ギリシャのユーロ圏 離脱(Grexit)に伴う 税務リスク

2015年7月1日
Japan tax alert
EY税理士法人
ギリシャのユーロ圏
離脱
(Grexit)
に伴う
税務リスク
EYグローバル・タックス・アラート・
ライブラリー
EYグローバル・タックス・アラートは、オン
ライン/pdfで以下のサイトから入手可能
です。
http://www.ey.com/GL/en/Services/Tax/
International-Tax/Tax-alert-library%23date
Grexitは、さまざまな観点で影響を及ぼす可能性があります。シェンゲン協定参加
国であるギリシャには、
ユーロ圏において実質国境はありませんが、
周辺諸国では
ユーロが機能し続けることが大きな要因となります。ギリシャがユーロ圏を離脱し
た場合、欧州連合からの離脱、離脱条約の締結、並びに新通貨の導入が必要とな
り、ギリシャの新通貨の価値は著しく下落することも予想されます。ユーロ圏離脱
(の可能性)は結果として、
さまざまな事業リスク
(為替リスクの上昇、ギリシャ国
内の企業との取引一般にもたらす悪影響等)
、
法的リスク
(契約の再交渉の必要性
等)
、
財務的リスク
(信用市場の逼迫、
資本規制等)
、
社会的リスク
(社会情勢の不安
定性等)
に加え、
下記のような税務リスクも引き起こすことが考えらます。
1. 新通貨移行に伴う為替差益に係る課税リスク
多くの企業がギリシャの銀行システムから預金を引き出す
事が想定されますが、
その大多数は中間配当や資本の払戻
しなどを通じて、ギリシャの子会社の財務諸表からオフバ
ランス化されていません。仮に新通貨が導入された場合、
税
務申告通貨は即座に新通貨に移行されることが想定されま
すが、新通貨の価値が下落すれば、海外のユーロ口座の資
産価値は上昇することとなり、
その結果として生じた利益に
ついては、
ギリシャにおいて通常課税の対象となります。
2. 関係会社間におけるキャッシュプールアレンジメントに対す
るリスク
同様のことがキャッシュプールアレンジメントのスイープ等
から生じる関係会社間の債権に対しても適用されます。つま
り、キャッシュプールアレンジメント上、ギリシャの新通貨と
の相殺ができない可能性があります。
3. 資産リスク
同様の原則は基本的には全ての資産に適用されるため、
ギリシャに所在する価値の高い資産の所有権変更の検討が
防御策の一つとして挙げられます。Grexitが起きた場合、
特
定の資産においては、ギリシャで商業的に販売が不可能に
なる可能性もあります。新通貨の導入後にかかる在庫を兄
弟会社に譲渡する際、
税務申告通貨で計算する場合は利益
を発生させることになりますが、
ユーロで計算する場合には
損失が生じる可能性が考えられます。ギリシャの企業の売上
を至急引き出すことが重要なのは言うまでもありませんが、
これらの手段について、
税務申告通貨の強制変更以外でギ
リシャの子会社が理由なく利益としてみなされる前に慎重
に検討すべきです。
4. 資本投資リスク
ギリシャの子会社における貸借対照表の借方側を見た場
合、外国のグループ会社にとって通貨変更はより重要な影
響があります。ギリシャの資本投資の損失については、
外国
の株主は自国でほとんど又は全く救済が受けられないと思
われます。一方、融資の場合には外国通貨の返済が元の通
貨で完全に行われない場合は通常救済が存在します。
した
がって、ギリシャの子会社の負債/資本の比率を再変更す
る必要があると同時に、
ギリシャに融資を提供している持株
会社やファイナンス会社の法的所在地を変更することも考
えられます。
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5. M&Aに関するリスク
M&Aに関与している場合、規定通貨(ユーロ)による偶発的
支払いや保証等、
株式売買契約書の特定の条項の影響を考
慮する必要があります。ユーロ圏からの離脱及び新通貨の
下落が起きた際、
かかる金額は通貨変更され、
新通貨と経済
環境によっては、
重要性は増すとも減るとも言えます。
6. VATリスク
付加価値税
(VAT・GST等)
の取扱いや検討すべき代替的戦
略も多数ありますが、
特にタイミングのミスマッチについて
は回避すべきであると考えられます。たとえば、顧客から支
払いを受ける前に税務当局に納付するVAT、
及び税務当局
から還付又は控除を受ける前に
(請求書に基づき)
サプライ
ヤーへ支払うVATにおけるタイミングのミスマッチは通貨
変更のリスクに晒されることになります。金額が大きい場合
は、
代替的戦略を検討する必要があります。
7. 現行の事業モデルに対するリスク
通常の事業環境では、
多くの企業が特定の税務効率を達成
する事業モデルを実施しています
(限定的なリスクを担う製
造会社・販売会社等)。EU通貨同盟からの離脱後も前提条
件の正当性に変更がないか慎重にレビューすることが肝要
です。
現時点の対応策
Grexitの可能性に備え、企業は標準的な資金管理の継続や契
約通貨のスイスフラン、
デンマーククローネ、米ドルへの変更、
又は契約通貨をユーロとする契約における代替の模索に加え、
ギリシャ
(国内企業)
との取引全てについて、Grexitによる潜在
的影響を慎重に検討する必要があります。
したがって、
今後さま
ざまなGrexitのシナリオを想定し、事業、法務、財務、税務に与
える影響に対し掘り下げる必要があると予想されます。
結論
政治的観点から見るとGrexitが確実に起こるとは限りません
が、Grexit実現の可能性が著しく上昇したことは否定できない
事実です。ギリシャで事業を行う企業におけるGrexit対策は、
税
務のみならずありとあらゆる分野に関係します。上記は、
Grexit
に係る主要検討事項のほんの一部をまとめたものに過ぎず、
さらなる課題が発生することも否定できません。また、各企
業の状況はそれぞれ異なり、詳細に及ぶ分析がもたらす利点
は、貴社固有の事実及び状況によるものと考えられます。EY
では、Grexitが貴社に及ぼす影響についてより詳細な検証を
提供することが可能ですので、弊社又は貴社の担当コンサル
タントまでお気軽にご連絡ください。詳細な検討を行うことによ
り、Grexit実現に向けた準備を万全に整え、あらゆる状況に対
する潜在的影響を把握しておくことが可能となります。
今後の動向につき、
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