マルチビーム音響測深機等による広域かつ効率の良い探査手法を用いた

マルチビーム音響測深機等による広域かつ効率の良い探査手法を用いた
東青ヶ島カルデラ海底熱水鉱床調査報告
○片瀬 冬樹・飯笹 幸吉・水野 勝紀・小島 光博(東大生研)・李 相均(地球科学総合研究所)
斎藤 悠太(国際航業)・月岡 哲・大美賀 忍(JAMSTEC)・浅田 昭(東大生研)
1.はじめに
種が開発されており,スワス幅を絞ることで,横
文部科学省受託海洋資源利用促進技術開発プロ
方向に等距離,かつ分解能の高いデータの取得が
グラム「海洋鉱物資源広域探査システム開発」を
可能である.例として YK15-09 航海で使用した
進めている我々研究チームでは,マルチビーム音
MBES の仕様とデータ計測時の設定について,表
響測深機(Multi-Beam Echo Sounder,以下 MBES
1 に示す.測線間隔を狭めることで 200%のデータ
とする)と重力式柱状採泥等を用いて,広域かつ
カバレッジを保ち,データ密度を高める設定とし
効率のよい熱水鉱床探査の手法の研究を行ってい
ている.
る.本発表では,全 3 回の航海で発見に至った,
表 1 YK15-09 航海 MBES の仕様とデータ計測時の設定
東青ヶ島カルデラ熱水鉱床の探査手法と,それに
調査船
海洋研究開発機構所有「よこすか」
より得られた成果について報告する.
機種
Kongsberg 社「EM122」
周波数
12 kHz
ビーム幅
2 °× 2 °
船速
4 ~ 5 knot
日時;2013. 9. 3 ~ 2013. 9. 12(調査は 9. 10~11)
測線間隔
500 m
目的;カルデラ概略把握のため,中心部の広域地
スワス幅
1,100m 固定
2.調査の概要
1)
KKKyot13-01 航海
形探査と柱状採泥器によるサンプリング
2)
YK15-09 航海
出力点数
等間隔配点
432 soundings / swath
2 swaths / ping
日時;2015. 6. 5 ~ 2015. 6. 14
メッシュサイズ
5 m メッシュ
目的;カルデラ全域の広域地形探査と,前航海の
平均データ数
12.5 点 / メッシュ
地形データから抽出した特異点の AUV「うらし
ま」搭載 MBES による精密地形探査
3)
KKKyot15-02 航海
音響測深においては,データの 1 点 1 点が真値
と考えるより,ある程度ばらつきがあると考える
ことが妥当であり,測深点数を増やし,その平均
日時;2015. 7. 25 ~ 2015. 7. 31
値をメッシュデータとして採用することで,デー
目的;柱状採泥器による熱水鉱床候補地点のサン
タの精度が保てると言える.また,AUV による精
プリング
密探査では,Seabat7125(Reson 社,周波数;400
kHz,測深点数;512 点)を使用してデータを取得
3.探査手法と使用機器
した.
広域かつ効率よく熱水鉱床を探査するために,
サンプリングの位置精度を向上させる手法とし
洋上から取得する MBES のデータの計測手法の高
て,重力式柱状採泥器の直上 10 m 地点のワイヤ
度化を検討している.また,音響測位を併用した
ーに GPS と慣性航法装置が一体となっている音
重力式柱状採泥器によるサンプリングを行うこと
響測位システム GAPS(IXBLUE 社,水中精度;
により,非常に精度の高い位置管理の元で調査を
0.2 % スラントレンジ)を取り付けて使用するこ
行った.
とで,海底の目標地点から 20 m 程度の範囲でサ
近年調査船の船底に艤装して広域地形探査に使
用される MBES は,位相差による検出と反射強度
による測深点の検出が出来るハイブリッド型の機
ンプリングすることが可能となった(図 1).
測位で常にポジションを監視しながら,サンプリ
ングを複数回行った.
20 ~ 30 m
20 m
図 1 重力式柱状採泥器と GAPS 水中トランスポンダー
40 m
4.調査結果
図 3 チムニー状地形 三次元鳥瞰図
YK15-09 航海で取得した東青ヶ島カルデラ全域
の 5 m メッシュの海底地形図を図 2 に示す.
その結果,マウンド上から高温熱水活動の証拠
となる閃亜鉛鉱や黄銅鉱といった硫化鉱物を含む
塊状硫化物が採取できた(図 4).音響測位を併
用することで,目標地点と実際にサンプリングし
Depth(m)
た位置との差異は最小でわずか数 m 以内であり,
目標としていた位置での試料採取が達成された.
図 4 閃亜鉛鉱や黄銅鉱を伴う塊状硫化物
また,カルデラ南東側斜面でもコーン状の起伏
がある地形の確認と,熱水性の兆候が見られる海
底堆積物を採取することが出来た.
5.まとめと今後の課題
図 2 東青ヶ島カルデラ海底地形図
広域地形探査の高度化と音響測位を用いたサン
東青ヶ島カルデラは北北東-南南西方向に長軸
プリング手法等によって,熱水鉱床を効率よく探
を持つ東西約 12 km、南北約 18 km の楕円形のカ
査することが証明された.今後は,広域に取得し
ルデラ地形で,南北には明瞭な外輪山を有し,カ
た海底地形データや海底音響画像から定量的に熱
ルデラ底部は水深 830 m 程度である.
水鉱床候補地点の絞込みが行えるよう,探査・解
この海域において,KKKyot13-01 でサンプリン
析技術の向上を目指していく.
グされた堆積物中に熱水活動の可能性を示唆する
少量の硫化物成分を確認したため,カルデラ中央
謝辞
部の海底地形データより,カルデラ斜面部や特異
本研究は文部科学省「海洋鉱物資源広域探査シ
な起伏,尾根状の地形を抽出し,YK15-09 でうら
ステム開発」の一環として行われた.調査航海は
しまによる精密地形探査を実施した.探査の結果,
海洋エンジニアリング(株)所有の「第七開洋丸」
中央火口丘周辺で発見されたチムニー状地形の鳥
と海洋研究開発機構所有の「よこすか」「うらし
瞰図を図 3 に示す.
ま」にて実施され,飯岡船長・中村船長・石川運
海底の基部からマウンドの高さが約 20 m,幅が
航長をはじめ乗組員,調査員の方々には航海を通
約 40 m,さらにその上のチムニー状地形は高さ
じ,多くのご協力を頂いた.また,柱状採泥につ
20~30 m 程度である.このマウンド地形の物性を
いては東京大学新領域創成科学研究科の黒沢俊哉
確認するため,KKKyot15-02 航海において,音響
氏にご協力頂いた.ここに深く感謝の意を表する.