ケンタッキー州ニコラスビルに本社を 置く革新的企業、オルテックに迫る

Kentucky Living 誌 2015 年 9 月号
ケンタッキー州ニコラスビルに本社を
置く革新的企業、オルテックに迫る
ナチュラルな動物の健康・栄養関連製品メーカーとして
世界をけん引しながら、人間の健康改善も目指す。
著
James Nold Jr.
(Kentucky Living 誌 2015 年 9 月号)
オルテックが開催した 2015 年のカンファレンスは壮観だっ
た。Rupp Arena は光であふれ、歓声とドラマティックな音楽
で揺れた。68 か国からおよそ 3000 人もがそこに集ったとい
う。
そのカンファレンスには『REBELation』というタイトルがつ
けられていた。
『Revelation』という単語の表記の『v』を消し
て『b』を代わりに走り書きした、『rebel』の同義語であるそ
のタイトルコールがステージ背部のスクリーンに映し出され
た。
賑やかなイノベーションの雰囲気の中、プレゼンター達は、(窒素レベルを示し、花粉媒介生物を引き寄せ、
または光合成を適当に行うために)自らの色を変化させる植物の話や、タバコ工場で製造するワクチンの話、
有毒物質や汚染物質が近傍にある際にはハチを外へ出さない“賢い”ハチの巣箱の話や、穀物の生育のモ
ニタリングにドローンを使用する話など SF の未来さながらの話をした。
言っておくが、これらすべてのアイディアがオルテック独自の研究から生まれたものではない。しかし、
これらのアイディアはすべて、オルテックがこの年に一度のカンファレンスで紹介するトピックとして選
んだものだ。
も し、こ のイ ノベー ショ ンの空 気が 靴だと した ら、い った い誰の 足に ぴった りと くるの だろ う。
REBELation では醸造・蒸留、水産養殖、牛肉の未来、M&A などのあらゆるセッションが提供された。
いったいこの会社は何なのか?
簡単に言うと、この会社、オルテックはケンタッキー州に本社を置く、年商 15 億ドル以上の非上場企業で
ある。この年商のほとんどは動物用飼料に添加する栄養サプリメントの製造販売によるものだが、同社は
また、醸造・蒸留や作物学、その他の分野にも手を広げている。
オルテックは 128 か国で商品を展開、内 23 か国には生産拠点があり、世界で 4200 名以上の従業員を有す
る。ちなみに本社のあるケンタッキー州にいるのはそのうち 700 名である。
しかし、その製品は主に、他社の工場内で使用されているため、農家は必ずしも彼らの名前を知らない。
オルテックがほぼ唯一製造している消費者向け商品は、ケンタッキーエールを主力とするビールと、数種
のウイスキーだ。
2010 年、オルテックは同社の名を世界に認知させるような大きな活動を展開した。レキシントンで開催さ
れた、FEI 世界馬術選手権大会のタイトルスポンサーを務めたのである。
Kentucky Living 誌 2015 年 9 月号
酵母のような
『Yeasty(活気あふれる)』なスタート
「いったいぜんたいこの会社は何者か?」という質
問に対する別の答えはといえば、
「すべてが酵母に
帰する」ということである。
オルテックの創業者であり社長の T・ピアース・
ライオンズ博士は、アイルランド出身であり、
Jameson(ジェムソン)というアイリッシュウィス
キーで有名なアイルランドの蒸留酒メーカーの生
化学者として 1970 年代後半にケンタッキーへや
ってきた。バーボンウィスキー業界について知る
ために、(そして第二には、燃料用アルコール製造
を学ぶために)派遣されたのである。
ライオンズ博士と彼の家族は、レキシントンに来
てから 3 年以内にはイギリスの島へ戻る計画をし
ていた。しかし、彼はいつも起業家精神を持ち続
けていた。
「ほかの人の会社を作り上げることには
飽き飽きしていたのだ。
」と彼は言った。
そして 1 万ドルでオルテックを始めた。ライオン
ズ博士は農家にどんな問題を抱えているかを聞い
て回った。問題解決手法をとったのだ。ある農家
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の答えは家畜に見られる腹痛症状だった。腹痛はガスによって引き起こされるが、つまりは内臓内の過剰
な糖分によるものである。そして糖分こそがまさに酵母が分解するものだった。ライオンズ博士が全大学
生時代をささげ、かつ働き始めてからも専門としていた、その酵母である。
そのため、すべては酵母に帰すると言うのである。ライオンズ博士が生み出した製品、イーサックは同社
初の人気商品となった。
ケンタッキー大学農学部教授であるカール・ドーソン博士はこう言う。
「飼料添加物として生きた酵母を使
用するという概念を生み出すのに最も貢献したのは、他の会社でも、研究機関でもなく、オルテックだろ
う。
」1999 年にオルテックが世界中で行う研究を司るディレクターとなる前、ドーソン氏は牛の消化にお
ける微生物の働きについて研究していた。そして彼は今、同社のバイス・プレジデントであり、最高研究
責任者である。
オルテックの見識は、
『よりよい成績を引き出すために、現在動物に給与している栄養を変える必要はなく、
代わりに酵母を加え、栄養の消化効率を高める。そして、この目的に最も適した酵母の株種は見極め得る』
というものだったとドーソン氏は言う。(同氏は、イギリスにいてオルテックのコンサルタントを行ってい
たときに、2500 種もの株の異なる酵母を見たことを覚えていた。)
そして、ヒット商品は次々と生まれる。マイコソーブは酵母の細胞壁の一部で、動物体内のカビ毒を吸着
する。カビ毒とは、飼料内に含まれるカビの有害な代謝産物で、オルテックのバイス・プレジデントでラ
イフサイエンス部門の責任者、ローナン・パワー氏によれば、年間 30 億ドル相当の農作物をダメにしてし
まうそうだ。1993 年に初めて市場に登場したバイオモスは酵母由来の製品で、消化器官の健康に機能を発
揮する。パワー氏はこの製品を抗生物質不使用生産プログラムに取り入れることができると言う。
ケンタッキー大学農学部食環境科の学生であるナンシー・コックスはこう言う。
「抗生物質の農業における
使用がより非難の対象となるにつれ、オルテックがこのような、抗生物質の代替研究に早くから投資を行
ってきたことは、まるで未来を予知していたようであるし、非常に幸運である。
」
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“素早い”創設者が作った”素早い”会社
オルテックという会社を説明するほかの表現は、
ラルフ・ワルド・エマーソンによれば、
「一人の男
の後ろに伸びる影」である。
現在 71 歳のライオンズ博士は、エネルギッシュで
アイディアに満ち、今でも毎朝 3 マイルのジョギ
ングをする。パワー氏はこう言う。
「25 歳の若者が
彼と出張すると、帰ってくるころにはへとへとに
なるが、ライオンズ博士自身と言えばぴんぴんし
ている。」
ライオンズ博士が懇意にしているケンタッキー大
学の男子バスケットボールチームコーチ、ジョン・
カリパリ氏は、かつて、ライオンズ博士にこう言っ
たことがあった。
「ピアース、あなたのことは大好
きだが、長くは話せない。あなたが投げかけてくる
次々と湧き出るアイディアに頭痛がしてくるん
だ。
」と。
この会社は、ライオンズ博士と彼の妻ディアドリ、
そして二人の子供という家族で経営している、つ
まり株式上場していない。そのため、ライオンズ博
士のアイディアは非常に迅速に実現が可能であり、
また会社の方向性を驚くべきスピードで転換する
こともできる。ケンタッキー大学のコックス氏はこれを表すのに『nimble(素早い、迅速)』という語を選ん
だ。
ディアドリはこんな経験もしている。
「彼と飛行機に乗っていて、ある場所に向かっていた。その時彼にア
イディアが浮かんで、その途端、彼はパイロットに話しかけた。
」―そして飛行機はぐるりと向きを変えた。
ライオンズ博士は、オルテックが上場している大企業に勝っている点として、柔軟性を挙げる。
「数千人も
の株主からの問い合わせに答えることは、非常に大きな足かせになる。」と彼は言った。
ケンタッキー州経済開発副長官のエリック・ダニガン氏は、オルテックのような非上場企業はより柔軟性
を持つことができるばかりでなく、逆に安定性があると言う。
「不況が来た時に、彼らの第一のミッションは、損失を減らして、収益を再確保することではなく、まず
最初に考えるべきはいかにこの会社を守るか、いかに長期にわたって確実に事業を維持するか、というこ
とである。
」
非上場の利点は、ライオンズ博士の言葉を借りると「バカらしさ」であるという。または、別の言葉でいい
かえると、「バカになれる自由さ」である。「もしバカなことをしてしまって、そしてそれが間違いだった
なら、自分たち自身に説明すればよいだけのことである。そしてやり方を変えればいいのだ。
」とライオン
ズ博士は我々に言った。
≪了≫