廃棄物安全研究グループ - 日本原子力研究開発機構

放射性廃棄物処分に関する安全評価手法の開発
安全研究センター 環境安全研究ディビジョン 廃棄物安全研究グループ
邉見光、澤口拓磨、向井雅之、飯田芳久、川崎泰、渡辺幸一、広田直樹、山口徹治
 放射性廃棄物地層処分の安全審査に向け、地層処分環境におけるバリア機能材料や核種移行に関する特性デー
タの取得を行い、評価手法や解析コードの開発を進めています。
 放射性廃棄物処分の安全評価は、廃棄体や処分場のバリア機能が長期には劣化するかもしれないことや、放射性
物質が地下水中へ溶出し移行することも想定して行います。
 バリア材料の一つであるベントナイト系緩衝材の機能(例えば止水性)の長期的な低下を評価するために、緩衝材
の劣化に係る評価モデルを開発し、これを取り込んだ連成解析コードを整備しています。
 処分場から漏出した放射性物質の移行が天然バリアの母岩によりどの程度遅延されるかを評価するために、放射
性核種の岩石への収着に関するデータを取得し、収着モデルの開発を行っています。
 これらの研究によって得られた知見は、放射性廃棄物地層処分の安全審査において役立てられるとともに、1F事
故の燃料デブリの処理・処分に係る規制要件の整備にも貢献します。
ベントナイト系緩衝材中のイオン種の拡散モデルの開発
核種移行データの取得及び評価手法の開発
5.0E‐3
Ca濃度(mol/L)
低濃
度側
温度:25℃
0.0E+0
200
300
Ctot. = 0.1 M
Ctot. = 0.3 M
-1
3
3
Kd (m /kg)
1.0E‐3
100
Ctot. = 0.05 M
0
10
10
-2
-2
10
-3
10
-4
10
8.5
9.0
9.5
pH
10.0
10.5
11.0
-3
Kd of Pu onto quartz
Ctot. = 0.01-0.05 M
Ctot. = 0.055-0.1 M
Ctot. = 0.11-0.3 M
-4
-5
8.0
11.5
8.5
9.0
9.5
pH
10.0
10.5
11.0
11.5
 処分環境下で安定な+IV価Puを対象に、地下水に含まれる炭酸塩に着
目し、炭酸塩濃度(Ctot)を変化させ、Puの砂岩、花崗岩及びそれらの主
要な鉱物である石英への収着挙動がどのように変化するのかについて、
想定される地下水のpH範囲において、バッチ式収着試験を実施し、収
着分配係数(Kd)を取得しました。
 収着試験の結果(左図)のように、Puの花崗岩と石英の収着特性がほ
ぼ同じことから、収着にシラノール(>SiOH)が寄与することがわかりまし
た。一方、砂岩については、シラノールだけではなく、含有量は少ないも
ののPuを多く収着する鉱物、例えば粘土鉱物の寄与が考えられます。
 我々の以前の研究では、アルカリ性溶液で負に帯電する鉱物表面に、
電気的に中性の化学種が収着することが示されています。花崗岩を構
成する鉱物は石英(約6割)と長石類(約4割)であり、それらの鉱物表面
に存在する>SiO-が花崗岩の収着に寄与すると想定し、中性種の
Pu(OH)4(aq)が>SiO-に収着する非静電的表面錯体モデル(右図)を適用
し、収着反応の平衡定数を求めました。
 長期を対象とする地層処分の安全評価にこのモデルを適用するために
は、パラメーターの科学的妥当性を検証して機構論に基づいたモデルと
することと、検証データを蓄積することが必要です。
低濃度側(計算値)
0
Ctot. = 0.01 M
Puの砂岩、花崗岩及び石英への収着分配係数(Kd)とpHの関係(左図)、表面錯体モデルの適用(右図)
高濃度側(計算値)
透過拡散試験用セル
-1
log KSi = -8.0
log KSi = -8.2
1
10
0
8.0
低濃度側(実験値)
2.0E‐3
10
10
高濃度側(実験値)
3.0E‐3
2
10
Ctot. = 0.055-0.1 M
Sandstone
Granite
Quartz
1
10
10
高濃度側:0.0025 M CaCl2溶液
+0.5 M NaCl溶液
低濃度側:0.5 M NaCl溶液
4.0E‐3
Na型モンモリロナ
Na型モンモリロ
ナイト圧縮体
イト圧縮体
(乾燥密度
1,000 kg/m3)
10
10
高濃度側および低濃度側タンク内の
Ca濃度の経時変化(実験値と計算値)
当該拡散モデル検証のため、Ca2+などを用
いてNa型モンモリロナイト圧縮体への透過
拡散試験を実施
高濃
度側
10
2
Kd (m /kg)
ベントナイト系緩衝材の変質(鉱物の溶解、二次鉱物の生成)やそ
れに伴う物理的特性、間隙水組成等の長期的な変遷を決定する
ためには、緩衝材中におけるイオン種の(主に拡散による)移行を
適切に評価する必要があります。
現行の拡散評価では、全てのイオン種に対して同一の拡散係数を
与える方法を採用しています(他の類似研究も同様)。
そこで、拡散係数が異なる各イオン種の拡散現象を適切に評価可
能とするため、本質的な拡散係数であると考えられる見かけの拡
散係数をベースとしたシンプルで科学的に合理的な拡散モデルを
新たに開発しています。
10
400
拡散時間(日)
陽イオンの拡散に関しては、他の試験で得られたデータ(見かけの拡散係数
および収着分配係数)を用いて当該モデルで計算した値と試験結果が良く整合
今後は、陰イオン(Cl-など)への適用性の確認や解析コードへの
導入に向けた検討を実施する予定です。
人工バリア長期変遷に係るモデル及び解析コードによる評価体系の整備
固相鉱物組成
拡散係
数評価
物質移動毛
細管間隙率
セメント内
拡散係数
固相鉱物
組成
間隙変
遷評価
緩衝材変質
質速度
間隙水組成
pH
Fe溶解
イオン強度、
有効モンモリ
密度、カルシ
ウム型化率
固相鉱物組成
アルカリ
拡散係数
緩衝材
間隙率
アルカリ
拡散評価
透水係数
OP腐食
影響評価
透水係
数評価
ガラス成分
溶解速度
評価
Si飽和度
Si、Na、B
浸出速度
:共通的入力条件
緩衝材間隙率、拡散係数、透水係数
:評価手法
地下水流動評価コード
有効モンモリ
ロナイト密度
定モデル
間隙水組成全
般、固相鉱物
組成全般
分配係数デ
ータベース
Eh
pH、炭酸イオン、
塩素イオン、酸素
濃度、Fe溶解速度
pH、Mg
濃度
NF初期水頭条件・境界条件、
NF透水係数分布
OP腐食寿命
評価コード
ガラス固化体溶解
速度設定モデル
(海水系地下水)
1.2
10cm
20cm
30cm
40cm
50cm
60cm
1.0
0.8
0.6
0.4
緩衝材厚:70cm
乾燥密度:1.6g/cm3
ベントナイト混合率:70
0.2
0.0
0
20000
40000
60000
Time [year]
80000
有効モンモリロナイト密度(g/cm3)
間隙水組成
3)
有効モンモリロナイト密度(g/cm
effective montmorillonite dry density [g/m3]
セメント変質
間隙水移行
 高レベル放射性廃棄物の地層処分では、人工バリアシステムに使用され  体系の中核になっているのは、物質移行と地球化学反応の解析を同時進行的
る構成材料(緩衝材や炭素鋼など)の長期的な変遷挙動や複合的な相互 に連成させ、これらの進展に伴う物質移行パラメータの変化を互いに反映させ
合いながら、長期の変質挙動を解析することができるMC-BUFFERコードです。
作用を評価する必要があります。
 評価期間は非常に長期になるため、実験のみで長期間の現象を再現し  このような評価体系を使用して、2つの代表的な処分場候補の岩質である「堆積
岩」「結晶質岩」に対し想定される地下水組成について、どのような人工バリアの
て評価することは非常に困難なので、実証的なデータやそれから導き出
される各種のモデルなどをパーツとして使用し、より現実的で総合的な解 設計要件が緩衝材の性能の劣化に大きく影響を与えるのか、について検討しま
した。
析計算を行うことで、期待されるバリア性能の評価を行っています。
 これまでの実験的、機構論的研究から、モデルやコードを相互に関連さ  人工バリアの設計要件として「緩衝材の初期厚さ」「初期乾燥密度」「支保工(緩
衝材の外側で人工バリアを支えるセメント系の材料)の厚さ」などを対象として、
せて組み合わせた評価体系の構築を進め、下記のように整備しました。
様々な組み合わせの解析を行いました。
温度

その結果、堆積岩に多い「海水系地下水」と結晶質岩に多い「降水系地下水」と
熱力学データ、鉱物モデル、地下水組成、セメント初期組成・形状、緩衝材初
熱力学データ
期組成・形状、「セメント/緩衝材」端の境界条件
では、下記の図のように、支保工の厚さを変えて設計した場合に、緩衝材の性
溶解度評価コー
間隙水組
能の指標として重要とされる「有効モンモリロナイト密度」の減少時間への影響
物質移行-変質連成解析コード(MC-BUFFER)
成全般
ド(PA-SOL)
モンモリ
セメント系材料
ベントナイト系緩衝材
が大きく変わることが分かりました。このことは、地下水の水質によって支保工
OH活量
変質速
イオン強度、
拡散係数設
モンモリ変
の厚さは重要な設計要件として抽出される可能性を示しています。
緩衝材間隙率、
化学反応・物質移行評価(連成計算)
度評価
H25年度 支保工の厚さを変化させたケース H26年度 支保工の厚さを変化させたケース
100000
※本研究の一部は、原子力規制委員会原子力規制庁 「平成26年度地層処分の安全審査に向けた評価手法等の整備」として実施したものである。
(降水系地下水)
1.2
60cm
50cm
40cm
30cm
20cm
10cm
1.0
0.8
0.6
0.4
緩衝材厚:70cm
乾燥密度:1.6g/cm3
ベントナイト混合率:70
0.2
0.0
0
20000
40000
60000
Time [year]
80000
100000
放射性廃棄物処分に関する安全評価手法の開発
安全研究センター 環境安全研究ディビジョン 廃棄物安全研究グループで
は、放射性廃棄物地層処分の安全審査に向け、地層処分環境におけるバリア材
料や核種移行に関する特性データの取得を行い、評価手法や解析コードの開発
を進めています。
放射性廃棄物処分の安全評価は、評価期間が数千年以上の長期に及ぶため、
遠い将来に亘って廃棄体や処分場の健全性を期待するのではなく、廃棄体や処
分場のバリア機能が長期には劣化するかもしれないことや、放射性物質が地下
水中へ溶出し移行することも想定して行います。そのため、評価の考え方の確
立、評価手法の開発とともに、評価に用いるための信頼性の高いデータが必要
となります。当研究グループでは、実験的に、固化体の耐久性、放射性物質と
土壌、岩石及び人工バリア材料との反応、地下水中における炭素鋼、緩衝材、
セメントの化学的、物理的な性質の変化などを解明するための研究を環境シミ
ュレーション試験棟(STEM)や核燃料サイクル安全工学研究棟(NUCEF)等の施
設において行ってきました。
ポスターには、人工バリア材料の一つであるベントナイト系緩衝材中のイオ
ン種の拡散モデルの開発、Pu と岩石、鉱物への収着に係る核種移行データの取
得及び評価手法の開発、人工バリア長期変遷に係るモデル及び解析コードによ
る評価体系の整備について、概要を取りまとめました。
これらの研究によって得られた知見は、放射性廃棄物地層処分の安全審査に
おいて役立てられるとともに、福島第一原子力発電所事故の燃料デブリの処
理・処分に係る規制要件の整備にも貢献します。