メモ:2項分布から正規分布を導出 コイン投げ

メモ:2 項分布から正規分布を導出
このメモの目的
コイン投げの二項分布から正規分布までを最短距離で展開します。株価や為替は上がった
り下がったりしますがオプションプライシングを考える場合、二項分布・正規分布は重要な
役割を果たします。藤崎 (2005) を読んだ際のメモです。
要点:(6) 式を変形・近似して (19) 式を導くことができる。
コイン投げ
コインを 3 回投げると、表を○、裏を●とすると、以下の 8 通りである。
○○○
○○●
○●○
○●●
●○○
●○●
●●○
●●●
そのため、コインを 3 回投げる場合、すべて表になる確率は (1/2)3 = 1/8 より、12.5%で
あることがわかる。 1 回目に表、2 回目に裏、三回目に裏が出る○●○の確率も 1/8 のであ
り、1 回目に裏、2 回目に裏、三回目に表が出る●●○の確率も同じ 1/8 のである。
出る順番を気にしないのであれば、
• 表が 3 回、裏が 0 回 (○○○)
• 表が 2 回、裏が 1 回 (○○●、○●○、●○○)
• 表が 1 回、裏が 2 回 (○●●、●○●、●●○)
• 表が 0 回、裏が 3 回 (●●●)
となり、3 回とも表が出たり、 3 回とも裏が出るというゾロ目は珍しいことがわかる。つま
り、経路を無視して結果のみに目を向けると 3 回中 3 回表が出る経路は一つしかないが、 3
回中 2 回表が出る経路は複数ある。各ノードに到達する経路数はパスカルの三角形であらわ
される (次頁の図参照)。
また、組み合わせを用いて、N 回コインを投げて k 回表が出るという経路数は以下のよ
うにあらわされる。
N Ck
=
N!
k!(N − k)!
(1)
階乗は N ! = 1 × 2 × 3 × · · · × N である。3 回コインを投げて 2 回表が出るという経路数は
3 C2
=
3!
3×2×1
=
=3
2!(3 − 2)!
2×1×1
1
(2)
図 1: パスカルの三角形
と計算できる。10 回コインを投げて 5 回表が出るという経路数は
10 C5
=
10!
10 · 9 · 7 · 8 · 6
=
= 252
5!5!
5·4·3·2·1
(3)
となり、252 の経路がある。 10 回コインを投げて 10 回表が出るという経路数は
10 C10
=
10!
=1
10!0!
(4)
となり、1 つである (0! = 1)。
一般に、二つの選択肢の中で、一回の試行において自分に好ましい状態が出現する確率を
p とすれば、N 回の試行において自分に好ましい状態が k 回出現する確率は
P (k, N ) =
N!
pk q N −k
k!(N − k)!
(5)
である。ただし、q = (1 − p) である。
ランダムフライト
確率 50 %で上昇・下落をするランダムフライトを考える (p = q = 1/2)。原点から出発す
る N ステップ後に、原点よりも m ステップだけ上方にいる確率 P (m, N ) を計算しよう。
2 項分布で、k 回上昇した場合、(N − k) 回下落したことを意味するので、この差を m と
置く。つまり、m = k − (N − k) であり、k = (N + m)/2 である。これを (5) 式に代入す
ると、
とあらわされる。
N!
P (m, N ) = N +m N −m !
!
2
2
2
N
1
2
(6)
もしも N が非常に大きな値である場合、階乗の計算が大変である。そこでスターリング
の近似公式を用いて計算する。
スターリングの近似公式
√
N ! ≈ N N e−N 2πN
ここで、スターリングの近似公式の両辺の対数をとれば
log N ! ≈ N log N − N +
1
1
log 2π + log N
2
2
(7)
より、
log N ! ≈
1
N+
2
log N − N +
1
log 2π
2
である。同様に、(6) 式も対数をとれば、
N −m
N +m
! − log
! − N log 2
log P (m, N ) = log N ! − log
2
2
であり、これにスターリングの公式を代入すると、
1
N +m
1
log P (m, N ) ≈ N +
log N − (N + m + 1) log
2
2
2
1
N −m
1
− (N − m + 1) log
− log 2π − N log 2
2
2
2
となる。また、
N +m
m
N
m
log
1+
= log N − log 2 + log 1 +
= log
2
2
N
N
(8)
(9)
(10)
(11)
であり、
h
1
m i
1
log P (m, N ) ≈ N +
log N − (N + m + 1) log N − log 2 + log 1 +
2
2
N
i
h
1
1
m
− (N − m + 1) log N − log 2 + log 1 −
− log 2π − N log 2
2
N
2
(12)
となる。また、対数関数のテーラー展開を用いて、
対数関数のテーラー展開
log(1 + x) = x − 12 x2 + 13 x3 − 41 x4 + . . .
以下の項を、下記のように近似する。
m m
m2
log 1 +
≈
−
N
N
2N 2
m
m2
m
≈− −
log 1 −
N
N
2N 2
3
(|x| < 1)
(13)
(14)
これを利用して
1
m
m2
1
log P (m, N ) ≈ N +
−
log N − (N + m + 1) log N − log 2 +
2
2
N
2N 2
m
m2
1
1
−
− log 2π − N log 2(15)
− (N − m + 1) log N − log 2 −
2
N
2N 2
2
1
1
m2
log P (m, N ) ≈ − log N + log 2 − log 2π −
2
2
2N
P (m, N ) ≈
r
m2
2
exp −
πN
2N
(16)
(17)
N が大きいとき、上の式で近似できる。
ここまではステップ回数によって説明したが、ステップ幅の導入を行う。1 回あたりのス
テップ幅を a とする。原点からの距離は x = ma となる。
ステップ数が偶数か奇数かによって到達できないノードが存在する。そのため、ステップ
幅を 2 倍し、微小距離 ∆x に対応させると、
P (x, N )∆x = P (m, N )
∆x
2a
(18)
と確率変数の変換ができる。
x2
1
exp −
P (x, N ) = √
2N a2
2πN a2
(19)
詳細については、 Chandrasekhar (1943) を参照のこと。
参考文献
[1] 藤崎達哉『Excel で学ぶデリバティブとブラック・ショールズ』オーム社、2005 年。
[2] Chandrasekhar, S. (1943). Stochastic Problems in Physics and Astronomy. Reviews of
Modern Physics, vol. 15, Issue 1, pp. 1-89.
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