オートマタ教材の開発

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オートマタ教材の開発
松永, 泰弘; 中田, 康太郎
技を媒介とした学びに熱中する子どもの育成プログラム ;
2012. p. 31-36
2012-03-31
http://hdl.handle.net/10297/7202
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オ ー トマ タ教材の開発
技術教 育講座
松永泰弘
中 田康 太 郎
¬.は じめ に
平成 24年 度 よ り完 全実施 となる新学習指導要領
1)よ
り、技術 ・ 家庭科技術分野 ではエ ネ
ル ギー 変換 に 関す る技術 の学習 が必修 とな つ た。 また 、技術分野 の 目標 に新 たに 「評価 」
とい う文言 を取 り入れ 、技術 を適切 に評価 で きる能力 を身 につ ける こ とを求 め られ るよ う
にな った。 くわ えて 、機器 の使用方法 は理 解 して い るが動 作原理 は理 解 で きない 、 い わ ゆ
るブ ラックボ ックス化 の 問題 が取 り上 げ られ て い る。
そ こで 、本研 究 では動力伝達機構 を利用 したオ ー トマ タ教材 の製作 を取 り上 げる。教科
書等 に挙げ られ る動力伝達機構 は 、 18世 紀頃 に開発 され 、電子制御 が主流 とな った現代 も
変 わ らず に使用 され 続 ける技術 である。著者 らは、オ ー トマ タの教材 で使用 され る機構 の
検討 、授業計画 を作成す る とともに、子 どもた ちが製作 を通 じて動力伝達機構 を学び、 自
分 が 考 える動 きを追求 0試 行錯誤す る ことがで きるオー トマ タ教材 の 開発 を行 つ た。 さら
に、動力源 としてゼ ンマ イや風力 、磁 力、重力 、熱 を用 い た教材 を提示 す る ことで 、生 徒
の選択肢 を広 げ、 自ら設計・ 試行錯誤す るエ ネ ル ギー変換教材 としての有効性 を高める。
学 生 に とって は 、 これ まで 開発 して きた教材 を改良 し、 これ を用 い た 自ら授業 を行 い 、
問題 点 を検討す る ことで 、教材 開発能力、教育力、解析 力 の育成 につ なが る。
2.オ ー
トマ タ
オー トマ タ とは、 い わ ゆる西洋 か らくり人形 であ り、 18世 紀後半 のル ネサ ンス期 か ら 19
世紀 の産業革命 まで を中心 に欧米で盛 んに製作 され た娯楽用 の玩具 であ る。 当時は、時計
の技術 を応用 した精密 な金属部 品によ つて動作 してお り、動力源 としてはゼ ンマ イが用 い
られた
(図
1)。
現在 、 オー トマ タ として作 られ て い るものの主流 は、当時 とは異な り、 ほ
ぼす べ ての部品 を木 材 で製作 してお り、内部 の機構 の動作 を観 察 で きる こ とも含 め 、1つ
の作品 として楽 しまれて い る。
翼
図
1
オ ー トマ タ a
-31-
3
授 業計 画
提案する授業計画 を表 1に 示す。なお、「② おもちゃの仕組みを調べ よ う」は、動作伝
達機構を利用 したおもちゃを分解 し、動作原理を調べ、動作伝ヨ機構を体験的に学習する。
「③補助教材の製作 十myオ ー トマタの構想」は補助教材の製作 を通 じて、機構 に対する理
解 を深めると共に本教材である 町 オー トマ タの構想を練 る。その後、「④ myオ ー トマタの
製作」において、複数 の機構を組み合わせた myオ ー トマタを製作す る。
表
1
授業計画
授業 内容
②
オー トマ タについて (導 入)
お もちやの仕組 み を調 べ よ う
2
③
補助教材 の製作 +myオ ー トマ タ の構想
8
④
myオ ー トマ タの製作
⑤
製作のま とめ
1
⑥
オー トマ タ鑑 賞会
1
①
1
0乙
4
時間数
補助教材
本研究 では、事前 に機構 を学習す るために、補助教材の製作 を取 り入れることとした。
平成 18年 度静岡大学付属静岡中学校 での実践事例 では、本教材の製作 のみを行い、生徒 が
め
疑問や悩み を抱いた際には、生徒同士で議論 し合 う機会 「お悩み相談会Jを 設けた 。本授
業計画 では、事前 に生徒が数種類 の補助教材 を分担 して製作す ることで、動作伝達機構 に
関す るより専門的な知識 の定着を図る とともに、得た知識 を互いに助け合 いなが らmyオ ー
トマ タ (本 教材)の 製作活動 を行 う。製作す る教材は、カ ム・ 歯車・ 4節 リンク機構 のい
ずれ かを用いた補助教材 とし、外箱 。人形等については設計図を配布 し、 3種 類 の内 1つ
点
を製作す る。 なお、各補助教材 には本教材製作に向けた追求点を設 け、必ず生徒 が課題′
と解決方法を考え、のちに発表す ることで知識 の共有化 を行 う。
4-1カ ム を用 いた補助教材
図
2に カムを用いた補助教材を示す。 カム とは特殊な輪郭を持 つた原動節 を回転 させ る
ことによつて、従動節 に周期的な運動をさせ る伝童機構 である。
この教材はカ ム機構 を使用 し、用途 に応 じて変位 量を生徒 自身 が決定 し、カム変位線図
に基づいてカ ムを設計す る。加 えて、従動節 が設計通 りに正確 かつスムーズに動 くために
はどのよ うな手立て を打てばいいのか を追及す る。製作 の際、カム変位線図 と基礎 円を事
前 に記入 したワー クシー トを用いて作図を行 う。
カムを正確 かつスムーズに動作 させ るために考 えられ る追求点は以下の通 りとなる。
-32-
追求点 】カムがスムーズに動作す るためには
【
0糸 のこ盤で切 り出 したカムの形状 が緩や かな曲線ではなく、角 が あると従動節 の先 が
引つかかつてスムーズに動作 しなくなるので、紙やす りを用 いて必ず面取 りを行 う。
・各点を結ぶ際には、なめらかな曲線 を描 く。
追求点 】カムが正確 に動作す るためには
【
・変位線図 どお りに従動説 を正確 に動かすためには、従動節 の先を面取 りして滑 らかな
球状にす る
図 2 カムを用いた補助教材
図 3 カム変位線図
4-2
歯車 を用 いた 補 助教材
図 4に 歯車 を用 い た補助教材 を示す。 この教材 は生徒 が歯車 の設計方法 を理解 し、 自ら
歯車 を設計 ・動作 させ る こ とができる。加 えて歯数 の違 い による速度伝達比 につい て理解
で きる こ とを 目的 とす る。 なお 、今 回は ピンを用 い たか さ歯車 を使用す る。
本教材 では全 員 同 じ歯数 で設計 を行 い 、歯車 の設計方法 につい て理 解 した後、 も う 1つ
の歯車は各 自設計す る。 生徒 が 2つ の歯車 が 滑 らかに動 く位置 関係 につい て考 える。
生徒 の追求 】傘歯車 を動作 させ るためには
【
・ 2つ の歯車 の 2軸 が一 直線 上 にある こと。
・ ピンを用 い た傘歯車 の位置関係 につい ては、 ピン接触時 に片方 の ピンの歯先 が 、 も う
片方 の ピンの ピ ッチ 円 よ り内側 に入 る と不 具合 が発 生 し動作 しな くなる。 よつて 、接
触時には歯先 とピ ッチ 円の 高 さが一致 して い る状態が最適 である。
-33-
ヽ
(a)製 作物
図
(」 W―
CAD)
図 5 て こ・ クラ ンク機構 を用 いた補助教材
図 4 かさ歯車を用 いた補助教材
4-3 4節
(b)組 み立て図
リンク機 構 を用 いた 補 助教 材
5に 4節 リン ク機構 を使用 した補助教材 を示す。 この教材 は、生徒 自身 が各 リン クの
・
長 さを決定 し、 て こ・ クラ ン ク機構 を動作 させ る こ と、 生 徒 自身 が設計 を通 じて 、 て こ
クラ ンク機構 を設計す る際 の法則性 を発見 できる ことを 目標 とす る。
4節 リンク機構 は、それぞれ の動作 は、公式 を満 たす ことによつて成 り立って い る。て こ・
クラ ン ク機構 は最 短 リンクの 隣 (両 隣 どち らで も可 )の リン クを 固定 し、最 短 リン クをク
ラ ン ク とす る こ とで動作す る。 なお、 上 の条件 を満 た し、最 短 リンク を固定 して い る場合
には両 クラ ン ク機構 、最 短 リン ク と対面す る リンクをな く した場合 、往復 ス ライ ダ・ クラ
ン ク機構 となる。
設計 の際、 まず は生 徒 に上死点 ・ 下 死点 について生徒 に説 明す る。 そ の後 、 田宮模型 の
ユニバ ー サル プ レー ト、ユ ニバ ー サ ル アー ム等 を用 いて 、各 リン クの長 さを変化 させ 、 て
こ・ クラ ンク機構 として動作す る長 さの条件 を確 かめる。
生徒 の追求】てこ・ クランク機構 の設計
【
・三角形 の性質、上死点、下死点か ら、条件 を定式化す ることがで きる
・ クランクを最短 リンクとす る
5.動 力 源 を 追 求 す る提 示 用 教 材 と本 教 材
本教材 は前述 した よ うにエ ネ ル ギー 変換 教材 として の役割 を担 つて い る。 そ こで 、動 力
源 としてゼ ンマ イや風力、磁力 (図 6、 7)を 用 い た り、本研究 室で製作 した重力 を利用 し
た木製機械 式時計 に組み込んだ り
(図 8)、
温度差 による形状記憶合 金 の形状回復力 を利用
す る (図 9)こ とな どに よつて 、エ ネル ギー変換教材 として の有効性 が よ り高まる と考 える。
なお、動力源 につい ては本教材製作 の際 に生徒 が 自由 に選択 できるよ うにす る。
本教材 では 、補助教材 に利用 され て い る機構 を利用 して製作 を行 う。 なお、 自分 が製作
して気 づい た点 のみ な らず 、 クラス メイ トの気 がつい た点 も共有 して理 解 した上で 、製作
を進 めて い くこ とが大切 である。
-34-
,「
図 6 風力を動力源 としたオー トマタ
図
7
磁 力 を利用 したオー トマ タ
図 9 形状記憶合金の形状回復力を
図 8 重力を動力源とした
オー トマタ
動 力源 と したオー トマ タ
図 10 筆者の製作 したオー トマタ
6.製 作
した 教 材 に 対 す る子 ど も た ち の 反 応
2011年 10月 29日 030日 に ツイ ンメ ッセ 静岡 で 開催 され た WAZAフ ェス タの ものづ くり
「中
教 室 の会場 にお い て 、製作 した教材 の展示 を行 つた。小学生以下 の子 ども達であ つたが 、
「少 し回 したのに、人形 がた くさん 回 つた (歯 車 の速度伝達比 の気 づ き)」
の仕組み が面 白い」
「カ ムの形状 によって 、上の人形 の動 きが違 う」「このお もちゃを作 つてみた い」 な どの感
想 が 聞 かれ 、遊 びなが ら内部 の機構 につい て学 んでい る とともに 、創 作意欲 をか きたて る
作品 であるとい うことがわかつた。
-35-
電
図
11 展示 の様子
7.ま
(お
ヽ ︶
図 12 遊んでみた子 どもたちの感想
ヽ/
‐3
。 lt総 なド レ ■
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相
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蛸
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四
碑
・
も しろか つたこと)
とめ
本研究 では 、 中学校技術家庭科技 術分野 の教材 としてオ ー トマ タを製作す る過程 にお い
て 、生 徒 が学 ぶ 内容 を検討 した うえで 、必要 とな る教材 の 開発 を行 つた。補助教材 の 開発
にお いて は、生徒 が 自分 で設計す る箇所 を設 ける こ とで、体験的 に動 作伝達機構
(カ
ム・
歯車 ・ リン ク機構 )に つい て学 べ るよ うに した。 また、 ピン を用 い たか さ歯車 の製作 を試
行錯誤 し、実際 に実用化 で きる程度 まで精度 を高 める ことがで きた。 開発 した 3つ の補助
"で あるが 、小学
教材 につい ては 、中学 生 に とつて は “作 りな が ら学 ぶ ことがで きる作 品
遊 びなが ら学 べ る作 品"で ある こ とが 、作 品 の展示 を通 じ
生 以下 の子 どもたちに とつて “
て分 か つた。 中学 生が 「小 さな子 どもたちに遊 んで も ら う」 とい うテ ー マ で製作す る こと
作 りなが ら学
で 、 目的 が 明確 とな り、 よ リー層 の価値 を持 つ 教材 とな ると考 える。今後、 “
ぶ "“ 遊びなが ら学ぶ "の 2点 を意識 して 、開発 ・ 実践 を進 めて い く必要 がある。
本研 究 の一 部 は 、平成 23年 度科学研 究費補助 金 (課 題番号 :21500869)の 援助 に よる。
参考文献
1)文 部科学省 :中 学校学習指導要領解 説 (2008)
2)開 隆 堂 :技 術 ・家庭 (技 術分野)(2008)
3)技 術 ・ 家庭科 の ま とめ
http://wwwo shizuchu.edo shizuoka.ac.jp/kenkyu/kenkyu/jirei18/gika18。
2011.11.2)
-36-
PDF(参 照
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