーストを固形分として20%になるように配合すると、通常の食パンと
同様の出来上がりとなった。これらの結果から、食パンなどの生地が膨らむ発酵製品の場合、小
豆素材の配合や発酵条件を検討すれば、作りたい食感のパンを調整できる可能性がある。
表3
小豆素材入り食パンの試作
Didsku
図4 テクスチャーアナライザーと食パンの内相の固さ比較
Didsku
5)提供レシピの試作試験
素材提供施設から提案されたレシピに基づく試作試験を行い、配合等を検討した。
まず、小豆パウダー入りマフィンを試作した(表4)。小豆パウダーは薄力粉に対して0、10%、
15%配合し、さらし餡を10%配合したものと比較した。提案レシピでは小豆パウダーを配合した生
地において充填時の作業性が悪くなったため、副素材である卵を増量したところ、作業性及び焼
き上げ時の生地の固さが改善された。焼き上がりの固さをテクスチャーアナライザーで比較した
ところ、修正レシピでは小豆素材を入れないものと同等の固さとなった(表5)。同様に、提案
レシピの蒸しパンや白玉団子について、薄力粉や白玉粉に対して20、50%配合して試作したが、
いずれもさらし餡や小豆パウダーを配合すると食物繊維が増加する反面、配合量を増やすに従っ
て固さがでることから、パウダーを使用する場合は加水量を考慮した配合にする必要がある(図
5、6)。一方、さらし餡との比較では、小豆パウダーを用いた方が小豆の風味が出ており、小
豆パウダーを配合することで小豆の風味を強化できると考えられる。
表4
小豆素材入りマフィンの試作(レシピ修正)
表5
添加なし
Force(g)
(n=5)
253
マフィンテクスチャー測定結果
さらし餡
10%
1258
小豆パウダー
10%
1278
15%
1626
10%
(卵増量)
288
添加なし
図5
さらし餡 20%
小豆パウダー50%
小豆素材入り白玉団子の試作とテクスチャー、食物繊維比較
添加なし
図6
小豆パウダー20%
さらし餡 20%
小豆パウダー20%
小豆パウダー50%
小豆素材入り蒸しパンの試作とテクスチャー、食物繊維比較
6)試作品微生物検査
小豆パウダー入り試作品について微生物検査を行った(表6)。いずれも加熱工程を経ている
こともあり、菌数は少なく、試食提供できる加工品であることを確認した。
表6
試作品微生物検査結果
一般生菌数
大腸菌群
真菌数
黄色ブドウ球菌
小豆パウダー入り
マフィン
300以下/g
陰性/0.2g
100以下/g
陰性/0.02g
小豆パウダー入り
白玉団子
300以下/g
陰性/0.2g
100以下/g
陰性/0.02g
小豆パウダー入り
蒸しパン
300以下/g
陰性/0.2g
100以下/g
陰性/0.02g
(3)小豆素材の実用化可能性検討
医療法人博愛会介護老人保健施設あかしや様、帯広大谷短大様(生活科学科栄養士課程)、株
式会社しんかーず様(配食サービス企業)、十勝菓子工房菓音様、栄養士坂本様に、小豆素材を
使用したレシピを考案して頂いた。また、イベント等で小豆パウダーを配布し、医療法人十勝勤
労者医療協会老人保健施設ケアセンター白樺様、公益財団法人北海道医療団音更病院様からもレ
シピを頂き、合計54品のレシピを御提案頂いた。レシピ名・写真・解説をまとめ、一部を抜粋し
て示した(図7~11)。
料理名
料理写真
料理名
解説
料理写真
解説
・いもに小豆ペーストを混合
・半分は南瓜を混合
・色合いが良い
フレンチ
トーストピザ
( 小豆のピザ
ソース)
・ ピザソースに小豆パウダー使用
・パンへの水分移行を防止
(ペーストが水分を吸うため)
いとこ
天ぷら
・衣に小豆パウダーを使用
・つけ塩にも小豆パウダー使用
・いとこ煮をイメージ
カレーライス
・ルウに小豆パウダーを使用
・カレーがまろやかに仕上がる
いちご
大福
・餅部分に小豆パウダーを使用
・小豆餅と白餡で色味が映える
・白い豆パウダーがあれば良い
小豆入り
たらの
すり身揚げ
・小豆パウダーをつなぎに使用
・パウダー分の水分増量
小豆の
コロッケ
(他 10 品)
図7
(他 2 品)
あかしや様提案メニュー
図8
料理名
大谷短大様提案メニュー
料理写真
解説
揚げピザ
・チーズに小豆パウダーを添加
・チーズの溶け出しを防止
・チーズの酸味がまろやかに
感じる
小豆
ドレッシング
・小豆パウダーを使用
・少量でピンク系の色調が出る
・マヨネーズの酸味がまろやか
に感じる
(他 6 品)
図9
坂本様提案メニュー
料理名
(他 3 品)
図10
料理写真
しんかーず様提案メニュー
解説
小豆
メレンゲ
・小豆パウダーを約30%配合
・口溶けが良い
小豆
ショート
ブレッド
・小豆パウダー使用
・和風ショートブレッド
・小豆の風味がほんのり残る
図11
菓音様提案メニュー
(他 3 品)
あかしや様からは、じゃがいもに小豆ペースト及びカボチャを混合して2色に仕上げたコロッ
ケや、餅に小豆ペーストを加えた苺大福など、小豆の色を生かしたレシピが提案され(図7)、
施設では見た目で食事を楽しむことも重要と考えられた。帯広大谷短大様からは吸水力のある小
豆パウダーの性質を利用したレシピが提案され、ピザソースに小豆パウダーを配合してパンへの
水分移行を防止したり、カレーのルウに小豆パウダーを用い、ルウの形成を容易にするなどの効
果があった(図8)。栄養士坂本様レシピでは、肉味噌等のひき肉を煮込む料理に小豆ペースト
を加えることで固形分が増加し、煮込み時間が短縮できる効果があった(図9)。しんかーず様
レシピでは、クリームチーズやマヨネーズの酸味が低減される効果が見られ(図10)、菓音様
レシピからは洋菓子に和テイストを加えたレシピが提案された(図11)。
小豆素材を使用した場合の効果を図12にまとめた。小豆素材は、①食物繊維含量が多いこと
から食品に配合することで食物繊維を強化できる②つけ塩やマヨネーズ、生クリーム、洋風の菓
子などに加えることで和風の風味を付与することができる③コロッケや餅などに小豆の色調を加
えられる、といった付与効果の他、④ひき肉料理などでは煮込み時間を短縮することができ、カ
レールウ・ピザソースなどの水分および濃度の調整ができる⑤つみれやコロッケなどのつなぎを
補強するなどの効果が得られることがわかった。また、試作したものの官能評価では、クリーム
チーズやマヨネーズ等の酸味が抑えられたり、カレールウや肉味噌などの油脂のべたつき感をマ
スキングし、まろやかさが付与されている傾向があった。
小豆ペースト
小豆パウダー
食物繊維付与
ポタージュ
ドレッシング、おやき、
大福、餅、団子、蒸しパン、
カップケーキ、メレンゲ、
ショートブレッド
イースト発酵パン、
ポタージュ、ムース
風味付与
天ぷら衣、つけ塩、大福、餅、
団子、ドレッシング、ケーキ
生クリーム、ピザソース、
メレンゲ、ショートブレッド
コロッケ、
ムース
色調付与
天ぷら衣、つみれ、麺、
すり身揚げ、大福、餅、
団子、蒸しパン
水分・濃度調整
ピザソース、カレールー
ミートソース、
肉味噌、ムース
コロッケ、餃子の具、
とうふナゲット
図12
結着補強
すり身揚げ、つみれ
小豆素材の効果と用途例
4.まとめ
本調査研究は、雑豆のペースト及び粉末素材の高齢者向け食品への利用調査を推進する
ことにより、雑豆素材の新規分野への用途拡大を達成しようとするものである。 今年度
は、栄養士と共同で高齢者食への雑豆素材の配合を検討し、風味や色調、食物繊維を付
与できる他、水分や濃度の調整、つなぎの補強効果があることが判った。試作を依頼し
た施設からは、普段の雑豆調理の際の手間と時間が削減できる素材は使い勝手がよく、
さらに地場産品素材であること、栄養バランスがいいことを考慮すると、多少コスト高
でも魅力のある素材として評価が高かった。
これらの結果から、雑豆素材は用途に合わせて使用できる 新規素材であり、雑豆の高付
加価値化に繋がる食材として、経済波及効果が期待できた。今後も雑豆素材の用途を十分に示
すことができれば、他の雑豆加工業者や その他素材製造メーカーに技術移転することも
可能であることから、雑豆の新たな需要の確保と生産量の向上に役立つと考えられる。