赤十字7原則と私 - 日本赤十字学園

赤十字7原則と私
日本赤十字豊田看護大学
濵 美砂
「白地に赤の十字」が表わす赤十字表彰を、私は小さいころから知っていた。それは
私の故郷、長野県諏訪市に建っている諏訪赤十字病院に掲げられた大きな赤十字の表彰
を見ていたからだ。湖畔に建つ大きな建物と夜になっても遠くから見えるようにと赤く
光っている十字の表彰はとても堂々とした雰囲気をもっていた。祖父や祖母が入院して
いたこともあり、度々病院に足を運ぶ機会があったが、自分が将来こうして赤十字の大
学で学ぶことになるとは考えていなかった。 私が看護の道へ進むきっかけは、中学3年生の時に母が乳がんになったことだ。中学
3年生の私の頭の中では、
「がん」という言葉は「死」という言葉につながっていた。 そ
れまで身近な人が大きな病気を患ったという経験がなく、初めて身近にできたがん患者
が母であったことへの大きなショックと悲しみでいっぱいになった。しかし、私は毎晩
隣で泣いている母にどう声をかけて良いのかわからなかった。 ある日、母はまだ中学生で医療の知識を何も持たない私に向かってこう言った。 「がんはどうしてできるの?」
「どうしてこういう薬を飲むの?」この質問に中学生の私
が答えられないことは当たり前だが、私は言葉にならないほどの悔しさを感じた。目の
前でとても大切な人が苦しんでいる、悲しんでいるのに、自分は何もできない。自分の
無力さを痛感した。この時、私は看護師になることを決意した。専門的な知識、技術を
身に着け、病気やけがに苦しむ多くの人の力になりたい、命を救いたいという思いを持
った。 看護師という将来の夢を持った私は、高校2年生の時に諏訪赤十字病院の一日看護体
験に参加した。病院内をひと通り見学した後、ある患者の足浴の援助をすることになっ
た。対象の患者は高齢の女性であった。私たち高校生が病室に入りあいさつをすると、
まるで自分の孫が会いに来てくれたかのような優しい笑顔で喜ばれた。病室から車椅子
に乗せて大きな窓から空が見える廊下に移動して足浴の準備をした。日々医療ドラマな
どを見て、忙しく走り回る看護師の仕事内容を想像していた私はこの時、
「こんなふうに
お湯でちょっと足を洗ったくらいで気持ちいいのか」
「足を洗うなど家族にもできそうな
ことを看護師がやるのか」と心の中で考えていた。過去にも2回看護体験に参加してい
たのだが、実際に患者のをするのは初めてのことで、看護師の方のアドバイスを受けな
がら、恐る恐る患者の足をお湯の中に入れ、優しく洗い始めた。すると、患者は満面の
笑みを浮かべながら「ああ~、とても気持ちがいい。あなたにやってもらえて本当に嬉
しいわ」と言った。その笑顔と言葉で、私の心は何か温かいもので満たされたような、
一瞬でパァッと明るくなったような気がした。未熟な自分でも、患者に喜んでもらえる
ような援助が出来たことがとてもうれしかった。
「看護師はとても大変な仕事だと聞くけ
れど、もっといろいろなことを学んで患者さんに喜んでほしい。もっとこういう笑顔が
見たい」と心から思えた瞬間だった。この看護体験を通して、患者の中にある看護師の
存在はとても大きいということ、また看護師の患者に対する話し方や接し方、処置の仕
方で患者の気持は大きく変わるというのを知ることが出来た。 そして日本赤十字豊田看護大学の存在を知った時、パンフレットを見て赤十字の7原
則である、人道・公平・中立・独立・奉仕・単一・世界性についても併せて知った。 初
めはこの原則がとても難しいように思えた。しかし、今この日本赤十字豊田看護大学で
学んでいて、自分の目指す看護師像に、この赤十字の7原則が自然と入っていたことに
気づいた。特にそう感じたのは7原則一つ目の人道だ。
「人間の生命と健康、尊厳を守る
ため、苦痛の予防と軽減に努める」私は母が乳がんになったという経験から、病気を発
症したあとの患者のケアを大切にしていきたいと考えた。それは精神面と身体面の両方
においてだ。乳がんになってから絶えず落ち込んでいる母を見て、精神面においても大
きな負担がかかっているとわかり、ここからまた何か別の苦しみが母を襲う可能性が考
えられた。そのため、病気発症前の苦痛の予防はもちろん、発症後の苦痛の予防が重要
であると考えた。 病気を発症した途端に患者自身とその家族は病気のことで頭がいっぱ
いになってしまうだろう。そんな時には、医療従事者の中で患者とその家族に接する時
間が一番長いと考えられる看護師が冷静になって、今後に起こりうる問題や苦痛を予測
し、その予防に努めるべきである。 また、一日看護体験の経験から、7原則のうちの奉仕に共感を持った。
「利益を求めず、
人を救うため、自発的に行動する」私は看護体験の足浴の援助において、看護師として
の仕事の一部、利益を得るためではなく、患者のために何かしたい、患者の気持を楽に
してあげたい一心で援助を行うことができた。その心は患者に必ず伝わり、治療への前
向きな姿勢や病状の回復にもつながるのではないかと考えられる。 私はこれから赤十字の大学であるこの日本赤十字豊田看護大学で学んでいくことにお
いても、看護師となり、働き始める時にも赤十字の7原則をこころに掲げて患者に接し
ていきたい。