金属疲労き裂の治癒技術の開発 早稲田大学 理工学術院 基幹理工学部 機械科学・航空学科 講師 細井 厚志 1 開発技術の概要 金属のき裂を真空熱処理を施すことで修復させる技術 精密加工部品や高価な金属を使用した部品のリサイクルに期待 酸化膜 疲労き裂導入 真空熱処理 原子拡散誘起に よるき裂治癒 2 従来技術とその問題点 既に実用化されている補修方法は、き裂先端に円孔を 開け応力集中を低減させる方法、溶接金属でき裂を接 合させる方法、熱間等方圧加圧(HIP)法などがあるが 円孔は一時的な対処法、短いき裂には不向き 溶接によって割れ等の欠陥の発生や引張残留応力 を増加させ、補修後の品質保証が困難 HIP法は大掛かりな設備が必要 等の問題がある。金属材料においてはき裂表面の酸 化物がき裂の再接合を阻害するため、根本的なき裂治 癒が困難 3 金属き裂修復の先行技術 高密度電流場制御による疲労き裂治癒 き裂治癒の原理 疲労き裂治癒の実現とき裂進展速度の定量評価 Closely spaced electroad Crack growth rate, da/dN m/cycle -7 Crack High-density electric current field 10 9 8 7 6 5 4 3 2 before after -8 10 -0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 Crack length, a-a0 mm デジタル画像相関法によるき裂閉口効果の定量評価 理論的にK値を算出 1.0 x10 -3 0.5 500mm ・高密度電流場制御により疲労き裂治 癒に成功 ・デジタル画像相関法による理論的に K値を算出し,き裂進展における治癒 状態を定量評価 0.0 A. Hosoi, K. Tomoya, Y. Ju, Materials, 2013, 6, 4213-4225. A. Hosoi, T. Nagahama, Y. Ju, Mater. Sci. Eng. A, 2012, 533, 38-42. -0.5 0.0 0.5 1.0 x10 -3 1.5 2.0 4 試験方法概要 1. ステンレス鋼試験片に材料表面から疲労き裂 (8mm, 5mm)を導入 2. 真空熱処理にてき裂を修復 3. き裂修復効果の確認 走査型電子顕微鏡による表面観察 静的引張試験 疲労試験 5 試験片 材料:オーステナイト系ステンレス鋼 SUS316 試験片の化学組成 [wt.%]. C Si Mn P S Ni Cr Mo Fe 0.04 0.65 0.91 0.036 0.001 10.26 16.89 2.07 Balance 試験片加工による残留応力除去のため 固溶化処理を施した。 CT試験片 6 疲労予き裂の導入 負荷条件 応力比 R Sample 2 ΔK =25 MPa・m1/2 Pmax=3.5 kN 一定 一定 0.05 0.05 周波数 f 10 Hz 10 Hz き裂長さ a 8 mm 5 mm 評価方法 静的引張試験 疲労試験 クリップゲージ 荷重方向 Sample 1 7 き裂修復熱処理条件 Temperature 真空加熱後急冷 ④ ② ③ ⑤ ① Time 8 新技術の特徴・従来技術との比較 • 真空中で特定の条件で熱処理を行うことにより、金 属のき裂表面の酸化皮膜を除去し、き裂を修復す ることに成功した。 • 酸化皮膜が除去された状態では、き裂面が清浄化 されているためき裂面で金属原子が結びつきやすく、 原子レベルでき裂が修復される。 • 本技術の適用により、精密加工部品や高価な金属 を使用した部品のリサイクルが期待される。 9 想定される用途 • 本技術の特徴を生かすためには、精密機械部品や 高価な金属部品のき裂修復に適用することで材料・ 加工・メンテナンスコスト削減のメリットが大きいと考 えられる。 • き裂修復による、構造材料の長寿命化による長期 耐久性の向上も期待される。 • また、達成された熱処理技術による金属き裂修復 技術に着目すると、社会インフラの保守に展開する ことも可能と思われる。 10 実用化に向けた課題 • 現在、実験室レベルの試験片によりき裂修復効果 を確認。ステンレス鋼において、き裂修復部の静的 引張強度は健全部と比べて約70%の強度回復を 確認。 • 今後、各種金属材料について実験データを取得し、 き裂修復における最適条件を模索する。 • 実用化に向けて、任意のき裂サイズ、き裂部位に 合わせた修復技術を確立する必要もある。合わせ て、実構造物への応用に向け、持ち運び可能な装 置開発が必要。 11 企業様への期待 • 未解決の任意のき裂サイズやき裂部位における修 復については、熱処理条件や冷却条件をコントロー ルすることにより克服できると考えている。 • 熱処理装置の開発技術を持つ、あるいはき裂修復 技術に関心の高い企業との共同研究を希望。 • また、熱処理技術を有する企業、機械・構造物等の 保守・メンテナンス分野への展開を考えている企業 には、本技術の導入が有効と思われる。 12 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 :金属部材のき裂修復方法 及びき裂修復装置 • 出願番号 :特願2014-142623 • 出願人 :学校法人早稲田大学 • 発明者 :細井厚志、巨陽、浅岡幸靖 13 お問い合わせ先 早稲田大学 産学官研究推進センター TEL 03-5286 - 9867 FAX 03-5286 - 8374 e-mail [email protected] 14
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