学びを創り続ける道徳の授業 - 大阪教育大学附属平野小学校

◇ 道
徳
◇道 徳
学びを創り続ける道徳の授業
学びを創り続ける道徳の授業
~道徳的価値の内面化を図るカリキュラムづくり~
~道徳的価値の内面化を図るカリキュラムづくり~
吉松 智昭
附属平野小学校
吉松 智昭
はじめに
本年度は、本校研究主題である「学びを創り続ける子どもの育成」の第 3 年次である。道徳では、第 1
年次として、
「学びを表現し、よりよい生き方をめざす子どもの育成」をテーマに「学びを創り続ける子
ども」とは、どのような子ども像であり、
「学びを創り続ける授業」のあり方とはどのような授業である
のか明らかにしてきた。第 2 年次では、その授業における教師の役割として「学びを創り続ける姿の見
取り」と「学びを創り続ける授業構成」について授業研究を進めた。道徳の時間を学級活動と関連を図
ることで学びを創り続ける姿を見取ることができ、その見取りを活かして、学びを創り続けることを推
進させる授業をつくることができた。しかし、道徳的価値の内容項目によっては、学級活動と関連を図
れず、学びを創り続ける姿を見取ることもできなかった。
そこで本年度は、すべての内容項目で学びを創り続ける授業が展開できるように、各教科・領域や学
校行事などとの関連性を明らかにし、既存の教育課程を見直していきたい。加えて、そのための学びを
創り続けるカリキュラムづくりの視点を、実践や体験を振り返って学んだ価値を内面化する思考から明
確にし、授業研究に取り組む。
1.「学びを創り続ける」子ども像
(1) 道徳の時間でのめざす子ども像
道徳の授業の目的は道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度の育成である。それは教師の一方的な押
し付けや単なる行動の仕方や言葉の使い方などに始終せず、どのような場面・状況においても、道徳的
価値を実現するための適切な行為を主体的に選択し、実践すること
ができるような「内面的資質」としての、道徳的な判断力、心情、
よりよく生きる行為
実践意欲と態度の育成である。それを目的とする道徳の時間では、
支える
道徳的価値を実現するための適切な行為を支えている「こころ」を
豊かに育てたい。そのためにも、毎時間、子どもが自らの日々の生
活をふりかえり、これからの自己の生き方に結び付け、よりよく生
こころ
育む
道徳の
時間
きようと考える力が重要になる。また、よりよく生きようと考える
力を育成していくためにも、一度考えた内容に満足することなく、
友だちとの学び合い活動から、さらによりよい生き方・考え方はな
いかと考え続け、
その道徳的価値を実践していこうとする姿が道徳
図 11-1
でのめざす子ども像である。
道徳の時間の目的
(2)道徳で考える「学びを創り続ける姿」
これからの自己の生き方に結び付け、よりよく生きようと考えることは、日々の生活の中でも、道徳
の授業の中でも共通している。子どもが、ある状況下や場面で、その考える力を発揮し、その道徳の時
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156 —
間のねらいとなる道徳的価値についてのよさを感じ取り、その場面で人としてふさわしい行為や行動を
選択・実践しようとすることを道徳における「学びを創る」ことと考える。そして、その結果から得ら
れる充実感、満足感を感じ取り、これからの自己の生き方に結びつけて考えることが、さらに次への「学
びを創る」ことにつながっていく。よって、この一連のサイクルが道徳における「学びを創り続ける」
ことになる。
2.学びを創り続ける授業の視点
(1) 道徳的実践意欲を高める
道徳における「学びを創る姿」は、道徳の時間だけに留まらず、日常の生活の中でも現れてくる。日
常生活と違うところは、道徳の時間は道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度の育成という目標がある。
よって、道徳の時間で道徳的行為を支える「内面的資質」の育成を図りつつも、その一部である道徳的
実践意欲を高めていくことで、
「学びを創り続ける」ことは、より推し進められると考える。
(2)学び合い活動の場の設定
子どもは、道徳の時間の中でも日常生活の中でも「学びを創る」ことを連続・発展させながら、学び
を創り続けていく。しかし、道徳の時間の中で「学びを創る」ときは、常に友だちと共に学びを創るこ
とができる。この点で言えば、日常生活の中で「学びを創る」ときとは違う。よって、友だちと学ぶ、
学び合い活動の場を有効的なものにすることで道徳の時間における目的を果たすことに繋がってくる。
これを実現するためにも、道徳の授業では、次の 3 つのことを大切にしている。
①身体感覚からのアプローチ
自らがよりよくあろうと考えるには、それまでの体験・経験を想起する必要がある。内面的な部分
も考えていくためにも、身体感覚から自分をふりかえるアプローチを実施していく。
②話し合い活動での交流
子どもが体験的活動から感じたことや考えたことは一人ひとり違う。その自分の考えだけで終わる
のではなく、友だちの考えも取り入れて、新しい考えや気づきを生みだすことで、さらによりよい自
分を目指そうとすることができる。
③自己をふりかえる場の設定
道徳の授業でよりよく生きようと考えるには、自ら考えを整理して、深める機会が必要である。友
だちの考えと自分の考えと比べ、なぜ友だちはそう考えたかを受け止め、自分はどうなのか深く考え
ることによって、学び合い活動の場が成立していると考える。
3.道徳における学びを創り続けるカリキュラム
(1)道徳的価値の内面化を図るカリキュラム
本校総論では、子どもたちが学びを創り続けるためにつけたい力として、国立教育政策研究所が提案
した「21 世紀型能力」の「実践力」を挙げている。これは、道徳においては道徳的実践に大きく関わっ
てくる力で、大切にしたいところではある。
「教育課程の編成に関する基礎的研究 報告書 5 社会の変
化に対応する資質や能力を育成する教育課程編成の基本原理」(国立教育政策研究所教育課程センター)
には、次のようにも述べられている。
「実践は、その働きかける対象によって、対人、対自然、対社会など様々な形態をとりうる。そのい
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157 —
ずれにおいても共通するのは、行為者がある目的の下に意識的に行うという点である。従って、教育に
おいて実践力を育成する場合には、『どのような目的で』行為を意図するかという問い、すなわち行為
者が何をめざし、何を大切にして行為するかという『価値』の問題を離れて構想することはできない。
また、実践意欲が実際の行為に結実して現実に働くためには、それらの『価値』を生活で実現するため
の習慣や態度形成に向けたカリキュラムも求められる。そこで、『実践力』として求められる資質・能
力を構想する際には、育てたい能力と共に、学校教育を通してどのような価値を育むかという『共有価
値』も合わせて構想することとした。」
要するに、学びを創り続けるために必要な「実践力」は、それを育むための「能力」育成とともに、
実践や体験を振り返って学んだ価値を内面化する思考を図る必要がある。そして、それは学校教育活動
全体を通して行われる道徳教育は勿論のこと、道徳の時間における役割も大きい。よって、道徳的価値
の内面化を図ったカリキュラムづくりに取り組むことが、学びを創り続けるカリキュラムづくりに繋が
ると考える。
(2)道徳的価値の内面化を図るカリキュラムづくりの視点
上記のことからも、ここでの「道徳的価値の内面化」は、
「実践力」を構想する際に考えられた道徳的
価値について、今までの生活経験や学習体験から学んだ価値を内面的に自覚することである。それは、
今までの学びを実生活で活用する方向性を明確にするとともに、道徳的実践に繋がる道徳的実践意欲を
高めることも期待できる。故に、
「道徳的価値の内面化」を図ることが可能になる体験と思考を結びつけ
る教育課程の実現をめざす。その際には、以下の視点をカリキュラムづくりに取り入れ、研究を進める。
① 学校の共有価値の明確化
道徳的価値の内面化を図るためには、学校教育を通してどのような価値を育むかという「共有価値」
を明確化する必要がある。年間を通して、学習指導要領に示されている道徳の内容項目をすべて扱うこ
とは当然であるが、その中でも、「共有価値」にあたるところは、学びを創り続ける資質・能力に直結
しているが故、教育課程編成の上で重要になる。本年度は、道徳人権教育推進委員会の中で、道徳教育
の全体計画を見直し、本校においての「共有価値」を以下のように明確化し、学校全体で共通理解を図
った。
【本校共有価値】
○自己を理解し、より高い目標を立て、創造的にねばり強く追究していく子ども。
○人との関わりの中で思いやりの心を育み、相手の立場に立って行動する子ども。
○自然を愛し、自他の生命を尊重すると共に、郷土の伝統と文化を大切にする子ども。
② 生活経験や体験的活動を重視
道徳的実践に向かう方向性を位置付けるために、道徳的価値の内面化を図る。ということは、今ま
での学びから得た価値観を明確にしたり、学び合いの中から新たな価値観を創造したりする背景には、
今までの経験や体験があり、これからの実践の場が意識されるべきで
ある。よって、今までの生活経験や学習における体験的活動を重視し、
そこに身体感覚からアプローチしていくことが肝要であると考える。
身体感覚からのアプローチの有効性はこれまでの研究から明らかにな
っているが、それだけでなく今年度は、道徳的価値の内面化を図る上
でも活用したい。例えば、低学年では価値の内面化を図ったとしても、
図 11-2
—
158 —
2 年生の動作化の様子
それを明確に表す術はまだ身についておらず、なんとなくそう感じるからで価値創造している場合も
少なくない。よって、身体感覚からアプローチすることで、快・不快を感じそれを根拠に内面化を図
ることも 1 つの手立てだと考える。
③ 道徳的価値の自覚を深める
道徳的価値の内面化を図ることは、道徳的価値の自覚を深めることといっても過言ではないぐらい
大いに関係する。今までの価値観をより実践的な活動を通して、または、想起して新たな価値観を創
造していくという点では、違っている面もある。しかし、道徳的価値の内面化を図るためには、道徳
的価値の自覚を深めることは不可欠である。道徳的価値の自覚を深めることは、道徳の授業の視点に
も関わることでもあるが、カリキュラムづくりにおいても考えてみる。
「小学校学習指導要領解説 特
別の教科 道徳科」には、道徳性を養うために行う道徳科における学習として、以下の 4 点が示され
ている。
○道徳的諸価値について理解する
○自己を見つめる
○物事を多面的・多角的に考える
〇自己の生き方について考えを深める
これらは、道徳的価値の自覚を深める過程で大切であると述べられている。特に 2 つ目の価値理解、
人間理解、他者理解を自分との関わりで捉えることや 4 つ目のこれからの生き方の課題を考え、それ
を実現していこうとする思いやねがいを深めることについては、カリキュラムづくりにおいて各教科
や学校行事などと関連を図っていくことにより、道徳的価値の自覚がより実現可能になりやすいと考
える。
4.道徳的価値の内面化を図るカリキュラムづくりの実際
3で述べた学びを創り続けるカリキュラムと道徳的価値の内面化を図る視点を踏まえて、以下の要領
で実際にカリキュラムづくりに努めていく。
(1)重点内容項目を核に置いた教育課程編成
学校の「共有価値」を道徳の重点内容項目に置き、それにかかわる内容項目の道徳の時間を年間指導
計画の中に位置づけ、単元構成や授業構成をする。内容項目によっては、他の教育活動と関連しやすい
ものや関連しづらいものがある。そこで優先されるものは、重点内容項目である。
「共有価値」も合わせ
て構想している「実践力」は、総論を要に各教科・領域で学びを創り続けるために育まれている。道徳
教育においては、その力の使われ方、すなわち人間性の形成にかかわる根幹となる。よって、本校の「共
有価値」を重点内容項目に置き、教育課程を編成していくことは重要であり、年度当初に計画されるべ
きである。具体的には、集団宿泊活動や総合的な学習の時間といった体験活動は、どの内容項目とも関
連しやすい教育活動である。では、どの価値項目と関連した計画を立てるかというのは、児童の実態や
年間指導計画のバランスも加味するが、重点内容項目も重要視することで、学校全体でめざす子ども像
に育むことができる。
(2)教育活動全体と関連を図った道徳の時間構成
道徳的価値の自覚を深めるため、教育活動全体と関連を図ったカリキュラムづくりをする。関連の図
り方は次の 2 通りである。
—
159 —
① 教育活動全体で行う体験的な活動と関連した単元構成
道徳の時間は、学校の教育活動全体で行う道徳教育の要として、それぞれの教育活動で行われた指
導を補ったり、深めたり、まとめたりするなどの役割がある。よって、教育活動の中で行われた体験
的な活動と関連付けることで、学習した価値を現在の価値観として生み出すことができ、次の実践の
場を意識した新たな価値創造の授業として、道徳の時間が位置づくと考える。これを実現するために、
子どもの思いやねがいに沿った学習計画を、道徳の時間を位置づけた単元計画として立てる。そうす
ることで、多様な体験活動や学校行事、学校生活を活かした授業を工夫することができ、子どもも必
要感をもって学びを推し進めることができると考える。しかし、道徳的実践を強要するような学習計
画にならないように配慮しなければならない。道徳的実践のための事前指導として道徳の時間を位置
づけるのではなく、あくまでも道徳の時間の位置づけは、補充・深化・統合の役割を果たし、道徳的
価値の内面化を図ることで道徳的実践意欲を高めることをねらいとする。それによって、道徳におけ
る学びを創り続ける姿が現れると考える。道徳的実践との関連は、次の項で述べる。
② 道徳的実践の場と関連付ける
昨年度の研究の成果により、道徳の時間の終末に道徳的実践の場を意識させることは、道徳的実践
意欲の高まりに繋がることが分かった。しかし、その実践の場を学級活動に限定したため、関連が図
れない内容項目もあった。本年度は、学級活動だけでなく、各教科や領域、学校行事や学校生活など、
学校の教育活動全体と関連することで、年間を通しての道徳的実践力の育成をめざす。さらに、教育
活動全体と関連を図るため、実践の場は学年内に収まらず、系統的に見た縦のつながりを意識したカ
リキュラム編成の視野も含まなければならない。
(3)学びを創り続ける姿の見取りを活かした年間指導計画
昨年度は、学びを創り続ける姿を見取ることで、授業構成や授業展開に活かし、道徳的実践力の高ま
りについても考察した。本年度も同様に見取りながら、実際に子どもの思いやねがいに沿っていたのか、
道徳的価値の内面化により、道徳的実践意欲が高まり次への学びを創ることへと繋がっていったのかを
検証する。検証結果から、年間指導計画の改善を図っていく過程までが、学びを創り続けるカリキュラ
ムづくりとなる。現段階での学びを創り続けるカリキュラムの一例を表 11-1 に示す。
〈引用文献〉
国立教育政策研究所教育課程研究センター「教育課程の編成に関する基礎的研究
化に対応する資質や能力を育成する教育課程の編成の基本原理」2013
〈参考文献〉
安彦忠彦「
『コンピテンシー・ベース』を超える授業づくり」図書文化社,2014
文部科学省「小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編」2015.7
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160 —
報告書5
社会の変
表 11-1
第 4 学年 道徳年間指導計画案
4月
5月
各教科
【理科】
生き物のよ
うすを調べ
よう
6月
総合
【図工】
アートカー
ドから感じ
たことを伝
え合おう
色付き
重点内容項目
7月
9月
【理科】
夏の自然
【国語】
走れ
10 月
11 月
【国語】
くらしの中
の和と洋
12 月
【社会】
大阪府の産業
1月
2月
【理科】
冬の自然
3月
【社会】
大阪のはっ
てんにつく
した人々
【保健】
体の中で起
こる変化
平野の人とステキに出会いましょう
道徳の時間
エジソンと
えいじ 1-(1)
不思議なぼ
くの気持ち
2-(2)
貝がら 2-(3)
—
あいさつ名
人 2-(1)
161 —
不思議の不
思議 3-(1)
学級活動
学校生活
生活目標
学級目標を
立てよう
雨のバス停
留所で 4-(1)
生活目標
花 さ き 山
3-(3)
あこがれの
アナウンサ
ー1-(5)
ぼくの部屋
1-(1)
フィンガー
ボール 2-(2)
「正直」五十
円分 1-(4)
ぼくの生ま
れた日 -ドラ
えもん 4-(3)
じゅんびをす
るのは 1-(1)
おみまい
2-(1)
新次のしょ
うぎ 1-(4)
徳べえざく
ら 4-(5)
イモリが元
気だと雨が
ふる 1-(2)
けんじのわ
すれ物 4-(1)
あなたがも
つ生きる力
3-(1)
日本はどん
な国?4-(6)
富士山を救
え-田部井
淳子 3-(2)
生活目標
〇〇名人に
なろう
お魚大好き、
さかなクン
1-(5)
バックヤー
ドでも 4-(2)
2 学期の目標
を立てよう
目標を達成
するには
見えない名
札 4-(4)
絵はがきと
切手 2-(3)
学級目標
ハクチョウ
の湖・瓢湖
3-(2)
和がし屋さ
ん の 写 真
4-(1)
おばあさん
のおむかえ
4-(3)
二分の一成
人式
よわむし太
郎 1-(3)
だがし屋の
おばあちゃ
ん 2-(4)
なんとなく
2-(3)
人間愛の金
メダル 3-(1)
学級目標
係活動
生活目標
学校行事
自然教室
運動会
親子
クリーンデ
秋の遠足
平野
カーニバル
避難訓練
お母さんと
の約束 4-(2)
バングラデ
シュから来
たシャボン
君 4-(6)
夢に向かっ
て-羽生結
弦 1-(2)
生活目標