日本神経精神薬理学会 統合失調症薬物治療ガイドライン Japanese Society of Neuropsychopharmacology “Guideline for Pharmacological Therapy of Schizophrenia” 2015 年 9 月 24 日 Ver7.1 【本ガイドラインを読む前に】 (専門家 および 患者さん・ご家族・支援者の方に) このガイドラインは,統合失調症の治療にあたる専門家に向けたものですが,当事者や ご家族や支援者などのお立場の方も手に取ることがあると思います。そこで,どのような 趣旨のガイドラインであるかを,最初にごく簡単にご説明させていただきます。 このガイドラインは,統合失調症の診断がはっきりしている方について,薬物での治療 を進める際の「薬物の種類の選択の基準」を示したものです。そして,このガイドライン を読む際には,いくつかご注意いただきたいことがあります。 第一は,統合失調症の診断がはっきりしている方を対象としたガイドラインであること です。実際の診療のなかでは,似た症状を認めても統合失調症ではない場合や,特に病気 の初期に統合失調症であるかどうかを明確に診断できない場合があります。そうした場合, このガイドラインは適応できません。また,統合失調症という診断であっても他の病気の 特徴を合わせもつために,このガイドラインの基準がそのままあてはまらない場合もあり ます。 第二は,統合失調症の治療を薬物療法だけで進めることを示しているわけではないこと です。統合失調症の治療は,薬物療法と心理社会的治療を組み合わせて行います。症状の 種類や病気の時期によって,薬物療法の効果が高い場合もありますし,心理社会的治療の 効果が高い場合もあります。その両者を上手に組み合わせると,統合失調症における脳機 能や心理機能の失調の改善が促進され治療の有効性が高まります。そのため,薬物療法と 心理社会的治療の組み合わせが統合失調症治療の大前提となります。いずれか一方だけで は,治療の十分な効果は期待できません。さらに,信頼し合える人間関係や安定した生活 などから得られる安心感が,そうした専門的な治療の基盤になります。煩雑さを避けるた めに,ガイドラインの個別の記述ではこのことを繰り返していません。そのため個別の文 章を読むと,薬物療法だけで治療を進めることを推奨したり,あるいは他の治療よりも薬 物療法の効果が高いことを示しているという印象を受ける部分があるかもしれません。そ れはこのガイドラインの趣旨ではありませんので,誤解のないようにお願いします。 第三は,このガイドラインは一般論を示していることです。統合失調症の病状は,患者 さんごとに様々です。また患者さんごとに,生活の状況が異なります。さらに,薬物の効 果や副作用にも,個人ごとに差があります。こうした様々な多様性を平均してできあがっ たものが,ガイドラインです。そのため,お一人お一人の患者さんの具体的な個別の場面 では,このガイドラインにおける推奨があてはまらない場合があります。ガイドラインの 推奨に従っていないことだけを理由に,適切でない治療を行っていると判断できるわけで はありません。ガイドライン以上に,それぞれの治療場面での個別の専門的な判断が優先 されます。 「ガイドライン」という名前からは,規則のような印象を受けるかもしれませんが,そ うした理解は適切ではありません。多くの患者さんについての多くの専門家の経験をまと めたという意味での意義と有用性はありますが,無条件で従わなければいけないルールで はありません。専門家が実際の診療を進めるうえでの根拠や参考として用いるとともに, 患者さんやご家族と専門家が治療について一緒に相談する際のひとつの資料として価値が あるものです。ガイドラインについても専門家の判断についても,患者さんやご家族がそ れを一方的に受け入れるのではなく,お互いに希望や考えを出し合って治療の方針を合意 していくことが,統合失調症をはじめとする精神疾患の治療の基本となります。そのため に利用していただくことで初めて,ガイドラインの本当の意味を生かすことができます。 このような協働を通じて,症状や病気と上手に向き合い,ご本人が望む生活の実現を目指 し,自分らしい生き方を見つけていくことが,統合失調症の治療の目標です。 【序文】 1.統合失調症の薬物治療ガイドライン作成の経緯 諸外国では,統合失調症治療に関するガイドラインが作成され,本邦でも翻訳されて利 用されてきた。しかしながら,本邦と諸外国では,使用可能となる薬物の種類や用法,医 療制度が異なることがあり,本邦の医療事情に合わせた診療ガイドラインが求められてい た。本邦における過去の診療ガイドラインとしては,エキスパートオピニオンによるもの などは存在したが,科学的エビデンスに基づくものは作成されていない。 このため,これまでに得られた知見を集約し,科学的エビデンスに基づく診療ガイドラ インを作成する必要が指摘された。そこで,日本神経精神薬理学会では,統合失調症の薬 物治療ガイドライン作成タスクフォースを結成し,ガイドラインを作成した。 統合失調症の治療は,薬物治療のみによるものではないことはあらためて述べていない。 心理社会的療法や医療福祉との協働など包括的な治療が必要である。包括的治療ガイドラ インを作成することが望ましいことは自明であるが,包括的ガイドラインを作成する前段 階として,エビデンスが比較的豊富な薬物療法についてガイドラインを作成することとし た。 ガイドラインの作成には,日本統合失調症学会からも委員が参加協力し,主に冒頭の「本 ガイドラインを読む前に」の執筆を担当した。 2.統合失調症の薬物治療ガイドライン作成に関わったタスクフォースメンバー 統括 議長 石郷岡純 東京女子医科大学 副議長 岩田仲生 藤田保健衛生大学 久住一郎 北海道大学 中川敦夫 慶應義塾大学 宮本聖也 聖マリアンナ医科大学 岸太郎 藤田保健衛生大学 松田勇紀 藤田保健衛生大学 三宅誕実 聖マリアンナ医科大学 伊賀淳一 徳島大学,愛媛大学 加藤正樹 関西医科大学 田近亜蘭 京都大学 堀輝 産業医科大学 伊藤侯輝 ジョンズ・ホプキンス大学,北海道大学 金沢徹文 大阪医科大学 初発時 再発・再燃時 維持期 治療抵抗性 その他の問題 岸本泰士郎 慶應義塾大学 竹内啓善 慶應義塾大学,トロント大学 菱本明豊 神戸大学 榎本哲郎 国立国際医療研究センター国府台病院 諏訪太朗 京都大学 嶽北佳輝 関西医科大学,ボローニャ大学 橋本亮太 大阪大学 三澤史斉 山梨県立北病院 宮田量治 山梨県立北病院 稲田健 東京女子医科大学 佐藤創一郎 慈圭病院 辻野尚久 東邦大学 山田浩樹 昭和大学 渡邊博幸 千葉大学 日本統合失調症学会からの協力 池淵恵美 帝京大学 笠井清登 東京大学 後藤雅博 南浜病院 福田正人 群馬大学 村井俊哉 京都大学 3.利益相反情報について 日本神経精神薬理学会は,今後本学会が作成する臨床ガイドラインについては,作成メ ンバーが中立性と公明性をもって作成業務を遂行するために,実際または予想されうる問 題となる利益相反状態を避けることに最大限の努力をはらっている。すべての作成メンバ ーは可能性としてまたは実際に生じる利益相反情報の開示を行う。 本ガイドラインの作成にあたって,厚生労働科学研究費補助金より助成を受けた。 ガイドライン作成メンバーの利益相反情報は以下の通り。 石郷岡純:アークメディア,アステラス製薬(株),アッヴィ合同会社,医薬ジャーナル社, インフロント(株) ,エーザイ(株),MSD(株),大塚製薬(株),グラクソ・スミスライン(株), ケアネット(株) ,興和創薬(株),ジーエムジェイ(株),塩野義製薬(株), (公社)全国精神 保健福祉会連合会,大日本住友製薬(株),武田薬品工業(株),田辺三菱製薬(株),中外医学 社(株) ,中外製薬(株), (公財)東京都医学総合研究所,凸版印刷(株) , (社)栃木県精神 障害者援護会,南山堂(株),日本医師会,日本医事新報社,日本イーライリリー(株),ノ バルティスファーマ(株),ファイザー(株),Meiji Seika ファルマ(株),メディカルプロフェ ッショナルリレーションズ,メビックス(株),持田製薬(株),ヤンセンファーマ(株) ,ラ イフメディコム,吉富薬品(株)から研究補助金,講演等の謝礼および執筆等の原稿料,寄付 金を受領している。 岩田仲生:アステラス製薬(株),アッヴィ合同会社,エーザイ(株),MSD(株),大塚製薬(株), (株)アークメディア,(株)医学書院,(株)先端医学社,(株)ツムラ,(株)日経 BP,(株)メディ カルレビュー社,(株)フォーライフメディカ,グラクソ・スミスライン(株),塩野義製薬(株), JUMPs 研究会,大日本住友製薬(株),第一三共(株),武田薬品工業(株),田辺三菱製薬(株), 中外製薬(株),日本イーライリリー(株),日本メジフィックス(株) ,ノバルティスファーマ (株),ファイザー(株),ブラケット・グローバル(株),Meiji Seika ファルマ(株),メビック ス(株),ヤンセンファーマ(株),吉富薬品(株)から研究補助金,講演等の謝礼および執筆等 の原稿料,寄付金を受領している。 久住一郎:アステラス製薬(株),アッヴィ合同会社,旭化成ファーマ(株),医学書院,エー ザイ(株),MSD(株),大塚製薬(株),小野薬品工業(株),協和発酵キリン(株),グラクソ・ス ミスライン(株),塩野義製薬(株),(株)シナジー,(株)星和書店,第一三共(株),大日本住友 製薬(株),武田薬品工業(株),田辺三菱製薬(株),中外製薬(株),日本イーライリリー(株), 日本ケミファ(株),日本ベーリンガーインゲルハイム,ノバルティスファーマ(株),ファイ ザー製薬(株),Meiji Seika ファルマ(株),メビックス(株),ヤンセンファーマ(株),吉富薬 品(株)から研究補助金,講演等の謝礼および執筆等の原稿料,寄付金を受領している。 中川敦夫:旭化成ファーマ(株),(一社)しまね地域医療支援センター,(一社)日本健康文化 振興会,大塚製薬(株),(株)アークメディア,(株)医学書院,(株)NTT ドコモ,(株)金剛出版, (株)じほう,(株)星和書店,国立精神・神経医療研究センター,塩野義製薬(株),新宿区保 健センター,武田薬品工業(株),田辺三菱製薬(株),日本イーライリリー株,日本救急医学 会,日本児童青年精神医学会,Meiji Seika ファルマ(株),持田製薬(株),山梨県立北病院, ㈲科学評論社,ヤンセンファーマ(株) ,吉富薬品(株)から研究補助金,講演等の謝礼および 執筆等の原稿料を受領している。 宮本聖也:大塚製薬(株),大日本住友製薬(株),田辺三菱製薬(株),中外製薬(株),日本イー ライリリー(株),ヤンセンファーマ(株) から講演等の謝礼および執筆等の原稿料を受領して いる。 岸 太郎:アステラス製薬(株),アッヴィ合同会社,エーザイ(株),大塚製薬(株),(株)ツム ラ,統合失調症研究会(アステラス製薬(株)),(株)明治,グラクソ・スミスライン(株),塩野 義製薬(株),第一三共(株),大日本住友製薬(株),田辺三菱製薬(株),日本イーライリリー(株), 日本学術振興会科学研究費助成事業若手 B,ノバルティスファーマ(株),ファイザー(株), ヤンセンファーマ(株),から研究補助金,講演等の謝礼および執筆等の原稿料を受領してい る。 松田勇紀:大塚製薬(株),グラクソ・スミスライン(株),日本イーライリリー(株),大日本 住友製薬(株),Meiji Seika ファルマ(株),ファイザー(株),(株)星和書店,ライフサイエン ス,日本学術振興会科学研究費助成事業若手 B から研究補助金,講演等の謝礼および執筆 等の原稿料を受領している。 三宅誕実:大塚製薬(株),塩野義製薬(株),大日本住友製薬(株),統合失調症研究会(アステ ラス製薬(株)),日本イーライリリー(株),日本学術振興会科学研究費助成事業若手 B,ノバ ルティスファーマ(株),明治製菓(株),ヤンセンファーマ(株)から研究補助金,講演等の謝 礼および贈答品を受領している。 伊賀淳一:アステラス製薬(株),エーザイ(株),MSD(株),大塚製薬(株),グラクソ・スミ スライン(株),塩野義製薬(株),日本イーライリリー(株),ノバルティスファーマ(株),Meiji Seika ファルマ(株),持田製薬(株)),ヤンセンファーマ(株) から講演等の謝礼および執筆等 の原稿料を受領している。 加藤正樹:大塚製薬(株),グラクソ・スミスライン(株),塩野義製薬(株),大日本住友製薬(株), 田辺三菱製薬(株),日本イーライリリー(株),日本私立学校振興・共催事業団,ファイザー(株), Meiji Seika ファルマ(株),文部科学省科研研究費,ヤンセンファーマ(株),吉富薬品(株) か ら研究補助金,講演等の謝礼を受領している。 田近亜蘭:田辺三菱製薬(株) ,日本イーライリリー(株)から講演等の謝礼を受領している。 堀輝:アークメディア(株),旭化成ファーマ,アステラス製薬(株),エーザイ(株),MSD(株), 大塚製薬(株),グラクソ・スミスライン(株),星和書店(株),大日本住友製薬(株),武田薬 品工業(株),田辺三菱製薬(株),中島映像教材出版(株),日本イーライリリー(株),ノバ ルティスファーマ(株),ファイザー(株),Meiji Seika ファルマ(株),メディカルレビュー(株) , 持田製薬(株),ヤンセンファーマ(株) から講演等の謝礼および執筆等の原稿料を受領してい る。 伊藤侯輝:無し 金沢徹文:アステラス製薬(株), 大塚製薬(株),グラクソ・スミスライン(株),大日本住友 製薬(株),田辺三菱製薬(株),日本イーライリリー(株),明治製薬(株),ヤンセンファーマ(株), 吉富薬品(株) から講演等の謝礼を受領している。 岸本泰士郎:アッビィ合同会社,エーザイ(株),MSD(株),大塚製薬(株),グラクソ・スミ スライン(株),(公財)ファイザーヘルスリサーチ振興財団,塩野義製薬(株),先進医薬研究 振興財団(田辺三菱製薬(株)),大日本住友製薬(株),武田薬品工業(株),統合失調症研究会(ア ステラス製薬(株)),日本イーライリリー(株),ノバルティスファーマ(株),ファイザー(株), 持田製薬(株),ヤンセンファーマ(株),吉富薬品(株) から講演等の謝礼および寄付金を受領 している。 竹内啓善:大日本住友製薬(株)から執筆等の原稿料を受領している。 菱本明豊:アスビオファーマ(株),エーザイ(株),MSD(株),大塚製薬(株),グラクソ・ス ミスライン(株),塩野義製薬(株),大日本住友製薬(株),武田薬品工業(株),田辺三菱製薬(株), 日本イーライリリー(株),日本新薬(株),ファイザー(株),ヤンセンファーマ(株) から研究 補助金,講演等の謝礼および執筆等の原稿料を受領している。 榎本哲郎:大塚製薬(株),ノバルティスファーマ(株),持田製薬(株),ヤンセンファーマ(株) から講演等の謝礼を受領している。 諏訪太朗:大塚製薬(株),グラクソ・スミスライン(株),ノバルティスファーマ(株) から講 演等の謝礼を受領している。 嶽北佳輝:エーザイ(株),大塚製薬(株),第一三共(株),大日本住友製薬(株),日本イーライ リリー(株),ノバルティスファーマ(株),Meiji Seika ファルマ(株),ヤンセンファーマ(株) から講演等の謝礼を受領している。 橋本亮太:大塚製薬(株),(株)大広,大日本住友製薬(株),グラクソ・スミスライン(株),日 本臓器製薬(株),ノバルティスファーマ(株),久光製薬(株),ファイザー(株),吉富薬品(株), ヤンセンファーマ(株)から講演等の謝礼もしくは寄付金を受領している。 三澤史斉:大塚製薬(株), 大日本住友製薬(株),日本イーライリリー(株),ノバルティスファ ーマ(株),ファイザー(株),から講演等の謝礼を受領している。 宮田量治:アステラス製薬(株),大塚製薬(株),大日本住友製薬(株),日本イーライリリー(株) 講演等の謝礼および執筆等の原稿料を受領している。 稲田健:アステラス製薬(株),アッビィ合同会社,エーザイ(株),MSD(株),エムスリー(株), 大塚製薬(株),グラクソ・スミスクライン(株),塩野義製薬(株),大日本住友製薬(株),日本 イーライリリー(株),ノバルティスファーマ(株),ファイザー(株),Meiji Seika ファルマ(株), メビックス(株),持田製薬(株),ヤンセンファーマ(株),吉富薬品(株)から講演料等の謝礼お よび執筆等の原稿料を受領している。 佐藤創一郎:アステラス製薬(株),MSD(株),大塚製薬(株),(株)医薬ジャーナル,(株)南山 堂,(株)メディカルレビュー社,グラクソ・スミスライン(株),塩野義製薬(株),大日本住 友製薬(株),日本イーライリリー(株),持田製薬(株),ヤンセンファーマ(株),吉富薬品(株), (有)富永調剤薬局から講演等の謝礼および執筆等の原稿料を受領している。 辻野尚久:アステラス製薬(株),塩野義製薬(株),大日本住友製薬(株),ノバルティスファ ーマ(株) ,富士フィルム RI ファーマ(株),Meiji Seika ファルマ(株),ヤンセンファーマ(株) から講演等の謝礼を受領している。 山田浩樹:MSD(株),大塚製薬(株),(株)明治,グラクソ・スミスクライン(株)大日本住友 製薬(株),日本イーライリリー(株),ヤンセンファーマ(株),吉富薬品(株)から講演等の謝礼 および執筆等の原稿料を受領している。 渡邊博幸:アステラス製薬(株),エーザイ(株),大塚製薬(株),大日本住友製薬(株),武田薬 品工業(株),田辺三菱製薬(株),日本イーライリリー(株),持田製薬(株),ヤンセンファーマ (株),吉富薬品(株) から講演等の謝礼および執筆等の原稿料を受領している。 4.統合失調症の薬物治療ガイドライン作成タスクフォース会議開催状況 2013 年 10 月 日本神経精神薬理学会理事会において承認 2013 年 10 月 26 日 第 1 回会議 沖縄コンベンションセンター 2014 年 3 月 15 日 第 2 回会議 京都テルサ 東館 2F 視聴覚研修室 2014 年 9 月 13 日 第 3 回会議 フクラシア品川 2014 年 11 月 20 日 第 4 回会議 名古屋国際会議場 2014 年 12 月 20 日 第 5 回会議 フクラシア品川 作成中間報告と公開討論 2014 年 11 月 22 日 名古屋.第 24 回日本臨床精神神経薬理学会・第 44 回日本神経精神薬理学会 合同年会 「治療ガイドライン作成の目的と意義-日本神経精神薬理学会・統合失調症薬物療法タス クフォース中間報告-」 5.免責事項 本ガイドラインは作成時点で入手可能な科学的エビデンスをもとに,統合失調症薬物療 法ガイドラインタスクフォース委員がまとめたものであるが,今後のエビデンスの蓄積に よっては,本ガイドライン中の結論または推奨の変更を余儀なくされる可能性がある。ま た,同様に保険適応の有無も今後,変更がなされる可能性があるので留意されたい。治療 を施した医師は,特定の患者および特定の状況によっては本ガイドラインから逸脱するこ とも容認され,医師の裁量で治療を工夫した結果,むしろガイドラインからの逸脱が妥当 な場合さえある。従って治療を施した医師は,本ガイドラインを遵守したというだけでは 過失責任を免れることはできないし,本ガイドラインからの逸脱を過失と見なすこともで きない。本ガイドラインの内容は,医療訴訟の根拠となるものではなく,実際の診療行為 の結果については治療を施した医師が責任を負うものである。 6.本ガイドラインの基本理念 今回作成したガイドラインの基本理念は以下のごとくである. 1)対象 本ガイドラインは,統合失調症の性質を鑑みて,統合失調症患者の診療に関わる精神科 専門医を主な対象として作成された科学的エビデンスに基づいたガイドラインである。本 ガイドラインの内容は,精神科専門医が診療現場において意思決定を支援する目的で作成 され,日常診療の場面で利用されることを望むものである。 2)作成方法の基本方針 本ガイドライン作成の基本的な過程は,医療情報サービス(Minds)の『MINDS 診療ガ イドライン作成の手引き 2014』に則り,さらにガイドラインの研究・評価手法である AGREE により評価し,社会的要請をも満たすべく努力した。 本ガイドラインでは,推奨が具体的で,重要な推奨を容易に見分けられるよう,基本的 にエビデンスの強さと推奨グレードを記載した(表 1, 2) 。 表1 推奨度 1 強い ・・・することを勧める ・・・しないことを推奨する 2 弱い ・・・することが望ましい ・・・しないことが望ましい 表 2 エビデンスの強さ A 強い 真の効果が,推測する効果に近いと確信できる B 中等度 真の効果が,推測する効果に近いと考えられるが,結果的に異なる可能性が残る C 弱い 真の効果が,推測する効果に近いと考えられるが,結果的に異なる可能性がある D とても弱い 推測する効果は大変不明瞭で,真の効果とかけ離れることがしばしばある 3)改訂 本ガイドラインは,新たな重要な情報,適切なコメントを受けてガイドラインの内容を 適宜更新する予定である。 6.本ガイドライン作成の手順 本ガイドライン作成の開始にあたって,統合失調症薬物治療ガイドラインタスクフォー スにて,スコープを決め,それに基づいて臨床疑問(クリニカル・クエスチョン(clinical question: CQ))を決定した。 統合失調症薬物治療ガイドラインタスクフォース各作業班は,CQ ごとに系統的レビュー を行い,エビデンス総体の評価を行った。網羅的な検索を行うため,PubMed,Cochrane Library,医中誌 Web の 3 つの文献データベースを検索した。文献検索は,2014 年 11 月 までに行われたが,必要に応じて検索データベースを広げ,すでに公表されている海外の ガイドラインも参照した。なお,文献検索の検索式と範囲を記録した。 統合失調症薬物治療ガイドラインタスクフォース各作業班は,CQ ごとの推奨文案をエビ デンス総体の評価(エビデンス総体の総括,益と害/リスクのバランス,コストや資源の利 用等)に基づいて作成した。 CQ の系統的レビューならびに推奨文案作成の適切性を確保するためピア・レビューを統 合失調症薬物治療ガイドラインタスクフォース internal reviewer が行った。このピア・レ ビューでは, AGREE II 評価 Domain 3 rigor of development を含む評価を行われ,統合 失調症薬物治療ガイドラインタスクフォース各作業班が推奨文案を修正した。 CQ ごとの推奨文案は,統合失調症薬物療法タスクフォース委員が推奨度決定会議にて他 のガイドラインとの整合性も考慮しながら検討し,全員のコンセンサスにて,推奨文が決 定された。なお,統合失調症薬物療法タスクフォース委員の全員のコンセンサスが得られ なければ,投票を行い,2/3 以上の合意を得たものを承認することにした。統合失調症薬物 療法タスクフォース委員が,やむを得ない理由で推奨度決定会議を欠席する場合,統合失 調症薬物療法タスクフォース委員の 1 名を代理人に指名し,合意の手続きを委任すること ができるようにした。 さらに,日本神経精神薬理学会会員と一般からのパブリックコメントとして意見を聴取 し,これらの意見を取り入れた改訂を行い,万全を期した。 7.本ガイドラインを使用する際の注意事項 1)統合失調症の診断について 本ガイドラインでは,統合失調症の診断は確定しているものとしている。実際の臨床場 面においては,統合失調症の診断を下すために,器質性疾患の除外や気分障害などの他の 精神疾患の除外が慎重になされる必要がある。 2)統合失調症の薬物治療の一般論について すべての疾患の治療と同様であるが,治療選択においては,治療の有効性(益)と副作 用(害)のバランスを勘案し,益が害を上回ると判断された場合にのみ選択される。本ガ イドラインもこの考え方に立脚し,益と害についてエビデンスを収集し,推奨を決定して いる。有効性を科学的に評価するためには,単剤治療での効果を確認する必要がある。換 言すれば複数剤の併用療法では,益と害のバランスを評価することが困難となる。抗精神 病薬の単剤治療が原則であることを再確認していただきたい。 3)エビデンスの限界について 統合失調症治療において,薬物治療は比較的エビデンスの整った領域である。しかしな がら,依然としてエビデンスが不足し,未解決の臨床疑問も多数残されている。例えば, 有効性と副作用に関して,実薬同士を比較した前向き研究は少数にとどまる。このため, 本ガイドラインで検討した有用性に関するエビデンスの大半は,プラセボと比較した単剤 治療によるものが中心となっている。また,小児や高齢者あるいは日本人のみといったよ うな対象を限定した臨床研究も少数にとどまっている。さらに,第 4 章“治療抵抗性統合 失調症”や第 5 章“その他の臨床的諸問題”などの領域では,無作為化比較試験(Randomized Controlled Trial: RCT)によるエビデンスは少ない。 これらの臨床疑問に対し,エビデンスに固執すると,臨床の現場では役に立たないガイ ドラインとなる。このため,ガイドライン作成チームは,エビデンスレベルを症例報告も 含めて幅広く検索し,臨床現場で役に立つものとなることを目指した。 小児や高齢者,治療抵抗性症例といった限定された対象群においては,本ガイドライン を使用する際には,ガイドラインにおける記述には限界があることを理解したうえで,適 用するように注意していただきたい。 4)最新版の利用と全体の通読 日本神経精神薬理学会統合失調症治療タスクフォースでは,新たな重要な情報,適切な コメントを受けて,ガイドラインを適宜更新する予定である。ガイドラインは常に最新版 を利用いただきたい。 統合失調症の治療は,薬物療法のみならず,心理社会的療法を含めた包括的な治療が必 要である。また,病状の経過において,様々な対応が必要となる。本ガイドラインは薬物 療法について,病期を分けて記載している。しかし,本ガイドラインの利用に際しては, 一時期のみを取り上げて利用するのではなく,まず全体を通読していただきたい。 5)薬剤名の表記 薬剤名は日本で承認されているものはカタカナ,未承認のものは欧文で表記した。表記 の順は英語表記の ABC 順を基本とした。 8.主な用語の解説 アドヒアランス:患者が積極的に治療方針の決定に参加し,その決定に従って治療を受け ること。薬物治療においては服薬の順守と混同されがちであるが,アドヒアランスはより 積極的な概念となる。 コクランレビュー:コクラン共同計画により作成されたシステマティックレビューのこと。 質の高さで定評があり,年 4 回更新されるコクラン・ライブラリーに収載されている。 間欠的投与法(intermittent dosing) :再発やそれが疑われるまで休薬する投与法。 規則的投与間隔延長法(extended dosing) :例えば毎日の服用が推奨されている薬剤を二日 に一回の服用にしたり,二週間隔の LAI を四週間隔で投与するような規則的ではあるが投 薬する間隔を延長する投与法。 継続投与(continuous dosing) :推奨されている間隔で定期的に投薬する投与法。 システマティックレビュー:文献をくまなく調査し,RCT のような質の高い研究のデータ を,出版バイアスのようなデータの偏りを限りなく除き,分析を行うこと。 二重盲検試験:投与している薬剤について被験者(患者)にも研究者(医師)にも不明に しておく試験方法。 有効性:薬物治療や他の治療的介入の効果。 有用性:益(効果)と害(副作用)を合わせた概念。 バイアスリスク:結果(治療効果の推定値など)に偏りを生じる危険性(母集団の抽出や 試験のデザイン方法など)を有していること。 非盲検試験:オープン試験:介入方法を被験者(患者) ,研究者(医師)に明らかにして行 う試験。 無作為化比較試験:RCT : Randomized Controlled Trial:介入の効果を評価するための試 験方法。対象者を無作為に介入群と対照群とに割り付け,介入の効果を両群間で比較する もの。 メタ解析:複数の臨床試験の結果を統合する統計学的手法。複数の試験を統合することで より正確なエフェクトサイズを求めたり,比較群との差異を見つけやすくしたりする。さ らに試験結果の違いを検証することなどにも用いられる。 治療効果発現必要症例数:NNT:Number needed to treat:1 人の患者をある目標に到達 させるために介入が必要な患者数 9:略語 ACE 阻害薬: Angiotensin-converting enzyme 阻害薬:アンジオテンシン変換酵素阻害薬 AIMS: Abnormal Involuntary Movement Scale:異常不随意運動評価尺度 BARS: Barnes Akathisia Scale:バーンズアカシジア尺度 BMI: Body Mass Index:体格指数 BPRS : Brief Psychiatry Rating Scale:簡易精神症状評価尺度 BZ : benzodiazepiene:ベンゾジアゼピン CATIE 試験:Clinical Antipsychotic Trials of Interventional Effectiveness 試験 CGI-I: The Clinical Global Impression - Severity scale:臨床全般印象尺度 CK-MB:creatine kinase MB:クレアチニンキナーゼ心筋型 CP : chlorpromazine:クロルプロマジン CP 換算:クロルプロマジン換算 CPMS:Clozaril Patient Monitoring Service:クロザリル患者モニタリングサービス CQ:clinical question:臨床疑問 CRP:C-reactive protein:C 反応性蛋白 DIEPSS: Drug-Induced Extrapyramidal Symptoms Scale:薬原性錐体外路症状評価尺度 ECT:electroconvulsive therapy:電気けいれん療法 EPS: extra pyramidal symptom:錐体外路症状 Eq:equivalent:等価換算 ESRS: Extrapyramidal Symptom Rating Scale:錐体外路症状評価尺度 FDA:Food and Drug Administration:アメリカ食品医薬品局 FGAs:first generation antipsychotics:第一世代抗精神病薬 GAF:Global Assessment of Functioning:機能の全体的評定 HbA1c:hemoglobin A1c:ヘモグロビンエーワンシー HDL コレステロール: High Density Lipoprotein コレステロール:高比重リポタンパク質 HDRS: Hamilton Rating Scale for Depression:ハミルトンうつ病評価尺度 LAI : Long Acting Injection:持効性抗精神病薬注射剤 LDL コレステロール:Low Density Lipoprotein コレステロール:低比重リポタンパク質 MD: Mean difference:平均差 m-ECT:modified electroconvulsive therapy:修正型電気けいれん療法 n:number of patients:患者数 N:number of studies:研究数 N/A:not applicable:該当なし Na : natrium:ナトリウム NIC: Neuroleptic-induced catatonia:神経遮断薬誘発性カタトニア NNT:Number needed to treat:治療効果発現必要症例数 PANSS : Positive and Negative Syndrome Scale:陽性陰性症状評価尺度 PANSS-EC:Positive and Negative Syndrome Scale Excited Component:陽性陰性症状評 価尺度の興奮項目 Q&A:Question and Answer:質問と回答 QOL:Quality Of Life:生活の質 RCT : Randomized Controlled Trial:無作為化比較試験 RR: risk ratio:リスク比 SDM:Shared Decision Making:双方向性の意思決定 SGAs: second generation antipsychotics:第二世代抗精神病薬 SU 類:sulfonylurea 類:スルホニルウレア類 TD: tardive dyskinesia:遅発性ジスキネジア XR: extended-release:徐放 95% CI: 95% confidence interval:95%信頼区間 【第1章:初発精神病性障害】 前文 本章では,初発精神病性障害についての生物学的治療について述べる。初発精神病性障 害は,幻覚や妄想といった精神病症状を初めて呈した状態である。本ガイドラインは統合 失調症を対象としたものであるが,精神科初診時に詳細な診断名を確定できないことが多 いため,これまでの臨床研究にならい,統合失調症のみならず失調感情障害,妄想性障害, 統合失調症様障害,短期精神病性障害も包括し,まとめて初発精神病性障害とした。個々 の抗精神病薬に関しては,本邦で使用可能な抗精神病薬に限った。また,臨床疑問(clinical question:CQ)の解説で有効性は「精神症状に対する効果」,有用性は「効果や安全性など を総合的に判断し,導き出された治療効果」を意味する。 現在本邦で使用できる抗精神病薬は多数あるが,初発精神病性障害に対して,第二世代 抗 精 神 病 薬 (second generation antipsychotics: SGAs) と 第 一 世 代 抗 精 神 病 薬 (first generation antipsychotics: FGAs)のどちらの選択が好ましいのかを CQ1-1 に示した。また, 初発精神病性障害に対する適切な抗精神病薬の用量に関して CQ1-2 に,適切な効果判定期 間および治療継続期間に関して CQ1-3 および CQ1-4 に示した。 これらの CQ に対するエビデンスの強さに関して,統合失調症全般に対する抗精神病薬 の有効性と安全性を検討したメタ解析は複数あるが,初発精神病性障害に限定したエビデ ンスは総じて少ない。CQ1-1 では,SGAs と FGAs を比較したメタ解析はあるが,包括し た研究の数は少なく,さらにこのメタ解析に日本人を対象とした研究はなかった。CQ1-2, CQ1-3 および CQ1-4 でも,統合失調症患者全般に対しての適切な抗精神病薬の用量,効果 判定期間および治療継続期間に関するメタ解析はあるものの,初発精神病性障害に限定し たエビデンスは少なかった。したがって,いずれの CQ に対するエビデンスの強さは弱く, 限られた推奨となることを念頭に置く必要がある。 CQ1-1: 初発精神病性障害に対して,好ましい抗精神病薬はどれか? 推奨 ・初発精神病性障害に対して,SGAs と FGAs を比較すると,短期間の研究では,いずれの 脱落率(全ての理由,副作用,効果不十分)も SGAs の方が少なく,症状改善度,治療反 応率も SGAs の方が優れている傾向がある(A) 。長期間の研究では,再発率や副作用によ る脱落率は SGAs が少なく,全ての理由による脱落率も SGAs が少ない傾向にある(A)。 ・初発精神病性障害を対象とした,SGAs の RCT,非盲検試験の報告はあるが,SGAs 間 での比較に関して十分なエビデンスはないため,順位付けはできない(D)。 以上より,初発精神病性障害に対しては,SGAs を選択することが望ましい(2A) 。 SGAs 間の薬剤選択に関しては,症例個別の要因を検討して選択を行うことを推奨する (2D)。 解説 初発精神病性障害における抗精神病薬の使用は,プラセボと比較し明らかな再発予防効 果を有することがメタ解析(8 trials, n = 528)で示されており 1),抗精神病薬の服用継続が 推奨される。初発精神病性障害に対して SGAs と FGAs の有効性と安全性を検討したメタ 解析(13 trials, n = 2,509)がある 2)。有効性に関して,症状改善度と治療反応率は,短期間 の研究(≤13 週)では,両アウトカムとも SGAs が FGAs に優れている傾向にあった。長 期試験の研究(24~96 週)では,症状改善度と治療反応率は両治療群間に有意差はなかっ たが,再発率は SGAs の方が FGAs よりも良好な成績であった。短期間の研究では,いず れの脱落率(全ての理由,副作用,効果不十分)も SGAs の方が少なかった。長期間の研 究では,副作用による脱落率は SGAs が少なく,全ての理由による脱落率も SGAs が少な い傾向にあった。 次に,初発精神病性障害に対してどの SGAs が好ましいのかを検討したが,SGAs 同士を 直接比較したメタ解析はなく,厳密に優劣をつけることはできなかった。したがって,初 発精神病性障害に対する個々の RCT についてそれぞれ検討した。また,日本人の初発精神 病性障害のみを対象とした SGAs の RCT はないため,非盲検試験の結果も包括した。アリ ピプラゾール,クエチアピンおよび ziprasidone を比較した 52 週間の RCT 3)では,アリピ プラゾールはクエチアピンより全ての理由による治療脱落率が有意に少なかった。また, 有効性,錐体外路症状,体重増加,高プロラクチン血症関連症状の出現頻度に関しては, 両者の間で有意な差はなかった。アリピプラゾール,パリペリドンおよび ziprasidone を比 較した 52 週間の RCT 4)では,アリピプラゾールはパリペリドンに有効性が及ばなかった。 アリピプラゾールは治療開始前と比べて,体重増加,血糖上昇,HbA1c 上昇,中性脂肪低 下を認め,パリペリドンは体重に変化はなかったが,HDL コレステロール低下と中性脂肪 上昇を認めた。一方,日本人を対象としたアリピプラゾールの短期間(≤12 週)の 2 本の非 盲検試験 5, 6)では, 治療反応率は 42%および 78.6%と良好であり, 治療開始前と比べて体重, 血糖,総コレステロール,LDL コレステロール,中性脂肪はいずれも有意な上昇を認めな かった。また,日本人を対象としたアリピプラゾール,オランザピン,リスペリドンを比 較した短期間(8 週)のコホート研究 7)では,陽性陰性症状評価尺度 (Positive and Negative Syndrome Scale; PANSS)の陽性症状,陰性症状,総合精神病理スコアの改善率は,アリピ プラゾールでは 23%,26%,26%,オランザピンでは 30%,28%,28%,リスペリドンで は 32%,25%,29%であった。オランザピンとリスペリドンを比較した 2 本の RCTs 8, 9)で は,両者の有効性に差はないが,オランザピンは体重増加を認め,リスペリドンは錐体外 路症状が多い傾向にあった。日本人を対象としたリスペリドンの非盲検試験(2 週)10)では, 治療反応率は 29%で,錐体外路症状を 24%の患者に認め,オランザピンの非盲検試験(4 週)11)では,治療反応率は 71.6%で,体重増加,中性脂肪,総コレステロールの有意な上 昇を認めたが,血糖値は有意な上昇は認めなかった。また,ハロペリドールとオランザピ ンおよびクエチアピンを含む 4 種類の SGAs を比較した 52 週間の RCT 12)では,効果不十 分による脱落率は,ハロペリドールよりオランザピンは有意に少なかったが,クエチアピ ンはハロペリドールと同等であった。オランザピンとクエチアピン治療群とも全ての理由 による脱落率及び副作用による脱落率はハロペリドールより少なく,オランザピンとクエ チアピンの両群間で症状改善度の違いはみられなかったが,オランザピンとクエチアピン とも有意な体重増加をきたした。ブロナンセリンに関して,日本人を対象とした 52 週間の 非盲検試験 13)では,39.1%の治療脱落率で,治療反応率は 69.6%であった。また,治療開 始前と比べて,52 週後の錐体外路症状,血中プロラクチン,中性脂肪,総コレステロール, HDL および LDL コレステロール,血糖および HbA1c に有意な変化を認めなかったが,有 意な体重増加(約 2 ㎏)を認めた。なお,ペロスピロンに関しては初発精神病性障害に対 する臨床試験の報告がなかった。 初発精神病性障害を対象とした,SGAs の RCT,非盲検試験の報告はあるが,すべての SGAs を直接比較した RCT,ネットワークメタ解析がないため,薬剤間の順位付けをする ことは困難である。しかしながら, ,SGAs と FGAs の有効性と安全性を検討したメタ解析 から初発精神病性障害に対しては,SGAs を優先すべきであることが示唆される。一方で, SGAs に分類されている薬剤には,個々の副作用に対するリスクの程度に違いがある。副作 用は服薬アドヒアランスに大きな影響を与えるため を払う必要がある 14),以下の副作用に関して十分な注意 15)。①錐体外路症状(アカシジア,ジスキネジア,ジストニアを含む) , ②メタボリック症候群(体重増加,高脂血症,高血糖) ,③内分泌系の異常(高プロラクチ ン血症など) ,④心血管系の異常(QT 延長など) 。 文献 1)Leucht S, Tardy M, Komossa K, et al. : Antipsychotic drugs versus placebo for relapse prevention in schizophrenia : a systematic review and meta-analysis. 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National Institute for Health and Clinical Excellence : Guidance., London,2014 CQ1-2: 初発精神病性障害で最適な抗精神病薬の用量は? 推奨 初発精神病性障害は,一般的に抗精神病薬の治療効果と副作用に対する感受性が高い(C)。 有用性を示す最適な抗精神病薬の用量を,固定用量で検討した RCT はリスペリドンとハロ ペリドール以外はない。そこで,可変用量での有用性を検討した試験の結果を包括しなが ら,各薬剤の最適な用量を検討した。 ・アリピプラゾールは 9.9-20.0mg/日で有効という報告があり(D),長期投与では代謝性副 作用を認めたという報告がある(D)。 ・ブロナンセリンは 5.6-7.2mg/日という低用量で高い有効性と安全性を認めたという報告 がある(D)。 ・オランザピンは 8.7-17.0mg/日で有効という報告があり(C),ほとんどの試験で体重増加 を認めた(A)。 ・パリペリドンは 6.4mg/日で有効であったが,脂質代謝異常を発現したという報告がある (D)。 ・クエチアピンは 311.4-506mg/日で有効という報告があり(C),長期投与試験では,治療脱 落率が他の薬剤よりやや高い傾向であった(B)。 ・リスペリドンは 2mg/日と 4mg/日の有効性は同等だが,運動機能は 2mg/日の方が優れて いたという RCT が 1 本ある(C)。 ・ハロペリドールは 2mg/日と 8mg/日の有効性は同等だが,2mg/日の方が錐体外路症状や 高プロラクチン血症が少なかったという RCT が 1 本ある(C)。 以上より,初発精神病性障害では,ハロペリドールを除いて再発再燃の項(CQ2-1 を参 照)で推奨する最小有効量とほぼ同程度の用量が有用である可能性がある(C)。ただし,リ スペリドンとハロペリドールは,低用量が有効かつ忍容性が高いという弱いエビデンスが あり(C),アリピプラゾールとブロナンセリンは,低用量でも有用という報告がある(D)。 したがって,初発精神病性障害では,まず低用量で治療を開始し効果判定を行うのが望ま しい(2C)。ただし,効果が不十分な場合には,副作用に注意しながら増量を検討することが 推奨される (2C)。 解説 本 CQ では,初発精神病性障害で最適な抗精神病薬の用量について述べる。初発精神病 性障害は,一般的に抗精神病薬の治療効果と副作用に対する感受性が高く,しばしば慢性 期の統合失調症よりも低用量で有用性を示すことが知られている(C) 1-4)。そこで,初発精神 病性障害における最適な抗精神病薬の用量が低用量であるのかどうかを検討した。その結 果,初発精神病性障害のみを対象として,低用量と標準用量/高用量の有効性および安全 性を比較した RCT は,ハロペリドールとリスペリドン以外はなく,メタ解析も実施されて いなかった。そこで,初発精神病性障害を対象として,可変用量での有効性と安全性を検 討した RCT やオープン試験の結果などを包括しながら,各薬剤の最適な用量について検討 した。 アリピプラゾールに関して,初発精神病性障害を対象に有用性を示す用量を比較検討し た RCT はなかった。可変用量のオープン試験は 6 本あり,短期間(4-12 週間)の投与で高 い有用性を示した最終平均用量は, 3 本の試験 5-7)で 16.8-20.0mg/日であったが, 平均 9.9mg/ 日という比較的低用量で有効性を示した小規模の試験が 1 本 (n=19) 8)あった。ただし,こ の試験では,この用量であっても忍容性は高くなかった。1 年間のオープン RCT は 2 本 9, 10)あり,11.6-14.5mg/日という最終平均用量で高い有効性を示した。このうち は,ベースラインより有意に血糖値と HbA1c を増加させた 1 本の試験で 9)。 ブロナンセリンに関して,初発精神病性障害を対象に用量別の有用性を比較した RCT は なかった。初発統合失調症を対象とした 8 週間 (n=24) 11)と 1 年間の小規模なオープン試験 (n=23) 12)では,開始平均用量は 2.9mg/日,最終平均用量は 7.2 mg/日(8 週時点) ,5.6mg/ 日(1 年後)という低用量で十分な有効性と高い安全性を認めた。ただし,この試験には, 興奮や激越を伴う患者は組み入れられていない。 オランザピンに関して,初発精神病性障害を対象に用量別の有用性を比較した RCT はな かった。可変用量の RCT は 11 本あり,短中期間(4-16 週間)の投与で有効性を示した 6 本の試験 13-18)における平均用量は,9.1-17.0mg/日であった。長期間(1-3 年間)の投与で 有効性を示した 5 本の試験 19-23)における平均用量は,8.7-12.6mg/日であった。これらの用 量は,慢性期統合失調症患者を対象にした 1.5 年間の大規模 RCT である Clinical Antipsychotic Trials of Intervention Effectiveness (CATIE)試験 24)でのオランザピンの平 均用量 20.1mg/日より低かった。なお,ほとんどの試験でオランザピンは,ベースラインよ り有意に体重を増加させた。 パリペリドンに関して,初発精神病性障害を対象に用量別の有用性を比較した RCT はな かった。可変用量の 1 年間のオープン RCT が 1 本 9)あり,6.4mg/日の最終平均用量で高い 有効性を認めたが,脂質代謝異常を発現した。 ペロスピロンに関しては,初発精神病性障害に対する臨床試験の報告はなかった。 クエチアピンに関して,初発精神病性障害を対象に用量別の有用性を比較した RCT はな かった。可変用量の RCT は 5 本あり,短期間(6-12 週間)の投与で有効性を示した 2 本の 試験 6, 7)における平均用量は,358.3-413.8mg/日であった。長期間(1 年間)の投与で有効 性を示した 3 本の試験 10, 用量は,CATIE 試験 20, 21) における平均用量は,311.4-506mg/日であった。これらの 24)でのクエチアピンの平均用量 543.4mg/日より低かった。なお,長 期試験において,あらゆる理由によるクエチアピンの治療脱落率は,53-82.3%であり他の 薬剤より高い傾向であった。 リスペリドンに関して,初発精神病性障害を対象に固定用量(2mg/日と 4mg/日)のリス ペリドンの効果を比較した 8 週間の RCT 25)が 1 本 (n=49)あり,有効性は同等だが,運動 機能は 2mg/日の方が優れていた。可変用量の RCT は 10 本あり,短期間(4-16 週間)の投 与で有効性を示した 6 本の試験 14-18, 26)における平均用量は,3.6-6.1mg/日であった。長期 間 (1-3 年間) の投与で有効性を示した 4 本の試験 20, 22, 23, 27)における平均用量は, 2.4-3.6mg/ 日であった。これらの用量は,CATIE 試験 24)でのリスペリドンの平均用量 3.9mg/日と同等 かやや低い試験が多かった。6 週間の RCT (n=183) 26)の事後解析では, リスペリドンの 6mg/ 日以下を低用量として 6mg/日以上の高用量と比較すると,有効性は同等であり,安全性は 低用量の方が優れていた。1 年間の可変用量のオープン試験 (n=74) 28)では,1-4mg/日の低 用量と 5-8mg/日の高用量を比較したところ,低用量の方が有効性と忍容性が高かった。さ らに 2mg/日の固定用量と 2-4mg/日の可変用量の有用性を比較した 8 週間のオープン試験 (n=96) 29)では,2mg/日の低用量でも 4mg 以下とほぼ同等の高い有効性と忍容性を認めた。 FGAs に関しては,最も研究されているハロペリドールについて検討した。初発精神病性 障害を対象に固定用量(2mg/日と 8mg/日)のハロペリドールの有効性と安全性を比較した 6 週間の RCT 30)が 1 本 (n=40)あり,有効性は 2 つの用量で同等であったが,低用量の方 が錐体外路症状や高プロラクチン血症が有意に少なかった。可変用量の RCT は 9 本あり, 短期間(6-12 週間)の投与で有効性を示した 4 本の試験 13, 14, 16, 17)における平均用量は, 4.2-15.6mg/日であった。長期間(1-3 年間)の投与で有効性を示した 5 本の試験 19, 21-23, 27) における平均用量は,2.9-4.8mg/日と低用量であった。長期投与試験のうち 3 本 19, 21, 23)で は,ハロペリドール投与群における治療脱落率は,他の SGAs 投与群より有意に高かった。 以上より,初発精神病性障害では,ハロペリドールを除いて再発再燃の項(CQ2-1 を参 照)で推奨する最小有効量とほぼ同程度の用量が有用である可能性がある(C)。ただし,リ スペリドンとハロペリドールは,低用量が有効かつ忍容性が高いという弱いエビデンスが ある(C)。またアリピプラゾールとブロナンセリンは,低用量でも有効性を認め安全性に優 れたとする報告がある(D)。リスペリドンを除く SGAs は,有用な用量を探索する研究が今 後必要である。 したがって,初発精神病性障害では,まず低用量で治療を開始し効果判定を行うのが望 ましい (2C)。ただし,効果が不十分な場合には,副作用に注意しながら増量を検討するこ とが推奨される (2C)。 文献 1)Lehman AF, Lieberman JA, Dixon LB, et al. : Practice guideline for the treatment of patients with schizophrenia, second edition. 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Int J Neuropsychopharmacol, 7(2) : 125-131, 2004 CQ1-3: 初発精神病性障害において,抗精神病薬の治療反応を判定する最適な期間は? 推奨 初発精神病性障害では,抗精神病薬で治療開始後 2-4 週目までに,約 60-70%の患者で治 療反応を認める可能性があるが(D) ,それ以降に反応を示すこともある(D)。したがって, 治療反応の判定には,治療開始後少なくとも 2-4 週かけることが望ましい(2D) 。 ただし,低用量で治療反応が不十分な場合には,2-4 週以前に副作用に注意しながら増量 を検討することもあり得る(2D) 。 解説 本 CQ では,初発精神病性障害において,抗精神病薬で治療開始後の最適な治療反応の 判定期間について取り扱う。薬物療法において,最初の抗精神病薬の効果がどれくらいの 期間で現れるのかという点は,投与量や薬剤の変更を考える上で極めて重要である。治療 開始後の早期に治療効果を実感し,臨床上問題となる副作用が発現しなかった場合は,当 然その薬剤を同じ用量で継続するであろうし,効果がみられないか不十分な場合は,至適 用量までの増量が必要であろう(CQ1-2 を参照)。実臨床では,問題となる副作用が発現せず, 至適用量まで増量しても治療反応が乏しい場合に,薬剤の変更までどの程度待つべきか, という点が問題となる。 現在,複数回エピソードを含む急性期の統合失調症に対する多くの治療ガイドラインで は,4-6 週間の効果判定期間を推奨している 1, 2)。本ガイドラインでも,再発・再燃症例で は 2-4 週間の観察期間を推奨している(CQ2-1 を参照)。一方,初発精神病性障害を対象とし て,最適な治療反応の判定期間を検討した RCT は限られており,メタ解析も実施されてい ない。そこで本 CQ では,治療反応の判定時期について探求した研究や報告に関して検討 した。なお本 CQ では,治療反応の定義として,PANSS 総得点がベースラインより 20%以 上の改善という最も頻用されている定義を採用した。 初発精神病性障害では,再発再燃例と同様に,治療開始後 2 週間での治療反応が,12 週 間後の反応の予測因子となる可能性が示唆されている 3)。Emsley ら 4)の報告(初発統合失 調症患者数=522)では, ,試験期間中に治療反応の定義を満たしたのは 76.6%あり,2 週 目までに 35.6%,4 週目までに 59.4%が反応した。 ,Schennach-Wolff らの報告(初発統合 失調症患者数=188)5)では, ,2 週目に治療反応を示したのは 72%であった。これらの報告 より, 初発精神病性障害の約 60-70%は 2-4 週目までに治療反応を認める可能性がある(D)。 一方,初発精神病性障害では,治療反応により時間のかかる症例が存在するのも臨床的 事実である(D)。実際,早期の治療反応が長期の寛解や回復の予測因子になるか否かに関す る研究では,6 週時点で治療反応を示した場合,その後の寛解を予測できると報告されてい る 6)。また,6 週時点で治療反応を示さなかった症例でも,その後に寛解の定義を満たす可 能性がある 6, 7) (D)。現時点では,初発精神病性障害における 2-4 週での治療反応に基づい て,薬剤の変更と継続の有用性を比較した臨床試験はなく,今後研究が必要である。 以上より,初発精神病性障害では,治療反応の判定には,治療開始後少なくとも 2-4 週か けることが望ましい(2D) 。ただし,CQ1-2 で述べた低用量での効果判定に関して,低用 量で治療反応が不十分な場合には,2-4 週以前に副作用に注意しながら増量を検討すること も必要である(2D) 。 文献 1)Buchanan RW, Kreyenbuhl J, Kelly DL, et al. : The 2009 schizophrenia PORT psychopharmacological treatment recommendations and summary statements. Schizophr Bull, 36(1) : 71-93, 2010 2)Lehman AF, Lieberman JA, Dixon LB, et al. : Practice guideline for the treatment of patients with schizophrenia, second edition. Am J Psychiatry, 161(2 Suppl) : 1-56, 2004 3)Stauffer VL, Case M, Kinon BJ, et al. : Early response to antipsychotic therapy as a clinical marker of subsequent response in the treatment of patients with first-episode psychosis. Psychiatry Res, 187(1-2) : 42-48, 2011 4)Emsley R, Rabinowitz J, Medori R : Time course for antipsychotic treatment response in first-episode schizophrenia. Am J Psychiatry, 163(4) : 743-745, 2006 5)Schennach-Wolff R, Seemuller FH, Mayr A, et al. : An early improvement threshold to predict response and remission in first-episode schizophrenia. Br J Psychiatry, 196(6) : 460-466, 2010 6)Emsley R, Rabinowitz J, Medori R : Remission in early psychosis : Rates, predictors, and clinical and functional outcome correlates. Schizophr Res, 89(1-3) : 129-139, 2007 7 ) Gallego JA, Robinson DG, Sevy SM, et al. : Time to treatment response in first-episode schizophrenia : should acute treatment trials last several months? J Clin Psychiatry, 72(12) : 1691-1696, 2011 CQ1-4: 初発精神病性障害の再発予防効果における抗精神病薬の最適な治療継続期間は? 推奨 抗精神病薬の服薬継続は少なくとも 1 年間まで再発率を低下させる(A) 。 初発精神病性障害の再発予防の観点からは,抗精神病薬は少なくとも 1 年間は続けるこ とを推奨する(1A) 。 解説 本 CQ では,初発精神病性障害における最適な薬物療法継続期間について述べる。最適 な薬物療法継続期間とは,症状が寛解もしくは回復した場合,いつまで薬物療法を継続す べきなのかという期間を指す。 Leucht ら 1)は,65 本の RCT を用いたコクランレビューで,抗精神病薬の再発予防効果 を検討し,抗精神病薬はプラセボよりも半年~1 年間で有意な再発予防効果を有することを 報告した(CQ3-1 も参照)。また,初発エピソードとその他に分けた感度解析が実施されてお り,再発予防効果は同様であった(A)。Gitlin ら 2)は,2 年以内に発症した統合失調症に同 意に沿った治療を行い,その後服薬を止めた場合,1 年で 78%,2 年で 98%の患者が再燃 /再発すると報告している。このように,抗精神病薬には明らかな再発予防効果があるた め,できるだけ長期間の内服が望ましいが,ほとんどの臨床試験が 2 年以下という期間で 実施されており,より長期間の治療効果に関しては不明といえる。また,初発精神病性障 害のみを対象として,特に SGAs の最適な治療継続期間を検討した RCT は限られており, 治療継続と減量/間欠投与/中止の再発リスクを検討したメタ解析も実施されていない。 Wunderink ら 3)は,寛解後半年経過した初発精神病性障害 131 名を対象に,治療継続と 減量/中止における 1 年半後の再発率および社会的・職業的機能を比較する RCT を実施し た。その結果,減量/中止群の再発率は約 2 倍高く,治療継続に勝るベネフィットは得ら れなかった。しかし,その後計 7 年の追跡調査 4)では,減量/中止群の方が治療継続群より 回復率が約 2 倍と有意に高かった(C)。この報告は,寛解した初発精神病性障害患者に対 して抗精神病薬の減量/中止による長期間のベネフィットを示唆した初めての質の高い臨 床試験である。ただし,減量/中止群の多くは減量のみにとどまっており,減量できるよ うな重症度の症例の予後は良いと捉えることもできる。今後も同様の視点から更なる統制 された研究の蓄積が求められる。 以上より,初発精神病性障害で症状が寛解した場合,できるだけ長期間抗精神病薬治療 を継続することが望ましいが,減量/中止のリスクとベネフィットを患者と十分に共有し た上で判断するのが好ましい。 文献 1)Leucht S, Tardy M, Komossa K, et al. : Maintenance treatment with antipsychotic drugs for schizophrenia. Cochrane Database Syst Rev, 5 : CD008016, 2012 2)Gitlin M, Nuechterlein K, Subotnik KL, et al. : Clinical outcome following neuroleptic discontinuation in patients with remitted recent-onset schizophrenia. Am J Psychiatry, 158(11) : 1835-1842, 2001 3) Wunderink L, Nienhuis FJ, Sytema S, et al. : Guided discontinuation versus maintenance treatment in remitted first-episode psychosis : relapse rates and functional outcome. J Clin Psychiatry, 68(5) : 654-661, 2007 4)Wunderink L, Nieboer RM, Wiersma D, et al. : Recovery in remitted first-episode psychosis at 7 years of follow-up of an early dose reduction/discontinuation or maintenance treatment strategy : long-term follow-up of a 2-year randomized clinical trial. JAMA Psychiatry, 70(9) : 913-920, 2013 【第 2 章 再発・再燃時】 前文 統合失調症は慢性的な疾患であり,治療により安定を得られた後も,その多くが再燃, 急性増悪することが知られている。再燃,急性増悪の主な原因としては,抗精神病薬への アドヒアランスの欠如やストレスの大きなライフイベントなどが挙げられるが,薬物治療 を継続していても,統合失調症の自然経過として再燃,急性増悪をきたすことも珍しくな い。この章では,初発以外での急性の精神病症状に対する以下 4 つの臨床疑問(clinical question: CQ)に該当する可能性のある文献を収集,吟味し,妥当と評価されたものに基 づき概説した。“再燃”“急性増悪”の定義は各論文で若干異なるが,寛解,もしくは部分 寛解で安定している状態が 3-6 か月以上経過したが,患者陽性・陰性症状評価尺度(Positive and Negative Syndrome Scale; PANSS),簡易精神症状評価尺度 (Brief Psychiatry Rating Scale ; BPRS)などの評価スケールにて悪化を示した症例を扱っている。まず,治療継続中 に再燃したときに,使用している薬剤の増量と異なる薬剤への切り替えのどちらが有用で あるのかを CQ2-1 に示した。次に,どの抗精神病薬がどれくらいの用量で有用であるのか を,プラセボ対照試験によるエビデンスを中心として CQ2-2 に示した。また,単剤療法と 抗精神病薬の併用の有用性比較を CQ2-3 に,抗精神病薬以外の向精神薬との比較を CQ2-4 に示した。 CQ2-1 の対象としたエビデンスにおいて,日本人を対象としたものは,オランザピンと リスペリドンの比較試験の 1 つだけであった 2)。 CQ2-2 において,精神病症状急性期のメタ解析はネットワークメタ解析をはじめいくつ か報告されているが,再燃・急性憎悪のみを対象としたメタ解析は報告されていない。実 薬同士の比較試験数は十分でなく,一方でプラセボとの比較試験の報告が多いため,エビ デンスとしてはプラセボとの比較試験を中心に,有用性と用量に着目し各薬剤の特徴を示 した。実薬同士の比較試験に関しては,解説にて,第二世代抗精神病薬(second generation antipsychotics: SGAs)と第一世代抗精神病薬(first generation antipsychotics: FGAs) の比較に関しては推奨度を記載し,SGAs 間の比較に関しては,推奨度を決定するには報告 数が不十分であるため,結果の概略とエビデンスレベルの記載に留めている。最終的な推 奨はこれらすべての試験にもとづいて行った。CQ2-3 に関してはメタ解析での検討はある ものの,有効性と忍容性の両方面から評価しているエビデンスに乏しいため,有用性の推 奨は限定的なものである。そのメタ解析には日本人を対象とした試験は含まれてなく,比 較試験ではオランザピンとリスペリドン併用,切り替え試験のみが日本人を対象としてい た 1)。CQ2-4 に関して,いくつかの興味深い比較試験はあるものの,全体としてのエビデ ンスは乏しい。すべての CQ の対象論文において高齢者または小児に限定した試験はなか った。 文献 1)Hatta K, Otachi T, Fujita K, et al. : Antipsychotic switching versus augmentation among early non-responders to risperidone or olanzapine in acute-phase schizophrenia. Schizophr Res, 158 : 213-222, 2014 2)Hatta K, Otachi T, Sudo Y, et al : Difference in early prediction of antipsychotic non-response between risperidone and olanzapine in the treatment of acute-phase schizophrenia. Schizophr Res, 128 : 127-135, 2011 CQ2-1 統合失調症の再発・再燃時,切り替えと増量のどちらが適切か? 推奨 抗精神病薬の切り替えや増量を考慮する前に,現在の抗精神病薬の投与量,投与期間, アドヒアランスが適切かどうか確認する(1D)。 服薬中断により再発・再燃した場合には,副作用を含めた過去の薬剤の反応性を考慮し て再開する薬剤を選択する(1D)。 アドヒアランスが良好かつ血中濃度も有効域にあるのに反応がない場合は切り替えを考 慮するが,まだ増量する余地があり,忍容性に問題がなければ増量する(2D)。増量後 2~4 週間は観察するが,遅くとも 8 週間で反応がなければ切り替えを考慮する(2C)。ノンアド ヒアランス,薬物代謝能の亢進, 吸収障害を除外するために,ハロペリドールなど血中濃度 が測定できる抗精神病薬や持効性注射剤を試すのもよい(2D) 。急速増量や推奨用量を超え る増量が有効というエビデンスは乏しく,副作用が増強する可能性もあり,行うべきでは ない(2D)。 以上のことから統合失調症の再発・再燃時は,切り替えよりも増量を試みるのが適切で ある(2D)。 解説 統合失調症の再発・再燃時に対象を絞って,切り替えと増量の有効性を比較した試験は 存在しない。統合失調症の急性期で,切り替えと増量の反応率に違いがなかったという報 告がある 1)が,切り替える前に,アドヒアランスや副作用を確認しながら最大用量まで増量 して,十分期間観察することを多くのガイドラインが推奨している。また服薬中断による 再発の場合は,過去に使用した薬剤の有効性や忍容性を参考に,再開する薬剤を選択する ことも多くのガイドラインが推奨している 2-5)。急性期治療の臨床試験の結果からは,投与 開始 2 週間の改善が,その後のどの期間よりも大きいこと 6),投与開始 1 年間で得られる改 善のほとんどは,投与開始 1 か月で得られていること 7),が示されている。投与 2 週間にお ける反応は,その後の経過が約 80%の確率で改善しないことを予測できることから,適切 な投与量で2週間観察して 20-25%の症状改善がなければ,その後に反応が得られる可能性 は低い 8-13)。他にも 2~6 週間の観察期間における反応がその後の反応や寛解を良く反映し ているという報告は存在するが 14-18),8週間以上の観察期間を要するという報告はない。 抗精神病薬の血中濃度の確認や持効性注射剤の使用は“見かけ上の治療抵抗性”を除外す るのに役立つ 19-22)。クエチアピンを 4 日間で 800mg まで増量した試験 23)やクロザピン服 用歴のある患者にクロザピンを約 4 日で平均 353mg まで増量した試験 24)など急速増量が有 効かつ安全であったという報告が少数あるが,一方でクエチアピンの急速増量によって低 カリウム血症を生じた症例報告 25)やクロザピンの急速増量によって心筋炎のリスクが上昇 するという報告 26)もあり,副作用の観点から急速増量はするべきではない 4,5)。推奨用量を 超える増量が有効であるエビデンスは乏しく,副作用は増強する可能性がある 27-29)。 文献 1)Kinon BJ, Kane JM, Johns C, et al. : Treatment of neuroleptic-resistant schizophrenic relapse. 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J Clin Psychiatry 65 1624-16332004 CQ2-3 統合失調症再発・再燃時に,抗精神病薬の併用治療は単剤治療と比較してより有用 か? 推奨 抗精神病薬の併用治療が単剤治療よりも有効なこともあるが,効果は不確実で副作用は 増強する可能性がある(C)。したがって統合失調症の再発・再燃時は単剤治療が有用である (2C)。 解説 統合失調症の再発・再燃時に対象を絞って単剤治療と併用治療を比較した試験は存在し ない。統合失調症の急性期に単剤治療と併用治療を比較した試験のメタ解析では,クロザ ピンとの併用や FGAs と SGAs の併用など特定の状況下では併用治療が単剤治療よりも有 効性が高い可能性が示されているが 1),副作用に関しては十分検討できておらず,出版バイ アスや被験者の不均一性が影響している可能性がある。精神症状に対してはオランザピン とリスペリドンの併用治療が単剤治療よりも有効である可能性が示されているが 2),リスペ リドン又はクエチアピンとアリピプラゾールの併用治療は無効であることが示されており 3),組み合わせによって効果が異なることが示唆されている。アリピプラゾールの併用治療 は陰性症状の改善 4),リスペリドンとの併用で高プロラクチン血症の改善 3),クロザピンと の併用で体重増加の改善 5)が報告されている。 抗精神病薬の併用治療の目的として,より急速かつ強力な効果発現,様々な症状(焦燥 や認知機能,陰性症状など)の改善,併存症状の改善(不眠,不安,抑うつ)など積極的 な理由もあるが,一方で切り替えの中断,医師の処方習慣など消極的な理由で生じている 可能性もある 6-8)。併用治療のリスクには,総投与量の必要以上の増加,急性あるいは遅発 性の副作用の増加,予測不可能な薬物相互作用,効果あるいは副作用の原因となる薬剤の 特定困難,アドヒアランスの低下,死亡率の上昇,コストの増大などが挙げられる 6-8)。実 臨床では本邦を含む世界中で抗精神病薬の併用治療の頻度が高いことが示されているが 9-11),併用治療のリスクと効果の不確実性を考慮すれば,治療抵抗性統合失調症に対する効 果と副作用のエビデンスが確立されているクロザピン単剤治療が併用治療よりも優先され る(第 4 章を参照) 。併用治療はクロザピンを含む単剤治療に反応が乏しい重症例に対して 慎重に行うべきである 6-8)。 文献 1)Correll CU, Rummel-Kluge C, Corves C, et al. : Antipsychotic combinations vs monotherapy in schizophrenia : a meta-analysis of randomized controlled trials. 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Schizophr Res, 138 : 18-28, 2012 CQ2-4:統合失調症の再発・再燃時に有効性,副作用において,単剤治療と抗精神病薬以 外の向精神薬併用とどちらが適切なのか? 推奨 統合失調症再発・再燃時にベンゾジアゼピン(benzodiazepine: BZ)系薬剤を併用するこ とは,ごく短期間に限り有効(D)であるが,長期的には副作用や依存の観点から併用しない ことが望ましい(2D) 。 統合失調症再発・再燃時にバルプロ酸を併用することは,3 週間以内の併用に関して有効 であるが(D) ,長期的には陰性症状を悪化させ(C),忍容性の観点から(D) ,長期投与は 行わないことが望ましい(2D) 。 統合失調症再発・再燃時に抗うつ薬や他の気分安定薬併用療法の有効性は明らかではな い(D)ため併用は行わないことが望ましい(2D) 。 解説 統合失調症急性期の薬物治療に抗精神病薬と向精神薬を併用することがある。しかし, 再発・再燃時に抗精神病薬と向精神薬の併用が有効であるか否かを検討した臨床試験は少 ない。併用される向精神薬には,BZ 系薬剤,気分安定薬,抗うつ薬が挙げられる。 再発・再燃時に BZ 系薬剤の併用が有効か否かを検討した RCT 1)はハロペリドールとア ルプラゾラムの併用についての 1 本のみで,72 時間という非常に短い観察期間における効 果を評価した小規模(n=28)の報告である。この結果では,焦燥感の強い対象者に関して は,アルプラゾラム併用の短期間の有効性が示されている。しかし,アルプラゾラム以外 の BZ 系薬剤併用のエビデンスおよび SGAs との併用のエビデンスはない。実際の臨床場面 では,BZ 系薬剤は短期から長期にわたって使用例が多くみられ,依存の問題や死亡率の上 昇の可能性も示唆される報告 2)もあるため使用するべきでない。 再発・再燃時の気分安定薬の併用治療の有効性に関する RCT は 3 本あるが,いずれもバ ルプロ酸と抗精神病薬(リスペリドン,オランザピン,ハロペリドール)の有効性につい て検討したものである 3)-5)。それぞれの試験で異なった試験デザインおよびその結果が示さ れている。1 か月以内の観察期間の短期試験では,併用開始 21 日目までは併用群の方が有 意に改善することが示されている 3, 4)が,投与 28 日目では全体として両群に差異はなかっ た 4)。しかし,84 週間フォローアップした SGAs+バルプロ酸群と SGAs 単剤治療を行っ た比較試験では,併用療法の有意性が示されずむしろ陰性症状の改善作用に関しては抗精 神病薬単剤治療群の方が有意に改善している 5)。また忍容性に関しても,両群の発現頻度は 変わらないが,SGAs+バルプロ酸併用群においては,血小板減少,肝機能障害,体重増加, LDL コレステロール値の増加が認められた。現時点では,3 週間の短期間併用に関しては, 改善効果が期待できるかもしれないが,長期的には陰性症状を含めむしろ悪化させるかも しれない。他の気分安定薬でも同様の効果および悪化する可能性があるが,臨床試験は実 施されていない。本邦では,カルバマゼピンが統合失調症の興奮状態に対する適応を有し ているが実際にカルバマゼピンが統合失調症の再発・再燃状態に対する有効性についての エビデンスは乏しく,再発・再燃例には限らないが統合失調症に対するカルバマゼピンの 使用には否定的なメタ解析のシステマティックレビュー 6)がある。また,再発・再燃時に リチウムの併用が有効であるか否かを検討した RCT はない。 再発・再燃時に抗うつ薬の併用が有効であるか否かを検討した RCT はオランザピンとフ ルボキサミン(50mg/day)の併用とオランザピン単剤治療を比較した研究 7)がある。この 結果では,オランザピンとフルボキサミンの併用群の方が有意に症状を改善させた。しか し,この研究は対象患者数が 12 例と非常に少ないことや,抗うつ薬の併用効果以外に,オ ランザピンとフルボキサミンの併用がオランザピンの血中濃度を上昇させることで臨床効 果に結びついている可能性がある。さらに,この検討では忍容性に関しての記載が乏しく 明らかとはなっていない。したがって,再発・再燃時に抗精神病薬と抗うつ薬を併用する ことのエビデンスは現時点では明らかではないため勧められない。 文献 1)Barbee JG, Mancuso DM, Freed CR, et al. : Alprazolam as a neuroleptic adjunct in the emergency treatment of schizophrenia. 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Psychiatry Clin Neurosci, 58(4) : 364-368, 2004 【第 3 章 維持治療】 前文 統合失調症患者のリカバリーを阻害する最大の因子として,再発が挙げられる。初発統 合失調症を対象とした観察研究において, 初発エピソード患者の 5 年以内の再発率は 81.9% だった 1)。 再発を繰り返すことで精神症状はさらに悪化し, 社会機能が低下することから 2), 再発予防は統合失調症患者の維持期治療における最重要課題の一つである。 統合失調症の病期は,急性期(acute phase) ,安定化期(stabilization phase) ,安定期 (stable phase)に分類される。これらの病期について厳密に定義しているガイドラインや アルゴリズムはないが,急性期は症状が活発で病状が不安定な時期,安定化期は症状が改 善し病状が安定しつつある時期,安定期は症状が消失し病状が安定している時期というの が大まかなコンセンサスとなっている 3) 。 安 定 化 期 と 安 定 期 を 合 わ せ て 維 持 期 (maintenance phase)と定義する場合が多く,本章ではこの維持期の治療を受ける統合失 調症患者を対象としたエビデンスの整理を行った。 まず第 1 の臨床疑問(clinical question: CQ)として,急性期の治療で安定化した,ある いは寛解に達した患者の服薬中止が,再発予防やリカバリーを目指すという観点から可能 かという点について取り上げた。第 2 の CQ では,抗精神病薬治療を継続するにあたって, 理想的な薬剤はどれかということに焦点をあてた。抗精神病薬の体内半減期や受容体への 親和性といった薬理学的プロフィールの違いから,効果や副作用のバランスを検討する必 要があり,薬剤の選択は重要な臨床課題である。また,統合失調症患者の維持期の治療に あたっては,服薬アドヒアランスの低下がしばしば問題となる 4)。持効性抗精神病薬注射剤 (Long Acting Injection;LAI)は,2 週から 4 週に一度注射することで,毎日の服薬が必 ずしも必要ではなくなる治療法であることから,有用な治療選択肢だと考えられている。 このため第 3 の CQ では経口薬に比して LAI が有用であるのか,どのような患者に対して 推奨すべきなのかという点について検討した。第 4 の CQ では,維持期治療における理想 的な抗精神病薬投与量についての検討を行った。すなわち急性期治療に必要とされた抗精 神病薬の用量が再発予防にも必要なのか,減量した方が副作用の軽減などといった観点か ら有用ではないかという議論がある。ここでは維持期治療における抗精神病薬の用量につ いて検証した臨床試験をまとめ,情報の整理を行った。最後に,抗精神病薬は薬剤の血中 濃度が安定して維持されるよう,連日投与されること,すなわち継続投与(continuous dosing)されることが一般的である。しかし,現在までに間欠的投与法(intermittent dosing:再発やそれが疑われるまで休薬する)や規則的投与間隔延長法(extended dosing: 例えば毎日の服用が推奨されている薬剤を2日に1回の服用にしたり,2週間隔の LAI を 4週間隔で投与するような規則的ではあるが投薬する間隔を延長する投与法)といった投 与法の有用性が再発予防効果や副作用の軽減といった観点から検討されている。そこでこ の CQ ではどのくらいの投与間隔が維持期の治療に適切なのかを検証した。 これらの CQ を通じて,再発をより確実に予防し,リカバリーを目指すための理想的な 維持期治療の薬物治療戦略について有用な情報が提供できれば幸いである。 文献 1)Robinson D, Woerner MG, Alvir JM, et al. : Predictors of relapse following response from a first episode of schizophrenia or schizoaffective disorder. Archives of general psychiatry, 56(3) : 241-247, 1999. PubMed PMID: 10078501. 2 ) Lieberman JA : Atypical antipsychotic drugs as a first-line treatment of schizophrenia : a rationale and hypothesis. The Journal of clinical psychiatry, 57 Suppl 11 : 68-71, 1996. PubMed PMID : 8941173. 3)Takeuchi H, Suzuki T, Uchida H, et al. : Antipsychotic treatment for schizophrenia in the maintenance phase : a systematic review of the guidelines and algorithms. Schizophrenia research, 134(2-3) : 219-225, 2012. PubMed PMID : 22154594. 4)Kane JM, Kishimoto T, Correll CU : Non-adherence to medication in patients with psychotic disorders : epidemiology, contributing factors and management strategies. World psychiatry : official journal of the World Psychiatric Association, 12(3) : 216-226, 2013. PubMed PMID : 24096780. Pubmed Central PMCID : 3799245. CQ3-1.維持期統合失調症患者において,抗精神病薬の服薬中止と継続のどちらが推奨さ れるか? 推奨 維持期統合失調症において,抗精神病薬の服薬継続は再発率を低下させ(A),入院回数 を減少させる(A) 。また抗精神病薬の継続は,死亡率を低下させ(C) ,QOL の低下を防ぐ (C) 。したがって,維持期統合失調症において,抗精神病薬の服薬継続が推奨される(1A) 。 解説 統合失調症の活発な症状が安定した維持期に抗精神病薬治療を中止できるか否かは,患 者のみならず医師にとっても重要な関心事である。 統合失調症維持期の患者を対象とし,抗精神病薬継続とプラセボとを比較した合計 65 本 の無作為化比較試験(Randomized Controlled Trial: RCT)に基づくメタ解析が 2012 年に 報告されている 1)。これによると,抗精神病薬の服薬継続は,試験開始後 7-12 か月の再発 率を低下させ(27%対 64%, リスク比 0.4) ,再入院率を低下させていた(10%対 26%, リ スク比 0.38) 。また,副作用による試験からの脱落や,少なくとも一つの副作用の報告とい ったアウトカムにおいて,抗精神病薬継続とプラセボで有意差は認められなかった。 死亡率に関して,先の Leucht らのメタ解析 1)では,抗精神病薬継続とプラセボで有意差 は認められず,米国 FDA による新規薬剤認可情報をまとめた Khan らの報告 2)では,抗精 神病薬群へ割り付けられた患者の死亡率はプラセボ群に比して有意に低かった。さらに, フィンランドにおける大規模コホートの長期フォローアップ研究で 3),7-11 年の長期の抗 精神病薬治療が,無投薬の患者に比して死亡率を低下させた(ハザード比 0.81)ことも示 されている。 QOL(Quality Of Life)に関して,一部の抗精神病薬の報告でありエビデンスは限られ ているが,抗精神病薬の継続が患者の QOL の改善や維持に有用であったと報告されている 4, 5)。 このような状況から,抗精神病薬の服薬中止の可能性について言及した 2000 年以降の世 界各国のガイドラインおよびアルゴリズム 8 本のすべてで,抗精神病薬の中止は推奨でき ないとされている 6)。本ガイドラインにおいても,抗精神病薬の服薬継続を強く推奨する。 文献 1)Leucht S, Tardy M, Komossa K, et al. : Antipsychotic drugs versus placebo for relapse prevention in schizophrenia : a systematic review and meta-analysis. Lancet, 379(9831) : 2063-2071, 2012. PubMed PMID : 22560607. Epub 2012/05/09. eng. 2)Khan A, Faucett J, Morrison S, et al. : Comparative mortality risk in adult patients with schizophrenia, depression, bipolar disorder, anxiety disorders, and attention-deficit/hyperactivity disorder participating in psychopharmacology clinical trials. JAMA psychiatry, 70(10) : 1091-1099, 2013. PubMed PMID : 23986353. Epub 2013/08/30. eng. 3)Tiihonen J, Lonnqvist J, Wahlbeck K, et al. : 11-year follow-up of mortality in patients with schizophrenia : a population-based cohort study (FIN11 study). Lancet, 374(9690) : 620-627, 2009. PubMed PMID : 19595447. Epub 2009/07/15. eng. 4)Beasley CM, Jr., Sutton VK, Taylor CC, et al. : Is quality of life among minimally symptomatic patients with schizophrenia better following withdrawal or continuation of antipsychotic treatment? J Clin Psychopharmacol, 26(1) : 40-44, 2006. PubMed PMID : 16415704. Epub 2006/01/18. eng. 5)Kramer M, Simpson G, Maciulis V, et al. : Paliperidone extended-release tablets for prevention of symptom recurrence in patients with schizophrenia: a randomized, double-blind, placebo-controlled study. J Clin Psychopharmacol, 27(1) : 6-14, 2007. PubMed PMID : 17224706. Epub 2007/01/17. eng. 6)Takeuchi H, Suzuki T, Uchida H, et al. : Antipsychotic treatment for schizophrenia in the maintenance phase : a systematic review of the guidelines and algorithms. Schizophr Res, 134(2-3) : 219-225, 2012. PubMed PMID : 22154594. Epub 2011/12/14. eng. CQ3-2.維持期統合失調症患者の抗精神病薬治療において再発率減少や治療継続に好まし い薬剤はどれか? 推奨 第二世代抗精神病薬(second generation antipsychotics ; SGAs)は,再発予防(B),治 療継続(B ),副作用(B)の観点にお いて,第一世代 抗精神病薬( first generation antipsychotics ; FGAs)より優れている。よって,FGAs よりも SGAs を選択することを 推奨する(2B)。SGAs 間の比較に関して十分なエビデンスはない。薬剤選択に関しては, 症例個別の要因を検討する必要があるので,推奨はなしとする。 解説 FGAs と SGAs の再発予防効果を比較したメタ解析を Kishimoto らが報告している 1)。 このメタ解析の組み入れ基準は,FGAs と SGAs の RCT で 6 か月以上患者を追跡したもの (平均期間 61.9±22.4 週間)であった。主要アウトカムには再発,副次アウトカムとして 3,6,12 か月時点の再発,入院,治療失敗(すべての理由による脱落および再発)などが 含まれていた。合計 23 試験(患者合計 4,504 名)が解析対象となり,このうち各抗精神病 薬の試験数は,SGAs では,Amisulpride(国内未承認)3,アリピプラゾール 2,クロザピ ン 4,Iloperidone(国内未承認)3,オランザピン 6,クエチアピン 1,リスペリドン 6, Sertindole(国内未承認)1,Ziprasidone(国内未承認)1 で,FGAs では,23 試験中 21 試験がハロペリドールであった。解析の結果,優位性の差はわずかであったが(NNT (Number needed to treat)=17) ,SGAs 全体で FGAs に比して再発率が有意に低下する ことが示された(29.0%対 37.5%, リスク比=0.80, p=0.0007)。さらに副次アウトカムにお いても,SGAs は FGAs に一貫して優位性を示していた。 個々の SGAs を直接比較した RCT は少なく,どの薬剤が優れているかというエビデンス は少ない。オランザピンを服用中で寛解した肥満患者 133 人を無作為にオランザピン群と クエチアピン群に割り付け 24 週間観察した研究では 2) ,再発するまでの期間に両群に有意 差は認められなかったが,治療継続率はオランザピン群が優れていた(70.6%対 43.1%, p=0.002)。一方で,オランザピン群は体重増加の点でクエチアピンに劣っていた。第一世 代抗精神病薬により治療されている統合失調症患者 86 名をオランザピン群とクエチアピン 群に無作為に割り付け,認知機能と QOL の改善を検証した研究(観察期間 1 年間)3) では, クエチアピンは忍容性と主観的認知機能改善でオランザピンよりも優れていたが,オラン ザピンは症状の安定性と治療継続率でクエチアピンよりも優れていた。このように,特定 の組み合わせの抗精神病薬の比較においてもアウトカムによって優劣が一貫しておらず, さらに他の薬剤に関しての情報は不足している。 維持期治療においては,長期にわたる抗精神病薬治療が必要になるため,遅発性ジスキ ネジアなどの錐体外路症状発現や高プロラクチン血症,体重増加,高血糖,代謝・心疾患, メタボリックシンドロームの予防/対処が必要となる。よって維持期統合失調症患者の抗精 神病薬治療においては,副作用を考慮しつつ,個々の患者にとって最適の SGAs を選択す ることが望ましい。しかし上述したように,個々の SGAs の優劣に関しては,エビデンス が十分でなく,また症例個別の要因を検討する必要があるため,特定の薬剤の推奨は行わ なかった。 文献 1)Kishimoto T, Agarwal V, Kishi T, et al. : Relapse prevention in schizophrenia : a systematic review and meta-analysis of second-generation antipsychotics versus first-generation antipsychotics. Molecular psychiatry, 18(1) : 53-66, 2013. PubMed PMID : 22124274. Pubmed Central PMCID : 3320691. 2 ) Deberdt W, Lipkovich I, Heinloth AN, et al. : Double-blind, randomized trial comparing efficacy and safety of continuing olanzapine versus switching to quetiapine in overweight or obese patients with schizophrenia or schizoaffective disorder. Therapeutics and clinical risk management, 4(4) : 713-720, 2008. PubMed PMID : 19209252. Pubmed Central PMCID : 2621385. 3)Voruganti LP, Awad AG, Parker G, et al. : Cognition, functioning and quality of life in schizophrenia treatment : results of a one-year randomized controlled trial of olanzapine and quetiapine. Schizophrenia research, 96(1-3) : 146-155, 2007. PubMed PMID : 17728106. CQ 3-3. 持効性抗精神病薬注射剤(long-acting injectable antipsychotics ; LAI)は経口薬 に比して有用か? どのような患者に対して使用すべきか? 推奨 服薬アドヒアランスがより担保されている研究においては,LAI と経口薬において再発 予防効果や治療継続率,副作用に有意差がない(A)。一方で,服薬アドヒアランスが担保 されない実臨床に基づくデータからは,経口薬に比べた LAI の非常に強い入院予防効果が 示されている(C) 。よってアドヒアランスの低下により再発が問題になるケースにおいて は,LAI の使用が望ましい(2C) 。また,患者が希望する場合には LAI の使用が強く推奨 される(1C) 。 解説 経口抗精神病薬と LAI における再発予防効果について数多くの RCT が報告されている。 維持期の統合失調症患者を 24 週間以上フォローアップした合計 21 本(患者数 n=5176)の RCT に基づく Kishimoto らの報告 1)では,LAI と経口薬の再発予防効果に有意差が認めら れなかった。この LAI の経口抗精神病薬に対する非優位性は,再発に関連した副次アウト カム,すなわち 3, 6, 12, 18, 24 か月時点の再発率,すべての要因による試験からの脱落, 副作用による脱落,入院においても示された。さらに特定の試験デザインや対象患者のデ ータを抽出しても LAI と経口抗精神病薬の効果は同等であった。しかし,この報告で論じ られていることであるが,LAI と経口抗精神病薬の再発予防効果を比較するという課題に おいて,果たして RCT が適切な試験デザインであるか,という点に関しては十分注意する 必要がある。すなわち,選択バイアス(RCT に参加する被験者はよりアドヒアランスが高 く,治療や検査に協力的である)から,RCT においては日常の臨床で LAI を使用する患者 層とは違った患者が対象になっており,LAI の相対的な効果を減じている可能性が高い。 さらに,試験に参加すること自体が通常の臨床とはかなり違う状況を生み出していること を考慮に入れなければならない。例えば,次回の診察のリマインダー,試験参加への報酬, 服薬アドヒアランスに関する評価など,種々の因子が服薬アドヒアランスを高め,LAI と の効果の差を見えにくくしている可能性がある。 Kishimoto ら 2)は前述のような RCT による限界を考慮に入れ, より臨床現場における LAI の効果を反映しているデータとしてミラーイメージ試験を対象にしたメタ解析を行った。 ミラーイメージ試験とは, 何らかの治療が導入された際, その治療の導入前と導入後の同 じ長さの期間におけるアウトカムを比較する試験である。すなわち患者一人一人が,新規 の治療導入時点を境に自身の対照群となる。解析の対象となったのは 25 本のミラーイメー ジ研究(患者数 n=5940)で,LAI,経口抗精神病薬それぞれで 6 か月以上のフォローアッ プ期間を持つものであった。解析の結果,LAI は経口抗精神病薬に比して入院の予防や入 院回数を減らすことに関して, 非常に強い優位性を示した。しかしミラーイメージ研究にお いては期待バイアス(新しい治療を受けることへの期待から症状が改善しやすい。特に解 析に含まれた試験はすべて経口薬から LAI への切り替えであった)や病状の自然経過, 時 間の影響(脱施設化といった政策の影響を受けやすい)などから, 結果の解釈には注意が必 要である。ミラーイメージ研究は特定の集団のコホート研究(すなわち,経口薬から LAI に切り替えた患者のフォローアップデータ)やケースシリーズの集合と捉えるべきであり, エビデンスの強さは C とした。 副作用に関して,注射部位における副作用および錐体外路症状が LAI 群に多かったとい う報告があるが 3),経口薬と明確な差がないとする報告も多く 4-7),RCT に基づいたメタ解 析においても「副作用による試験からの脱落」は経口薬との有意差は認められなかった 1)。 2013 年 11 月より本邦でもパリペリドンパルミテートが市販され,同剤の市販直後調査 で約 11,000 名の使用者のうち 32 名(約 0.29%)の死亡が確認されたことが 2014 年 4 月か ら 6 月にかけて各種メディアから報じられた。しかし,市販直後調査は登録を行わない自 発報告によるデータであり,注意喚起がされるほど感度が上がるといったデータの特性を 考慮する必要がある。実際,使用実数が登録される第 1 相から 3 相の治験(本邦および海 外の試験)の結果では,他剤に比して明確な差は認めなかった。よって現時点では,同剤 による死亡のリスクが他剤に比べ極端に高いといったエビデンスは確立していない。ただ し,市販直後調査は治験の段階で見つけにくいまれな副作用の検出を目的としていること を勘案すべきであり,使用にあたっては用量用法を順守し,過度な投与量や多剤投与にな らないように留意すべきである。 以上のエビデンスに基づき,ガイドラインとしての推奨は,アドヒアランスの低下から 再発を繰り返している例では Shared Decision Making による患者同意のもとに LAI の使 用が望ましく(2C),一方で(毎日の服薬から解放されることなどを理由に)患者自身が LAI を希望する場合は,再発予防効果において LAI が経口薬の効果が上回っている可能性 を鑑み強い推奨(1C)とした。 文献 1) Kishimoto T, Robenzadeh A, Leucht C, et al. : Long-acting injectable vs oral antipsychotics for relapse prevention in schizophrenia : a meta-analysis of randomized trials. Schizophrenia bulletin, 40(1) : 192-213, 2014. PubMed PMID : 23256986. Pubmed Central PMCID : 3885289. 2)Kishimoto T, Nitta M, Borenstein M, et al. : Long-acting injectable versus oral antipsychotics in schizophrenia : a systematic review and meta-analysis of mirror-image studies. The Journal of clinical psychiatry, 74(10) : 957-965, 2013. PubMed PMID : 24229745. 3 ) Rosenheck RA, Krystal JH, Lew R, et al. Long-acting risperidone and oral antipsychotics in unstable schizophrenia. The New England journal of medicine, 364(9) : 842-851, 2011. PubMed PMID : 21366475. 4)Macfadden W, Ma YW, Thomas Haskins J, et al. : A Prospective Study Comparing the Long-term Effectiveness of Injectable Risperidone Long-acting Therapy and Oral Aripiprazole in Patients with Schizophrenia. Psychiatry, 7(11) : 23-31, 2010. PubMed PMID : 21191530. Pubmed Central PMCID : 3010966. 5)Gaebel W, Schreiner A, Bergmans P, et al. : Relapse prevention in schizophrenia and schizoaffective disorder with risperidone long-acting injectable vs quetiapine: results of a long-term, open-label, randomized clinical trial. Neuropsychopharmacology : official publication of the American College of Neuropsychopharmacology, 35(12) : 2367-2377, 2010. PubMed PMID : 20686456. Pubmed Central PMCID : 3055334. 6)Keks NA, Ingham M, Khan A, et al. : Long-acting injectable risperidone v. olanzapine tablets for schizophrenia or schizoaffective disorder. Randomised, controlled, open-label study. The British journal of psychiatry : the journal of mental science, 191 : 131-139, 2007. PubMed PMID : 17666497. 7)Buckley PF, Schooler NR, Goff DC, et al. : Comparison of SGA Oral Medications and a Long-Acting Injectable SGA : The PROACTIVE Study. Schizophr Bull, 41(2) : 449-459, 2015. PubMed PMID : 24870446. CQ3-4. 維持期統合失調症において,抗精神病薬の減量は有用か? 推奨 維持期統合失調症における抗精神病薬の減量研究については,研究デザインにばらつき があり,再発,治療継続,精神症状の悪化,副作用の改善などの結果も一貫していない(D)。 よって,現時点では維持期統合失調症における抗精神病薬の減量が,有用か否かを結論づ けることはできない。減量実施の是非は個々の患者の症状や副作用に応じた臨床的判断に 委ねられる (推奨なし D)。 解説 通常用量の抗精神病薬による維持期治療中の統合失調症における抗精神病薬の減量につ いて,FGAs と SGAs に分けてエビデンスを解説する。 <FGAs> 以下, 二重盲検 RCT の結果について述べる。 Kane らは, フルフェナジンのデポ剤(12.5-50 mg/2 週)で治療中の 126 名を対象とし,10 分の 1 まで減量する群と継続群を比較し,1 年間での再発率(56%対 7%)は減量群で有意に高く,副作用(遅発性ジスキネジア)に有 意差がなかったことを報告した 1)。Johnson らは,flupenthixol のデポ剤(40 mg 以下/2 週)で治療中の安定した 59 名を対象とし,半分まで減量する群と継続群を比較し,1 年間 での再発率(32%対 10%)は減量群で有意に高く,副作用(錐体外路症状)に有意差がな かったことを報告した 2)。Kreisman らは,フルフェナジンのデポ剤(12.5-25 mg/2 週)で 治療中の安定した 132 名を対象とし,10 分の 1 まで減量する群と継続群を比較し,1 年間 での再発率(45%対 9%)は減量群で有意に高かったことを報告した 3)。Hogarty らは,フ ルフェナジンのデポ剤(平均 21.5 mg/2 週)で治療中の安定した 70 名を対象とし,5 分の 1 まで減量する群(平均 3.8 mg/2 週)と継続群を比較し,2 年間での再発率(30%対 24%) と治療継続率に有意差がなかったことを報告した 4)。Faraone らは,様々な FGAs で治療 中の 29 名を対象とし, 5 分の 1 まで減量する群と継続群を比較し, 6 か月間での再発率 (36% 対 0%)は減量群で有意に高い傾向であったことを報告した 5)。Inderbitzin らは,フルフェ ナジンのデポ剤(平均 23 mg/2 週)で治療中の 43 名を対象とし,半分まで減量する群と継 続群を比較し,1 年間での再発率(25%対 24%),治療継続率,精神症状に有意差がなかっ たが,減量群では維持群に比べて副作用(錐体外路症状)が有意に改善したことを報告し た 6)。Schooler らは,フルフェナジンのデポ剤(12.5-25 mg/2 週)で治療中の安定した 213 名を対象とし, 5 分の 1 まで減量する群と継続群を比較し, 2 年間での再入院率 (25%対 25%) に有意差がなかったことを報告した 7)。このように,FGAs の減量については,大部分がデ ポ剤に関してで,減量も半分から 10 分の 1 までとばらつきがあり,再発,副作用の改善に ついての結果も一致していない(治療継続と精神症状に関しては,ほとんどの報告で明確 な記載なし)。 <SGAs> これまで二重盲検 RCT は行われていないため,以下,オープンラベル RCT の結果につ いて述べる。Rouillon らは,オランザピンで治療中の安定した 97 名を対象とし,減量群(平 均 17.6 から 13.3 mg/日へ)と継続群(平均 18.1 mg/日)を比較し,6 か月間での再発率(8% 対 6%),治療継続率,精神症状,副作用(錐体外路症状,体重増加)に有意差がなかった ことを報告した 8)。Wang らは,404 名を対象とし,リスペリドンで治療し安定した 4 週後 より減量を開始し半分まで減量する群(平均 4.4 から 2.2 mg/日へ),26 週後より減量を開 始し半分まで減量する群(平均 4.2 から 2.1 mg/日へ),継続群(平均 4.3 mg/日)の 3 群 を比較し,減量した 2 群それぞれは継続群に比べて 1 年間での再発率が有意に高かったこ とを報告した(それぞれ 24%,16%,8%)9)。また,3 群で精神症状に有意差があったが, 治療継続率,副作用(錐体外路症状,体重増加)は有意差がなかった。Takeuchi らは,リ スペリドンまたはオランザピンで治療中の安定した 61 名を対象とし,半分まで減量する群 (リスペリドンは平均 3.7 から 2.1 mg/日へ,オランザピンは平均 13.8 から 7.1 mg/日へ) と継続群(リスペリドンは平均 4.5 mg/日,オランザピンは平均 14.1 mg/日)を比較し,6 か月間での再発率(3%対 3%),治療継続率に有意差はなかったが,減量群では維持群に 比べて副作用(錐体外路症状および認知機能障害)が有意に改善したことを報告した 10)。 このように,第二世代抗精神病薬の減量については,オープンラベル RCT が 3 報のみでエ ビデンスが不足しており,再発,精神症状の悪化,副作用の改善についての結果も一致し ていない(治療継続に関しては,いずれも減量と用量維持で有意差なし)。 これまで述べた現状から,急性期治療に必要とした抗精神病薬の用量を維持期治療にお いても継続すべきか否かについては,各国のガイドライン・アルゴリズムでも推奨が異な っており,統一見解に達していない 11)。本ガイドラインにおいても,維持期統合失調症に おける抗精神病薬の減量が有用か否かを結論づけることはできない。 文献 1)Kane JM, Rifkin A, Woerner M, et al. : Low-dose neuroleptic treatment of outpatient schizophrenics. 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Schizophr Res, 134 : 219-225, 2012. doi : 10.1016/j.schres.2011.11.021 CQ 3-5. 安定した統合失調症の経口抗精神病薬薬物治療における適切な投与間隔は何 か? 推奨 毎日規則的に服薬する継続投与法は,服薬を中止し再発が疑われる際に服薬を再開する 間欠的投与法に比べ,再発と再入院が有意に減少し,治療継続が有意に増加する (A)。服薬 間隔を通常よりも延長するものの規則的な服薬を継続する投与間隔延長法に関しては,十 分なエビデンスがない。よって,毎日規則的に服薬する継続投与法が強く推奨される (1A)。 解説 副作用の軽減などを目的に,抗精神病薬を毎日継続的に服用するのではなく,間欠的に 投与する方法が現在までに試みられてきた。ここでは,急性期の活発な症状が安定した統 合失調症維持期における抗精神病薬の適切な投与間隔について解説する。 抗精神病薬の間欠的投与法に関するメタ解析(N=17, n=2252)が 2013 年に報告されて いる 1)。 このメタ解析では,毎日規則的に服薬する継続投与法に比して,間欠的投与法が, 再発や再入院などのアウトカムにおいて有用かどうかを検証している。解析の結果,①あ らゆる種類の間欠的投与法は,継続投与法に比して,短期(12 週以下) ,中期(13 週から 25 週) ,長期(26 週以上)の再発のリスク(各 N=4,5,7,各 risk ratio(RR)=1.68,2.41, 2.46)が有意に高かった。再入院については長期で有意にリスクが高く(N=5,RR 1.65) , 治療継続についても長期で有意に低かった(N=10,RR=1.63) 。さらに同メタ解析では, ①あらゆる種類の間欠的投与法を,以下の間欠投与法,すなわち②継続的な服薬を中止し 再発が疑われる時点で投薬再開(Early-Based) ,③継続的な服薬を中止し再発が明らかな 時点で投薬再開(Crisis Intervention) ,④無投薬の期間を長くしていく投与法(Gradually Increased Drug-Free Periods) ,⑤一定期間(週のうち数日間または数週間連続して)休薬 日を設ける方法(Drug Holiday)などに分類し,継続投与法と比較している。これらの方 法においても,間欠的投与法の継続投与法に比した有効性は見出せず,多くの比較におい て間欠的投与法は再発や再入院のリスクが高かった。表1に本メタ解析の結果の一部を抜 粋し示した。 表 1) 文献 1)から一部を抜粋 なお副作用に関しては,一部の試験で錐体外路症状スコアが継続投与法より低値であっ たことが示されているものの 2,3),先のメタ解析からは遅発性ジスキネジアに関して(N=3) 継続投与法との有意差は認められなかった 1)。 このような状況から,抗精神病薬の服薬中止の可能性について言及した 2000 年以降の世 界各国のガイドラインおよびアルゴリズム 9 本のすべてで,間欠的投与法は推奨できない とされている 4)。 しかしながら,ひとくくりに間欠的投与法といっても,一旦投薬を中止するもの(再発 が疑われる時点での投与再開,再発が明らかな時点での投与再開,無投薬の期間を長くし ていく投与法)と投与間隔は延長するものの規則的に服薬を継続するもの(休薬日を設け る投与法,あるいは後述する投与間隔延長法; Extended Dosing)とでは大きな違いがある。 例えば,毎日服薬していた薬剤を 2 日に 1 回の服用にした投与間隔延長法と継続投与法を 比較した無作為化比較試験において,再発,再入院のリスクに有意な差がなかったことが 報告されているが 5),現時点でエビデンスは十分ではない。 以上より,維持期統合失調症では毎日規則的に服薬する継続投与法が推奨される。 文献 1)Sampson S, Mansour M, Maayan N, et al. : Intermittent drug techniques for schizophrenia. Cochrane Database Syst Rev, 7 : CD006196, 2013 2)Jolley AG, Hirsch SR, McRink A, et al. : Trial of brief intermittent neuroleptic prophylaxis for selected schizophrenic outpatients : clinical outcome at one year. Bmj, 298 : 985-990, 1989 3)Jolley AG, Hirsch SR, Morrison E, et al. : Trial of brief intermittent neuroleptic prophylaxis for selected schizophrenic outpatients : clinical and social outcome at two years. Bmj, 301 : 837-842, 1990 4)Takeuchi H, Suzuki T, Uchida H, et al. : Antipsychotic treatment for schizophrenia in the maintenance phase : a systematic review of the guidelines and algorithms. Schizophrenia research, 134 : 219-225, 2012 5)Remington G, Seeman P, Feingold A, et al. : "Extended" antipsychotic dosing in the maintenance treatment of schizophrenia : a double-blind, placebo-controlled trial. The Journal of clinical psychiatry, 72 : 1042-1048, 2011 第4章 治療抵抗性 前文 本章では,抵抗性統合失調症についての生物学的治療法について述べる。 広義の治療抵抗性統合失調症の定義は,複数の抗精神病薬を,十分量,十分期間投薬して も改善が認められない一群を指す。 「複数の抗精神病薬」を, 「十分量」 , 「十分な期間」, 「改 善が認められない」における定義は様々あるが,日本では「2 種類以上の抗精神病薬」を「ク ロルプロマジン換算 600mg/日以上」にて「4 週間以上」投与して, 「GAF(Global Assessment of Functioning)が 41 点以上に相当する状態になったことがない」がクロザピン使用にお ける反応性不良の定義となっている 1)。本ガイドラインにおいても,本邦における臨床実践 に役立てるよう上記のごとく治療抵抗性統合失調症を定義する。クロザピンの適応におけ る耐容性不良(錐体外路症状により十分に増量できない場合)による治療抵抗性統合失調 症に関しては,第 5 章において述べられているのでそちらを参照していただきたい。 治療抵抗性統合失調症において有用であるとして適応が認められている薬剤は,世界中 においてクロザピンのみであり,クロザピン治療が他の治療法と比較して有用であるとい う多数の良質なエビデンスがあることから,各国のどのガイドラインにおいても, 「治療抵 抗性統合失調症=クロザピン治療」とされているのが現状である 2,4)。そこで,本章におい ては臨床疑問(clinical question: CQ)としてまずクロザピン治療を取り上げ,その有用性 (CQ4-1),副作用(CQ4-2),増強療法(CQ4-3)について述べた。 クロザピンには無顆粒球症という重篤な副作用があることから,それに対応するためのモ ニタリングシステムを必要とする。本邦では 2009 年に導入されたがこの認可を受けている 施設がまだ少なく,本邦における導入は諸外国と比較して極端に遅れているという現状が ある。統合失調症患者の 20-30%が治療抵抗性であると推定されていることから,クロザ ピンを一般的な医療として普及させることが緊喫の課題である。先ほど述べたように世界 中で治療抵抗性統合失調症にはクロザピン治療が推奨されているため,クロザピン以外の 治療法に対するエビデンスは乏しいが,続く CQ においては,これらの治療法について取 り上げた。本邦ではクロザピン治療が導入される前には,治療抵抗性統合失調症に対して 修正型電気けいれん療法(modified electroconvulsive therapy: m-ECT)が用いられること がよく認められたため, m-ECT を CQ4-4 とし,それ以外の治療法を CQ4-5 とした。m-ECT の技法,リスク評価や禁忌などの一般的事項については紙面の都合もあり当ガイドライン では触れない。パルス波 ECT ハンドブック 5)や精神神経学会の推奨事項 6)などの文献を参 照していただきたい。 一方,リアルワールドの臨床現場には,症状や社会機能レベルにおいては治療抵抗性統 合失調症と同等であるが,未だ「治療抵抗性統合失調症」の定義を満たす抗精神病薬治療 を受けていない「見かけ上の治療抵抗性統合失調症」患者が多数存在する。このような患 者における治療法についての統制された研究はなく,総説や症例報告があるのみである 7-9)。 「見かけ上の治療抵抗性統合失調症に対する有用な治療法は何か?」という臨床上必要な 疑問については,統制された研究によるエビデンスが全くないため本ガイドラインにおい ては取り上げなかった。今後の研究が待たれる分野であるが,治療に成功しなかった場合 には「治療抵抗性統合失調症」の定義を満たすように抗精神病薬治療を行い,クロザピン 治療に結び付けられるようにすることが必要であることはいうまでもないであろう。 文献 1)クロザリル添付文書.ノバルティスファーマ株式会社,2013 2)Practice Guideline for the Treatment of Patients With Schizophrenia. Second Edition, American Psychiatric Association, 2004. 3)Psychosis and schizophrenia in adults : treatment and management, NICE clinical guideline 178, 2014 4)Taylor D, Paton C, Kapur S : The Maudsley Prescribing Guidelines in Psychiatry. 11th Edition, Wiley-Blackwell, UK, 2012 5)Mankad MV, Beyer JL, Weiner RD, et al. : Clinical Manual of Electroconvulsive Therapy. 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Schizophr Res 146, Issue 1-3 : 1-9, 2013 CQ5-2 統合失調症の緊張病に対し推奨される治療法はどれか? 推奨 ・治療介入を行う前に,器質的な要因の検索や全身状態の改善を行うことを推奨する(1D) 。 ・抗精神病薬による悪性症候群の初期症状である可能性を考慮すること,悪性症候群を疑 った場合には抗精神病薬を中止し,悪性症候群の治療を最優先に行うことを推奨する(1D) 。 ・統合失調症の緊張病に限定した薬物療法の有効性,有害事象については十分なエビデン スが存在しないため,全身状態の変化に十分注意を払いつつ,通常の統合失調症の治療に 準じた薬物療法を行うことが望ましい(2D) 。 ・電気けいれん療法(Electroconvulsive Therapy:ECT)は有効性を認めたエビデンスが 存在するため,導入を検討することが望ましい(2D) 。 解説 緊張病とは,意識は清明であるにもかかわらず,一切の自発的行動が停止した緊張病性 昏迷と,意志による統制を欠いた一貫性のない了解不能な興奮,すなわち緊張病性興奮を 間欠的に繰り返す病態であり,主として緊張型統合失調症にみられるが,統合失調症以外 の精神疾患においても出現しうる。本項は統合失調症の診断を受けていることを前提とし ているが,緊張病に遭遇した場合に,統合失調症であると断定することは難しいことに留 意する必要がある。そして統合失調症であった場合でも背景に神経学的疾患,内分泌・代 謝疾患,感染症,離脱症状,薬物中毒など,器質的な要因が背景に潜んでいる場合がある ことを想定しておかなければならない。迅速に行うことができる検査から優先して行い, 可能な限り器質的な要因を検索するとともに,十分な補液などによって全身状態を改善さ せることが重要である 1)。 本項については統合失調症のみを対象とした研究は極めて少ないため,統合失調症を含 むことを前提に,周辺疾患を含めた研究も参考にしつつ推奨を検討した。 統合失調症の緊張病に限定した薬物療法の有効性,有害事象についてのエビデンスは, 現在のところ十分には存在しない。抗精神病薬については,周辺疾患を含んだ 25 例の観察 研究でオランザピン,クエチアピンでは効果が一定せず,アリピプラゾール,リスペリド ン,第一世代抗精神病薬(first generation antipsychotics:FGAs)では緊張病症状の悪化, 錐体外路症状の出現,焦燥感の悪化などがみられたという報告がある 2)。このように統合失 調症以外の疾患を含む試験においては抗精神病薬によって悪化する危険性が示唆されてい る ( D )。 ま た , 抗 精 神 病 薬 に よ る 治 療 に よ っ て 緊 張 病 , 昏 迷 状 態 を 呈 す る Neuroleptic-induced catatonia(NIC)を発症する可能性があり,さらに NIC は悪性症候 群の初期症状である可能性も指摘されている 3)(D) 。以上のことから,統合失調症の緊張 病に遭遇した場合は原疾患によるものであるのか,薬物療法による悪性症候群の初期症状 であるのかを鑑別する必要があり,通常の治療を行いつつ全身状態の変化に留意し,悪性 症候群への発展が疑われた場合は直ちに悪性症候群の治療に移行すべきである(D) (CQ5-7 参照) 。また,統合失調症あるいは重篤な精神疾患における緊張病状態に対するベンゾジア ゼピン系薬剤の有効性について検討した Cochrane レビューにおいては, 22 の文献を基に メタ解析が行われているが,プラセボと比較して優位性は示されなかったと報告されてい る 4)。さらに,慢性期の統合失調症における緊張病についてはプラセボと差がみられなかっ たという報告がある 5, 6)(D) 。観察研究においては改善が示されたものがあるが,症例数が 全般的に少なく,対象には統合失調症以外の疾患が多く含まれていた 7-13)。このように,緊 張病には多様な病態が含まれているためベンゾジアゼピン系薬剤に対する治療反応性に差 異があることが予想され 14),統合失調症の緊張病に対するベンゾジアゼピン系薬剤の有効 性,有害事象について,また効果の持続について一定の見解は得られていない。 ECT については,統合失調症以外の疾患も含む緊張病の 270 エピソード,178 例に対す る治療法について検討したケースシリーズによると,85%の患者に有効であった 15)。統合 失調症に対する ECT の有効性について 31 の試験を基に検討されたシステマティックレビ ューでは,統合失調症のうち,急速な改善が必要となる緊張病,薬剤抵抗性,精神運動興 奮状態に対して特に有用な治療であるとされている 16)。このレビューに含まれる,統合失 調症の緊張病に対する ECT の有効性について検討した 3 つの研究を精査すると,Hatta ら は,50 例の統合失調症における緊張病に対してロラゼパムを投与し,無効であった症例に 対し ECT あるいは向精神薬の経口投与を行ったところ,ECT では全員が改善したのに対し, 経口薬投与ではクロルプロマジン 68%,リスペリドン 26%,ハロペリドール 16%,ベン ゾジアゼピン系薬剤 2%の改善にとどまったこと 17),Phutane らは,202 例の統合失調症 に対する ECT の施行理由を検討し,最多は薬物療法の効果増強目的であったが,次いで緊 張病の改善目的が多く,著明な改善がみられたこと 18),Thirthalli らは 87 例の統合失調症 に対する ECT の有効性を検討し, 緊張病 53 例は他の 34 例と比較し改善が早かったこと 19) を報告している。以上より,ECT は統合失調症の緊張病に対して有効と考えられる(D)。 統合失調症における緊張病は著しく QOL を低下させる病態であり,早急な対処が必要で あることに疑いはないものの,治療法についてのエビデンスは十分に存在せず,現在のと ころ積極的に推奨できる治療法は存在しない。これを明らかにするためには,統合失調症 における緊張病に限定したエビデンスの蓄積と緊張病の病態解明がより進められる必要が あると考えられる。 文献 1)八田耕太郎(澤温,平田豊明監修) :精神科救急医療ガイドライン 2009.有限会社情報 開発,大阪,2009 2)England ML, Ongür D, Konopaske GT : Catatonia in psychotic patients : clinical features and treatment response. 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World J Biol psychiatry, 10 : 772-777, 2009 CQ5-3 統合失調症の抑うつ症状に対してどのような薬物治療が有効か? 推奨 ・ 統合失調症の抑うつ症状については,多様な成因が考えられ,疾患自体の症状や心理的 反応,薬剤性のものなどを念頭に置いて鑑別し,成因に応じた対応を行うことを推奨す る(1D)。 ・ 抑うつの原因として抗精神病薬起因性が疑われる場合は,抗精神病薬の減量が望ましい (2D) ・ 抗精神病薬変更に関しては,ハロペリドールを服用している場合は,SGAs への変更が 望ましい(1C) 。 ・ 抗うつ薬やリチウムの併用については,結果の不一致や,薬剤相互作用等による副作用 発現の可能性があることから併用しないことが望ましい。(2D) ・ 電気けいれん療法については,抗うつ効果を認めないため行わないことが望ましい。 (2D) 解説 統合失調症の抑うつ症状は,前駆期,初発時,急性期,回復期の精神病後抑うつ,慢性 期の再燃前など,あらゆる病期に生じ 1) ,その有病率は 6-75%で最頻値は 25%である 2)。 抑うつ症状の併存は,社会生活上の困難や自殺リスクの増大をもたらす 3, 4)。 その成因も非常に複雑であり,抗精神病薬の副作用,薬物乱用や離脱の結果,疾患自体 による症状,絶望感や社会的困難の結果としての心理的反応,さらには長期入院などによ る施設病的側面などを念頭に置いて鑑別し 5) ,成因に応じた対応を行うことを推奨する (1D) 。 抗精神病薬減量による抑うつ症状の改善については,22 名の陰性症状主体の統合失調症 を対象にしたデカン酸フルフェナジン持効性注射薬の減量試験があり, Dysphoria が減じ, 抑うつが改善し,陽性症状の増悪は認めなかった 6)(D)。以上から,抑うつが改善する可 能性があり,抗精神病薬減量が望ましい(2D) 抗精神病薬変更による抑うつ状態への効果について,BPRS や PANSS 尺度を用いたメタ 解析結果からは,ハロペリドールと比べると SGAs の方が抑うつを引き起こしにくい可能 性があり 7)(C) ,ハロペリドールを服用している場合は,SGAs への変更が望ましい(1C) 。 一方,統合失調症に特化した抑うつ症状評価尺度を用いて有効性評価を行うと,ペルフ ェナジンと SGAs 間の直接比較で有意差がない 8)(C)とする最近の結果がある。また,226 人の急性期入院症例において,SGAs(オランザピン, クエチアピン, リスペリドン, ziprasidone)間でも 24 か月間のうつ症状に対する効果に差がなかった 9)(C) 。 抗うつ薬の増強療法による抑うつ症状への有効性は一貫しない。11 の RCT を基に,抗う つ薬(イミプラミン, アミトリプチリン,ミアンセリン,ノルトリプチリン,トラゾドン, セルトラリン,bupropion, moclobemide, viloxazine)についてのメタ解析にて,抗う つ薬増強により,精神病症状増悪は認めず,抗うつ効果の可能性が示された(D) 。しかし, この結果についてはサンプル数の少なさ,試験エントリー基準や評価方法の不統一などの 問題点も指摘される 10)。 新規抗うつ薬併用についての RCT は少なく,同じ薬剤でも試験により結果の不一致がみ られる。 ミルタザピン 30mg/日については 3 報 11-13) 中1報 13) のみ効果ありとした(D) 。 Citalopram 40mg / 日に つ い ては , 2 報 あ り, そ れ ぞれ ハ ミル ト ンう つ 病 評価 尺度 (Hamilton Rating Scale for Depression: HDRS)の改善 14),自殺念慮の減少 15)を報告し た(D) 。いずれの報告も副作用や精神症状の増悪については差がなかったとしている(D) 。 統合失調症急性期症状が消退し回復期以降に生じる “精神病後抑うつ”に限定した試験で は,イミプラミン付加療法の効果が報告されている(D)。しかし,この臨床試験は,被験 者数が 14 名 16),21 名 17) と少なく,またいずれもデカン酸フルフェナジン持効性注射薬 で治療されている患者に対して行われたものである。以降の抗うつ薬併用による試験では, プラセボ併用との明確な差が示された研究は少なく,試験デザインの問題等が挙げられて いる(D)18)。 このように,精神病後抑うつを含めて,統合失調症のうつ状態に対する抗うつ薬の併用 については,主に小規模試験のみである,うつ症状の評価の不統一といった試験デザイン の問題が指摘され,また精神症状の増悪は認めていないとしても,有効性について結果の 不一致が目立つ。さらに,我が国の添付文書によれば,抗うつ薬による薬物代謝酵素の阻 害による抗精神病薬の血中濃度上昇等に起因する相互作用上の禁忌または併用注意が明記 されていることを鑑み,現時点では併用しないことが望ましい(2D)。 炭酸リチウム併用療法についてのシステマティックレビューでは,炭酸リチウム併用群 とプラセボ付加群間でうつ症状の改善に差がなかった 19) (D)。この考察として,評価方 法の不統一や副作用による早期脱落が示唆されている。また,BPRS の抑うつスコアの改善 を指標にした RCT(N=21)では,8 週間の評価において,併用群にのみ改善を認めた 20) (D)。以上から,炭酸リチウム併用療法については結果が相反しており,また,我が国の 添付文書によれば,ハロペリドール等との併用により,心電図変化,重症の錐体外路症状, 持続性のジスキネジア,突発性の悪性症候群,非可逆性の脳障害を起こすとの報告がある ことから併用注意となっていることを鑑み,併用しないことが望ましい(2D)。 電気けいれん療法について,統合失調症の抑うつ症状の改善に着目した知見は乏しい。6 週間以上,クロルプロマジン換算で 600mg 以上の異なるクラスの抗精神病薬を 2 種類以上 用いても無効であった治療抵抗性統合失調症で,クロザピン無効または服用を拒否した 15 例に対しての,プラセボ比較オープン試験では,ECT(8-20 回)の抗うつ効果は認めなか った 21)(D) 。以上から,電気けいれん療法については行わないことが望ましい(2D)。 文献 1)Siris SG, Addington D, Azorin JM, et al. : Depression in schizophrenia : recognition and management in the USA. 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CQ5-5 病的多飲水・水中毒に対して推奨される薬物治療法はあるか? 推奨 病的多飲水に対する抗精神病薬治療として,SGAsが有効である可能性があるため(D), SGAsによる標準的な薬物療法を適切に行うことが望ましい(2D)。病的多飲水が治療抵抗性 統合失調症の病態によると考えられる場合には,クロザピンを導入することが望ましい (2D)。 他の薬物療法は,症例数も評価も一定ではなく,推奨される薬物療法はない(2D)。 解説 病的多飲水とそれに伴う水中毒は,慢性期統合失調症患者の10~20%に認められ 1),日 本の精神科病院入院患者の10−20%に多飲水,3−4%に水中毒があると報告されている 2)。 水中毒により低ナトリウム血症を合併すると,心不全,意識障害,けいれん,横紋筋融解 症,悪性症候群を引き起こし,しばしば治療を複雑化させ 3),生命予後を短縮させる 4)。そ のため,病的多飲水への対策は臨床的に重要であるが,大規模で前向きな研究は報告され ていない。また,個別の取り組みの報告には,治療環境や行動様式への介入などが多く, 薬物療法に特化した報告は限定的でエビデンスレベルは低い。 a)病的多飲水に有効な抗精神病薬はあるか クロザピンによる治療が有効であるという報告が多い 他,クエチアピン ナンセリン 5-14)(ケースシリーズ)(1D)。その 15-19),アリピプラゾール 20),オランザピン 21),ペロスピロン 22),ブロ 23),リスペリドン 24-27)といった本邦で使用可能であるSGAsへの置換が有効で あったという報告があるが,その評価は一定ではない(D)。 病的多飲水・水中毒は抗精神病薬登場以前から報告されており,統合失調症の精神症状 の一部と考えられる。SGAsによる標準的な薬物療法を適切に行うことが望ましい。次に, 病的多飲水・水中毒が重篤で治療抵抗性統合失調症の症状によると考えられる場合には, クロザピンの導入を検討することが望ましい(治療抵抗性の章を参照)。 b)病的多飲水に有効な他の薬物療法はあるか 抗精神病薬による慢性的なD2 受容体遮断に関連してアンジオテンシンⅡを介して生じ ると推測されている 28-30)。ACE(Angiotensin-converting enzyme)阻害薬(captopril 31, 32), enalapril 33) ),β 遮断薬( propranolol 34-36) ),オピオイド拮抗薬( naloxone 37) , Demeclocycline 38),カルバマゼピン 39), リチウム 40,41)による治療効果が報告されているが, 症例数が少なく,また評価も一定ではない 42)。さらに,併用による副作用発現のリスクも 明らかではないことから,推奨される薬物療法はない(2D)。 補足 低ナトリウム血症の補正について a)急性発症 43) 数日間の急な多飲水による急激な血中Na 値の減少を認め,頭部画像検査で脳浮腫を認め る。治療としては,脳浮腫の軽減をはかる。水分制限の上で輸液を行い,迅速にNa の補正 を行う。血中Na 値が120-125mEq/l になるまで,1.0-2.0mEq/l/h のペースで補正する。 b)慢性発症 持続的な多飲水による緩徐な血中Na 値の低下を認めるが,脳浮腫は認めない。急激な Na 補正では橋中心性脱随(central pontine myelinolysis)を生じる危険性があるため, 0.5mEq/l/h 以下のペースで補正する。 c)横紋筋融解の合併時 低浸透圧血症による筋線維の膨張,筋細胞の壊死が生じ,経過中に横紋筋融解症を合併 することがある。その際は,高ミオグロビン血症による急性腎不全を避けるため,水分制 限は行わず一定量の尿量を保つ必要がある。 文献 1)De Leon J : Polydipsia. 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Cochrane Database Syst Rev, 4 : CD003544, 2006 43)北元 健,上條吉人:精神疾患患者における身体合併症.臨床精神医学,43:285-290, 2014 CQ5-6 錐体外路系副作用に推奨される治療法および予防法は? 推奨 A. 錐体外路系副作用発症後の治療 錐体外路系副作用(extra pyramidal symptom: EPS)が発現した際の一般原則として, 他の薬剤性副作用の場合と同様に,原因薬剤を減量し,重篤な場合は一旦中止することを 推奨する(1D)。しかし,原因薬剤が精神症状に効果を示している場合には,益と害を勘案 して対処をはかる必要がある。以下,副作用症状ごとに述べる。 (1)薬剤性パーキンソン症状 ① EPS を生じやすい FGAs を用いてパーキンソン症状が生じた場合は,パーキンソン症状 を生じにくい SGAs への変更を推奨する(1A) 。SGAs を用いても,同副作用が問題となる 場合,クロザピン,クエチアピン,またはオランザピンへの変更が望ましい(2D) 。 ② 精神症状の慎重な評価の上,可能であるならば,内服している抗精神病薬の減量を推奨 する(1D) 。 ③ ①②を選択できない場合や抗精神病薬の調整のみでは,効果に乏しい場合は,抗コリン 薬(ビペリデン,トリヘキシフェニジル)やドパミンアゴニスト(アマンタジン)の併用 が望ましい(2D) 。 (2)急性ジストニア ・抗コリン薬(ビペリデンやトリヘキシフェニジル),抗ヒスタミン薬(プロメタジン)の 内服,抗コリン薬筋注を弱く推奨する(2D) 。 ・また,高力価 FGAs の投与により急性ジストニアを生じた場合は,アリピプラゾール, オランザピン,クエチアピンへの変更が望ましい(2D) 。 ・急性ジストニアは抗精神病薬の用量の高低で比較した場合,低用量群で発現リスクが低 いというメタ解析結果があり(D),抗精神病薬減量も選択肢の一つとして弱く推奨する (2D) 。 (3)アカシジア ・強い不安焦燥感を伴い,希死念慮,自殺企図,他害の危険性が予想されるような緊急性 の高い場合は,薬物療法,精神療法,環境調整等,積極的な介入を行うことを推奨する(1D) 。 ・アカシジア症状が軽度の場合は,患者側と十分に話し合った上で,内服している抗精神 病薬の減量を行うことを推奨する(1D) 。 ・高力価高用量の FGAs が処方されている場合は SGAs への変更を推奨する(1C)。また, SGAs への変更が何らかの理由によりできない場合は,中力価または低力価 FGAs を用いる のが望ましい(2D) 。 ・抗コリン薬,β 遮断薬( プロプラノロール),クロナゼパム,ミアンセリン,ミルタザピン, トラゾドン,シプロヘプタジン,ビタミン B6 の併用はしないことが望ましい(2D) 。 (4)遅発性ジスキネジア ・遅発性ジスキネジア(tardive dyskinesia: TD)発症後に,クロザピン,オランザピン, クエチアピンへの変更により副作用軽減が図れる可能性があり(D),これらの薬剤への変 更が望ましい(2D) 。 ・抗コリン薬減量により,TD 重症度が軽減したという小規模の RCT 結果を踏まえ,抗コ リン薬が併用されている場合には,減量が望ましい(2D) 。 (5)遅発性ジストニア ・治療方法は確立したものはないが,抗精神病薬の選択においては,クロザピンへの変更 が望ましい(2D) 。 B . 錐体外路系副作用の予防 (1)薬剤性パーキンソン症状の予防 ・FGAs よりも SGAs を選択することを強く推奨する(1A) 。 ・SGAs 間での選択としては,クロザピン,クエチアピン,またはオランザピンから 1 剤を 選ぶことが望ましい(2D) 。 (2)急性ジストニアの予防 ・FGAs よりも SGAs を選択することを推奨する(1C) 。 ・抗コリン薬(ビペリデンやトリヘキシフェニジル),抗ヒスタミン薬(プロメタジン)が 予防に有効であり(D) ,治療開始数週間までの一時使用を控えめに推奨する(2D) 。 (3)アカシジアの予防 ・高力価かつ高用量の FGAs を避け,SGAs を選択する(1C)。あるいは,SGAs が何らか の理由で選択できない場合は,中力価または低力価 FGAs を用いるのが望ましい(2D) 。 SGAs 内での選択については,特定の薬剤の推奨はなしとする。 (4)遅発性ジスキネジア(TD)の予防 ・FGAs よりも SGAs を選択することを推奨する(1D) 。 (5)遅発性ジストニアの予防 ・現段階ではエビデンスがほとんどないため,特定の薬剤の推奨はなしとする。 解説 EPS は,抗精神病薬の投与開始か増量後に生じやすい急性副作用と(急性ジストニア, アカシジア,パーキンソン症状)と,投与数か月経ってから出現することが多い遅発性副 作用(遅発性ジスキネジア,遅発性ジストニア)に分かれる。まず,これらの副作用を, 種々の精神症状(不安焦燥激越,抑うつ,緊張病症状,転換症状など)と鑑別診断するこ とが最も必要である 1)。 EPS に対する薬物療法には,副作用の発症をできるだけ少なくするための予防と,副作 用が生じてしまった場合の対処治療とがある 1)。 実地診療の過程としては,初発,あるいは未治療患者に対しては,発症予防を考えて処 方計画を行うが,本ガイドラインでは,EPS をすでに発症している場合にどのような対処 を行うかを先述し,予防について後述する。 A. 錐体外路系副作用発症後の治療 (1)薬剤性パーキンソン症状 薬剤性パーキンソン症状は,薬剤投与後数週間以内に発症する。中年以降に発症しやす く,多くの場合,抗精神病薬の用量依存性に発症リスクが高まるが,脳器質疾患の存在や 加齢など個人の脆弱性も発症に影響する 2)。特発性パーキンソン症状と似て,筋固縮,寡動, 構音障害,嚥下障害,姿勢調節障害などを認めるが,薬原性の場合,両側性が一般的で, 静止時振戦が見られないことがあること等の違いがある 3)。薬剤性パーキンソン症状は,患 者の行動を妨げ,不活発,転倒,誤嚥などの原因になるほか,遅発性ジスキネジアのリス クともなるため,その対処は重要である 4)。 ① クロザピン ロスピロン 5 ,6),オランザピン 7-13),クエチアピン 14-16),アリピプラゾール 17-19),ペ 20),リスペリドン 21-25),ブロナンセリン 26),パリペリドン 27-29) はハロペリド ールより EPS が少ない(A)という多くの知見があり,もし,EPS を生じやすい FGAs を 用いてパーキンソン症状が生じた場合は,パーキンソン症状を生じにくい SGAs への変更 を推奨する 30)(1A) 。 SGAs 間の比較については,抗パーキンソン病薬の併用率を直接比較した RCT を基にし たメタ解析結果が報告されている 31)。その結果によれば,リスペリドンは,対クロザピン, オランザピン,クエチアピンより抗パーキンソン病薬の併用が多い。アリピプラゾールは オランザピンより併用が多いが,リスペリドンとは同等であった。クロザピンはリスペリ ドンよりも併用率が極めて少ないが,オランザピンとは差がない。オランザピンはアリピ プラゾール,リスペリドンよりも少ないが,クロザピンとは同等で,クエチアピンよりは 多い。クエチアピンはオランザピン,リスペリドンより少ない(D)。これらの結果から, SGAs 間でも薬剤性でパーキンソン症状の頻度には違いがあることが示されており,SGAs を用いても,同副作用が問題となる場合,クロザピン,クエチアピン,またはオランザピ ンへの変更が望ましい(2D) 。 ② EPS は抗精神病薬の用量に依存して生じやすくなるという 4 本のシステマティックレ ビューがあり 32-35),精神症状の慎重な評価の上で,可能であるならば,内服している抗精 神病薬の減量を推奨する(1D) 。 ③ 抗コリン薬,抗パーキンソン病薬の効果については, 2 本の RCT がある。すでに EPS を発症している統合失調症患者 35 名を, アマンタジン 100mg (ハロペリドール平均 22.4mg) 群 18 名と,ビペリデン2mg(ハロペリドール 19.6mg)群 17 名で比較したところ,両者 も同等の EPS 改善がみられ,その効果は同等であった 36)。また,32 名の症状安定してい る統合失調症患者 32 名に対して,トリヘキシフェニジルの併用を中止 7 日後に,アマンタ ジン 100mg 群,ビペリデン 2mg にランダムに割り付け,2 週間後の効果を Simpson-Angus Neurologic Rating Scale で評価した。両者とも EPS スコアの改善を認め,その程度は同等 であった 37)(D) 。 しかし,抗コリン薬は,口渇,便秘,排尿障害,かすみ目等の末梢性抗コリン性副作用と, 認知機能障害,特に視覚性記憶障害の副作用(D)に 38),アマンタジンには,嘔気,幻覚 などの副作用(D)37)に注意して使い分ける必要がある。以上から,抗コリン薬(ビペリデ ン)や,抗パーキンソン薬(アマンタジン)は,どちらを選択しても効果を認めるが,そ れぞれの特徴的な副作用のリスクがあり,それらを勘案しながら併用することが望ましい (2D) 。 特に,抗コリン薬の認知機能障害は,患者の生活に大きな障害を与えることから,パー キンソン症状が改善した後は,緩徐な漸減中止を目指すべきである。具体的な漸減法とし て,トリヘキシフェニジルについては, 「1mg/2 週の速度での減量が可能」という二重盲検 試験が報告されている 39)。 (2)急性ジストニア 急性ジストニアは,若年男性に多く,通常投与 3 日以内に生じる不随意的で継続的な筋 収縮による異常姿勢や筋硬直である。眼球上転や頚部・躯幹の捻転が好発部位であるが, 疼痛を伴うこともあり,まれではあるが喉頭ジストニアなどは命に関わる場合もある 40, 41)。 約 80%は午後から夜にかけて起きやすい。服薬拒否の要因になることもある。 速やかな対処療法が必要となることが多く,対処療法として,抗コリン薬(ビペリデン やトリヘキシフェニジル) ,抗ヒスタミン薬(プロメタジン)が臨床的に用いられており, 弱く推奨とする 41)(2D) 。また,急速な回復を得るためには,抗コリン薬筋注薬も用いら 41),弱く推奨とする(2D) 。 れ 抗精神病薬の変更について,FGAs 服用により急性ジストニアを発症した既往のある 70 名の統合失調症患者をリスペリドン内服群とオランザピン内服群に 35 名ずつ分けて急性ジ ストニアの対処薬(抗コリン薬)併用症例数の割合を比較した二重盲検試験において,前 者は 14/35,後者は 4/35 であった 42)(D) 。またアリピプラゾール,オランザピンは,ハ ロペリドールに比較して,有意にジストニアの発症が少ないこと 43)(D)が,またクエチ アピンは,FGAs に比較して有意にジストニアの発症が少ないこと 44)(D)がメタ解析で示 されている。以上から,高力価 FGAs の投与により急性ジストニアを生じた場合は,アリ ピプラゾール,オランザピン,クエチアピンへの変更が望ましい(2D) 。 抗精神病薬の減量について,ハロペリドールについては,超高用量(35mg/日超)vs や や高用量(7.5 超〜15mg/日以下)の比較において 32),クロルプロマジンについては,低用 量(400mg 以下)vs 中等量(400 超〜800mg 以下),低用量 vs 高用量(800mg 超)にお いて,低用量で有意に急性ジストニアの発症が低いというメタ解析結果 33) が示された。以 上から,症状評価を慎重に行いながら,抗精神病薬を減量することも弱く推奨する(2D)。 (3)アカシジア アカシジアは, 「下肢のそわそわした動き」 「足踏み」「じっと座っていられない」などの 身体の落ち着きなさが特徴的な副作用であり,軽度の場合は,患者本人が制御することも 可能なことがある 45) 一方で,強い不安焦燥感を伴い,希死念慮,自殺企図,他害の誘因と なることにも注意が必要である 45-47)。 このような緊急性の高い場合は,薬物療法,精神療法,入院を含めた環境調整を考慮す る等,積極的な介入を行うことを推奨する(1D) 45)。CQ5−1「精神運動興奮状態に対し推 奨される薬物療法はどれか?」も参照のこと。 アカシジアは抗精神病薬の用量に依存して生じやすくなることが知られており 48)(D) 32, 34, ,アカシジア症状が軽度の場合は,患者側と十分に話し合った上で,内服している抗 精神病薬の減量を行うことを推奨する(1D) 。 119 名 の 若 年 発 症 統 合 失 調 症 に 対 し て 行 わ れ た 二 重 盲 検 試 験 か ら , FGAs ( molindone10-140mg /d ) よ り も SGAs( オ ラ ン ザ ピ ン 2.5-20mg/d, リ ス ペ リ ド ン 0.5-6m/d)がアカシジアの発症率が低いという結果が得られている 49) (C) 。 日本人 182 名に対しオランザピン群とハロペリドール群を薬原性錐体外路症状評価尺度 (DIEPSS : Drug-Induced Extrapyramidal Symptoms Scale)の平均変化量で比較した臨 床試験において,前者が後者に対して有意にアカシジアが少ないという結果を得た システマティックレビュー 50),メタ解析 51) 11)(C)。 においても,SGAs が FGAs よりもアカシ ジア発症が少ないことが示されている(C)が,この際の比較とした FGAs は高用量の高力価 薬のハロペリドールが用いられている試験が多いことに注意する必要がある 52)。 一方,慢性期統合失調症に対する FGAs の中力価薬であるペルフェナジンの中等量投与 (8−32mg/d)群(160 名)では,SGAs であるオランザピン群(174 名:7.5−30mg/d) , クエチアピン群(166:200-800mg/d),リスペリドン群(167:1.5-6mg/d)と比して,抗 パーキンソン病薬の併用率は高かったが,アカシジアの発症率に有意差はなかった 53)(D) 。 12 週までは用量のみ盲検化し,FGAs118 名(内スルピリド 813mg/d(200-2400)が 58 名と最多)と,SGAs(オランザピン 15(5-30)50 名,クエチアピン 450(200-750)23 名,リスペリドン 5(2-10)22 名他)でアカシジアの発症を比較した RCT において,FGAs 群では 8 名,SGAs 群では 4 名で,オッズ比は 0.4(95%信頼区間 0.1-1.6) ,p=0.18 と, SGAs が優れる傾向はあるものの,有意な差とはならなかった 54)(D) 。 以上の結果から,高力価高用量の FGAs が処方されている場合は SGAs への変更を推奨 する(1C) 。 また,SGAs への変更が何らかの理由によりできない場合は,中力価または 低力価 FGAs を用いるのが望ましい(2D) 。 抗コリン薬については,非常に小規模の二重盲検比較試験が 1 つあるが,結果もプラセ ボ筋注群と有意差はなく 55),むしろ,抗コリン薬による認知機能障害が指摘されている 56)。 β 遮断薬( プロプラノロール 80mg )についての有効性が報告されているが 57, 58),試験の 規模が非常に小さい(D)。また,48 時間以内には効果が現れず,抗コリン薬の併用としての み有効という報告もあり ず 60) 59) (D),3 つの RCT(N=51)の系統的レビューでも評価が一致せ (D) ,β 遮断薬による血圧降下や徐脈の副作用リスク(D)を勘案する必要がある。 クロナゼパムの有効性について2つの小規模の RCT で示され 61, 62) (D),抗うつ薬では, ミアンセリン 15mg 63)(D),ミルタザピン 15mg 64) (D), トラゾドン 100mg 65)(D) で,さらにシプロヘプタジン 58) (D),ビタミン B6 600mg 66) (D),1200mg 67) (D) で有効性が示されている。しかし,これらは,いずれも小規模の二重盲検プラセボ比較試 験における結果であること,本邦において適応外使用となることに注意が必要である。 以上から,抗コリン薬,β 遮断薬( プロプラノロール),クロナゼパム,ミアンセリン,ミ ルタザピン,トラゾドン,シプロヘプタジン,ビタミン B6 の併用はしないことが望ましい (2D) 。 (4)遅発性ジスキネジア 遅発性ジスキネジア(TD)は,多くは,抗精神病薬服用後,数か月してから生じる頚部・ 顔面・口周囲の多様な不随意運動(口すぼめ,舌の動き,口唇の動き)や,上下肢の不規 則な動きなどを指す。一度発症すると不可逆的な場合があり,治療方法も確立していない。 抗精神病薬の減量については,8 名という極めて小規模な試験でその効果が示唆された。 減量群 4 名では TD の発症がなかったのに対し,通常量群では 4 名中 2 名が発症した(D) 68)。しかし,Cohrane Review のメタ解析では,研究デザイン上の問題などもあり,有効性 は認められないと結論している(D) 69)。以上より,TD に対する抗精神病薬の減量の効果 については根拠がなく推奨しない(2D)。 TD 発症後の対処として,クロザピン,オランザピン,クエチアピンへの変更の効果が示 唆される。重症の TD を発症した 7 名を対象とした極めて小規模の非盲検試験において, クロザピンにより TD の改善を認めた 70)(D) 。 中等度以上の TD を発症している 92 名にオランザピンへの変更を行ったところ,8 か月 後には約 70%の被験者が TD の診断に該当しなくなった 71)(D) 。 クエチアピンについては,2 つの小規模試験で,TD への効果が示されている。TD 患者 45 名を,クエチアピン 400mg/日群 22 名とハロペリドール 8.5mg/日群 23 名に無作為割り 付けし,12 か月の単盲検試験を行ったところ,クエチアピン群で,有意に ESRS 評価尺度 の TD 評価スコアの改善が得られた 72)(D) 。 また,TD 患者に対するクエチアピン切り替え(13 名)と継続治療(9 名)を比較した小規模 試験でもクエチアピンによる TD 症状の軽減が示された 73)(D) 。 これらの結果から,TD を発症した場合,クロザピン,オランザピン,クエチアピンへの 変更により副作用軽減が図れる可能性があり,これらの薬剤への変更が望ましい(2D) 。 抗コリン薬減量によって 2 週間以内に TD の重症度が軽減したという小規模のプラセボ 対照二重盲検試験結果があり 74) (D),抗コリン薬が併用されている場合には,減量が望 ましい(2D) 。 Ginkgo biloba に関しては,78 名の実薬群と 79 名のプラセボ群で,AIMS(Abnormal Involuntary Movement Scale)全スコアの平均変化量を比較した RCT 75) において,有効 性を認めた(D)。piracetam に関しては,21 名の実薬群と 19 名のプラセボ群で, ESRS(Extrapyramidal Symptom Rating Scale )の遅発性ジスキネジアサブスケールの平 均変化量を比較した RCT 76) にて,有効性を認めた (D)。しかし両者とも,本邦で適応外と なり,併用しないことを推奨する(2D) 。 (5)遅発性ジストニア 抗精神病薬服用後数か月してから発症する,持続的,不随意的な筋緊張が生じ,姿勢や 動作の異常を指す。姿勢保持や意思に基づく円滑な動作ができなくなり,歩行を含めた日 常生活動作に非常な困難をきたすことがある。 7名 77) と5名 78) という非常に小規模なオープン試験でクロザピンへの変更の効果が示 されている(D)。クロザピンで生じやすい副作用,血液学的モニタリングなどのデメリッ ト等と勘案して導入を検討することが望ましい(2D) 。 B .錐体外路系副作用の予防 (1)薬剤性パーキンソン症状の予防 クロザピン 5, 6),オランザピン 7-13),クエチアピン 14-16),アリピプラゾール 17-19),ペロ スピロン 20),リスペリドン 21-25),ブロナンセリン 26),パリペリドン 27-29) はハロペリドー ルより EPS が少ない(A)という多くの知見があり,FGAs よりも SGAs を選択すること を推奨する(1A) 。 SGAs 間の比較については,抗パーキンソン病薬の併用率を直接比較した RCT を基にし たメタ解析結果 31) から,SGAs 間でも併用率に違いがあることが示されている(D) 。よっ て,薬剤性パーキンソン症状を生じやすい既往や基礎疾患が疑われる場合は,他の副作用 プロフィールも勘案した上で,SGAs の中から,クロザピン,クエチアピン,またはオラン ザピンから 1 剤を選択することが望ましい(2D) 。 (2)急性ジストニアの予防 1975 名を対象とした米国における 1997-2006 年までの後方視的コホート研究 79) では, SGAs 単剤治療群は FGAs 単剤治療群に比べて発症率のオッズ比が有意(OR = 0.12, 95% CI = 0.08 to 0.19)に低かった(C) 。 また精神科救急ユニットに入院した 1337 名を対象とした前向きコホート研究 80)で, 1337 名中 41 症例(3.1%)が急性ジストニアを発症した。FGAs(32/561) ,リスペリドン (4/495) ,オランザピン(1/95) ,クエチアピン(1/15),クロザピン(0/142)という結果 であり,SGAs は FGAs に比べて有意(p = 0.000)に発症が少なかった(C) 。これらの結果 から,予防としての抗精神病薬の選択については,SGAs を FGAs よりも推奨する(1C)。 抗コリン薬を予防的に投与した患者(9 試験,1366 名)の急性ジストニアの発症は 14.8% であり,高力価抗精神病薬を投与した患者(6 試験,330 名)では,51.2%であった 81)。 この結果より,抗コリン薬(ビペリデンやトリヘキシフェニジル) ,抗ヒスタミン薬(プ ロメタジン)が予防に有効であり(D),控えめな推奨とする(2D)。また,抗コリン薬予 防のために抗コリン薬を用いる場合は,治療開始数週間までの一時使用が望ましい 82) (2D) 。 (3)アカシジアの予防 A.(3)の項目で述べたような知見を基に,アカシジア発症の予防には,高力価高用量 の FGAs を避け,SGAs を選択する(1C) 。あるいは,SGAs が何らかの理由で選択できな い場合は,中力価または低力価 FGAs を用いるのが望ましい(2D) 。 SGAs 間の比較に関して,バーンズアカシジア尺度(Barnes Akathisia Scale: BAS)の 平均変化量をアウトカムとしたメタ解析 31) では,アリピプラゾール,クロザピン,オラン ザピン,クエチアピン,リスペリドンにおいて,アリピプラゾールとオランザピンの直接 比較(3 試験 n=1862 )で,BAS の平均変化量(Mean difference: MD)を比べると,後 者が前者よりアカシジアが少ないという結果となったが,その差は MD-0.1(0.01,0.19 p=0.04)と小さく,その他の SGAs 間の組み合わせでは,違いを認めなかった(B)。よっ て,SGAs 内での選択については,特定の薬剤の推奨はなしとする。 (4)遅発性ジスキネジアの予防 TD 発症の予防としては,SGAs が FGAs に比べて TD を起こしにくいことが示されてい 12, 83, 84)。 る 2.6 年間の RCT において 12),オランザピン(平均 13.5mg,1192 名)とハロペリドール (平均 13.9mg,522 名)を,AIMS スコアで比較したところ,1 年後の発症率は,前者で 0.52%(513 名) ,後者で 7.45%(114 名)であった。観察期間を通しての相対リスクは 11.37 (95%信頼区間=2.21−58.60)となった(C) 。 SGAs(オランザピン,クエチアピン,リスペリドン)と,FGAs(ハロペリドール)を 比較したオープンラベル前向き観察研究 83, 84) では,6 か月時点での TD の頻度が,SGAs: FGAs で,0.9%:3.8%,オッズ比 0.29,95%信頼区間[0.18, 0.46]と,SGAs で発症が低 かった(D) 。以上から,FGAs よりも SGAs を選択することを推奨する(1D) 。 ただし,1 年以上の RCT 24) において,リスペリドン(平均 4.9±1.9 mg,177 名)とハ ロペリドール(11.7±5.0 mg,188 名)を比較したところ,新たな TD の発症はリスペリド ン群で 1 名(0.6%),ハロペリドール群で 5 名(2.7%)とリスペリドンで好ましい結果で あったが有意差は認めなかった。 リスペリドンについては,6mg/日以下であれば,TD 症状を改善することがプラセボ対照 85), ハロペリドール 20mg/日対照 86) で示されており, 予防のためには,至適な用量設定が必要となることに注意すべきである。 (5)遅発性ジストニアの予防 遅発性ジストニアの予防効果について,抗精神病薬の選択,抗コリン薬併用,抗パーキ ンソン病薬併用のいずれを含む知見は得られなかった。最近の研究 87) では,FGAs を全く 投与されたことがなく,1 年以上 SGAs を服用している老年期以外の 80 名の統合失調症患 者について,横断的,後方視的に遅発性ジストニアの頻度を調査したところ,78 名中 11 名(14.1%)であった。一方,FGAs 投与による遅発性ジストニアの頻度について,日本人 を対照とした報告 88)では,716 名中 15 名(2.1%) ,オランダの入院患者 194 名(64.7%は FGAs デポ薬投与)中 26 名(13.4%)に遅発性ジストニアを認めた 89)。試験デザインの違 いにより直接比較はできないが,これらの知見を踏まえると,現在のところ,SGAs による 遅発性ジストニアの予防効果については明快な答えがないと考えられ,特定の薬剤の推奨 はなしとする。 文献 1)Hasan A, Falkai P, Wobrock T, et al. : World Federation of Societies of Biological Psychiatry (WFSBP) guidelines for biological treatment of schizophrenia, part 2 : update 2012 on the long-term treatment of schizophrenia and management of antipsychotic-induced side effects. 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CNS spectrums, 28 : 54-57, 2000 CQ5-8 抗精神病薬による体重増加に対して推奨される治療法はあるか? 推奨 精神症状悪化のリスクについて十分な配慮の上で,抗精神病薬を変更することが考えら れる。変薬と減量についてのエビデンスは以下であるが,変更は個々の症例について十分 に検討することを推奨する(1D) 。 ・オランザピンからリスペリドン,ペルフェナジン,アリピプラゾールへの変薬は体重増 加を抑制する(C) 。しかし,オランザピンが精神症状に効果を示している場合には,益と 害を勘案し,さらにそれまでの治療経過や抗精神病薬の使用歴について十分に考慮し,再 発・再燃の可能性について患者側と十分に話し合った上で変薬を決定する(2C) 。 ・オランザピンからクエチアピンへの変薬は,体重減少効果は認められない一方で,治療 継続率を悪化させる(C)ため,クエチアピンへの変薬は望ましくない(2C) 。 ・オランザピンを減量することは,体重増加を抑制する可能性は乏しい(D)ため望ましく ない(2D) 。 ・メトホルミンは,体重を減ずる効果が認められる(D)。しかし,本邦では添付文書上の 適応が制限されているため,推奨はなしとする(推奨なし,D) 。 ・ニザチジン(D),アマンタジン(D),アトモキセチン(D)は,体重を減ずる効果が認 められないため,使用しない方が望ましい(2D) 。 ・トピラマートは,体重を減ずる効果が認められる(D)が,精神運動制止,流涎,知覚異 常といった副作用も有意に出現する可能性がある(D)ため,使用しない方が望ましい(2C) 。 ・ゾニサミドは,体重を減ずる効果が認められる(D)が,認知機能障害といった重要な副 作用が出現する可能性がある(D)ため,使用しない方が望ましい(2D) 。 解説 体重増加は,抗精神病薬特に SGAs でしばしば経験する副作用の一つであり,代謝性障 害や心血管疾患などの危険因子となり,生命的な予後の悪化につながる可能性がある。ま た,その容姿への嫌悪感から,抗精神病薬へのアドヒアランスが低下し,精神症状の悪化 にもつながる可能性があり,精神症状の改善のためにも回避もしくは改善していくべき副 作用である 1) 。 病態生理としては,抗精神病薬のヒスタミン H1 受容体親和性やセロトニン 5HT2c 受容 体親和性との関連が指摘されている 2, 3) 。 さらに食事摂取制限不足や運動不足といった統 合失調症患者に特徴的なライフスタイルの要因も体重増加に影響している可能性が指摘さ れている 4) 。 初発精神病性障害(First Episode Psychosis)を対象としたメタ解析の結果,SGAs の方 が FGAs に比較して有意に体重増加が認められた 5) 。 また,2 つの FGAs(ハロペリドー ル,クロルプロマジン)と 13 の SGAs(クロザピン,amisulpride,オランザピン,リス ペリドン,パリペリドン,ゾテピン,クエチアピン,アリピプラゾール,sertindole, ziprasidone,asenapine,lurasidone,iloperidole)でのメタ解析の結果では,ハロペリド ール,ziprasidone,lurasidone を除いたすべての抗精神病薬がプラセボと比較して有意な 体重増加を示した。中でもオランザピンが最もリスクが高く,ゾテピン,クロザピン, iloperidole,クロルプロマジンを除いた他剤と比較しても有意な体重増加を示した 6) 。 a. 抗精神病薬の変薬と減量 薬物療法による副作用への対処としては,原因薬物を中止することが対処法となること は,すべての治療において同様である。しかし,統合失調症の薬物療法においては,服薬 中止が精神症状の悪化や,再発を引き起こす可能性があり,本ガイドラインでも服薬継続 を強く推奨している(第 3 章参照) 。したがって,抗精神病薬による副作用としての体重増 加に対する薬物療法として,精神症状悪化のリスクについて十分な配慮の上で,抗精神病 薬を変更することが考えられる。 体重増加に対する抗精神病薬の変薬による効果を調査した RCT は 4 報 7-10) あった。 Clinical Antipsychotic Trial of Intervention Effectiveness (CATIE)研究の二次的なデータ 解析 により 7) ,オランザピンから他剤(リスペリドン,クエチアピン,ペルフェナジン, ziprasidone)に変薬した群(n=224)は,オランザピン継続群(n=73)と比較して有意に 体重増加を抑制した。一方で,精神症状の変動に関しては両群間に有意差はなかった(C) 。 同様にリスペリドン,クエチアピンにおいても継続と他剤への変薬による体重変化を調べ ているが,いずれも継続群と変薬群の間に有意差はなかった(C) 。 オランザピン服用中の Body Mass Index(BMI)27 以上の者(n=173)を対象に,オラン ザピン継続とアリピプラゾール変薬で比較した研究 8) では,16 週後の体重はアリピプラゾ ール変薬の方が有意に減少した。一方で,精神症状改善度(CGI-I)は両群ともに悪化は認 められなかったが,オランザピン継続の方がより有意に改善した(C) 。以上よりオランザ ピンからリスペリドン,ペルフェナジン,アリピプラゾールへの変薬は体重増加を抑制す る(C)ことが期待されるが,オランザピンが精神症状に効果を示している場合には,益と 害を勘案し,さらにそれまでの治療経過や抗精神病薬の使用歴について十分に考慮し,再 発・再燃の可能性について患者側と十分に話し合った上で変薬を決定する(2C) 。 オランザピン服用中に BMI25 以上になった者(n=133)を対象にオランザピン継続とク エチアピン変薬を比較した研究 9) では,体重減少には有意差はなく,治療継続率について は,オランザピン継続の方が有意に高かった(C) 。 オランザピン服用中に体重 5kg 以上増加した者(n=149)を対象に,オランザピン経口 錠群とオランザピン口腔内崩壊錠群で比較した研究 認められなかった(C) 。 10) では,両群に有意な体重変化の差は 体重増加に対する抗精神病薬の減量の効果を直接に調査した RCT は抽出されなかった。 しかし,オランザピン処方量と体重変化を調査した研究(n=573)11) では,オランザピン のいずれの処方量(5±2.5mg/day, 10±2.5mg/day,15±2.5mg/day,>17.5mg/day)においても 体重増加を示し,各処方量間の有意差はなかった。この結果から,オランザピンを減量し たとしても体重増加に対して改善効果は期待されないことが予想される(D) 。 b. 薬物療法による介入 抗精神病薬による体重増加に対して,薬物療法による介入研究のうち,本邦で認可され ている薬物に限って評価した。 ビグアナイト系経口血糖降下薬であるメトホルミンによる介入研究は 11 報 そのうち 2 報 12, 18) 12-22) は対象群の特殊性から評価からは除外した。 Baptista らの 2 報 あった。 13, 14) は いずれもプラセボ群(N=2, n=55)と比較して,メトホルミン介入群(N=2, n=54)で体重, BMI の有意な変化はなかったが,残りの 7 報 15-17,19-22) はいずれもメトホルミン介入群 (N=7, n=287)の方がプラセボ群(N=7, n=290)より有意に体重減少もしくは増加を抑制 した。3 報 23-25) のメタ解析の結果は,いずれもメトホルミン介入群の方が有意な体重減少 を示した(D) 。また,精神症状の悪化も含めた有意な副作用も認められなかった(D) 。た だし,本邦での添付文書上の適応は, 「食事療法・運動療法又は加えて SU 類使用のいずれ かで十分な効果が得られない 2 型糖尿病」であり,本ガイドライン上では推奨はなしとし た。 ヒスタミン H2 受容体遮断薬であるニザチジンによる介入研究は 4 報 うち 1 報 28) 26-29) あった。その はニザチジン介入群(N=1, n=17)の方がプラセボ群(N=1, n=17)と比較して, 有意に体重減少させたが,3 報 26, 27, 29) はニザチジン介入群(N=3, n=108)とプラセボ群 (N=3, n=76)の間に有意差がなかった。2 報のメタ解析 24, 25) の結果でも有意差がなかっ た。以上よりニザチジンは使用しない方が望ましい(D) 。 抗パーキンソン薬であるアマタジンによる介入研究は 2 報 30, 31) オランザピン併用であるが,症例数が多く,観察期間の長い研究 30) あった。両研究とも同じ と 2 報のメタ解析 24, 25) の結果からは,アマンタジン介入群とプラセボ群の間に有意差はなかった。以上より,ア マンタジンは使用しない方が望ましい(D) 。 選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬であるアトモキセチンによる介入研究は 1 報 32) あった。アトモキセチン介入群(n=20)とプラセボ群(n=17)の間に有意差はなかった。 以上より,アトモキセチンは使用しない方が望ましい(D) 。 抗てんかん薬であるトピラマートによる介入研究は 3 報 33-35) あった。トピラマート介入 群(N=3,n=85)の方がプラセボ群(N=3, n=72)に比較して有意な体重減少を認めた。3 報 23-25) のメタ解析の結果でも同様にトピラマート介入群の方が有意な体重減少を認めた。 しかし,副作用として,精神運動制止,流涎,知覚異常がトピラマート介入群の方が有意 に多かったことから 33, 35) ,トピラマートは使用しない方が望ましい(D) 。 抗てんかん薬であるゾニサミドによる介入研究は 1 報 36) あった。ゾニサミド介入群 (n=11)は,プラセボ群(n=12)に比較して,有意に体重増加を抑制することができたが, 副作用として,認知機能障害も有意に多く認められた。副作用として認知機能障害が出現 したことを重視し,ゾニサミドは使用しないことが望ましい(D) 。 文献 1)Wirshing DA : Schizophrenia and obesity: impact of antipsychotic medications. 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