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高分解能共鳴非弾性軟 X 線散乱による CrO2 の磁場中電子構造観測
Electric Structure of CrO2 Probed by High-Resolution Soft-X-ray Resonant Inelastic X-ray Scattering
in Magnetic Field
藤原秀紀(大阪大学 基礎工学研究科)
Hidenori Fujiwara (Grad. Sch. of Eng. Sci. Osaka Univ.)
CrO2 はスピン偏極率 100%のハーフメタル強磁性体として知られており[1]、スピン注
入源等のスピントロニクス材料として注目を集めている。しかしながら、表面の化学量
論的安定性が不十分で、すぐに反強磁性絶縁体 Cr2O3 で覆われることが知られてい
る。このため、バルク敏感性の高い硬 X 線光電子分光[2]を用いてさえも CrO2 の電子
状態を完全に解明できたとは言えず、電子構造の決定には困難が伴う。本研究では
表面 Cr2O3 層に埋もれた CrO2 のスピン偏極電子状態を解明する為、共鳴非弾性軟 X
線散乱(RIXS)による磁場中電子状態観測を行った。
実験は SPring-8 BL07LSU 超高分解能軟X線発光分光ステーション[3]において行い、
0.25 T の磁場を容易磁化方向に印加し、室温にてエネルギー分解能約 200 meV で測
定した。図(a)に Cr L3 吸収端の励起エネルギー(hin = 576.9 eV)において磁場中で得
られた RIXS スペクトルを示す。CrO2 由来の励起構造 A [4]において明瞭な円偏光依
存性を観測した。また、左右円偏光で得られたスペクトルの差分(IRCP-ILCP )は、磁場
の反転に伴い符号が反転することを見いだした(図(b))。これらの差分スペクトルは
0.7 eV 付近にピークを持つ一方で、弾性散乱ピークの近傍では抑制される。この結果
はフェルミ準位近傍のスピン偏極状態が主に O 2p 軌道に由来し、Cr 3d 電子は主に
局在スピンの役割を担うという理論的予測[5]と矛盾しない。
[1] K. Schwarz, J. Phys. F: Met. Phys. 16, L211 (1986).
[2] M. Sperlich, et al., Phys. Rev. B 87, 235138 (2013).
[3] Y. Harada et al., Rev. Sci. Instrum. 83, 013116 (2012).
[4] 藤原秀紀 他、日本物理学会 2015 年秋季大会 16pCE-1.
[5] M. A. Korotin et al., Phys. Rev. Lett. 80, 4305 (1998).
図( a) (b) CrO2 の磁場中 RIXS スペクトルの円偏光依存性、および磁場印加方向依存性。挿入図に
実験配置を示す。ILCP 、IRCP は左右円偏光で得られた RIXS スペクトル強度を示し、それらの和、およ
び差分スペクトルも併せて示す。