Bertrand の仮説の強化バージョンの証明 風あざみ 2016/02/20 目次 1 記号の説明編 2 2 Bertrand の仮説の強化バージョンとは 2 3 証明の準備編 3 4 証明の準備編 (とくに二項係数に関するもの) 4 5 素数の個数の上限編 6 6 関数の増減編 6 7 Bertrand の仮説の強化バージョンの証明編 7 8 参考にしたサイト 9 1 1 記号の説明編 [x] を x を超えない最大の整数を意味する。 また整数 n と素数 p に対して、n が pl で割り切れ pl+1 で割り切れないとき l = vp (n) と書くことにする。 また、c < p ≤ d をみたす素数 p の積を以下のように書くことにする。 ∏ p c<p≤d log x は自然対数、e をその底とする。 π(n) を、n 以下の正の整数のうち、素数であるものの個数とする。 2 Bertrand の仮説の強化バージョンとは Bertrand の仮説の強化バージョンとは以下の命題である。 正の整数 n が n → ∞ となるとき、n < p ≤ 2n をみたす素数 p の個数 π(2n) − π(n) も π(2n) − π(n) → ∞ となる。 2 3 証明の準備編 命題1:x, y を実数とするとき、[x + y] − [x] − [y] = 0, 1 がいえる。 証明:[x + y] − [x] − [y] < (x + y) − (x − 1) − (y − 1) = 2 [x + y] − [x] − [y] > (x + y − 1) − x − y = −1 [x+y]−[x]−[y] は整数だから、[x+y]−[x]−[y] = 0, 1 となる。 □ 命題2:素数 p を任意にとる。 このとき、以下が言える。 vp (n!) = ∞ ∑ n [ i] p i=1 証明:1 以上 n 以下の整数で vp (m) = i となるものの個数 =(pi の倍数の個数-pi+1 の倍数の個数)・i より vp (n!) = ∞ ∑ ∞ i・([ i=1 ∑ n n n ] − [ i+1 ]) = [ i] i p p p i=1 □ 命題3:m を正の整数、p を素数とする。以下の不等式が成立する。 ∏ p < 4m m+1<p≤2m+1 証明:二項定理と整数の整除に関する基本性質を用いる。 ( ) 2m + 1 (2m + 1)! m + 1 < p ≤ 2m + 1 をみたす素数 p は = を m m!(m + 1)! ( ) 2m + 1 割り切るから、それらの積も を割り切る。よって m ( ) ( ) ( ) ∏ 2m + 1 2m + 1 2m + 1 p≤ がいえる。また 2 = m m m m+1<p≤2m+1 ( ) 2m+1 ( ) ∑ (2m + 1) 2m + 1 2m + 1 < = 22m+1 = 2 · 4m より、 < 4m m+1 i m i=0 ∏ がいえるから、 p < 4m がいえた。 □ + m+1<p≤2m+1 命題4:n を 2 以上の正の整数、p を素数とする。以下の不等式が成立する。 ∏ p < 4n 1<p≤n 3 証明:数学的帰納法を用いる。 ∏ n = 2 のとき p = 2, 42 = 16 だから正しい。 1<p≤2 k を 3 以上の整数とする。 ∏ 2 ≤ n < k のとき、 p < 4n が成立すると仮定する。 1<p≤n n = k のときを考える。 k が偶数のとき 明らかに k は合成数だから、 ∏ ∏ p= p < 4k−1 < 4k 1<p≤k 1<p≤k−1 k が奇数のとき 正の整数 m を用いて k = 2m + 1 とかける。よって、命題3より ∏ ∏ ∏ p= p· p < 4m+1 · 4m = 42m+1 = 4k 1<p≤k 1<p≤m+1 いずれにせよ、 ∏ m+1<p≤2m+1 p < 4k がいえる。 1<p≤k したがって、任意の 2 以上の正の整数 n に対して、 ∏ p < 4n が 1<p≤n 証明された。 4 □ 証明の準備編 (とくに二項係数に関するもの) 命題5:n を 2 以上の正の整数とすると、以下の不等式が成立する。 ( ) 2n 2n · > 4n n 証明:証明すべき不等式の左辺が 2 以上の数による 2n 個の積になることを 利用する。 ( ) 2n 2 3 4 5 2n − 2 2n − 1 2n 2n 2n · = · · · ··· · · · > 4n n 1 1 2 2 n−1 n−1 n n 命題6:n を正の整数、p を素数とする。すると ( ) ∞ ∑ 2n 2n n vp ( )= ([ i ] − 2[ i ]) n p p i=1 4 □ 証明:命題2より ( ) ∞ ∞ ∞ ∑ ∑ ∑ 2n 2n n 2n n vp ( )= [ i ]−2· [ i] = ([ i ] − 2[ i ]) n p p p p i=1 i=1 i=1 命題7:n を正の整数、p を素数とする。vp ( (2n) n □ ) = jp とおくと、pjp ≤ 2n が成り立つ。 n 証明:a = [logp 2n] とおく。i > a のとき、[ 2n pi ] = [ pi ] = 0 がいえる。 よって命題1と命題6より jp = a a ∞ ∑ ∑ ∑ 2n n 2n n ([ i ] − 2[ i ]) = ([ i ] − 2[ i ]) ≤ 1=a p p p p i=1 i=1 i=1 よって、pjp ≤ pa ≤ 2n がいえた。 以降、簡単のため、vp ( (2n) n □ ) = jp と書くことにする。 命題8:n を正の整数、p を素数とする。p > √ 2n となるとき、jp ≤ 1 が いえる。 n 証明:i ≥ 2 のとき、pi > 2n となるから、[ 2n pi ] = [ pi ] = 0 がいえる。 よって命題1と命題6より jp = ∞ ∑ 2n n 2n n ([ i ] − 2[ i ]) = [ ] − 2[ ] ≤ 1 p p p p i=1 □ 命題9:n を 3 以上の整数、p を素数とする。 2n 3 < p ≤ n となるとき、jp = 0 がいえる。 証明:p ≤ n < jp = vp ( 4n 3 < 2p ≤ 2n < 3p だから、vp ((2n)!) = 2, vp (n!) = 1 より (2n)! ) = vp ((2n)!) − 2vp (n!) = 2 − 2 = 0 n!n! □ 命題10:n を 2 以上の整数、p を素数とする。n < p ≤ 2n となるとき、 jp = 1 がいえる。 証明:n < p ≤ 2n < 2p だから、vp ((2n)!) = 1, vp (n!) = 0 より jp = vp ( (2n)! ) = vp ((2n)!) − 2vp (n!) = 1 − 0 = 1 n!n! 5 □ 5 素数の個数の上限編 命題11:任意の 15 以上の正の整数 n に対して、以下の不等式が成立する。 π(n) < n −1 2 証明:n ≥ 15 のとき、1, 9, 15 および、2 以外の偶数は素数ではないので、 n n n π(n) ≤ n − 1 − ([ ] − 1) − 1 − 1 < n − ( − 2) − 3 = − 1 2 2 2 だから正しい。 よって命題11はいえた。 6 □ 関数の増減編 命題12:x ≥ e のとき下記の関数は単調減少である。 f1 (x) = log x x 証明:f1 (x) を x で微分すると f1′ (x) = 1 − log x x2 x > e のとき明らかに f1′ (x) < 0 である。このことは f1 (x) が x ≥ e のとき、 単調減少であることを示している。 □ 命題13:n ≥ 7 のとき、下記の関数 f2 (n) は単調増加である (ただし、n は 2 以上の整数である)。 √ f2 (n) = n log n 証明:f2 (n) を変形すると f2 (n) = √ 1 n √ = √ 2 log n 2f1 ( n) 命題12より、n > e2 = 7.3890 · · · のとき f2 (n) は増加関数であることがわ かる。よって f2 (7) = 1.3596 · · · < f2 (8) = 1.3601 · · · < · · · < f2 (n) < · · · 以上より、命題13はいえた。 □ 6 7 Bertrand の仮説の強化バージョンの証明編 定理14:n を 128 以上の正の整数とすると、以下の不等式が成立する。 ∏ p>2 2n 3 · (2n) − √ 2n 2 n<p≤2n 証明:p を素数とすると、命題10より ( ) ∏ ∏ ∏ 2n = pjp = pjp · n √ √ 1<p≤2n 1<p≤ 2n pjp · ∏ p (1) n<p≤2n 2n<p≤n √ [ 2n] ≥ 16 だから、命題7と命題11より √ √ √ ∏ ∏ [ 2n] 2n pjp ≤ 2n ≤ (2n)π([ 2n]) < (2n) 2 −1 ≤ (2n) 2 −1 (2) [ 2n 3 ] ≥ 85 だから、命題4と命題8と命題9より ∏ ∏ ∏ 2n 2n pjp ≤ p < 4[ 3 ] ≤ 4 3 p≤ (3) √ 1<p≤ 2n √ 1<p≤[ 2n] √ 2n<p≤n √ 2n≤p≤[ 2n 3 ] 1<p≤[ 2n 3 ] 式 (1)、式 (2)、式 (3) より ( ) √ 2n 2n 2n < (2n) 2 −1 · 4 3 n n ≥ 128 だから、命題5より 22n = 4n < 2n · = (2n) √ 2n 2 よって、 ·2 4n 3 ∏ ∏ p (4) n<p≤2n ( ) √ ∏ 2n 2n 2n < (2n) 2 · 4 3 · p n n<p≤2n ∏ · p n<p≤2n p>2 2n 3 · (2n) − √ 2n 2 がいえる。 n<p≤2n 以上より、定理14がいえた。 □ 定理15:n を 128 以上の正の整数とすると、以下の不等式が成立する。 π(2n) − π(n) > 7 log 2 n · 48 log n 証明:定理14の不等式より以下が言える。 √ √ ∏ − 2n 2n 2n 2n log p > log (2 3 · (2n) 2 ) = log 2 − · log 2n 3 2 n<p≤2n √ √ √ 2n log 2n 2n = log 2 − 2n · log 2n = (log 2 − 3 √ ) 3 3 2n 7 命題12より n ≥ e2 2 √ = 3.6945 · · · のとき、 log√2n2n は単調減少だから、 √ √ log 2n log 256 log 2 log 2 log 2 − 3 √ ≥ log 2 − 3 √ = log 2 − 3 = 4 4 2n 256 よって以下の不等式が言える。 ∏ log p> n<p≤2n 2n log 2 log 2 · = n 3 4 6 (5) 一方で ∏ log p < log n<p≤2n ∏ 2n = (π(2n) − π(n)) log 2n n<p≤2n ここで、n ≥ 128 より、log n ≥ log 128 = 7 log 2 がいえるから、log 2n = log n + log 2 ≤ log n + log ∏ n<p≤2n 1 7 log n = 8 7 log n がいえる。よって 8 p < (π(2n) − π(n)) log 2n ≤ (π(2n) − π(n)) log n 7 (6) 式 (5) と式 (6) より以下が言える。 π(2n) − π(n) > log 2 7 n 7 log 2 n · · = · 6 8 log n 48 log n 以上より、定理15がいえた。 □ 命題16:7 以上の整数 n が n → ∞ となるとき n log n → ∞ となる。 証明: logn n を変形すると √ n n √ = · nである。 log n log n √ √ n √ 7 √ 命題13より、 · n≥ · nがいえる。 log n log 7 √ 7 √ · n → ∞ となる。 n → ∞ となるとき、明らかに log 7 n よって n → ∞ となるとき、 → ∞ となることがいえる。 log n 以上より命題16はいえた。 □ 命題16より、n → ∞ となるとき、 logn n → ∞ となることがいえるから、定 理15より、n → ∞ となるとき、π(2n) − π(n) → ∞ となることがいえた。 8 8 参考にしたサイト http://www.renyi.hu/~p_erdos/1932-01.pdf 9
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