Sn 基はんだにおける添加元素の合⾦化形態 KOKI COMPANY LIMITED Adachi-ku, Tokyo. JAPAN [email protected] 1. 緒⾔ 2003 年に公布された ROHS 指令により、電⼦機 器で⽤いられるはんだにおいて Pb フリーの要求 が⾼まった。2015 年現在、Pb フリーはんだは Sn-Ag-Cu 系はんだが標準となっているが、Ag 地 ⾦⾼騰による低 Ag はんだ合⾦やパワーデバイス 向け⾼信頼性 Pb フリーはんだ合⾦の要求が⾼ま っている。 Sn 基はんだに種々の元素を添加することで接合 強度や濡れ性、接合信頼性等の向上を狙った合⾦ 開発が盛んに⾏われている。しかしながら、Sn 基 合⾦は Sn-Pb はんだ使⽤期間が極めて⻑かったこ とから、産業⽤途でよく使⽤される Fe 基, Cu 基, Al して格⼦場に歪みを与え、原⼦のズレ(転位)の 移動を抑制し、合⾦の強化が向上する。このとき、 ⼀般に原⼦半径の差が⼤きいほど格⼦場の歪みが ⼤きくなり、強化効果は⼤きくなる。Sn 基はんだ に添加されることが多い Bi, In, Sb は添加量が少な い範囲では主に置換型固溶による合⾦形態になる。 ⼀⽅、(b)のように⺟相原⼦半径に対して添加元 素原⼦半径が著しく⼩さい場合、⺟相原⼦の格⼦ 間に侵⼊するように固溶する。この場合も(a)同様 に侵⼊原⼦が格⼦場の変形を抑制し、強化する。 ただし、Sn 基合⾦においては、この形態になる添 加元素は少なく、微量の⾮⾦属元素(P, B, C 等) が挙げられるが、はんだ合⾦での実⽤例は⽐較的 少ない。 基の合⾦に⽐べ、合⾦添加元素に関する情報(多 元系状態図や合⾦ミクロ組織等)が少ないのが現 状である。はんだを使⽤するユーザーにとって、 多岐にわたる Sn 基はんだ合⾦選定や使⽤条件に おけるはんだ合⾦組織の理解が困難になっている。 そこで、本稿は冶⾦学的な視点から合⾦形態を 理解したうえで、Sn 基はんだ合⾦でよく使⽤され (a)置換型 る添加元素の合⾦化形態について調査したデータ (b)侵⼊型 Fig.1 固溶体の模式図 をもとに解説する。 2. 合⾦の形態 2.2 析出物(⾦属間化合物) だの場合、Sn 相)に対して固溶体もしくは析出物 の格⼦場を形成するために、⺟相と界⾯を形成し ⼀般に、合⾦添加元素は⺟相となる⾦属(はん 析出物は⺟相⾦属の格⼦場に取り込まれず、別 (単体もしくは化合物相)として存在する。 て別の相として析出する。Sn 基合⾦において Ag 2.1 固溶体 合物(InterMetallic Compounds; IMC)を形成し、 固溶体とは、⺟相に添加元素が溶けこんでいる 状態の固体である。イメージとしては、純⽔に少 量の砂糖を溶かし込んだ砂糖⽔が、そのまま固体 状態になったようなものである(実際に砂糖⽔を 凍らせると⽔と砂糖が分離して凍るので、凍った 砂糖⽔では異なる)。砂糖⽔は砂糖分⼦が⽔分⼦と や Cu 等がはんだ中で Ag3Sn や Cu6Sn5 の⾦属間化 粒状、板状もしくは棒状等の析出物として⺟相に 分散する。⼀般的に、化合物相は原⼦間の結合が 強いことから強度が⾼く、融点も⾼い傾向を⽰す。 そのため、⺟相が溶融状態でも、IMC は溶湯中に すでに形成している場合がある。また、IMC は構 成原⼦の⾃由度が低いために脆性的な挙動を⽰す。 均⼀に分散しているので、全体的に⾒ると純⽔と 区別がつかない状態である。⾦属においては原⼦ 格⼦場レベルで混合体を形成しており、全体とし て⺟相の単⼀組織になる。固溶体は、主に Fig.1 に ⽰す(a)置換型、(b)侵⼊型の 2 種類が存在する。 Fig.1 (a)は、⺟相原⼦の半径に対し、同等もしく は半径差が⼩さい原⼦が添加された場合の固溶形 態であり、⺟相原⼦の⼀部が添加元素原⼦で置き 換わっている。⺟相原⼦のみで構成される格⼦場 に対して、置換原⼦の周囲に原⼦半径の差に起因 2.3. 合⾦状態図と合⾦化形態 Sn ⺟相と添加元素でどのような合⾦形態を取る かは、合⾦状態図を⾒ることで、ある程度理解す ることが出来る。例えば、Sn に Bi を添加する場合、 Fig.2(a)Sn-Bi ⼆元系状態図を⾒ると、Sn リッチ相 は広い固溶体域が存在する(図中左側のβSn 領域)。 このことから、Bi は Sn に⽐較的固溶しやすい元素 であることがわかる。⼀⽅、Bi リッチ側には固溶 Table.1 はんだ合⾦の組成 体域がほとんど無いため、Bi 中に Sn はほとんど固 溶しないことがわかる。 次に、Sn に Ag を添加する場合を考えてみる。 Fig.2(b)Ag-Sn ⼆元系状態図より、Sn リッチ側に ほとんど固溶体域をもっておらず、Sn25wt%付近 にε相(Ag3Sn 相)が⾒られる。これより、数 wt% 合⾦名 Sn Ag Cu Bi In Ni S1X※ Bal. 1.1 0.7 - - - S1XBIG Bal. 1.1 0.7 1.8 - <0.1 SB6N Bal. 3.5 - 0.5 6.0 程度 Ag を添加した場合の凝固組織は、ほぼ純 Sn ※S1X は XRD 評価のみ 相と Ag3Sn の共晶組織を形成する。Ag3Sn は、は んだのリフロー時の凝固速度においては Sn 中に 微⼩粒⼦となって共晶組織中に分散する。⼀般的 に IMC の析出形態は凝固条件や添加元素の⽐率、 他の添加元素の影響も受けるため、析出形態は多 岐にわたる。 - [wt%] 3.1.1 実装サンプルおよび元素マッピング OSP 処理したプリント基板上に各はんだ合⾦の ペーストをスクリーン印刷、6330 チップ抵抗を搭 載後、⼤気リフローにてはんだ付けする。はんだ フィレット部を基板垂直⽅向に切断、精研磨した 断⾯のミクロ組織を SEM 像観察および元素マッピ ングを⾏った。リフロープロファイルを Fig.3 に⽰ す。 250 温度/℃ 200 150 100 S1XBIG SB6N 50 (a) Sn-Bi 状態図 0 50 Fig.3 3.1.2 100 150 時間/sec 200 250 300 リフロープロファイル はんだ粉末 X 線回折 合⾦における固溶等による結晶場の歪みは原⼦ サイズのオーダーに対してもわずかな変化であり、 超⾼倍の顕微鏡等で格⼦の変化を⾒ることは極め て難しい。そこで、合⾦の結晶構造同定によく⽤ いられる⼿法である X 線回折を⽤い、固溶により 合⾦の格⼦がどのように変化しているか評価する。 Fig.4 に⽰すように、結晶性を有する格⼦場に同 (b) Ag-Sn 状態図 Fig. 2 ⼆元系状態図 1) 位相の X 線ビームを照射すると、⼀部が格⼦⾯内 の原⼦で反射する。ある⾓度θで照射した際、表⾯ と格⼦内で反射した X 線の光路⻑差(Fig.4 の⾚線 部)が波⻑の整数倍を満たすとき、回折現象を⽣ 3. Sn 基はんだにおける添加元素の合⾦化 形態 本稿では、Pb フリーはんだ合⾦の添加元素で代 表的な Ag, Cu, Bi, In, Ni についても合⾦化形態を 紹介する。 じ、強度の強い X 線が反射される。これは、Bragg の式と呼ばれる下記の(1)式で⽰される 2)。 2d sinθ nλ・・・(1) 3.1 試験⽅法 添加元素の分布形態をミクロ組織の元素マッピ ングおよびはんだ合⾦粉末の X 線回折パターンに よって調査した。調査したはんだ合⾦組成を Table.1 に⽰す。 Fig.4 X 線回折の原理図 格⼦⾯に照射する⾓度θを変化させ、回折パターン を得ることで、その材料の結晶構造や結晶性を評 価することが可能になる。格⼦⾯間隔は⼀種類で は無く、⽅位によって様々な間隔が存在するため、 回折ピークは複数⾒られる。なお、X 線に照射する ⾯の格⼦情報を平均的にするため、サンプルには 粉末形状のものを⽤いることが多い。 本評価に⽤いたはんだ合⾦粉末は、アトマイズ 装置で作製した粉末を 20-38µm に分級して使⽤ し、X 線回折パターンを得た。 X 線条件は、線源に 45kV,200mA の Cu-Kα線を 使⽤した。スキャンスピード 10.000deg/min, ス テップ幅を 0.01deg とした。 3.2 結果および考察 3.2.1 はんだ合⾦の添加元素分布 SB6N および S1XBIG の元素マッピングを Fig.5 に⽰す。SB6N において、化合物の箇所で Ag のコ ントラスト⽐が⾼くなっており、逆に Sn は同箇所 においてコントラスト⽐が低下している。これは Sn と Ag が化合物を形成していることを⽰してお り、Sn 基はんだにおいては Ag3Sn の粒⼦状 IMC を形成、群集して分布する。これは S1XBIG にお (a) S1XBIG いても同様の挙動を⽰す。 In については、SB6N において Ag と同じ箇所 で濃化しているが、Ag に⽐べて Sn 相においても ⽐較的検出されており、コントラスト⽐が Ag より も⼩さくなっている。存在量は Sn には及ばないも のの、分布形態は Sn と類似しているように⾒るこ とができる。よって、Sn 相に In は化合物を形成 せずに存在することができ、Sn に固溶していると ⾒なせる。 Cu については、S1XBIG において、化合物の箇 所で Sn とコントラスト⽐が⾼くなっているので、 Sn-Cu の化合物を形成している。SB6N において も、同様に Sn-Cu 化合物が検出されている。この Sn-Cu 化合物の形成ははんだ付けした Cu 箔の Cu がはんだ相に溶出したためである。 S1XBIG の Ni は Sn-Cu 化合物から検出される ことから、Sn-Cu-Ni の化合物を形成している。 Bi については、S1XBIG において若⼲濃淡のバ ラツキが⾒られるものの、概ね Sn 相全体で均⼀に 分布しており、化合物形成と思われる濃化域が⾒ られない。これにより、Bi は Sn 相に固溶している とみられる。逆に、Ag-Sn や Cu-Ni-Sn の析出物 では Bi 存在が低下しているので、析出物には Bi はほとんど含まれていないと⾒られる。SB6N にお いても同様の傾向が⾒られるが、もともとの添加 量が少ないために析出物の箇所でのコントラスト ⽐が⼩さくなっている。 (b) SB6N Fig.5 はんだフィレット SEM 像と元素マッピング で、S1XBIG は Sn より原⼦半径の⼤きい Bi を添 3.2.2 はんだ合⾦の XRD パターン 各はんだ合⾦の X 線回折パターンを Fig.6 に⽰ 加したことにより、格⼦が歪められて平均的に格 す。いずれのはんだ合⾦においても、同じような ⼦⾯間隔が増加したことを⽰す。Fig.6 の S1XBIG β-Sn および Ag3Sn に起因するピークが主に検出 中の Sn のピークはいずれも低⾓側にシフトして される。このことから、S1XBIG 中の Bi や SB6N いる。 中の Bi、In は化合物や析出物を形成せず、Sn 相 ⼀⽅ In は、θにより格⼦⾯間隔が膨張、収縮し に固溶していることが⽰される。S1XBIG の Cu や ているように⾒える。これは Sn への数%添加によ Ni については、元素マッピングから Sn と化合物 りβ-Sn 相(正⽅晶構造)から中間相としてγ相(六 を形成しているが、存在量が少なく、X 線回折では ⽅晶構造)が⼀部発⽣するため 3)、β-Sn の結晶構 ほとんど回折ピークが検出されない。 造が変化しつつある状態になっている。そのため、 単位格⼦が各⽅位で均⼀に膨張、収縮しているの ではなく、格⼦⾯によって変化の挙動が異なって いると考えられる。 S1X S1XBIG SB6N β-Sn Ag3Sn 20 40 60 2θ/deg 80 S1X S1XBIG SB6N 100 (a) S1X 31.7 31.8 31.9 32.0 32.1 32.2 32.3 43.6 2θ/deg β-Sn Ag3Sn 20 40 60 2θ/deg 80 100 (b) S1XBIG (a)θ=32°付近 43.8 44.0 2θ/deg 44.2 (b)θ=44°付近 Fig.7 各はんだ合⾦のピークシフト 4. 結論 種々のはんだ合⾦での元素マッピングおよび X 線回折により、各添加元素がどのように合⾦化し ているかを⽰した。 ・Ag、Cu、Ni ・・・化合物相として析出 ・Bi、In ・・・Sn 相に固溶 また、X 線回折により、S1XBIG 中の Bi は Sn 相 の格⼦⾯間隔を増加させる⽅向に固溶し、SB6N 中 β-Sn Ag3Sn の In はβ-Sn 相から結晶構造を変化させるように 固溶していることが⽰された。 ただし、化合物を形成して析出する添加元素に 20 40 60 2θ/deg 80 100 (c)SB6N Fig.6 はんだ合⾦の XRD パターン (下段:ピーク全体、上段:微⼩ピーク拡⼤) ここでθ=32°および 44°付近のβ-Sn のピー クについて、各はんだ合⾦を並べて拡⼤表記した 回折パターンを Fig.7 に⽰す。S1X を基準として、 S1XBIG は 32°および 44°付近ともに低⾓度側に シフトしている。⼀⽅、SB6N は 32°は低⾓度側 にピークがシフトしているが、44°では⾼⾓度側に ピークシフトしている。(1)式より、ピーク位置 のθの低下は格⼦⾯間隔 d の増加を⽰しているの おいても、凝固速度が速いと析出が追いつかず、 ⾮平衡的に⺟相に固溶することがある。析出物の ミクロ組織形態は凝固条件に⼤きく依存すること に注意が必要である。 参考⽂献 1)T. B. Massalski 著, 1990,Binary Alloy Phase Diagrams, ASM International 2)B. D. Cullity 著、松村源太郎訳 1980, 新版カリ ティ X 線回折要論、アグネ社 3)G. V. Raynor, J. A. Lee, Acta Metall., 2 (1954) 616-620
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