電磁解析 レジュメ 1 (ベクトル解析)

電磁解析 レジュメ 1 (ベクトル解析)
ベクトル演算の復習
1
1.1
ベクトル
空間において大きさのみを持つ量をスカラーと呼ぶ.大きさと向きを持つ量をベクトルと呼ぶ.ベクトル A を有
向線分で表現する場合,線分の長さはベクトルの大きさ |A| を表し,矢印の方向はベクトルの向きを表す.ベク
トルの大きさはスカラーである.A を |A| で割ったものは,単位ベクトルと呼ばれる.直交座標系 (x, y, z) にお
いて,x, y, z 方向の単位ベクトルを ix , iy , iz とすると,A は A = Ax ix + Ay iy + Az iz = (Ax , Ay , Az ) のように
x, y, z 成分に分解される.
空間(場)の中でスカラーが分布しているものをスカラー場と呼ぶ.同様にベクトルが分布しているものをベ
クトル場と呼ぶ.2 次元空間のスカラー場の等高線とは,スカラー場の同じ値の点を結んだ曲線のことを指す.3
次元空間のスカラー場の等位面(等値面)とは,スカラー場の同じ値の面のことを指す.法線ベクトルとは,ある
曲面(曲線)に垂直なベクトルのことである.1 ベクトル場のある曲面に対する流束とは,曲面の法線ベクトルと
ベクトル場の内積を曲面に対して面積積分した量のことである.ベクトル場の力線(流線)とは,空間内に描い
た曲線上の各点における接線の方向が,その点におけるベクトル場の向きと一致するような曲線のことを指す.
1.2
1.2.1
ベクトルの積
ベクトルの内積(スカラー積)
A · B = |A| |B| cos θ
=Ax Bx + Ay By + Az Bz
ここで,θ は A と B のなす角度である.A = B の場合を考えると,以下を得る.
2
|A| = A · A = A2x + A2y + A2z
直交座標系においては,以下の関係が成り立つ.
{
ip · iq =
1 (p = q = x, y, z)
0 (p =
̸ q)
内積の計算結果はスカラーである.
1.2.2
ベクトルの外積(ベクトル積)
A × B = |A| |B| sin θ e
= (Ay Bz − Az By ) ix + (Az Bx − Ax Bz ) iy + (Ax By − Ay Bx ) iz
= (Ay Bz − Az By , Az Bx − Ax Bz , Ax By − Ay Bx )
ここで,e は A を B に重なる方向に右ねじに回転させたときに,そのねじの進む方向と向きの一致するような単
位ベクトルである.外積は以下の性質を持つ.
A × B = −B × A
直交座標系において,以下の関係が成り立つ.
ip × ip = 0 (p = x, y, z)
ix × iy = iz , iy × iz = ix , iz × ix = iy
外積の計算結果はベクトルである.
1 例えば,卵の表面に対する法線ベクトルは,卵の中から外に向かう向きである.
1.2.3
スカラー三重積
A · (B × C) =Ax (By Cz − Bz Cy ) ix + Ay (Bz Cx − Bx Cz ) + Az (Bx Cy − By Cx )
一般的な注意として,内積と外積が一緒に存在する場合は,外積から先に計算するというルールがある(和と積
の計算の順番と同様).スカラー三重積はその名の通り,スカラーである.|A · B × C| は,ベクトル A, B, C を
3 辺とする平行六面体の体積に等しい.スカラー三重積は以下の性質を持つ.2
A · B × C =B · C × A = C · A × B
スカラー三重積の計算結果はその名の通り,スカラーである.
1.2.4
ベクトル三重積
A × (B × C) = (A · C) B − (A · B) C
ベクトル三重積は,括弧の位置によって値が異なる点に注意が必要である.
(A × B) × C ̸=A × (B × C)
ベクトル三重積の計算結果はその名の通り,ベクトルである.
ベクトル解析
2
2.1
勾配
gradϕ = ∇ϕ =
∂ϕ
∂ϕ
∂ϕ
ix +
iy +
iz
∂x
∂y
∂z
ここで,ϕ は微分可能なスカラー場である.ある点 (x, y, z) から別の点 (x + dx, y + dy, z + dz) への変位ベクトル
dl = dx ix + dy iy + dz iz を考えると,以下を得る.
∇ϕ · dl =
∂ϕ
∂ϕ
∂ϕ
dx +
dy +
dz = dϕ
∂x
∂y
∂z
ここで,dϕ は完全微分と呼ばれる,ϕ の変化量である.ϕ が一定値 ϕ = ϕ0 となる等位面上では,dϕ = 0 であり,
∇ϕ は dl は垂直である.すなわち,勾配は等位面に対して常に垂直である.3
2.2
発散
divA = ∇ · A =
∂Ax
∂Ay
∂Az
+
+
∂x
∂y
∂z
ここで,A は微分可能なベクトル場である.発散はある閉じた曲面に対する積分を用いて,以下のように定義す
ることができる.
∫
A · n dS
∫
∇ · A = ∫ lim
dV
dV →0
ここで,dV は曲面内の微小体積,dS は曲面上の微小面積,n は法線ベクトル(|n| = 1)である.
2.3
回転
(
rotA = ∇ × A =
∂Az
∂Ay
−
∂y
∂z
)
(
ix +
∂Ax
∂Az
−
∂z
∂x
)
(
iy +
∂Ay
∂Ax
−
∂x
∂y
)
iz
ここで,A は微分可能なベクトル場である.回転はある閉じた曲面に対する積分を用いて,以下のように定義す
ることができる.
∫
n × A dS
∫
∇ · A = ∫ lim
dV
dV →0
ここで,dV は曲面内の微小体積,dS は曲面上の微小面積,n は法線ベクトル(|n| = 1)である.
2A
· B × C = A × B · C は覚えやすい関係である.
p の等高線と圧力勾配 ∇p は垂直である.
3 例えば,天気図の気圧
2
2.4
∇ の多重作用
∆ϕ = ∇2 ϕ = ∇ · (∇ϕ)
∇ × ∇ϕ = 0
∇ · (∇ × A) = 0
∇ × (∇ × A) = ∇ (∇ · A) − ∇2 A
ここで,ϕ はスカラー場,A はベクトル場,∆ はラプラシアンと呼ばれる.
2.5
ガウスの定理
I
∫
A · n dS =
∇ · A dV
H
∫
ここで,A はベクトル場, dS は閉曲面上の面積積分,n は平曲面の法線ベクトル(|n| = 1), dV は平曲面
の内部の体積積分である.
[補足]
以下では,ガウスの定理の導出を示す.
A(0, 0, 0), B(∆x, 0, 0), C(∆x, 0, ∆z), D(0, 0, ∆z), E(0, ∆y, 0), F(∆x, ∆y, 0), G(∆x, ∆y, ∆z), H(0, ∆y, ∆z) の
8 点を頂点とする直方体を考える.直方体の面 S1 = ABCD, S2 = EF GH の法線ベクトルはそれぞれ n1 = −iy ,
n2 = iy である.ベクトル A の S1 と S2 に対する流束の和は以下のようになる.
∫
∫
A · n1 dxdz +
S1
∫
∆x
∫
A · n2 dxdz =
∆z
[Ay (x, ∆y, z) − Ay (x, 0, z)] dxdz
S2
0
0
∆x, ∆y, ∆z → 0 の極限においては,マクローリン展開を用いることで,以下のように近似される.4
]
∫
∫
∫ ∆x ∫ ∆z [
∂Ay A · n1 dxdz +
A · n2 dxdz =
∆y dxdz + O(∆4 )
∂y
S1
S2
0
0
x,0,z
]
∫ ∆x ∫ ∆z [
∂Ay ∂ 2 Ay ∂ 2 Ay =
+
x+
z ∆y dxdz + O(∆4 )
∂y 0,0,0
∂x∂y 0,0,0
∂y∂z 0,0,0
0
0
∂Ay =
∆x∆y∆z + O(∆4 )
∂y 0,0,0
面 S3 = ABF E, S4 = DCGH および面 S5 = AEHD, S6 = BF GC の対についても同様の結果を得る.これら
を足し合わせると,以下の関係が成り立つことが分かる.
∫
A · n dS = (∇ · A) ∆V + O(∆4 )
cub
ただし,∆V = ∆x∆y∆z は直方体の体積である.
次に,空間の任意の図形を,微小な直方体に分割する.全ての直方体について上の式を適用し,それらの和を
取る.隣り合う直方体同士の共通する面に対しては,A は共通であるが法線ベクトルの向きが逆なため,互いに
相殺し合う.このように,面積積分は図形の表面からの寄与のみ残る.従って,任意の図形に対して,ガウスの定
理が成り立つことが分かる.
2.6
ストークスの定理
I
∫
A · dl =
(∇ × A) · n dS
H
ここで,
A はベクトル場, dl は閉曲線上の線積分,n は閉曲線で取り囲まれる曲面上の法線ベクトル(|n| = 1),
∫
dS は閉曲線で取り囲まれる曲面上の面積積分である.ここで,dl はある始点と別の終点を結ぶ微小なベクトル
であり,大きさは始点から終点の距離,向きは始点から終点に向かう方向である.
4 ある量
ϵ と同じ程度の大きさの量を示すときに O(ϵ) と書く.∆4 は,(∆x)4 や (∆x)2 (∆y)2 などのことを指す.
3
[補足]
ストークスの定理が任意の曲面に対して成り立つことは,数学的に厳密に証明することが可能である.しかし,
証明は煩雑となるため,以下では,まず平面についてストークスの定理を導出し,それを直感的方法で任意の曲
面に拡張する.
(0, 0), (0, ∆y), (∆x, ∆y), (∆x, 0) の 4 点を頂点とする長方形を考える.ベクトル A の長方形の辺に沿った周
積分は以下で与えられる.
∫
∫
rec
∫
∆x
A · dli =
∫
0
∫
∆y
Ax (x, 0) dx +
0
∫
∆x
0
0
Ax (x, ∆y) dx +
∆x
Ay (0, y) dy
∆y
∆y
[Ax (x, 0) − Ax (x, ∆y)] dx +
=
∫
0
Ay (∆x, y) dy +
[Ay (∆x, y) − Ay (0, y)] dy
0
ただし,i は長方形の番号である.∆x, ∆y → 0 の極限においては,マクローリン展開を用いることで,以下のよ
うに近似される.
∫ ∆y
∫
∫ ∆x
∂Ay ∂Ax ∆ydx +
∆x dy + O(∆3 )
A · dli = −
∂y x,0
∂x 0,y
0
rec
0
)
)
∫ ∆x (
∫ ∆y (
∂Ax ∂ 2 Ax ∂Ay ∂ 2 Ay =−
+
x ∆y dx +
+
y ∆x dy + O(∆3 )
∂y 0,0
∂x∂y 0,0
∂x 0,0
∂x∂y 0,0
0
0
(
)
∂Ay ∂Ax =
−
∆x∆y + O(∆3 )
∂x 0,0
∂y 0,0
従って,以下の関係が成り立つことが分かる.
∫
A · dl = (∇ × A · n) ∆S
rec
ただし,∆S = ∆x∆y は長方形の面積である.
次に,x, y 平面内の任意の図形を,微小な長方形に分割する.全ての長方形について上の式を適用し,それら
の和を取る.隣り合う長方形同士の共通する辺に対しては,A は共通であるが線積分の向きが逆なため,互いに
相殺し合う.従って,線積分は任意の図形の外周部分からの寄与のみ残る.一方,面積積分は図形の全表面からの
寄与が残る.従って,以下の関係が結論される.
I
∫
A · dl =
∇ × A · n dS
x,y
x,y
上の関係は,x, y 面上でのみ成り立つ.
最後に,任意の曲面を小さな長方形の要素に分割することを考える.曲がった曲面では,分割された有限の大
きさの要素は曲がったものになるが,大きさが無限小のときは長方形に分割することが可能である.それぞれの
要素に対して,新しい x, y 座標系を設定することができる.x, y 平面における議論と同様に,要素同士の隣り合
う辺上では,線積分はお互いに相殺し合う.従って,全ての要素の線積分の和は,図形の外周部分からの寄与のみ
残る.従って,任意の曲面に対しても,ストークスの定理が成り立つことが分かる.
2.7
ポテンシャル理論
E = −∇ϕ
∇×E =0
I
E · dl = 0
H
ただし,ϕ はスカラー場,E はベクトル場, dl は任意の閉曲線上の線積分である.上の 3 つの関係においては,
1 つが成り立てば,他の 2 つも成り立つ.5
5 ∇ × E = 0 が成り立てば,E は必ずあるスカラーの勾配として表せるということが数学的に保証される点で,ポテンシャル理論は強力
な理論である.E が電場の場合,∇ × E = 0 は磁場が時間依存性を持たないときに成り立つ.
4