税制から見たJ-REITの これまでの15年とこれから

巻 頭 言
Special
税制から見た J-REITの
これまでの15年とこれからの15年
J-REIT 立上げ時には、これまで仕事をすることのな
鬼頭 朱実
PwC 税理士法人 パートナー 公認会計士 税理士
(不動産証券化協会フェロー)
かった方々と、一緒に新しいものを作り上げる今まで
にない大きな高揚感を味わわせていただきました。そ
れから15 年 、税制面では悲願であった税会不一致
の対応策が平成 27 年度に実現し、J-REITの運営は
税の世界では現在 、2015 年 10月5日にOECD 租
今まで以 上に安 定したものになったといえます。
税委員会より公表された、多国籍企業による国際的
J-REITの立ち上げ、税会不一致対応策の導入 、こ
な過度の節税を防止するための施策 、BEPS 行動計
れらの歴史的ともいえる場に居合わせることができた
画の最終報告書が話題となっています。この最終報
幸運に感謝し、やりがいのある仕事を与えていただい
告書において、REITを租税条約上の居住者として
たJ-REIT 業界の方々、CRES 時代から長年 、業界
認めるか、REITから非居住者への分配金について
の声を改正につなげていただいた不動産証券化協
どう取り扱うべきか、についての言及があります。
会の方々にこの場をお借りして御礼申し上げたいと思
OECDのレポートでは、
「 REIT への投資 、REITに
います。
よる投資の規模がともに拡大し、国境を越えて世界的
に発展してきたことから、OECDもその国際的な税に
世界有数の規模となったJ-REIT 市場ですが、グ
かかる論点について検討せざるをえないほど重要な
ローバル化という面ではまだ世界に遅れをとっていま
ものとなった」と記載されています。OECDがこう述
す。米国では米国外に投資するREITが数多くあり、
べているように、1960 年代に米国で導入されたREIT
日本より後に制度を導入したオーストラリアやシンガ
は2015 年 10月末時点で全世界で29 ケ国、株式時価
ポールのREITがグローバル不動産投資時のビーク
総額 180 兆円ベースにまで拡大しています。
ルとして活用されています。グローバル化における重
要要素の一つに投資対象国の税の取扱いがありま
我が国でも、2000 年の投信法改正により2001 年に
すが、例えばオーストラリアでは投資家において外国
2 銘柄から始まったJ-REIT 市場は、15 年後の2015
税額が控除できる税制となっており、日本でも外国税
年 10月末時点で、51 銘柄 、時価総額 10 兆円を超
額も含めた中立的な税制の導入が期待されるところ
え、世界第 2 位の規模となっています。これほど大き
です。「 投資家の換金性が確保できて、グローバル
くJ-REITが拡大した理由は、J-REITが不動産とい
投資が可能 、ファンド自体で租税条約適用ができるよ
う優良投資対象と上場市場を活用した金融ファイナン
うなビークルはないか」というお問い合わせを受けるこ
ス手法を巧みに組み合わせた仕組みだからにほかな
とが以前より多くありました。日本ではJ-REITがまさし
りません。J-REIT 制度導入以前では、不動産業界
くそのビークルであるといえます。ぜひ次の15 年には
と金融業界とは法制・規制面でも異なる点が少なくな
J-REITが日本国内外の投資家にとってグローバル不
く、意識の面でも若干距離があったのではないでしょ
動産投資のハブとしての役割を果たすことを期待して
うか。J-REIT 制度の導入は、両者をうまく融合するこ
いますし、微力ながらそのお役にたてることができれ
とに成 功した稀 有な事 例といえます。 私自身も
ばと思っています。
January-February 2016
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