保険サービスシステムの再構築に 関する一考察

平成27年度日本保険学会全国大会研究報告 於: 慶應義塾大学(2015/10/24)
保険サービスシステムの再構築に
関する一考察
~生命保険販売チャネルの多様化をふまえて~
大阪樟蔭女子大学 神田 恵未
はじめに 報告の目的
•  生命保険販売チャネルの多様化の背景要因を考察する •  消費者ニーズの変化にともなう、生命保険販売チャネル
の多様化の実態を分析する •  保険サービスシステムにおける生命保険販売チャネル
の位置づけを確認する •  生命保険販売チャネルの多様化を切り口に、保険サー
ビスシステムの再構築にむけての示唆点を探る 2
目 次
はじめに 1.  生命保険販売チャネルの多様化とその背景 2.  生命保険販売チャネルの多様化と消費者の選 3.  複数生命保険販売チャネルの共存意義 4.  生命保険販売チャネルの多様化と保険サービス
システム再構築の必要性 おわりに 3
1.生命保険販売チャネル多様化
の背景
4
背景要因
(1)保険経営環境の変化 保険自由化以降の競争激化、金融危機の影響 (2)社会環境の変化 少子高齢化、人口減少、晩婚晩産化、単身世帯の増加 (3)消費者ニーズ、生活環境の変化 ライフスタイル・価値観の変化、生活者の生活保障手段への認知の変化 (4)情報技術の進化 非対面販売の可能性、保険比較の簡便性向上 5
図表1 生命保険市場規模
兆円
50 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 2000年2001年2002年2003年2004年2005年2006年2007年2008年2009年2010年2011年2012年2013年
民間保険各社
共済各団体
旧郵政公社
出典:生命保険協会「生命保険事業の動向」各年度版 共済協会「ファクトブック」より作成
6
図表2 保有契約高(個人保険)の推移
出典:h*p://www.ms-­‐ad-­‐hd.com/basic_knowledge/02.html 7
図表3 生命保険の主力商品の変化
出典:h*p://www.ms-­‐ad-­‐hd.com/basic_knowledge/02.html
8
インターネット利用の普及にともなう保険
選択の変化 ① 情報収集力の向上 初歩的知識を取得のうえ、対面型チャネルを利用する傾向が
強い ②保険比較の積極性向上 インターネットの普及などで消費者の保険に対する知識が深
まったこと ③保険リストラの進展 所得水準が伸びないことなども背景に、生命保険商品を積極
的に見直そうという機運が高まったこと 9
2.生命保険販売チャネルの多様
化と消費者の選択 〜「平成27年度 生命保険に関する全国実態調査
(速報版)」のデータを中心に〜
10
生命保険販売チャネルの種類
代理店
営業職員
対面
販売チャネル 店舗型
生命保険会社窓口
金融機関窓口販売
保険ショップ
通信販売
非対面
電話セールス
FPコンサルティング
通販型
インターネット
インターネット完結型
11
図表4 生命保険販売チャネルの推移
出典: h*p://www.seiho.or.jp/data/staDsDcs/trend/pdf/28.pdf
12
図表5 直近加入契約(民保)の加入時の情報入手経路(複数回答)
13
図表6 直近加入契約(民保)の加入チャネルに 満足している点(複数回答)
利便性+コンサルティング
機能+サービス
14
図表7 直近加入契約(民保)の商品に満足している点 (複数回答)
保障内容+保険価格
+シンプルさ
15
図表8 直近加入契約(民保)の商品・サービスに 対する満足度
16
120.0 %
図表9 直近加入契約チャネルの推移
100.0 80.0 6.4 6.9 68.4 70.8 70.7 7.0 13.7 60.0 40.0 62.5 20.0 0.0 2006年
2009年
2012年
2015年
不明
0.9 1.3 0.8 0.7 その他
6.1 4.9 3.2 4.1 勤め先や労働組合等を通じて
5.2 3 3.2 4.8 保険代理店の窓口や営業職員
7.0 6.4 6.9 13.7 銀行・証券会社を通して
3.3 2.6 4.3 5.5 郵便局の窓口や営業職員
0.0 2.9 2.1 3 テレビ・新聞・雑誌などを通じて
7.3 5.7 4.3 3.4 インターネットを通じて
1.8 2.9 4.5 2.2 生命保険会社の営業職員・窓口
68.4 70.8 70.7 62.5 出典:図表Ⅱ-­‐37より作成
17
図表10 今後加入意向のあるチャネル
%
120.0 100.0 80.0 9.3 4.5 8.3 5.1 7.6 6.2 7.6 10.2 60.0 40.0 20.0 5.9 7.9 10.5 9.1 33.2 36.1 37.5 35.5 2006年
2009年
2012年
2015年
不明
6.1 4.5 3.7 5.8 その他
10.7 12.3 12.1 11.1 勤め先や労働組合等を通じて
9.3 8.3 7.6 7.6 保険代理店
4.5 5.1 6.2 10.2 銀行・証券会社を通して
3.5 3.5 3.9 4.5 郵便局の窓口
16.9 15.2 12.6 12.1 テレビ・新聞・雑誌などを通じて
10.0 7.1 5.9 4.2 インターネットを通じて
5.9 7.9 10.5 9.1 生命保険会社の営業職員・窓口
33.2 36.1 37.5 35.5 0.0 出典:図表Ⅱ-­‐37より作成 18
データから明らかになったことは
(1)営業職員チャネルのシェアが減少傾向にあるものの、依然主要 チャネルとして支持されている (2)来店型保険ショップを代表とする乗合代理店の存在感が高まっ ている (3)金融機関の窓口チャネルも定着している(ただし、限定した分野) (4)加入意向のあるチャネルの選択肢が広がっており、多様なチャネ ルによる保険商品の提供が求められる傾向が強い (5)能動的な消費者が増加傾向にあり、さらに消費者のニーズの多 様化は、新たな競争次元の到来を意味している 19
3.複数生命保険販売チャネルの
共存意義 20
保険サービスシステムにおける 販売チャネルの位置づけ
① いかに既存の保険商品を販売し、そして潜在
的保険消費者を獲得するか ② いかに保険ニーズを喚起するか ③ いかに環境変化に応じて進化していくか ④ いかにチャネルの多様化と利益の確保を実現
するか 21
保険ショップの成長性
①ネットによる情報収集と対面型の融合 ②身近な存在、利用しやすい ③相談無料も魅力の1つ 22
インターネットチャネルの成長性
①シンプルでわかりやすい、安価な保険商品 ②リスク引受基準が厳しく、特定年齢層を中心にリ
スク選択をする傾向が強い ③市場自体の規模が小さい 23
複数のチャネルが共存する理由
仮説 ①仮説1:製品品質論(The product quality hypothesis) 異なるサービスと商品を求める消費者の嗜好に合った
チャネルが選択されるため、複数のチャネルが共存でき
る。 ②仮説2:市場の不完全説(The market imperfecDons hypothesis) 独立型と専属型のエージェントは同質のサービスを提
供できるが、情報の非対称性が存在することによって、
共存することが可能となる。 (Lucinda Trigo-­‐Gamarra(2008)他参照) 24
複数のチャネルが共存する効果
① 範囲の経済性 範囲の経済性は単一の出所からの複数サービスの提供によって生じ
る効率を意味する。一箇所で多種多様なことをこなすこと。 ② 規模の経済性 規模の経済性とは、大量生産されるほど費用が低減することを意味す
る。一つのことに特化して量をかせぐこと。 ③サービスの再設計 参画の拡大と知識の統合によって、新しいサービスを提供するチャン
スが生まれる。 25
保険の商品特性と販売システム
保険の商品特性
保険の販売システム
・無形財
・非交換財
・条件財
・クラブ財
・価値転倒財
・対面販売
・非対面販売
保険販売チャネルの役割
・ニーズに合った商品の販売
・顧客との信頼関係
・顧客との共創関係
・既存契約の維持と新規契約の獲得
・新たなビジネスモデルの確立
出典:堀田(2003)p58~59. 参照
26
4.生命保険販売チャネルの多様化
と保険サービスシステム再構築の
必要性 27
保険供給の対応から考える
•  消費者のタイプに応じたチャンル展開 ①保険加入に受動的タイプ→営業職員 ②保険加入に能動的タイプ→保険代理店 ③価格重視タイプ→インターネット ④コンサルティング志向タイプ→FPコンサルティング、営業職員による 説明、ライフプランナー (石坂(2015)p.138参照) チャネル間の調整が必要になってくる
28
保険需要の変化から考える
•  求められる保険商品とは: ①オーダーメイド型保険商品 ②ライフイベントに柔軟対応できる保険商品 ③シンプルでわかりやすい、保障内容が充実した保
険商品 29
Social Media Benefits to Insurers
New way to connect with users
Gain compeDDve advantage through differenDaDon
Quick response to process change/announcements
Build relaDonships with users
Increased availability of informaDon
No geographic limitaDon for agents
More trust in interacDon
出典:Capgemini Analysis(2012)
30
オープン・イノベーションとは
① イノベーション: 既存のサービスの改善だけではなく、製品やプラット
フォームと関連するまったく新しいサービス提供を進めるこ
とや、成長と差別化をまとめて図ることで、イノベーションを
実現するプロジェクトのポートフォリオが作成できる。 ② オープンイノベーション: 知識の流入と流出を自社の目的にかなうように利用して
社内イノベーションを加速するとともに、イノベーションの社
外活用を促進する市場を拡大することである。 (チェスブロウ編著(2006)p.17) 31
サービスのプラットフォーム
•  オープンビジネスモデル ① 知識の蓄積→ビッグデータ活用 →新しいビジネスチャンス ② 顧客の体験からプラットフォームを構築: 顧客を賢く知る ③ サービスからプラットフォームを構築: 優れたサービスだけでは不十分 生命保険販売チャネルの多様化は、保険サービスに
おけるオープン・イノベーションの中核とる。 32
オープンサービスのイメージ図
オープン・イノベーション
顧客との共創 ↕ ↕ ↕ インプット プロセス アウトプット
提携企業 販売チャネル 顧客 プラットフォーム・ビジネスモデル
出典:チェスブロウ( 2011) p.60より一部修正
33
オープンサービス・システムの構築
•  オープンサービス・システムとは サービスを中核とするシステム構築の考え方 (チェスブロウ( 2011) pp.25〜51) •  生命保険業におけるオープンサービスシステム
を構築するためには ①自社のチャネルと代理チャネル間の調整 ②販売プロセスの活性化とマルチチャンネルの実現 ③サービスイノベーションと顧客との共創の実現 ④新たな価値の創造を実現するマネジメント 34
まとめ
Ø 本報告では、保険サービスシステムの一貫として、生
命保険販売チャネルの多様化に着目して分析を行っ
た。 Ø チャネルの多様化は、消費者の保険選択に大きく寄
与するが、保険会社によるチャネル間の調整が必要
となる。そのためにも、顧客との共創を主軸におきな
がら、充実した多様なツールで販売チャネルの進化を
追求して行かなければならない。 Ø さらに、競争優位に立つためには、今後新たなオープ
ンサービス・システムを構築してくことが求められる。
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参考文献
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タード・オープンイノベーションラボTBWA/HAKUHODO監修・監訳) 株式会社阪急コミュニケーションズ ヘンリー・チェスブロウ編著(2006)(長尾高弘訳)『オープンイノベーション〜組織を超えたネットワークが成長を加速する』 英治出版株式会社 堀田一吉(2003)『保険理論と保険政策 原理と機能』東洋経済新報社
安井信夫・安井敏晃(2008)『よくわかる生命保険』保険社 米山高生(1993)「戦後生命保険産業における販売チャネルの特殊性」『保険学雑誌』第540号 米山高生(1997)『戦後生命保険システムの変革』同文舘 36