平成 25 年度政策実務系研修(JAMP 共同実施)レポート優秀作 住民税課税事務 納税者の理解を得る課税事務とは 徳島県徳島市財政部市民税課 1 篠原 利加子 はじめに 日々の業務の中で、納税者からは住民税に対し様々な声が聞かれる。例えば、 「所得 にほとんど変わりがないのに、なぜこんなに住民税が高くなっているのか」とか「去 年は年金から引かれていたのに、今年は納付書が入っているのはなぜなのか」など、 戸惑いやお怒りの言葉も多い。確かに、個人住民税は所得税の現年課税制度と異なる 前年課税制度を採用しており、複雑な年金特徴制度などに加え、毎年税制改正がある ため、納税者にとって理解しにくい点が多くなっている。 地方分権の理念に基づき、地方への税源移譲が行われてきた経緯から、地方自治体 が自らの力で税収を確保することの重要性は高まっている。このような状況下で税収 を確保していくためには、公平・適正な課税と徴収を行うことが必要不可欠であるこ とは言うまでもない。そして、課税事務に携わる職員の、公平・適正な課税というも のに対する役割および責任というものも非常に大きいものとなっている。私たちはそ のことを十分に自覚し、課税側の立場から、納税者に納得して納めてもらえる環境整 備を行っていく必要がある。本レポートでは、納税者に納得して納めてもらえるよう な環境整備というものについて述べたい。 2 納税環境の整備とは 納税者が納得して納める納税環境の整備とは一体どのようなものだろうか。納税環 境の整備というと、例えば、本市ではこれまでの軽自動車税に加え、平成 25 年 5 月以 降発送分の市民税・県民税についてコンビニエンスストアでの納付が可能となった。 これは、従来の金融機関の窓口納付や口座振替に加えて、休日・夜間を問わず利用で きるコンビニでの納付が可能となり、より便利に納付してもらうためのもので、納税 環境の整備の一つである。 今回取り上げる納税環境の整備とは、上記のような納付方法や徴収方法ではなく、 課税側の適切な課税とそれに対する説明についてということに絞る。これらは賦課徴 収という全体で見ると、あくまで最初のスタートラインの部分であるが、ここで公平・ 適切な課税と十分な説明がなされていなければ、その後の徴収等に繋がっていかない からである。内容については、次項で説明を行う。 3 納税環境の整備に向けて (1)迅速な課税内容の実態確認 増額の賦課決定は法定納期限から遡って 3 年以内であれば行うことができる。そこ 1 住民税課税事務 で、当初の課税内容に誤りや事実と相違がある場合(例えば扶養重複など)は、過年 度のものであっても遡って増額の賦課決定を行っている。しかし、実際に行ってみる と、 「どうして昔の分まで遡るのか。なぜもっと早くわからなかったのか」といった問 い合わせもある。確かに、納税者側からすると、最長で 3 年前の所得等に対する是正 ということになり、不満に思うのも理解できる。 課税内容の実態把握は、納税者側に立ってみれば当初の賦課決定前に行うことが望 ましいとは思われるが、申告の時期から賦課決定までの時間的制約等を鑑みると実行 することはなかなか難しい。ただ、やはり所得の発生と賦課決定の間に開きがありす ぎるのは好ましくないため、賦課決定からあまり間を置かないうちに調査し賦課決定 を行い、迅速に納税者に通知できるような計画を立てておくことは重要である。 (2)税の使途に関する説明 納税者からの問い合わせとしてよくあるのが、 「税金はどんなことに使っているのか」 ということである。それに対して、 「道路の整備だとか、消防や警察といった様々な行 政サービスに使われています」というような漠然とした返答になってしまうことが多 い。やはり、納税者により直感的に理解してもらうためには、具体的に行政サービス に対する支出内容について説明した方が良いと思われる。例えば、 「ごみ処理や環境対 策のために、人口 1 人あたり○○円使われています」というように、具体的な数字を 用いて説明することがより効果的であるだろう。納税者の中には、 「何に使われている のかよくわからないから払いたくない」という方もいる。賦課徴収を行った税が実際 の行政サービスにどのように反映されているかを把握し、その内容を納税者に説明す ることで、納税者からの理解も得られやすいと思われる。 (3)関係部署・機関の情報利用状況の確認 住民税は、他の行政サービスと切っても切れない関係にある。本市でも、所得額や 市・県民税額は、国民健康保険料や介護保険料等の金額算定、市営バス無料乗車証交 付の可否など、多くの行政サービスに影響を与えている。窓口や電話での応対時にも、 所得額や市・県民税額が他にどのような行政サービスの内容に影響してくるかを質問 されることが多いように感じる。ある程度、どういった課税状況なら影響を与えるか、 またそれについて課税証明は必要になってくるかなど、関係する部署や行政機関との 連携をきっちり行い、説明を行うことが必要である。常に何に影響が出てくるか情報 収集を行い、それを踏まえた上で説明することで、市民の行政に対する信頼感という ものも増し、結果的には納税に対する意識の向上を図ることにもつながるのではない だろうか。 4 おわりに 公平・適正な課税は、徴収が行われてこそ実現される。課税をしたらそれで終わり、 というものではなく、徴収につなげるために、納税者の理解を得やすい制度作りや、 2 住民税課税事務 説明等の工夫が必要になってくる。税制度が、 「簡素かつ納税者にとって理解しやすい もの」という原則通りではない以上、各自治体の一層の取組みが必要となってくるの ではないだろうか。 今回の研修は、自分の知識を整理し、普段行っている課税事務について見つめ直す 良い機会となった。この経験を活かし、日々の業務の中で、納税者の理解を得られる 課税事務について模索しようと思う。 3 住民税課税事務
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