フィンテックがもたらす金融・融資分野での価格破壊

リサーチ TODAY
2016 年 2 月 24 日
フィンテックがもたらす金融・融資分野での価格破壊
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
グローバルな金融業界で2015年、最も話題に上ったトピックの一つは「FinTech(フィンテック)」であろう。
FinTechとはFinance(金融)とTechnology(技術)からなる造語であり、最先端のIT技術を活用した新たな金
融サービスを意味する言葉である。具体的には、オンラインでの融資の仲介を行うプラットフォームや、スマ
ートフォンを用いたモバイル決済、家計・資産管理の自動化、コンピューター・プログラムによる資産運用ア
ドバイスなど、様々な分野で革新的な金融サービスが生み出されている。なかでもFinTechの中心的な存
在であるのが、融資と決済の分野である。FinTechを活用した融資は、既存の金融機関による融資に代替
するという意味で、オルタナティブ貸出と総称されているが、オルタナティブ貸出は融資方法によって大きく
2つに分類される。一つが事業者が自ら資金を調達して融資を行うバランスシート貸出であり、もう一方は、
自らの資金は用いずオンライン上で融資の仲介を行うマーケットプレイス貸出である。とりわけ、米国におい
ては、マーケットプレイス貸出による融資規模の拡大が大きく注目を集めている。みずほ総合研究所は、米
国におけるマーケットプレイス貸出に関するリポートを発表している1。図表は米国の主要なマーケットプレイ
ス・レンダーである、Lending ClubとProsperの融資額と融資シェアを示す。5年間で70倍を超える規模に成
長しており、非常に速いペースでの拡大が確認される。無担保消費者ローン全体に占めるシェアはまだ
2%半ばに過ぎないが、今後の拡大の余地は大きいだろう。
■図表:主要マーケットプレイス・レンダーの融資額と市場シェア推移
(10億ドル)
12
(%)
3.0
Prosper 融資額
Lending Club 融資額
10
2.5
市場シェア
(右目盛)
8
2.0
6
1.5
4
1.0
2
0.5
0
0.0
2010
2011
2012
2013
2014
2015
(年)
(注)2015 年の融資額は 1~9 月期の結果を年率換算。シェアは Lending Club と Prosper の融資額が無担保
消費者ローン市場に占める割合。
(資料)各社資料、Morgan Stanley、FRB よりみずほ総合研究所作成
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リサーチTODAY
2016 年 2 月 24 日
マーケットプレイス貸出を手掛ける事業者は、融資申請の可否をオンライン上で自動的に判断する。審
査では、一般的なクレジットスコアに加えて、信用履歴などの詳細な情報をもとにした各事業者独自の融資
判断アルゴリズムによる審査がおこなわれる。下記の図表は、米国で主に消費者ローンを行う3つのマーケ
ットプレイス・レンダーが使用する情報の一例を示したものである。一般的な信用情報に加え、行動データ
や学業データなど各社が独自の立場から幅広い情報を活用して融資判断をおこなっている。
■図表:主要マーケットプレイス・レンダーが融資審査に使用する情報
企業
Lending Club
Prosper
Upstart
独自アルゴリズムで使用される情報例
・クレジットカード利用率
・信用アカウント件数
・信用履歴の長さ
・ローン申請件数
・行動データ
・クレジットカード利用率
・信用アカウント件数
・信用情報の照会件数
・返済延滞履歴
・大学学業成績(GPA)
・大学進学適正試験(SAT)の点数
・学校名・専攻・卒業年
・雇用主・内定先企業名・職位
(注)クレジットカード利用率は未返済残高÷利用限度額。
Lending Club の行動データの内容は明確ではないが、Gow (2015)に Google 検索履歴への言及がある。
(資料)各社資料、報道等よりみずほ総合研究所作成
マーケットプレイス・レンダーの強みは、既存の金融機関に比べて圧倒的に低いコストにある。その要因
は、第一に物理的な店舗を持たないことで支店網や融資担当者を雇用するコストが節約できること。第二
に、厳しい金融規制が適用されず、規制対応コストを節約できる点にある。こうしたコスト競争力を背景に、
マーケットプレイス・レンダーは借手に対して低い融資金利を提供し、ローンの借換を促すことで既存の金
融機関の顧客を獲得してきた。
今日、欧州や日本ではマイナス金利が導入されることによって、貸出金利の低下が進む状況にある。最
後に残る金利を獲得できるフロンティアは消費者金融や中小企業向け貸出である。ただし、こうした分野を
コスト競争力でマーケットプレイス・レンダーが取り込んでいくことが予想され、既存の金融機関の収益が奪
われる可能性がある。また、マイナス金利になればなるほど、既存の金融機関では収益性が低下するため
オーバーヘッドコスト削減が急務になる。そのため、マイナス金利導入にともない、コスト競争の関係からも
既存の金融機関は、FinTechを利用してコスト削減を行い競争関係を強化しなければならない。同時に、既
存の金融機関自体がIT企業化するなか、金融サービスの価格破壊、金融のゲームチェンジに備える必要
が生じそうだ。
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服部直樹 「拡大するマーケットプレイス貸出」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 1 月 20 日)
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