パリ通信 最新号

ト
ピ
ア
Bestopia
< 2016 年 2 月 >
古賀 順子
パリ・オペラ座年間プログラム
2 月 4 日、パリ・オペラ座バレエ団を率いるバンジ
ャマン・ミルピエが、
突然の辞職表明を発表しました。
パリ・オペラ座総監督ステファン・リスネールの支持
を受けて、
2014年11月就任、
14ケ月のスピード辞職。
前職ブリジット・ルフェーヴルが 20 年間バレエ団を
率いたのとは、対象的な結末となりました。ミルピエ
の後任は、昨年 5 月さよなら公演「マノンの物語」で
引退したばかりのオーレリー・デユポン、
大抜擢です。
一週間後の 2 月 10 日、来季 2016-2017 年度年間プロ
グラムが発表され、定期会員に向けて、一般より一足
早く、申込み用紙が送られてきました。
ミルピエの方針は明確でした。ルイ 14 世以来 300
年の歴史を誇るクラシック・バレエ団を改革すべく、
エトワールを頂点とするピラミッド構図にこだわりな
く配役を決定しました。来季のプログラムを見ると、
年間バレエ作品(13)の公演中、クラシックは「白鳥の
湖」(クリスマス・バレエ)と「シルフィッド」(シーズ
ン締め 6-7 月) の 2 つだけです。残る 11 公演はすべて
現代バレエ。特に、ロビンズ、バランシーヌ、フォー
サイスなどアメリカ現代バレエが主です。2011 年フラ
ンスで公開された映画「ブラック・スワン」で黒鳥役
を演じたイスラエル・アメリカ人女優ナタリー・ポー
トマンと結婚し、ニューヨーク・シティ・バレエ団で
踊り、振付の実績も国際的に認められているミルピエ
ですから、当然と言えば当然のプログラム構成だと言
えます。
しかし、
154 名のパリ・オペラ座バレエ団員の不満、
特にエトワール達の反感は強かったようです。年間 2
回のクラシックでは、154 名が日々練習を積み重ねて
きたクラシック・テクニックを披露するには不十分で
す。現代バレエには、悲しみ、苦しみ、喜び、孤独な
ど人の感情に深く強く訴える力があり、トーシューズ
にチュチュ、すべての動きがコード化されたクラシッ
「 パリ通信 50号 」
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平 成 二 十八 年 二 月
ス
第五十号
ベ
ク・バレエにはない、人間らしいエネルギーが魅力で
す。とは言え、クラシックのレパートリーは、パリ・
オペラ座バレエ団の看板であることも事実です。新監
督オーレリー・デユポンの采配が評価されるのは、来
年 2 月プログラム発表の時期ですが、彼女のリーダー
シップ、管理能力、方向性が問われる一年になること
は確かです。
オペラの方はと言えば、年間 17 作品で、半数以上
が新たな演出になります。シーズンスタートは、17 世
紀に作曲されたバロック・オペラ「エリオガバロ」(フ
ランチェスコ・カヴァッリ作曲)。主役は、フランスで
も人気の高いコントル・テノール歌手フランコ・ファ
ジオーリ。
「トスカ」
「サンソンとダリラ」
「ホフマン物
語」
「ローエングリン」
「魔笛」
「カルメン」
「ユージェ
ーヌ・オネギン」
「コジ・ファン・トウッテ」
「リゴレ
ット」などが予定されています。ステファン・リスネ
ール監督の趣味だと思いますが、今季オペラも現代演
出が主です。
「ドン・ジョヴァンニ」も「ファウスト」
も、私には音楽と演出の関連性がよく見えませんでし
た。観客にとって、オペラの演出は大きな楽しみであ
り、あまりに観念的な演出は「聴く喜び」と相容れな
いような気がします。演劇ではありませんので、言葉
や観念に訴えるのではなく、音楽が喚起するものに対
応する舞台に出会いたいと思います。
バレエ団やオペラ座でさえ、
組織内部の支持を得て、
対外的にも発展していく指導者を得るのは大変なこと
です。これが国家となれば、トップ交代だけでは解決
できない多くの問題があります。2012 年 5 月大統領
に就任したフランソワ・オランド率いる社会党政権も、
任期は残り 1 年強。テロ対策だけでなく、移民政策、
失業対策、医療制度、年金制度、教育改革など難しい
課題が山積みです。年明けからだけでも、農家や酪農
家の破綻、タクシーと Uber の対立など大きなデモが
続いています。来年 5 月大統領選挙に向けて、オラン
ド政権がどこまで国民生活の立直しができるのか、期
待したいです。パリの日常からオペラやバレエ(料金は
250€から 5€まで)が遠くならないことを願います。
―― 平成 28 年 2 月 パリ通信 50 号 ――