第 62 回神奈川腎炎研究会 突然に発症し光顕で多くの糸球体に分葉化を認めた ネフローゼ症候群の一例 久 野 芳 裕 1 式 田 康 人 1 矢 尾 淳 1 甲 斐 恵 子 1 鎌 田 一 寿 1 宇 田 晋 1 病理コメンテータ 山 口 裕 2 城 謙 輔 3 症 例 入院後経過① 症 例:76 歳男性 ・入院後も多量の尿蛋白は持続し,体幹部まで 主 訴:両下腿浮腫 現病歴:入院の約 1 ヶ月前の尿検査では異常 なし。 浮腫が拡大。さらに低アルブミン血症に伴う 血管内脱水と利尿薬使用で腎機能も増悪傾向 を示した。 ある日突然両側下腿に点状の皮疹および浮腫 を自覚。虫刺症と思い経過をみていたが次第に ・入 院 後 第 4 病 日 よ り プ レ ド ニ ゾ ロ ン 50mg/ day で治療開始 浮腫は増悪。当院皮膚科を受診したところ,尿 ・第 27 病日,開放的腎生検を施行 蛋白(4+)であり当科を紹介受診。 諸検査の結果,ネフローゼ症候群と診断。精 査目的で入院。 既往歴:高血圧症(2010 年より治療開始), 脊柱管狭窄症,変形性膝関節症,前立腺肥大症 家族歴:特記すべきことなし,腎疾患なし 嗜好歴:喫煙:20 本 / 日 20 ~ 50 歳 䛆⭈⏕᳨䠖LM䛇 内服薬:フロセミド,カンデサルタン,アム ロジピン,ナフトピジル,ディユタステリド, メコバラミン,芍薬甘草湯 入院時現症:身長 165cm,体重 89.7kg(普 段 は 79kg),BT 36.6 ℃,BP 131/71mmHg, HR 77bpm,SPO2 94%(room air) 両側下腿浮腫著明, 色素沈着が散在する以外, 特記すべき異常所見を認めず (1 (2 (3 䛆PAS䛇 図1 関東労災病院 腎臓内科 山口病理組織研究所 Key Word:ネフローゼ症候群,メサンギウム増殖性糸球体腎 炎,半月体形成 東北大学大学院医学系研究科 病理病態学講座 ― 147 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 入院時検査所見 【尿検査】 1.039 尿比重 混濁 (+) PH 6.5 4+ 尿蛋白定性 1日尿蛋白定量 18.8 3+ 糖 ケトン (-) U-RBC 50-99 U-WBC 50-99 <1 顆粒円柱 卵円形脂肪体 (+) 細菌 (2+) 10-19 腎上皮 尿中赤血球変形率58.7 NAG 193.4 Selectivity Index APTT PT PT-INR g/day /HPF /HPF /LPF /HPF % U/L 0.32 【血算・凝固】 WBC 7100 RBC 424×104 Hb 13.4 Plt 13.4×104 /uL /uL g/dL /uL 28.7 104 0.98 sec % LDL TG 224 mg/dL 155 mg/dL HbA1c (NGSP) 【生化学】 TP Alb BUN Cr UA Na K Cl Ca P AST ALT LDH CK CRP 随時血糖 3.8 g/dL 1.5 g/dL 34 mg/dL 1.62 mg/dL 7.3 mg/dL 141mmol/L 4.1mmol/L 109mmol/L 7.1 mg/dL 4.0 mg/dL 26 IU/L 15 IU/L 254 IU/L 239 IU/L 0.29 mg/dL 103 mg/dL eGFR T-chol HDL 33.0mL/min 312 mg/dL 53 mg/dL 5.2 【血清】 IgG 534 mg/dL IgA 335 mg/dL IgM 152 mg/dL IgE 402 IU/mL CH50 47.8 U/mL クリオグロブリン (-) 抗核抗体 MPO-ANCA PR3-ANCA 抗GBM抗体 䛆⭈⏕᳨䠖IF䛇 㻵㼓㻳 㻵㼓㻭 㻵㼓㻹 䛆PAS䛇 䛆PAM䛇 図2 図3 ― 148 ― 40X (-) (-) (-) HBs Ag (-) HCVAb (-) TP (-) HIV (-) ヒトパルボウィルスB19 IgM (-) 8 䛆⭈⏕᳨䠖LM䛇 % 第 62 回神奈川腎炎研究会 䛆⭈⏕᳨䠖IF䛇 㻯㻟 㻯㻝㼝 㻯㻠 㼒㼕㼎㼞㼕㼚㼛㼓㼑㼚 図5 図8 䛆⭈⏕᳨䠖IF䛇 䛆⭈⏕᳨䠖EM䛇 㼘㼍㼙㼎㼐㼍 図6 図9 䛆⭈⏕᳨䠖EM䛇 䛆ධ㝔ᚋ⤒㐣 䐠䛇 㻟㻜 20 18 㻡㻜㼙㼓㻛㼐㼍㼥 㻟㻡 㻞㻡 㻣㻚㻡 3.5 14.3 10.9 3 11.6 2.5 10 8 4 2 7.7 7 UP 4.3 2.4 2.6 1.9 0 図 10 ― 149 ― 㻝㻜 ⭈⏕᳨ 14 6 図7 㻝㻡 㻞㻜 4 18.3 16 12 㻠㻜 1.6 1.6 2 sͲAlb 1.5 0.9 0.86 0.3 0.22 0.13 0.13 1 SͲAlb (g/dL) PSL UP (g/gCr) 㼗㼍㼜㼜㼍 䛆⭈⏕᳨䠖EM䛇 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 本例のまとめ 1.下腿の皮疹とともに突然発症したネフローゼ 症候群であった。 2.病理学的には軽度~中等度のメサンギウム細 胞増殖,分葉化病変および半月体形成を伴っ ていた。 3.血清学的検査などから糸球体腎炎の明らかな 原因は究明できなかった。 4.臨床経過としてステロイド治療が有効であっ た。 疑 問 点 ・ネフローゼ症候群の原因として糸球体係蹄内 に好中球の遊走を認めたことから感染に関連 した腎炎ととらえて良いか。 ・下肢皮疹との関連性,さらには電顕で認めら れた deposit が有意な所見であるか否か。 ・糸球体腎炎の原因は何か。 ― 150 ― 第 62 回神奈川腎炎研究会 せん。 討 論 尿検査ですけれども,比重はかなり濃く,尿 蛋白は定性で 4(+) 。これは,その後の蓄尿と 松井 では,2 番目の演題に移らせていただき いうことになりますけれども,1 日 18.8g 出てお ります。赤血球も 50-99/HPF ということで,中 ます。「突然に発症し光顕で多くの糸球体に分 葉化を認めたネフローゼ症候群の一例」 。関東 します。 等量出ております。変形率が 58.7%ということ でした。Selectivity index は 0.32 という値になっ 久野 関東労災病院の腎臓内科,久野といいま ております。 す。よろしくお願いいたします。 血算・凝固は特記すべきことはありません。 「突然に発症し光顕で多くの糸球体に分葉化 を認めたネフローゼ症候群の一例」を発表いた 次は生化学と免疫検査となりますけれども, 総蛋白 3.8,アルブミン 1.5 と大きな低下を示し します。 ております。またクレアチニン値の上昇を認め 症例は,76 歳,男性で,主訴は両下腿浮腫 ておりました。ベースに特に糖尿病などはござ です。 いません。 労災病院,久野芳裕先生,よろしくお願いいた 現病歴としましては,入院の 1 カ月ほど前に 免疫のほうは,抗核抗体や ANCA などは陰 尿検査では異常がありませんでした。ある日, 性でして,感染も陰性であります。 突然の両側の下腿の点状の皮疹および浮腫を自 入院後の経過です。入院後も尿蛋白は持続し 覚されまして,初めは虫刺されと思って経過を ておりまして,浮腫が体幹部まで拡大しており まして,血管の RAS に伴うと思われる利尿薬 見ていたようなのですけれども,次第に浮腫が の併用もありますので,腎機能がさらに増悪し 増悪してきました。当院の皮膚科を受診されま して,そのときの検査で尿蛋白 4(+)という ことで,当科を紹介受診されております。諸検 てしまいました。なので,そのレスキュー的な 意味も併せて,入院後第 4 病日より,プレドニ 査の結果,ネフローゼ症候群の診断で,精査目 ン 50mg の内服を開始しております。 的に入院されております。 その腎機能が増悪したことや,かなり体幹部 既往症ですけれども,高血圧症を指摘されて の浮腫も強くてということもあり,もともと おりまして,2010 年から治療開始になってお ファッティということもあったので,出血等の ります。ほか,以下のようなものがあります。 リスクなども考えて,開放腎生検を行っており 家族歴としては,特記すべきことはありませ ます。 ん。 腎疾患をお持ちの方もいらっしゃいません。 嗜好歴として,以前 30 年間,1 日に 20 本程度, こちらに,簡単にですけれども組織を供覧し ます。計 55 個の糸球体を得られておりまして, そこそこ多い量の喫煙をされていたようです。 1 つは全節性硬化でした。ほぼ全ての糸球体で 初診時の内服薬は以下となっております。 現症としましては,体重はもともと 79kg, びまん性に軽度の mesangium 細胞の増殖等を認 めております。そのうち 3 個で,細胞性,また 若干ファッティな感じなのですけれども,それ がプラス約 10kg 増えている状況でした。血圧 は線維細胞性の半月体も認められました。 この左の写真で mesangium 基質の増生を認め は 131 と,高血圧というほどではありません。 る糸球体です。また,右では線維細胞性を伴う 内服はしておりますけれども。 糸球体が見られております。 所見としましては,両側下腿浮腫が著明でし て,色素沈着が散在しておりましたけれども, こちらは同じ糸球体なのですけれども,PAS と PAM 染色です。分葉化,なしは結節性と見 それ以外の特記すべき異常所見は認めておりま られるような糸球体変化を認めております。表 ― 151 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 題に「多くの」とありましたけれども,こうい も,糸球体腎炎の今回のネフローゼの原因とし うふうなかたちで見られたのは,そこまで数と しては多くはありませんでした。congo red 染 て,どういった腎炎が考えられるかというとこ 色に関しては,ちなみに陰性でした。 次 に IF で す。IF は 今, 流 し て い き ま す が, 思います。以上です。 全てネガティブという結果になっております。 今までの臨床経過等でご質問,コメント等は 次に電顕です。矢印のところに好中球と思わ ありますでしょうか。 れる炎症細胞の浸潤を認めております。 こちらは mesangium 領域だと思いますが,沈 金綱 慈恵医大柏病院,病理の金綱と申します。 着物がべたっとくっついているような状況は全 ただきましたが,下肢に皮疹があったというの 体的に認められていました。 が,かなり重要な所見ではないかと思います。 場所はちょっと違うのですけれども,少し拡 その皮疹について,何か診断名が付いているか 大すると,見方によっては不規則にもやっと線 どうか。もしくはバイオ,あるいは組織等を取 維状といっていいのか,何とも,われわれは分 られているようでしたら。 からなかったのですけれども,見られるような 潰瘍があったのであれば,例えばそこから何 組織があります。 らかの細菌感染が証明されているかどうか。あ また,この右の写真ですと,やや基底膜が薄 るいは,もしかして,そこの皮膚のところで, いような印象があります。また,足突起様が認 例えば白血球破砕性血管炎とか,何らかの血管 められます。 炎的な所見が見つかっているかどうか。そのへ その後の経過です。ステロイド 50mg の内服 んはいかがでしょうか。 をしまして,1 カ月。その後,適宜減らしていっ たわけなのですが,尿蛋白は約 1 カ月たったこ 久野 来られたときに,皮膚科のほうでカルテ ろから,徐々に改善傾向を示しまして,同時に あったのですけれども,腎臓内科に来られて, 腎機能,ないしこの赤線のアルブミン値も改善 実際にわれわれのほうに来て,入院して見てみ してきておりまして, 現在も外来で, 直近のデー タだと 5mg まで減らせております。 ると,色素沈着が網目状に少し残っている程度 まとめですけれども,下腿の浮腫とともに突 面が出ているような本当に潰瘍のような潰瘍と 然発症したネフローゼ症候群でありました。病 理学的には,軽度から中等度の mesangium 細胞 いう所見はありませんで,特に皮膚科のほうで 増殖,または分葉化と思えるような病変ないし, こからの培養といったところも,向こうでは検 半月体形成を伴っておりました。血清学的検査 査されずに,それは自然に色素沈着だけで残っ などからは,糸球体腎炎の明らかな原因は究明 ているようなかたちで終わってしまっていま できませんで,結果,ステロイドは治療に効果 す。 的だったということになっております。 金綱 どうもありがとうございます。 疑問点としまして,原因として糸球体係蹄内 松井 はい。城先生。 の好中球の遊走などを認めていたことから,何 城 その色素沈着は,出血の痕のブラウンの沈 かしらの感染などに関連した腎炎の可能性があ 着なのですか。色素沈着の原因は何ですか。 るのかどうかという点と,下腿の皮疹との関連 久野 出血の痕と言っていいのか分からないで 性があるのかどうかです。それから,臨床的な すけれども,確かに茶色く少しあざが残った痕 病名ということになるのかもしれませんけれど のような感じと言いますか。そういう色で,そ ろを,皆さん,先生方にお教えいただければと 松井 久野先生,ありがとうございます。 感染症かな,血管炎かなと思って聞かせてい を拝見すると,潰瘍というかたちでは書いては で,いわゆる表皮が剥離しているような,粘膜 も,病理を含めて検査もされておりません。そ ― 152 ― 第 62 回神奈川腎炎研究会 れは今も残っているような状況なのです。 城 要するに HSPN(Henoch-Schonlein purpura たとか,それに伴うような症状があったとか, nephritis)のときに出てくる,出血後の色素沈 のがあったわけでもないということで。 着とは違いますか? 長濱 本人の自己申告だけで? 久野 出血というのはなかったと思います。特 久野 本人が言っていただけということです。 に皮膚科のほうでも,そういった指摘はありま 長濱 ほかに証明できるものはないという? せんでした。 久野 はい。なので,本当に刺されたかどうか 松井 ほかに,どなたかご質問のある先生はい も分からないということなのですけれど。 らっしゃいますか。日高先生,どうぞ。 長濱 ありがとうございます。 日高 湘南鎌倉の日高と申します。 松井 感染のことは,ちょっとよく分からない ちょっと見落としてしまったのかもしれない のですけれども,尿蛋白の次に,尿糖が 3(+) ということですね。 と書かれていたように思って,A1c とか,糖尿 人の自己申告の範囲ということになってしま 病が,この方はあるのかないのかを明確に教え う。 ていただければ。 松井 初めの皮膚病変というのは,紫斑とか。 久野 糖尿病の指摘は受診された時点ではあり ま せ ん。 こ ち ら,HbA1c も NGSP で 5.2 % と い 久野 紫斑というわけではなかったです。あく うことで,これはもちろん普通に食事,生活を 記載だけだったのですけれども,もううちに来 されている中での値です。随時血糖も初診で 103 ということで,決して異常値ではないとい られたときは,少なくとも潰瘍がないというこ うことで,少なくとも臨床学的な検査で分かる 松井 ありがとうございます。ほかにございま 範囲での糖尿病の毛といったものはないように せんでしょうか。そうしましたら,病理の先生 思います。 からコメントをいただいてよろしいでしょう 日高 OGTT は施行されて? か。城先生からお願いします。 城 【スライド 01】この糸球体を見ますと,糸 虫刺されに伴うような感染の疑われるようなも 久野 そうですね。はっきりしたことは,ご本 までも色素沈着と一部潰瘍があったのかという とです。色だけが残っているような程度です。 久野 それはしていないです。 日高 眼底の所見等は何かありますか。 球体は mesangium 領域の拡大があって細胞増 久野 眼底も確か受診はされていなかったと思 多もあります。明らかにここには管外性病変, fibrocellular crescent があるので,腎炎がかぶっ います。ただ, ステロイドを始めた経過の中で, ていることが疑われます。 【スライド 02】それから,尿細管はご覧のよ 血糖が少し上がってきていました。 松井 ほかに,ご質問ございませんか。 長濱 日本医大病理の長濱と申します。 たまに mosquito bite-induced の minimal-change うに近位尿細管にかなり強い障害があります。 acute tubular necrosis がかぶっています。間質は とかを経験するのですけれども,この人は虫刺 浮腫性です。76 歳ということですが,血管系 症はあったのですか。 はっきりしないのですか。 久野 それは,はっきりしないのです。来られ にはさほど強い硬化はないです。 【 ス ラ イ ド 03】mesangium 領 域 の 拡 大 に,me- たときには,もうそういったような刺し跡も含 sangium 細胞増多が加わって。それから,分節 めてですけれども, 全部なくなっておりまして。 性に細胞増多があって,その周囲の podocyte が 長濱 感染症があったというのは,よく分から 賦活しています。尿細管の障害が強い。 【スライド 04】PAS 染色で見ますと,かなり強 ない? 久野 そうなのです。特に,例えば,お熱が出 ― 153 ― い mesangium 細胞増多があります。それから, 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 んが写真には撮ってきませんでした。線維性半 月体は,多くはないですが 4%になります。分 こういう halo を持った細胞は macrophages と思 いますが多少 macrophage 浸潤が加わっていま す。 【スライド 05】これはもっと炎症が強い場所で す。先ほどよりも強い macrophages の浸潤を認 節性硬化が 2%。 【スライド 11】基底膜には特に二重化,spike, bubbling はありません。糸球体の腫大もありま せん。 めます。背景としては mesangium 細胞増多があ ります。しかし,好中球の浸潤は,PAS であれ 【スライド 12】間質ですけれども,ネフローゼ ばはっきり出てまいりますけれども,好中球浸 の影響だと思いますが,間質が浮腫性に拡大を しております。 潤は目立ちません。 【スライド 06】やはり管外性病変があるという ことは,明らかに糸球体腎炎があった 1 つの証 【スライド 13】約 20%の間質には,好中球は出 ていません。リンパ球が約 10%。赤血球円柱 拠になると思います。 【スライド 07】尿細管障害ですけれども,ne- があります。 【スライド 14】先ほど何回かお示ししましたが, phrotic なときには,近位尿細管に蛋白尿の負荷 がかかり,好フクシン性の顆粒が強く出てまい 近位尿細管に急性尿細管壊死を認める。 【スライド 15】感染症がある場合には,間質に ります。しかし,これを見ますと,まだらです。 好中球が少しでも出てくることがあります。そ 一旦ネフローゼで近位尿細管が腫大した後に, まだらに ATN が加わっている変化と思います。 れから,糸球体にも好中球が出てくることがあ 動脈には,年齢を考慮して動脈硬化はほとんど 中球が出ていないということが言えるのではな ありません。 いかと思います。要するに,必ずしも本症例は りますけれども,その意味では,特に間質に好 それから,遠位尿細管に強い拡張があって, その中に cast が見られます。しかし,この病変 感染症ではないと言えるのかも知れません。 【スライド 16】それから,血管系は,年齢を考 が全体の中で多いわけではありません。目立つ のはこの 1 カ所ですので,どのぐらいの病的な 慮して動脈硬化はほとんどありません。この Non-IgA の mesangium 増殖性糸球体腎炎,この 意味があるのかは分かりません。ネフローゼが 言葉は病理医としては使いたくない言葉です。 背景にありますので,nephrotic な影響を見てい 新潟大学の荒川正昭先生の教室では,この Non-IgA の mesangium 細胞増殖のパーセントが る。hyaline cast と思います。 【スライド 08】これを見ますと,あれだけ強い 非常に多いですけれども,大体は MPGN の sub- mesangium 細胞増多があって,もし感染があれ siding,あるいは,急性腎炎の回復期に免疫複合 ば,ほとんどの症例は IgA が陽性になってくる 体が染まらなくて,mesangium 細胞増多を残す はずです。しかし, 事実は小説より奇なりです。 事実は IgA が全く陰性です。κ・λも陰性です。 【スライド 09】管外性病変,しかも mesangium ようなタイプのものがあります。 【スライド 17】電顕です。糸球体の基底膜は薄 いです。大体 200nm 以上が正常ですけれども, 細胞増多まである,こういった糸球体腎炎様の 病変があるにも関わらず,免疫グロブリンが完 全に陰性という症例のようです。 【スライド 10】糸球体は 59 個あり,全節性硬化 200nm よりも薄い。 【 ス ラ イ ド 18】 そ れ と 対 象 的 に,mesangium matrix は逆に拡大しています。しかし,年齢を 考慮しますと,この mesangium の拡大もそれほ は 3%,mesangium 細胞増多が 21%,管内性細 胞増多が 14%。macrophages が主体です。好中 ど異常ではないと思います。糖尿病の場合は, まず基底膜の肥厚があって mesangium 基質が拡 球浸潤はごくわずかにあったのかも分かりませ 大してきますので,ここで見られる基底膜がむ ― 154 ― 第 62 回神奈川腎炎研究会 しろ薄いということから,この症例は糖尿病的 な背景は恐らくないと思います。dense deposit もないと思います。 【スライド 19】ここを見ますと,この segment は foot process effacement が広汎あります。ここ もずっとあります。MCNS の背景を考えます と,それに相応した foot process の effacement が ある。villous transformation もあります。 【スライド 20】ここに血小板が見られます。し す。ネフローゼに伴って,近位あるいは遠位に かなり強い尿細管障害があったことが疑われま す。 【スライド 26】免疫染色では,全ての免疫グロ ブリン補体の糸球体への沈着はなくて,免疫複 合体性腎炎は否定的。足突起の消失は 100%, 足細胞の微絨毛の形成が目立ちます。一方, dense deposit の沈着はなく,免疫補体性腎炎は 否定的です。 かし,電顕の世界では,どんな状況でも時々出 【スライド 27】それから,mesangium の基質は てくることがありますので,この程度の血小板 拡大しておりますけれども,濾過面を持たない が出たといって,なんら病態を意味するもので 小血管が見られません。要するに,糖尿病性硬 はないと思います。 化症に見られる糸球体病変はありません。基底 【スライド 21】多少 mesangium matrix がむらむ らしておりますが,これは dense deposit ではな 膜の肥厚もありませんし,matrix は拡大してお りますが,小血管を巻き込んでおりませんので, 糖尿性糸球体硬化症の変化はなかった。 【スライド 28】糸球体基底膜はやや肥厚してお いと思います。 【スライド 22】ここもそうです。拡大した ma- ります。 trix があって,ここに mesangium 細胞がありま す。ここに dense patch がありますので,ここの 細胞は mesangium 細胞です。 【スライド 30】以上,この症例は微小変化型ネ フローゼ症候群と診断され,ここの mesangium 【スライド 23】先ほど演者がこれを dense deposit だと言いましたが,これは,ここに mesan- 細胞増多をどう考えるかということが最後の問 gium 細胞の胞体があって,dense patch を伴な 題になります。どう見ても,現在は免疫グロブ リンが沈着しておりません。しかも IgA 腎症の い,actin filament の塊です。よく見ますと,こ 場合には,すぐ消えることがありませんので, の線維は blanching を起こしています。幅が大 体 5 から 9nm。amyloid よりは細い線維幅で,し そういうことからすれば,急性腎炎症候群のよ かもよく見ますと blanching を起こしています。 これは要するに mesangium 細胞の dense patch 由 過して,mesangium 細胞増多だけが後に残る。 うなものが背景にあって,それが少し時間が経 来 で す。 本 来,dense patch と い う の は,cytoskeleton ですので細胞の中のものですけれども, mesangium 細胞ではこの dense patch,すなわち actin filament が広範に細胞外基質のほうに根を 張っておりまして,ここにも actin filament が展 開しております。これは dense deposit ではあり ません。 【スライド 24】それから,尿細管障害が非常に 強いので,この原因もよく分かりませんが,虚 血性の変化と見るのが妥当だと思います。 【スライド 25】遠位尿細管では,一旦はがれて 再生した遠位尿細管上皮ですから,丈が薄いで しかし,免疫グロブリンを染めますと,補体す ら染まってこないような状況があり得るのかど うか分かりません。 【スライド 31】電顕的には微小変化型ネフロー ゼ症候群。急性腎炎症候群の subsiding stage と いう解釈です。diffuse mesangial hypercellularity という病気がありますけれども,この疾患はあ くまでも MCNS の valiant であって,糸球体腎 炎の疾患ではありません。 こ の 症 例 は macrophages の 細 胞 浸 潤 が あ っ て,しかも線維細胞性半月体までありますの で,これは明らかに腎炎です。ということで, diffuse mesangial hypercellularity は否定できると ― 155 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 思います。 【スライド 32】考察です。この症例は微小変化 糸球体に mesangial matrix が増えて,分葉化 しているのです。これは,PSAGN で subsiding 型ネフローゼ症候群が本症例の主軸でありま す。 分 節 性 の mesangium 細 胞 増 多, 好 中 球 浸 ですと,mesangial proliferation で収束していく 像を見ているのか。あるいは糖尿病の早期病 変で mesangium の拡大が起きているのか問題で 潤,軽度の感染性の腎炎の合併と考えられる。 半月体が見られたことから,やはり糸球体腎 炎があったことが疑われる。免疫染色で IgG, す。尿細管間質は,尿細管上皮の障害はあるの IgA,C3 が陰性で,現在,糸球体腎炎の証拠は 【スライド 03】scar です。ボウマン嚢基底膜が 保持されて,一部の tuft が巻き込まれて,恐ら ありません。しかし,もし急性腎炎症候群が subclinical にあったとして,もちろん矛盾する ですが,76 歳にしてはよく保たれた腎臓です。 く vasculitis があって起きているという感じが 言葉ですけれども,臨床的に気付かれないよう します。それから,近位尿細管の上皮障害があ な急性腎炎症候群様の背景があった場合を想定 ります。 【スライド 04】分葉状で,MPGN-like に見えな します。 いこともない。虚脱があって,lobulation が強 では,MCNS とこの急性腎炎症候群とはどう 調されている印象もあります。 関係があるのかということですけれども,foot process effacement が 100%ありますので,やは り主軸は微小変化型ネフローゼ症候群。 これに, 【スライド 05】mesangium の proliferation,endocapillary にも少し反応があって,fibrous な scar 急性腎炎症候群はきっかけとなったかはどうか か,crescent になっている。 は分かりませんが,mesangium 細胞増多を残す 【スライド 06】お年寄りなので,間質の線維 ほど,あるいは管外性病変を残すほどの腎炎の 化はやはりある程度進展していますけれども, segmental な scar が 見 ら れ て,mesangial matrix 背景が過去にあったのではないかと思われま す。患者さんが,こちらの病院に移ってこられ は増えて,分葉化がある。 たときには,過去の出来事として,現在,証拠 【スライド 07】これを見ると,最近,糖尿が多 が捕まっていないのではないかと思います。以 上です。 いので,われわれは糖尿を考えたくなるのです。 remodeling,この中に穴が開いてくると,ボウ 松井 城先生,ありがとうございます。では, マン嚢腔とのつながりのない doughnut lesion が 山口先生,お願いします。 山口 【スライド 01】この症例が奇妙なところ できてくるのですけれども,はっきりしません。 細動脈硬化症もはっきりしないです。 は, 組 織 像 が focal,segmental に 病 変 が scar み 【スライド 08】銀で見ますと,全体に虚脱して たいなかたちであるのですが,nephrotic な状態 しまったのでしょうか,虚脱によって上皮が増 えたようにも見えますし,mesangial matrix が というところです。なぜ,そんなものが,ネフ ローゼがどこで関係するのか,MCNS を持って 際立ってしまっている。 【スライド 09】1 ヵ所 fibrin が出ていそうなと くるのか,何かほかの要因を考えるかと思いま す。 ころを見つけたので,focal,necrotizing な glomerulonephritis が完全に収束してしまったとも 【 ス ラ イ ド 02】fibrous scar は, 大 体 necrotizing で 浸 出 が 起 き て,scar に な っ て,fibrous cres- 言えないのかなと。もちろん管内にも少し細胞 cent とも言えないことはないです。昔,focal nephritis とか,直接,菌が来て起こるのか,あ が入り込んできています。 【スライド 10】ボウマン嚢上皮下に foam cell が 入り込んで染み込み病変も加わっている。癒着 して,染み込みがあって,foam cell が出てきた るいはその fragment で vasculitis が起きてくるの かという問題だろうと思います。 ― 156 ― 第 62 回神奈川腎炎研究会 のかと考えさせられます。 【スライド 11】近位尿細管の lysosome が増えて tokinemia とか,いろいろな血中の状態によっ て,もしかしたら感染関連の腎炎が先行して, minimal-change の病態を合併したのかなと,糖 いる場所もあります。 【スライド 12】IF はほとんどネガティブで,C3 尿病に関してはいろいろ異論があると思いま がわずかにあるのかないのか。優位に取れるも す。 のはありませんでした。 【スライド 13】電顕が問題です。好中球は確か 【スライド 19】最近の postinfectious で glomero。 意外と skin の infection がやや多いということで に来ています。基底膜は薄いです。びまん性に foot process fusion がある。それから,mesangial す。あと尿路とか,肺です。 【スライド 20】clinical characteristics の中にフル matrix はふっくらして,棍棒状と時々私は診断 名に使ってしまう感じであります。 【スライド 14】虚脱があって,endothel がちょっ と activate さ れ て, 好 中 球 が 入 っ て, 基 底 膜 の nephrotic syndrome は, 頻 度 は 高 い の で す。 一部 fibrin が漏れているところがありましたの で,MCNS の合併と言わないで,感染関連の腎 は残っているように思いますので,hole とは 炎が先行し病態が続いてしまった。その割には 17,18g も出て説明は難しいかもしれません。 ちょっと言えない。 以上です。 【スライド 15】上皮側,内皮側による loose です。 基底膜が融解状の変化を membranolysis という 言葉を使うのですが, そこまではいかないです。 上 皮 側 に も,loose な,lamina rara externa が 少 し拡大したような,どうも MCNS にしては基 底膜の thinning があって派手なのですが,thinning は難しいように思います。 松井 山口先生,ありがとうございます。 いかがでしょうか。病理の先生方のご説明に コメント,ご質問等はありますでしょうか。 両先生ともに,現在のネフローゼの原因は minimal-change と 考 え て よ ろ し い の で し ょ う か。 城 組織学的にはそうですね。 松井 組織学的にはですが。 城 foot process effacement が広汎なので。 【スライド 16】私は今,電顕をずいぶん見てい るのですが,糖尿病の早期病変として,GBM 型と mesangial matrix 型と 2 つに分けられるの ではないかと,自分の speculation で考えていま 松井 なるほど。ただ,この症例で Selectivity index が 0.32 と 非 常 に 悪 い で す よ ね。minimal- す。GBM がいろいろな病態で薄くなったり厚 change だともっといい Selectivity index は保たれ くなったりするのでその影響を受けやすいので すが,matrix は比較的その影響が少ないです。 ていると思うのですけれども,しかし,ステロ イドの効きを見ると,まさに minimal-change で それで,癒合して大きくなって,こういうよう いいのかなと思うのです。 に丸くなったら棍棒状と私は考えます。 どなたか,この点について先生方でコメント 【スライド 17】細線維様の構造が,糖尿病の fibrinolysis にちょっと近い filament が出ている のある方はいらっしゃいますか。どうでしょう。 のではないのかと私は考えます。 【 ス ラ イ ド 18】focal segmental, あ る い は nec- 久野 はい。特に電顕のこういったべとっと付 いているようなものが mesangium 基質の変化で rotizing glomerulonephritis で,patchy tubular 起きてくることがあってという点と,糖尿病の injury。early な diabetic と,minimal-change がオー 変化でこういったところに出てくることに関し バーラップする可能性も否定はできないよう ては勉強になりました。ありがとうございまし に思います。1 例だけ急性腎炎後にネフローゼ た。 になった症例を経験していますので,hypercy- 結果的に,この方はステロイドが奏功してい 久野先生,疑問点は解決しましたでしょうか。 ― 157 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 まして,臨床的には良くなってきているので, 発症様式からそもそも MCNS に近い状況だっ 上杉 では,逆に言ったら,この人はものすご たこともあって,比較的早期で,尿蛋白も多く ですよね。 ということで,ステロイド内服で開始されてい 山口 今回あったということです。 る経過もありましたので,そういった意味では 松井 安田先生,どうぞ。 結果的には良かったかなと思っています。 安田 聖マリアンナ医大,横浜市西部病院の安 松井 上杉先生,どうぞ。 田です。とても興味深い症例をありがとうござ 上杉 筑波大学の上杉と申します。 いました。 mesangium の増殖ははっきりわかりませんで 実際にこの症例を受け持ったときのことを考 した。この人はすごく基底膜が薄い症例と思い ます。普通,糸球体の基底膜は 250 から 350nm えますと,感染後腎炎というか,感染症に関連 する腎炎が考えられて,なおかつ MCNS も考 で,普通の成人だったら 350,400nm ぐらいあ えられるというときに,ステロイドをどの時点 るので,170nm というのはとても薄くて,それ でいくか,どういう状態だったらステロイドを が全部にあったら,診断名として菲薄基底膜病 投与しても大丈夫かと,ongoing で感染症を起 は入れておかなければいけないかなと思うので こしている感染性腎炎も多いので,ちょっと悩 すけれど。菲薄基底膜病は,どこかでネフロー むと思うのです。何かそれに対して,こういう ゼになったり,mesangium が少し増えたりする 状態だったらステロイドをいっても大丈夫かと 症例もありますし, 末期になることもあります。 いう判断基準をお持ちの先生がいらしたら,意 この人は,やはり診断名として,菲薄基底膜病 見を聞かせていただきたいのですが。 と入れてもいいのではないかなと思いますけれ 松井 どなたか,ご経験のある先生いらっしゃ ども,どうでしょうか。 いますか。 山 口 今, 電 顕 を 見 て い る と,hyperfiltration とか,いろいろな状況で GBM は薄くなるので 安田 鎌田先生,何かご意見があればお願いし す。糖尿病でも,場所によっては新生 GBM が うまくいったのですけれども,実際に臨床の場 できてくるときには相当薄いです。hematuria が昔からあってという経過がないと,僕は thin で,どういう患者を診たときに,ステロイドを membrane とは立てないようにしています。結 鎌田 感染性腎炎の人は,手術の既往歴がある 果として thinning になっているので,最初から thin ではない場合があり得ることです。 とか,皮疹が出るとか,感染症を示唆する臨床 上杉 ただ,その場合はすごく薄くなっている ところをたぶん見ると思うのです。この人はす よくすることが重要と思います。それと,CRP が 0.3 以下でも明らかな動きがあったら考える ごく範囲が広いので,1 カ所だけだったらそれ べきだと思います。非常に微妙な判断になって はそうかなと思うのですけれども,すごく範囲 しまうので,私もはっきりとは申し上げられま が広いのでどうかなというのはあるのですけれ せん。 ども。 安田 ありがとうございます。 山口 以前から血尿があったという既往がない ですよね。 松井 城先生,コメントをお願いします。 城 感染の focus ですが,臨床の先生が見逃す 上杉 はい。 ところで,副鼻腔炎とか,上咽頭炎,扁桃炎と 山口 それは取りにくいと思うのです。そうい か,耳鼻科領域で見逃すような可能性がありま う既往がないと。 すでしょうか? 臨床の先生いかがですか。や く基底膜に負荷がかかるような病気であったん ます。この症例はステロイドの投与で,とても 投与するかしないかということを。 的問題を持っています。だから,臨床の観察を ― 158 ― 第 62 回神奈川腎炎研究会 はり症状がなくて,鼻汁もなければ,耳鼻科領 域の感染症の focus はあまり考えなくていいの ます。 でしょうか。いかがですか。 のですけれども,IgA 腎症型ではない,要する に補体活性型の,僕ら言っている PSAGN タイ 城 もちろん感染があって,IgA 腎症型が多い 松井 鎌田先生,どうぞ。 鎌田 私たちは,CRP が陰性でも感染性腎炎を プのものは,その後も決して IgA 腎症にいかな いで補体 C3 活性型関連腎症を伴なう感染関連 考えます。 城 そうですね。CRP はあまり示標にならない と思います。 腎炎があると思います。この症例の場合には IgA が下がっていなかったということからすれ 鎌田 実際そうなのです。CPR が全く上がらな ば,この感染症は PSAGN 的な感染症でないか いことがあるのです。その後しばらくしてから CPR が一過性に上昇したり,臨床症状が出てき なと,私は思いました。 たりするのです。ですから,CRP だけではなか ましたので,久野先生,どうもありがとうござ なか分からないので,徹底的に体を調べて,こ いました。 れだけ調べた結果,感染巣は発見できなかった 久野 ありがとうございました。 松井 よろしいですか。それでは時間もまいり という以外は,ありません。 松井 なかなかステロイドの使いどきは難しい ということでしょうか。どうぞ,乳原先生。 乳原 先ほどいくつか問題になったと思いま すけれども,感染後の場合というのは,やは り腎生検で明らかに IgA の沈着が出てきます ので,こういうことがないので,私は minimalchange でいいだろうと思うのですが,高齢者の minimal-change というのは,どうももともとの 病気を引きずっているのか,または長い人生を 生きてきたためにできあがった加齢に伴う変化 がある。若い人の minimal-change とは違って, なぜかいつも変で,FGS と診断が付いてしまっ て,ステロイドを使ったら,すぐに良くなって しまって,やはり minimal-change だったのかな とか思うような症例で,光顕だけで見ると,な かなか難しいことがあって。 この症例は,もしかしたら虫刺されかもしれ ないような傷がある。虫刺されの後の minimalchange というのは結構あるわけですから,ちょ うど IgE も高めだしということで,ぴったり合 うのかなというので,病理像,光顕だけを見る と,何か通常の minimal-change とは違うが,そ れはその人の人生を長く生きてきた何かがある のではないかな。または,糖尿病が過去にあっ たかもしれないということではないかなと思い ― 159 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 ᵧᵋᵐ ᆳỆႆၐẲή᫋ỂٶẪỉነྶ˳ỆЎᓶ҄ửᛐỜẺ ἧἿὊἎၐͅ፭ỉɟ̊ ᧙ிі໎၏ᨈ Ᏼᐥϋᅹ ʁᑷᘽ έဃẆࡸဋࡍʴ έဃẆჵރค έဃẆ ဍ૭औ ܇έဃẆᦉဋɟ ݤέဃẆܢဋା έဃ ၏ྸἅἳὅἘὊἑὊ ி҅ܖٻܖٻᨈὉҔᅹݦܖૌὉ၏ྸ၏७ࡈᜒܖ ؉ ᜐ᠒ ᇹᾅᾁ ׅᅕ߷ډᏴ໒ᄂᆮ˟ ᵐᵎᵏᵒ࠰ᾈஉᾁଐ ૿್ා 城先生 _01 城先生 _04 城先生 _02 城先生 _05 城先生 _03 城先生 _06 ― 160 ― 第 62 回神奈川腎炎研究会 ᾋή᫋ᾍ ஜỊᵐЏ༾ӕ ነྶ˳ ᵐᵍᵓᵗ̾ ᵆᵑᵃᵇỆμራࣱᄒ҄῎സ܍ነྶ˳ỆấẟềῑἳἇὅἀỸἲኬᏘٶفử ᵏᵐᵍᵓᵕ̾ᵆᵐᵏᵃᵇᛐỜῑሥϋࣱኬᏘٶفửᵖᵍᵓᵕ̾ᵆᵏᵒᵃᵇᛐỜỦẇ ἰἁἿἧỳὊἊễỤỎỆڤɶྶේửˤạẇ ዴዜࣱҞஉ˳ửᵐᵍᵓᵕ̾ίᵒᵃᵇᛐỜẆЎራࣱᄒ҄ửᵏᵍᵓᵕ̾ίᵐᵃᵇᛐỜỦẇ ၷბễỤỎỆᖎᏮỊễẟẇነྶ˳ؕࡁᐏỉᏄҽỊễẪẆᵮᵟᵫ௨ᑥỆềʚ҄ễỤỎỆ ᶑᶎᶇᶉᶃὉᶀᶓᶀᶀᶊᶇᶌᶅờᙸỤủễẟẇነྶ˳ỉᏽٻỊẝụộẶỮίᵏᵖᵎ᷈ᶋὸẇ ބኬሥῒ᧓ឋ ބኬሥỉᓨễỤỎỆ᧓ឋỉዴዜࣱὉූᏽࣱਘٻử᠉ࡇỆᛐỜᵆᵐᵎᵃᵇῑ ӷ؏ỆἼὅἣྶේửᵏᵎᵃᛐỜỦ῎ហᘉྶό௵ửᙸẇộẺẆᡈˮބኬሥỆ᠉ࡇỉ ࣱ࣯ބኬሥْരửᛐỜỦẇ ᘉሥኒ ݱᓶ᧓ѣᏦỆỊϋᐏỉዴዜࣱᏄҽỊễẪẆλኬѣᏦỆờϋᐏỉᄏ܇ಮᏄҽỊễẟẇ β၃௨ᑥỆềβ၃ᙐӳ˳ࣱᏴ໒ỊԁܭႎỂẴ῎ ˌɥỉᙸẦỤẆᵬᶍᶌᵋᵧᶅᵟᏴၐἳἇὅἀỸἲف഻ࣱነྶ˳Ᏼ໒ểᚮૺẴỦẇ ᵥ ᵡᵏ῀ 城先生 _07 城先生 _10 城先生 _08 城先生 _11 ᵫ ᵟ ᷆ ᵡᵑ ᷇ 城先生 _09 城先生 _12 ― 161 ― 腎炎症例研究 31 巻 2015 年 城先生 _13 城先生 _16 城先生 _14 城先生 _17 ᾋβ၃௨ᑥᾍ μềỉነྶ˳Ệβ၃ἂἿἨἼὅὉᙀ˳ỉነྶ˳ồỉආბỊễẪẆ β၃ᙐӳ˳ࣱᏴ໒ỊԁܭႎỂẴẇ ᾋᩓ᫋ᚮૺᾍ ឱኬᏘᏩᆳឪෞڂầᵏᵎᵎᵃỂẆࣇൗ࢟ửˤẾềẟộẴẇ ɟ૾ẆᶂᶃᶌᶑᶃᴾᶂᶃᶎᶍᶑᶇᶒỉආბỊễẪβ၃ᙐӳ˳ࣱᏴ໒ỊԁܭႎỂẴẇ ἳἇὅἀỸἲؕឋỊởởਘٻẲềẟộẴầẆຯᢅ᩿ửਤẺễẟݱᘉሥỊᙸỤủễẟẇ ነྶ˳ؕࡁᐏỉҽẰỊኖᵏᵖᵎᶌᶋỂẆởởᓜᕓ҄ẲềẟộẴẇ ኄބ၏ࣱነྶ˳ᄒ҄ၐỆᙸỤủỦነྶ˳ؕࡁᐏỉᏄҽỊễẟẇ ἳἇὅἀỸἲؕឋϋỆዴዜࣱನᡯཋửᛐỜộẴầẆἳἇὅἀỸἲኬᏘẦỤỉ ỴἁἓὅἧỵἻἳὅἚể࣬ỪủộẴẇ 城先生 _15 城先生 _18 ― 162 ― 第 62 回神奈川腎炎研究会 ᵮᵏᵑᵋᵑᵖᵕᵗ ᵕᵔബ ဏࣱ ᐮᚮૺᵘᴾἧἿὊἎၐͅ፭Ẇ᭗ᘉןẆႝᐎၨẆᑥእආბ ၏׆Ўᵘ Ҿႆࣱነྶ˳၌ध ၏Ўᵘ ࣇ҄٭ݱἧἿὊἎၐͅ፭Ẇነྶ˳Ᏼ໒ӳ́ỉࣄׅ ᾘᾕᚮૺᵘ β၃ᙐӳ˳ࣱᏴ໒ԁܭ ᩓ᫋ᚮૺᵘ ߺཞἳἇὅἀỸἲف഻ࣱነྶ˳Ᏼ໒Ẇ ࣇ҄٭ݱἧἿὊἎၐͅ፭Ẇ ࣱ࣯Ᏼ໒ၐͅ፭ỉᶑᶓᶀᶑᶇᶂᶇᶌᶅᴾᶎᶆᵿᶑᶃᵝ ᵢᶇᶄᶄᶓᶑᶃᴾᶋᶃᶑᵿᶌᶅᶇᵿᶊᴾᶆᶗᶎᶃᶐᶁᶃᶊᶊᶓᶊᵿᶐᶇᶒᶗᾎ ႝឋᾉ᭒ឋᾌᵏᵎᾉᵎ ነྶ˳ૠᾉᵓᵗ̾Ẇμራࣱᄒ҄ᾉᵐ̾Ẇ ἳἇὅἀỸἲኬᏘف഻ᾉᵏᵐ̾ẆሥϋࣱኬᏘٶفᾉᵖ̾Ẇ Ҟஉ˳࢟ᾉᵐ̾ίኬᏘࣱҞஉ˳ᾉᵎ̾ẆዴዜኬᏘࣱҞஉ˳ᾉᵎ̾ẆዴዜࣱҞஉ˳ᾉᵐ̾ὸ Ўራࣱᄒ҄ᾉᵏ̾Ẇၷბᾉᵎ̾ẆᖎᏮᾉ ᵎ̾Ẇச༌ነྶ˳ᾉᵎ̾ 城先生 _19 山口先生 _02 ᎋݑ ࣇ҄٭ݱἧἿὊἎၐͅ፭ầஜၐ̊ỉɼ᠆ẇ ЎራࣱỉἳἇὅἀỸἲኬᏘٶفễỤỎỆӷ؏ỉڤɶྶේỊẆ ᠉ࡇỉज़௨ࣱᏴ໒ỉӳ́ểᎋảỤủỦẇ ዴዜࣱҞஉ˳ầᙸỤủẺʙẦỤẆᢅӊỆነྶ˳Ᏼ໒ầẝẾẺ ʙầွỪủỦẇ β၃௨ᑥỂᵧᶅᵥễỤỎỆᵧᶅᵟὉᵡᵑầᨏࣱỂẆ ྵנẆነྶ˳Ᏼ໒ỉӳ́Ịễẟẇ ᢅӊỆࣱ࣯Ᏼ໒ၐͅ፭ầẝụẆྵנỊẸỉᶑᶓᶀᶑᶇᶂᶇᶌᶅỉ ӧᏡࣱầွỪủộẴẇ 城先生 _20 山口先生 _03 IͲ2:✺↛䛻Ⓨ䛧ග㢧䛷ከ䛟䛾⣒⌫య䛻ศⴥ 䜢ㄆ䜑䛯䝛䝣䝻䞊䝊ೃ⩌䛾䠍 䠄㛵ᮾປ⅏䚸⭈ෆ䠅 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