3次元平板破壊力学を対象とした拡張有限要素法の実装

2015 年度工学系研究科システム創成学専攻修士論文中間発表
3 次元平板破壊力学を対象とした拡張有限要素法の実装および実橋梁の疲労亀裂進展解析
37-146341 前川聡朗
指導教員 柴沼一樹 講師
1.
Number of road bridge constructions
研究背景
近年,わが国の高度経済成長期に多数建設された
社会基盤インフラ構造物が,施工当時の耐用年数を
迎えつつある.Fig. 1 は,わが国における新規道路
橋の建設数の推移である.今後,多くの道路橋が,
一般的な耐用年数とされる既設 50 年を迎えようと
している.鋼橋においては,設計当時に想定されな
かった疲労損傷の問題が近年顕在化するなど,社会
基盤インフラ構造物の合理的な維持管理の必要性
が叫ばれている.Fig. 2 は,2006 年,奈良県山添橋
において観察された損傷である.このケースでは,
橋梁主桁の溶接端部より発生した疲労亀裂が進展
した結果,脆性亀裂に遷移したものと見られている.
橋梁全体に対して,疲労亀裂は極めて小さいスケー
ルで発生する現象ながら,全体の崩落に繋がりかね
ない極めて重大な損傷である.このような背景にお
いて,数値計算により,橋梁中の亀裂の進展性を直
接評価することは,鋼橋の維持管理合理化に向けて
非常に有意義であると考えられる.しかしながら,
現状では,実橋梁モデルを対象として疲労亀裂進展
解析を実施した研究は報告されていない.
2.
研究目的
本研究では,これまで実現されていない,実鋼橋
全体をモデル化した上での疲労亀裂進展解析を実
施する.また,本研究では亀裂解析として拡張有限
要素法(XFEM)と呼ばれる解析手法を用いるが,
実鋼橋の亀裂進展解析に向けて,近年提案されてい
る XFEM 定式化を含めて精度やロバスト性に関す
る検証を行う.
3.
基礎理論
有限要素法は対象領域を要素分割することによ
り,システマティックに内部の近似を構成するk数
値解析手法である.
拡張有限要素法(XFEM)は有限要素法の一般化手
法である.拡張有限要素法の一般式を次式で示され
る.
(1)
は通常の有限要素近似,
は XFEM に
おけるエンリッチメントを表す.
および
はそれぞれ次式で示される.
(2)
14,000
∈
12,000
Ψ
10,000
(3)
∈
8,000
6,000
4,000
2,000
0
1950
1960
1970
1980
1990
2000
Year
Fig. 1 Numbers of bridge construction
Fig. 2
Crack on Yamazoe Blidge
2010
は全節点集合,
はエンリッチメント節点集合
は有限要素近似において節点 に縁リ
を表す.
ッチメントされる内挿関数であり, は通常の有限
要素近似の節点自由度である.Ψ は XFEM にお
けるエンリッチメント関数であり, は対応する近
似自由度である.XFEM ではエンリッチメント関数
において導入する既知の関数である.上式に示した
ように,XFEM におけるエンリッチメントは節点単
位で定義されるため.標準の節点とエンリッチメン
ト節点を含む要素が不可避的に存在する.このよう
な要素を Blending Elements(BE)と呼び,その内部
において収束精度が低下することが知られている.
BE の 模 式 図 を Fig. 3 に 示 す . 図 中 に blending
elements の凡例によって示される領域において近似
精度が低下する.
この BE における問題に対し,近年新たな XFEM
定式化が提案されている.特に,Fries によって提案
された重み付き XFEM は効果的な方法として多く
の適用が報告されている.それに対し,Shibanuma et
al.は重み付き XFEM の収束精度の不完全性を理論
解析により明らかにし,本来の収束精度を保証する
PU-XFEM と呼ばれる XFEM 定式化を提案した.本
研究では近年提案されたこれらの XFEM 定式化を
平面の破壊力学問題,板曲げの破壊力学問題に適用
し,亀裂進展解析に向けた精度検証を行った.
: enriched nodes ( I
N enr )
No marking :
standard nodes ( I
N enr )
: standard elements
: blending elements
: enriched elements
Blending element in XFEM analysis
4.
平面破壊力学問題における XFEM の精度およ
びロバスト性評価
XFEM の平面破壊力学問題への適用における精
度検証を実施した.Fig.4 および Fig.5 は理論解が
既知である 2 つの平面破壊力学問題に関して解析を
実施したエネルギー誤差ノルムである.
いずれの解析においても PU-XFEM が最小の誤差を
示した.
Fig.6 Numerical result of deformation of cracked plate
bending problem
1.0
KIex
KIIex
KIIIex
KI
KII
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
-0.2
4.0E-02
-0.4
2.0E-02
standard
XFEM
weighted
XFEM
PUXFEM
1.0E-02
5.0E-03
2.0E-02 4.0E-02 Mesh
8.0E-02
size 1.6E-01 3.2E-01
Fig. 4
Numerical results on Mode
I
6.4E-02
3.2E-02
1.6E-02
8.0E-03
4.0E-03
2.0E-03
1.0E-03
5.0E-04
2.0E-02
Fig. 5
4.0E-02
8.0E-02
Mesh size
standard
XFEM
weighted
XFEM
PUXFEM
1.6E-01 3.2E-01
Numerical results on Mode
II
0
15
30
45
60
Crack angle
75
90
Fig. 7 Numerical results of stress intensity factors for
/
1
Stress intensity factor
Error in energy norm
8.0E-02
Error in energy norm
板曲げ破壊力学問題における XFEM の妥当性
検証
次に,亀裂解析プログラムの開発に向けて,板曲
げ破壊力学における XFEM の妥当性検証を実施し
た.Fig.6 は,XFEM 解析により得られた板曲げ問題
における亀裂近傍の変位場である.貫通亀裂を含む
平板の板曲げ問題において評価される破壊力学パ
ラメータをそれぞれ,Fig 7 および Fig.8 に示す.
Stress intensity factor
Fig. 3
5.
1.0
KIex
KIIex
KIIIex
KI
KII
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
-0.2
-0.4
0
15
30
45
60
75
90
Crack angle
Fig. 8 Numerical results of stress intensity factors for
/
2
1.0
以上の精度検証より,本研究では板曲げ成分に関し
て標準の XFEM 定式化を用いて,亀裂進展解析プロ
グラムを開発することとした.
汎用有限要素法ソフトウェアへの 3 次元平板
XFEM 要素の実装
実鋼橋を対象とした疲労亀裂進展解析に向けて
汎用有限要素法ソフトウェアに 3 次元平板 XFEM
要素を実装し,全体として亀裂解析を実行できるプ
ログラムを開発した.開発プログラムのフローチャ
ートを Fig. 9 に示す.
続いて,開発した汎用ソフト連成プログラムの精
度検証を行った.Fig. 10 は板曲げ問題において評価
される亀裂の破壊力学パラメータを,亀裂長さに対
する板厚比に対してプロットしたものである.破線
は解析解であり,赤で示した系列が本開発プログラ
ムにより得られた値である.
ABAQUS CAE
インターフェースを利用し,
解析対象・境界条件モデル化
inp.ファイルを出力
亀裂形状モデル化
実装プログラム PRE
inp.ファイルおよび
亀裂形状を読み込み
亀裂をモデル化するセクションを
参照座標に座標変換
2次元平面PU-XFEM近似の導入
(ゼロエネルギーモードに関する
自由度を削除)
板曲げXFEM近似の導入
参照座標における
平板シェルXFEM要素剛性行列 作成
ABAQUS SOLVER
XFEM平板シェル要素導入
inp.ファイル読み込み
全体剛性行列および
全体節点力行列組み立て
参照座標の要素剛性行列を
3次元座標要素剛性行列に
座標変換
*USER ELEMENTオプションに基づき,
3次元座標要素剛性行列を
inp.ファイルに書き込み
実装プログラム POST
ソルバーによる連立方程式求解
dat.ファイル読み込み
解析結果
dat.ファイルを出力
応力場・変位場の可視化
破壊力学パラメータ計算
Normalized
6.
0.8
0.6
0.4
Exact solution
0.0
0
7.
実鋼橋亀裂進展解析
開発した疲労亀裂進展解析プログラムを用い,こ
れまで実現されなかった実鋼橋を対象とした疲労
亀裂進展解析を実施した.ケーススタディーとして,
姫路大橋を解析対象とした.姫路大橋の全体図を
Fig. 11 に示す.本解析では,赤枠で示した下り車線
第 6 径間のモデル化を行った.
1
2
⁄
3
4
5
Fig. 10 Validation of implementation of XFEM for
plate bending fracture mechanics
実橋梁における疲労損傷は数 100m の大規模構造
物におけるわずか数 mm 以下の亀裂を対象にその
危険性を評価する必要があるため,解析対象である
姫路大橋をグローバルモデルおよびサブモデルの 2
個のモデルを弱連成させることで解析を実現した.
Fig.12 にグローバルモデル・サブモデルを示す.
および走行車線上の交通をモデル化した.本研究
では,応力拡大係数と呼ばれる亀裂駆動力を表す破
壊力学パラメータを評価することにより,亀裂の進
展挙動をモデル化した.ここでは,2 次元平面問題
と板曲げ問題が重畳するような,板厚方向に応力拡
大係数が分布する問題において,巨視的な亀裂進展
をモデル化する亀裂進展則を提案した.
以上のモデル化に基づき,これらのモデル化に基
づき,これまで実現されていなかった実鋼橋におけ
る疲労亀裂進展解析を初めて実施した.Fig. 13 に得
られた亀裂進展経路,Fig. 14 に応力拡大係数の推移,
Fig. 15 に載荷回数に伴う亀裂長さの推移の計算結
果を示す.構造ディテール形状や,その橋梁全体に
おける所在箇所,車両通過位置を考慮した上で,橋
梁の疲労損傷危険性を定量的に評価できることが
示された.さらに,姫路大橋において実際に施工さ
れた補強工法の効果を,亀裂進展性により,直接的
かつ定量的に評価した.
8.
Fig. 9 Flowchart of Implementation of XFEM into
Abaqus
Numerical results
0.2
結論
本研究では,これまで実現されなかった実橋梁を
直接的に対象とした疲労亀裂の進展解析を実現す
るために,XFEM の平面破壊力学問題および板曲げ
破壊力学問題の適用性に関しての基礎的な検討を
実施し,その結果を考慮して汎用ソフトウェアへの
実装による疲労亀裂進展解析プログラムを開発し
た.
本解析プログラムを用いた検証により,構造ディ
テール形状や,その橋梁全体における所在箇所,車
両通過位置を考慮した上で,橋梁の疲労損傷危険性
を定量的に評価できること,さらには補強工法の効
果を,直接的かつ定量的に評価できることが示され,
その有効性が確認された.
Fig.6 General drawing of Himeji Bridge
MPa m
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
Result
Fatigue limit
1,000
th
(a) Global model of 6 span of Himeji Bridge
0
0.0
Crack length [m]
Fig. 14
(b) Sub-model for XFEM analysis
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
Crack length [m]
Transition of stress intensity factor
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0.0E+00 1.0E+09 2.0E+09 3.0E+09 4.0E+09
Cycle of loads
Fig. 12 Finite element model of Himeji Bridge
Fig. 13
Crack propagation path
Fig. 14
Relationship between crack length and cycle of
load
参考文献
[1] Belytshko, T. and Black, T.: Elastic crack growth in
finite elements with minimal remeshing, International
Journal for Numerical Methods in Engineering, Vol.45,
pp.602-620, 1999
[2]J. M. Melenk, I. Babuska: The partition of unity finite
element method: Basic theory and applications,
Computer Methods in Applied Mechanics and
Engineering, Vol.39, pp.289-314, 1996
[3]柴沼一樹,宇都宮智昭,粟飯原周二,XFEM 近似
の不完全性の修正(第 1 報:一般形の定式化と理論
誤差解析),計算工学会論文集,2011 (2011) Paper
No.20110004