調剤ミス防止対策における調剤室環境整備とヒューマンエラーの関連性の

1
調剤ミス防止対策における調剤室環境整備とヒューマンエラーの関連性の分析
調剤事故に結びつくと考えられる調剤ミスへの対策を講じることは、薬局薬剤師の重要な
課題となっています。調剤事故や調剤ミスには、人が関わるミスつまりヒューマンエラーが
介在していると考えられており、その防止対策の一つとして調剤室の環境整備があると報告
されています。しかしながら、調剤室の各種環境整備が調剤におけるヒューマンエラーとど
のように関連性があるのかは明らかになっていないのが現状です。そこで、薬剤師が考えて
いる調剤室の各種環境整備による調剤ミス防止対策と調剤におけるヒューマンエラー対策
との関連性を明らかにするため、アンケート調査を行い、その解析を行いました。また、調
剤ミスにおけるヒューマンファクターに絞ったリスク要因の調査も行いました。
調剤ミスの内容と調剤ミスの原因に関する質問のアンケート調査結果を図 1 および図 2
に示します。調剤ミスの内容に関する項目では、「規格間違い」および「計数間違い」で全
体の 50%以上を占め、調剤ミスの原因に関する項目では、「焦り」が約 65%を占めました。
図1
調剤ミスの内容と調剤ミスの原因
A.調剤ミスの内容
B.調剤ミスの原因
計数間違い
28%
規格間違い
26%
13%
他剤調剤
9%
薬袋の記入間違い
0%
図2
経験不足
5%
ストレス
4%
睡眠不足
3%
散剤・液剤の調剤間違い
20%
10%
知識不足
10%
調剤漏れ
14%
疲労
11%
処方箋のミスに気付かず調剤
65%
焦り
40%
60%
1%
0%
80% 100%
20%
調剤ミスの内容に対する調剤ミスの原因の割合
計数間違い
他剤調剤
薬袋の記入間違い
調剤漏れ
散剤・液剤の調剤間違い
処方箋のミスに気付かず調剤
0%
疲労
睡眠不足
20%
経験不足
40%
60%
知識不足
80%
焦り
100%
ストレス
40%
60%
80%
100%
2
調剤室環境整備による調剤ミス防止対策とヒューマンエラー対策との関係を検討するた
め、共分散構造分析によるパス解析を行ったところ、図 3 に示す調剤室環境整備による調剤
ミス防止対策とヒューマンエラー対策の因果モデルが得られました。ヒューマンエラー対策
間の関係については、「認知対策」と「注意力不足対策」、「注意力不足対策」と「知識・経
験不足対策」、
「認知対策」と「知識・経験不足対策」で、それぞれの関連が認められました。
図3
調剤室環境整備による調剤ミス防止対策とヒューマンエラー対策の因果モデル
0.55
Q2
0.64
0.32 ***
0.78
0.61
0.34
Q23
Q22
0.80 ***
Q25
0.89 ***
0.41 ***
0.54***
0.24
認知エラーに
対する動線対策
0.19***
0.23 *** 0.79
0.38
0.19
Q13
Q11
0.44 ***
0.34 ***
0.16 ***
1.01
1.00 ***
注意力不足
対策
0.67
Q20
.020 ***
知識・経験不足
に対する
五十音配列対策
知識・経験
不足対策
1.24
Q7
0.77 ***
0.68 ***
1.11 ***
0.46
0.21
0.16 ***
0.65
注意力不足に対す
る薬効順配列対策
0.36 ***
Q16
0.81 ***
0.36
Q18
0.55
0.74 ***
.077 ***
0.72
0.51 ***
0.98 ***
.082 ***
Q9
0.31***
***
認知対策
Q12
0.40
Q8
0.29
認知エラーに
対する整理整頓
規格間違い
他剤調剤
0.49 ***
0.72 ***
0.85 ***
0.76 ***
Q6
Q3
0.83
0.67
0.58
0.96
Q19
0.89 ***
0.58 ***
***
Q1
Q21
注意力不足による
薬袋記入間違い
調剤漏れ対策
0.16 ***
0.78
0.54 ***
0.18 *** 0.72
Q14
0.72 ***
0.23 ***
0.52
0.91 ***
Q24
Q10
Q4
認知エラーに
対する整理整頓
計数間違い
薬袋記入間違い
調剤漏れ
0.72
0.48
Q15
0.61
0.57***
0.49 ***
0.24 ***
0.52
Q5
0.60 ***
0.13
注意力不足に
対する棚配置の
隣接対策
GFI=0.849
AGFI=0.791
CFI=0.877
RMSEA=0.088
*** P<0.001
今回我々が構築したモデルは、ヒューマンエラー対策としてどのような各種環境整備を行
えばよいかということを推測する手段となりうるため、今後の薬局のリスクマネッジメント
の向上の一助となると考えられます。
【発表論文】
舘知也,寺町ひとみ,田村顕人,駒田奈月,志賀仁美,今井敬司,土屋照雄,調剤ミス防止
対策における調剤室環境整備とヒューマンエラーの関連性の分析,医療薬学,38,513-521,
2012.