医薬品マーケティングあれこれ 第17回:DTCの成功条件 DTCは、日本の製薬企業にとって比較的新しいマーケティング手段であり、今後の発 展が期待される。医療消費者に正しい疾患情報を提供し、重症化する前に受診すれば医療 費の削減に役立つことが期待できるし、製薬企業にとっても営業費用を削減できる可能性 がある。それでは、DTCを成功させるためにはどのような条件が必要であろうか。 日本におけるDTC研究の第一人者である古川隆氏によれば、まずDTCの全体像を正 しく捉えることが重要である。 DTCの目的 疾患の 疾患の 認知 認知 処方の 処方の 獲得 獲得 ●新しい疾患の認知向上 ●新しい疾患の認知向上 ●対象疾患の啓発 ●対象疾患の啓発 ●潜在患者の発掘 ●潜在患者の発掘 ●患者の受診促進 ●患者の受診促進 ●医師の疾患知識向上 ●医師の疾患知識向上 ●医師のDTC知識向上 ●医師のDTC知識向上 ●医師の当該製品の処方 ●医師の当該製品の処方 ●患者の組織化 ●患者の組織化 ●定期通院の確保 ●定期通院の確保 ●患者との長期リレーション ●患者との長期リレーション DTCマーケティング 【疾患啓発広告】 ●TV CM ●新聞・雑誌広告 ●交通広告 等 DTC DTC 広告 広告 DTC DTC PR PR コンプライ コンプライ アンス維持 アンス維持 【マスコミや消費者への情報発信】 ●パブリシティ ●疾患専用Webサイト ●市民公開講座・健康イベント 等 【消費者や医療従事者への直接的働き掛け】 ●メディカルコールセンター ●DTC−MR,医師向けスターターキット ●患者ロックイン 等 DTC DTC プロモーション プロモーション [出典]古川隆:DTCマーケテ ィングの動向と今後の展望、 日経広告研究所報228号(2006年8月-9月) まず、DTCの目的は①疾患の認知、②処方の獲得、③コンプライアンス維持、の3点 である。この目的を達成する手段としてのDTCマーケティングは、(1)DTC広告、(2)D TCPR、(3)DTCプロモーション、の3つがあり、DTC=DTC広告という考え方は DTCをあまりに狭く捉えており、結局は成功させることが困難である。 DTCを成功させるための最も重要な前提条件は、DTC向きの疾患を正しく選択する ことである。古川隆氏によれば(古川隆:DTC マーケティングの動向と今後の展望、日経 広告研究所報 228 号、2006 年 8 月-9 月)、DTCに適した疾患は次の通りである。まず、 必要条件のうち、疾患領域としては、 1 Copyright © 2008 MarkeTech Consulting. All rights reserved. ①潜在患者より顕在患者が明らかに多い ②医療消費者の知識レベルが低い疾患(または新しい定義の疾患) ③適切な治療がないと重篤化したり、または患者のQOLが著しく低下する ④治療のために長期間服薬する必要がある疾患 次に、製品特性は、次の通りである。 ⑤競合品よりも効果が高い製品 ⑥患者一人当りの薬剤費が比較的高い製品 さらに、必ずしも必要でないが導入が有効な条件のうち、疾患領域は次の通りである。 ①第三者に相談しにくい疾患 ②薬剤費負担や副作用で、治療開始に躊躇するような疾患 ③治療のために患者を取り巻く社会の理解が必要な疾患 有効条件に関する製品特性は、次の通りである。 ④類似薬効の中で最も先に発売される製品 ⑤既に発売されている製品の場合は、その市場のシェアの高い製品 上記の各条件を満たす具体的な疾患例を挙げよう(古川隆:前記論文)。必要条件からは、 糖尿病・高血圧症・高脂血症、緑内障、切迫性尿失禁、偏頭痛、慢性閉塞性肺疾患(CO PD)、爪白癬、骨粗しょう症が該当する。一方、必要条件+有効条件からは、うつ病、C 型肝炎、ED、肥満症、男性脱毛症が該当する。このように、最近日本で行われた、印象 的なDTCがいずれも慎重に対象疾患を選んだ結果であることが分かる。 実施段階でのDTCの成功条件として特に重要なのが、DTC開始前の医師への説明、 およびMRへの周知徹底および販促活動との統合である。医師に関しては、DTCにネガ ティブな場合もありうるので、事前に十分理解してもらえるよう説明を徹底する必要があ る。さらに、MRに対しても、ディテーリング活動に組み込めるよう、販促資料(医師向 けのほか消費者向けも)を準備し、事前教育することが重要である。成功したDTC事例 においてはこれらの事前準備も含めて、広告会社をパートナーに選び、全社的な体制の下 で展開が行われている。 (武藤 2 Copyright © 2008 MarkeTech Consulting. All rights reserved. 猛)
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