『日本のかたち』 - SAWADA LAB

第 7 章 「建築のかたち」 澤田研究室学部 4 年森田康介
修士 2 年中野雄貴
修士 1 年清水望実
『日本のかたち』
■はじめに
あるような空間を生み出す。
建築のかたちは常に人、環境、文化など様々
な条件に対して考察され、設計に活かされて
■ 影のかたち(※別紙参照)
きた。また、時代とともに過去の建築を参照
影を考えることは日本家屋を考察する上で切
し進化し続けてきた。
っても切り離せないものである。谷崎潤一郎
本章は「建築のかたち」、つまり建築が持つ形
は自身の著書「陰翳礼賛」の中で次のように
について、その特徴や性質を分析したもので
述べている。
ある。しかし、私は建築によって生まれる風
「西洋の屋根は光を遮蔽するよりも雨露をしのぐための
や影も建築の「かたち」であると考える。そ
方が主であって、蔭はなるべく作らなにし、少しでも多
れらの「かたち」が人の暮らしにどのように
く内部を明かりに曝すようにしていることは、外見を見
根付いているのか。
ても頷かれる。日本の屋根を傘とすれば、西洋のそれは
「かたち」…建築の形から生まれるもの、現象
形
…外見的、物理的な形態
帽子でしかない」(陰翳礼賛/谷崎潤一郎)
西洋の屋根が雨風を凌ぐものであるのに対し
て、日本家屋の大きく深い軒は西洋のような
日本人は建築に自然的要素を取り入れること
自然に対しての備えとしてだけでなく、直接
で自然の空間そのものの中に生活していた。
光を遮り、反射光を内部に取り入れるための
現代の建築家がかつての日本建築の「かたち」
ものでもある。この光は内部に影(かげ)の
から何を読み取り、どのように設計に取り入
濃淡を生み、陰り(かげり)を作り出す。
れているのか考察する。
陰り(かげり)にこそ日本人の美意識は育ま
れ、日本のものは美しさを増す。
■領域のかたち(※別紙参照)
影(かげ)…光が遮られることで生まれるもののかたち
西洋の境界が厚みのある壁であったのに対し、
陰り(かげり)…影が落ちることで生まれる空間の暗さ
日本の境界は面や目に見えない中間領域とい
った、曖昧なものによってかたちづくられて
『牧野富太郎記念館/内藤廣/1999 年』
きた。日本建築は境界を幾重にも重ねること
敷地に溶け込むかのような大きな屋根を持ち、
で内と外の曖昧な距離感を生んだ。このよう
軒下に影のグラデーションを生み出す。曲線
な境界は空間に連続性を生み、人々に自由な
の屋根は一日の時間の経過によって、内部へ
振る舞いを促す。
の影の差し込み方を大きく変化させる。
『houseN/藤本壮介/2008 年』
■風のかたち(※別紙参照)
三重の入れ子と開口によってつくられた異な
京町屋は間口が狭く奥行きが長い敷地に隣家
る境界を重ねることで外部にいながら内部で
と接するように建てられ、自然を暮らしに取
り込む工夫が成されている。玄関に対して建
物の奥にある庭の植栽によって、表通りとの
温度差をつくり、風の流れを生んでいる。更
に夏と冬で建具を取り替えることで風の流れ
を調節している。こうした暑さ寒さだけでな
く,四季折々の季節の変化に合わせた暮らし
が定着している。
『HAKUSHIMA OFFICE 船倉税理士事務所
/三分一博志/2011 年』
煙突状のガラス屋根によって太陽光を取り込
み、空気の循環を生み出だす。建築内に風の
流れを取り入れる。
■おわりに
建築は時代を写す鏡である。時代の変化と
ともに建築の形も変化を続けているが、時
の流れの中にあっても「かたち」に対する
知恵や感性は社会や経済に左右されない強
さを持っている。それは形の奥の目に見え
ない「かたち」として継承されている。
それらを現代において再考し、編集してい
くこと。つまり、過去に対するまなざしを
持つことが求められる。
参考文献
陰影礼賛/谷崎潤一郎/1933 年
建築史から何が見えるか/西和夫/2009 年
代謝建築論か・かた・かたち/菊竹清訓/2003 年
建築史配布資料/第1章 日本建築史Ⅰ:日本建築 領域のかたち
houseN
藤本壮介
2008 年
inside
&
土間
outside
空間を規定するものを一切置かれていない。住民に自由な
振る舞いをアフォードする。
現代の縁側
三重の入れ子
簾
夏の暑さや冬の寒さ、風や光など自然を極
限まで屋内に取り込む装置。
暖簾
暖簾を潜らせることで視覚的効果以上に空間の違いを認識
させる。
簾、障子、暖簾などの境界面をつくる操作はそれぞれに
入れ子状に重なる、穴の開いた 3 つの箱からなる建築。
違う特性をもち、さまざまな空間の繋がりを生み出す。
三重の入れ子により空間にグラデーションがつくられ、内部と外部を曖昧につないでいる。
日本建築の境界は幾重にも重なり、人の行動や四季の変
箱と箱の間は縁側のような場所となる。ランダムに空けられた窓は、隣の部屋をつなぎ、自然をつ
化に応じて様々にかたちを変える。
なぎ、空をもつなぐ。
影のかたち
牧野富大郎記念館
淡
縁側
季節に応じた様々なシーンを生み出す。
障子
内藤廣
1999 年
光
濃
光を貸す産させて内部に取り込むことで暖かさや
光
柔らかさを生み出す。
深い軒下
軒
内部でもなく、外部でもない中間領域。直射光を遮り、内部に陰りを生み出す。
深い軒は外部環境に対して抵抗するものではなく、外部
小高い丘の上に建つこの建築は地形に寄り添い、周辺の林にとけ込んでいる。中央のデッキや地下
環境を活かし、自然と共生し生活する為の設計である。
一階を取り囲むような軒の深い屋根はデッキや地下一階から軒下、展示スペースへと影のグラデー
日本家屋の光の取り入れ方は内部に陰(かげり)を生み、
ションをつくり出す。屋根を木造で造ることで内部の陰りをいっそう引き立て、ギャラリーの展示
空間に濃淡を作る。
品は美しさを増す。
風のかたち
HAKUSHIMA OFFICE 船倉税理士事務所
三分一博志
光
2011 年
光
日射
日射によって温められた空気
町家の中庭や坪庭はただ自然を切り取り住居内に持ち込ん
だものではない。夏の暑さを凌ぐ為の工夫がある。一日中、
通り庭
坪庭
室内に一日中光が当たらないのに対して坪庭の暖かい
人、風、音などがこの場所を通り表から
空気が通風を生み出す。
裏へと抜けていく。
光があまり入らない室内に対して、坪庭で温められた空気
は上昇気流を引き起こし、間口から通り庭を通って坪庭へ
と抜ける風を生み出す。
太陽の熱を利用するためガラスの屋根を用いたオフィス。
ガラスの屋根と躯体の間の空気は太陽の熱で温められ、建物の中央部にあるエントランスを兼ねた
塔状の空間へと流れる。