新EU関税法典のコスト影響

日本企業部門ニュースレター
チェコ
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各情報につき総合的な分析はされておりませ
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2016年2月
新 EU関税法典のコスト影響
新欧州連合関税法典(UCC)
2016年5月1日より、新たに欧州連合関税法典(UCC: Union Customs Code)が施行されます。UCC
が導入される背景・目的に、通関手続きの簡素化や合理化、通関業務の電子化があります。
UCC導入に伴い、移行手続きを定めた法律も発行されています。既存の関税法は、1992/1993年当
時、EU域内市場が創設された頃に導入された法制度です。当時は、通関手続き等は紙ベースでした
が、現在の経済環境、技術環境は大きく変貌を遂げ、電子的インフラ環境が整ってきています。他の
諸制度との整合性、加盟国間の通関手続きの調和、実務上の効率性を高める目的で、今回の新制度導
入につながりました。ICTフレームワークは、2020年12月末の完成を目標に継続審議され、整備され
る予定です。
主な改正点は以下の通りです:
• AEO(認可事業者)制度
• BTI(拘束的関税情報)
• 通関手続き、スキーム
• 関税評価額
など
新UCCにより、EUの通関・関税制度は幅広い点で改正されますが、本レターでは、チェコ現地法
人にとってコスト増の直接要因となりうる「関税評価プロセス」に関する改正点を二つ(ロイヤリ
ティの加算と、ファーストセール制度の廃止)を詳述したいと思います。
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2016年2月
新 EU関税法典のコスト影響
ロイヤリティの支払い
新UCCの施行に伴い、多くの日系現地法人がすでに負担しているロイヤリティやライセンス料が、広範囲に関税算定の対象となる
可能性があります。
現行法では、ロイヤリティやライセンス料の支払いは、輸入物品の「販売の条件」である場合に限り、関税評価額に算入すること
が求められます。逆に言えば、販売条件として定められていなければ、関税の課税対象には含められません。すでに、これらのコス
トが関税評価に加算されている場合もあるかと思いますが、改正法によって、その「販売条件」の対象が拡大されています。
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2016年2月
新 EU関税法典のコスト影響
改正後UCCの条項では、「ロイヤリティやラインセンス料を、
そのライセンサー(知的財産権の所有者)へ支払わなければ、対
象物品が販売されない、もしくは、買い手が購入することができ
ない」場合に、そのロイヤリティ等が関税の対象となります。
より一般的な定義となったことで、たとえ明確な取り決めが存
在しなくとも、事実上、上述の事態が生じていれば、ロイヤリ
ティ等(商標に関するロイヤリティも含む)は、関税評価額に加
算されることになります。結果、2016年5月1日以降、関税支払
い額が増加する可能性があります。
商標ロイヤリティ
商標に関するロイヤリティについては、現行法では例外規定が
存在し、一定の場合にだけ関税が課されている状態です。現状の
実務では、免税扱いのケースが多々見られますが、新UCCでは、
この例外規定が撤廃されるため、商標に関するロイヤリティも、
ロイヤリティ一般と同様の扱いとなり、関税計算の対象となって
くることが考えられます。
ファーストセール制度の廃止
改正後の関税評価額の算定原則として、「貨物が物理的にEU
域内に持ち込まれる「直前」の販売取引」における価格をその基
礎とすることと規定されています。これは、現状認められている
「ファーストセール制度」が廃止されることを意味しています。
日系企業の場合、商流上、他拠点のグループ会社(本社など)
を含めた取引スキームを構築することがしばしばあり、欧州域内
での通関申告時に、関税評価額の算定上、ファーストセール制度
を利用する会社があります。
従来、ロイヤリティ等の支払い額を、関税対象としてこなかっ
ファーストセール制度とは、最終取引に至る「前」段階で行わ
た輸入業者の方々は、これを機に、改めてご確認いただければと れたEU向けの取引(サプライチェーンの上流段階での取引)を
思います。現地で製造活動を行う日系企業にとって、関税申告時 課税価格の算定基礎とする制度です(次頁の図を参照)。
の評価額増に伴う関税コスト増加の要因となる可能性があります。 チェコの製造子会社のように、EU域内の輸入業者が、グルー
プのチェーン(連鎖)取引の後工程に位置付けられる場合、前段
の取引段階での販売価格が、いわゆるファーストセール価格とい
うことになります。
サプライチェーンのうちより低い取引価格を、関税申告に利用
することで、関税額を圧縮することができました。
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2016年2月
新 EU関税法典のコスト影響
今後、ファーストセール制度の廃止にともない、EUにおける取引価格の定義として、唯一、貨物がEU税関の管轄区域内に搬入さ
れる「直前」に行われた売上取引(ラストセール取引)だけが認められることになります。その結果、関税金額の計算上、もはやサ
プライチェーン上流の取引価格を適用することができなくなります。連鎖取引の中から、都合のよい取引価格を選択することが不可
能となり、課税価格の上昇ひいては関税額が増加する影響が生じます。
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2016年2月
新 EU関税法典のコスト影響
ただし、詳細ガイダンスが未だ発行されていないこともあり、
実務上、とくに連鎖取引の場合、どの取引がEUに持ち込まれる
際の「直前の取引」に該当するのか(該当するとみなされるの
か)が判然としない面もあります。
「直前の取引」が特定できない場合の例としては、保税倉庫や
他の関税スキームを適用する場合で、一時的保管状態にある物品
の販売取引が考えられます。この場合、EU税関の管轄区域に到
着後、税関で保留している間に行われた取引(域内での流通販売
が認可される前の取引など)が、関税評価の基礎になり得ます。
保税倉庫への搬入時の価格ではなく、保税倉庫からEU輸入業者
へ販売する際の取引価格(ラストセール価格)が関税評価額とな
ると考えられます。
まとめ
今回の新制度によって、貴社が支払うロイヤリティ(商標ロイ
ヤリティ含む)、ライセンス料、関税評価額の算定タイミング
(ファーストセール制度)や、保税等の通関・関税スキームの取
り扱い等が、2016年5月以降、大きく変わります。
まだ、対応策のご検討を開始されていない会社は、残された時
間も少なくなりましたので、関税側面のみならず、サプライ
チェーンの再構成、PE(恒久的施設)リスク、移転価格リスク
や欧州VATの課税義務等の要素もあわせて、速やかにリスク査定
を行われることをお勧めいたします。
当案件に関する詳細情報、その他ご関心事項などがございまし
現在、ファーストセール価格を適用している会社は、当面の間
たら、お気軽に山崎までご連絡ください。
(2017年12月末まで)、一定の条件を満たせば、経過措置により、
現状制度を継続適用することができます(サンセット条項)。た
だし、条件の達成確認や、文書化等が要求されますので、慎重な
山崎 俊幸
対応が求められます。
Senior Manager
Tel.: + 420 251 152 343
今回の取引価格に関する新定義が、物品の輸入時に、貴社の関
Email: [email protected]
税評価額の算定に影響を及ぼすものであるか否かを改めて検証す
べき時期を迎えていると思われます。特にファーストセール制度
を利用していることが確実な輸入者は、今後の関税評価プロセス
を、どのように構築すべきかを早急に決定する必要があります。
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