投資対象としての 日本の水道事業

Special
●特集:収益型インフラ
(水道・下水道)
考察
対 談
投資対象としての
日本の水道事業
特集後半では、水道事業を考察します。日本のインフラ投資ビジネスでは先頭を走る三菱
商事の石田氏、そして連載「インフラ・PPP 投資市場の幕開け」でお馴染みの三井住友トラ
スト基礎研究所の福島氏に、我が国の水道事業への金融的アプローチについて語って頂きま
した。
日 時 :平成 27 年 12 月 18 日(三菱商事にて)
石田 哲也氏
三菱商事株式会社 新産業金融事業グループ 産業金融事業本部
インフラ金融事業部
担当部長(事業開発担当)
(ARES マスター M0801880)
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ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.29
福島 隆則氏
株式会社三井住友トラスト基礎研究所
投資調査第 1 部
上席主任研究員
対談:投資対象としての日本の水道事業
世界規模で高まる
水道事業への投資ニーズ
福島 本日は、国内外のインフラ事業や投資に
や GRP
( 域内総生産 )などと密接な連関を持つ上下
水道事業は、安定した投資先として見ることが可能
であり、是非とも中長期的に投資を行いたいインフ
ラの一つであろうと思います。
お詳しい石田様と、投資対象としての日本の水道事
福島 2013 年 4月の「 産業競争力会議 」に提出
業について、その現状や課題などを議論していきた
された資料によりますと、日本国内の水道事業は、
いと思います。
上水道の資産サイズが約 30 兆円。下水道は地方公
日本にはまだインフラ投資市場が十分に整備され
営企業法の適用事業・非適用事業を併せて約 90 兆
ておらず、ファイナンシャル・インベスターが投資でき
円あるとされています。つまり、水道事業全体では
る国内のインフラは限定的ですが、世界的にはオル
百数十兆円という資産サイズです。もちろんこれは
タナティブ投資の1つとして人気化する傾向にあり
ストックの数字で、この全てが投資対象になるわけ
ます。市場 規模は、ファンドだけでも3,000 億~
ではありませんが、ポテンシャルは大きいと言えそう
4,000 億米ドル。投資家は主に機関投資家で、特に
です。
年金基金や保険会社が中心になっているようです
ただ、ここで素朴な疑問ですが、こうした日本の
が、彼らのように長期スタンスで安定的なキャッ
水道事業に、なぜ今、民間の投資資金やノウハウが
シュ・フローを期待するいわば本質的なインフラ投資
必要とされているのでしょうか。実際に水道を利用
家にとっては、数あるインフラの中でも生活に密着
する一般の方々の中には、このまま公共による運営
した安定性の高い水道事業は、格好の投資対象と
を続けることにどういった問題があるのか、疑問に
なるように思えます。石田様はどういうご認識をお
思われる方も少なくないと思いますが。
持ちでしょうか。
石田 全くその通りだと思います。民営化先進国
である英国や水メジャーの母国であるフランスを始
効率的な投資が求められるインフラ
めとする欧州、同様の制度体系を持つ豪州、そして
石田 インフラの議論をする際には歴史的な経
南北米州などにおいては、上下水道事業において民
緯を考えないといけないと思います。これまで日本
間を活用するという考え方がかなり浸透しており、
では、上下水道事業は地域住民の生活に密着した
ご指摘のようにインフラファンドや年金などを中心と
インフラであることから、基本的に都道府県もしく
する機関投資家が投資を行っています。
は市町村が管理者となり運営が行われてきました。
グローバルビジネスである空港や港湾などにおい
もともと、日本が開国し海外との交流が盛んになっ
て、民営化やコンセッションが進むのは、ある意味
た明治時代に、同時に入ってきたコレラなどの伝染
自然な流れです。地域に密着した上下水道というセ
病を防ぐために上下水道が整備されたという経緯も
クターにおいても、これらの国々において民間事業
あり、基本的に「 お上」が行う事業でした。また、
者の参入が進んできていることを見れば、これもあ
特に高度経済成長を謳歌した1960 年代以降には、
る意味グローバルな趨勢であり、世界経済にも大き
経済成長に伴い政府が集中的に財源を確保し民政
な影響力をもつ日本で、コンセッションなどの民間
に資する事業を行うことへの要請が大きかったこと
活用がなかなか進まないのは「 不思議 」と言っても
もあり、国・自治体といった官による整備・運営が進
過言ではないかと思います。
むようになります。
機関投資家の観点から見ても、地域の人口動態
このように考えると、日本が大きく成長していった
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Special
時代には、ヒト、モノ、カネといった国民の大切な資
源をうまく配分する役割を官が負ったと理解できま
す。
一方、オイルショックを経てバブル経済崩壊以
降、日本の高度経済成長モデルは大きな変革を求
められます。ARESにも縁の深い金融や不動産の
セクターにおいては、従来型の護送船団方式や不動
産担保金融などの古いビジネスモデルから抜け出し
て90 年代から改革が行われ 、不動産証券化ビジネ
スという新しいモデルを展開しJリート市場も誕生し
ました。不動産利用の受益者でもある企業にとって
も「持たざる経営」で、機動的な企業経営が可能と
なり、経済にも様々な良い影響を与えています。
翻って日本のインフラを見れば、新しい経済成長
モデルを考えなければいけないのに、依然として50
年前のモデルを引きずったままです。また50 年前に
集中投資された施設・設備は徐々に更新時期を迎え
石田 哲也氏
てきますが、日本の公的債務もそろそろ限界に到達
Profile
しており、借金や増税により官が管理運営を行う状
いしだ てつや
慶應義塾大学経済学部卒、米国ペンシルべニア大
学経営大学院(ウォートン校)MBA。
1989 年日本輸出入銀行入行。外資系金融機関、
三菱商事 UBS リアルティ等を経て 2010 年か
ら三菱商事に勤務。13 年5月より現職。
専門分野はインフラファンド、官民連携、インバ
ウンド観光戦略。金融庁「インフラファンド勉強
会」委員、国土交通省「独立採算型等の官民連
携事業におけるリスク・ヘッジ手法研究会」委員、
旭川市「医療観光検討協議会」委員等を務める。
不動産証券化協会認定マスター、国土交通省観光
庁 通訳案内士(英語部門、中国語部門)登録。
官民連携に関する講演多数。著作に「官民連携に
よる交通インフラ改革」(同文舘出版・共著)「イ
ンフラファンドが PFI を変える」(
『週刊金融財政事
情』2013 年 7 月 1 日号)「アジア航空大競争時
代と三位一体による空港経営」(関西学院大学産業
研究所 産研論集 40 号 ,2013 年)「日本のイン
フラファンド市場発展のための課題と展望」(
『証券
アナリストジャーナル』2014 年 2 月号)など。
況を見直す必要があることは論を俟ちません。その
ような中で、コンセッションなどの仕組みを使うこと
で長期に運営が必要とされる事業に、政府に代
わって年金などの資金を投入することが可能になる
わけです。
福島 そうしますと、年金基金や保険会社などの
投資家側は投資対象としての水道事業に興味を
持っている。一方の公共側も、厳しい財政事情から
民間の投資資金に期待する部分が大きい。つまり、
需要と供給それぞれのニーズは合っている状態です
ね。そう考えますと、水道事業に対する民間投資が
もっと盛んに行われてもよさそうな気がしますが、
現実にはそうはなっていません。
一方、政府は、コンセッション方式を活用した
PFI 事業に対して、
「 PPP/PFIの抜本改革に向けた
アクションプランに係る集中強化期間の取組方針に
ついて」
( 2014 年 6月公表 )で、2016 年度までに 2
兆~ 3 兆円の事業規模と19 件
( 空港 6 件 、水道 6
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対談:投資対象としての日本の水道事業
件 、下水道 6 件 、有料道路1件)の事業を達成する
という数値目標を掲げています。この19 件という目
標の中でも、順調に進んでいるとみられる空港や有
料道路と比べると、水道事業は上下ともに目標達成
が厳しそうな気もします。日本の水道事業への民間
投資が進みにくいことに、特有のボトルネックがあ
るのでしょうか。
石田 前に進めようという音頭を政府が取って、
コンセッションという仕組みで変えていこうとする姿
勢は正しいものですが、これまで上下水道について
は限定的な改善が多かったと思います。例えば期
間については1年毎の委託契約の更新、長くても5
年という期間で民間の力を使おうということが多
かった。5 年程度で実現できることには限りがあり、
ファイナンスや中長期的なバリューアップのための大
型投資に関しては何もできません。インフラ民営化
先進国における上下水道のアプローチでは期間は
定めない。あっても20 ~ 30 年といった長期契約が
福島 隆則氏
前提です。業務範囲についてもDBFO( デザイン・
Profile
ビルド・ファイナンス・オペレーション)
と、ファイナン
スまで関わるケースが殆どです。残念ながら日本は
そういう議論ができていません。
また、今後人口減少が進行していく日本では、現
状の水道事業を行う単位である市町村では小規模
すぎるため、英国のように広域化を進めていくこと
も必要でしょう。
コンセッション導入の本来の目的は、ゼロベース
の抜本的な改革を可能とするようなリエンジニアリ
ングを進めることです。事業期間、事業範囲、そし
て広域化等 、従来のビジネスモデルを白地から見直
ふくしま たかのり
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了
(MBA)
。内外の投資銀行でデリバティブやリス
クマネジメント業務に従事し、現職ではインフラ
投資に係るコンサルティング、アドバイザリー、
リサーチ業務。自治体向けの公的不動産(PRE)
や PPP コンサルティング業務に従事。
国土交通省 「不動産リスクマネジメント研究会」
座長。国土交通省「不動産証券化手法等による公
的不動産(PRE)の活用のあり方に関する検討会」
委員など。早稲田大学国際不動産研究所招聘研究
員。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)
。
著書に「よくわかるインフラ投資ビジネス」
(日
経 BP 社・共著)
、
「投資の科学」
(日経 BP 社・
共訳)など。
すことが可能となる制度設計により、改革を更に進
めることが必要になります。
加えて、上下水道に関わる中央官庁の縦割りの弊
害もあるのかと思われます。事業を行っている自治
体はひとつであったとしても、上水道は厚生労働
省、下水道は国土交通省、工業用水は経済産業
省、農業集落排水事業は農林水産省がそれぞれ所
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管官庁となっており、自治体の資金調達に関しては
に欧州では、民間企業が水道事業を運営すること
総務省・財務省、PPP/PFIに関しては内閣府といっ
も一般的です。例えば、英国の代表的な水道事業
た具合に、オリジネーター側の自治体の交渉相手は
会社であるテムズ・ウォーターも、元々は地域の水道
複数に及びます。大変な労力と時間を要することに
公社
( Thames Water Authority )だったものが 、
なり、それゆえに比較的簡素にできる「 改善」のみ
施設の保守管理に必要な財源確保などの目的で、
に進むことに終始してしまいます。
当時のサッチャー政権の下で民営化され 、その後
福島 確かに、日本の水道事業で官民連携とい
は積極的な海外展開も行うようになり、現在ではフ
うと、コンセッションなど民間がファイナンスまで関
ランスのスエズ・エンバイロメント、ヴェオリアととも
わるものではなく、部分委託や包括委託といった業
に世界3大水メジャーの1つと称されています。
務委託のイメージが強いですね。実際のところ地方
このようなビジネスモデルは、日本の水道事業に
自治体などでは、現在どういった動きになってきて
とって参考になり得るでしょうか。また、日本の水
いるのでしょうか。
道事業会社も将来、世界の水メジャーに数えられる
石田 日本においては、2001年に水道法の改正
ような展開は期待できないものでしょうか。
が行われ 、民間委託への道が開かれました。上下
石田 ご指摘のような水メジャーと日本の水道事
水道事業におけるPPP/PFIの進展を期待して、三
業者の一番の大きな違いは、前者は自国市場にお
菱商事等が「ジャパンウォーター」
( 2000 年)、水メ
いて事業として上下水道事業を運営してきた実績が
ジャーのヴェオリアが「ヴェオリア・ジャパン」
( 2002
あり、それをベースに海外展開を行っていることが
年)を設立するなど、民間による水道事業への参入
あります。例えばヴェオリアは19 世紀半ばにリヨン
が始まり、水道事業者が委託という枠内で自治体
市で始まった事業を起源としていますが、その後リ
のニーズに対応すべく提案をしています。一例をあ
ヨンにとどまらず、パリや他の欧州地域へ大きく展
げれば、当社が 2010 年に出資参画した「水 ing 」は
開しています。同じく水メジャーの一角を占めるス
広島県とのジョイントベンチャーで「 水みらい広島」
エズにおいても欧州や文化的に近いラテンアメリカ
をつくり、運営型 PPPを受託している実績もありま
などで事業を進め、いろいろな地域での事業の経
す。
験があります。日本においても価値観や習慣が近
上下水道事業の多くは範囲や期間を限定した「改
善」が進むのみで、本格的なコンセッションの導入
い場所で展開していくという可能性はあると思いま
す。
には至っていないのが現状ですが、そのような中
ただ日本では、上下水道は基本的に「官」が担う
で、小さな自治体では目先の問題として技術者不足
という前提でスタートしたこともあり、再三申し上げ
の問題が顕在化してきており、それを補完するよう
ている通り、民間による国内の事業は期間も業務も
に「 水みらい広島」のような形が実現しているのだ
限られた範囲で下請け的な役割を果たしているに
と思います。
過ぎません。海外においては、三菱商事も参画して
いる
「マニラウォーター」
(フィリピン)
や
「 Trility (
」豪
日本の水道事業者には
意図的な事業参加機会を
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州)などはあるものの、海外で積んだノウハウを日
本に還流するチャネルも限定され 、海外と国内が分
断されてしまい、せっかくのグローバルな経験やノウ
福島 ここで海外に目を転じてみると、最初に石
ハウが活かされない。水メジャーのような「 面」で
田様がおっしゃったとおり、英国やフランスなど特
攻めるアプローチと比べて、
「 点 」としてのアプロー
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対談:投資対象としての日本の水道事業
チは不利な面が多いのです。このことからも、日本
ではなく先ずは国内マーケットで経験を積む機会を
国内に意図的に水道事業者が活躍できるマーケッ
提供することの方が重要になると思います。
トをつくっていくことがまずは必要ではないでしょう
か。
福島 なるほど。日本の事業者の能力は高く、
「プノンペンの奇跡」など、そうした技術力に期待す
一方で、水メジャーにおいても民間事業者ですの
る国々も少なくないと思っていましたが、自国市場
で、時代に応じて自らの取り組む事業ポートフォリオ
での運営経験の少なさは致命的な欠点になるよう
を見直しており、これまでの歴史の中で、事業環境
ですね。
等の変化に応じて撤退などを行ったケースもありま
石田 今の状況は、国内でほとんど実戦経験の
す。大切なのは、それらの経験を踏まえて、官民と
ないスポーツチームが、いきなりオリンピックに参加
もにPDCAサイクルを回して、枠組みやリスクシェア
するようなもので、土俵に上がることさえ難しいので
の方法などを常に見直すことで、最終的な受益者で
はないかと思います。繰り返しになりますが日本政
ある、利用者にとっての「価値 」を実現していくこと
府として、水道事業を成長産業として位置づけ、そ
だと思います。
の高い技術をもって海外でも活躍するのを望むので
福島 「 意図的に水道事業者が活躍できるマー
あれば、先ずは自国市場での事業参画の機会を積
ケットをつくる」というのは、興味深い提言ですね。
極的に創造することが大切です。国内の実績がな
ただ、日本の水道事業における官民連携の現状を
ければ水道事業の海外展開は期待できません。
考えると、水道事業に投資することを待ちきれない
投資家は、合意形成などでまだまだ時間のかかりそ
うな国内の水道事業への投資はあきらめて、日本企
官民連携の課題と期待
業が関わるアウトバウンドの水道事業に投資するこ
福島 これまでお話をうかがってきて、日本の水
とを考えた方が早くないでしょうか。交通や都市開
道事業の課題は、そのまま日本の官民連携全体の
発、ポップカルチャーなどの分野では、既にそうし
課題の縮図のように思えてきました。水道事業をは
た官民ファンドも組成されています。
じめとする日本の官民連携 、特に民間の投資資金
石田 安倍政権はインフラの海外輸出を重要戦
を活用するという意味での官民連携は、現在決して
略として位置づけており、水道に限らず、交通、通
早いスピードで進展しているようには思えません。
信といったインフラに関して官民ファンドによる支援
これをもっと促進するための方策はあるでしょうか。
が行われています。ここでは安定した利益とリスク
石田 PPP/PFIというのは、従来型の公共事業
コントロールが重要な観点となりますが、海外のイ
のようにある程度上意下達で行えるようなものでは
ンフラプロジェクトにおいては、自国で関わる以上
なく、民間の持つ力を十分に引き出せるような制度
に、政情、為替 、法制、文化などコントロールが難し
設計や官による協力が必要です。新しいコンセプト
いリスク要素が増えるため、国内でほぼ経験が無い
であるコンセッションについては、まずは案件をつく
事業者にとっては、いきなり海外でウルトラCに挑
ることです。
戦するような難しさがあると思います。
日本の投資家にとっては、コントロールできない
空港については仙台空港 、関西国際空港のコン
セッションが緒に就いたばかりですが、その前段に
要素で損失を被る可能性が高い海外よりも、自分の
は「空港運営のあり方に関する検討会
( 2010 年度)
」
目で確かめることができる東京や大阪といった水道
など、民間の能力を活用した国管理空港等の運営
事業の方が安心感は高まります。一足飛びに海外
に向けた下慣らしの段階があります。水道事業にお
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いても、まずは課題の整理 、方向性の整理が必要
ジャー”に数えられるのに、インフラ・PPPの市場は
です。また市町村が中心になるケースが多いもの
ほぼゼロというのは極めてアンバランスで、問題が
の、オリジネーター側の地方自治体にそのようなノ
あると思っています。ただ逆に言えば、ポテンシャ
ウハウは十分に蓄積されておらず、ノウハウを持った
ルは無限にあるということですから、2016 年こそは
人がいたとしても2~ 3 年毎に行われる人事異動に
石田様のおっしゃるような方策が実現し 、日本にも
よって、それが十分に継承されることが困難となっ
水道事業をはじめとするインフラ投資市場が形成さ
ています。
れ 、投資やビジネスの機会がもっと広がる年になる
PPP/PFIを進めるにあたっては、制度設計が重
ことを期待しています。最後に、水道事業をはじめ
要である一方、現場におけるノウハウ蓄積とそれを
とする日本のインフラ投資市場の今後の見通しをお
ベースとした、テーラーメイド型の作りこみという
うかがいできればと思います。
「アート」な部分が必要であり、それを補う仕組みと
石田 序盤で申し上げた通り、高度成長期真っ
して、日本においても例えば PPP/PFI先進国であ
ただ中の1960 年代には、上下水道を始めとするイン
る英国の「 IUK
( Infrastructure UK )
」や、韓国の
フラが積極的に整備され 、国民の生活水準ととも
「 PIMAC
(公共投資管理センター)
」のように案件を
に生活環境が改善され 、それを集大成するようなオ
デベロップメントするような組織を整える必要があ
リンピックが東京で 64 年に開かれました。そして今
ると思います。ここに集中的にノウハウを蓄積させ
から4 年後の2020 年には再び東京でオリンピック
ることで、後続の自治体は既存のコンセッション事
が開かれます。50 年前のオリンピックが、
「明日は今
業のノウハウを活用することができ、担当者の負担
日より良くなる」という時代の雰囲気を象徴していた
を減らせます。また民間事業者にとっても、始めか
ように、現在に生きる我々も同じような気持ちで4
ら高度な議論が可能となり案件開発が促進される
年後のオリンピックを迎えたいものです。
ことを期待できます。
また、水道事業の民営化には合理的な料金体系
4 年前の2012 年にオリンピックが開かれたロンド
ンでは、民営化等により自国を開いたマーケットとす
が重要な要素ですので、水道民営化先進国の英国
ることで、国際金融市場としての地位を得ています。
にある、水道の経済的規制機関である「 OFWAT
日本には先進国の中でも指折りの規模のインフラス
(水道事業規制局)
」のような制度を整えることも必
トックを持っているわけですから、英国同様にPPP
要と思います。
市場を開くことによって、アジアそして世界のインフ
その結果として民営化・コンセッションのマーケッ
ラ投資市場のメッカとなるポテンシャルを備えている
トが拡大すれば、官民双方にインフラ投資のノウハ
ものと思います。そのためには4 年後のオリンピック
ウを持った人材へのニーズも高まりますが、それを
へ向けて時代の流れにうまく乗りながら、官民共に
育成する仕組みとしては、
「 ARES 不動産証券化マ
努力を重ねていくことが重要だと思っています。
スター制度 」のインフラ版のようなもので、継続的な
人材供給が可能になるものと思います。
福島 同感ですね。個人的には、証券投資の代
表格である株式市場、実物資産投資の代表格であ
る不動産市場で、日本はいずれも世界の
“ 3大メ
福島 そのとおりですね。大変よくわかりました。
本日は短い時間でしたが内容の濃い議論ができた
と思います。ありがとうございました。
本稿の意見にわたる部分は 、参加者の個人的見解であ
り、所属する組織の見解でないことをご了承ください。
※福島隆則氏による連載「インフラ・PPP投資市場の幕開け」は、今回はお休みしました。次号では掲載します。
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