2016 年、波乱は続く-リーマン・ショックとの 較

2016 年 2 ⽉ 10 ⽇
第 60 号
2016 年、波乱は続く-リーマン・ショックとの⽐較
大和住銀投信投資顧問 経済調査部
部長 門司 総一郎
2 月になりましたが、世界的なリスク・オフの動きには依然終わりが見えません。リーマン・ショッ
クの再来を懸念する声も増えていますが、今回もこの世界の金融市場の状況について考えます。
日米欧株価指数の推移( 日次、15年12月1日=100)
円/ユ ー ロの対ドルレー ト ( 日次、1ドル当たりのユ ー ロ/円で表示)
124
105
0.96
↑ドル高/円・ユーロ安
100
122
0.94
95
120
0.92
118
0.90
90
米S&P500
85
TOPIX
116
欧STOXX
80
15年12月
16年1月
↓ドル安/円・ユーロ高
114
15年12月
16年1月
16年2月
出所:ブルームバーグより大和住銀投信投資顧問作成
ドル円(左、円)
0.88
ドルユーロ(右、ユーロ)
0.86
16年2月
出所:ブルームバーグより大和住銀投信投資顧問作成
日米欧の株式市場は年初から下落したものの、1 月下旬に入ってから持ち直しつつありました。これ
に水を差したのが日本銀行のマイナス金利です。市場は当初この決定に株高・円安で応じましたが短
期的なものに終わり、その後は逆に円高・株安が加速しました。
マイナス金利の導入が株安・円高をもたらしたのは、日銀が金融緩和の手段をこれまでの資産買い
取りによる「量」の緩和からマイナス金利という「金利」の緩和に転換したためです。株式市場や為
替市場では上場投資信託(ETF)や国債の買い入れ増額を期待する向きが多かったのですが、何の前触れ
もなく日銀が金利操作に転じたことが「量的緩和は限界に達した」、「これ以上の資産買い取り増額は
ない」などの憶測を呼びました。この量的な面での追加緩和への期待感の剥落が、マイナス金利導入
以降の株安や円高の主因です。
欧州でも株安やユーロ高が進みましたが、これは今回の日銀の決定と市場の反応を見て、日銀同様
に追加緩和に積極的な欧州中央銀行(ECB)への期待感が揺らいだためです。逆に量的緩和を終了し、ゼ
ロ金利も解除した米国では元々金融政策への期待感が小さいため日欧に比べて株価下落は小幅、ドル
も対円、対ユーロ共に軟調に推移しています。
こうした状況の中、市場では「リーマン・ショックの再来」を懸念する声も出いていますが、その
可能性は低いと見ています。理由は 2 つあります。1 つはバブルが見当たらないことです。
本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したもので
す。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点におけるレポート作成
者の判断に基づくもので、今後予告なしに変更されることがあり、また当社の他の従業員の見解と異なることがあります。投資に関す
る最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。
1
市場のここに注⽬!
2016 年 2 ⽉ 10 ⽇
リーマン・ショックがあれだけの大きな危機になったのは 2000 年代に入ってからの低金利と長期的
な景気拡大の中で投資家のリスク・テイク姿勢が強まり、米住宅バブル、クレジットバブル、商品バ
ブル、新興国バブル、円キャリーバブルなど様々なバブルが発生、それが同時多発的に破裂したため
です。特にサブプライムに代表される金融工学を活かしたレバレッジの活用はリーマン・ショックに
大きな役割を果たしました。
しかしリーマン・ショック以降世界的に低成長が続いており、現在投資家のリスク・テイク姿勢は
弱いままです。こうした中ではバブル発生の可能性は低いといえます。低格付けの社債などにバブル
を懸念する声がありますが、リーマン・ショック時のように何重にもレバレッジを効かせたものとは
思えません。仮にバブルであり破裂するとしても、局所的なものであり、世界的な危機にはつながら
ないと見ています。
もう 1 つは様々な規制により、世界の大手金融機関のリスク・テイクが制限されていることです。
リーマン・ショックの時はリーマン・ブラザースを初め、多くの大手金融機関がサブプライム関連の
金融商品などでリスク・ポジションを抱えていたため、危機発生後はドミノ的にそうした金融機関が
破たん、あるいは救済に追い込まれました。しかし、今回金融機関が元々リスクをとっていないこと
から、こうした金融危機のリスクは小さいと見ています。以上がリーマン・ショックの再来の可能性
は小さいと考える理由です。
最後に今後の見通しについて触れておきます。リスク・オフになかなか歯止めがかかりませんが、
前回当コラムで述べたように既にリスク・オフの行き過ぎを示す指標がいくつも出ていることから、
底入れの時期は近いと考えています(下記 URL 参照)。
リスク・オンに転じるきっかけとしては、サウジアラビアが態度を軟化することによる産油国の協
調減産合意、米連邦準備制度理事会(FRB)の主要メンバーからの今後の利上げに対する慎重な姿勢を示
す発言などが考えられるでしょう。なお ECB や日銀については、今回の日銀の決定を見る限り、これ
以上の追加緩和は逆効果であり、見合わせるべきと考えています。
市場のここに注目第 59 号「2016 年波乱の幕開け-株式市場の混乱は収束へ」
http://www.daiwasbi.co.jp/pdf/market/1318/shijo_20160201.pdf
以上
本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したもので
す。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点におけるレポート作成
者の判断に基づくもので、今後予告なしに変更されることがあり、また当社の他の従業員の見解と異なることがあります。投資に関す
る最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。
2