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急性膵炎の発症機序とフリーラジカル
真辺, 忠夫
日本外科宝函 (1990), 59(5): 367-368
1990-09-01
http://hdl.handle.net/2433/204473
Right
Type
Textversion
Departmental Bulletin Paper
publisher
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話 題
急性解炎の発症機序とフリーラジカル
京都大学医学部第 l外科
真辺忠夫
急性解炎は良性疾患のなかにあって,一旦重症化すると,死亡率の高い難治性疾患である.
この急性醇炎の本態は勝腺房細胞における弊酵素の活性化,活性化 された酵素の腺房細胞外への
逸脱であるが,勝酵素の活性化の機序,腺房細胞膜の破壊の機序 についてはし、ま だに 明らかにされ
ていない.そのために今日なお急性解炎の重症化に対す る予防,および治療法は暗中模索の状態で
あり,多くの場合レったん進行性の経過を辿ると,多臓器障害から死に至 る
解炎の発症の原因としては胆石,アルコー ルを始め,種々の因子があげられ,それぞれに,その
機序が説明されており ,たとえば胆石による隣炎では, Opieの説にみられるように胆石が十二指腸
乳頭部付近に依頓し,胆汁が勝管内に逆流し,隣管内圧が上昇するとともに隣酵素が活性化され,
醇腺房細胞膜が破れ醇炎に発展するとさ れている.
事実,イヌや家兎を用いてこ のような モデルを作製してみると,確かに醇炎は起こる . しかしな
がら,なぜ勝管内圧が上昇し,際酵素が胆汁により活性化(これに もいろいろな問題が含まれてい
るのだが)を受けると,勝腺房細胞膜が破壊され るのかについてはいま だ明らかではない.通常,
線房細胞膜は免疫学的に,あるいは種々 の活性化物質インヒビ ターにより,かな り,しっかりと防
御されている.おそらく防御と攻撃のパ ランスが崩れれば膜の破壊が起こるのであろう.しからば,
何がこのパヲンスを崩し,どのような機序で膜の破壊が起こるのか.急性解炎においてはこの点が
解明 されない限 札 予防,効果的な治療は難しし \
現在用 いられている ト
リ プシンインヒビタ ーは,血中に逸脱した プロテアーゼに対して は効果カ
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認められる.しかし大量に血中に逸脱するものをこと ζ とく不活性化するには, 考え られないほど
の大量のプロテアーゼインヒビタ ーを,隣が荒廃し酵素が出なくなるまで,持続的に用いなけれ ば
ならない.なぜなら,醇における酵素の活性化(とくにトリ プシン)はいったん起 こると進行性で
あり,他の種々の酵素の活性化をっき、
からつぎへ と惹起し,血中に放出し続ける のである.
ヒトにおいては大量のトリプシンインヒビターを用いる場合は副作用の問題もあって,現実には
このような治療は不可能である.理想的には急性拝炎に対して腺房細胞レベルの段階で,何か手を
打て ないかと いうことである.
フリーラ ジカルは,生体においては好中球の貧食, 殺菌作用で代表されるように, 生体防御に重
要な鍵を握っているととも に炎症,あ るいは虚血性病変の発症,進展に関与 し,さ らには放射線,
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索引語急性解炎,フリーヲジカノレ
368
日 外 宝 第59
巻 第 5号(平成 2年 9月
)
化学物質,薬剤による細胞毒性としての作用を有する物質として重要な役割を演じている.
勝炎における フリ ーラジカルの関与については, 1984年に Sanfey1l が初めてフリーラジカルスカ
ベンジャーを用いて治療効果を観察し,隣炎の発症にフリーラジカルが関わっていることを指摘し
てし、る.
しかしながら,これは間接的な証明であり,しかもスカベ ンジ ャー自体の分子量が大きく(数万
以上)細胞移行性が悪いことを考えると,
トリプシンインヒビターと同様,とても弊腺房細胞レベ
ルでイ動くとは考えられないなど,問題点も多い,さらには 1987年 Steerらのク。ループ2)が同様の実験
を行レ.否定的な結論を出すなどで,その後の新しい展開がみられていない.この理由の一つには,
フリーラ ジカノレの寿命がきわめて短く,かつ不安定で、あるために,これを直接とらえて,その存在
を証明することができないことである.
一方,われわれは,生体内ではフリーラ シカルとともに,その消去系が備わっ ているのであるか
ら,その消去系の酵素や,またフリーラ ジカルの一つで、ある 02 を産生にかかわるキサンチン酸化
酵素のような産生系酵素など,比較的安定なものを測定すれば,も う少し明確により直接的にフりー
ラジカ ルの動態を浮き彫りにできるのではないだろ うか,とし、う発想のもとに種々の実験を重ねて
きた.
その結果,非常に興味のあることに,エチオニン隣炎モデルで、は棒炎の進展にしたがし、,フリー
ラジカル消去系(スーパーオキサイドディスムターゼ,カタラーゼなど)はいずれも有意に低下し
これとは対称的に,キサンチンオキ シタ ーゼなど,フリー ラジ カル産生系酵素は上昇することが明
瞭にとらえられ,隣炎の発症進展機序にフリーラジカ ルが明らかに関与することが示唆されるよう
な結果が得られた 3).
さらに,このようなフリーラシカル種の動きは,やはり膜の破壊に深く関与するライ ンゾーム酵
素とも密接に関与していることも明らかになりつつある的.
現在は,われわれは細胞内に十分取り込まれるような,分子量の小さいスカ ベン ジャーを用いて
の勝炎の治療法について検討している SJ.
将来的にはこのような薬剤を用いて,急性解炎を完治できないまでも,重症化を防ぎ得ることが
できるのではと期待をもっている.
文 献
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