夏期山岳遭難事故発生状況

平成 26 年 12 月
夏期山岳遭難事故発生状況
(平成 26 年7月~8月)
静
地
岡
域
県
部
警
察
地
本
域
部
課
1 概況
平成 26 年夏期(7~8月)の山岳遭難事故は、発生件数 65 件、事故者 71 人(死亡1
人、重傷 14 人、軽傷 13 人、無事救出 43 人)で、昨年まで4年連続で過去最高を更新し
ていたが、5年ぶりに前年を下回った。(表1参照)
区分 発生件数 死 亡 行方不明 負 傷 無事救出 遭難者計
年別
重傷 軽傷
平成26年 65件 1人
14人 13人 43人 71人
平成25年 94件 3人 1人 11人 24人 57人 96人
増 減 -29件 -2人 -1人 3人 -11人 -14人 -25人
2 今夏の山岳遭難事故の特徴
平成 26 年夏期に発生した山岳遭難事故の特徴は、次のとおりである。
○ 発生件数は 65 件で、昨年を大きく下回ったが、天候不順が影響したものと思われる。
○ 山系別では、全体の 78%に当たる 51 件が富士山において発生したほか、昨年 25 件
発生した低山域での発生が1件のみであった。(表2参照)
○ 目的別では、富士山への観光登山が 50 件で最多であった。
※ 観光登山とは、必須装備品の欠如や体力不足等高山に登る準備が出来ていない者を
一般的な登山と区別する意味で分類。(表3参照)
○ 態様別では、転倒が 23 件(35%)と最も多い。また、次に多いのは発病の 21 件で
高山病の他、低体温症などが多い。この多くは、急激な気圧変化や気温の低下、弾丸登
山等が原因によるもので、21 件中 20 件が富士山での発生であった。(表4参照)
※ 弾丸登山とは、山小屋へ宿泊することなく、夜間に五合目を登り始め、日の出を
山頂で迎える0泊2日の登山形態をいう。
○ 期間別では、昨年は週間ごとの発生で 10 件を越えた週が6週続いたが、今年は3週
のみで分散した。今年は例年に比べ雪解けが遅く、富士山の頂上までの開山が遅れた上、
その後天候不順が続き、登山者が減少したことも要因のひとつと思われる。(表5参照)
○ 曜日別では、日曜日が 15 件(23%)で最も多く、次いで土曜日 14 件(22%)、月曜
日 12 件(18%)と週末を含む3日間で 63%を占めている。(表6参照)
○ パーティー(人員)別では、死者を含む 15 件が単独登山によるものだった。(表7参
照)
○ 男女別では、男性の事故者が 47 人(66%)を占めている。(表8参照)
○ 警察署別では、富士山を管轄する富士宮警察署管内で 37 件、御殿場警察署管内で 14
件、南アルプスを管轄する静岡中央警察署管内で 12 件、その他で2件が発生し、山岳
遭難救助隊員等が救助に当たった。(表9参照)
○ 年齢別では、南アルプスやその他の山で、全国同様 40 歳以上の中高年登山者が多数
を占めたが、富士山における中高年登山者の割合は 55%(30 人)と全国平均 74%を大
きく下回っている。また、富士登山の特徴として家族や職場等のグループによる観光登
山が多く、事故者も 10 歳未満から 70 代までほぼ各年齢層にわたっている。(表 10 参
照)
○ 居住地別では、全事故者のうち 82%に当たる 58 人が県外居住者・外国人であり、県
内居住者は 13 人(18%)であった。特に全国各地から登山者が訪れる富士山では、天
候が悪化した場合や体調不良を感じた場合でも、無理に登山を継続して遭難するケース
が見られた。(表 11 参照)
表 1 過去 10 年間の発生状況
区分 発生 死亡 行方 負 傷 無事
件数
不明 重傷 軽傷 救出
月別
平 成 17 年 14件 3人
1人 9人 7人
平 成 18 年 18件
1人 16人 7人
平 成 19 年 21件
2人 13人 10人
平 成 20 年 42件 3人
8人 15人 22人
平 成 21 年 41件 5人 1人 2人 18人 22人
平 成 22 年 48件 1人
3人 15人 36人
平 成 23 年 49件 4人 2人 5人 16人 24人
平 成 24 年 49件 1人
3人 18人 47人
平 成 25 年 94件 3人 1人 11人 24人 57人
平 成 26 年 65件 1人
14人 13人 43人
天候不順の影響からか、登山者の減少とともに発生件数も大幅に減少した。
表2 山系別発生状況
区分 発生 死亡 負 傷 無事
件数
山系別
重傷 軽傷 救出
計
65件 1人 14人 13人 43人
6人 9人 21人
富 富須士走宮口口 36件
4件
1人 1人 2人
士 御 殿 場 口 7件
1人 7人
1人 6人
山 そ の 他 4件
計
51件
7人 12人 36人
南 ア ル プ ス 13件 1人 7人 1人 4人
そ の 他 1件
3人
全体の 78%に当たる 51 件が富士山で発生。
富士山の登山口別の事故傾向
富 士 宮 口 発病 15 件(8)、転倒 13 件、疲労 5 件、その他 3 件
須 走 口 発病 1 件(1)、転倒 2 件、道迷い 1 件
御 殿 場 口 発病 4 件(1)、転倒 1 件、疲労 1 件、その他 1 件
そ の 他 道迷い 2 件、転倒 1 件、疲労 1 件
その他は、上記3登山道以外での発生。( )は高山病で内数。
五合目以上の標高が高い地点ほど、高山病による事故者が多い。
表3 目的別
区分 発生 死亡 負 傷 無事 山 系 別 発 生 件 数
件数
月別
重傷 軽傷 救出 富士山 南アルプス その他
計
65件 1人 14人 13人 43人 51件 13件 1件
登 山 13件 1人 7人 1人 4人
13件
観 光 登 山 50件
7人 12人 35人 50件
ハイキング 1件
3人
1件
業 務 1件
1人 1件
富士山での事故者は、いずれも必須装備の欠如や体力不足、高山に関する知識不足
など 3,000m峰を登山する準備や心構えが出来ていない者が多く、一般的な登山と区別
する意味で「観光登山」としている。
表4 態様別発生状況
区分 発生 死亡 負 傷 無事 山 系 別 発 生 件 数
件数
態様別
重傷 軽傷 救出 富士山 南アルプス その他
計
65件 1人 14人 13人 43人 51件 13件 1件
つ ま ず き 7件
4人 3人
4件 3件
転 ス リ ッ プ 8件
5人 3人
6件 2件
2人 5人 1人 7件 1件
倒 バランス崩し 8件
小 計 23件
11人 11人 1人 17件 6件
高 山 病 11件
11人 10件 1件
4人 4件
発 低 体 温 症 4件
心 疾 患 1件
1人 1件
病 そ の 他 5件
5人 5件
小 計 21件
21人 20件 1件
5件
7人 4件 1件
疲 体関力節不痛足 3件
1人
2人 3件
労 小 計 8件
1人
9人 7件 1件
7人 2件 3件 1件
道 地理不案内 6件 1人
迷 そ の 他 3件
5人 3件
い 小 計 9件 1人
12人 5件 3件 1件
転 ・ 滑 落 3件
2人 1人
1件 2件
落 石
1件
1人
1件
昨年は、事故総数 94 件のうち 45 件(48%)が発病によるものであったが、今年は
総数 65 件中の 21 件(32%)と大幅に減少した。これは富士山での山岳遭難救助隊の
常駐拠点を山頂から九合目に下げ、体調不良者や軽装登山者の登山指導を徹底したこ
とが要因のひとつと考えられる。
また、転倒により 11 人が骨折等の重傷を負ったが、6人が富士山、5人が南アル
プスでの発生であった。
今年は天候不順の影響からか、昨年1件だった低体温症が、4件と大幅に増加し
た。(いずれも富士山)
表5 期間別発生状況
区分 発生 死亡 負 傷 無事 山 系 別 発 生 件 数
月別
件数
重傷 軽傷 救出 富士山 南アルプス その他
計
65件 1人 14人 13人 43人 51件 13件 1件
7 月 26件
7人 6人 19人 18件 7件 1件
8 月 39件 1人 7人 7人 24人 33件 6件
区分 発生 死亡 負 傷 無事 山 系 別 発 生 件 数
月別
件数
重傷 軽傷 救出 富士山 南アルプス その他
計
65件 1人 14人 13人 43人 51件 13件 1件
7/1 ~ 7/6 1件
1人 1件
7/7 ~ 7/13 1件
1人
1件
7/14 ~ 7/20 6件
3人 2人 3人 5件 1件
7/21 ~ 7/27 16件
4人 3人 12人 9件 6件 1件
7/28 ~ 8/3 6件
2人 2人 3人 6件
8/4 ~ 8/10 12件
3人 3人 6人 8件 4件
8/11 ~ 8/17 4件
1人
3人 3件 1件
8/18 ~ 8/24 8件 1人 1人 1人 5人 7件 1件
8/25 ~ 8/31 11件
1人 10人 11件
例年登山者が増加し、遭難が多発する8月のお盆期に天候不順が続き、登山者の減少
とともに遭難事故も減少した。
表6 曜日別発生状況
土
22% 土
日
17%
18%
金
5% 内:平成25
平成25年
25年
金
8% 木4% 外:平成26
平成26年
26年
木
6%
水 火
6%
15%
水
火
12%
11%
日
23%
月
24% 月
18%
曜日別発生状況
25年 26年
日 17件 15件
月 22件 12件
火 6件 7件
水 14件 8件
木 14件 4件
金 5件 5件
土 16件 14件
計 94件 65件
昨年よりもさらに多く登山者が週末に集中する傾向が見られた。
表7 パーティー別発生状況
区分 発生 死亡 負 傷
件数
態様別
重傷 軽傷
計
65件 1人 14人 13人
単 独
15件 1人
2人
2 人
11件
4人 2人
3 人
8件
3人 2人
4 ~ 9人 14件
1人 4人
10人以上 17件
6人 3人
単独登山が、死亡等の重大事故に至る割合が高い。
無事 山 系 別 発 生 件 数
救出 富士山 南アルプス その他
43人 51件 13件 1件
12人 11件 4件
7人 9件 2件
5人 5件 2件 1件
11人 13件 1件
8人 13件 4件
表8 男女別発生状況
区分 り災 死亡 負 傷 無事 山 系 別 り 災 人 員
人員
態様別
重傷 軽傷 救出 富士山 南アルプス その他
計
71人 1人 14人 13人 43人 55人 13人 3人
男 性
47人 1人 7人 9人 30人 39人 7人 1人
女 性
24人
7人 4人 13人 16人 6人 2人
事故者に占める女性の割合が 34%と前年に比べ4ポイント減少したものの、依然高
い水準を示している。特に南アルプスでは、事故者に占める女性の割合が、昨年の 10%
から 46%へと増加している。
表9 警察署別発生状況
年別 平 成 26 年 平 成 25 年 前 年 対 比
発 死 負 救 発 死 負 救 発 死 負 救
状 生
亡 傷 助 生 亡 傷 助 生 亡 傷 助
態
署別 別 (件) (人) (人) (人) (件) (人) (人) (人) (件) (人) (人) (人)
合 計 65 1 27 43 94 4 35 57 -29 -3 -8 -14
下田
大仁
三島
伊東
熱海 1
3
1
3
沼津
裾野
2
2
御 殿 場 14
3 15 33 2 12 20 -19 -2 -9 -5
富士
富 士 宮 37
16 21 48 1 17 31 -11 -1 -1 -10
清水
静岡中央 12 1 8 3 11 1 4 6 1
4 -3
静岡南
藤枝
焼津
島田 1
1
1
1
牧之原
菊川
掛川
森
磐田
天竜
浜松中央
浜松東
浜北
新居
細江
※ 行方不明は死亡に含む。
富士山を管轄する御殿場及び富士宮の2署で全体の 78%(51 件)を占めている。
表 10 年齢層別発生状況
区分 り災 死亡 負 傷 無事 山 系 別 り 災 人 員
人員
態様別
重傷 軽傷 救出 富士山 南アルプス その他
計
71人 1人 14人 13人 43人 55人 13人 3人
中高年者 43人 1人 14人 7人 21人 30人 11人 2人
1 0 歳 未 満 3人
3人 3人
1 0 歳 ~ 1 4歳 1人
1人 1人
1 5 歳 ~ 1 9歳 4人
4人 2人 1人 1人
2 0 歳 ~ 2 4歳 7人
2人 5人 7人
2 5 歳 ~ 2 9歳 4人
4人 4人
3 0 歳 ~ 3 4歳 3人
2人 1人 2人 1人
3 5 歳 ~ 3 9歳 6人
2人 4人 6人
4 0 歳 ~ 4 4歳 5人
1人 1人 3人 4人 1人
4 5 歳 ~ 4 9歳 7人
3人 1人 3人 4人 1人 2人
5 0 歳 ~ 5 4歳 3人
1人
2人 2人 1人
5 5 歳 ~ 5 9歳 4人 1人 3人
1人 3人
6 0 歳 ~ 6 4歳 6人
2人 2人 2人 5人 1人
6 5 歳 ~ 6 9歳 9人
1人 1人 7人 8人 1人
7 0 歳 ~ 7 4歳 5人
3人 1人 1人 3人 2人
7 5 歳 以 上 4人
1人 3人 3人 1人
※ 上下2段の上は総計、下は40歳以上の中高年
事故者のうち 40 歳以上の中高年者が占める割合は 61%(43 人)で、全国平均の 74%
を大きく下回っている。これは若年層事故者の多い富士山を含むためで、富士山を除け
ば、本県の中高年事故者割合も全国同様に高く、このことからも富士山が他の山岳と異
なる特徴を持つことが裏付けられている。
特に 15 歳未満の子どもの事故が 5.6%と全国平均の 3.4%を上回っている。
表 11 居住地別発生状況
区分 り災 死亡 負 傷 無事 山 系 別 り 災 人 員
人員
態様別
重傷 軽傷 救出 富士山 南アルプス その他
計
71人 1人 14人 13人 43人 55人 13人 3人
静 岡 県 13人
1人 12人 12人 1人
青 森 県 1人
1人 1人
宮 城 県 1人
1人
1人
東 京 都 12人 1人 3人 3人 5人 6人 3人 3人
神 奈 川 県 8人
3人 1人 4人 7人 1人
埼 玉 県 3人
1人 1人 1人 2人 1人
千 葉 県 4人
2人
2人 3人 1人
茨 城 県 1人
1人
1人
愛 知 県 5人
1人 4人 4人 1人
岐 阜 県 1人
1人
1人
三 重 県 1人
1人
1人
富 山 県 1人
1人 1人
大 阪 府 6人
1人 2人 3人 3人 3人
兵 庫 県 2人
1人
1人 1人 1人
愛 媛 県 2人
2人 2人
徳 島 県 1人
1人 1人
福 岡 県 1人
1人 1人
ア メ リ カ 1人
1人
1人
1人 1人
外 イ ギ リ ス 1人
ド イ ツ 1人
1人 1人
ブ ラ ジ ル 1人
1人
1人
国 シンガポール
1人
1人
1人
韓 国 1人
1人 1人
人 インドネシア
1人
1人 1人
タ イ 1人
1人 1人
※ 外国人は居住地でなく国籍とした
○ 事故者総数に占める県外居住者の割合は 81%と前年よりも2ポイント増加した。
○ 事故者総数に占める外国人の割合が 11%と前年よりも3ポイント増加した。
○ 天候不順に伴い登山者が減少した中で、外国人は8人で昨年と同数であった。