クラリスロマイシン耐性の高い地域における エソメプラゾール

クラリスロマイシン耐性の高い地域における
エソメプラゾール、メトロニダゾール、
アモキシシリン、クラリスロマイシンを用いた
10 日間除菌治療の臨床的評価
抄 訳
鎌田 智有(川崎医科大学消化管内科学)
Clinical Evaluation of a Ten-Day Regimen with Esomeprazole, Metronidazole,
Amoxicillin, and Clarithromycin for the Eradication of Helicobacter pylori in a
High Clarithromycin Resistance Area
Sotirios D. Georgopoulos,* Elias Xirouchakis,* Beatriz Martinez-Gonzalez,† Dionyssios N. Sgouras,† Charikleia Spiliadi,‡
Andreas F. Mentis†, Fotini Laoudi*
*Gastroenterology
†Laboratory
and Hepatology Department, Athens Medical, P. Faliron General Hospital,
of Medical Microbiology, Hellenic Pasteur Institute,
of Histopathology, Athens Medical, Amaroussion General Hospital, Athens, Greece
‡Department
要 約
背景:クラリスロマイシン耐性の増加は従来の 3 剤併用療法による Helicobacter pylori(H. pylori )除菌
率を低下させる。我々は一次除菌あるいは二次除菌(従来の 3 剤併用療法後)として、ビスマス製剤を用い
ない 10 日間の 4 剤併用療法の効果と安全性について評価し、抗菌薬の耐性が治療成功に与える影響を検
討した。
対象と方法:上部消化管内視鏡検査を受け、迅速ウレアーゼ試験にて陽性を示し、鏡検法および培養法
の一方あるいは両者にて H. pylori 感染が確定した患者を評価対象とした。除菌治療としてエソメプラゾー
ル40 mg、メトロニダゾール(MNZ)500 mg、アモキシシリン1,000 mg、クラリスロマイシン500 mg を1
日 2 回 10 日間投与した。治療アドヒアランスと副作用を記録し、除菌の確認は尿素呼気試験と鏡検法にて
行った。
結果:198 例の患者(男性 115 例、女性 83 例、年齢 18 ~ 81 歳、平均年齢 52 歳、喫煙者 37%、潰瘍
患者 27%)のうち 190 例が治療プロトコールを完遂し、除菌治療の評価を受けた。治療アドヒアランスは
97.7%であった。6 例( 3.2%)は重篤な副作用を発生したため治療を中断した。Intention-to-treat および
per protocol 解析による一次除菌率は 91.5%、95%であり、二次除菌率はそれぞれ 60.6%、64.5%であっ
た。抗菌薬の感受性試験は同意の得られた 124 例中 106 例( 85%)に対して行われた。これらのうち 42
例( 40%)がクラリスロマイシン耐性株を有していた。抗菌薬感受性群およびクラリスロマイシンまたは
MNZ 単剤耐性群における除菌率(それぞれ 100%、91%)は 2 剤耐性群の除菌率( 55%)と比較して有意
に高率であった(p < 0.0001)。多変量解析では 2 剤耐性のみが治療失敗を予測する唯一の独立した因子で
あった。
結論:2 剤耐性は除菌効果を低下させるが、10 日間の併用療法はクラリスロマイシン耐性の高い地域に
おいても効果的および安全性の高い一次除菌治療と考えられた。
キーワード:Helicobacter pylori 治療、一次除菌、二次除菌、併用療法、クラリスロマイシン耐性、2剤耐性
© 2013 John Wiley & Sons Ltd, Helicobacter 18: 459–467
30
ptibility test
containing
hibitor (PPI)
metronidah it doesn’t
cation rates
high CLA
Maastricht-4
quadruple
oncomitant,
MO), MET,
a sequential
valuation of
area proved
ed in areas
MET resis-label study
pylori cure
as first-line
% on intenother study
ndard triple
ears before,
cient than
[17,18].
valuate the
en-day coneatment, in
to CLA and
sistances on
クラリスロマイシン耐性の高い地域におけるエソメプラゾール、メトロニダゾール、アモキシシリン、クラリスロマイシンを用いた 10 日間除菌治療の臨床的評価
対象と方法
非ステロイド性抗炎症薬、アスピリン、2 週間以内
本研究は前向きオープンラベルの単施設にて行わ
のプロトンポンプ阻害薬服用例、妊婦 / 授乳中、研
れ、2010 年 1 月から 2012 年 1 月までに上部消化器
究参加意思のない患者とし、過去に除菌治療を受
症状や鉄欠乏性貧血を有する 510 例の患者を評価し
けた症例は除外基準ではなかった。副作用は臨床
た( 図 1)。このうち 230 例( 45%)が Helicobacter
的な問診により治療終了後直ちに評価され、患者
pylori(H. pylori )陽性であった。H. pylori 感染の
は各副作用の程度を尋ねられた。治療アドヒアラン
定義は、迅速ウレアーゼ試験で陽性を示すこととし、
スの不良は全薬剤服用の 90% 未満と定義し、除菌
組織あるいは培養検査にて H. pylori 感染の最終確
判定は治療終了 4 ~ 6 週間後に尿素呼気試験にて
認をした。
施行した。
研究の適格基準を満たし、同意の得られた 198
例がエソメプラゾール40 mg を食前、メトロニダゾー
培養と抗菌薬感受性試験
ル(MNZ)500 mg、アモキシシリン1,000 mg、クラ
採取されたすべての生検組織はチオグリコール酸
リスロマイシン(CAM)500 mg を食後に1日 2 回
培地に無菌的に置かれ、内視鏡検査後 2 ~ 4 時間
10 日間服用した。198 例中 124 例( 63%)は培養と
以内に H. pylori 菌の分離が施され、その後、生検
感受性検査の目的に前庭部から 2 つの生検標本が
サンプルは無菌のガラス玉で活発に攪拌され、抗
採取された。除外基準は 18 歳未満、重度の合併症
菌薬を含んだ寒天プレート上で微好気性条件のも
を有する、胃切除、胃あるいはその他の悪性腫瘍、
と、37℃で最長 7 日間培養が行われた。抗菌薬の
研究に使用する薬剤にアレルギーがある、重度の胃
感受性検査は E-test ストリップを利用する 10% の
食道逆流症、1 カ月以内の抗菌薬、ビスマス製剤、
馬血液で補われたミュラー・ヒントンの寒天培地上
で行われた。細菌の運動性および形態は球状形の
Georgopoulos et al.
に接種に先立って検査された。感受性検査の結果
Patients evaluated (n = 510)
は培養の 72 時間後に行われ、最小発育阻止濃度
Excluded (n = 280),
negative for H.pylori
Patients assigned to 10day “concomitant regimen” (n = 198)
As second line tx
(n = 33)
Lost to follow up (n = 2)
Discontinued therapy
(n = 4)
PP
analysis {
First line tx (n = 159)
ルを基準にクラリスロマイシン> 1、レボフロキサ
キシシリ> 0.5 とした。
Excluded (n = 32) not
meeting the inclusion
criteria (n = 25) refused
informed consent (n = 7)
As first line tx
(n = 165)
(l g/mL)のカットオフ値は標準的な欧州プロトコー
シン> 0.5、テトラサイクリン> 1、MNZ > 8、アモ
Patients infected by
H.pylori (n = 230) (45%)
ITT
analysis {
存在を回避するために、位相差顕微鏡法によって常
Discontinued
therapy (n = 2)
Second line tx (n = 31)
diagram
of the
progress
of patients
through
the study.
図 1.1Flow
Figure
Flow
diagram
of the
progress
of patients
through
the study.
culture and antibiotic susceptibility tests. All patients
had an endoscopy-based diagnosis of peptic ulcer disease, nonulcer dyspepsia with or without mild gastroesophageal reflux disease (i.e., nonerosive reflux
disease, esophagitis of first or second degree according
to Los Angeles classification system). Exclusion criteria
were: age under 18 years, presence of severe comorbidities (i.e., liver cirrhosis, renal failure, severe cardiovas-
結 果
510 例の患者のうち 230 例( 45%)が H. pylori 陽
性であった。最終的に 198 例の患者が 10 日間の 4
剤併用療法を受け、165 例は過去に除菌歴はなく、
残りの 33 例は過去に除菌に失敗した症例であった。
一次治療を受けた患者のうち、2 例は試験の途中で
脱落し、4 例は重度の副作用のために治療が中断さ
れた。
併用療法の効果は一次除菌率として Intentionto-treat お よ び per protocol 解 析 に て 91.5 %、
31
lori eradica, and 2 PPI/
nts received
were lost to
eatment preents. These
reat analysis
econd line
n = 33)
7/16
51.5
7
1
(53.3/46.7)
(12.4)
(21)
(3)
ond-line
group) discontinued
prematurely
cases,
respectively.
Less frequenttreatment
were dizziness
(5%)
because
of gastrointestinal
severe side effects
namely, severe
and
other
disturbances
like bloating,
bloating
epigastric
pain pain
and vomiting,
dizziness,
andvomiting
trouble(6%),
epigastric
(4.5%), nausea
(3.5%),
some
valanoposthitis
with
coexisting
mild
(3%), and stomatitis or glossitis (3%). Adverse cardiac
effects
arrhythmia
(transient supraventricular
extrasystoles).
like
cardiac arrhythmia
and allergic rash
were only
No adverse effect
was (0.5%
fatal oreach).
required
hospitalization.
infrequently
recorded
Overall
6 patients
All events experienced by the patients disappeared as
soon as the eradication treatment was stopped or disTable
pylori
eradication
rates
of the
10 day
treatcontinued.
Adherence
to
wasconcomitant
excellent
and
 pylori
eradication
rates
oftreatment
the
10 day
concomitant
treatment
表
1.2H.H.
ment
presented
second-line
groups
comparable
firstandtreatment
second-line
presentedinamong
infirstfirst-and
and
second-line
treatment
groupstreatment
groups (98.5%, 95% CI 97–99% vs 96.3%, 95% CI
H.
pylori eradication
ITT (%)
PP (%)
p-value
90–100%).
First line
151/165 (91.5)
151/159 (95)
76/79
(96.2)b on.8a
Without
cultureResistance
76/84
(90.5)a
Antibiotic
Patterns
and
Impact
a
With
culture
75/81
(92.6)
75/80
(93.7)b
.7b
H. pylori Eradication Rates
Second line
20/33 (60.6)
20/31 (64.5)
a
Helicobacter
patterns
in5/5patients
Without
culturepylori resistance
5/5 (100)
(100)b without
.1a
b
b
With
(53.6)aeradication
15/26 (57.7)
andculture
with a previous 15/28
H. pylori
trial are.1illus-
trated in Table 4. Primary resistance to CLA and MET
33 (100)
0
0
ITT, intention to treat analysis; PP, per protocol analysis.
awas recorded in 25 (31%) and in 35 (43.7%) of 80
Comparisons between groups with and without culture in ITT
patients, respectively. Among them 10 patients (12.5%)
analysis.
bharbored resistant strains to both CLA and MET (dual
Comparisons between groups with and without culture in PP
resistant). Primary resistance to LEV was recorded in
analysis.
only eight patients (10%), five of whom were also
single CLA (13 of 15, 87%, p < .015) and dual (CLA
and MET) (7 of 10, 70%, p < .02) resistance. The effect
of single CLA, single MET, and dual resistance on
H. pylori eradication rates with concomitant therapy
and the relative comparisons are shown in Table 5. In
Table
Eradication rates
rates inin firstfirst- and
and second-line
second-line treatment
treatment with
with
表
2.5Eradication
concomitant
regimen according
to H. pyloritoantibiotic
concomitant
regimen according
H. pylorsusceptibility
i antibiotic
pattern susceptibility pattern
Susceptibility pattern
First line
(n = 80) (%)
METS CLAS
METR CLAS
METS CLAR
METR CLAR (dualR)
LEVS
LEVR
30/30
25/25
13/15
7/10
67/72
8/8
(100)
(100)
(87)
(70)
(93)
(100)
p-value
1a
.015a
.02a
Second line
(n = 26) (%)
7/7
1/2
4/5
5/12
13/19
4/7
(100)
(50)
(80)
(42)
(68)
(57)
p-value
.4b
.8b
.04b
MET, metronidazole; CLA, clarithromycin; LEV, levofloxacin; S, sensitive; R, resistant.
a
Comparison was done with first-line METS CLAS group.
b
Comparison was done with second-line METS CLAS group.
© 2013 John Wiley & Sons Ltd, Helicobacter 18: 459–467
© 2013 John Wiley & Sons Ltd, Helicobacter 18: 459–467
463
95%、二次除菌率はそれぞれ 60.6%、64.5%であっ
例の CAM および MNZ2 剤感受性例、25 例の MNZ
た( 表 1)。治療の副作用は 198 例中 80 例( 40%)
単剤耐性例、8 例のレボフロキサシン単剤耐性例の
で記録されたが、そのほとんどが軽度から中等度で
すべてを除菌することができた。2 剤感受性例に比
あった。二次除菌を受けた患者の方が副作用の頻
して CAM 単剤耐性( 87%、p < 0.015)、CAM およ
度がより高かった( 55% 対 38%)。味覚障害と下痢
び MNZ2 剤耐性( 70%、p < 0.02)の除菌率は有意
がそれぞれ 26.3%、13.6% で最も頻度の高い副作用
に低かった(表 2)。培養検査で H. pylori 菌が陽性
であり、不整脈とアレルギー性皮疹の頻度は低く、
であり、抗菌薬感受性試験を施行した一次除菌例
各々 0.5%であった。6 例( 3%:一次除菌 4 例、二
に対して除菌に影響する因子の単変量解析を行っ
次除菌 2 例)は重篤な副作用(重度の膨満、心窩部
たところ、CAM および MNZ の 2 剤耐性以外に有意
痛、嘔吐、めまい、不整脈)を発生したため治療が
な因子はなく、多変量解析でも同様の結果であっ
中断された。
た。
CAM と MNZ の一次耐性は 80 例中、それぞれ 25
例( 31%)、35 例( 43.7%)に認められた。これらの
うち 10 例( 12.5%)は CAM と MNZ の 2 剤 耐 性 で
考 察
CAM 耐性の増加は従来の 3 剤併用療法を用いた
あった。レボフロキサシンの一次耐性は 8 例( 10%)
H. pylori 除菌率を徐々に低下させる。ギリシャにお
であり、このうち 1 例は CAM、3 例は MNZ、1 例は
い て CAM と MNZ の 耐 性 率 が 比 較 的 高 い た め
CAM と MNZ との多剤耐性例であった。一方、二
(CAM 20% 以上、MNZ 約 40%)、従来の 3 剤併用
次除菌例の CAM、MNZ、レボフロキサシンの二次
療法では除菌率がすでに低く、一次除菌法を変更
耐性率はそれぞれ 65%、54%、27% と一次耐性より
すべきと考えられている。このため、我々は従来の
高い結果であった。アモキシシリンとテトラサイク
3 剤併用療法に MNZ を加えたビスマス製剤を用い
リンの耐性例は 1 例も認めなかった。
ない 4 剤併用療法を検討した。ビスマス製剤を用い
全体の除菌率は、抗菌薬感受性群および CAM ま
ない連続療法も研究対象とする治療法候補であった
たは MNZ 単剤耐性群(それぞれ 100%、91%)の方
が、この治療は CAM 耐性や 2 剤耐性の低い地域に
が 2 剤耐性群( 55%)と比較して有意に高率であっ
は有効であると報告されているが、これらの高い地
た( p < 0.0001)。今回の 4 剤併用療法により、30
域ではその効果は未だ疑問が残っている。
32
クラリスロマイシン耐性の高い地域におけるエソメプラゾール、メトロニダゾール、アモキシシリン、クラリスロマイシンを用いた 10 日間除菌治療の臨床的評価
我々はこの除菌治療を主に一次治療として用い、
ある。タイで行われた最近のパイロット研究は、5
従来の治療で失敗した少数の症例に対しては二次
日間の治療が 90% の容認されたレベルより低い除
治療として行った。結果として、一次治療は高い
菌率であったと報告し、さらに、ラテンアメリカか
除菌率を得ることができたが、二次治療は十分な
らの別の多施設研究でも、5 日間の併用療法は非常
成績ではなかった。本研究は 10 日間の 4 剤併用療
に低い成績であったと報告した。我々の研究の限界
法の効果を二次治療にて検討した最初の報告であ
は、抗菌薬の培養と感受性検査を十分な症例数で
るが、抗菌薬の耐性率が極めて高率であったため、
測定することができなかったこと、さらには、我々
その除菌率は期待はずれであった。しかしながら、
の研究の成績がギリシャ全体を反映していないこと
全体としてこの除菌方法で高い除菌率を得ること
にある。
ができたのは、おそらく抗菌薬の単剤耐性株に対す
結論として、10 日間のビスマスを用いない 4 剤
る除菌率が高かったことに起因していると考えられ
併用除菌治療は MNZ や CAM の高い耐性を有する
る。
地域においても有効で安全な治療法である。多変
治療のアドヒアランスは良好であったが、数人の
患者が重篤な副作用を経験し、治療早期に中断し
量解析では CAM と MNZ の 2 剤耐性のみが治療失
敗を予測する唯一の独立した因子であった。
たが、最終的には除菌が可能であった。5 日間の治
療が 10 日間の治療と同様の効果があるかは疑問が
従来の 3 剤併用療法にメトロニダゾール(MNZ)を
予測する独立した因子であったし、単剤耐性例では良
加えた 10 日間の 4 剤併用療法の成績と副作用を検討
好な除菌成績が得られている。しかしながら、CAM、
したギリシャからの 報告 である。ギリシャでは 現在、
MNZ の二次耐性率はそれぞれ 65%、54% と高いた
MNZ とクラリスロマイシン(CAM)の一次耐性率が
め、著者らも論じているようにこのレジメでの二次除
高いことから、著者らは従来の 3 剤併用療法に代わる
菌例に対しては限界のようである。今後は二次耐性例
このレジメが除菌効果と安全性の面からも一次除菌治
や多剤耐性例に対する新たな除菌法の検討が必要であ
療として推奨している。
ろう。本邦での MNZ の一次耐性率はまだ低率である
本論文では抗菌薬の感受性と除菌率について詳細に
検討し、CAM と MNZ の 2 剤耐性のみが治療失敗を
が、今後、CAM と同様に MNZ 耐性が増加した際に
はこのレジメも選択肢の 1 つとなるかもしれない。
33