その2 - 宝石貴金属協会

平成 21 年度通常総会「宝石セミナー」より
「貴金属実態調査 その成果とこれからの課題
∼エネルギー分散型蛍光 X 線分析装置を用いた貴金属定量分析の試み∼」
社団法人 宝石貴金属協会 研究員 小泉一人
前回の宝貴協通信では 2007 年 4 月より 5 回にわたり行ってきた貴金属実態調査について調査か
ら分かってきた海外製品の動向について紹介しました。近年、貴金属製品は国内外の様々な品位
のものが流通しており、それに伴い製品の品位に対しても厳しい目が注がれてきています。日本
工業規格(JIS)等によるジュエリー用貴金属合金の純度(品位)の規定によると正確な品位を証
明するためには溶解検査による破壊分析を行う必要があります。溶解検査は定量性に優れていま
すが、試料調整に破壊や熟練、時間、費用が必要です。
貴金属の定量分析、品位証明を非破壊で行うことは可能か?
という問い合わせをよく受け
ますが、非破壊で行う方法は精度が悪く、品位の証明には問題があります。ここでは非破壊検査
による分析方法として様々な分野で利用されている蛍光 X 線分析法を用いた貴金属の定量分析の
可能性について紹介させて頂きます。
蛍光 X 線分析法は、試料に含まれている成分を特定す
る定性分析および構成成分の量を測定する定量分析がで
きる方法です。物質に X 線を照射すると、物質を構成し
ている元素から蛍光 X 線が発生します。この蛍光 X 線の
強度を測定することにより、試料の組成を分析すること
ができます(図)。簡便で迅速性に優れ、前処理も不要で
かつ非破壊で分析ができますが、試料の表面部分しか評
価できないという欠点があるため、メッキがある場合な
どは試料の母材を評価することはできません。測定には
メッキをはがす必要があります。
(社)宝石金属協会では、貴金属実態調査において提
供して頂いた貴金属製品、計 43 点(第 6 回貴金属実態調
査における 22 点を含む)を山梨県工業技術センターに設
置されている2つのエネルギー分散型蛍光 X 線分析装置
を用いて測定し、その精度および正確さの検討を行って
きました。測定は測定部を代えながら合計 3 回測定した
測定値の平均値を示しました。分析値の定量計算はファンダメンタルパラメーター(FP)法(理
論から組成を推定する方法)を用い、定量値の精度向上のために既知の標準試料を用いて補正を
行う一点補正を施しました。なお、第 6 回貴金属実態調査(2009 年 9-10 月実施)における測定
値や生産国、形状などの詳細は本号の表(本号 3 ページ)をご覧ください。
貴金属製品を分析した際の精度および正確さの検討によると、K18 ホワイトゴールドの製品を
測定した結果、破壊分析による測定値と比べ約 3%以内の範囲で測定されます(表1)。しかしな
がら、標準試料から離れた成分からなる試料を分析した場合には正確さに欠ける傾向があります。
非破壊分析を前提とする分析には大きな制約がかけられますが、分析の精度や誤差の原因のひ
とつとなるものとして試料の表面状態(不定形凹凸面)の状態の効果があります。例えば、同じ
組成をもつ試料でも厚さが変わるだけで得られる強度は変わってきます。形状や厚さ、固定位置
により測定強度は変化し、同一組成のものにもかかわらず測定値には違いが生じてしまいます(表
2)。精度よい分析を可能にするためには、物の凹凸など形状に応じて、蛍光 X 線の検出器の角
度が一定になるようになることが必要です。また、定量分析は試料が均質であることが前提とな
るため、試料や標準試料に不均質が認められる場合、誤差を生じる原因の一つとなるでしょう。
以上のように蛍光 X 線分析法は簡単に分析値が得られ、おおよその品位を知ることが可能です
が、簡便な分、その定量値にはまだまだ問題があります。貴金属の品位や定量値を扱う際には分
析手法とその精度にも注意を払う必要があります。
(社)宝石貴金属協会では、破壊を伴う溶解検査による品位検査と共に今回ご紹介しました蛍
光 X 線分析装置を用いた非破壊による表面分析も行っていますのでぜひご利用ください。なお、
詳細については協会(℡055-243-6147)までお問い合わせください。
表1.未知試料(K18 ホワイトゴールド)の分析結果。保証値(wt.%)は破壊検査により分析し
た結果。測定値(wt.%)は 3 回の測定の平均値。σは標準偏差。分析精度は、相対標準偏差(RSD.%:
バラツキの度合い)で、正確さは保証値からの相対誤差(RV.%=(測定値−保証値)/保証値×
100)
:真の値に対する誤差の割合)で評価し、分析装置 A と B の違いは主に照射面積の違い(照
射径 A>B)を示す。RSD 値は金、銅が 1%以内、ニッケルが 3%以内、亜鉛が 5%、RV 値は亜鉛
を除いて 3%以内で測定された。
表2.同一組成の素材から作成されたプレートとリングの測定結果。保証値(wt.%)、σ、RSD(%)、
RV(%)については表 1 を参照。同一組成のものにもかかわらず測定値には開きが認められる。