大学出版部 は オ ー ル ド フ ァ ッ シ ョ ン か

大学出版部はオールドファッションか
八潮
植村
いるものもある。設立を準備し入会を打
診してくる出版部は多いが、継続的な出
昨年 %削減され、昨年さらに %カッ
ト さ れ て、 2 年 前 と 比 べ て ほ ぼ 半 減 と
版活動を行うことができずに休止状態と
協会に対して設立のための相談や入会
なる出版部は少なくない。
なった。採択率は4割台から2割台へと
不 採 択 の 理 由 に、
﹁課題に対する評価
申請が増加する傾向は、 年代に顕著に
急落した。
は高いが、予算配分の都合による﹂と付
大学出版部が加盟する法人団体である
んでいただければと思う。
論考が発表されているので、あわせて読
協会の季刊会誌﹃大学出版﹄にも重要な
術振興会に対して﹃科学研究費補助金研
会では、昨年6月に文部科学省と日本学
刊の機会を逸していることがわかる。協
されたものも多く、優れた研究成果が公
公表﹂が求められたことが、出版部の
大学に﹁自己点検・評価の実施と結果の
準大綱化による﹁大学改革﹂がある。各
このところ大学出版部をめぐって、い
くつかの話題が提供されている。直近で
の危機と出版の未来﹂がある。このシン
窓口として機能していることもブームの
あり、マスコミ各社の取材や情報提供の
事務局と専任スタッフを持つ社団法人で
年の国立大学法人化がこれを
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加速化した。法により﹁当該国立大学に
おける研究の成果を普及し、及びその活
で扱う学術書は、おもに人文学および社
について小考を加えることにする。ここ
よう。その上で大学出版部が担う学術書
取り上げ、設立ブームの背景を探ってみ
そこで大学出版部をめぐる環境変化を
年に東京外国語大学、そして国際
年に岡山大学、筑波大学、東京藝術大
壊﹂
、
﹁少子化﹂
、
﹁若者の活字離れとデジ
出版不況に加え﹁大学の危機﹂、﹁教養崩
に﹂と書き出した記事もあった。確かに
﹁ 出 版 不 況 の 荒 波 に 抗︵ あ ら が ︶ う よ う
て は い な い。 書 籍 の 刊 行 を 船 出 に 例 え
に向けた明るい話題﹂として受け取られ
ただし、設立ブームは必ずしも﹁将来
ないでいる。
目指しているし、協会側も助力を惜しま
な出版活動の体制を整えることで加盟を
年 に 富 山 大 学、 ずれも協会には未加盟であるが、継続的
移行が決まっている。
とだろう。また同時に、一般社団法人へ
員をようする出版団体に発展しているこ
な仲間としてむかえて 大学出版部の会
総会を終え、関東学院大学出版会を新た
公表される頃には、本年5月の定時社員
のときは 大学出版部であった。本稿が
ある﹁有限責任中間法人﹂となった。こ
責任をもった、権利能力のある社団﹂で
調に会勢を増し、2005年に﹁社会的
意団体としてスタートした。その後、順
8大学出版部と2学術出版団体による任
念に基づく設立ではなく、環境変化に対
えておくべきだろう。学術出版という理
地方大学のパブリシティという要素も加
学による建学のアイデンティティ確立や
走らした一因である。これに中堅私立大
立なども、大学名を冠した出版部設立に
原理の導入、さらには大学ブランドの確
もちろん自己収入増大への腐心、競争
ある。
業と同等に位置づけることができたので
よる出版活動を私学における補助活動事
用を促進すること﹂とされ、国立大学に
会科学の図書︵モノグラフ︶とする。ご
タル依存﹂と書き出せばきりがないくら
学、
教養大学と続いており、確かにブームと
減されたことがある。このうち大学出版
公開促進費が2年間にわたって大幅に削
刊行を支える科学研究費補助金研究成果
直近の危機的話題としては、学術書の
の名を冠した出版部には、この基準を満
る﹂という一定の入会資格がある。大学
部及びこれに準ずる学術出版団体とす
には﹁大学を設置する法人が認めた出版
正確のところは不明である。協会の定款
協会の設立主旨には、出版という仕事を
学術書だけを出版しているわけではない。
なく、また逆に大学出版部は、必ずしも
も大学出版部だけが行っているわけでは
一つだけ確認しておくと学術出版は何
"
なお、日本の大学出版部の特徴や協会
通じて大学の機能に参加する方法として、
呼べる様相を示している。
の活動については、多くの人々によって
たしていないものや出版活動を中止して
る上での留意点である。
偏っていることも、学術出版の未来を語
考 察 が 加 え ら れ、 成 果 が 残 さ れ て い る。 部が関わる﹁学術図書﹂助成の予算は一
日 本 に い く つ の 大 学 出 版 部 が あ る か、 のである。
する内的要求が強く働いた設立ブームな
存じの通り、自然科学における研究発表
い、大学出版をめぐっては負のキーワー
協 会 は 1 9 6 3 年 に 設 立 さ れ、 当 初、
大学出版部設立ブームの実態
要望﹄を提出して理解を求めている。
設立 ブ
" ームを呼んだ。さらに﹁知の共
同体﹂から﹁知の経営体﹂への転換と指
周年を迎えた。小さいながら
ポジウムが一つのきっかけとなり、最近、
背景にある。先の新設大学出版部は、い
年、創立
大学出版部が設立されている状況が注目
会の発足記念特別シンポジウム﹁人文学
されたのである。
摘された
究成果公開促進費﹁学術図書﹂に関する
なった。その背景には 年の大学設置基
90
﹁大学出版部協会﹂
︵以下、協会︶が、昨
東京電機大学出版局
10
は4月に開催された東京外国語大学出版
大学出版部への注目
40
ドばかりである。
国公立大学だけでも
04
45
は学術雑誌における論文︵ペーパー︶で
06
ある。電子ジャーナルが自然科学分野に
32
28
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07
12
丸善ライブラリーニュース 第 6 号
①研究成果の発表としての学術書の刊行、 フォード大学出版局が、学内印刷部︵プ
については、ジョン・トンプソンがイサ
容を担保することで自らの価値を高めて
出版社は営々たる活動の結果、出版社
いがあるとすれば、母体大学の名前を冠
その上で商業学術出版社との絶対的な違
基 づ く 自 立 的 な 運 営 が 求 め ら れ て い る。
しても、基本において自らの経済活動に
タイルを持つが、利潤を追い求めないに
の一部局など、さまざまな組織の運営ス
また、株式会社、財団法人、大学法人
を刊行する商業出版社と変わりはない。
ている。この点において学術書・専門書
かる啓蒙書、教養書の刊行の三つを掲げ
の出版、③研究成果の社会への普及をは
ポ ー ト に "University Publishing In A しているのが、皮肉にもグーグルブック
がある。このレポートでは、 検索である。日本では慶應義塾大学図書
Digital Age"
学術情報流通の急速なデジタル化のなか
館と連携したことで話題となった。また
それに対する新たな戦略を提言したレ
ル化と大学出版部に与える影響、および
︶が米国の
年7月にイサカ︵ Ithaka
高等教育機関における学術情報のデジタ
組むことが求められている。
進む中で、大学出版部も電子出版に取り
トリなど、大学当局による情報化対応が
した。e ラーニングの導入や機関リポジ
通を積極的に試みよ、という指摘と理解
だけでなく、ネットを使った学術情報流
があった。紙に印刷された学術書の刊行
シャーへと転換すべきであるという発言
いて、大学出版部はプレスからパブリッ
先の外語大出版会のシンポジウムにお
米作家協会や出版社による訴訟に対し和
いまだ書籍の信頼性が高いことを証明
るようだ。
の、技術決定論の色彩が強く反映してい
はトンプソンの著作をふまえているもの
かったと指摘している。イサカレポート
出版産業の現実について、理解していな
わらず、主導者たちは学術書を生成する
重要な位置を占めている。それにもかか
と、学術コミュニティでは今でも書籍が
初 頭 に 詳 細 な 調 査 を 行 っ た。 彼 に よ る
文化的な文脈を重視して、2000年代
ち、技術が利用される場としての社会的
に 詳 し い。 社 会 学 者 で
the Digital Age"
あるトンプソンは社会構築論の立場に立
ぶといようである。
出版において、紙の書籍は予想以上にし
者︶イコール読者という図式を持つ学術
は紙幅の都合で省略するが、著者︵研究
記されている。この報告についての評価
﹃ 研 究 成 果 と し て の﹁ 書 籍 ﹂ の 刊 行 を 積
証﹂を通じた文明基盤形成への道﹄では、
の振興について︵報告︶│﹁対話﹂と﹁実
学術分科会報告書﹃人文学及び社会科学
先頃発表された科学技術・学術審議会
時点で当然のことかもしれない。
究発表媒体として紙の本を望むのは、現
強く依存している。研究者が最終的な研
の持つ信頼感は文化的伝統や読書慣習に
化され技術によって担保されるが、読者
てとらえることにしよう。信頼性は数値
ここで信頼性と信頼感を便宜的に分け
い る。 デ ジ タ ル 革 命 の 寵 児 と も い え る
のブランドを確立する。そのブランドに
解案が提示されたが、これが世界中の出
カレポートの2年前に著した
より社名の下に刊行された書籍が信頼に
で、大学図書館が機関リポジトリや論文
版社を巻き込んだ論争となっていること
レス︶として始まったことに由来する。
ある。一方、すでに確立された評価を持
オンデマンド出版などに乗り出して、利
②効果的な教育を援けるすぐれた教科書
つ大学名を出版部に冠することで、新設
用者ニーズに応えている一方で、米国大
足りる内容を持つことを保証できるので
ションの流行は変革を遂げている。オー
伝統と新奇なデザインの間でファッ
極的に位置付けていくことが必要﹄と明
を高く評価しているのである。
グーグルは、印刷書籍が生み出す信頼感
の大学出版部であっても、一定の信頼性
は周知の通りである。
"Books in
を直ちに取得することができる。箕輪成
学出版部はデジタル化の潮流に乗り遅れ
している、という1点につきる。
男は大学出版部の本質を﹁学者と大学の
ていると指摘している。
グーグルはなぜ検索対象として書籍を
権威増幅機関として発達してきた﹂と指
に日本の大学出版部の課題となっている。 それは書籍こそもっとも信頼される情報
伝統的権威付けと速報的新規性の間にあ
として復活することもある。学術情報も
選んだのか。それも図書館の蔵書なのか。 ルドファッションに手が入ることで流行
であり、さらに図書館によって選ばれた
り、オールドファッションと思われてい
イサカレポートの指摘は、さらに深刻
学術出版が困難になった今日、大学が出
学術情報流通のデジタル化が急速に進む
た大学出版部も紙とデジタルの配分を変
摘 し﹁ 威 信 の た め の 装 置 ﹂ と 看 破 し た。
版部を運営し、学内教員の学術出版を容
像以上に保守的である。ウェブの検索結
情報だからである。我々の読書慣習は想
えるだけで輝きを増すのだろうか。そう
中で、紙の書籍が古めかしい様相を帯び
果が、ブログの記述か印刷書籍の紙面で
だとしても、その立ち位置を見定め、舵
てきたのは事実である。ところが、外語
大出版シンポジウムを傍聴していて感じ
あるならば、誰でもが後者を信頼するだ
易にする装置を持つこともまた起こりう
たのは、研究者がよせる﹁紙の出版物に
取りすることは極めて困難な作業になっ
るのである。
紙の出版への憧憬
ている。
︶
http://www.ajup-net.com/
︵一般社団法人 大学出版部協会
ろう。まして慶應義塾大学図書館の蔵書
グーグルは検索結果について書籍の内
頼は二重に担保されることになる。
されている書籍ならば、読者がよせる信
学 系 学 術 書 の デ ジ タ ル プ ロ ジ ェ ク ト は、
米国においても研究者主導による人文
大学出版部をUP︵ University Press
︶
と略されることはよく知られている。こ
多くが不首尾に終わっている。この理由
対する強い信頼と憧憬﹂である。
れはもっとも古いUPであるオックス
丸善ライブラリーニュース 第 6 号
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