植物の倍数体の解析

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植物の倍数体の解析
はじめに
植物の倍数性を検定するために、染色体数を顕微鏡下で計数する方法は、長い時間と労力を要していましたが、フロー
サイトメトリーを利用することにより、非常に簡便に短時間かつ正確に測定を行うことが可能となりました。
フローサイトメトリーに使用するサンプルは単一な細胞の懸濁液でなければならないため、植物の場合はプロトプラスト
にする必要があり、その使用に制約がありました。ところが、1983 年に Galbraith らの報告によって、植物をカミソリで
Chopping することにより細胞核を遊離させることで簡便に測定を行うことが可能となりました。またこの方法により倍数
体の解析のみならず、細胞周期やキメラ状態の解析を行う事が可能となります。
原理
植物細胞を染色液の中で chopping することにより、細胞核を遊離させ、DNA に特異的に結合する蛍光色素で遊離した
核を染色し、その蛍光量から DNA 量を検出します。
蛍光色素は、DNA への結合様式でいくつかに分類されます。
以下に代表的な蛍光色素を示します。
色素名
結合様式
コメント
使用レーザー
蛍光
PI
(プロピジウムイオダオド)
DNA2重鎖への
Intercalation
DNA 含量によく相関
(空冷・水冷)
Arレーザー
(488nm)
630nm
7ADD
(7-アミノアクチノマイシンD)
G-C塩基対によく
結合
多重染色に用いられる
(空冷・水冷)
Arレーザー
(488nm)
655nm
Hoechist33342
(ヘキスト33342)
A-T塩基対によく
結合
生細胞の DNA 染色可
水冷Arレーザー
(351~364nm)
460nm
TO-PRO-3
DNAに結合
多重染色に用いられる
He-Neレーザー
(633nm)
661nm
DAPI
A-T塩基対によく
結合
蛍光顕微鏡観察によく用
水冷Arレーザー
(351~364nm)
460nm
いられる
サンプル調製
1.
葉 1 枚(2cm2 以上)を用意します。
(試験管内の葉は 2~3 枚、胚様体・カルスは 5mm3 以上)
2. 中肋を除き、カミソリで切りやすい大きさにします。
(試験管の葉はそのまま茎も含め使用)
3.
6cm シャーレに chopping Buffer 1.2mL を加え、葉を湿らせます。
4.
カミソリで細かく刻みます。(新しい刀で細かくすることがポイント)
5.
chopping Buffer を 0.6mL 添加後、25 又は 27μmのステンレスメッシュを通します。
6.
1.5mL エッペンドルフチューブにサンプルを入れ保冷します。
7.
1000rpm,2 分間遠心し、上清を捨てます。
8.
chopping Buffer で 500μL にメスアップします。
9.
FCM にて測定
<chopping Buffer>
1.0% Triton X-100
140mM 2-メルカプトエタノール
50mM NaHSO3 又は Na2SO3
50mM トリス塩酸(pH7.5)
25μg/mL PI
“アリウム属に属する新規植物およびその育種・増殖法” 田上ら
特関平 7-50946 の方法による
データ例
みかんの倍数性の解析データです。図1は、2倍体のサンプルのデータです。
図2は半数体~5倍体のヒストグラムデータを重ね書き表示したものです。
図1
SINGLE PARAMETER
1X
2X
3X
4X
5X
図2
九州東海大学農学部果樹園芸学教室 國武久登先生より
データをご提供いただきました。
上記の方法により柑橘類(ミカン、カラタチ、キンカン等)、ネギ属(ニラ、タマネギ、ワケギ、ネギ)、レタス、サツマイモ、
アスパラガス、アルファルファ、シバ、ユリ、 ツツジ、ツバキの花弁、シクラメン、イチゴなどで DNA 含量およびその倍数
性が解析されています。
参考文献
三柴啓一郎 三位正洋 :植物細胞への応用:細胞工学 Vol.17 No.4 1998
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Application Note 3
CE1006 0610