2 - 長岡技術科学大学

セラミックスコーティング高速合成技術
長岡技術科学大学
斎 藤 秀 俊
趣
旨
セラミックスコーティング高速合成技術には、化学気相析
出(CVD)法と物理気相析出(PVD)法とがあります。過去
には1μm/h程度の成膜速度で行われたセラミックスコー
ティングが速度の桁数を伸ばしながら進化してきています
。当初は真空チャンバ内で行われていたCVDプロセスが
大気に暴露されて1μm/min程度まで堆積速度を伸ばし
ましたが、その後、PVDプロセスにおいて強大なエネルギ
ーをかけることで溶融したセラミックス粒子を積層して
1μm/s程度にまで高速化が達成されました。最近ではキ
レート(錯体)を原料にすることで燃焼炎(フレーム)法によ
って手軽にセラミックス厚膜を合成できるようになりました
。本セミナーでは、この最新の製造技術、キレートフレー
ム法について、分かりやすく、かつ詳細に解説します。
プログラム
1.セラミックスコーティングの基礎
1-1. 化学気相析出(CVD)法の基礎
1-2. 物理気相析出(PVD)法の基礎
2. 高速堆積の原理と応用
2-1. CVD分野における展開の歴史と現状
2-2. PVD分野における展開の歴史と現状
3. キレートフレーム法
3-1. 原料であるキレートについて
3-2. 原理と性能
3-3. 10μm/sを目指した実用化試験
3-4. アルミニウム上合成試験
1.セラミックスコーティングの基礎
毘盧遮那仏の金コーティングは
金アマルガム法による
バルク→流動化→塗布→固着
コーティングの基礎は
① 流動化
② 塗布
③ 固着
の3つからなる。
毘盧遮那仏
1.セラミックスコーティングの基礎
物理的プロセス
バルク
→
流動化
→
塗布
→
固着
→
固着
エネルギー
バルク
→
流動化
→
塗布
化学的プロセス
1-2. 物理的プロセス(PVD)
真空チャンバー
基板
エッチング
炭素原子フラックス
(運動エネルギー)
正の荷電粒子
スパッタ
スパッタ率
1~10
グラファイトターゲット(負電位)
スパッタ法(軟質炭素膜の合成)
基板
プラズマ
グロー放電
10 mA
スパッタ粒子
0.1~1 mA
堆積粒子
0.1mAで1016個/s
30個で1nm2x0.3nmH
100個で1nm2x1nmH
1016個で1014nm2x1nmH
(1cmx1cmで1nm/s)
飛翔粒子(スパッタ率5)
1 Aで1020個/s
0.1mAで1016個/s
黒鉛ターゲット
スパッタ法(硬質炭素膜の合成)
−500V
基板
イオン衝撃
で膜硬化
プラズマ
黒鉛ターゲット
−500V
基板
イオン衝撃
で膜硬化
プラズマ
黒鉛ターゲット
マグネトロンスパッタ法(硬質炭素膜の合成)
−500V
基板
堆積粒子
1cmx1cmで1nm/sが
100 nm
実際にはイオン衝撃で
1/100
イオン衝撃
で膜硬化
プラズマ電流
x10倍
イオン電流
x10倍
黒鉛ターゲット
N
S
N
フィルタードカソーディックアーク(FCVA)法
単純に考えれば
10mAのグロー放電で1cmx1cmで1nm/sなら
100Aのアーク放電で1cmx1cmで10μm/s
ただし、大きな粒子も飛び、膜は空隙だらけ
数10Vの電圧
数100Aの電流
1-3. 化学的プロセス(CVD)
真空チャンバー
電極
分解によって
蒸気圧が下が
る
H2 -> 2H
CH4+H ->CH3+H2
CH3+H ->CH2+H2
CH2+H ->CH +H2
CH+H -> C+H2
C 堆積
基板
電極
供給粒子
100cc/min(CH4)
1020/s個
イオン化率10-5程度で
1015個/s
1014nm2x0.1nmH
(1cmx1cmで0.1nm/s)
ただし供給律速あり
プラズマ
真空チャンバー
H2 -> 2H
CH4+H ->CH3+H2
プラズマ CH3+H ->CH2+H2
CH2+H ->CH +H2
CH+H -> C+H2
電子サイクロトロン運動
正イオンフラックス
C 堆積
基板
負電極
真空チャンバー
図11 電子サイクロトロン共鳴プラズマCVDプロセスの原理
流動化・固着化をどのように進めるか?
アーク源、火炎銃
燃焼反応
電子銃
イオン銃
プラズマによる
重合反応、
イオン衝撃
高速合成のための課題
• PVDプロセス
プラズマプロセスよりは蒸発プロセス
蒸発では巨大粒子が発生し、緻密化できない
基板温度が高温になる
• CVDプロセス
供給律速からの脱却
高温プラズマ(火炎)を使うと基板温度が高温
になる
プログラム
1.セラミックスコーティングの基礎
1-1. 化学気相析出(CVD)法の基礎
1-2. 物理気相析出(PVD)法の基礎
2. 高速堆積の原理と応用
2-1. CVD分野における展開の歴史と現状
2-2. PVD分野における展開の歴史と現状
3. キレートフレーム法
3-1. 原料であるキレートについて
3-2. 原理と性能
3-3. 10μm/sを目指した実用化試験
薄膜合成の潮流
原料気化器
ノズル
基板加熱台
http://hts.nagaokaut.ac.jp
薄膜合成の潮流
大気開放型CVD装置の原理図
窒素
流量計
除湿器
バルブ 2
バルブ 1
原料気化器
M(OR)4
バルブ 3
ノズル
基 板
基板ヒーター
薄膜合成の潮流
酸化チタン(アナターゼ)
100 nm
http://hts.nagaokaut.ac.jp
薄膜合成の潮流
酸化イットリウム 550℃
薄膜合成の潮流
酸化イットリウム 550℃
酸化チタン
アナターゼ
酸化マグネシウム
スパッタリング法 (数μm/h)
真空プロセス

DCスパッタリング

マグネトロンスパッタリング
The deposition of thin films of gold on cylindrical specimens by
sputtering: Vacuum, Volume 6, 1956–1958, Pages 272-273
Efficient low pressure sputtering in a large inverted magnetron
suitable for film synthesis: Rev Sci Instrum, 36 (3), March 1965,
277–282 Vacuum, Volume 15, Issue 7, July 1965, Page 384

RFスパッタリング

イオンビームスパッタリング
Dielectric thin films through rf sputtering: Appl Phys,37(2), Feb
1966, 574–579
Vacuum deposition of films by sputtering using an ion-beam
source Vacuum, Volume 17, Issue 3, March 1967, Page 165
溶射法
大気プロセス





数十μmの粒子を溶融堆積
堆積速度 μm/s
プラズマ溶射
アーク溶射
フレーム溶射
レーザー溶射
コールドスプレー
大阪富士工業株式会社のHPより転載
プログラム
1.セラミックスコーティングの基礎
1-1. 化学気相析出(CVD)法の基礎
1-2. 物理気相析出(PVD)法の基礎
2. 高速堆積の原理と応用
2-1. CVD分野における展開の歴史と現状
2-2. PVD分野における展開の歴史と現状
3. キレートフレーム法
3-1. 原料であるキレートについて
3-2. 原理と性能
3-3. 10μm/sを目指した実用化試験
セラミックスの溶射
セラミックスの溶射
高融点であるため高温が
必要(Y2O3: 2300 ℃)
問題点
・高温(∼10000 ℃)、高エネルギーを要する
→プラズマ溶射法が通常用いられる
・装置が高価で運用コストが高い
プラズマ溶射
http://www.plasma.co.jp/gijutu/index.htm
高速フレーム溶射
http://www.1040toyo.co.jp/spray.html
フレーム溶射法
金属などの低融点の材料を溶射する際に用いられる
・装置構成が簡単
・比較的安価
フレーム溶射は高融点のセラミックスを
溶融維持するには温度が不足
金属錯体をフレーム溶射に導入し、フレーム中で
セラミックスを合成すると同時に厚膜作製できないか?
キレート錯体の構造と特徴
EDTA
CO
・アミノ酸の一種
・酸は水に難溶
アルカリ塩は可溶
・金属イオン:EDTA=1:1で反応
・2価以上の金属イオンと安定な
水溶性キレート錯体を形成
CH2
O
CH2 CO
O
O
M
CO CH2
O
N
CH2
CO
N
CH2
CH2
キレート錯体の構造と特徴
EDTA
CO
・アミノ酸の一種
・酸は水に難溶
アルカリ塩は可溶
・金属イオン:EDTA=1:1で反応
・2価以上の金属イオンと安定な
水溶性キレート錯体を形成
CH2
O
CO CH2
O
M
N
O
CO CH2
O
CH2
CO
N
CH2
CH2
金属-EDTA + フレーム溶射 の可能性
CO
MxOy
CH2
O
CO CH2
O
M
N
CO CH2
O
N
CH2
CH2
熱分解(燃焼)
MxOy
MxOy
MxOy
金属酸化物粉末
CH2
CO
フレーム溶射
MxOy
O
MxOy
MxOy
?
金属酸化物厚膜
金属-EDTA + フレーム溶射 の可能性
*
*
(a)
*Al2O3
**
(b) *
*
*
*Y2O3
*
(c)
Intensity (a. u.)
*
*
**
*
(d)
*
*MgO
*
**
*
*Cr2O3
***
(e)
* **
*ZnO
*
(f)
**
*
*TiO2(rutile
(g)
10
SUS304
20
30
40 50
2θ (deg)
60
70
80
問題点
金属-EDTA粉末の流動性が悪く、
経時的に詰まりやすい
EDTA・M・NH4の物性に起因
(EDTA金属アンモニウム塩)
○粒子形状
アスペクト比の大きい柱状結晶であることが多い
→粉砕、造粒、流動改善剤添加で対応可
○吸湿性
EDTA・M・NH4は水に易溶、空気中の水分により結晶
表面が溶けて粒子間摩擦が大きくなる
→根本的な改善が必要
【改良2】燃焼ガス種類の影響
粒子温度 : アセチレン > 水素炎
粒子速度 : アセチレン < 水素炎
粒子温度および粒子速度が膜質に与える影響を確認
【改良2】燃焼ガス種類の影響
溶射条件(アセチレンー水素)
燃焼ガス条件
H2: 32.6 L/min
O2: 43.0 L/min
C2H2:23.5 L/min
O2:47.0 L/min
【改良2】燃焼ガス種類の影響
表面・断面SEM像(アセチレン-水素)
水素炎により形成したY2O3溶射皮膜
アセチレン炎により形成したY2O3溶射皮膜
水素炎を用いることで溶射粒子速度は速くなり、 溶射粒子が
扁平化しやすく、より緻密な膜を得ることが出来ることを確認
【改良3】錯体担持金属元素種類の影響
金属の原子量および酸化物の比重の影響を確認
EDTA・Y
EDTA・Er
50m
金属錯体
錯体担持
金属種
担持金属の
酸化物の
金属酸化物融点
密度(g/cm3)
原子量
(℃)
Y-EDTA
Y
88.91
5.01
2403
Er-EDTA
Er
167.26
8.64
2400
【改良3】錯体担持金属元素種類の影響
飛翔粒子速度(Y-Er)
120
飛翔粒子速度はほぼ同じ
Velocity (ms‐1)
100
80
60
EDTA・Y 40
20
EDTA・Er
0
100
110
120
130
140
150
Spray Distance (mm)
160
170
180
【改良3】錯体担持金属元素種類の影響
表面・断面SEM像(イットリア-エルビア)
EDTA・Y
10 m
EDTA・Er
担持金属種の原子量が高い程、緻密な膜が形成
【改良4】キャリアガス種類の影響
EDTA
・M・H
N2
MxOy
CO2 ↑ NO2 ↑ H2O
↑
N
N
酸化
N
EDTA
MxOy
N
・M・H
2
2
2
N2
2
N2
N2
N2
N2
熱分解・酸化反応が遅れる
原料の周りが窒素で囲まれているため熱分解・酸化反応が
遅れると考えられる
【改良4】キャリアガス種類の影響
EDTA
・M・H
MxOy
CO2 ↑ NO2 ↑ H2O ↑
O2
O2
O2
O2
EDTA
・M・H
O2
O2
O2
O2
酸化
O2
O2
基
MxOy
板
熱分解・酸化反応が促進される
原料の周りが酸素に囲まれているため熱分解・酸化反応が
促進されると考えられる
【改良4】キャリアガス種類の影響
原料粉体
供給装置
EDTA・Er・H
N2 / Air / O2: 7.1 L/min (15 SCFH)
スプレーガン
N2
/
Air
/
O2
Sulzer Metco:6PーⅡ
130 mm or 150 mm
H2
O2
冷却空気
スキャン回数:4
インターバル 5min
H2: 32.5 L/min O2: 43.0 L/min
(70 SCFH)
(90 SCFH)
【改良4】キャリアガス種類の影響
表面SEM像
130mm 窒素
150 mm
空気
酸素
【改良4】キャリアガス種類の影響
断面SEM像
130 mm 窒素
150 mm
空気
酸素
【改良4】キャリアガス種類の影響
膜厚および気孔率
キャリアガス種
窒素
窒素
空気
酸素
基板間距離
(mm)
130
150
130
150
130
150
膜厚
(mm)
32.9
15.2
21.5
22.0
35.9
19.6
気孔率
(%)
35.7
23.4
7.8
5.9
9.3
3.0
酸素含有キャリアガスを用いることにより
平滑かつ緻密な膜ができることを確認
飛翔粒子速度・温度と気孔率
球の大きさが大きいと気孔率が高い
High Velocity Oxygen Fuel
Plasma Spray
This Work
まとめ
金属-EDTA錯体 + 汎用フレーム溶射装置
↓
低エネルギー・低コストな新規溶射法の提案
(反応性溶射法)
・金属-EDTAの粉体特性改質
(水に易溶→不溶)
・溶射粒子の飛翔速度の向上
(アセチレン炎→水素炎)
・原子量の大きい金属の採用
(Y2O3 → Er2O3)
・酸素含有キャリアガスの採用
(窒素→空気→酸素)
溶射膜品質
の向上
酸化エルビウムコート試作品
Al基板上に製膜したEr₂O₃膜の外観写真