かかわりの発達心理学 第5回 5月7日 第4章 他者との関係性を築く コミュニケーションと人間関係の発達 他者からの関わりを引き出す 生物学的基盤 かわいい顔はかわいい 赤ちゃんの好み • 「顔」が好き • まっすぐ見つめる目が好き 養育者をじっと眺める • ゆっくりとした,間のある, • 抑揚がある,高い声 • →“マザリーズ” • 人の声による言葉が好き 養育者の声かけに注 意を向ける 養育者の養育行動を引き出す役目を果たしている • 音素の聞き分けができる • アイマス:音素の聴き取りを検討 • 音素のカテゴリー知覚能力は,生後6ヵ月頃までは,どんな言語圈に生まれた 乳児でも普遍 大人は赤ちゃんを「心を持つ存在」として扱う 2ヶ月目頃に起こる変化 • 原始反射に代わって随意運動が本格的に機能し始める。随意運動の発 達は,原始反射を抑制する 運動野 微笑の頻度 など 生理的微笑 社会的微笑 月齢 心の2ヶ月革命 • 生後2ヶ月頃,ヒトは他者に対し,能動的にかかわりはじめる • 他者との双方向的コミュニケーションが展開 • 生理的微笑→社会的微笑 • クーイング…喃語→音声によるやりとり • 見つめ合い…真の双方向のコミュニケーションのはじまり • 外界からの刺激や環境の影響への開かれ • それを受け止める【受動】の自分(能動的に働きかけられる存在としての自分) • 自身の行動が,周囲からの反応を引き出せることに気づく • 自分の表出活動を意図的に行う,行為主体としての感覚の芽生え 〈能動〉-〈受動〉の原初 • 〈見る-見られる〉 • 〈抱く-抱かれる〉 • 〈声をかける-かけられる〉 • 〈握る-握られる〉 • 〈向かう力〉をたがいに受け止め合うということ • 「目が合う」≠「目を見る」 • 二項関係 適切に応答する 他者の存在 あってこそ コミュニケーションの中で育まれ るもの アタッチメントの発達 • アタッチメント:ある特定の対象との間に形成される情緒的にしっか りと結びついた絆,すなわち,特定の他者への情緒的結びつき (emotional bond) • 特定の他者との「近接」の確保,その機能としての「保護」 • 「個体がある危機的に状況に接し,あるいはまた,そうした危機を予知し,恐 れや不安の情動が強く喚起された時に,特定の他個体を通して,主観的な 安全の感覚を回復・維持しようとする傾性」 • 人間は,自らに対する保護を確実にするために,他者とつながる能 力(泣き,微笑,喃語,etc)を生得的にもってうまれる • それによってかき立てられる大人の側の行動も,基本的本性からもたらされ る • そのような大人と子どもとの相互作用を通して愛着は形成される 赤ちゃんの行動…アタッチメント形成 • 第1段階【人物の識別を伴わない定位と発信】 • 生後2,3ヶ月頃までは,近くにいる人全般に, 定位行動や信号行動を示す。 • 第2段階【1人あるいは数人の,特定の対象に対する定位と信号】 • 生後3ヶ月頃になると,日常よく関わってくれる人とそうではない人を識別し, 日常関わりの多い特定の人物(養育者)に対してアタッチメント行動を向ける。 • 第3段階【発信と移動による特定の対象への接近の維持】 • 生後6カ月頃になると,日常関わりの多い人たちの中から1人(多くは母親)を 主要なアタッチメント対象に選ぶ。 赤ちゃんの行動…アタッチメント形成 • 第4段階【目標修正的な協調性の形成】 • 3歳頃になると,養育者の目標や計画に応じて, 適宜自分の目標や行動を 修正できるようになる…目標修正的な協調性(パートナーシップ) • 表象能力の発達によって, 養育者のイメージを心の拠り所として利用できる ようになる。 アタッチメントの意義:安全基地としての養育者 • アタッチメント:保護を受けるために近くにいる • →それを「心のよりどころ」とすることができる • →環境の探索 を行うことが可能になる • 人にとって必要なさまざまな学習活動が展開される • 不安なことや辛いことを,イメージによって慰めることができるようになる アタッチメントの個人差 ストレンジ・シチュエーション・テスト そのバランス • 養育者に対して近接を求める行動 • 近接を維持しようとする行動 • 近接や接触に対する抵抗行動 • 近接や相互交渉を回避しようとする行動 • 養育者を捜そうとする行動 • 距離を置いての相互交渉 • 特に,養育者との分離場面における回避行動と,再開場面における 抵抗行動の組み合わせパターン アタッチメントのパターン分類 • 観点① 母子分離場面に苦痛を示すか? • →NO:Aタイプ(不安定/回避型) • 養育者との関わりを避けているように見える。 • ただし,生理レベルではストレス反応を示す→ストレス下にもかかわらず,ア タッチメント行動を抑え込んでいる • →YES:さらに観点②で分類 • 観点② 母親とスムーズな再会ができるか? • →YES:Bタイプ(安定型) • アタッチメント行動と探索行動のバランスがとれており,養育者が安全基地と して十分に機能している。 • →NO:Cタイプ(不安定/アンヴィヴァレント型) • アタッチメント行動が過剰に活性化され,探索行動を再開するのが難しい 解説:C型(アンヴィヴァレント型) • 分離時に非常に強い不安や混乱を示す。再会時には養育者に身体 接触を求めていくが,その一方で怒りながら養育者を激しくたたいた りする(近接と怒りに満ちた抵抗という両価的な側面が認められる)。 • 全般的に行動が不安定で随所に用心深い態度が見られ,養育者を 安全基地として.安心して探索活動を行うことがあまりできない(養 育者に執拗にくっついていようとすることが相対的に多い)。 いちばん多いのは? • Ainsworth et al.(1978) • Aタイプ 21% Bタイプ 67% Cタイプ 12% • 世界8カ国で行われた39の研究(約2,000人の乳児対象)を総括した比率と ほぼ同じ • 相対的に見ると文化差もある • 米国と比較して:ドイツはAタイプの比率が,イスラエルや日本ではCタイプの 比率が高い 個人差の起源(1) 養育者の要因 • エインスワース • 生後1年間における家庭での親行動や母子相互作用を観察した縦断研究 • →子どものシグナルに対する母親側の感度のよさと応答性の程度が,1~2 歳時点での愛着パターンを規定すると結論づける • 表4.2 A型(回避型) • 全般的に子どもの働きかけに拒否的にふるまうことが多く,他のタイ プの養育者と比較して,子どもと対面しても微笑むことや身体接触 することが少ない。 • 子どもが苦痛を示していたりすると,かえってそれを嫌がり,子ども を遠ざけてしまうような場合もある。また,子どもの行動を強く統制し ようとする働きかけが多く見られる。 B型(安定型) • 子どもの欲求や状態の変化などに相対的に敏感であり,子どもに対 して過剰なあるいは無理な働きかけをすることが少ない。 • また,子どもとの相互交渉は,全般的に調和的かつ円滑であり,遊 びや身体接触を楽しんでいる様子が随所にうかがえる。 C型(アンヴィヴァレント型) • 子どもが送出してくる各種アタッチメントのシグナルに対する敏感さ が相対的に低く,子どもの行動や感情状態を適切に調整することが やや不得手である。 • 子どもとの間で肯定的な相互交渉を持つことも少なくはないが,それ は子どもの欲求に応じたものというよりも養育者の気分や都合に合 わせたものであることが相対的に多い。 • 結果的に,子どもが同じことをしても,それに対する反応が一貫性を 欠いたり,応答のタイミングが微妙にずれたりすることが多くなる。 子どもの視点からすると・・・ • 授乳や身体接触などの各場面,乳児の泣き • ↓ • 乳児のペースに同調し, • 乳児からのシグナルの意味を受けとめ, • 情動状態にあわせて感度よく応答 • ↓ • “心理的に利用しやすい状態”:自分のはたらきかけに対して母親か ら一貫して有益な応答が得られる • ↓ • 母親に対する基本的信頼感を築くことができる。 “心を気づかう傾向”(mind mindedness) • 母親の情緒的応答性の高さ→結果としてSSPにおけるB型(安定型) の愛着パターンに結びついている • 養育者の子どもの“心を気づかう傾向”(mind mindedness) • 子どもを発達の早期段階から,明確な心をもった存在とみなし,心的な観点 から子の行動を解釈し,また心的状態に関する言葉を発話のなかに多く織 り交ぜる傾向のこと • 愛着安定型の子の母親:多分に早くから子どもを心をもった存在とみなして いる可能性が高い • 不安定型の子の母親:子を「何かをしようとしている」志向的な発動主体 (intentional agent)とみなすが,「何かを思い浮かべ(表象し),現実に対して さまざまなスタンスから思い考える」心的な発動主体(mental agency)とみな すことは相対的に少ない傾向。 Aタイプの関わり アタッチメント・シグナルをあまり送らな いことこそが近接関係の維持に効率的 に働くという逆説が成り立つ Cタイプの関わり できる限り自分の方から最大限にアタッチメント・シグ ナルを送出し続けることで,養育者の関心を自らに引 きつけておこうとするようになる C型の適用様式の形成 • いつ離れていくともわからない養育者の所在やその動きに過剰なま でに用心深くなり,できる限り自分の方から最大限にアタッチメント・ シグナルを送出し続けることで,養育者の関心を自らに引きつけて おこうとするようになる。 • このタイプの子どもが,分離に際し激しく苦痛を表出し,なおかつ再 会場面で養育者に抵抗的態度をもって接するのは,またいつふらり といなくなるかもわからない養育者に安心しきれず,怒りの抗議を示 すことで自分がひとり置いて行かれることを未然に防ごうとする対処 行動の現れと理解することができる。 • その意味からすれば,この場合の行動傾向も,その子どもの近接関 係の維持にある程度,寄与しているものと考えられる。 Cf. 分類不能な子ども • 無秩序型:3タイプのいずれにも分類不能 • 全体の約15%程度がこのタイプに分類される可能性…特に,ハイリスクな事 例において,「分類不可能」な子どもがかなりの確率で存在している。 • 説明困難な行動や矛盾した行動を示す • アタッチメント行動にまとまりがなく,ストレスへの一貫した対処方略を持って いない • A,Cは不安定とはいえ,“近接”を維持するための組織化された行動 パターンが形成されている • それなりに組織化されており,それぞれの適応を見せるようになる Dタイプ(無秩序・無方向型) • 近接と回避という本来ならば両立しない行動が同時的に(例えば頷をそ むけながら養育者に近づこうとする)あるいは継時的に(例えば養育者に しがみついたかと思うとすぐに床に倒れ込んだりする)見られる。 • また,不自然でぎこちない動きを示したり,タイミングのずれた場違いな行 動や表情を見せたりする。 • さらに突然すくんでしまったり,うつろな表情を浮かべつつじっと固まって 動かなくならてしまったりするようなことがある。 • 総じてどこへ行きたいのか,何をしたいのかが読みとりづらい。時折,養 育者の存在におびえているような素振りを見せることがあり,むしろ初め て出会う実験者等に,より自然で親しげな態度を取るようなことも少なくな い。 Dタイプの養育者の関わり • このタイプの養育者像は明らかにされていない • 抑うつ傾向が高かったり精神的に極度に不安定だったり,また時に,通常一 般では考えられないような(虐待行為を含めた)不適切な養育を施すことも ある。 • (被虐待児を対象にしたある研究では,その内の80%がDタイプとの報告 も。) • 典型的な行動パターンは,「(自ら)おびえ/(他者を)おびえさせる (frightened/frightening)」 • 養育者自身が過去に何らかのトラウマを有していることが多く,日常生活場 面において突発的にその記憶にとりつかれ,自ら(多くは微妙な形で)おび えまた混乱することがあるという。(表情や声あるいは言動一般に変調を来 し,パニックに陥るようなことがある。) 個人差の起源(2) 子どもの要因 • 気質:発達早期から見られる,その子どもの行動特徴 個人差の起源(2) 子どもの要因 個人差の起源(2) 子どもの要因 個人差の起源(3) 環境の要因 アタッチメントの持続性, 発達の可塑性 内的作業モデル • ボウルビイ • 初期の愛着関係は,自己と他者あるいは対人関係全般に 関する主観的確信である表象モデル(representational model)として取り込まれ,それは,その者の人生における 対人関係スタイルや人格発達の基礎を支える内的作業モ デル(inner working model)として働き続ける • 内的作業モデルは,その後の様々な他者との関わり を知覚・解釈したり,また自らの行動をプランニングし たりする際のテンプレートとしての役割を果たすとさ れる。そのため,発達初期における主要な愛着対象 との関係が,その後の対人関係のパターンに一貫し た傾向をもたらすとされた 支持する見解 • エインスワース • 1歳時の愛着タイプ → 2歳時~就学前の社会的行動の様相 • ミネソタ親子縦断研究(1975~) • 発達初期の愛着 → 幼児期,小学校1,2,3学年時,10歳時の社会 的行動やパーソナリティ → 17歳時,19歳時の適応 • プライア&グレイサー(2006) • 初期の愛着 → その後の情動面・行動面での問題 • 不安定-回避型の愛着 → 行動面での問題やネガティブな感情 • 不安定-両価/抵抗型 → 不安や社会的な引きこもり • 非体制型の愛着 → 大きな問題 経験過程に応じた個人の無意識的な適応 パターンがごく初期にでき,その後も同じ パターンで経験を重ねてしまう 連続性に対する懐疑的な見解 • 子どもの自我発達 • 乳幼児期のアタッチメント → 自我の弾力性が高い • 乳幼児期のアタッチメント → 自我の弾力性とは関係がない • 仲間関係 • 乳児期のアタッチメント → 仲間関係が良好 • 乳児期のアタッチメント → 仲間関係に関係しない(ただし保育者とのアタッ チメントや関連するという見解も) 発達の可塑性に 関わる問題 →p.14 愛着とその後の発達の連続性は,環境の 時間的安定性によってもたらされている 愛着の質は,個人外の環境要因の影響 を受けて本質的に大きく変化し得る 発達の柔軟性や回復力 • レジリエンス • 発達のある時点で逆境を経験しながらも,後の適応に問題を来さない人や, 一度は不適応な状態に陥ったとしても,そこから回復する人もいる • 発達における変容の可能性 • プロテクト要因 • 劣悪な環境の改善 • 発達の節目 ポイント • □1 ヒトの乳児は,他者から養育や保謹を引き出し,他者との関係をつ くっていくためのさまざまな特徴を備えて生まれる。 • □2 生後6ヵ月頃になると.乳児と養戸者の間には.保護を目的とした特 別で持続的な感情の絆(アタッチメント)が形成される。アタッチメントはそ の後も持続し,子どもの行動や人間閲係を方向づけるものとして働く。 • □3 アタッチメントには,それまでの親子のやりとりの歴史を反映した個 人差があり,個人差は,子どもの要因,養育者の要因,環境的要因が関 与してつくられている。 • □4 子どもは,妻膏者との関係を含む多様な人間関係の中で育つもの であり,子どもの発達にはさまざまなリスク要因,プロテクト要因が関わっ ている。 次回に向けて:第5章のワークシート • Question 5‐1 (*予習課題) • 私たちが想像の世界を表現したり人に伝えたりする手段には,どのようなものがあ るだろうか。できるだけたくさんあげてみよう。 • Question 5‐2 (*予習課題) • 言葉を話すためには,どのような能力が必要だろうか。思いつくだけあげてみよう。 • Question 5‐3(*予習課題) • 写真の男児はポスターの車の絵を指さして,母親を見ています。男児の台詞を自 由に考えてください。 • Question 5‐4 (*予習課題) • 保育園や幼稚園に通うくらいの子どもと親との会話や,子ども同士の会話を聞いて, メモしてみよう。どのような特徴があるだろうか。
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