鋼の微視組織因子を考慮した疲労寿命予測モデルの開発

2015 年度 工学部システム創成学科 PSI コース 卒業論文概要
鋼の微視組織因子を考慮した疲労寿命予測モデルの開発
03140926 上田航也
指導教員 柴沼一樹 講師
1. 背景・目的
構造物や機械部品のほとんどの破壊現象の原因
として,疲労が問題となっている.疲労の原因とし
て構造設計や維持管理なども考えられるが,先に述
べた問題をすべて防ぐためには,材料の疲労に対す
る強度の向上が必要であると考えられる.材料の疲
労現象の原因には,微視組織の影響や施工・工作制
度,外力変動などが考えられるが,なかでも微視組
織の影響は材料自体の性質を理解するうえでも最
も本質的に重要であると考えられる.
疲労亀裂の形成と成長の初期段階において,微視
組織は支配的な影響を持っているため,高サイクル
疲労の抵抗値を向上する設計変数として,ミクロ組
織情報を用いたアプローチによって研究がなされ
ている.
すべり帯を考慮したモデルでは,Tanaka et al.が
すべり帯に基づく疲労亀裂のメカニズムを模した,
亀裂と粒界の相互作用モデル[1]を提案しており
(Fig.1),これを元に多くの研究がなされている.し
かし,このモデルは,現象を理解するためには画期
的である一方,実用の点において未だ課題が残され
ている.また,疲労寿命は微視組織の影響を受ける
ため,本質的にばらつきを持つ.微視組織の影響に
よるばらつきを評価したモデルが Shibamuna et al
[2,3]などによって提案されている.
本研究では,それらに基づき微視的組織を考慮
したフェライト・パーライト鋼の疲労寿命予測を行
うモデルの構築を行う.
1.
2.
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8.
疲労亀裂の発生する可能性がある場所をア
クティブゾーンとして定義する.
アクティブゾーンを面積要素に分割する.
面積分率に応じて面積要素にモンテカルロ
法を用いて粒を充填し,ランダムに結晶方
位を与える.
有限要素解析によって面積要素ごとの応力
テンソルを取得する.
各粒において応力テンソルと結晶方位から
亀裂発生を判定する.
亀裂が発生すると,亀裂が発生した面と垂
直方向に,亀裂の進展を考える.
進展を考える際の粒は Fig.3(a)のような粒
の配置を Fig.3(b)のように粒を平均化して,
亀裂の発生した粒を中心に対称な粒の並び
を生成する.この過程は Fig.4 のようにして
行う.これにより,1 次元の亀裂とすべり帯
の相互作用モデルを 2 次元に拡張している.
パリス則に基づき疲労寿命を予測する.
ܽ
݈ଵ
݈௡ିଵ
݈௡
ܿ
Fig.2 Schematic diagram of 2D×2D model
Fig.1 crack tip slip band model
2. モデル
本研究では,亀裂とすべり帯の相互作用モデル
[1]を拡張することによって,微視的な組織が寿命に
与える影響を考慮したモデルを作成する.本研究で
は疲労亀裂の発生進展課程に基づき,疲労亀裂が発
生する部材表面部と,亀裂が発生した面に垂直な面
での2次元×2次元でミクロ組織をモデル化する.
(Fig.2)
計算手順を以下に示す.
Surface
Crack nucleation
(a)
Surface
Crack nucleation
(b)
Fig.3 Schematic diagram of grains
命の予測結果は,良好な精度で実験結果と一致した.
Surface
Crack nucleatio n
Surface
Crack growth
Surface
Crack nucleatio n
Crack growth
Surface
Crack nucleatio n
Surface
Crack growth
Crack growth
Crack nucleatio n
Crack nucleatio n
Crack growth
Surface
Fig.5 Result of calibration (
)
Crack nucleatio n
Crack growth
Fig.4 Schematic diagram of arrangement of
grains
3. 実験
炭素濃度および粒径分布の異なる 3 種類の鋼種を
用いて疲労試験を行った.疲労試験において,ある回
数で試験片の表面を観察し,試験片表面上の疲労亀
裂の進展を観察した.亀裂の発生点を観察し,亀裂
がフェライト粒内部から発生しているのを確認し
た.
また,モデルに必要なミクロ情報を得るため,
EBSD 法による観察からフェライトの粒径分布を取
得し,光学顕微鏡による観察と画像処理を用いてパ
ーライトバンド幅の分布を取得した.
4. 提案モデルの再現解析
亀裂の進展を求める際に用いるパラメータは鋼
材 B を用いた試し計算により行った.この際,実験
の結果を反映し,フェライトからのみ亀裂が発生す
るものとした.実験結果と整合するように,C,n の
値の求めた.その結果,C=2.55,n=3.2*106 を用いる
こととした.この時の予測結果を Fig.5 に示す.鋼
材 B で合わせこんだ C,n を用いて,鋼材 A,C の疲労
寿命予測計算を行った.その結果を Fig.6,7 に示す.
鋼材 A,C ともに実験結果と良好な精度で一致し,本
モデルは微視的な疲労を再現しているといえる.
5. 結論
フェライト・パーライト鋼を対象に,亀裂とすべ
り帯の相互作用モデルを拡張することで,微視的要
素が与える影響を考慮した疲労寿命予測モデルを
構築した.疲労試験により,S-N 曲線を取得すると
ともに,詳細観察を行うことでフェライトから亀裂
が発生することを確認した.本モデルによる疲労寿
Fig.6 Comparison between experimental and
predicted results of steel A
Fig.7 Comparison between experimental and
predicted results of steel C
参 考 文 献
1)
2)
3)
K. Tanaka, T. Mura, Journal of Applied Mechanics,
Vol.48, pp.97-103, 1981.
K.Shibanuma, S.Aihara, K.Suzuki. Engineering Fracture
Mechanics, 2015.
Y. Nemoto, K. Shibanuma, K. Suzuki, S. Aihara,T.
Hiraide, International Journal of Offshore and Polar
Engineering, submitted.