7.長寿命化のための維持管理・改善効果

7.長寿命化のための維持管理・改善効果
7-1 長寿命化計画策定による効果
本計画に基づいて、計画的、長期的な維持管理を図ることにより、以下に示すような効果の
発現が期待される。
①住宅の長寿命化とライフサイクルコストの縮減
定期的な点検を実施して、公営住宅等ストックの状況を把握したうえで、適切な時期に予防
保全的な修繕及び耐久性の向上等を図る改善を実施することで、良好な機能が維持された公営
住宅等の長寿命化が図られ、ライフサイクルコスト(LCC)の縮減が図られる。
②安全性の確保
定期的な点検によって現状を把握することにより、大きな問題が生じる前に適切な修繕およ
び改善を実施することができ、公営住宅等の安全性が確保される。
③効率的な維持管理
公営住宅等の建設年度や状態等を踏まえ、重要度に応じた維持管理を実施することにより、
限られた予算の中で効率的な維持管理を実施することができる。
7-2 長寿命化型改善によるライフサイクルコストの算出
(1)ライフサイクルコスト算出の考え方
長寿命化型改善事業を実施する場合、実施しない場合、それぞれの場合について、建設時点
から次回の建替までに要するコストを算出し、住棟単位で年当たりのコスト比較を行う。
住棟当たりの建替コストは、モデル算出する団地住棟(構造、規模等)を想定して設定した
戸当たりコストをもとに、当該住棟の住戸数分を積算して算出する。
長寿命化に要するコストは、モデル算出する団地住棟で想定される長寿命化型改善を実施し
た場合にかかるコストを、実績等をもとに設定した戸当たりコストをもとに、当該住棟の住戸
数分を積算して算出する。
なお、算出にあたっては、現時点で当該住棟を建設したと仮定し、今後、長寿命化型改善を
実施した場合と実施しない場合の比較を行う簡略化したモデルで算出する。
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【LCC算出の基本的考え方】
■住棟の LCC 改善効果 = LCC(計画前)① - LCC(計画後)②
長寿命化型改善事業を実施しない場合と実施した場合の LCC の差分を求め、改善効果を算
出する。
① LCC(計画前)=(修繕費+建替費)/建設から次回建替えまでの使用年数
公営住宅等長寿命化計画に基づく改善事業を実施しない場合の、建設時点から次回建替
(築後 50 年)までに要するコストを算出する。
② LCC(計画後)=(修繕費+改善費+建替費)/建設から次回建替えまでの使用年数
公営住宅等長寿命化計画に基づく改善事業を実施した場合の、建設時点から次回の建替ま
でに要するコストを算出する。
長寿命化型改善事業の実施により、想定される使用年数が 20 年延長し、70 年とする。
下表に示すように使用期間が延長し、耐火構造は 70 年、簡二構造は 45 年とする。
■その他
将来コストについては、社会的割引率を考慮して現在価値化する。
修繕費は、建替コストをもとに、国の指針に示されている修繕費乗率、修繕周期を掛けあ
わせることで算出し、維持管理を図る年数分を累積することで累積修繕費を算出する。
【ライフサイクルコストの算出イメージ】
出典:
「公営住宅等長寿命化計画策定指針」
(平成 21 年 3 月 国土交通省住宅局)
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(2)ライフサイクルコストのモデル算出
計画期間内に実施する長寿命化型改善事業を行う団地として、旭町改良住宅をモデルケース
としてLCCを算出する。
①長寿命化型改善事業モデルの想定
長寿命化型改善事業モデルとして、旭町改良住宅(4 号棟)において、屋根・外壁の改修、
内壁の断熱性向上、配管の耐久性向上等の耐久性向上に資する長寿命化型改善及びユニットバ
ス、3 箇所給湯の設置等の居住性向上に資する居住性向上型改善を実施することを想定する。
改修費用については、平成 21~26 年度にかけて行われた、旭町改良住宅、末永改良住宅にお
ける屋根・外壁の改修に要した費用をもとに戸当たり平均額を算定するとともに、内壁の断熱
性向上、配管の耐久性向上、ユニットバスの設置、3 箇所給湯の設置については、近年の道内
他市町村における公営住宅の長寿命化型改善の実績をもとに戸当たり費用を算定した。
②長寿命化型改善を行わない場合のLCC
1)使用年数
建替前住棟の築年数を 50 年と想定する。
2)累積修繕費
累積修繕費は、該当する修繕項目ごとに、国の指針に示されている修繕費乗率、修繕周期を
掛けあわせることで算出し、50 年間の修繕費を累積した費用とする。
3)建替工事費
RC造で、2,000 万円/戸と想定する。
(道内他市町村の事例から、資材価格上昇、労務費上昇等の影響を考慮して設定)
4)計画前LCC
計画前(長寿命化型改善事業を実施しないものと想定)のライフサイクルコストを、所定の
算出手順に従って計算すると、約 58.5 万円/年・戸になるものと想定される。
計画前 LCC=(建替工事費+累積修繕費)÷使用年数(単位:円/年・戸)
③長寿命化型改善を行った場合のLCC
1)使用年数
長寿命化型改善を行うことによって使用年数が 20 年延長し、70 年になると想定する。
2)累積修繕費
累積修繕費は、該当する修繕項目ごとに、国の指針に示されている修繕費乗率、修繕周期を
掛けあわせることで算出し、70 年間の修繕費を累積した費用とする。
3)長寿命化型改善工事費
①で想定した長寿命化型改善を行うことで、390 万円/戸の費用がかかると想定する。
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4)建替工事費
②と同様にRC造で、2,000 万円/戸と想定する。
5)計画後LCC
計画後(長寿命化型改善事業を実施)のライフサイクルコストを、所定の算出手順に従って
計算すると、約 52.4 万円/年・戸になるものと想定される。
計画後 LCC=(建替工事費+長寿命化型改善工事費+累積修繕費)÷使用年数
(単位:円/年・戸)
④LCCの改善額
1)年平均改善額
長寿命化型改善による年平均改善額は、約 6 万円/年・戸になるものと想定される。
年平均改善額=計画前 LCC(円/年・戸)-計画後 LCC(円/年・戸)
2)累積改善額
上記で求めた年平均改善額をもとに、将来コストを社会的割引率(年 4%)を用いて現在価
値化することで、使用年数期間(70 年間)の累積改善額(現在価値化)を算出すると、約 142
万円/戸になるものと想定される。
3)年平均改善額(現在価値化)
上記で求めた累積改善額(現在価値化)を、使用年数(70 年間)で除することにより、年平
均改善額(現在価値化)を算出すると、約 2 万円/年・戸になるものと想定される。
⑤LCCの効果
以上より、長寿命化型改善事業を実施することよってLCCが低減し、年平均では 1 戸当た
り約 2 万円、1 住棟(18 戸)当たり約 36.5 万円のコストが縮減されるという結果となる。
この結果、長寿命化型改善事業を実施することよって、対象となる旭町改良住宅の住宅スト
ックについて、居住性の向上が図られるとともに、長期間の効率的な維持管理と適切な活用が
可能になるものと判断される。
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表 7-1 LCCモデル算出表(旭町改良住宅)
【設定条件】
■修繕費
修繕項目
小修繕 EV保守 量水器 給水ポンプ 給湯器 外壁 屋上防水 排水ポンプ 共聴アンテナ 給水管 流し台 排水管洗浄
修繕費乗率
0.278% 0.000% 0.232% 0.046% 0.000% 4.882% 2.472% 0.074% 0.037% 2.778% 1.296% 0.093%
修繕周期
1年
1年
8年
10年
13年
15年
15年
15年
15年
20年
20年
20年
※上表の計画修繕項目は全て長寿命化型改善に該当しない(従前の仕様と比して性能が向上しない)と設定している
■現在価値化係数: 4%/年
【モデル算出】
■住棟諸元
個別改善項目
屋根改修(長寿命化型)
外壁改修(長寿命化型)
内壁の断熱性向上(長寿命化型)
配管の耐久性向上(長寿命化型)
ユニットバス設置(居住性確保型)
3箇所給湯(居住性確保型)
旭町改良住宅
4号棟(耐火構造3階建:18戸/棟)
費用
備考
200,000 円
旭町改良・末永改良の修繕実績より
700,000 円
旭町改良・末永改良の修繕実績より
1,200,000 円
道内他市町村における修繕実績より
500,000 円
道内他市町村における修繕実績より
800,000 円
道内他市町村における修繕実績より
500,000 円
道内他市町村における修繕実績より
■計画前モデル
①
②
③
④
項目
使用年数
累積修繕費
建替工事費
LCC(計画前)
費用等
50 年
9,247,900 円
20,000,000 円
584,958 円/年
備考
現在価値化しない費用
■計画後モデル
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
項目
使用年数
累積修繕費
長寿命化型改善工事費
建替工事費
LCC(計画後)
費用等
70 年
12,796,580 円
3,900,000 円
20,000,000 円
524,237 円/年
備考
現在価値化しない費用
長寿命化型改善工事費の合計
■LCC改善効果
⑩
項目
年平均改善額
⑪
累積改善額
(70年・現在価値化)
⑫
年平均改善額
(現在価値化)
費用等
備考
60,721 円/年・戸 現在価値化しない費用
年平均改善額⑩をもとに、将来コストを社会的
1,420,542 円/戸
割引率4%により現在価値化することで、70年
の累積改善額を算出
20,293 円/年・戸
18戸/棟
365 千円/年・棟
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