SURE: Shizuoka University REpository http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/ Title Author(s) Citation Issue Date URL Version 産学連携による2足受動歩行玩具『トコロボ』の開発 松永, 泰弘; 鬼木, 大; 河村, 翔太; 関野, 照夫; 間, 健太郎 技を媒介とした学びに熱中する子どもの育成プログラム ; 2012. p. 61-70 2012-03-31 http://hdl.handle.net/10297/7207 publisher Rights This document is downloaded at: 2016-02-25T11:58:33Z 産学連携 による 2足 受動歩行玩具『 トコロボ』 の 開発 技術教育講座 松永泰 弘 SEKINOKIGATA 関 野 照 夫 鬼木 大 河村翔太 Planet Planter 間 健太郎 1.は じめ に 学習指導要領 の改訂 により、小学校生活科 Dで は、中学年以降の理科 の学習を視野に入れ て、児童 が 自然 の不思議 さや面 白さを実感す るよ う、遊 びを工夫 した り遊びに使 うもの を 工夫 して作 つた りする学習活動を充実す るとしてい る。 また近年、子 どもたちが実際 にものをつ くる とい う経験 が減少 しているとの指摘 もある。 「ものづ くり離れ」 は、幼少期 か ら身 のまわ りに完成 されたモ ノが豊 富 にあることや便利 な道具に囲まれ ることで、製 品の仕組みや機構 についての興味 を失 い、物事 に対す る創意 工夫や好奇心が希薄にな り、理論的な思考や手先を使 つた技術力が低下す る。 しか し、 自らが主体的に関わることのできる玩具 を使 つて遊ぶ ことで、途 中で発 生す る 不具合を見つ け、試行錯誤 を繰 り返 しなが ら修理 した り改良 した りす る機会に出会 うこ と がで き、科学的探究心を醸成するとともに、ものづ くりへ の関心を高 めることがで きる。 本研究では、人間の進化 を大きく左右 した 2足 歩行 について、遊 んで学べ る受動歩行玩 具『 トコロボ』 の開発 を地域企業 と協力 して行 う。 学生にとつては、地域企 業 と連携協力 した商 品開発 を行 うこ とにより、企 業 の要求や消 費者 のニーズを学び、商品開発力、教材開発力を身につ け、キャリア教育 につ ながる。 2.2足 受動 歩 行 玩 具 『 トコ ロボ』 本研究で開発 した受動歩行 を用 いた玩具『 トコロボ』 は、単純な構造 であ りなが ら動 く 楽 しさを実感 で き、振 り子運動や てこの原 理 、位置エネル ギー な どを感 覚的 に学ぶ こ とが で き、 2足 歩行 について考 える要素を含 んでい る。 また、歩行 のために紙ヤ ス リを使 い 自 ら試行錯誤 して調整す る作業 が必要であることか ら、子 どもたちの科学的探究心を醸成 し、 ものづ くりへの関心を高 めることができる。 (b)脚 部 (a)構 成部品 図 1 『 トコロボ』 -61- (c)全 体 図 脚部 と足 に木 材 、胴 体 に市 販 のボ トル ガ ムの プ ラス チ ック製 ケ ース を用 い る こ とで 、 工・ 調 整 を容 易 に した 〈 図 1)。 [材 料 ]月 同体 :ボ トルガムの ケース (今 回使用 したのは LOTTE製 ) 脚部 (図 2(a),(b)):木 材 (ヒ ノキ) 足 (図 2(c)):木 材 (ヒ ノキ) そ の他 :シ ャ フ ト、 スペ ー サ (2個 )、 ワ ッシ ャー (2個 ) [工 具・ 工作機械 ]カ ッター ナイ フ、 ボール 盤 、小刀 、紙 ヤ ス リ [製 作手順 ] 1)ガ ムケ ースの底 をカ ッター ナイ フで切 り抜 き、 ボール盤 で軸穴 をあける 2)脚 部 と足 を製 作す る。 3)組 立て 4)足 裏 の微調整 (a)脚 部① (b) 脚部② (c)足 図2 トコロボ部品図 図 3 胴体穴開 け位置 と脚足部取 り付 け -62- (図 3)。 3.『 トコ ロボ』 開発会議 トコロボの開発 にあた り、Planet Planterと 関野木型製作所、小林製作所 との共同で開 発会議 を 2010年 12月 か ら 2011年 12月 まで毎月 1回 開催 した (図 4)。 会議 では主 に トコ ロボ を用 い た歩行 実験 によ り得 られ た結果 を、歩行 の安定性 を向上 さ せ るための参考資料 として報告 した。 図 4 開発会議の様子 3-1 歩行原理 の検討 トコロボは足の裏 に緩や かな傾斜 がつ け られてい る (球 面 に近 い)た め、坂道 にお くと 重力によって前後、左右方向へ の揺れ を生 じる。脚 足部は胴体 と回転軸 で固定 されてい る ため、脚足部 の振 り出 し動作 がなされ 、 これ を左右交互に繰 り返す こ とで坂道 を歩行 しな が ら下つてい く。歩行動作は以下の とお りである。 ① 胴体が傾 くこ とで、反対側 の脚 が坂か ら離れ、浮 いた脚 (遊 脚)が 前 に振 り出される ② 全体 の重心が前方に移動 し、坂 についてい る脚 (接 地脚)を 使 つて前へ進む ③ 接地脚 がつ ま先まで接地すると同時に遊脚 だつた脚 のかか とが接地す る ④ ① と反対側 に胴 体が傾 き、① と左右逆 の動作が行 われ る ① ∼④ の動作を左右交互に繰 り返す (図 5)。 斜面 を歩行す ることで、重心の高 さの変化 に相 当する位置エネル ギーが供給 され 、揺動運動 が減衰す ることなく繰 り返 され る。 T^ F‐ 1』 「 歩行動作 -63- 3-2 歩行時 の消費 エ ネルギーの検討 歩行 の消費エネルギー を、単位質量 の物体 (人 もしくは歩行模型)が 単位距離 を歩行す るのに必要なエネルギーで定義 し、受動歩行模型 に対 しては、距離 を水平面に投影 した距 離 で定義す る。 したがつて、歩行時の消費エネルギー ηは、斜面 の角度 θと重力加速度 g を用い E=型 些=g ″・ S tan θ となる。 ここで、 は歩行模型 の質量、″は斜面の高 さ、sは 水平面の移動距離である。本 “ 研究 で用 いた斜面の角度 θ=8° はであるので、消費エネルギー は η=138J/た g“ となる。 木材 の動摩擦係数 μ=030を 用い ると、斜面 を滑 らせ る、もしくは水平面 を引きず るとき の消費エネルギー は E■ μ=294J/嫁 吻 となる。 また、人間の平地歩行 における消費エネ ルギーは υ E=419x103[。_03+00035 (ffi→ 句 (2) で与 え られ る。 ここで 、ッは歩行速度 レ /s]で ある。 また、HllMIAの ASII10の 歩行 は、人間 の 10倍 強 の消費 エ ネ ル ギー を必要 とす る。消費 エ ネル ギー を比較す るこ とで 、省 エ ネル ギ ー につい て考 える教材 とな り うる。 3-3 脚部 回転 軸 取 り付 け位置 の 検 討 ガ ムケ ースの重心 (下 面 か ら 67 8mm)の 位 置 を基準 に して シ ャ フ トを通す 穴 の位置 を円 筒表面 上 5nln間 隔 で設定 し、最 も安定 して歩行 ので きる穴 の位置 を決定す る。実験 の結果 、 歩行 が可能 な穴 の位置 は図 6中 の座標 A(0,30)と B(5,-30)で あ つた。 しか しシ ャ フ ト Aの 位置 の ときは歩行 時に胴体 が前方 に傾 き、そ の まま止 まる、 も し くは倒れ る こ とも あ つた。以 上の ことか らガ ム ケース を用 い た トコロボにお い ては B(5,30)の 位置 、つ ま が り重心か ら下方 に 30n n前 方 に 5n nの 位 置 に穴 をあける こ とが適切 である。 図 6 ガムケースの断面における座標軸 -64- 3-4 足裏 形 状 の 検 討 トコ ロボの足 の裏 は緩や かな傾斜 が つ け られ てお り、 これ に よって 歩行 時 に前 後 左 右 ヘ の揺れ を発生 させ てい る。 また、 これ まで の実験 で得 られた 条件 を満 た していて も、足 の 裏 の形状 の違 い に よつて傾 き方 が大 き く変 わ るため、足 の裏 の形状 は歩行 がで きるか ど う か を決 め る最 も重要 な要素で ある。 したがつて 、歩行 が可 能 な足 をつ くるために足裏 の形 状 を測定 した。 測定 はかか との 内側 を基 準点 とし足 の裏 を 5n n間 隔 の格子状 に区切 り、各交点で の板厚 をマ イ ク ロメー ター で測定 し、 足裏 の形状 を示す (表 1)。 また、板厚 を等高線 で示す こと に よ り視覚的 に足 の裏 の形状 を捉 える ことがで きるよ うに図 6に 示 した。 足部 を脚部 に接続す る軸 は 、両足 ともに (25,5)に あ り、左足 は (10,5)の 位 置 で板厚 が 最大 の 13 62nln、 右足 は (15,5)の 位 置 で板厚 が最大 の 外側 に 向 かつて緩や かな傾斜 がつ け られて い る (図 1322mで あ り、そ こか らつ ま先・ 7)。 に違 いが ある。 表 1 足部の板厚分布 (a)左 足 (b)右 足 -65- 製作 は手 仕 上 げに よるため、左 右 ” 珈 螂 珈 ¨ 国 ﹃ ‰ ﹁ ¨ 神 0 “ 30C . [か らの距離 χい mi “ 0 い0 (a)左 足 =● 0 160 16, 1■ 0 1,0 100 -30 ξ:: llj 20 叫 00 一 “ ・ 0 ヽ “ 置からの距離 xい m) ,日 z(rn m)・ (b)右 足 図 7 足裏形状 3-5 足裏接地部 の検討 トコロボは、重力を利用 して前後左右へ の揺れを繰 り返 し、坂道 を歩行す るが、歩行運 動 での足裏 の使 い方を明 らかにす るために、歩行時の足裏 の接地部を測定す る。 坂道 に色 のついた粉 を薄 く敷き、 この上 を トコロボが歩行す ることで、足裏 が接地 した 部分 のみに色 がつ くよ うに した。毎回足 の裏 についた粉 をきれ いにふ き取 りなが ら歩行 を 5回 繰 り返 し、色 のついた部分 を比較 した。実験 に使用 した粉 は粉末絵 の具 (金 のパール 粉)で ある。 実験結果を、図 8(a)に 示す。 5回 の歩行 の共通点 として、つま先、かかとの外側、中央 内側が使われていないこ とがわかる。足裏 の接地点 については歩行 の条件や安定性 の向上 に直接的 には関係 がないが、 これを明 らかにす ることで足裏 の加工・調整 の際に接地す る 部分 を特に丁寧 に仕 上 げなければな らないこ とがわか り、作業 の時間短縮、容易化 がで き ると考えられる。 また、接 地 しない部分 は歩行 に必要 がないので削 るなどして足を自分の -66- 好 きな形状 に加 工す る ことがで きる と考 え られ る。 また 、 トコ ロボの足の裏 には接 地す る部分 に 「土踏 まず」が存在 し (図 裏 の形状 (図 8(a))、 8(b))と よ く似 て い る ことがわか る。 一方、チ ンパ ンジーの後肢 人間 の足 (図 8(c)) は 、本 に捕 ま りやす い よ うに親指 が手 の指 の よ うに大 き く、角度 も他 の指 と異 な ってお り、 「土踏 まず」 が存在 しな い こ とがわか る。人間 の足 で 、他 の動物 にはみ られ な い最大 の特 徴 はアー チ の形成 で 、内側 アー チ 、外側 アー チ 、前側 アー チ (横 アー チ )の 3つ のアー チ が あ り、 この 3つ のアー チか らなる足底 弓蓋 が 「土踏 まず 」 を形成す る。 人 間 とい う生物 の体 の形状 が物理現象 か ら得 られ る結果 と一 致 してい るお も しろ さや不 思議 さを示 す こ とがで きた とい える。 これ は子 どもたちに トコ ロボで遊びな が ら、人間 の 2 足歩行 を力 学的 に考 えた り、人間 の進 化 を考 えるき つか けを与 えるな ど、理科 へ の気付 き を促す こ とので きる資料 として示 す こ とが可能である。 I R (a)粉 の ついた範囲 図8 (b)人 間 の 足裏 (c)チ ンパ ンジーの 足裏 Э トコロボと人間、チ ンパ ンジーの足裏の比較 4.商 品 開 発 トコ ロボ 開発会議 で の報告 内容 を参考 に し、 よ り玩具性 の高 い トコ ロボ を製作 し商 品化 す るために、デザイ ンの改良 (図 9)と ともに、パ ッケー ジ (図 10)や 説 明書 (図 11)な どの付属 品を作成 した。 図 9に 示す よ うに、脚 足部 は これ まで と同様 に足部 を脚部 に差 し込んで組み 立て る こ と に加 え、腰部 に脚部 を シ ャ フ トで留 めるこ とで 、腰 の部 品が スペ ー サ の はた らきをす るよ うにな って い る。脚 足部 と腰 を組み 立てた ら胴 体 をかぶせ て歩行 がで きる位置 を見 つ け、 木 工用 ボ ン ドで接着 し、完成す る。 また 、胴 体後部 には ラ ン ドセル をモ チ ー フ とした重 り をつ けて歩行 させ る。胴体 は図 9の よ うな円筒形 に くばみ をつ けた ものの ほか 、 くばみ の ない 円筒形、たま ご型 の 3種 類 の タイプを製作 した。 -67- 日 ヽ L」 腰 │ 脚 足 図 9 製品版『 トコロボ』 とそ の構成部品 躍︱︱︱︱︱︱﹂ 厖 嘘輔 図 10 ロゴ付きのパ ッケージ ) トコロポ の 歩 き方 を見 て み よう │ おっとっと!:● れないように、片足を前に出そう。 2後 ろの足で力強く地面をけるぞ ! ホエ用ポツトそn● ●8●.● コ ! eifm 3.体 が左右に目れてもバランスをとるんだ。 トコロポの歩 かせ方 ★好きな色 やデコをつけて、 君だけのトコロボを歩かせよう‖ 図 11 製品版 トコロボ説明書 2011で の 製 品 発 表 ク リスマス フェス タ 2011に て トコ ロボ を出展 し、子 どもた ちに 自由に遊 んで も ら う 5.ク リス マ ス フ ェ ス タ 場 を設 け、子 どもか ら大人 まで の反応 を調 べ た。 [場 所 ]ツ イ ン メ ッセ 静 岡 時 ]2011年 12月 10011日 子 ど もか ら大人 まで 「かわ いい」「ほ しい 」「不思議 」 な どとい つた声 が 聞 かれ 、 トコ ロ [日 -68- ボのデザイ ン性や物理現象 を用 い た機構 が評価 され て い た。展 示用 にペ イ ン トや装飾 の さ れ た トコ ロボ を多 く展示 してお り、 それ を見た人 か らは 「や って みた い 」 とい う声 が 聞 か れ た ことや 、子 ど もが 自分 でシール を貼 るな どしてデザイ ン を楽 しんで い る姿 か ら、子 ど もに支持 され るデザイ ンを実現す る ことがで きた と考 え られ る (図 12)。 また 、動作原 理 を 聞 くと、重力な どといった言葉 を使 つて 自分 な りに説 明をす る子 どもも見 られた。 酔 r‐ lli燿 ・ョ :L″ ‘ . i ]1膚 申 J田 γ ■ (a)展 示用 Myト コロボ (b) 展示用 トコロボの 一 部 (d)ト コロボで遊ぶ子どもたち (c)ト コロボポスター 避日﹁劇 ≒ ¬ │:ロ ロ 日 ロ 1日 │ロ ││__│ (e)歩 行 しない トコロボ を心配 そ うに (f)ト コロボ内部 にモーターや電池を 覗き込んで探す大人たち 見 つ める子 ども 図 12 ク リスマス フ エス タでの 展示 ・披露 -69- 6 ま とめ 本研究では、子 どもたちが創意工夫 でき、遊 びなが ら科学的、理論的アプ ローチをする 意識付けができる玩具、科学的探究心を醸成 し、 ものづ くりへ の関心を高 める玩具 として 2足 受動歩行玩具『 トコロボ』を開発 した。 クリスマスフェス タでは、 『 トコロボ』で遊びなが ら動 く原理 を考える子 どもの姿や製作 技術やデザイ ン性 を評価する大人 の意見があ り、魅力的な玩具 であることが実証 された。 本研究の一部は平成 23年 度科学研究費補助金 (課 題番号 :21500869)の 援助 による。 参考文献 1)文 部科学省 :「 幼稚園、小学校、中学校、高等学校及 び特別支援学校 の学習指導要領等 の改善 について (答 申)」 、 (2008) 2)中 村隆一・ 齋藤宏 。長崎浩 :『 基礎運動学』、医歯薬出版、 (2003) 3)Zoology哺 浮L類 おもしろザツ学 http://honlepage2 nifty coln/zooyan/tokusei― honyuu html (2ヽ 月 煮: 2012 3 1) 技術教育専攻 4年 鬼木 大 いまだ解明 されてい ない部分 が多い受動歩行 についての研究であつたが、実験により 『受 動歩行模型 のつ ちふまず』 を発見す るなどできた ことに、 自分 自身 の科学的探究心をくす ぐられ ることが多か った。企業 の考 えを聞き、消費者 のニーズ を調査 し、実際に『 トコロ ボ』 を販売す るまでに至ることができ、本研究 を通 して大きな達成感 と自信 を得 ることが で きた。来年度 も研究室が関わるい くつ かのプ ロジェク トが継続 され るので、 これか らの 研究室 のメンバー も積極的にプ ロジェク トに関わ り、様 々な力を付けてもらいたい。 -70-
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