自然変換・関手圏

自然変換・関手圏
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2016 年 2 月 3 日
目次
1
自然変換の計算
1
2
関手圏
6
1 自然変換の計算
圏論で一番 (かどうかは分からないけど) 重要なのは自然変換である.圏論を学ぶには,
自然変換の様々な「計算」を行う必要がある.ここではまず,その「計算」について説明
する.
C, D を圏,F, G, H : C −→ D を関手とする.θ : F =⇒ G と η : G =⇒ H を自然変換
とする.
C
⇐ ⇐
F
θ
η
G
D
H
このとき,この自然変換 θ, η を合成して自然変換 η ◦ θ : F =⇒ H を得ることができる.
C
⇐=
F
η◦θ
H
1
D
その為には a ∈ C に対して (η ◦ θ)a := ηa ◦ θa と定義すればよい.この定義により η ◦ θ
が自然変換となることを示そう.その為には C の射 f : a −→ b に対して
(η◦θ)a
Fa
Ha
Ff
Hf
Fb
Hb
(η◦θ)b
が可換となることを示せばよい.定義より,この図式は次のように書き換えられる.
θa
Fa
Ga
Ff
ηa
Ha
Gf
Fb
θb
Gb
Hf
Hb
ηb
θ, η は自然変換だから,この小さい四角は可換となる.故に全体も可換となり,η ◦ θ が自
然変換であることが分かった.
この η ◦ θ を θ と η の垂直合成と呼ぶ.
さて次に A, B, C を圏,F, G : A −→ B と H : B −→ C を関手,θ : F =⇒ G を自然変
換とする.即ち次の図式の状況である.
A
⇐
F
θ
H
B
C
G
このとき H と θ を使って新しい自然変換 Hθ : HF =⇒ HG を定義することができる.
H
B
⇐
F
A
C
Hθ
G
B
H
その為には a ∈ A に対して (Hθ)a := H(θa ) と定義すればよい.ここで,θa : F a −→ Ga
2
だから (Hθ)a : HF a −→ HGa である.絵で描けば次のようになる.
G
A
H
B
C
F
a
f
Fa
θa
Ff
b
Ga
HF a
Gf
Fb
θb
H(θa )
HGa
HF f
Gb
HF b
HGf
H(θb )
HGb
この定義により Hθ が自然変換となることを示すためには,f : a −→ b に対して
HF a
(Hθ)a
HGa
HF f
HGf
HF b
(Hθ)b
HGb
が可換であることを示せばよいが,それは上の絵から明らかであろう.
今度は A, B, C を圏,F : A −→ B と G, H : B −→ C を関手,θ : G =⇒ H を自然変
換とする.即ち次の図式の状況である.
A
⇐
G
F
B
θ
C
H
このとき F と θ を使って新しい自然変換 θF : GF =⇒ HF を定義することができる.
G
B
⇐
F
A
C
θF
F
B
H
その為には a ∈ A に対して (θF )a := θF a と定義すればよい.絵で描けば次のように
3
なる.
H
A
B
F
C
G
a
Fa
f
Ff
b
θF a
GF a
GF f
Fb
HF a
HF f
GF b
θF b
HF b
この定義により θF が自然変換になることを示すためには,f : a −→ b に対して
GF a
(θF )a
HF a
GF f
HF f
GF b
(θF )b
HF b
が可換であることを示せばよいが,それは上の絵から明らかであろう.
これらを使うと,様々な自然変換を合成することができるようになる.
例. 次の θ : F2 =⇒ F1 F0 と η : F4 F1 =⇒ F3 を合成する.
θ
C0
=⇒
=⇒
F0
F3
C1
C3
η
F1
C2
F2
F4
まず θ と F4 から自然変換 F4 θ を得る.
C0
C3
⇒
F4 F1 F0
F4 θ
F4 F2
次に η と F0 から自然変換 ηF0 を得る.
⇒
F3 F0
ηF0
C0
F4 F1 F0
4
C3
これらを垂直合成して
F3 F0
⇒ ⇒
C3
ηF0
F4 θ
C0
F4 F2
自然変換 ηF0 ◦ F4 θ : F4 F2 =⇒ F3 F0 が得られた.
例. 次の自然変換 θ と η を合成する.
G0
⇐
A
⇐
F0
η
B
θ
F1
C
G1
まず θ と G1 から自然変換 G1 θ を得る.
G1 F0
⇐
A
C
G1 θ
G1 F1
次に η と F0 からて自然変換 ηF0 を得る.
⇐
G0 F0
ηF0
A
C
G1 F0
これにより,合成 G1 θ ◦ ηF0 : G0 F0 =⇒ G1 F1 を考えることができる.
⇐ ⇐
G0 F0
ηF0
A
G1 θ
G1 F1
この合成を θ と η の水平合成と呼ぶ.
5
C
この水平合成について,今は G1 θ ◦ ηF0 を考えたが,ηF1 ◦ G0 θ を考えることもできる.
⇐ ⇐
G0 F0
G0 θ
A
ηF1
C
G1 F1
実はこの二つの合成は一致する.即ち a ∈ A に対して (G1 θ ◦ηF0 )a = (ηF1 ◦G0 θ)a が成り
立つ.その為には G1 θa ◦ ηF0 a = ηF1 a ◦ G0 θa を示せばよいが,それは射 θa : F0 a −→ F1 a
について η : G0 =⇒ G1 の自然性から
F0 a
θa
F0 a
G0 F0 a
ηF0 a
G0 θa
G1 F0 a
G1 θa
G0 F1 a
ηF1 a
G1 F1 a
が可換となることにより従う.
2 関手圏
上で自然変換が合成できることを見た.合成できるという事は,関手を対象,自然変換
を射とすれば圏になるということである.実際,C, D を圏とするとき DC を
• Ob(DC ) を C から D への関手全体とする.
• F, G ∈ Ob(DC ) に対して,自然変換 F =⇒ G を F から G への射とする.
• 射の合成は垂直合成とする.
• F ∈ Ob(DC ) に対して,恒等射 idF : F =⇒ F を (idF )a := idF a で定める.この
idF を恒等変換と呼ぶ.
で定義すれば,D C は圏となる.
それを示すため,まずは結合律を示す.E, F, G, H : C −→ D を関手,θ : E =⇒ F ,
η : F =⇒ G,σ : G =⇒ H を自然変換とする.(σ ◦η)◦θ = σ ◦(η ◦θ) を示す.即ち,a ∈ C
に対して ((σ ◦η)◦θ)a = (σ ◦(η◦θ))a を示せばよい.定義から (σa ◦ηa )◦θa = σa ◦(ηa ◦θa )
を示せばよいが,これは D が圏だから成り立つ.
後は θ ◦ idE = θ と idF ◦ θ = θ を示せばよい.それには θa ◦ idEa = θa ,idF a ◦ θa = θa
を示せばよいが,これは D が圏だから成り立つ.
6
以上により DC は圏となる.これを関手圏と呼ぶ.
DC は圏だから,この圏において同型を考えることができる.
命題 1. 自然変換 θ : F =⇒ G が圏 D C の同型射 ⇐⇒ θ が自然同型
証明. (=⇒) θ : F =⇒ G が同型射であるとすると,同型射の定義より,ある自然変換
η : G =⇒ F が存在して η ◦ θ = idF ,θ ◦ η = idG となる.従って,任意の a ∈ C に対し
て ηa ◦ θa = idF a ,θa ◦ ηa = idGa が成り立つ.即ち,各 θa が同型射となるから θ は自
然同型である.
(⇐=) θ : F =⇒ G が自然同型であるとする.自然同型の定義より,各 a ∈ C に対
して θa : F a −→ Ga は圏 D の同型射である.故にある ηa : Ga −→ F a が存在して
ηa ◦ θa = idF a ,θa ◦ ηa = idGa となる.このとき η = {ηa }a∈C は自然変換である.
. .
. ) C の任意の射 f : a −→ b に対して次が可換であることを示せばよい.
Ga
ηa
Gf
Fa
Ff
Gb
ηb
Fb
そのために次の図式を考える.
Ga
ηa
id
Fa
id
Ga
θa
Gf
Fa
Ff
Gb
θb
id
Gb
Fb
id
ηb
Fb
上の四角と下の四角は,ηa ,ηb の定義より可換である.真ん中の四角は θ が自
然変換であることから可換である.よって一番外側の大きな四角も可換であり,
F f ◦ ηa = ηb ◦ Gf が分かった.
垂直合成の定義から明らかに η ◦ θ = idF ,θ ◦ η = idG だから θ は同型射である.
7
F : C −→ D を関手とする.このとき圏 M に対して F : Ob(C M ) −→ Ob(DM ) が
F (G) := F G で定義できる.
F
M
G
C
M
G
C
F
D
実はこれは関手となるのである.それには θ : G =⇒ H : M −→ C に対して F (θ) := F θ
で定義すればよい.
F
⇐
M
θ
C
M
H
F
C
⇐
G
G
D
Fθ
H
C
F
この F が関手になることを示そう.
まず θ : G =⇒ H ,η : H =⇒ K を自然変換として F (η ◦ θ) = F (η) ◦ F (θ) を示す.そ
の為には a ∈ C に対して (F (η ◦ θ))a = (F (η) ◦ F (θ))a を示せばよい.定義より
(F (η ◦ θ))a = F ((η ◦ θ)a ) = F (ηa ◦ θa ) = F (ηa ) ◦ F (θa )
(F (η) ◦ F (θ))a = (F (η))a ◦ (F (θ))a = F (ηa ) ◦ F (θa )
となるから成り立つ.
次に F (idG ) = idF G を示す.その為には a ∈ C に対して (F (idG ))a = (idF G )a を示
せばよい.定義より
(F (idG ))a = F ((idG )a ) = F (idGa ) = idF Ga
(idF G )a = idF Ga
となるから成り立つ.
以上により F : C M −→ DM は関手である.
同じようにして,圏 M に対して F −1 : Ob(M D ) −→ Ob(M C ) が F −1 (G) := GF で定
義できる.これも関手となる.それには θ : G =⇒ H : D −→ M に対して F −1 (θ) := θF
で定義すればよい.
F −1
F
θ
M
C
証明は先ほどと同じような感じなので省略する.
8
G
M
θF
F
H
D
⇐
D
⇐
G
D
H
例. 圏 C に対して C 0 = 1,C 1 = C である.
例. 圏 X を離散圏 {x, y} とするとき,圏 C に対して C X = C × C である.
例. 2 = {0 ≤ 1} だった.圏 C に対して関手 2 −→ C は,C の射と一対一に対応する.
つまり Ob(C 2 ) = Mor(C) とみなすことが出来る.C 2 を圏 C の arrow category と呼
ぶ.f : a −→ b,g : c −→ d を C の射とするとき,C 2 における f から g への射とは,射
の組 (h : a −→ c, k : b −→ d) であって
a
h
c
g
f
b
k
を可換にするものである.
9
d