駄知線の走った土岐のやきもの 地帯を行く

泉麻人のひと土岐 ぶらり
駄知線の走った土岐 のやきもの地帯を行く
軽 妙 な 語り口のうんちくが 楽しい 、
コラムニスト 泉 麻 人さん 。
〝 駄 知 線 〟 の 廃 線 跡 を辿って
やきもののまちをぶらり歩き。
おもしろいものは 見つかりましたか?
土岐津駅
神明口駅
土岐口駅
下石駅
東駄知駅
駄知駅
山神駅
旧東濃鉄道駄知線
(駄知線)
Asato Izumi
1956(昭和31)年4月8日、東京都新宿区落合出身。
慶應義塾大学商学部卒業後、1979年東京ニュース通
信社に入社。
「 週刊TVガイド」などの編集者を経て、
1984年フリーコラムニストに。2005年には気象予報
士の資格も取得。主な著書に
『大東京23区散歩』
など。
近刊は
『80年代しりとりコラム』
『還暦シェアハウス』。
※現在は駅は
残っていません
駄知線 山神駅∼駄知駅間の橋梁跡
土
岐はお隣の多 治 見と並んで、陶 磁 器の名 産 地として知られ
だ
ち
まずは、土岐市駅前の町並み− 名古屋圏定番のコメダコーヒーの
ている。そして、窯元の多い山間の駄知の町までかつて東濃
並び、古びた木造の町家に結納品店の看板が残る。結納品の専門店
鉄道というローカル線が走っていた。廃線跡を りつつ、東濃のや
とは、
これまた婚礼に熱心な東濃地方らしい。駄知線(通称)
は、
そんな
きものの里を探訪してみたい。
昔ながらの建物が見える中央本線の駅南口から出ていた。当初の駅
かご はし き く お
案内をしていただく籠橋起久雄さんは、
〈町づくりだちもんフォーラム〉
名は土岐津といい、中央本線に隣接した所はしばらく貨物駅専用だっ
に所属していて、駄知の町おこしに尽力されている。ちなみに、東濃
たという。
鉄道駄知線(前身・駄知鉄道)
の敷設を推進した、
この町の名士(製陶
かご はしきゅう べ
「つまり、人より陶磁器の運搬が先、って
え
業)籠橋休兵衛は、氏の夫人の血縁にあたるらしい。
N
Note
ことですね」
と、籠橋氏。少し先の川際に
設けられた駅(新土岐津)から駄知まで
特定非営利活動法人 町づくりだちもんフォーラム
籠橋起久雄 さん
開通したのが1923(大正12)年。およそ
駄知町の再生、活性化をめざす有志の集まり
「町づくりだちも
んフォーラム」
の理事長をつとめる。駄知線跡を歩く
「駄知線
ウォーキング」
を月1回開催するなど、
まちの活性化に精力的
に取り組んでいる。
「今後は資料集めと整理をする資料部、線
路道周辺を整備する保全部に分けて活動するなど、駄知線跡
の活用法をもっと研究したいですね」。上記facebookで告知
されるウォーキングは誰でも気軽に参加できる。
5 0 年 後の1 9 7 2( 昭 和 4 7 )年 夏の台 風
https://www.facebook.com/groups/dachimon/
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で、土岐川に架かる橋が流失したのを機
かつて土岐津駅があった場所から籠橋
さんと出発(写真上)。駄知線の橋梁が
あった土岐川永久橋付近(同下)
に休止、2年後の1974(昭和49)年秋に
廃線となった。
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泉 麻 人のひと土 岐 ぶらり
廃
線跡の大方は遊歩道(サイクリング
この下石が「とっくり」、駄知が「どん
ロード)になっている。当日はまだ夏
ぶり」、市之倉は
「さかずき」、笠原は
の盛り。
さらに
〝指折りの猛暑地帯〟
でもある
「タイル」…といった具合に、
さほど距
から、
さすがに全線踏破(約10キロ!)は断
離のない地域ごとに特産品が決まっ
念したけれど、車を使って移動しつつ、気に
ているようだ。下石駅跡(いまも東鉄
なるポイントを散策する。下石の集落は、実
のバスターミナル)から西方の山を
に趣があった。
シモイシと読みたくなるが、
オ
上った所にある、
「カネコ小兵製陶
ロシと読む。街道端に
「とっくり」のオブジェ
所」
は、神仏具のとっくり
(袋物)
を主
が掲げられた下石裏山の集落に入っていく
体に1921(大正10)年から陶磁器
下石駅跡(現東鉄のバスターミナル)
と、素朴な窯場が立ち並ぶ路地の所々に
〈とっくり
製造を始めた老舗。見晴らしの良い産地に建つ古民家調のギャラリー
とっくん〉
という手足のついたとっくりキャラが飾られ
(往年の客間)
には、
「家庭画報」
のグラビアなどが似合いそうな
「ぎやま
ている。
なだらかな坂道づたいに小川が流れ、
きれいな
ん陶」
というシャレた皿や小鉢が陳列されている一方、隅っこの棚には
カワトンボが飛んでいる。道が迷路状に込み入って
日本酒の銘柄を入れた、昔ながらのお銚子が展示されている。
いるのも面白い。
ちょっとした桃源郷に紛れ込んだような心地になった。
ここで、
おかみさんから郷土名物の
「味ごはん」
というのを振る舞われた。
鶏やごぼう、
しいたけ、にんじんなどが
入った、
いわゆる鶏めし風まぜごはん、
のようなものだが、
あっさりしつつ、程良
く油分やコクもあり、実に旨い。
コレ、昔
は窯元のおかみが窯焼き職人(焼き
手)
を仕事の合間にもてなすもので、
それぞれの窯が味付けを競い合っ
たという。
いまは工程の多くが機械化されて、専門の職人はいなくなった
が、地域のもてなし料理として継承されている。味ごはんをいただきなが
ら、僕と同年代のご主人・伊藤克紀さんから駄知線の思い出を伺った。
②
③
①
④
カネコ小兵製陶所の伊藤克紀・久子さんご夫妻。
おいしい
「味ごはん」
を味わいながら、駄知線の思い出を聞く
趣を感じる下石の町。
日向山稲荷神社にもとっくりとっくんが(写真①②)。路地の奥の窯元も見学(同③)。
下石陶磁器工業協同組合の向かいにある古い倉庫群。
すぐ横を駄知線が走っていた。
(同④)
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泉 麻 人のひと土 岐 ぶらり
「高
校1年の夏まで走っていて、
通学に使ってました。
毎朝、
一つ手前
東濃バス事務所に残る駄知線の印付き金庫。
(写真①)古い写真や資料を見せてくれた千古乃岩酒造の中島善
二さん
(同③)。
ちなみに右上の模型は駄知公民館に飾られていた模型で、古い写真(同②)
とよく似た車両だった
①
②
③
の山神って駅の所でポーッと警笛を鳴らすんです。
ソレを聞いて、
坂をダダーッと下りていくと、
土岐の方へ行く電車に間に合うんですよ」
地元の人ならではのいい話だ。
その山神駅あたりは林間のなかなか快適
な散歩道になっている。
そして、
少し駄知寄りに行ったあたりに、
草むした
駅跡の横手に見える
「千古乃岩酒造」
は、駄知線開通前からやってい
野趣な佇まいを見せる石づくりの橋台が残っている。
さらにもう少し先に
る古い酒蔵で、
ここのオヤジさんは駄知線のウン
トンネルの遺構が存在するというが、夏場は草がおい繁って、
ちょっと先
チクを語り出したら止まらない。
コレクションし
へ進むにはそれなりの覚悟が要る。
「マムシがうじゃうじゃいますよ」
と、
た昔の乗車券や古い写真を見せてもらった。
「ウチの前の桜、
なんでも駄知線の駅ができたときに植えたもん
籠橋さんが脅し気味に笑った。
駄知駅の跡もバスターミナルと車庫などに利用され、後に町の東方の東
だってね…」
駄知まで延伸された際に設置されたスイッチバック式線路の面影も仄か
店の真ん中の桜の木、確かに古写真の同じ
に見受けられる。
バス好きの僕の目にとまったのは、
敷地の一角に放置さ
位置に若木の姿で写りこんでいる。
あの桜、
れた古びたバス停の看板。
なかに
「上田良子」
「下田良子」
なんて人名み
長らく駄知の人とやきものの運搬の様子を
たいなのを見つけて、
近くにいた運転手さんに伺うと、
これはタラゴという
見送ってきたのだ…。セミが鳴く老いた桜
明智町の方の地名らしい。
の木を眺めつつ、感慨深い気分になった。
東濃鉄道のバスターミナルでは、駄知線の建物や線路のレールもまだ残っていた
(写真①②)。
ユニークな地名の
バス停を発見する
(同③④)。
旧下石駅∼山神駅間は林の中を行く。土留めにレールが使われていた
(同下)。
①
②
③
④
N
大木となった桜の木(左)と千古乃岩酒造
延長約10.4kmのサイクリングロードに名残りを見る
東濃鉄道駄知線跡
Note 駄知線跡はサイクリングロードとなっているが、
ところどころで
途切れる箇所もある。
また、
駄知町の東濃鉄道・バスターミナル
は一般公開されていないため、入り口付近で見学しよう
(バス
の出入りがあるので安全に注意のこと)。今回、泉麻人さんが
訪れた見学ポイントが分かる駄知線跡Map付ガイドを、
N Drive公式HPで公開中。
(http://www.n-drive.jp/)
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泉 麻 人のひと土 岐 ぶらり
泉麻人さんと駄知線跡を辿る旅の仕 上げに訪れた「みくに茶 屋 」。
里山の風景を眺めながら食す、
こだわりの自然薯料理にホッとひと息。
地
元特産のすり鉢でいただいた
「とろろ
めし」は、独特のコクと甘味があった。
また、
このあたりでは正月の2日にとろろめしを
味わう、
という風習があるらしい。
晩秋に掘り出した自然
は東濃ヒノキのオガ
粉のなかにいれて、
冷蔵庫で保存する。
N
Note
ひと土 岐 の
いかし
自然と活きるイタリア料理
土岐市妻木平成町
【活】
土岐市妻木平成町
「目の前の畑で野菜を作るようになって、発見の日々です」。
やさしい笑顔が印
ぐう
象的な宮川典久さんは、
トラットリア遇のオーナーシェフだ。宮川さんの人柄
そのままのような温もりある店内からは、
自慢の小さな畑の緑が見え、居心地
天然自然薯料理や季節料理を堪能
のよい雰囲気を創り出している。
「たとえばこのパスタは、
ナ
みくに茶屋
スを角切りにしました。
その方がおいしさが引き立つからで
岐阜県土岐市鶴里町柿野3038-1 ☎0572-52-3374
営業時間/7:00∼17:30
(売り切れ次第終了) 定休日/金曜
http://www.mikunichaya.com/
すが、野菜をつくるようになってから切り方まで考えるように
東海環状自動車道 せと品野ICより約15分
河合辰己さん、
昌子さん、隆さん一家との会話も楽しい、
みくに茶
屋。
とろろは、辰己さんが
「毎朝、大きなすり鉢で山椒のすりこぎを
使って、1時間以上かけてじっくりすっています」
とのこと。
「うちの
は皮ごとすりおろすんですよ。風味が違います」
と妻の昌子さんに
勧められて食べてみると、独特の土の香りや粘りがクセになり、
あっという間に平らげてしまうほど。添えられた
「自然薯の刺身」
や
「アマゴ甘露煮」
も美味だ。春は近くで穫れた山菜、秋は辰己さん
が山で採集する天然きのこ料理を味わえる。
「土岐市の南の玄関
口と思って、
おもてなししています」
と昌子さん。
山小屋風の店内は
落ち着いた雰囲気で、窓からは見える山並みにほっと癒される。
「じねんじょ御膳」
は2,200円、
「じねんじょ定食」
は1,300円。
なりましたね」
と話す。畑で穫れたトマトと実家で穫れた茄
子を使ったというパスタを味わってみる。噛むとぎゅっとほと
ばしるナスのみずみずしさ、
トマトの爽やかな甘みのハーモニーが何ともおい
しい。
まねしたくなるような、地元のやきものを使った器づかいも素敵だ。
これ
からの目標は?と聞くと
「特別なことではなく
〝自然と活きるイタリア料理〟
をめ
ざしたいです」
と、
はにかむように微笑んだ。
N
Note
地元の器で味わうイタリアン
トラットリア遇
岐阜県土岐市妻木平成町3-46 ☎0572-44-7323
営業時間/ランチ11:30∼13:30(L.O.)、ディナー18:00∼20:00(L.O.)※要予約
定休日/月曜・第3日曜、不定休有り
東海環状道 土岐南多治見ICより約10分
多治見の街中から移転して3年という、
のどかな一軒家レストランの目印は、
やきものの町らしい、深いグリーンの陶壁。人気の遇ランチは、選べる前菜、
本日のパスタ、
自家製パン、珈琲か紅茶がついて1.300円。写真の玉ねぎの
キッシュや自家製パンはファンも多い。
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