ゾル-ゲル法調製材料におけるアルミナゲルおよびシリカゲルの表面特性

SURE: Shizuoka University REpository
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ゾル-ゲル法調製材料におけるアルミナゲルおよびシリカ
ゲルの表面特性の研究
生駒, 修治
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1991-01-08
http://doi.org/10.11501/3052486
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ゾルーゲル法調製材料における
アルミナゲルおよびシリカゲルの
表面特性の研究
生 駒 修 治
概要
アルミナあるいはシリカは、ファインセラミックスの原料酸化物として多用
されている。アルコキシドを出発原料とするゾルーゲル法による酸化物の合成
が、基礎、応用の両面で確立されつつある今日、それらの利用範囲はさらに拡
大している。
これらの酸化物に材料としての機能を付与するために、(1)少量の活性成分で
ドープする、(2〕薄膜化する、(3)粒子表面を修飾する、(4)有機物と複合化する、
などの方法が適用されている。方法(1)においては、活性成分、例えば、金属酸
化物、金属粒子などをいかに微粒子化して、母酸化物のマトリックス中に均一
に分散させるかがポイントになる。そして、いずれの方法においても、反応場
としてのアルミナあるいはシリカの表面の性質を的確に把握することが大切で
ある。
ところが、アルミナおよびシリカにおいても、機能性材料としての応用研究
は盛んであるが、基礎的な観点からの研究は遅れている。例えば、両酸化物の
ゲルにおいて、吸着水の性質と働き、活性成分が導入される場所とその化学的
環境など多くの点が解明されていない。アルミナゲルおよびシリカゲルのいず
れもが非晶質もしくはそれに近い性状であることが困難さを増大させているe
しかし、非晶質構造や細孔構造を明らかにすることは、これら材料のさらに有
効な利用に繋がる。
本論文は、上に述べた(i)、(3)および(4)の方法にゾルーゲル法を適用したもの
である。そして、反応場としてのアルミナゲルおよびシリカゲル表面の性質の
解明を目的とする。表面反応場利用の一例として、ポリビニルアルコール(P
VA)一シリカ複合体の合成とキャラクタリゼーションの結果についても述べ
る。
以下にN本研究で得られた新たな知見を要約する。
第一に・アルミナゲル中に導入したポリアミン銅(ll[)錯体をESR用のプ
ローブとして利用し・ゲルの吸着水分量とスペクトルパターンを相関させて検
討した結果、アルミナゲルの吸着水の性質について、以下のことが明らかにな
った。
1) 吸着水は、ゲル中でさえ錯体分子の運動が可能なほどの流動性を持ち、
水分量の増減によって錯体分子は可逆的に運動と停止を繰り返す。
2) 吸着水分量の増減によって、錯体分子はゲル表面において分散と会合を
繰り返すことから、吸着水は連続した溶液系をなす。
3) 吸着水分量の増減によって、可逆的な錯体分子の生成と解離が起きるこ
とから、吸着水は表面反応場を制御する。
第二に、ゾルーゲル法とイオン交換法によってシリカゲル中にポリアミン銅
(n)錨体を導入し、主としてESRと吸収スペクトルを用いて錯体分子の存
在状態を比較した。そして、シリカゲルとアルミナゲルの結果から、反応場と
しての両者の相違点を明白にした。
1) シリカゲル中の吸着水は、錯体分子の運動状態や存在状態に対して、ア
ルミナゲルの場合のような効果を持たない。
2) イオン交換によってシリカゲル中に導入された錯体カチオンはゲル表面
に固定化されて、均一に分散する。すなわち、錯体種はESRタイムスケール
内で運動を停止する。しかし、その交換量が増加すると、凝集状態でゲル表面
に捕捉される。
3) ゾルーゲル法によってシリカゲル中に導入された錯体分子は、その量が
多い場合には、凝集状態でゲル中に捕捉される.この凝集体は、イオン交換に
よって導入された錯体カチオンの場合とは本質的に異なると思われる。
4) アルミナゲルの細孔構造は、 平板状ゾル粒子の積み重なり(Leenaarsら
の提唱によるcard−pack構造)によって形成される、スリット状が妥当である
と考えられた・錯体分子はこの細孔内に、水素結合による吸着もしくは解離し
た銅(ll)イオンのゲル表面におけるA1−O−Cu結合形成によって保持される。
第三に、ポリアミン銅(H)およびニッケル(ll)錯体とこれら錯体でドー
プされたアルミナゲルおよびシリカゲルの熱分解挙動を比較し、以下のことが
明らかになった。
1) 配位子窒素原子からの電子移動によって、二価金属イオンは容易に一価
または金属にまで還元される。
2) アルミナゲル中に導入された錯体は、熱分解によって、大気中では複合
酸化物(CuA1・O・、 NiAl・O・)、窒素雰囲気下では金属(Cu、 Ni)を生成する。
ゲル中で形成されるA1−O−CuおよびAl−0−Ni結合が複合酸化物の生成を容易
にすると推論される。
3) シリカゲル中に導入された銅(ll)錯体は、熱分解によって、大気中で
は酸化銅(皿)、窒素雰囲気下では金属銅を生成する。そして、ゲル中の錯体
の分散状態が、昇温に伴う酸化銅(11)および金属銅の結晶成長に著しく影響
する。
第四に、ゾルーゲル法を応用してPVA一シリカ複合体キセロゲルおよびハ
イドロゲルを合成した。低温熱分解挙動、力学的およびレオロジー的特性の解
析により、以下のことを明らかにした。
1) キセロゲルはPVA単体と同様、塩酸の触媒作用によリ低温で熱分解し
て、共役二重結合を形成するとともに、炭素鎖切断によってラジカルを生成す
る。しかし、複合化により形成されるSi−o−c結合は炭素鎖切断を抑制する。
2) ハイドロゲルは、弾性に富み、粘着性はなく、有機溶媒中で調製した場
合には透明度の高いものが得られた。力学的特性、レオロジー的特性ともに、
PVAハイドロゲルと比較して、著しく改善される。
3) PVAとシリカとの複合化は有効であり、応用面においても多様な可能
性を持つと思われる。
目
次
概要
目次
第1章 序論 一一一一一一………・一一・……・………・………一…・…一・…一…・…一・・…−1
1.1 はじめに ・………・一一一一一一・一・・−r−…・・………一一一一一一・・一一一一・一…・一一一…一・…1
1.2 ゾルーゲル法 …………一・・………一一…………一’・一……………………一………2
1.3 アルミナゲルおよびシリカゲルの構造と
その表面における反応の可能性 ………一…一一一…一・一一一一一一…3
1.4 本研究の目的 ・一…・…一・・……一一…一一……一一一一一一一一一一一・一一一一…−5
文献 ・…一一一一…………・一一一一…一一一一一…・一…・一一一……一一一一・一・…一・一一一一…6
第2章 ポリアミン銅(皿)およびニッケル(皿)錯体の熱分解 ・−8
2.1 はじめに …一一一一……・・一…・一…・一一……・一……・…・…………・一一一一…・…・…・一一8
2.2 実験 一一一・一・一一一一………t−一一…一一・−t・’…’……”…’……………一一一一一…………’…t−……’9
2.3 結果と考察 一一…一一一一……一・……一…・・一・一一一一一一……・…−11
2.3.1 ポリアミン銅(皿)錯体の熱分解 一一…一一・・一・一一v−一一一一一一一11
2.3.2 ポリアミンニッケル(ll)錯体の熱分解 …一…一一一一16
2.4 まとめ …一…・一・・一一一…・・一一一一・一………・………………・・一…・一一・…・・…一一…19
文献 一一一一一一一一一一一一一一一……一一一…………・・一・……・・……・・一一一…・……一一一19
第3章
アルミナゲル表面とポリァミン銅(皿)
およびニッケル(H)錯体の相互作用
@一・・・・・・・・・・・・・・…一・噛…一・・ 21
・・・・…一・・…
3.1 はじめに 一…・一……・・……………一・・一……・…・…・…一一・・一…・・…・…・一一・一・…21
3.2 実験 …一…一・一…一・一・・…一・一…』…・一・一・………一…一…・…一………・一・一…・一一…22
3.3 結果と考察 …一一一・一・…一………一・……一・……・・一・・………・…一・…・・一.一一24
3.3.1 アルミナゲル中の銅(II)錯体の挙動 一一一………・一……・・…24
3.3.2 アルミナゲル中のニッケル(II)錯体の挙動 ……一…・一…36
3.3.3 銅(皿)およびニッケル(ll)錯体で
ドープされたアルミナゲルの熱分解 ・…………・・一・…・一…一一一一一一39
3.4 まとめ ……一一・一…・…・……一………・・……・・…………・・…・一・一……・…・一…一・一……42
文献 …・・…・……・・・…’………・・………・…・・一…………一・…一……一……・……………………・・…・…一…43
第4章
4.1
4.2
4.3
4.3.1
4.3.2
シリカゲル表面とポリアミン銅(ll)錯体の相互作用
・………
S7
第5章 有機高分子とシリカとの複合化(有機一無機複合化)
・………
V0
5.1 はじめに ・一・・…一……一……一…・…………・・一……・・一……一・…・……一…一…70
5.2 実験 …一一…一・一一一一・・一一一一一一一…一・一・一一・一・一・・一・一一71
5.3 結果と考察 …一一…一一一一一一一・・一一一一+・一・一・一…一…一一一73
5.3.1 ポリビニルァルコールーシリカ複合体キセロゲルの
低温加熱分解 一一・・一・一・一・・一一・一一一i・・一一一一…一一1一…一・・一一一一73
5.3.2 ポリビニルアルコールーシリカ複合体ハイドロゲルの
二、三の特性 …………−T−一一・一一…一一一一一………一一一…・・一一一一一一一一t…77
5.4 まとめ ・・一一…一一・一・一一一一一一…一・・一・・一・一一…一一一一・…一・一一…一・・一一一一83
文献 一一一一・一一一一一一・一…一・一・・一一…一一一・一一一一一・一…一・一・…84
第6章 結論 一一一一一一・一…一一・・一一・一一一一・一一一・一一・一一一t−一一86
謝辞 一一一一一一・一…一…一・・一一・・一一一一一一一一一一一…一一一一一・89
本研究に関する主要論文 一一一一一・一一・一・一・一一…一一一・・一・・−90
第1章 序論
1.1 はじめに
新しい酸化物組成のファインセラミックスが次々と開発されるなかで・アル
ミナおよびシリカは両者の合計で、酸化物原料総生産額の約55Xを占めてい
る。非酸化物原料を含めても、それらの占める割合は45Xを下らないt)。
アルミナは、当初アルミニウム精錬用の原料として製造された。しかし、機
械的強さ、耐磨耗性、耐火性、化学的耐蝕性、電気絶縁性、難燃制などの特性
によリ、高アルミナ質磁器、耐火材、研磨剤の原料、プラスチックスの充填材
などの用途がある。また、シリカは無機ケイ酸塩とともにそれらが主体をなす
岩石や粘土が、昔から土木、建築用素材として、あるいは各種窯業製品の原料
として利用されてきた。また水ガラスの製造にも古くから用いられている.両
酸化物が、いわゆる古くて、新しい材料であると呼ばれる所以である・
アルミナおよびシリカがファインセラミックス原料に広く利用されるように
なった背景には、一つには、高純度化が可能になったことがある。アルミナの
場合には、微粒(サブミクロン)化による易焼結性アルミナ、球状粗大粒(20
∼40Ptm)アルミナなどのように、 粒子の大きさや形の制御が可能になったこ
と2)、シリカの場合には、多様な特性を持つ有機ケイ素化合物が合成され、新
しい用途が見いだされつつあること3)も一役買っている。
これらの酸化物素材に新しい機能を持たせるために、目的に応じた方法、技
術が開発され、実用化されている。具体例のいくつかを挙げると、1)微粒子
化、2)薄膜化、3)表面修飾(物理的および化学的修飾)、4)複合化、な
どがある4)。1)の方法を、ここでは、アルミナ、シリカそのものの微粒子化
1
と、それらの中に導入された少量の活性成分(酸化物、金属粒子、機能性有機
染料分子など)の分散性をも含めた意味で用いる。そして、4つの具体例のい
ずれに対しても、本論文で主として使用したゾルーゲル法が、酸化物固体の作
製にとって欠くことができない基礎的な方法になっている。
本論文のテーマは、上に述べた微粒子化、化学的修飾および複合化と深く関
わる。すなわち、アルミナゲルおよびシリカゲル中に金属錯体分子を導入し、
ゲル表面における分子の運動、分散状態、ゲル表面と錯体分子の反応性および
ゲル中における錯体分子の熱分解挙動を解析する。また、有機高分子とシリカ
との複合体の特性解析を行ない、複合化における反応の場としてのシリカ表面
の有効性について検討する。
1.2 ゾルーゲル法5}
Dislich6)によると、 ゾルーゲル法の歴史は1846年のEbelmen’)によるケ
イ酸エステルの加水分解反応を利用してゲルを作る研究に始まる。パイレック
スガラスs)や焼結多結晶体9)の低温合成にまず応用された。 そして、1981年
頃からは基礎研究、応用研究ともに発表された論文の数は急激に増えている。
それは、機能性ガラスおよびファインセラミックス合成の要求にマッチした次
のような特徴をゾルーゲル法が備えているためである。
1)低温合成可能
2)均質性の向上
3)新しい組成の材料の合成
4)微粒子セラミックスの合成
5)生産効率の向上
ゾルーゲル法では、金属の有機物および無機物を溶液中で加水分解、重合さ
せ・溶液を金属酸化物または水酸化物微粒子のゾルとし、さらに反応を進ませ
て多孔質ゲル体とし、加熱、乾燥によって非晶質や多結晶体を作る。
2
シリコンアルコキシドSi(OR),(Rはアルキル基)を例にして、加水分解と
重縮合によって三次元シリカ網目あるいは粒子が生成する仮想的な反応式を次
に示す。
nSi(OR)4 + 41111,0 → nSi(OH)4 + 4nROH (1)
nSi(OH)4 → nSio2 + 2nH20 (2)
nSi(OR)4+2nHzO一トnSiO2+4nROH(正味の反応) (3}
使用される触媒の種類が酸あるいはアルカリ(一般的には、アンモニア)のい
ずれかによって、(1}式の加水分解の機構は異なる。また、触媒および水の量も
生成する重合体の性状に大きな影響を与える。
今日では、周期表の中の60余の元素のアルコキシドが合成されているe
なお、ゾルーゲル法の詳細に関しては作花による優れた著or 5)がある。
1.3 アルミナゲルおよびシリカゲルの構造とその表面における反応の可能性
ゾルーゲル法によるアルミナゲル調製の出発原料には、無機塩1°’川とアル
コキシドt2“14}が通常用いられる。アルミナゾル粒子は繊維状もしくは羽毛状
が多く、無機塩から作るとPierreらt1)が“超非晶質(super amorphous)”
と呼ぶ性状のゲルが生成する。ところが、アルコキシド加水分解によって調製
されたゲルは、厚みが約2.5pmの平板状ゾル粒子が三次元的に積み重なった
構造をしておリ、 Leenaarsら13}はこれを“card−pack構造”(Fig.3.4参照)
と名付けた。しかし、いずれも構造の基本単位は層状のペーマイトであって、
それがどのようにして重なり合いあるいは繋がっているかによって・こうした
違いが生じるようである。いずれにしても、アルミナ水和物の水熱反応によっ
て調製されるべ一マイトほどには、それらの非晶質としての構造あるいは紺L
構造に対して明確な結論は得られていない.
ベーマイトの各層はc軸に対して垂直な面に水酸基を有し、層間はこの水酸
基どうしの水素結合で繋がれている。ベーマイト類似の構造で・層間化合物形
3
成の典型として知られる塩化酸化鉄FeOCIif’}ほど一般的ではないが、擬ベー
マイトは層間に余分の水分子を収容したものであると信じられているし、水熟
法を利用してエチレングリコールを反応によって層間に導入した井上ら1・6)の
例も存在する。
以上から明らかなように、ゾルーゲル法によって調製されるアルミナゲルの
層状構造および粒子表面の水酸基の提供する場が、ゲル中に第二成分(たとえ
ば、金属錯体分子)を導入して、表面における分子の挙動や表面の反応性、さ
らには細孔構造などを解明する上で、きわめて有効であると思われる。
シリカゲルの構造はさらに不明な点が多い。 作花ら!7}によると、アルコキ
シドの加水分解と三次元の重縮合反応によって溶液中に生成するゲル粒子は丸
味を持ち(直径数百A以下であろうといわれている)、水酸基は粒子内部には
なく、シラノール基として表面にしか存在しない(したがって、組成は近似的
にSiO2となる)。この粒子は溶液のゲル化がおこる前の段階で生成し、以下
では一次粒子と呼ぶ。
ガラスの構造はZachariaseniH)による不規則網目構造説が、現在でもガラ
スの研究者に受け入れられている。シリカガラスを例にとると、4配位のケイ
素が、 架橋酸素によって、SiO4四面体の短距離構造を基本単位にして、不規
則に三次元的に繋がった構造である。石英結晶ではその繋がり方が規則的にな
る・このようなシリカガラスの構造は、溶融ガラスであっても、アルコキシド
を原料とし、ゲルを経由するガラスであっても同じであるとされている5}。し
たがって、ゲルからガラスへの変化は上に述ぺたような内部構造を保持したま
まで行なわれると考えてよい。
さて、ゲル粒子はその内部にミクロ孔に相当する細孔が多数存在すると考え
られる・数百A以下の一次粒子の大きさからは、これらの細孔はたかだか数十
Aであろうと思われる。Avnirら’f’ )はシリカゲル中に導入された有機染料分子
は、 メタノールや水分子の有効直径(約4A)よりも小さい直径の入口を持
った堅固な容器またはインクびん型の細孔中に捕捉されるとしている。アルコ
キシドの加水分解と重縮合の条件(水の量、触媒の種類と量、温度など)や湿
4
潤ゲルの乾燥条件の多様性が、この細孔構造を非常に複雑なものにしている。
それ故に、粒子表面の水酸基の存在およびゲル粒子内部の細孔、さらには一
次粒子の集合からなる二次粒子中のより大きな細孔など、シリカゲルに特徴的
な多孔質としての性質は有効な反応の場を提供すると考えられる。そして、表
面における反応を解析することは、上に述べたようなゲル構造に関しての疑問
を間接的に明らかにすることにもなる。
1.4 本研究の目的
ファインセラミックス原料のアルミナゲルおよびシリカゲルに新しい材料機
能を付与するためには、少量の活性成分の導入、粒子表面の修飾、複合化など
の手法が有用であるが、これらを効果的に行なうためにはそれぞれのゲルの性
質、特徴を的確に知ることが重要である。特に、表面における化学的な反応性
の解析(具体的には、表面水酸基の反応)は表面の修飾あるいは複合化の可否
を決定し、ゲルの構造、細孔およびそれを構成するゲル粒子の詳細を明らかに
することによって、ゲル中に導入された活性成分(例えば、機能性有機染料分
子、触媒の先駆体)の分散、集合状態を制御することが可能になる.
本論文では、ゾルーゲル法によってポリアミン金属錯体をアルミナゲルおよ
びシリカゲル中に導入し、それらのゲル表面における挙動の解析結果から、ゲ
ルの吸着水の性質、ゲルの構造および細孔に関する情報を得ることを目的とし
た。 また、有機一無機複合化の試みとして、シラノール基si−OHの反応によ
り水溶性有機高分子として代表的なポリビニルァルコール(PVA)との間で
PVA一シリカ複合体を合成し、そのキャラクタリゼーションを行なう.
各章の検討内容を次にまとめるe
第2章では、ポリアミン銅(皿)およびニッケル(ll)錯体の大気中および
窒素雰囲気下の熱分解を行ない、電子スピン共鳴(ESR)、X線回折などの
5
手法によりそれらの熱分解過程と生成物の性状を検討する。
第3章では、第2章で使用した金属錯体をゾルーゲル法によってアルミナゲ
ル中に導入し、熱重量分析、ESR法を用いて錯体分子の分散状態およびその
挙動を解析することによリ、ゲルの吸着水の性質、ゲルの構造、ゲル表面と錯
体分子の相互作用様式を解明する。後半の部分では、ゲルの熱分解に伴う銅お
よび二’ッケル化学種の性状の変化を明らかにする。
第4章では、ゾルーゲル法によってポリアミン銅(ll)錯体をシリカゲル中
に導入し、別にイオン交換によって錯体カチオンを導入したゲルとの比較を銅
(皿)錯体をプローブに利用したESR測定によって行ない、シリカゲルの細孔
構造、ゲル表面と錯体分子の相互作用様式を調べる。さらに、錯体の担体とし
てのアルミナゲルとの相違が明らかにされる.
第5章では、ゾルーゲル法によってPVAとシリカを構成成分とする複合体
キセロゲルおよびハイドロゲルを調製し、前者の低温加熱分解挙動、後者の力
学的、レオロジー的特性の解析により、複合化が有効であることを明らかにす
る。これは、PVAとシリカの間の相互作用または反応性の問題と関わり、反
応場としてのシリカ表面の性質を明らかにする手掛かりの一つになる。
文献
1)多田裕浩、セラミックス、鎚,835(1989).
2)風間聰一、セラミックス、鎚,1041(1988);
古林俊樹、山田興一、“先端材料の新技術”、 足立吟也、柴山恭一、
南 努編、化学同人(1987)p.35.
3)熊田 誠、化学と工業、鎚.273(1990).
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性セラミックスの設計”、学会出版センター(1982);
日本化学会編、化学総説 No.44、“表面の改質tt、学会出版センター
6
(1984).
5)作花済夫、ゾルーゲル法の科学、アグネ祥風社(1988).
6) H.Dislich. J.Non−Cryst.Solids, ヱ』,599(1985).
7) Ebelmen, Ann. Chim. Phys., S6r.3, Sヱ,319(1846).
8) H.Dislich, Angew.Chim. Int.Ed.Engl., !Ω,363(1971).
9) K.S. Mazdiyasni, R. T. Dolloff and J. S. Smith, 」.Am. Ceram. Soc., 鎚,
523(1969).
10) Y.Kurokawa, T. Shirakawa, S. Saito and N.Yui, J.Hater. Sci・Lett・. 巨,
1070(1986).
11) A.C. Pierre and D. R. Uhlma皿n, °Ultrastructure Processing of
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Mackenzie, John Wiley & Sons, New York (1987) P.865.
12) B.E. Yoldas, Cera皿. Bul1.. ξ[±,289(1975).
13) A.F. M. Leenaars, K. Keizer and A.J.Burggraaf, 」.Mater.Sci., 1皇t 1077
(1984).
14) A.C. Pierre and D.R.Uhlman皿, 」.Non−Cryst. Solids, &2,271(1986);
J.Fukasawa and K.Tsujii, J.Colloid Interface Sci., 125,155(1988)・
15) T.R. Halbert, ’Intercalation Chemistry■, eds・ M・S・Ehittingham and
A.J.Jacobson, Academic Press. New York (1982) Chapter 12●
16) M.Inoue, Y.Ko皿do and T. Inui, Inorg. Chem・. 2ヱ,215(1988)・
17)作花済夫、神谷寛一一、日本レオロジー学会誌、LS1,10(1986).
18) W.H. Zachar iasen, J.Am. Che皿. Soc., 塾,3841(1932)・
19) D.Avnir, D. Levy and R.Re isfeld, J.Phys.Chem., &t,5956(1984).
7
第 2 章 ポリアミン銅(皿)およびニッケル(ll)錯体の熱分解
2.1 はじめに
銅(ll)およびニッケル(ll)のアンミン錯体は窒素原子を配位子とする錯
化合物の最も単純な形で、よく知られている。したがって・その電子構造・吸
収スペクトル、熱化学に関する研究は極めて多い。中でも、テトラアンミン銅
(皿)硫酸塩の熱分解反応1)は、硫酸銅五水和物との関連で広範に調べられて
いるeところが、モノアミンあるいはポリアミンが配位干になると、熱分解を
取リ上げた例はたちまち少なくなる。僅かに、Wendlandt2ハが熱分析、高温反
射スペクトルなどを用いてエチレンジアミン銅(II)硫酸塩の分解過程を推定
した例が存在するのみである。
第2章は二、三の鎖状および大環状ポリアミンを配位子とする銅(ll)およ
びニッケル(ll)錯体の熱分解挙動に関して見出だされた新たな特徴を中心に
述べる。続く以下の章では、これらの錯体がESR・吸収スペクトルなどのプ
ローブとして、アルミナゲルあるいはシリカゲル中に導入される。
なお、大環状ポリアミン(ここで取り上げるポリアミンは、4個の窒素原子
を有する一例である)は、基礎研究の成果に基づいて分析化学的あるいは生体
機能、生物活性という観点から、応用研究が盛んに行なわれている3} 。Calvin
ら4,による大環状テトラアミンニッケル(ll)錯体を触媒とした人工光合成モ
デルの研究はあまりにも有名である。
8
2.2 実験
試墓 N,N’一ビス(2一アミノエチル)−1,3一プロパンジアミン(2,3, 2−tet;
b.p.266−267℃;関東化学社製)および1, 4, 8, 11一テトラアザシクロテトラデ
カン(cyclam;m. p.184−186℃;アルドリッチ社製)は精製をしないで使用し
たeN, N’一ビス(3一アミノプロピル)エチレンジアミン(3,2, 3−tet;アルドリ
ッチ社製)は工業用試薬を5mmHgで減圧蒸留し、 150−160℃における留分を
採取した。
塩化銅(ll)二水和物および硫酸銅(ll)五水和物、その他の試薬は関東化
学社製の特級試薬をそのままで用いた。
’、1 ≒ン E およ ニッ ル H のム 銅(H)の塩化物お
よび硫酸塩錯体の合成に関する報告は見当らないeしかし、過塩素酸塩錆体の
多数存在する合成例5” ”b)のうちの一つ5b}に、僅かな修正を加えることで合
成が可能であった。すなわち、塩化銅(ll)および硫酸銅(ll)とそれぞれのポリ
アミンとをメタノールを溶媒として反応させ、 −15℃に氷冷すると錯体の結晶
が得られた。ただし、2,3,2−tetと硫酸銅(n)は混合すると直ちに綿状沈殿物
が得られたので、いったん少量の水を含むメタノールに溶解し、上述のように
低温で結晶化させた。各錯体はそれぞれの溶媒を用いて一度再結晶した。
ニッケル(皿)のcyclam塩化物錯体はBosnichら6)の方法で合成した.
各錯体の元素分析結果を以下に示す(略称は次頁の図を参照).
Cu−2,3,2−tet塩化物:分析値 C 26.32X, H 7.47X, N 17.53%;
(C7H,,N,OCI2Cu) 言十算{直 C 26.88鑑, H 7.09X, N 17.92X.
Cu−3,2,3−tet塩化物:分析値 C 29.47X, H 7.76X, N 17.40X;
(C。H,,N,OC I,Cu) 計算値 C 29.41X, H 7.40X, N 17.15X.
Cu−2,3,2−tet硫酸塩:分析値 C 22. 18X, H 6.73X, N 14.70X;
(C。H。、N,O.SCu) 計算値C22.4眺H7・OIX・N14・98X・
Cu−−3,2, 3−tet硫酸塩:分析値 C 20.08X, H 7. 01X, N 11.36X ;
(CsHn4N40ioSCu) 計算値 C 19.9X, H 7.3X, N 11.6X.
9
Ni−cyclam塩化物: 分析値 C 36.75X, H 7.54X, N 17.16X;
(CioH24NnCl2Ni) 計算値 C 36.40%, H 7.33叱, N 16.98駕.
構造式と略称は次のとおりである。
〔
N N
×〕・x
N
N N
N
Cu−・2,3,2−tet
N
×〕・x
N
Cu−3,2,3−tet
Cu−cyclam
〔 1×〕・Cl・
N N
Ni−cyclam
ただし、X=C1,またはSO4である。以下では、 Cu−−2. 3, 2−tet塩化物あるい
は硫酸塩のように呼称する。
機蓋測定 熱分析(TGおよびDTA)は、真空理工社製のTGD−1500
RH−P型示差熱天秤を使用して、 空気あるいは窒素ガスを流速150 ml/min
で反応管内を通過させながら測定した。昇温速度は5℃/min、試料重量は50
mgであった。 なお、窒素ガスは、市販品に含まれる不純物としての酸素を除
去するために、170℃に加熱した活性化銅中を通過させた後使用した。
ESR測定は、日本電子社製JES−FElXG型ESR分光器を用いて、
Xバンドで行なった。測定温度は室温と液体窒素温度(77K)である。錯体の
熱分解生成物の測定のためには、試料をESR試料管中で空気あるいは窒素ガ
10
スを通過させながら直接加熱し、所定温度に達した後直ちに試料管を封じた。
粉末X線回折は、理学電機社製Geigerflex D−−3F型回折装置によった。
Niフィルターで単色化した銅のKα線を使用した。
2.3 結果と考察
2.3.1 ポリアミン銅(il)錯体の熱分解
Cu−−3,2,3−tet塩化物のTGおよびDTA曲線をFig.2.1に示す。窒素雰囲
気下で測定したTG曲線は、3段階に減量する。第1段階は約5Xであり、1
分子の水が脱離をして無水の錯体を生成するとした場合の計算値とよく一致す
る。第2段階は約60%であり、440℃で終了する。この反応により配位子が分
解して低沸点成分と炭素質物質が生成する(クラッキングおよび炭化反応)。
第3段階は800℃まで続く緩やかな約2Xの減量で、炭素質物質の黒鉛化反応
であるe800℃の残渣約30Xは後述するように金属銅を含む(錯体中の銅の含
有率は19. 4X)ので、残渣の約3分の1は炭素である。
DTAの各反応はTG曲線の変曲点付近で生起しており、150℃の弱い吸熱
反応、230℃の鋭い吸熱ピークとそれに続く310と410℃の反応が第2段階ま
での減量に対応するeあたかも錯体結晶の溶融のようなこの特徴的な吸熱反応
(210℃で始まり、250℃で終わる)には、可逆性は認められなかった。もし、
可逆的であると、イオン性錯体結晶が溶融するという面白い現象を見出だした
ことになる。Table 2.1から明らかなように、この鋭い吸熱ピークはいずれの
錯体でも極めて狭い温度範囲で生じておリ、 対応する減量は10Xにも満たな
い。それ故に、この反応は銅と配位子の窒素原子間の電子移動による二価銅の
還元に起因すると考えられる。この反応の間に錯体は深紫色粉末から粘稠な淡
褐色液体へと変化し、同時に金属光沢を有する赤銅色堆積物の生成が認められ
た。金属様物質はx線回折により金属銅として同定された(Fig,2.4)。
11
\\
§
昏
斐
1・・−v
0 100200…拍0400500tsoo 700800
Te叩e・ratu・re/°〔
025 030 035
B/T
Fig. 2、 l TG and DTム curves of Cu−3,2.3−
tet−Cl2 under at巳ospheres of niしrogen
and air.
Fig. 2.2 Room−te■perature ESR spectra
of Cu−3,2.3−tet−Cl論 and it5
A and C, nitrogen; B and D, air
Sa阻P」e ve三ght: 50 ■9
pyrolyzed products.
H白ating rate:5℃ん垣
A, Cu−3,2,3−tet−Cl2; B−D, the preducts
obtained at 235,250 and 300℃,
respectively●
加熱生成物のESRスペクトル(Fig.2.2)は、 加熱温度の上昇とともにシ
グナル強度が減少し、235℃ではすでにもとの錯体の線形を示さず、単核的な
銅(皿)化学種の混在を示唆した。 250℃ではシグナル強度の著しい減少ととも
に、Q値が減少し導電性化学種の生成を予想させた。 300℃になると銅(H)化
学種によるシグナルは消失し、9・2.00の有機ラジカルのシグナルのみが残
った。
以上の結果から、 Cu−3,2,3−tet塩化物は250℃までの加熱で直接に金属銅
にまで分解すると考えられる。そしてアミン分子は窒素原子上にカチオンラジ
カルを残し、ひとたび錯体の解離が行なわれると有機物の分解は速やかに進行
する。 錯体分子が単純にアミン分子と母塩(CuCl,)に解離していないことは
確かである。何故なら、塩化銅(ll)二水和物を不活性雰囲気下(アルゴン気
12
流下または真空中)で470℃まで加熱すると一価の銅塩を生じるe}が、金属銅
にまでは還元されないからである。
3種類の塩化物錯体は窒素雰囲気下で類似の分解過程を示す。Table 2.1か
ら明らかなように、鋭い吸熱ピークの温度を錯体の熱安定性の指標とすると、
その安定度定数との間によい一致が見られるecyclamを配位子とする錯体の
高い熱安定性が注目される.
塩化物錯体の大気中の熱分析結果(Fig.2.1)は、 窒素雰囲気下の測定結果
とは異なるいくつかの特徴を持っている。まず、2つの強い発熱反応が観察さ
れる。1つは240℃(Fig.2.1Dの*印)を中心に存在し、220℃の鋭い吸熱
ピークと重なっている。 他の1つは420から700℃にわたる幅広い反応であ
る。次に、800℃における約7Xの残渣は著しく少ない(因みに、酸化銅(皿)
が生成すると仮定すると、計算値は24.4Xである)。
420℃までのDTA曲線は、240℃の発熱反応を除いて、大気中と窒素気流下
の両者で類似している。大気中におけるこの発熱反応は、ここでは既に分解生
成物中に金属銅の析出が認められるので、解離した配位子が分解して発生した
ガス状生成物の燃焼による。700℃以上の温度での生成物はFig.2.4から明ら
かなように、酸化銅(ll)ではなく塩化銅(1)であった。したがって、420か
ら700℃にかけての幅広い発熱反応は、炭素を主成分とする生成物の燃焼と金
Table 2.1 Stabitity constants o『 the copPer(II) polyanine chLerides. and
their TG and DTA 「esutts in nit『ogen
DTA
TG
Stability
Co叩1ex
constant・〕 Ibワ℃
Weight loss in the
first思t叩!: peak’}
Cu−2.3,2−tet−Clz
23.2
5玲3 (5.76)‘)
Cu−3,2.3−tet−Cl富
2i.7
5.0(5.51)
Cu−cycla■−Cl2
26.5
5.0 (5.11)
115
150
95
II,)ノ℃
peak’}
255
230
315’,
a)logK,(C凹富つ”
b) I and II denete the first and second 白ndother■ic reaction5 in the DTA curv白・
c) Peak corresponds to the tenperat凹re at wh三ch the reaction eo■6s to th白 ■05t’
All thre白 co■Plexes shov a strong and sharp peak in the OTA curves・
d) Numbers in parentheses represent the calculated value for the aonohydrate・
e)Acco叩anied by a s■all shoulder at about 325℃
13
属銅の塩化銅(1)への塩素化を伴う酸化反応による。生成した塩化銅(1)の二
量体は揮発性1ωを有するので、CuClに対する計算値30.3Xと800℃の残渣
約7器との差は失われたことになる。
他の錯体の分解過程もCu−3, 2, 3・一 tet塩化物の場合と同様である。
Fig.2.3はCu−3, 2, 3−tet硫酸塩の熱分析曲線を示す.
窒素雰囲気下の熱分解は、図から明らかなように非常に単純である。約120
℃までに錯体1分子当たり6分子に相当する水の脱離がある(実測値、24、6X;
計算値、24. 46X)。 塩化物の熱分析結果(Fig.2.1)と比較すると、配位子の
大部分は270℃以上で分解すると考えられる。 300℃で加熱した試料のESR
測定では、Q値が小さく、9・2.00に有機ラジカルの生成を示す唯一の共鳴
線が観察された。この場合のQ値の低下は、電気伝導性物質である硫化銅(1)
(CUi.。6s;鉱物名は輝銅鉱)の生成による(Fig.2.4)。 それ故に、硫酸塩
錯体は直接に硫化銅(1)と一部分解したアミンへと変化し、後者は炭素化お
よび黒鉛化する。 800℃までの熱分析残渣中に含まれる硫化銅(1)の計算値
\
宣
豊
一…一一 黶_」±一
0 100200ヨ004CO 500600’il㏄Oθ00
TefTpereture/°〔
Fig. 2.3 T6 and DTA curves of C凹一3.2.3−
tet−SO4 under at田ospheres of nitrogen
and air.
A and C. nitrogen; B and D, a三r
Sa阻ple 胃eighし: 50 mg
Heating rate:5℃んin
14
は18・眺であるので、TG曲線上で約9Xは炭素である。
窒素雰囲気下で800℃の加熱によって、硫酸銅(ll)五水和物が酸化銅(1)
に変化することを考慮すると、同じ塩を成分とするポリアミン錯体が、酸化銅
(1)に熱分解されないということは非常に興味深い。このような硫化銅(1)の
容易な生成は、例えば、ソフトな酸である一価の銅が、同じソフトな塩基であ
る硫黄と安定な化合物を形成するとするHSAB(Hard and Soft Acids and
Bases)説IDとも矛盾しない。 一般に、純粋な硫化銅(1)は金属銅と硫化水
素の反応によって400℃以上の温度で合成12}されるので、錯体の熱分解によ
る約300℃での硫化銅(1)の生成は注目に値する。配位子が変わっても、塩
化物錯体の場合のような熱安定性の相違は見出だされなかった。
20 i幻 t,0 50 60 70
2e![krgrm
Fig. 2.4 X−ray diffractien diagra臼5 for the
residugs 邑fter th6 ther■8Ll an且lys6s of
Cu−3,2,3−t6t−C1エ and Cu−3,2,3−tet−SO4
und6r at■espheres of nit,rogen 巳nd 邑三r.
Temperature■8s rai“d山p to 800℃.
A,COPP白r metalv■, from chloride, in nitregen
8, c{)pp白r(1} chloridle7b, froロ chloridel in air
C, copper(1) sutphide (chalcocite, syn.,■ハ)
fro■ sulphatel in nitrogen
D.cOPP6r(II)。寓id61d, fr“sulphate. in air
15
硫酸塩錯体の大気中測定の熱分析結果をFig.2.3のBおよびDに示す。230
から270℃にかけての発熱反応は、塩化物錯体の発熱反応(Fig.2.1の*印)
に対応するもので、配位子のアミン分子の部分分解に基づく。 150℃までの減
量は窒素雰囲気下の分析結果と同様に、6分子分の脱水に相当する。270から
310℃に認められる吸熱反応は錯体構造が壊れて銅化学種が変化し、 炭素質物
質との混合物を生成することによる。 420℃を中心とする強い発熱ピークは炭
素の燃焼であり、500℃では酸化銅(H)とその硫酸塩(Cu20SO4)の混合物が生
成する。 そして、TG曲線の減量の最終段階で、740℃に弱い吸熱反応を伴う
約7Xの減量(三酸化硫黄を発生)によって完全に酸化銅(ll)へと変化する
t 3)。約310℃における生成物の詳細は不明であるが、そのESRスペクトル
がg=2.00の有機ラジカルとともに二価銅の極めて弱いシグナルを示すこと
から、銅化学種は孤立した二価の銅ではなく、凝集状態(例えば、微結晶)、も
しくは一部還元されて存在すると考えられる。
2.3.2 ポリアミンニッケル(H)錯体の熱分解
Ni−cyclam塩化物の熱分析結果をFig.2.5に示す。
先ず、注目すべきは高い熱安定性である。大気中の熱分解においても分解開
始は約300℃、窒素雰囲気下にあっては350℃付近まで安定である。これらは
同じ配位子を持つ銅(il)塩化物錯体よりもさらに50℃程度高い。
窒素雰囲気下でのDTA曲線には390と425℃に吸熱反応が存在し、 対応
するTG曲線からはこれらの反応で分解過程の大半を経過していることが分か
る。しかし、すべてのポリアミン銅(皿)錯体に観察された銅(皿)イオンの金属
銅への直接的な還元に起因する鋭い吸熱ピークは、ニッケル錯体においては現
われなかった。800℃における分析残渣のx線回折結果(Fig.2.6)は、金属ニ
ッケルの生成を明らかにした。400および450℃の分解生成物も同様に金属ニ
ッケルを含有するので、390℃の吸熱反応がニッケル(n)イオンの還元反応
を含むのは確実である。この還元は、銅(皿)錯体と同様に、配位子窒素原子
16
からニッケル(皿)イオンへの電子移動による。
それ故・銅(ll)錯体の結果を参考に、窒素雰囲気下のニッケル(II)錯体
の熱分解過程は次のように推論されるe390℃の反応でニッケル(ll)イオン
の還元と同時に配位子の分解による低沸点成分のガス化、引き続いて有機成分
のほとんどが約450℃までに分解(クラッキング)し、炭素化する。TG曲線
においてさらに800℃まで続く緩やかな減量は、炭素質物質の黒鉛化による。
したがって・ 800℃における残渣約26Xと錯体のニッケル含量17.8Xの差は
炭素分である。
大気中のDTA結果は・300から600℃に及ぶ幅広い発熱反応に、窒素雰囲
気下でのDTA曲線に見られる2つの吸熱反応(大気中で測定したDTA曲線
にも・同じ温度に認められる)が重なったものと考えられるeこれと対応して
10
。x・ヨO
il 4
言駒
誓
菖
0 100 200 胞) tiO() 500 600 70〔} 800
To叩pe「o h」「e!o,C
『ig. 2.5 TG and DTA curves of N i−cyclam−CIt
under at■05pher白皐of nitregen and air.
A and C. nitrogen; E and O. air
Sa■ple veight:50■g;Heating rate:5℃ノ■in
17
TG曲線は600℃を越えると恒量になり、 このときの分解残渣20XはX線回
折(Fig.2.6)によって同定された酸化ニッケル(皿)に対する計算値22.6Xと
ほぼ一致する。上述の吸熱反応終了直後(TG曲線で最初の滅量の終了後の約
450℃)の化学種もまた酸化ニッケル(ll)であったe
そこで、大気中におけるニッケル(皿)錯体の熱分解過程を次のように推論し
た。300℃以上で、 先ず配位子の一部の分解が始まり(ガス状生成物が燃焼す
るために発熱反応)、それに重なって現われる吸熱反応によってニッケル(皿)
イオンが金属へ還元される。しかし、微粒子化されたニッケル、例えばRaney
ニッケルが空気によリ容易に酸化(自然発火することもある)されるように、
400℃以上の高温においては金属はただちに酸化されるであろう。 因みに、窒
素雰囲気下における熱分析終了後の残渣のSEM写真は、炭素質物質中に均一
分散した0.5pm径の金属ニッケル球状粒子の存在を明らかにした。したがっ
て、還元直後のニッケル粒子はさらに微細であることは想像に難くない。 600
℃まで続く発熱は金属ニッケルの再酸化と大部分は有機成分の燃焼による。
20 ヨ) 40 50 60 70
2θ/deg ree
Fig. 2.6 X−ray diffraotion diagra■s for the
residues after th白 thermal analyses of
Ni−cycla■−Clz under at凪ospheres of
nitrogen and air.
Temperature was raised up to 800℃.
A,nicket田etai, in niしrogen
B, nic}【el oxi〔le, in ail■
18
2.4 まとめ
塩化銅(ll)、硫酸銅(ll)および塩化ニッケル(ll)と鎖状および環状の
テトラアミンとの錯体を合成し、熱分析、X線回折、ESR測定などによりそ
れらの熱分解過程を調ぺた。そして、配位子を変化させた場合の熱安定性を比
較検討した。使用した錯体は、CuCl,(2.3,2−tet)H,O(1)、 CuCl,(3,2,3−tet)−
H,O (2)、 CuClz(cyclam)H20 (3}、 CuSO4(2,3。2−tet)・3H,O (4)、 CuSO4(3,2.3−
tet)・6H,O(51およびNiCl,(cycla皿){6)である(配位子の略称は実験の項参照).
本章においては、以下のことが明らかになった。
1) 配位子の窒素原子から金属イオンへの電子移動によって・銅(皿)お
よびニッケル(ll)イオンは容易に一価イオンまたは金属にまで還元される。
2) 銅(ll)の塩化物錯体、(1)、{2)および③は熱分解によって、窒素雰囲
気下では金属銅と炭素質物質、大気中では塩化銅(1)を生成する.
3) 金属銅への還元は一段階で進行し、極めて狭い温度範囲で生起する.
4) 銅(皿)の塩化物錯体の熱安定性は、それらの安定度定数によく対応
し、(2}、(1)、(3)の順序で向上する。
5) 銅(E)の硫酸塩錯体、(4)および{5)は窒素雰囲気下では直接に硫化銅
(1)と炭素質物質を生成し、大気中では酸化銅(ll)に熱分解する.
6) ニッケル(ll)の塩化物錯体、㈲は熱分解によって、窒素雰囲気下で
は金属ニッケルと炭素質物質、大気中では酸化ニッケル(ll)を生成する。
7) 銅(ll)およびニッケル(皿)ともにcyclamを配位子とする塩化物
錯体(それぞれ(3)および(6))は高い熱安定性を持つ.
文献
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3)例えば、次の解説あるいは総説とその中の引用文献を参照:木村栄一、
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同、薬学雑誌、102,701(1982);
同、ぶんせき、1986,412.
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6) B・Bosnich, M. L. Tobe and G. A. Webb, Inorg. Chem., 4,1109(1965).
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d) JCPDS, 5−611.
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9) M・J・van der Merwe, J. C.A. Boeyens and R. D. Hancock, Inorg. Chem.,
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Press, Oxford (1973) P.58.
20
第3章アルミナゲル表面とポリアミン銅(ll)および
ニッケル(II)錯体の相互作用
3.1 はじめに
有機染料の担体としてのアルミナゲルおよびシリカゲルガラスは、プラスチ
ックスのような有機物担体より光および熱に対して安定である。それ故、ゾル
ーゲル法によってそれらの酸化物ガラスを機能性有機分子でドープし、色素レ
ーザー作用、蛍光特性、光吸収特性などが調べられている1’・tb}eここで使用
される有機染料は、 通常用いられる濃度(10−4∼10−3M)では水溶液中にお
いて染料分子が凝集する。ところが、これをアルミナあるいはシリカ中に埋め
込むと、凝集が抑えられ、高濃度(1桁程度)まで染料分子の単分子分散が可
能になる。これらのゲルに関して上述の諸特性を調べることは、機能性有機分
子とゲルとの相互作用様式、ゲルの構造、ゲル化機構などを明らかにする端緒
にもなる2}。
触媒化学の分野においても、活性成分としての金属あるいは金属酸化物の・
担体のマトリックス中における分散性が問題とされる。従来から行われている
共沈、含浸3}、混練などで第二成分を母酸化物(担体)中に混合する方法と比
較して、ゾルーゲル法はその分散性と微粒子化において極めて優れている4) e
本章の研究は、第2章で取り上げてその熱分解挙動を明らかにした水溶性ボ
リアミン銅(ll)およびニッケル(皿)錯体でアルミナゲルをドープしs特異な触
媒機能を有する複合材料を得る目的で始められた。ところが・その過程で・ポ
リアミン銅(皿)錯体分子が、アルミナゲル中でゲルの吸着水分量の多少によっ
21
て自由な回転運動をしたり、停止したりするという面白い現象を見出だした。
したがって、先ず、銅(ll)錯体分子をESR用プローブに利用し、アルミ
ナゲル中における錯体分子の挙動、分散状態から、ゲルの吸着水の性質を解明
する。ニッケル(ll)錯体の場合には、磁化率、吸収スペクトル測定によって
ゲル中の挙動を調べ、銅(ll)錯体の結果と比較する。最後に、これらの金属
錯体でドープされたアルミナゲルの熱分解を行ない、ゲル中における錯体の分
解挙動を検討する。
3.2 実験
一一製 アルミニウムイソプロポキシドおよびトリエ
チレンテトラミン(b.p.266−267℃)(関東化学社製)は特級試薬をそのまま
用いた。その他の試薬類は第2章で使用したものと同じである。
ポリアミン銅(II)錯体水溶液は塩化銅(ll)を少過剰量の配位子水溶液に
溶解して調製した。ポリアミンニッケル(il)錯体は第2章(2、2参照)におい
て合成した結晶粉末を使用した。各錯体の略称は、第2章と同じである。
レミ ゾレの’ 5} アルミニウムイソプロポキシドは極めて加水分解し
やすいので、乾燥窒素で置換した容器中で取り扱った。1モルのアルコキシド
粉末に対して、100モルの沸騰水を素早く加えてアルコキシドを加水分解させ
た・得られたアルミナゲル(結晶学的にベーマイト)の懸濁液は、85℃以上の
温度で、1時間激しく(3500rpm)撹拝した。懸濁液中の全アルミニウム量に
対して・モル比でO・ 07倍の塩酸と必要に応じて水を加えて、最終的に塩酸濃
度を0.035Mに調節した。 この溶液を密封容器中、95℃で7日間放置すると
透明なゾルが得られるので、 光路長10mmの石英セルで測定した545 nmに
おける透過率が85X以上のものを使用した。ゾルのpHは約3、8であった。
i「t〈 t ミン ll ’ びニッ ル 皿 の でt一プさ た ル
“ナ’ルの アルミナゾルに錯体水溶液または結晶粉末を加えて、銅また
22
はニッケルとアルミニウムのモル比R(以下、 Cu/AlまたはNi/Alで表す)を
調節した。着色(銅(ll)錯体では、深青色または紫色、ニッケル(ll)錯体で
は、茶褐色)したゾル溶液を十分に撹絆後、 ペトリ皿上に薄く広げて50℃で
乾燥した。このようにして得られた着色膜は・必要に応じてそのままかあるい
は粉末にして使用した。
Cu−232−tet で“一プさ ニ ルミ ’ルの ’ ゾ
ルーゲル法で調製したアルミナゲルは、結晶学的にはアルミナー水和物のベー
マイト(γ一A100H)であるが、アルミナ1モルあたり約2・5モルの水分子を
持つ。その内訳は吸着水と構造水であるが、前者は50から150℃の温度範囲
で、後者は300℃以上で脱離c’)し、無水アルミナとなる。
そこで、Cu−2,3,2−tet塩化物でドープされたアルミナゲルの吸着水分量を
次のようにして決定した。 粉砕したアルミナゲルを大気中、110℃で一昼夜乾
燥して、 ゲルに含まれるイソプロパノール(b.p.82.4℃)と他の揮発性成分
を除去した。いったん、室温で大気中の水分と平衡にした後、ゲルを熱天秤を
用いて昇温速度1℃/hrで110℃まで加熱し、その温度において減量が認めら
れなくなるまで保持した.このときの減量率約23xをアJレミナゲルの吸着水
分量とした。この数値は大気中の湿度によって若干変動する.
.“一プさ た ルミナ’ルの 大気中および窒素雰囲気下
(後都S素ガスを気流にして反応管内を醍させた)で・粉末試料を所定
3.3 結果と考察
3.3.1 アルミナゲル中の銅(皿)錯体の挙動
ルミ ’ル の
の’
る
Fig.3.1 {ま Cu−cyclam
塩化物水溶液と、同じ錯体でドープされたアルミナゲルの室温および77Kで
測定したESRスペクトルである。 モル比Cu/A1はいずれのゲルにおいても
1/1000である。
水溶液のスペクトルは測定温度によって、全く異なった2つのタイプの線形
⊥_____⊥____」___L.一__一.__」L_____」
025 0ヨ0 035 025 030 035
B∫T BIT
Pig・ 3●1 6SR 5P白ctr旦 of 5■H Cu−cycla■ 三n aqu白ou3
solut」ions (A, E and D) and of alu■ina ge18
doped冒ith Cu一巴ycl邑■三n the■01ar Cu1Al
r白tio of 1/1000 before heating (C and R).
ieft. ob8erved at rOO■ t8■P6rat凹r白
right, ob8白rりod at 77 R
8, aqueo凹s etlly1白ne glycoi (1 : 1) solution
A (リ=9.416GHz; 90=2.095; 1 Ao | =0.0090c■一‘);
B(v ・9.43eGHz);
C (γ=9.426GHz; 90=2.093; 1 Ao l =0.0088c■−t);
D (り言9.126GHz; 呂目 =2.182; 1 A II 1=0.0206c煩『‘);
9 (1ノ=9.120GHz; 8闘 =2.181; 1 A il l=0.0215c■■1)
24
を示す。 室温のスペクトル(Fig.3.1A;以下、 RTタイプ)は、錯体分子が
水溶液中で高速回転運動をしているので、gと超微細相互作用の異方性がほぼ
完全に平均化している。 77Kのスペクトル(Fig.3.1D:以下、 LNタイプ)
S)は、錯体分子が凍結溶媒の籠の中に取り込まれているので、回転運動ができ
T
なくなリ、スペクトルの異方性が端的に現われる。それ故、ESRシグナルは
RTタイプと比較してよリ広範囲の磁場で観測されるe
大気中の水分と平衡状態にあるアルミナゲルのESRスペクトルもまた錯体
水溶液に類似の温度依存性を示す。Fig.3.1のCとEとが、それぞれRTタイ
プとLNタイプに対応する。スペクトルEとDの超微細分裂はほぼ一致し、銅
(ll)イオンの配位構造に変化がないことを示す(イオン交換法によって銅(皿)
錯体を導入したシリカゲルのLNタイプのスペクトルは、 Fig.3.1のスペクト
ルDとは異なるESRパラメーターを有する;第4章参照)。そして、凍結と
解凍を繰り返すと、スペクトルは2つのタイプ間を可逆的に変化した。
このような錯体分子の運動とその停止は、ドープされたアルミナゲルを、例
えば、大気中、デシケーター中あるいは乾燥器中に置いて、湿度雰囲気を可逆
的に変化させた場合にも認められた。 結果の一例をFig.3.2に示す。銅(ll)
錯体でドープされたアルミナゲル(モル比Cu/Alは1/1000)を50℃の恒温
槽中に放置したときの室温測定のESRスペクトルである.
3∼7日の間にESR線形は、 RTタイプからLNタイプ(Fig・3・2のBと
C)へと変化した。重量分析結果から、1週間の加熱でゲルは吸着水の蒸発に
より約9Xの減量をすることが分かる。このゲルを再び室温の大気中に放置す
ると、 24時間程度で大気中の水分と平衡になリ(約2Xの重量増加)、錯体
分子は運動を再開する。このときのESRスペクトルはもとのゲルから7Xの
脱水をした試料のスペクトルと線形が完全に一致する。50℃でさらに3週間ま
で加熱を続けると、 ゲルは15Xの水分を失って、 LNタイプのスペクトルの
異方性超微細構造の平行成分が明瞭に現われる(Fig・3・2D)・このLNタイ
プのスペクトルは、錯体分子がアルミナゲル表面とのなんらかの相互作用によ
り、運動の自由度を失ったことを意味する(このスペクトルとFig・3・1のD
25
Pi菖・ 3・2 Roo■−te■perature ESR sp6ctra of
the ah」■ina gels doped vith Cu−cycla■
in the ■01ar {:凹/AI ratio of 1/1000
heated at 50℃fer various periods
of tise.
A, ggl before heating (]リ=9.426GHz;
90=2.093; 1Ao l=0.0088cロー1)
B,
C.
after heating for 3 days (り=9.436GHz)
after heating for a 冑eek (v=9.432GHz二
g!1=2.171; 1AII l =0・0194c■一‘)
D,
after heating for 3・eeks(γ・9.434GHz;
911=2・175; lAII l=0.0201c■■1)
〇25 0ヨ0 ()35
B/T
『ig・3・3 ESR spectra。f th・al・・輌・邑S。15
doped 冒ith Cu−cyela口 in the varying
■olar ratios of Cu/Al observed
at 77 K.
A. Cu!Al = 1/1000; gel before heating
(γ=9●120GHz: 911=2.181; 「A■1 1 =0・0215c■−1)
B.Cu/Al・1/1000;after heating at 50℃
for 3 veeks (P=9.126GHz)
C. Cu/Al = 1/100; gel before heating
(り・9.127GH記)
D・(跳蒜9・lb・f・te heati・g itt2S Q30 OBS
B「T
26
のスペクトルの間のESRパラメーターの相違は僅かであり、その相互作用は
極めて弱いものであると思われる)。ESRスペクトルに現れる以上に述ぺた
ような錯体分子の挙動は、他の銅(皿)錯体についても観察された。ただし、後
で述べるように、Cu−cyclam以外の錯体でドープされたアルミナゲルでは、加
熱を続けて脱水が進むと、ゲル中で錯体分子が銅(ll)イオンとアミン配位子
とに解離した。
Fig.3.3はCu−cyclam塩化物を種々の濃度で導入したアルミナゲルの77K
測定のESRスペクトルである。
スペクトルA(モル比は1/1000)は、Fig.3.1Eの再録であり、錯体分子の
単分子的分散状態を表している。スペクトルDはモル比が1/25の試料のもの
であり、ブロードな線形は明らかに錯体分子の凝集により生じる。そして、B
とCのスペクトルはこれら2つの中間的な様相を持ち、両者を異なる強度比で
重ね合わせて再現できる。
アルミニウムイソプロポキシドの加水分解によって調製した水性のゾルは、
ガラス平板上に薄く延ばして乾燥すると、ゲル化して擬ベーマイトの膜を生成
する。ゲル膜のX線回折図は、ペーマイトに対して通常得られる結果とは異な
り、(120)、(031)面と比較して(020)面の回折強度が著しく高い9,。 Leenaars
ら1 o,が同様なゲル膜に対して提唱したFig.3.4のCard−pack構造(b軸方向
はこの厚み2.5∼3nmのカードに対して垂直である)は、このような結晶面の
異方性とアルミナゲルの細孔特性の詳細な研究の結果推論されたものである。
ここで用いた試料が巨視的には粉体であっても、Fig.3.4のモデルを採用す
Fig. 3.4 Card−pack structur● of the boeh■ite
991 ■e■brane.
27
ると、以上で述べてきた錯体分子の挙動を合理的に説明することができる。す
なわち、ゲルの吸着水は、スリット状の細孔を通して、ベーマイト表面をかな
り自由に移動できる(吸着水がアルミナゲル中で連続系を形成する)のみなら
ず、錯体分子でさえもその水分子を介して細孔の間を移動するであろう。
したがって、以上の3つのESR結果から、アルミナゲルの吸着水のいくっ
かの興味深い性質が明らかになる。
まず、吸着水がゲル中の錯体分子の運動に重要な役割を持つ。ドープされた
ゲルのESRスペクトルにおけるRTタイプ(溶液タイプ)とLNタイプ(凍
結溶液タイプ)の線形間の可逆的な温度依存は、吸着水がアルミナゲル中でさ
え錯体分子の運動を可能にするほどの‘流動性’を持つことの直接的な証拠で
ある・錯体の室温スペクトルの線形が、水溶液中とゲル中(それぞれ、Fig.3.
1のAとC)で僅かに異なるのは、錯体分子の自由な回転運動がゲル中では幾
分抑制されたことによると考えられる。何故なら、ゲルのスペクトルと錯体の
エチレングリコール水溶液のスペクトルとの問には線形のよい一致が認められ
るからである。因みに、30℃における水と、ユ:1エチレングリコール水溶液
の粘度は、それぞれ、0.80および2.9cP(1cP=10“’ ’3 Kg−」s−1)である。
二つ目には、ゲルの脱水が進むと室温ESRスペクトルの線形がRTタイプ
からLNタイプへと変化するFig.3.2の結果から、 ゲルの脱水が錯体の分子
運動に著しく影響することが分かる。ゲルの脱水に伴って、吸着水分量約15X
を境にそれ以上と以下(Fig.3.2のBおよびc)で、それぞれ錯体分子の運動
と停止が支配的となる。
三つ目には、ゲル中の銅(ll)錯体は脱水によって濃縮されて凝集体を形成
する(Fig・3・3)・濃縮の機構については、板状のべーマイト結晶間を移動す
る水とともに・錯体分子の自由な移動によって達成されると考える。 Fig.3.4
の平板状粒子の厚みがスリットの輻に対応するので、これらの移動には全く問
題はない。
Fig.3.3Bの試料は50℃で3週間加熱後、 約15Xの吸着水を失ったもので
ある(このときのゲルの吸着水分量は約8X)。 ゾルーゲル法で合成したアルミ
28
ナゲルのBET表面積は約300m2/9であるので、水分子1っがアルミナゲル
表面のー10.5A2を占有する1t)と仮定すると、8Xに相当する水分量はゲル表
面に水分子が単分子層を形成したときの量よりも幾分少ない。
なお、このBET表面積の300 m2/gを用いて、モル比Cu/Alが1/1000、
1/100および1/25のときのゲル表面における平均のCu−Cu間距離を概算す
ると、それぞれ60、19および9.4Aになる。 Fig.3.3のスペクトルDの線
形はガウス型であるので、 1125の錯体濃度では双極子による線幅の広がりが
優位になっている。銅(n)イオンの磁気モーメントは1.73B.M.であり、ス
ペクトルの線幅は約io mTであるので、銅がアルミナゲル表面に一様に分布
していると仮定すれば、Cu−Cu間の平均距離はおおよそ5.4 Aとなる12㌧ゲ
ルの表面積から求めた距離との著しい相違は、錯体分子が一様に分布している
のではなく、Fig.3.4のスリット状細孔内(b軸に垂直な面にはベーマイトの
水酸基が露出しているt3))に集合しているという可能性を示唆する。
ルミナ“ル の zLと Fig.3.5はアルミナゲルの吸着水分量によ
るESR線形の変化を示す。 Cu−2, 3, 2− tet塩化物を1/1000のモル比で加え
たゲルを用い、ESRは室温で測定した。各試料の吸着水分量は図の説明中に
明記されている。 3.2で述べたように、 錯体でドープされたアルミナゲルを
110℃で乾燥したときの恒量値を吸着水分量零とした. また、塩化銅(皿)単
体でドープされたアルミナゲル(モル比は1/1000)を50℃で加熱した試料の
スペクトル(E)も並記した。以下、このスペクトルパターンをアルミナー銅
(ll)塩タイプ1 4)と呼ぶ。
吸着水分量の減少に伴って、ESR線形は室温で測定した錯体水溶液類似の
RTタイプ(スペクトルAおよびB)からアルミナー銅(ll)塩タイプ(スペク
トルcおよびD)八と変化した.このようなスペクトルの挙動は・上に述べた
Cu−cyclam塩化物でドープされたゲルの結果とは明らかに異なっている。スペ
クトルCおよびDの観測域の広がりと最も高磁場側の弱い共鳴線の存在は・錯
体のLNタイプとアルミナー銅(皿)塩タイプの線形が重複したことによる・
乾燥したゲルを再び室温の大気中に放置すると・ESR線形はもとのRTタイ
29
Fig・ 3・5 Changes in ESR lin6 shap6 0bserved
at room t白mperature as a function of
th白 amount of adsorbed vater in alumina
gels doped 曹ith Cu−2,3.2−tet in the
■otar Cuノムl ratio of 1/1000.
A.日.Cand D. gels containing adsorbedロater
of 20唱3・ 15・1, 10・6 and 6.8 罵, respeetively
E, gel doped 胃ith copper(1工) chloride in the
■olar ratio of Cu∬Al of 1/1000 heated at 50 ℃
A (v=9.431GHz; 90=2.095; 1 Ao l =0.0087c■エ:);
B(v=9・434GHz;9e=2・096: IAol=0.0089c■−1);
C(v=9.428GHz;gll=2.31; 1All l=0.0200ロー1);
D (v=g.435GHz;gIl=2.32; 1All l=o.ol5c■−1)1 025
E (「レ=9.432GHz; gll=2.314; l All l=0.0146c■−1)
0ヨ0
035
B/T
プに戻った.スペクトルBとDの試料の間の吸着水分量の差は約8Xであるの
で・線形の変化にはこの程度の水の出入りが必要である。これらの可逆的なス
ペクトルの変化は、アルミナゲルを繰リ返し湿潤状態と乾燥状態に置いたとき
に観察された.Cu−cyclam塩化物を除く、いずれの錯体も吸着水分量の変化に
よって同様なスペクトルの挙動を示した。Table 3.1に全ての錯体のESR
スペクトルデータをまとめた。
Fig.3.6はCu−2,3, 2− tet塩化物および塩化銅(ll)でドープされたアルミナ
ゲル膜の吸収スペクトルを示す・モルtヒCu!A1は1/100であるが、 ESR測
定を行なった1/1000のゲルと同じスペ外ルの傾向を示したので、明瞭な吸
収を得るためにより高い濃度を用いた。
加熱前のゲルのスペクトル(c)は、錯体水溶液のスペクトル(E)に類似
している・525 nmに極大を持つその吸収帯は、平面正方形型配位の銅(il )
イオンのd−d遷移に帰属される’5) oところが、ゲルを加熱(すなわち、脱
30
垣s
P.
自』
/一
_
/ \
4CO 600 800
Wave tength. nm
Fig. 3.6 Absorption spectra of the alumina gol
filas dOP6d ■ith Cu−2,3,2−tet and its
parent copper sa1t in the ■01ar C凹/Al
ratio of l/100.
ム, fil口 doped ”ith copPer(11) chlorid已;
before heating
B, fi1■ doped lith copper(1工) chloride;
aft白r heating at 50℃
C, fil■ doped lith Cu−2,3,2−tet;
before heating
D, fil■ doped ’ith Cu−2,3,2−tet;
afte r heating at 50℃
E, 0.5 匝H Cu−2,3.2−tet in aqueous solutien
水)すると、 525nmの吸収強度は減少し、代わって390 nmの吸収帯と800
nmより長波長側に弱くて幅広い吸収帯が現われた。 新たな吸収帯のうちの前
者はアルミナの酸素原子と銅(皿)イオン間の電荷移動、後者はアルミナマト
リックス中で入面体型に配位された銅(皿)イオンのd−d遷移に帰属される
t 6)。 これら2つの吸収帯は、塩化銅(H)でドープされたアルミナゲル膜を
50℃で加熱した試料にも認められた(Fig.3.6のスペクトルB)。
スペクトル変化に対応した明瞭な色の変化が、 アルミナゲルを50℃で加熱
したり、室温のデシケーター中で乾燥させた後、再び室温の大気中に放置した
ときに認められた。 Fig.3.6とTable 3. 1から明らかなように、 Cu−cyclam
塩化物以外の3つの錯体では、吸収スペクトル、色およびESRパラメーター
の間には極めてよい対応関係がある。
31
Table 3●1 ESR res凹1ts t, and changes in colour of the alu皿ina ge工s doped 冒ith
potyamine copPer(II) chloride and its parent coPPer sa1しz), and stability
constant5 0f the comple瓦es
Conditions of Cu−cycla臼コハ Cu−2,3,2−tet Cu−3,2,3−tet Cu−trien
CuC』
treat■ent
Before heating 2.093‘1
(original gels) 0.00885,
2.095
2. 098
0.0088
2.107
0.0079
2.1?8‥
0.oe87
light
vielet
1ight
violet
1ight
blue
1ight
btue
tight
blue
Heating at 50℃ 2」75帥
2. 32
0.015°
2.318
0.0142
yello冒
2. 32
or drying in 2.314
0.0146
a O.02017)
desiocator at l ight
yellow
roO口 te■perature violet
0. O正5’
yello冒
Rehydration on
2.0914D
2.097
2.098
2.io7
stand三ng under
at■ospher白
O.00885,
0.0085
0.0088
0.0079
light
violet
1三ght
vielet
1ight
biue
1ight
blue
Stability
26.5
yellov
green
23.2
21.7
2.178”
1ight
blue
20.1
constant叫
1) Roo■−te菌pe「atll「e spect「a
2) The 血01ar ratio of Cu/AL 三s 1/1000.
3)Dopant
4) 90 0r g1■● 5) tAol (c田一1) 6) 911 7) 1All l (c皿一1)
8)10gK,(Cu:つt,1
皐 The e〕【act values could not be det白r田ined o冒ing to the overlapPing of the frozen
solution type line shape of the gels.
.牢
@A broad and sym皿etrical singie absorption line.
Fig.3.5、 Pig. 3.6およびTable 3.1から、アルミナゲルの吸着水分Mの減
少に伴って生起するもう一つの驚くべき現象が明らかになる。すなわち、ゲル
中で錯体分子が銅(ll)イオンとアミン配位子とに解離する。ゲルの加熱によ
って・平面正方形型配位の錯体カチオン量が減少し、代わって銅(n)イオン
とアルミナの酸素原子間に相互作用が生じるとした吸収スペクトルの結果は、
脱水による銅(皿)錯体分子の解離とアルミナー銅(ll)塩タイプの化学種の
形成1n)を予測したESRスペクトルからの観察と矛盾しない。既に述べたよ
うに・cyclamを配位子とする錯体は例外である。 Table 3.1の錯体の安定度
定数1 7)を比較してみると、 環状ポリアミンのcyclamと他の3つのアミンの
間のIO3オーダー程度の差が、 ゲルの色の変化、 ESRおよび吸収スペクト
ルの変化に決定的に影響していることが分かる。
32
アルミナ表面への水分吸着のモデルをこの場合にも適用すると、アルミナー
銅(ll)塩タイプのESR線形に移行した試料(Fig.3.5のスペクトルC)の
吸着水分最約10Xは、 アルミナの全表面を水分子が単分子層吸着によって被
覆する量にほぼ等しい。
このような錯体分子のダイナミックな変化の原因については、いくつかの可
能性を挙げることができる。
第一に、 アルミナゲル表面の水酸基(A1−OH)は、次のような吸着水分子と
の間の水素結合によって安定化されている。錯体分子はこの水分子と弱く水素
H
H
\0/
H H
O O
l l
Al Al
O/ \0/
\0
結合(物理吸着)することによってゲル表面で安定に存在するが、脱水に伴っ
てゲルの表面活性サイトへの銅(n)イオンの化学吸着(Chemisorption;結
合形成を意昧し、物理吸着とは区別する)が促進される。
第二に、ゾル溶液調製の段階で添加した塩酸は、吸着水分量の増減に応じて
ゲル中で希釈または濃縮される。この濃度変化が錯体の安定性に与える影響も
無視できない。 因みに、アルミニウム塩にアルカリを添加して、pH9で生
成した擬ベーマイト(酸を含まない)に錯体水溶液を含浸させて得られた複合
体では、吸着水の除去によって、錯体分子の解離の徴候は認められなかった・
ゾルーゲル法調製のアルミナゲルの特殊性とも考えられるが、詳細を明らか
にするためには、ゲルの表面化学についてさらに掘リ下げる必要があろう。
アルミナゲル表面上での水分子の可逆的な吸脱着に伴う、Cu−cyclam塩化物
以外の銅(il)錯体分子の挙動を模式的に表現した結果をFig・3・7に示す・ 錯
体分子は、水分子が十分に(ゲルの表面に単分子層を形成するよりも多く)存
在する場合には安定であるが、吸着水分量の減少に伴って・銅(皿)イオンとア
ミン配位子とに解離する。そして、一つの銅(ll)イオンは・アルミナゲル表面
33
の相互に隣接する水酸基がプロトンを放出して、酸素原子と結合すると考えら
れる田】。 解離された配位子はプロトン化され、残リの吸着水分子が水和して
安定化される。Table 3.1において、錯体でドープされたゲルと塩化銅(ll)で
ドープされたゲル(いずれも50℃で加熱または室温のデシケーター中で乾燥
後のもの)の間の9値のよい一致は、このモデルが正しいことの証拠である。
ただし、銅(H)イオンのアルミナゲル表面吸着モデル(Fig.3.7の下半分)
においては、配位子が完全に離れてしまっている場合を模式的に示した。この
銅(皿)イオン種が主要に存在することはESRスペクトル結果から確かであ
るが、アミンの窒素原子の一つあるいは二っが配位した銅(且)イオンが共存
する可能性も否定できない。 それはFig.3.5のスペクトルCおよびDにおけ
る低磁場領域の超微細構造線の分離がよくないためであり(Cu−3,2,3−tetおよ
/
\//\
\
O−−Al
/A1
°’1 ・,・(
8{s O
}{tO
eds口rptlon
desorptSon
/
Fig. 3.7 Solle■atio 「epr白senしation o『 the
interaction bet”een aロunina ge1
訓rf旦c白and potya■ine copper(1口
CO●plex冒ith reversible ad80rption
and desorption of祀tor.
Chlorid6 ionS end poSitiVg charggS on coppor
ion are odtted. Tb白C悼pt白置■ay have t,o
vater nolecllles in 5 and 6th coordination
\
O−A1
Al−一
普^
Ht O
x..一一ノtx・、io
/
sites, although it see■s to b白 stable in
square plan且r structure. Polya■ines othor
than cycla■fit this case.
}tsO
34
びCu−trien塩化物でドープされたゲルにも認められる)、吸着された銅化学
種が単一ではない可能性を示唆している。これらがアルミナー銅(H)塩タイ
プの化学種と平衡状態にあると推定されるが、詳細を知るためには他の特殊な
ESR測定法(例えば、SまたはQバンドによるESR測定や電子スピンエコ
ー法! 9)、 ESRスペクトルの計算機シミュレーション法)によることが将来
必要であろう。
上に述べた銅(H)イオンの挙動とは異なり、ポリアミン銅(ll)錯体自身
はアルミナゲルの表面活性点には化学吸着(ここでは、この用語を表面錯形成
による結合と解する)していないように思われる。何故ならば、すでに述べた
ように、錯体分子は吸着水を含むゲル中で、回転と移動の自由度を有するから
である。錯体分子はアミンの窒素原子によって、アルミナゲルの表面水酸基の
水素原子と、あるいはゲル表面に吸着した水分子との水素結合を介してアルミ
ナゲル表面に吸着(ここでは、物理吸着と呼び、化学吸着と区別する)するで
あろう。したがって、ゲル中の水分含有量が、錯体分子の運動性および吸着特
性に大きく影響すると考えられる。Cu−cyclam分子のゲル中での運動と吸着水
分量の関係を考察した箇所ですでに述べたように、水分子がアルミナゲル表面
で単分子層を形成する程度の水分含有量を境に、錯体分子の運動性は著しく変
化する(Fig.3.3BのESRスペクトルは、 Cu−cyclam分子がゲル中で自由な
回転運動を停止したことを示している).
小林らL“}および田中らt°}は、通常水溶液中では観察される有機染料分子の
凝集が、ゾルーゲル法によって調製されたアルミナゲル膜中ではかなりの程度
抑えられると報告している。この場合にも、染料分子は水分子を介して、水素
結合によってゲル表面に保持されると推論した。
モル比Cu/Alが1/1000程度の銅(H)錯体濃度でドープされたゲル中では・
錯体分子は吸着水の存在によって自由に回転運動ができるしsゲル表面を移動
することも可能である。水分の蒸発によって、銅(ll)錯体はゲル中で濃縮さ
れ、銅(III)イオン間の平均距離は徐々に小さくなり・ある値にまで近付くと・
35
錯体は擬似結晶に近い状態となって(Cu−cyclam塩化物以外の錯体では、結晶
化するまえに表面錯形成が行なわれる)、一定の電子スピン間の相互作用が生
ずるようになる。それと同時に、錯体分子はゲル表面に固定化され、運動の自
由度を失う。もちろん、このような銅(ll)錯体の状態変化は、 card−pack構
造(Fig.3.4)のスリット状細孔内で起きる。 この細孔はメソ孔に相当する単
一の細孔径分布を示すので1°)、アルミナゲル表面に親水基(OH基)が露出し
ているペーマイト構造をも考慮すると、錯体の濃縮、結晶化はゲル内で一様に
生起していると推論される。
3.3.2 アルミナゲル中のニッケル(ll)錯体の挙動
Ni−cyclam塩化物は、水溶液は茶褐色で反磁性、錯体結晶粉末は淡紫色で常
磁性20}(JUL 。[r・3.15 B』.)である。
水溶液の吸収スペクトル(Fig.3.8F)には、 約450 nmに平面正方形型四
配位ニッケル(ll)イオンのd−d吸収帯(ε_・45.o)、結晶粉末(Fig.
3.8E)では、 cyclam分子の四配位に加えて、軸方向に塩化物イオンが配位し
た入面体型六配位ニッケル(皿)イオンのd−d遷移 (520および670nm)が
認められる20)。
ニッケル(n)錯体:を含むアルミナゲル(モル比Ni1A1・1/25)と、 それを
100℃で加熱後のゲルの吸収スペクトルをFig.3.8のAからDに示す。
加熱前のゲル(スペクトルA)は、四配位化学種の茶褐色(λ。e.=450 nm)
が強いために六配位化学種の吸収帯は認められないが、磁化率測定結果から全
ニッケル(ll)化学種の約3分の2は、後で述べるように常磁性(六配位)で
あると推定したe したがって、約20Xの吸着水を含むアルミナゲル中で、銅
(ll)錯体では自由な運動が観察されるほどの水分子が存在しても、四配位化学
種生成の割合はかなり小さい。
このゲルを乾燥すると、水分量の減少に伴って、吸収スペクトルには約680
nm前後に六配位化学種の吸収帯と、新たに560 nmにも吸収が現われた。後
36
or
巾
拐
巴
口
巾
or
員
rig. 3.8 Chango8 in absorption 皐P6ctr亀
of tho 皐lu■ina 菖918 『i1■8 doped
冒ith Ni−oyol邑■ in tho ■ol8r 目i!A1
苔
開tio of l/25 heated at 100℃.
A, fil■B befor6 beating
B. afte「 亀 day
C, after 2 days
D・aft6r s days
姻
巴. Hi−cyola■, PO■der
F,Ni−cycle■. aqu白ous s。lution
500
600 700
Wave 1ength, nm
霧
「口
£
9
盈
o
D
<
500 600 700
Wave length. nm
臨3
800
800
者の吸収術は、 六配位錯体の短波長側の吸収帯(3A 2.→・3Tts(F)2t))の
λ zaax(520 nm)よりも赤色移動しており、ニッケルの配位状態の変化を示唆
した。 例えば、木村らz2}はフェノールをペンダントとして有する13∼14員
環テトラアミンのニッケル(皿)および銅(皿)錯体において、テトラアミン
を底面とする四角錐の頂点にフェノールの酸素が配位したときに、同様なスペ
クトル変化を観察している。
ゲルのこのようなスペクトル結果に対応して、複合体の色は乾燥前の茶褐色
から黒褐色へと変化した。ところが、ニッケル(皿)化学種の有効磁気モーメン
トは、 吸着水分量が約20から7−一 8Xへと減少しても、2.4∼2.6 B』.(約
3分の2は常磁性化学種であることを示す)の範囲でしか変化しなかった。そ
して、脱水によって変色したゲルは、再び水に溶解してゾル状態に戻しても、
560nmの吸収帯は容易には消えず、 一ヵ月以上かかって徐々にもとのゾルの
スペクトルパターン(四配位型)へと変化した(Fig.3.9)。
これらの結果は、すでに述べた銅(1)錯体(Cu−cyclam塩化物)でドープさ
れたアルミナゲルが、脱水によって、錯体分子の運動性と集合状態だけが影響
を受けるのとは著しく異なっている。 両者の錯形成定数(logKl)は、ニッ
ケル(皿)錯体では22. 223)、銅(ll)錯体では26.517}である。ニッケル(皿)
錯体とほぼ同じ錯形成定数の開環の鎖状ポリアミンを配位子とする銅(ll)錯体
(Cu−3.2.3−tet塩化物に対して21.7i 7))では、ゲル中で配位子が解離して
A1−0−Cu結合を形成する。したがって、同じゲル中(磁化率の測定結果を考慮
すると、 加熱する前の約20Xの吸着水を含むゲル中においても、六配位化学
種が主体的)でかなり不安定なニッケル(皿)錯体が、ポリアミン配位子を保持
したままで・軸方向で同様な結合をしていると考えると、吸収スペクトルの結
果とも矛盾しない・ こうして形成されたAl−O−Ni結合は、 Fig.3.9の結果か
ら明らかなように・容易には切断されない。アルミナゲル表面でのこのような
結合形成はNアルミニウムと重金属を共沈させたり、アルミナゲルあるいは非
晶質アルミナに重金属を吸着させたときにも観察される1s・24)。Cu−−cyclam塩
化物は平面正方形型配位の状態が極めて安定であるので、アルミナゲル表面と
38
の間では結合形成のような強い相互作用がなく、したがって、ゲル中で自由な
運動が可能であると考えられる。
3.3.3 銅(ll)およびニッケル(ll)錯体でドープされたアルミナゲルの熱分解
Cu−2,3,2−tet塩化物でドープされたアルミナゲル(モル比Cu/Al・1/25)
の大気中の熱分析結果は、錯体単体の場合とは異なる(錯体の分析結果につい
ては2.3.1参照)。 第一に、金属銅への還元に起因する約250℃の鋭い吸熱
ピークが消失した。第二に、塩化銅(1)の揮発に基づく大きな減量が認めら
れなかった。このように、銅(ll)錯体はアルミナゲル中では違った分解挙動
をすると思われる。金属銅への還元の鋭い吸熱ピークは、窒素雰囲気下のDT
A曲線にも現われない。 ゲルの吸着水分量の減少に伴ってFig.3.7の下半分
で示したようなAl−O−Cu結合がゲル表面において形成され、 二価の原子価状
態が安定化されることが錯体単体の熱分析結果との相違の原因であると考えら
れる。
ゲルとその大気申の熱分解生成物のESR測定結果をFig.3.10に示す。
200℃の加熱によって、 すでにもとのゲルのESR線形からは変化をしてい
る。 しかし、その後400℃までの加熱物の線形に変化がないことから、200℃
以下の温度で配位子は脱離していると考えられる(3.3.1における考察とも矛
盾しない)。この間にESR信号強度は約2分の1に減少しているので・配位
子脱離と同時に二価銅の一部は還元されているかも知れない。600および800
℃の加熱ではさらに線形が変化した。この図に対応したX線回折結果は・400
℃でペーマイト(アルミナー水和物)がy一アルミナへ結晶転移し、800℃で
は・V,_アルミナに加えて複合酸化物CuM 20425・26ハの生成を明らかにした(600
℃の加熱生成物とESR線形が同じであることから、すでにこの温度で複合酸
化物が生成している)。
同じ銅(皿)錯体でドープされたアルミナゲルの窒素雰囲気下において測定
したDTA曲線では、銅(皿)イオンの金属銅への還元による強く鋭い吸熱ピ
39
025
030
035
日/T
『ig. 3.工O Roo■−t白■perature gSR sp白ctra 『or the
th白r■al deco■po5ition prodvcts or th白
alu■ina 9白l dOP白d lith Cu−2,312−tet、 in
th白■olar CU/Al ratio of l1Z5.
A,origina19白1;B−P, the gels hea ted in air
at 200,300,400,600 and 800℃, r白sp白ctively
一クが認められないことはすでに述べた。このゲルは500℃、1時間の加熱で
ようやく金属銅の痕跡がX線回折によって確認され、温度が高くなるに伴って
その生成量は増加した。錯体単体の熱分解では、約250℃ですでに還元が起こ
っていることを考慮すると、ゲル中では二価銅は容易には還元されないようで
ある。
Fig.3.11には、窒素雰囲気下の熱分解で得られた試料のESRスペクトル
を示す. 半定量的には、銅(H)イオンによる信号強度は、600℃までは加熱前
のゲルの約20分の1にまで減少するが、600と800℃の間では変化しない。
したがって、 800℃においても銅化学種の一部は二価の状態で安定に保持され
ており、 錯体単体の熱分解とはかなり違った様相を呈する。400℃以上の温度
40
025
Oi幻 0ヨ5
B/T
Fig. 3●11 Roo■−te■poraturg CSR 8pootr邑 for the
th6r■81 d.co■po8ition produet3 0f the
巳1山■ina gel {loped ■it,h Cu−2.3,2−t6t in
th⑤■o』r CulAl r亀tio of 1!25.
A.original ge1;B−9, th白gels hoated under th6
at.。sp』er・・f nitr。脚at 200.500・600 and
800℃,resp白ctively
で加熱した場合には、g・2.00のシグナルにより有機ラジカルの生成が認め
られた。
Ni−cycla皿塩化物でドープされたアルミナゲルの大気中および窒素雰囲気下
の熱分解過程も上述の銅(ll)錯体の場合と類似している.加熱温度が600℃
を越えると、大気中ではNiA1,0,2s}、窒素雰囲気下では金属ニッケルの生成
が、X線回折および吸収スペクトル測定によって確認された。
以上の、金属錯体を含むアルミナゲルの熱分解を各錯体の結果(第2章)と
比較すると、両者に著しい相違が認められる.大気中の熱分解では・銅(ll)
錯体は一価の化学種に還元され、ニッケル(皿)錯体は酸化ニッケル(皿)を
生成した。窒素雰囲気下の熱分解では、いずれの錯体も金属にまで還元された
41
が、その反応は銅(ll)錯体では約250℃、ニッケル(ll)錯体では約400℃
とかなり低い温度で生起した。3.3.1および3.3.2において、アルミナゲル
表面にAl−o−CuまたはAI−o−Niの形成を予想したが、これらの結合が、大気
中のゲルの熱分解においては複合酸化物の生成を容易にし、窒素雰囲気下の熱
分解では金属への還元を起こりにくく(500∼600℃に加熱しないと、X線回折
によって金属の検出が不可能である。 また、銅(H)錯体においては、800℃
でも銅(皿)イオンのESRシグナルが認められる)していると考えられる.
3.4 まとめ
ゾルーゲル法によってポリアミン銅(ll1)およびニッケル(皿)塩化物錯体
をアルミナゲル中に導入し、主として熱重量分析、ESR、吸収スペクトル測
定によりゲル中の錯体分子の挙動を解析した。そして、吸着水の性質、アルミ
ナゲルの構造、ゲル表面への錯体分子の吸着などに関して次の結論を得た。
1) アルミナゲルの吸着水は、ゲル中でさえ錯体分子の運動を可能にするほ
どの流動性を持つ。
2)吸着水分量の増減によって、錯体分子は可逆的に運動とその停止を繰リ
返す。
3) 吸着水分量の増減によって、錯体分子はゲル表面で可逆的に分散と会合
を繰り返すことから、吸着水は迎続した溶液系である。
4) 吸着水分量の増減によって、錯体分子の可逆的な生成と解離が起きるこ
とから、吸着水は反応場を制御する。
5) ゾルーゲル法によって調製したアルミナゲルに対して、 Leenaarsらに
よって提唱された平板(カード)状のゾル粒子の積み重ね構造が支持された。
6) 錯体分子はこの構造のスリット内に均一に分散または凝集体を形成して
存在する。
7) 錯体分子はアミンの窒素原子がゲル表面の水酸基あるいは吸着水分子と
42
水素結合することによリ吸着し、銅(皿)およびニッケル(ll)イオンは、それぞ
れ、A1−o℃uおよびAl−o−Niのような結合を形成する。
また、ポリアミン錯体を含むアルミナゲルの熱分解挙動に関して、次の知見
を得た。
1) ゲル中における錯体の熱分解挙動は、錯体単体の場合とは異なる。
2) 大気中の熱分解によって、アルミナと酸化銅(ll)もしくは酸化ニッケ
ル(皿)との複合酸化物(CuA120,、 NiA120,)が生成する。
3) 窒素雰囲気下の熱分解によって、アルミナ中に分散した金属銅および金
属ニッケルが生成する。
4) アルミナゲル表面における結合形成が、複合酸化物の生成を容易にし、
金属への還元を抑制する。
文献
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46
第 4 章 シリカゲル表面とポリアミン銅(ll)錯体の
相互作用
4.1 はじめに
機能性有機分子あるいは触媒活性種の担体としてアルミナ、シリカなどの酸
化物が有効であることは、第3章においてすでに述べた。ゾルーゲル法を応用
するとこれら担持物の分散状態や触媒活性種の粒子径の効果を、他の担持方法
(含浸法、混練法、共沈法など)に比較して、改善することができる1,。
上野ら2)はアルコキシド法(ゾルーゲル法と同意)と含浸法によりシリカ担
持ニッケル触媒を調製し、担体中のニッケル粒子の粒子径を比較した。電子顕
微鏡(TEM)観察結果から、ニッケル粒子はアルコキシド法で調製した場合
には比較的均一に揃っていたが、 含浸法による触媒では幅広い粒径分布(20
Aから600A以上のものまで)を示した。
含浸担持では、シリカゲル中への活性種の固定のためにイオン交換が利用さ
れる場合がある。シリカゲル表面には多数の水酸基が存在し、多くの陽イオン
が水酸基のプロトンと交換可能である。このようにして金属イオンで交換した
シリカゲルの触媒特性が研究されているs・ 4}eシリカゲルは本質的に多孔性で
あるので、多数の交換サイトがゲル表面に一様に存在する。したがって、金属
塩の含浸操作(水溶液のpHを調節してイオン交換させる)の後、シリカゲル
を十分に水洗して未交換の陽イオン化学種を除去すれば、上述のゾルーゲル法
に匹敵する分散状態と粒径分布が期待できる。
第4章では、以上の二つの方法(ゾルーゲル法とイオン交換法)によりシリ
47
カゲルをポリアミン銅(皿)錯体でドープし、銅(ll)化学種の分散状態を比較す
る.錯体分子の運動を通して観察されたアルミナゲルの吸着水の存在状態に関
する興味ある事実がシリカゲルにおいても認められるか否かが注目される。そ
して、このような比較を通して、担体としてのシリカゲルとアルミナゲルの細
孔構造、表面の性質などの相違を明らかにする。後半の部分では、このように
して得られたシリカゲル中の銅(ll)錯体の加熱変化について述べる。
なお、 シリカゲルを錯体分子でドープした研究例は、 アンミン錯体の場合
3°’4)を除いて見当らない。
4.2 実験
ll
・t一プさ たシリカ“ルの
シリカゲルはテトラエチル
オルトシリケート(TEOS;関東化学社製)を塩酸触媒によって加水分解す
るゾルーゲル法の常法5)にしたがって合成した。すなわち、TEOS、エタノ
ールおよび水(モル比1:12.3:20.5)の混合物を激しく撹絆しながら塩酸
を滴下し、均一溶液のpHを4.5に調節した後、35℃で3日間保持した。生
成した湿潤ゲルは50℃で1週間かけて乾燥し、固化させた。乾燥ゲルは微粉
砕した後、水分、アルコールなどの残留揮発成分を除去するために100℃で、
24時間加熱した。
上記で作製したシリカゲル500mgに対して 正O rniの銅(皿)錯体水溶液を
加え、 水酸化ナトリウム溶液添加により懸濁液のpHを調節(5∼12)して、
室温で放置した。青く着色した沈殿物は濾過し、数回水洗して、 100℃で乾燥
した(この方法をイオン交換法と呼ぶ)。シリカゲルによってイオン交換され
た銅の量は、交換前後の水溶液中の銅濃度の差から求た。この量をシリカゲル
中の銅(ll)錯体の重量百分率あるいはモル比Cu/Siによって表現した。
ゾルーゲル法による複合体の調製は次のように行なった。銅(ll)錯体水溶液
と水をTEOSとエタノール(モル比1:12.3)の混合溶液に加え、 水のモ
48
ル比が20・5になるように調節した。 混合溶液のpHを塩酸で4. 5に合わせ
た後の手順は・担持物を含まないシリカゲルの合成の場合と同様であった。生
成した深青色の固体は・Cu/Siが1/25までは透明なガラス様の物質であり、
銅(ll)錯体はゲル中に凝集することなく、均一に溶解しているように見えた。
なお、使用した銅(ll)錯体はトリエチレンテトラミンおよびN, N’ 一ビス(2一
アミノエチル)−1,3一プロパンジァミンを配位子とする塩化物錯体である。 以
下では、それぞれCu−trienおよびCu−2,3, 2−tetと呼称する。構造式は次に
示す通りである。
N N
〔 ×〕・Cl・
N N
×〕・Cl・
〔
N
N N
Cu−trien
N
Cu−2,3,2−tet
試薬は市販特級品をそのままで用いた。蒸留水を使用した。
シ1 ’ルか’の 皿 の” 銅(ll)錯体でドープされたシリカ
ゲル500mgに対して20 m 1の水を加え、室温で3日間撹枠した。沈殿物は
濾過して、少量の水で洗浄後、100℃で乾燥した。 濾液と洗浄水中の銅濃度の
合計から、シリカゲルから溶離された錯体量を求めたe
ll ・“一 ニシ1 “ルの 盤 第3章の実験の項参照。
= 水溶液中の銅濃度の決定は、日本ジャーレルアッシュ社製AA−
782型原子吸光分析装置によった。
ESRスペクトルはすべて室温で測定した。
その他の装置については第3章の実験の項参照。
49
4.3 結果と考察
4.3.1 シリカゲルによる銅(ll)錯体カチオンのイオン交換
シリカゲル表面の水酸基のプロトンとポリアミン銅(ll)錯体カチオンとの交
換反応は速やかに進行し、 24時「田以内にほとんど平衡に達する(Fig. 4. 1)。
このpH11における平衡実験の結果から、以下では24時間後の結果のみを
示す。
eX・20
量,
ξ
三旧
§
き5
』
O l2 24 36 48
Time. hr
Fig. 4.1 The aロount of coPPer(II) cation loaded
on silica gel by ion exchange at roo血
to叩erature as a functien of time.
●, 0.1 n Cu−trien; O, 0.l H Cu−2,3,2−tet
Fig.4.2はシリカゲル中の錯体カチオン含有率のpH依存性を示す。イオン
交換されたカチオン量は、 pH7を越えると急に増加し、pH11で“・・…一定値
に近づく。 ここで注目すべき点は、 pHが5であっても、モル比Cu/Siで
1/200∼1/100程度のカチオンがシリカゲル中に交換されて存在するというこ
とである。何故なら、4.3.2で述べるゾルーゲル法による複合体の調製におい
ては、この付近(pH4.5)で銅(il)錯体を含むTEOS溶液は加水分解される
からである(4.2参照)。
Fig.4.3から明らかなように、 銅(皿)錯体の初期濃度が0.3 M(錯体水溶
50
15
eNe
冨
§
:10
言
至
§5
曇
喜
04
6 8 10 12
plH of the 叫コlex sotutien
Pig. 4.2 The amount of copPer(II) complex
cation loaded on silica gel at roo■
te■perature by the ion e瓦change
techniq凹e as a funct三〇n of pH.
The a■ount of COPP白r on the silica gel 冑as
estimated fro回 the differences in eopper
concentration bet冒een twe solutions before
and after ion exchange.
●, 0.1 H Cu−trien; O, 0.1 H Cu−2,3,2−tet
。x°
冨
BI5
2
∈…
惹
遥
9
u
10
董
菖
0
o』
o.2
03
1nitiat coppertl l) 〔omp tE!x concen†ra†ion」 O.4
M
Fig.4.3 The a恥unt。f c。p卵r(II)C。■P1●賞cati。n
loaded en siliCE gol at roo■ te■P6raturo by tbe
三〇n o買cbangθ techniqu6 as a 『凹notion o「 the
initial cencentration of copper(II) co■Ple瓦.
Tho a■eunt of copper on the 5nica gel 書as 6sti■ated
fr口th。 differences in coPP6r¢oncentration bet冒een
t層o soEution5 before and afte『 三〇n e箕change.
●.Ou−trien;O, Cr2,3,2−tet.
51
液の初期pHは11)まではゲル中の銅濃度は直線的に増加する。 極大値にお
けるCu/Siは、 Cu−trieRおよびCu−2, 3, 2−tetに対して、それぞれ1/17お
よび1/21である。0.3Mを越えると負荷量が減少するのは溶液中で錯体分子
の会合が生じ、おそらく、有効なカチオンの濃度が減少することによる。
イオン交換法により銅(II)錯体でドー・一一一プされたシリカゲルの吸収スペクト
ル(Fig、4.4の3および5)は、平面正方形型配位の銅(H)イオンのd−d遷移
6}を示すが、それらの吸収極大は錯体水溶液(Cu−trienおよびCu− 2, 3, 2−tet
のλ。。xはそれぞれ580および530 nmである)のものに比べて約35∼75 nm
長波長側に移動している。このことは錯体カチオンのイオン交換を支持する一
つの証拠となる。何故なら、この吸収極大の移動は、平面正方形型銅(ll)錯
体に対して軸方向からの強い結合が形成されたためである。なお、イオン交換
豆
’1
巴
芸
丘
皇
き
8
‘00 500 600 700 800 900
Wave tergth, m
Fig. 4.4 Visible spectra of the silica
gels doped lith coPPer(II) coロplexes
in the Cu/Si ratio of l/25 by the
so1−gel afid ion exchange t,echniques.
1 and 2, aqueous solutions of Cu−trien and
Cu−2,3,2−tet, respectively:
3, Cu−trien by ion exchange:
4, Cu−trien by so1−ge1:
5, Cu−2.3,2−tet by ion exchange;
6, Cu−2・3.2−tet by so三一9白1
52
を行なったpH範囲(5∼12)において、錯体水溶液の吸収スペクトルは吸収
極大の波長、吸光度(またはモル吸光係数)ともに変化しないので、オール化
または部分的に加水分解された銅(ll)錯体種の存在を考慮する必要はない。
Fig.4.5のAはイオン交換法によりCu−2,3,2−tetでドープされたシリカゲ
ルのESRスペクトルである。
種々の濃度の錯体カチオンを含む試料のESRスペクトルは2っの範晴に分
けることができる。一つは、Cu/Siが1/1000の試料に代表されるもので、単
分子的に分散された銅(ll)化学種の線形を有する。他の一つは、凝集した銅
(皿)化学種に特徴的な線形で、Cu/Siが1/25の試料がそれである。以下で
は、それぞれを‘単分子分散パターン’および‘凝集パターン’と呼称する。
錯体カチオンの含有量が増加すると銅(皿)イオン間の平均距離が減少し、つ
いには双極子による線幅広がりが顕著になるeこの場合の平均距離の減少は、
シリカゲル表面における錯体カチオンの移動によるのではなく、すでに交換さ
」_________」_____■■_」____一一一一
0.Z OヨO
035
035025 030
B∫T
BrT
Fig. 4.5 ESR 5P6ctra of the 8ilio題 8615 dop白d
書ith Cu−2・3,2−t」et in o vari白ty of ■01亀r
r白tio5 0「 CU/Si.
Nu■erals on curves 9皿press■oler retios of Cu/si.
A,ion exchang白technique;B,801−ge:technique
53
れた銅(H)イオン間に存在する未交換サイトが新たにイオン交換されて、そ
の結果として、隣接銅(ll)イオン間の平均距離が短くなることを意味する。
Cu/Siが1/1000から1/50の範囲では、 ESR線形は凍結溶媒中(常磁性種
が個々に凍結溶媒の籠の中に捕捉された状態)の線形に類似し、その系が単分
子的な分散状態にあることを示す。これらの試料のスペクトルに特徴的な異方
性は、錯体分子がゲル中で、ESRの時間の尺度内では静止している状態にあ
ることを明らかにしている(LNタイプのスペクトル)。この場合の゜捕捉’は、
具体的には、シリカゲル表面の2つの近接の水酸基のイオン交換によって、平
面正方形型錯体の軸方向の上下からの結合形成を意味する。ESRパラメータ
の変化(Cu−trien水溶液の77 K測定のスペクトル、 g,・2.193、ん=203×
10“4cm−1;同じ錯体でCu/Siが1/1000になるようにイオン交換されたゲル
の室温測定のスペクトル、&;2.212、ん・171×10−4cm”t;Cu−2,3,2−tet
も変化の割合は小さいが、同様な傾向を示す)は、テトラアミン錯体の平面正
方形型から軸位への配位による正八面体型への配位構造の変化と対応する7)。
第3章では、ゾルーゲル法で調製されたアルミナゲル中の銅(ll)錯体分子
が、室温において、ゲルの吸着水の存在によって、水溶液中とほとんど同程度
の運動の自由度を有することを述べた(このESRスペクトルをRTタイプと
した)。アルミナゲルの吸着水分量は約23Xであり、脱水によって8%以下
にまでなったときに錯体の分子運動は停止した。しかしながら、シリカゲルの
吸着水分量は約15Xであるにもかかわらず、 シリカゲル中に含まれる錯体分
子の場合には、LNタイプのスペクトルしか観測されなかった。このような両
者のゲル中の錯体分子の挙動の相違は、主としてゲル表面のイオン交換能の有
無によるが、ゲルの結晶学的構造、表面状態あるいは吸着水の作用などが総合
的に反映した結果であると考えられる。このことに関しては、後に詳述する。
4.3.2 ゾルーゲル法によって銅(ll)錯体でドープされたシリカゲル
ゾルーゲル法で錯体を埋め込んだシリカゲルガラスは透明で、巨視的には錯
54
体分子の凝集は見られなかった。Fig.4.4に示したこれらのゲルの吸収スペク
トル(図中の4および6)は、錨体水溶液と比較して吸収極大が僅かに長波長
移動(約10∼30nm)している。そして、長波長移動の程度ががこの中間の大
きさの波長に、オパールグラス法で測定した錯体結晶粉末のスペクトルの吸収
極大が存在する(Cu−trienは単離できないので、 Cu−2,3,2−tetの場合)。イオ
ン交換法とゾルーゲル法によって調製したゲルのスペクトルを、錯体水溶液の
吸収極大を基準に赤色移動の大きさを比較すると、銅(II)錯体分子の配位環境
は、移動が少ないゾルーゲル法のゲル中において、より水に溶解した状態(ま
たは錯体結晶の状態)に近いことが示唆される。
ゲルのESRスペクトル(Fig.4.5)を調製方法の違いで比較すると、 ゲル
中の銅(H)化学種の局部環境が両者で本質的に異なることが分かる。即ち、ゾ
ルーゲル法によるガラス中では、モル比cu/siが1/1000から1/100へと増
加すると、単分子的に分散した錯体種に凝集体が加わる。これは、ゲル中の錯
体濃度が高いほうが、単核種に特徴的な超微細構造が不明瞭になり、凝集を示
すスペクトルパターンに近付くことから明らかである。したがって、シリカゲ
ル中の銅(ll)錯体濃度が1/1000と1∫100の間のあるCu/Si値を超えると、
単核種(ほとんどはイオン交換によってシリカゲル表面に結合された状態)に
加えて、凝集状態でゲルの細孔内もしくはその壁面に吸着される錯体分子が増
加する。後者の錯体分子は、アルミナゲル中の凝集体と同様な擬似結晶の状態
で存在すると思われる。これらの分子が吸着水の存在によって、アルミナゲル
中の錯体分子のように運動の自由度を有するか否かは、ESR結果からは判断
できないe擬似結晶化が起こるならば、錯体分子は運動を停止するであろう.
一方、イオン交換法によるガラス中では、シリカゲル表面に一様に分布する
交換サイトに結合した単核錯体カチオンのみが存在し、錯体カチオンの交換量
の増加に伴って単核種どうしの距離が短くなるので、凝集状態のスペクトルパ
ターンが観察されるようになる.
55
4.3.3 シリカゲルからの銅(ll)錯体の溶出
水を用いてシリカゲルから銅(H)錯体を溶離させる実験の結果をTable 4.1
にまとめた。
この表は、2つの方法で調製したゲル中の銅(il)錯体の存在状態の相違を
きわめて明瞭に示している。ゾルーゲル法によるガラスでは、複合体粉末を水
に投入すると、直ちに水は青色に着色し、一見して、錯体のほとんどがゲルか
ら溶出していることが知られた。ゲル中に残った錯体量は、初めのゲルの種類
(配位子がtrienか2,3,2−tetか、またモル比Cu1Siの大小)によらず、 溶
出後の組成Cu/Siで約1/1000∼1/200であった。濾過して得られた沈殿物の
ESRスペクトルは、錯体が極めて高い分散状態でシリカゲル中に存在するこ
とを明らかにした(単分子分散パターン;Fig.4.6参照)。この結果から考える
と、モル比Cu/Siが111000∼1∬200を超えてゲル中に導入される錯体分子は
ゲル表面の活性点に化学吸着(結合)されたとするよりも、単にゲルの表面で擬
似結晶化して、物理的に吸着されたとするほうが合理的である(このことにつ
いては、後に述べる)。
イオン交換法で調製したシリカゲルからの同様な実験では、錨体の溶出は雌
かであった。そして、溶出後のシリカゲルのESRスペクトルは、溶出前のも
Table 4. l Comparison of the amount ef dopant eluted 書輌th water
Preparation
method
Dopant
〔Cu]/[si] Percentage of dopant
in the gel elut.ed 胃iヒh 冒ater (X)
1110
93.8
1/25
80.3
1/100
75.6
1/IO
98.9
1/25
1/100
97.8
82.2
Cu−trien
1/25
1.3
Cu−2,3,2−tet
1/25
2.3
Cu−trien
Sel−ge1
Cu−2,3,2−tet
Ion−exchange
56
のと全く変化がなかった(凝集パターン)。
ここで、同じシリカゲルであっても調製力法の相違によって、ゲル表面の状
態(例えば、シラノール基数、細孔構造など)が異なるのではないか、という
疑問が生じる。次の一つの実験結果は、この疑問に対する間接的な回答を与え
る。 ゾルーゲル法で調製し、溶出実験を済ませた後のシリカゲルを0.3Mの
錯体水溶液に浸漬し、懸濁液のpHを11に調節(イオン交換と同様な操作)し
たところ、Cu−trienおよびCu−2,3,2−tetのいずれの錯体に対しても、モル
比Cu/Siが約1/25もしくはそれ以上にまで錯体カチオンが交換された。 そ
して、各ゲルのESRスペクトルは、イオン交換法によって同濃度まで錯体カ
チオンを導入したゲルと類似の‘凝集パターン’を示した。
それ故、両シリカゲルの表面の性質(主に、交換特性)はほとんど同じであ
るといえる。しかし、上述のように、両者は銅(皿)錯体をゲル中に取り込む
仕方において著しく異なる。
〇25 q30 e勇
B!T
『ig. 4.6 Roo■−t白■perature ESR spectra
O『 th白 silica gelS a「t白r elution
of the dopant lith冒ater.
Tl1白 801s 胃as dopgd 宥iしh Cu■2.312−t白t
by the sot−gel technique、
A,RPlハ0;B,R・1/25;C.R・11100
57
4.3.4 銅(皿)錯体の担体としてのシリカゲルとアルミナゲルの比較
ゾルーゲル過程において、TEOSの加水分解で生成したOH基はす民て他
の分子のOH基と反応して重縮合が進み、シロキサン結合の三次元的な発達に
よって溶液中に丸味を持つ粒子が形成される。作花ら8,は、このゾル粒子に対
してFig. 4. 7のモデルを提唱している。 OH基は粒子の内部にはなく、 シラ
ノール基として粒子表面にしか存在しないとすると、組成は近似的にSiO2と
なる。もちろん、これは一次粒子であって、それらが相互に、不規則にくっつ
いて細孔を有する二次粒子に成長し、二次粒子ががさらに集まって粒子の先端
で繋がるとゲル体となる(Fig. 4. 89,)。
II
1.〈./〔6;;ぶ\
㌔一/・一一一ゴ
11
Fig. 4.7 A ●odel of silica particie
prodllced in the solution ∨ia
three−di田ensional polyロerization,
このようにして得られたゲルの性質や構造を明らかにするために、有機染料
をゲル中に導入し、蛍光特性、光吸収特性、光化学ホールパーニング効果が調
べられていることは既に述べた(第3章)。いずれの結果も堅くて、剛性のあ
るゲルの性質を明らかにしている10)。
さて、銅(li)錯体をイオン交換法によって導入したゲルの場合には、錯体カ
チオンは粒子表面(多孔質であるので、粒子の種類にはよらない)に結合され
58
る.さらに飽和交換量(モル比Cu∫Siが約1/25)を超えて含浸(イオン交換で
はない)させたときには、錯体分子は二次粒子中の細孔または二次粒子が集ま
ってできた凝集体の細孔(Fig.4.8のb、 c)内にトラップされる。この過負
荷分は、例えば水によって、ゲルから容易に溶離するであろう。
一方、ゾルーゲル法によってゲル中に導入された錯体分子は、ドープ量が少
ない(モル比が約1/1000∼1/200)場合には、イオン交換によって導入される
が、多くなると、水で容易に溶出されるような状態で存在する。それでは、後
者の錯体分子は、ゲル体のどのようなところに分布しているのであろうか。も
し、上に述べたような細孔内表面にトラップされているならば(イオン交換の
ような結合形成によらず、単に物理吸着によって)、水で簡単に溶離されても
不自然ではない。Fjg.4.7のゾル粒子(一次粒子)の直径はたかだか数百Aと
されているが、もちろんこの中にも細孔が存在する9)。この細孔の詳細は明ら
かではないが、この極めて小さい空間(多分、疎水的な環境にある)に錯体分
子が擬似結晶化した状態で存在するとは考えにくいe 他の研究者ら1ωは、ゲ
(a) Pri■ary part icle5 (b) S白cond白ry
particles
Secendary particle
res
Pores
(O)AgglO■eration of second皐ry
partieles「oruing gel body
Fig. 4.8 Packing of gel particles and
for目ation of pores■
59
ル化の過程で有機分子をネットワーク中に取り込むと、その分散状態を保存し
て縮合固化し、分子は運動の自由度を完全に失うとする結論を得ている。ただ
し、 本研究で使用したゲル中の錯体導入量のモル比Cu/siは、1/100におい
て、すでにこれらの研究で採用されているシリカゲル中の有機分子濃渡よりも
約10倍高い。
なお、イオン交換法とゾルーゲル法で銅(皿)錯体を導入したシリカゲルの
ESRスペクトルは、錯体濃度が高い場合には、いずれも凝集パターンを示す
が、両者の凝集状態は本質的に異なると思われる。ゾルーゲル法によるゲル中
では、錯体は擬似結晶化していると推論した。しかし、イオン交換法によるゲ
ル中の凝集体は、錯体カチオンがゲルの表面で三次元的な広がりを持つことは
困難であるので、細孔内の向かい合った壁面でイオン交換された銅(皿)化学
種間の距離が接近している(銅(U)錯体分子の大きさは約10A)と考えな
ければならない。いずれにしても、ESR結果からは両凝集体の区別はできな
いし、凝集状態をさらに議論することも不可能である。
ベーマイトの結晶構造H,と、 その層状構造をa軸方向から見た分子の幾何
学的配列をFig.4.9に示す。
アルコキシドの加水分解で調製されたアルミナゾル(結晶学的にはペーマイ
ト)粒子は厚みが2.5∼3nmの平板状であることは、 X線回折やTEM測定な
どから、ほぼ一致した結果が報告されている12・ 13)。しかし、長手方向の寸法
≡i
Pt{≒⊥
(a} {b)
Fig. 4.9 Crystal structure (a) and ■01ecular 9白o簡eLry (b) of
boeh固itε.
60
については、4∼40nmと幅がある13・1 4)。 多分、調製条件の違いによるので
あろう。Leenaarsら12ハによると、ゾル溶液を乾燥してゲル化する過程で、粒
子間に働く毛細管力と粒子間反発力のバランスでゲルの微細構造が決まる。ゾ
ル粒子の凝集体の細孔分布には、凝集体内部と凝集体間での孔生成(上のシリ
カゲルのところで述べた、二次粒子中の細孔と二次粒子の集合体中の細孔に対
応)によって、二つの山が現われるはずである。実際には、約2.5nmに一っ
の山しか現われないのでt4・1 :’)、ゾル粒子の大きさと形、それらの積み重ねで
細孔構造が決まる。こうしてFig.3.4のcard−pack構造が決められた。
それでは、ゾル溶液に銅(H)錯体を加えてゲル化させると、錯体はどの部
分に、どのような状態でゲルガラス内にトラップされるのであろうか。 card−
pack構造から先ず考えられるのは、2.5nmの幅を持つスリット状の細孔内で
ある。アルミナゾル粒子(一次粒子)の内部はシリカゲルの場合とは様子が異
なる。シリカゲルの一次粒子内部には水酸基はないとしたが、Fig.4.9から明
らかなように、ベーマイト層間には水酸基が存在し、それら相互間の水素結合
が層状構造を保持している。 層間隔((020)面間隔に同じ)は、水酸化アルミ
ニウムの水熱処理i,)によって合成されたべーマイトの6.1Aと等しい。この
数値は、水分子が内部表面に水素結合できる程度の大きさであるが、水熱反応
で第二成分を層間に導入することによって容易に広げることができる1 7). し
かし、錯体分子(おおよそ10Aの大きさ)の導入によっては層間距離は変化
しなかったeそれ故に、錯体分子はべ一マイト層聞にではなくスリット状の細
孔内に停まると考えられる。その導入量の増加に伴い、錯体は単分子的な分散
状態から擬似結晶くと変化する(3.3.1)。 この場合の銅(ll)錯体の凝集状
態は、ゾルーゲル法によるシリカゲル中のそれと類似していると思われる.
ベーマイトの等電点は、測定者によって幅があり、pH7∼9に存在すると
報告されている:・H}。 ゾル溶液は、解膠操作のために塩酸を添加して・弱酸性
(pH3.8)に保たれているので、ゲル全体の表面電荷は正である.したがっ
て、錯体カチオンとの静電的な相互作用や表面水酸基とのイオン交換反応は考
えにくい。アルミナゲル表面に吸着された水分子を介しての水素結合程度の相
61
互作用を考えると、錯体分子の特徴的なESRスペクトルの挙動が、矛盾なく
説明できる。
以上のように、銅(皿)錯体の担体としてのアルミナゲルとシリカゲルとの
lbjの著しい相違が明らかになった。
4.3.5 銅(il)錯体でドープされたシリカゲルの加熱変化
第2章で詳述したように、 Cu−2,3,2−tetは約200℃で分解を開始し、大気
中(酸化雰囲気)および窒素雰囲気(不活性雰囲気)下の熱分解に対して、そ
れぞれ揮発性の塩化銅(1)二量体(Cu,C1,)および金属銅を生成した。この
ように、銅(ll)化学種は配位子窒素原子との間の電子移動によって容易に還
元される。
Cu−trienについては、単離の困難さのために熱分解過程の検討は行なって
いないが、配位子の構造は、2,3,2−tetと比較して炭素数が1つ少ないだけで
Table 4.2 X−ray diffraction results for the doped silica gels
heated at different temperatures under at■。spheres of air or
nitrogen
Airn
Nitrog帥
Te■pe「ature,
℃Cu−trieni}Cu。2、3.2−tet Cu−trien Cu−2、3、2−tet
S−G:, 1−E S−G I−E S−G I−E S−G I−E
200
300
400
500
600
700
800
: 二 : :
cG・二(C:・):
(ll:)−J:ci。:
1::(ci.)1::cG.
ll;二lll:
ll:9::ll:1::
CuO CuO CuO CuO
Cuo Cuo Cuo Cuo
Oncalcined sitica gels contain the co団pEexes in the Cu/Si ratio o『
1/25. Calcined specimen display scattered diffraction of amerphous
si1ica gel er glass except the oxide and ■etal of coPPer.
1) At田osphere
2) Dopant
3) S−G and I−E denote that dopants 特ere loaded 酎ith so1−gel and ion−
exchange techniques, respectively.
4) Products in parentheses indicat白 very poor dif『raction lines.
62
あり・錯体の安定性もほとんど同じであるので(log K、(Cu2・)は、 Cu−trien
が20.1、Cu−L2,3,2−tetが23.2)19⊃、 同一の分解過程が予想される。
Table 4・2から明らかなように、シリカゲル中の銅(il)錯体はゲルの調製
法、配位子の種類によらず大気中では酸化銅(皿)、窒素雰囲気下では金属銅
に直接熱分解された。これらの銅化学種が無定形のシリカゲルもしくはシリカ
(400℃以上の温度で無水のシリカが生成する)と共存する。
Fig.4.10にはイオン交換法によってCu−2,3,2−tetでドープされたシリカ
ゲルの熱分解生成物のESRスペクトルを示すe モル比Cu/Siは1/25であ
る。
200℃で加熱した試料では、線形はほとんど変化していないが、シグナル強
度が加熱前のものと比較して、約1e・一 30%(半定量的)にまで減少した。 300
℃以上では、シグナル強度は同様に1駕以下になり、銅(n)錯体によるESR
⊥________L−______L___L______一」__
025
OヨO
035 0.2S
BIT
030
035
B/T
Fig. 4.10 ESR sp白ctra o『 th6 8ilica gets ion−
e:ehanged ”itll Cu−2.3.2−tot in th白 Cu/Si
retio of 1!25加d fvrther calcined at
di「『白r白nt te■peratur臼s●
N ll■e『al8 0n curves 白瓦pr●85 h白ating te■P白ratu「●S
in centig『ad白.
63
シグナルは消失した。0.327Tに新たに観測される共鳴線と低磁場側の八面体
型配位の銅(ll)イオンに特徴的な超微細構造は、シリカゲルを銅(ll)塩のみで
ドープしたものの加熱物のスペクトル(&・2. 38、 A, =135×10“4cm−’;
以下、 このESR線形をシリカー銅(H)塩タイプ2°〕と呼称する)と完全に
一致する。そして、大気中の熱分解では、シリカー銅(1[)塩タイプのスペク
トルがそのままのシグナル強度(加熱前の強度の1%以下)で残り、窒素雰囲
気下では、有機ラジカルのシグナル(g=2.00)が出現した。Cu−trienでド
ープされたシリカゲルにおいても、各化学種の出現温度が異なる点を除いて類
似のスペクトルの結果が得られた(Table 4.2のX線回折結果と対応する)。
以上のイオン交換法で調製したシリカゲルのX線回折とESRの結果は、錯
体の分解直後においては、大気中で加熱された試料中の銅化学種が酸化銅(ll)
の凝集体および孤立した銅(ll)イオンの両方の状態で存在するのに対して、
窒素雰囲気下では金属銅クラスターが生成することを示唆する。そして、加熱
温度が高くなると、大気中の熱分解においては、 800℃でなお痕跡量の銅(皿)
イオンが残っており、この温度になってやっと酸化銅(U)の微小粒子がX線回
折で検出可能なほどに成長(結晶化)した。窒素雰囲気下でも同様に、還元に
よって生成した金属銅粒子(クラスター)が結晶性の微粒子に成長した。なお、
塩化物錯体を大気中で熱分解したときの生成物である揮発性の塩化銅(1)がシ
リカ中では認められないとしたが、神谷21}らがCu20−A] ,O,−Sio,ガラス系に
おいて、銅(1)イオンがガラス内部から表面に移動し、酸化銅(ll)の層を形成
するとした結果を考慮すると、熱分解過程で一価の銅化学種の生成も否定でき
ない。
シリカガラス中に結晶性の酸化銅(ll)あるいは金属銅が認められる温度は、
イオン交換法による複合体と比較して、ゾルーゲル法を用いて調製した複合体
の場合が200∼300℃低い(Table 4.2)。X線回折によって検出可能な酸化銅
(皿)結晶粒子が形成される温度は、テトラアンミン銅(ll)錯体水溶液でイオ
ン交換されたシリカゲルについての下川部らzz)の結果とよく一致する。 それ
によると、シリカゲル表面に保持される化学種はジアンミン銅(ll)カチオン
64
であって・交換量に応じて孤立状態またはクラスターの状態で存在した。そし
てN後者は大気中300℃の加熱で、高分散した酸化銅(H)(X線不検出)に熱
分解し、720℃付近でX線回折によって酸化銅(ll)が同定された。
イオン交換法によって調製されたシリカゲルの800℃の加熱で得られたガラ
ス中の銅化学種の粒子径は、 Scherrerの式を用いてX線回折線幅から計算す
ると、酸化銅(H)の(111)面に対しては約200A、金属銅の(111)面では
140∼200Aである。 これらの値はゾルーゲル法で合成されたゲルの結果と比
較してかなり小さい。イオン交換法のゲルのほうが銅化学種の粒子成長が遅い
という結果は、銅(H)錯体がこのゲル中で良好な分散状態にあり、しかもシ
リカ表面に固定化されて自由度を失っているとしたESRの結果を支持する。
しかし、ゾルーゲル法によるゲルの側から見ると、錯体がこのゲル中では擬似
結晶化し、したがって、熱分解で生成するクラスター状態の酸化銅(皿)また
は金属銅の結晶化と結晶成長が容易であるといえる。
いずれの方法でゲルを調製した場合にも、800と900℃の間で各化学種の結
晶性が著しく向上するが、アルコキシドの加水分解で合成されたシリカゲルの
ガラス化がこの温度近辺から生起するので、シリカの状態変化と同時に、微小
粒子が移動し、結晶成長が容易になるためと考えられる。
以上の熱分解の結果は、シリカゲルの調製方法の違いによって、錯体分子の
凝集状態が本質的に異なるとの推論(4.3.4)を支持する。
4、4 まとめ
イオン交換法とゾルーゲル法によってシリカゲル中にポリァミン銅(皿)塩
化物を導入し、ESRと吸収スペクトルを用いてゲル表面と錯体分子との相互
作用を解析した結果、以下の結論を得た。
1) シリカゲルは、表面水酸基のプロトンが錯体カチオンと容易にイオン交
換する。
65
2) イオン交換された錯体カチオンはゲル表面に均一に分散し、シラノール
基の酸素との結合により自由な回転運動を抑制される。
3) イオン交換された錯体カチオンは、その量が多い場合には、ゲル表面に
凝集状態で存在する。
4) ゾルーゲル法によってゲル中に導入された錯体分子は、その量が少ない
場合には、ゲル表面とイオン交換し、多くなるとゲル表面や細孔内で擬似結晶
化する。凝集体として存在する後者の錯体分子は水によって容易に溶離するこ
とができる。
5) イオン交換法とゾルーゲル法によるゲル中の錯体種の凝集状態は、本質
的に異なると思われる。
6) 錯体の担体としてのシリカゲルとアルミナゲルの相違は、主として、細
孔構造、表面電荷、表面の反応性において生じる。
また、上に述ぺた二つの方法で錯体分子を導入したシリカゲルの熱分解を行
ない、以下の結論を得た。
1) 大気中で熱分解された試料中の銅化学種は、酸化銅(H)の凝集体およ
び孤立した銅(ll)イオンであり、後者は僅かな量が高温まで安定に残る。
2) 窒素雰囲気下で熱分解された試料中の銅化学稲は、分解直後は金属銅ク
ラスターである。
3) イオン交換法よりもゾルーゲル法で調製したゲルのほうがより低い温度
で、X線回折によって、シリカガラス中に酸化銅(ll)あるいは金属銅が認め
られる。
4)錯体分子の導入方法の違いによる酸化銅(U)および金属銅の(X線回
折による)検出温度の相違は、シリカゲルと錯体分子の化学的な相互作用、錯
体分子の分散状態の相違が原因である。
66
文献
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69
第 5 章 有機高分子とシリカとの複合化
(有機一無機複合化)
5.1 はじめに
前章までは、少量の錯体分子でドープしたアルミナゲルおよびシリカゲルの
キャラクタリゼーションを中心に述べた。これらも狭義には無機一有機複合化
ということができる。
無機物と有機物の特徴を兼ね備えた新しい材料の合成にもゾルーゲル法が応
用され、特に右機物で修飾したシリケート材料の研究は盛んである。例えば、
ハードコンタクトレンズ材料1)、透過膜2,、シーリング材3)、リチウムイオン
伝導体4)、フレキシブル材料f’}などと枚挙に暇がない。
第5章では、水溶性の有機高分子として代表的なポリビニルアルコール(P
VA)とシリカゲルとの複合化と、合成された新しい材料のキャラクタリゼー
ションを行なう。本章におけるPVAとシリカ間の反応に関する考察は、主に
第4章で明らかにされた反応場としてのシリカゲル表面を別な角度から眺める
ことになる.
前半の部分は、PVAが比較的少ない場合の複合体(キセロゲル)の低温に
おける加熱変化についての検討結果である。
PVAは炭素鎖中にカルボニル基あるいはα,β不飽和カルボニル部分が存
在すると、加熱により着色することは既知であるω.丸山ら7・ S)は、塩酸、硫
酸、リン酸などで処理したPVA膜の加熱によるポリエン生成を吸収スペクト
ル法を用いて検討した。本研究の複合体も同様に、加熱によって着色するが、
70
それだけではなく、PVAの炭素鎖切断を示す有機ラジカルの発生が認められ
た. 室温もしくは50℃においてもPVA炭素鎖の切断が起こるが、この場合
にはオゾンや重クロム酸カリウムのような酸化剤が必要とされている9).60∼
100℃のような低温における、 こうしたPVAおよびシリカとの複合体の加熱
分解の報告例は見当らない。
後半の部分では、シリカに対してPVAを過剰に含む新しいタイプの複合体
ハイドロゲルの合成といくっかの興味ある性質について述べる。
PVAハイドロゲルは医用材料として魅力的な特徴を持つ。即ち、生体適合
性に優れ、様々な分子およびイオンをよく透過し、PVA重量の数倍から十数
倍の水を含むことができる。このゲルの欠点の一つは、高含水率を保持しよう
とすると、機械的強度が低下することである。他の欠点は大気中で乾燥しやす
いことである.第一の問題点はゲルの調製方法を工夫することで解決されてい
るが1田、水分の保持性を高め、脱水速度を遅くするための試みは少ない’ 1)。
なお、PVAとシリカとの複合体については、既にいくつかの知見が存在す
る12・13)。 PVAとTEOSからキセロゲルを合成した日野ら1 3ハの例はある
が、ハイドロゲル調製の報告は存在しない。
5.2 実験
PVA一シ1
ム セロ’レ ム
PVA(アルドリッチ社製)は、
これに
平均分子量86000、けん化度100Xのものを10X水溶液で使用した。
TEOSと触媒としての塩酸を加えて激しく撹枠すると、TEOSが発熱を伴
って加水分解し、均一な水溶液になった。溶液はガラス板上に薄く広げて室温
で乾燥し、得られた膜はそのままあるいは粉末にして試料(以下では複合体と
略称する)とした。モノマー単位のPVAとTEOSとのモル比(R)は0.5
に調整した.比較のためのPVAのみの試料はPVA水溶液に塩酸を加えて、
同様にして得られた膜である。塩酸の添加量はモノマー単位のPVAに対して
71
モル比で1/10であった。
ム セロ’ルの 几 と1:’ の z ’
PVAのみの膜および複合
体試料は60あるいは100℃の恒温槽中で所定時間加熱後、生成した着色物質
の分析を行なった。IRスペクトルは、DR−81型粉体反射測定装置装備の
日本分光製FT/IR−8000型を使用し、臭化カリウムを標準とする拡散
反射スペクトル法で測定した。ESRスペクトル測定には、ESR管中に緩く
詰めた試料を、そのままで加熱したものを用いた。スペクトルの経時変化には
同一試料を繰り返し使用した。
熱分析、吸収スペクトル、ESRスペクトルの各測定については第2−4章
を参照。
PVA一シリカ ム ハ “ロ“ルの△ 複合体ハイドロゲルの調製過程
をFig.5.1に示した。平均分子量約75000、けん化度98∼991の完全けん化
型のPVA(ユニチカ社製)を使用した。10gのPVAを水100gもしくは
同重量の50毘(容量)エタノール水溶液または80叱(容量)ジメチルスルホキ
シド水溶液に溶解し、TEOSを加えてモノマー単位のPVAとTEOSのモ
TEOS
ltc 1
(lleating at 120℃for 41tr
in a t白flon auLoclaΨθ)
(Freezing aい20℃for 24 hr followed by
田elしing at 5℃for 24 hr;This cycle vas
repeated t”ic白)
PVA−sillca compos lte llydrogel
Fig. 5.1 Preparation of PVA−siiica
compesite hydrogels: Helar ratios
of HCl and PV」A monomer residue to
TEOS are O.05 and 5 er 10,
respectively.
72
ル比(R)が5もしくは10になるように調製した。 触媒として少量の塩酸
を加え、テフロン製オートクレープ中でTEOSを加水分解すると、粘稠で、
透明な均一溶液が得られた。 この溶液からのハイドロゲルの形成は、玄ら1旬
の方法(凍結低温結晶化法)によった。生成したゲル体は弾性を有するが、粘
着性はなかった。使用前に、蒸留水に浸漬し、ゲルに含まれる有機溶媒と酸を
完全に溶離した。
なお、ゲル中の成分含有量は、原則として重量百分率で表現する。
ハ ・ロ’ルの ・お レオロジー・1 応カー歪み曲線はインスト
ロン型万能引っ張り・圧縮試験機を使用し、温度20℃、相対湿度65Xで記録
された。測定後、試料の切断状態を観察し、挟み(チャック)の際で切れたも
のはデータから除外した。測定点10の内の最大値と最小値を除いたものの平
均値を採用した。試料は内径1.8m皿のガラス毛細管中で成形したe
動的弾性率E’は、引っ張り強度試験に用いた試料と同様の紐状ゲルで、 そ
の長さ方向に加えられた振動に対して測定された。
一 明石製作所製走査電子顕微鏡WS−250型を使用し、加
速電圧30kVで測定した。 試料はゲルの細片を凍結乾燥して作成した。
5.3 結果と考察
5.3.1 ポリビニルアルコールーシリカ複合体キセロゲルの低温加熱分解
Fig.5.2に大気中で測定した複合体のTG結果を示す。
定速昇温TG曲線(実線)における130℃付近までの約15Xの減量は、対
応するDTA曲線に吸熱反応が認められるので、脱水によると考えられる・60
および100℃における等温TG曲線(それぞれ、点線と鎖線で示す)では、開
始後2∼3時間以内の急激な減量の後に、緩やかな減tが長時間にわたって続
き、定速昇温TG曲線の変曲点の15X付近で恒量になった. 分析後の試料は
73
TefnFN?ra†ure、 cて
00
100 200 300
400
。x°
ゴ
.9
聖
.Eio
望
0 5 10 15 20
heating †i
me, hr
Fig. 5.2 T(l and isothermal TG curves of the
PVA−silica co■posite.
TG curv白 (一): Isother■al TG curves
at 60(・一・・一)and lOO(一一…)℃
いずれも光沢のある黒色であり、大きな粒状試料を加熱した場合には、粉砕時
にタール臭を発した。
100℃の熱分析後の試料の元素分析結果は、Cが7.85脇Hが2.63Xであっ
た。複合体の原料の仕込み比(R;ここでは、0.5)、複合体を大気中で1000℃
まで加熱した後の残渣61.9X(sio2に相当)を用い、100℃の等温TGにおけ
る恒量値15駕を吸着水の脱離とPVA主鎖からの脱水によるとして概算した
加熱後の複合体のC、H含量は、それぞれ14.5および2.5%である。C含量
(分析値)が計算値の約半分になっているが、 100℃において、脱水のみなら
ずPVAの炭素鎖の切断によるガス成分(例えば、一酸化炭素、二酸化炭素の
ような)の発生を予想させる。
本実験の条件下では、塩酸が共存しないとPVA膜は全く着色しないし、複
合体も粉末試料を蒸留水に長時間浸漬して、塩酸を溶出後加熱すると変化は認
められなかった。PVAの加熱によるポリエンの生成において、塩酸、硫酸な
どの触媒作用はよく知られているところである14)。
Fig.5.3には、 Fig.5.2の100℃までの分析終了後の濃い着色試料のIRス
74
Wヨve r1」mbeら㎝・司
Fig. 5.3 FT−IR spectru■ of the PV」‖rsilica
co田posit白after isether■al TG at IOO℃.
ベクトルを示す。約950cm−1の吸収帯は、
加熱前の試料にも存在し、 Si−o−cによる4’
1 3}。 この吸収の強度はRが大きく(シリカ
含量が少なく)なると減少するが、加熱によ
っては変化しない。このような結合は、酸触
5
媒でTEOSとポリエチレングリコールを反
1ipmtwwttwvei i
応4}させても、またシリカゲル粉末を弱酸性
でPVA水溶液に浸潰後乾燥させても形成さ
れる。1650CM’1付近には共役二重結合の生
成を示す吸収帯も認められ、PVAからの脱
水が起こっていることを示唆した。
加熱により着色した膜の吸収スペクトルは
280∼480n田の範囲に微細構造が存在し、丸
山らs}によってnが2から7に帰属されたポ
リエンー(CH・CH).一の結果とよく一致する。
しかし、吸収スペクトル測定からは、PVA
30 ヨ5 40
B,’r
Fig. 5.4 Roo■−te■per亀tur● 菖SR
spect「a of th● PVA−3ilica
単体と複合体の分解挙動の闇には相違は観察
されなかった。脱水に伴う共役二重結合の形
成は、ボリァセチレン様物質の生成にも関わ
75
eonpos t te.
Sa叩les vere h8ated at 60℃;
Nu■bers oo curves denot白 h白atiロ9
ti■e in day5; Sp●ctra e瓦c白pt
upper on8 ha甘e a g一Ψ巳1u臼 of 2●00.
るが、60℃加熱による粉体の体積抵抗率の変化は、約5日後(次に述べる有機
ラジカル発生の時期とほぼ一致する)から僅かに減少に転じただけであった。
PVAの炭素鎖が切れているとすると、有機ラジカルの生成が考えられるの
で、60℃で加熱した複合体の室温におけるESRスペクトルを測定した。 Fig.
5.4はその結果である。
加熱開始5日後に9値2.00の有機ラジカルのシグナルが僅かに認められ、
加熱を続けるとその強度は増大した。PVAのみの場合にも同様な結果が得ら
れた。したがって、60℃という低温でPVAの炭素鎖の切断が起こっているこ
とは確実である。 有機ラジカルのシグナル強度の経時変化はFig.5.5のよう
になった。同じ増幅度における比較であるので、有機ラジカルの検出までの時
間がPVAでは極めて短いことが分かる。 そして、20日付近までは強度は単
調に増大するが、その後複合体とPVAとの間に再び差異が生じるe
こうした分解反応には、発生したラジカルが炭素鎖の切断の開始剤となって
連鎖的に反応が進行する場合と、ラジカルが安定なために、引き続くラジカル
の生成が加熱温度もしくは加熱時間に依存して増加する場合とが考えられる。
=10
止E
完コ
s∼}
口巴
田芸
コ編
言5一
ξ
竃
三
.窒
玉
遼
1 10
kUting 十i爬」 dy
Fig. 5.5 Relative intensities of ESR signals of the
organic radicat as a function of heating ti田e
at 60℃.
T胃o curves were obtained at the sa皿e amplification.
PVA−sitica co回posite (△); PVA alone (O).
76
PVAの低温加熱によって生成するラジカル種は後者である可能性が大きいけ
れども・その安定性を検討していないので断言はできない。
上述した複合体中のSi−O−C結合が、 PVAの炭素鎖上に一つおきに存在す
るアルコール性水酸基とどの程度の間隔で形成されるかは明らかではない(も
ちろん・Rにも依存する)が、結合自体は次のいずれかに違いない。この結合
は乾燥条件下(水が存在しないとき)では極めて安定である(Fig.5.3参照)。
CH2
/\/
CH
O
l,
/1\
ノkノペ/
CH CH
l 1
0 0
\/
Si
/\
(1)
(皿)15)
したがって、 Si 一一〇−C結合がPVA炭素鎖切断の歯止めの役割をし、複合体に
おいては加熱初期の有機ラジカル検出までに長時間を要し、さらにその生成量
の増加が頭打ちになるのであろう。なお、このような切断反応には、大気中の
酸素の関与が十分に予想されるので、今後窒素ガスのような非酸化性気体の雰
囲気下での同様な実験が必要であると思われる。
5.3.2 ポリビニルアルコールーシリカ複合体ハイドロゲルの二、三の特性
Table 5.1に示したように、水によって複合体ハイドロゲルから溶離される
ケイ酸量は僅かである。 シリカ含量が少なく(R・10)なると溶出が容易に
なる傾向があるが、 R・5の試料では溶出量はもとのゲルに含まれるケイ酸
の2%弱である。溶出後の試料の外観は、もとのゲルと比較して何らの変化も
なかった。これらの結果は、複合体ハイドロゲルが水中での分解あるいは崩壊
に対して耐性があることを示す。 このような耐水性は、Si−o−c結合形成(原
77
Table 5.1 Concentration of silicic ac三d eluted
into distilled 冒ater■)
Concentratien o『 si工icic acid, b} ppm
R’)
Dipping ti薗e, days
1
3
7
5
3・94(1.2)’1 5.81(1.8)
5●96(1.9)
10
2.33(1.4) 4.63(2.8)
9.78(5.9)
a)One gra回of gel胃as dipPed in 100 ■l of distille〔1
冒ater at roo■ しeNperature and the a瓜ount of
eluted silicic ac三d 冒as spectroPhoto■etricalユy
determined by the 阻olybdenu田一blue method.
b) Disti1正ed 冒ater stocked in a volu■eし【・ic fiask.
0.04PP面
c) Hotar ratio of PVA 田ono阻er residue/TEOS
d) NuNbers in pa rentheses represent the percentage
of silica eluted fro鼠 the ori菖inal hydrogel.
料をオートクレープ中で加熱時に達成される)によると考えられる。ゲルの乾
燥によって得られた複合体フイルムは、この化学結合に起因する950cm−1の
強い吸収帯を示し、吸収強度はシリカ含量に応じて変化した(5.3.1参照)。
シリカ表面におけるこのような結合Si.−o−C(添字sはシリカ表面を表す)
は、アルコール以外にもカルボン酸、塩化カルボニルなどとの間でも形成され
る16}。 したがって、TEOSが加水分解する時にエトキシ基がエステル交換
するような反応でPVAとの間に結合が形成されると考えられる。後に述ぺる
ように、DMSOやエタノールなどの有機溶媒を多量に含む溶液から調製され
た複合体ハイドロゲルは、肉眼観察では、均一で、しかも極めて高い透明度を
有する。もし、TEOSの加水分解によって、まずシリカゲルが生成し、その
表面にPVAが結合した(相分離)とすると、両者の屈折率の相違によってハ
イドロゲルは白濁して見えるであろう。
なお、シリカゲル表面とPVA(一般的には、極性の有機化合物)の水酸基
が水素結合し、PVAが表面上に一一reを形成するように配向したとき、 PVA
の疎水部分が外表面を覆うので凝析に至る、コアセルベーションなる現象も認
められない。この現象は、酸性条件下で、上述のような条件に見合ったときに
78
生起するが・5・3・1のキセ・ゲルの場合と同様、ハイド・ゲルにおいても、シ
リカとPVA聞のこのような相互作用は考慮の必要がない。
Fig・ 5・6では・硫酸デシケーター中に複合体ハイドロゲルとPVAハイドロ
ゲルを放置し、所定時間毎のゲルの重量測定によって両者の脱水速度を比較し
た。PVAゲルが12時間以内で恒量に達するのに対して、 R・5の複合体
ゲルは24鞘以上を要するeまた、アセトンはPVAの貧溶媒であるので、
これらのゲルを水とアセトンの混合溶媒中に放置すると、水を放出して著しく
収縮(初期重量を1とした重量減少率で表わす)する。Fig.5.7から明らかな
ように・この収縮は複合体ゲルの場合には抑制された。両ハイドロゲルの脱水
特性の相違から、複合化によって水が放出され難くなることは明白である。す
なわち、複合体ゲルはPVAゲルよりも水分の保持性において優れる。
ゲルの引っ張り強度試験結果をFig.5.8に示す。複合体ハイドロゲル(B、
CおよびD)の引っ張り強度は約2.5kg/cmzであり、 PVAゲル(A)の約
5倍である。 PVAとTEOSのモル比Rを20から5まで変化させて調製
したゲルの引っ張り強度は、Rが10まではTEOS濃度の増加とともに増大
ポ8
ぎ
=6
富4
12 24 ヨ6 48
Time. hr
pig. 5.6 Dehydratien of hydrogels at 25 ℃.
Desiceant. 1 : l aqueous sulphuric acid:
a. PVA−silica co■posite hydroge1 (R = 5);
b, PVA−5ilica co■posite hydrog白1 (R = 10);
c, PVA hydrogel. The dotted line (100 X)
denotes eq凹ilibriu■ gel veight.
79
し、Rが7以下では逆に低下した。原料の仕込み量から計算したR・10の
ときのハイドロゲル中のシリカ含有量は約1.3Xである。この値を超えると、
無機高分子の脆い性質のために、壊れやすいゲルが生成する。Fig.5.8の下に
凸の応カー歪み曲線から、ゲルの力学特性と生体組織のそれとの間に類似性が
認められる(一般に、プラスチックス、エラストマー、繊維などは上に凸の応
カー歪み曲線を示す)。有機溶媒を含む溶液中で結晶化(換言すると「凍結」)
されたゲルCおよびDの引っ張リによる伸度は、水中で結晶化されたゲルAの
1.5から2倍にも達する。
ゲルCおよびDは極めて透明性が高く、水中ではその存在を認め難いほどで
あった。他のゲル(AおよびB)は白色、半透明であった。CとDのゲルに特
徴的な外観は、水よりも凍結温度が低い混合溶媒中で凍結させたために、ゲル
化が系全体にわたってより均一に生起したためであろう。そして、これらのゲ
ル(CおよびD)の伸度の増大もまた均一なゲル化に起因すると考えられる。
70
60
『40
聖’
竃
・E一
吉30
あ04
20
le
00 100 200 300 400
Acetone臼nc口, voし%
St rein,%
Fig. 5.? Shrinkag白 of PVA and PVA−silica
己o卯osit白hydr賠elS in aqueoas ae飢01旧
呂01“めn.
Sbr{寵暗e was exp門ssed輌fi L白ロsΩ「the
鞠{gkt doo簡a3臼of tlte hydrogets.
o.PVA g国;
ロコ蝋一si!ica co皿p酷ite菖e匪(R・Io);
△, PVA−sil三ea {;t」菰po霊it6 9BI (R = Fig. 5.8 Str白s5−5train curves for
PVA−5ili¢a comp[}site hydrogels.
Sa穐Ples tiere prepared in a gl且ss tube
ロith the in呂ide diameter of 1噛8 ■田;
L白ttcrs on curves are しhe s且me as
these 三n Table 5。2;
5)
8xtensien rate:200田田/団三n
80
Table 5白2 Dyna■三c 邑odu正us of PVA−silica co団posite
hydrogels
Symbo1
Hydroge1
A PV且(冒ater)・)
B PVA−silicab, (1ater)
C PVA−silica (50 vol苫 EtOH)
D P?A−silica(80 v。ぱDHSO)
EtX 10”(N/nt)
L56
5.50
8.85
10.3
Conditions: frequency adapしed, 1.00 Hz; at■osphere,
vater thertuostatted at 25℃.
a) The sotvent of original PVA soLutions i3 d白sig−
nated in parentlleses.
b)R・10
ハイドロゲルの動的弾性率E‘をTable 5.2にまとめた。各ゲルのレオロジ
ー的特性はそれらの引っ張り強度と相関している。 ゲルDのPVA濃度は9X
以下であるが、 その動的弾性率E’は15XのPVAハイドロゲルの特性1・7ハに
も匹敵する。
ハイドロゲルの凍結乾燥後のSEM写真(Fig.5.9)は、 多孔質網目構造の
形成を明らかにした。PVAハイドロゲルの乾燥には臨界点乾燥を用いること
が多いが、ここではそれによらなかった。同一乾燥条件ではPVAゲルと複合
体ゲルの比較は可能であると思われる。複合体ゲルはその網目がより太い紐で
できており、あたかも数珠玉(直径約O.2pm)の連鎖のように見えるe即ち、
その一部でPVAに結合している無機高分子は、ゲルの補強繊維のような役目
を果たしていると考えられるeFig.5.6で明らかにした複合体ゲルの良好な水
分の保持性は、網目が細かく(紐が太くなったために細孔径が小さく)なった
こと(小さい細孔中ほど飽和水蒸気圧が低くなる)と、ゲル中に散在するシラ
ノール基の水分子に対する高い親和性に起因する。なお、SEM写真から読み
取れる網目構造の紐の直径は、0.1∼0.2pmであるが、紐の内部にはさらに微
細な構造(必ずしも網目構造であるとは限らない)が存在すると思われる.複
合化による影響は、この微細構造そのものにも及ぶであろう。
以上のように、PVAをシリカと複合化して合成された新しいタイプのハイ
ドロゲルは、水分の保持性が良く(初期の脱水量が少ない)、力学特性に優れ
81
る。前者の特徴は、ソフトコンタクトレンズには欠かすことができない性質で
ある。また強靱さは、機能性材料および医用材料1°・18)としてのゲルの応用範
囲を広げることが期待される。
a
b
Fig. 5.9 SEM phoしographs or hydrogels lyophilizcd:
b, PVA− silica comPosite hydroge1 (R ニ 5).
82
a, PVA hydrogel;
5.4 まとめ
ポリビニルアルコール(PVA)水溶液中でテトラエチルオルトシリケート
(TEOS)を加水分解して得・られた均一溶液を、室温で風乾することによっ
て複合体キセロゲルを、また凍結低温結晶化させることによって新しいタイプ
の複合体ハイドロゲルをそれぞれ合成した。キセロゲルは低温における加熱変
化を、ハイドロゲルは脱水挙動(水分の保持性)、力学特性およびレオロジー
的特性などを調べた。
キセロゲルについての検討結果をまとめると、
1) PVA一シリカ複合体は、 大気中、60∼100℃の低温で分解して共役二
重結合を形成するとともに、炭素鎖の切断によって有機ラジカルの生成が認め
られる。
2) 少量の塩酸を含むPVA膜も同様な加熱挙動を示すが、複合体よりも短
時IEIでラジカルが発生し、発生量も多い。
3) PVAとシリカ間の化学結合(Si−o−c)が炭素鎖の切断を抑制すると推
論される。
ハイドロゲルについての検討結果をまとめると、
1) PVA一シリカ複合体ハイドロゲルは、弾性に富み、粘着性はなく、水
中では白色、半透明であり、有機溶媒中では高い透明性を示す。
2) 水中における複合体ハイドロゲルからのケイ酸の溶出は僅かである。
3) 複合体ハイドロゲルの脱水速度は、PVAハイドロゲルのそれと比較し
てかなり遅い(水分の保持性がよい)。
4) 複合化によって、力学特性とレオロジー的特性はともに向上する。
5) 化学結合(Si−o−c)形成によるゲルの微細構造の変化が、ゲルの物性向
上の原因であると思われる。
83
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18)
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85
第6章 結論
本論文は、アルミナおよびシリカ両酸化物ゲルの表面に形成される反応場の
重要な性質および働きの一部を明らかにしたものである。
そのために、アルコキシドを出発原料とするゾルーゲル法によってポリアミ
ン金属錯体分子をアルミナゲルおよびシリカゲル中に導入し、錯体分子の運動
の状態、その分散と集合の状態、ゲル表面との反応の解析結果に基づいて、ゲ
ルの構造、細孔構造、ゲルの吸着水の性質および表面水酸基の反応性について
考察した。また、表面反応場利用の試みとして、ゾルーゲル法を応用してポリ
ピニルァルコール(PVA)一シリカ複合体を合成し、複合化の有効性を検討
した。
全体は6つの章からなる.第1章では、ゾルーゲル法の概略と、この方法で
合成されるアルミナゲルおよびシリカゲルの構造や表面の性状に関して、現在
までに明らかにされているところを紹介し、本研究の目的と意義を述べた。第
6章には、本研究によって得られた結果および新しい知見をまとめた.
以下に、本論である第2章から第5章までの内容を要約した。
第2章では.以下の章で使用するポリアミン銅(u)およびニッケル(E)錯体
を合戒し、それらの熱分解過程を熱分析、X線回折、ESRなどの手法により
換討した9ポリアミンは環状および鎖状のテトラアミン、金属塩は塩化物と硫
酸裏を揖いたe
1) 配髭子の窒素原子と金属イオン間の電子移動によって、二価の金属イオ
ンの遼元が鍾撮で、L寿も容易に行なわれる.
2) 銅(獅の壌化物錯捧は熱分解によってヤ窒素雰囲気下では金属銅と炭
嚢欝物霧窮嚢音物z大気中では塩化銅(1)を生成した.
86
3)銅(1日の緬塩蹴は熱分解}こよって躍素雰蹴下では硫化銅(D
と炭素質物質の混合物N大気中では酸化銅(ll)を生成した。
4)ニッケル(ll )の塩化物錯体は熱分解によって、窒素雰囎下では錨
ニッケルと炭素質物質の混合物、大気中では酸化ニッケル(ll)を生成したtr
第3章では、第2章で合成した銅(皿)とニッケル(ll)の塩化物錯体をゾル
ーゲル法によってアルミナゲル中に導入し、ゲル中の錯体分子の挙動を、熱重
量分析・ESRx吸収スペクトル測定により解析した。その結果、吸着水の性
質・ゲルの細孔構造・ゲル表面と錯体分子の相互作用などに関して新しい事実
が判明した・また・ゲル中の錯体の熱分解挙動が第2章の結果と比較された。
1) ゲルの吸着水は・ゲル中でさえ錯体分子の運動を可能にするほどの流動
性を持ち、水分量の増減によって錯体分子の運動と停止が可逆的に生起する。
2) 吸着水分量の増減によって、錯体分子はゲル表面において分散と会合を
繰り返すことから、吸着水は連続した溶液系をなす。
3) 吸着水分量の増減によって、可逆的な錯体分子の生成と分解が起きるこ
とから、吸着水は表面反応場を制御する。
4) ゲルの細孔構造は、Leenaarsらの提唱によるcard−pack構造(平板状
のゾル粒子の積み重なリ)によって形成されるスリット状が妥当であると考え
られた. 錯体分子はこの細孔内に、水素結合による吸着、もしくは、A 1 一一 O−Cu
またはA1−o−Ni結合形成によって保持されることを確認した。
5) ゲル中における錯体の熱分解挙動は、錯体単体の場合とは異なり、大気
中では複合酸化物(CuA1,0,、 NiAl20n)、窒素雰囲気下ではアルミナ中に分散
した金属微粒子が生成した。ゲル表面における結合形成が、複合酸化物の生成
を容易にすると推論したe
第4章では、イオン交換法とゾルーゲル法によってシリカゲル申にポUアミ
ン銅(ll)錯体を導入し、ゲル表面と錯体分子との相互作用を解析した.そし
て・第3章のアルミナゲルの結果との比較を試みたPシUカゲル中の錯体⑳熱
分解挙動についても述民た。
1) ゲル表面でイオン交換された錯体カチオンはゲ」レ中に固定されて、均一
8†
に分散する。すなわち、錯体種はESRタイムスケール内で運動を停止する。
しかし、その交換量が増加すると、凝集状態でゲル中にトラップされる。
2) ゾルーゲル法によってゲル中に導入された錯体は、その最が多い場合に
は、凝集状態でトラップされ、水で容易に溶離された。この凝集体は、イオン
交換によって導入された錯体種の場合とは本質的に異なると思われた。
3) シリカゲルとアルミナゲル中の錯体分子の挙動は著しく異なり、その相
違は両者の細孔構造、表面電荷、表面の反応性などの違いに起因する。
4) ゲル中の錯体分子は、熱分解によって、大気中では酸化銅(ll)の凝集体
と僅かな量の孤立した銅(H)イオン、窒素雰囲気下では金属銅を生成した。
第5章では、ゾルーゲル法を応用してPVA一シリカ複合体キセロゲルおよ
びハイドロゲルを調製し、低温熱分解挙動、力学的およびレオロジー的特性な
どの解析により、複合化においてシリカゲルの表面反応場が有効に利用されて
いることを確かめた。
1) 複合体キセロゲルはPVA単体と同様、塩酸の触媒作用により大気中、
低温(60∼100℃)で分解して、共役二重結合を形成するとともに、炭素鎖の
切断によって有機ラジカルを生成した。複合化により形成されるSi−0−C結合
が炭素鎖の切断を抑制すると推論した。
2) 複合体ハイドロゲルは、弾性に富み、粘着性はなく、有機溶媒中で調製
すると透明度の高いものが得られた。複合化による水分の保持性、力学的およ
びレオロジー的特性の向上は、化学結合(si−o−c)形成によると推論した。
錯体分子を導入したアルミナゲルおよびシリカゲルのキャラクタリゼーショ
ンによって得られた知見は、機能性有機分子などの固定と分散、触媒化学の分
野においては、活性物質の分散と微粒子化などに有用な情報を提供すると確信
する。また、本研究で新たに合成されたPVA一シリカ複合体ハイドロゲルの
優れた物性は、機能性材料および医用材料としてのゲルの応用範囲を広げるこ
とが期待される。
88
謝辞
本研究を計画し・組み立て・遂行する過程で、常々適切なご指靴ご教示を
賜リました静岡大学工学部横井 弘教授に心から感謝申し上げます。長年にわ
たって錯体化学の分野の第一線で活躍され、ESR分光法を専門とされる同教
授の豊かな学識と柔軟な発想に基づくご助言は、研究に新しい発展を与え、実
験結果の解釈に新たな視点を拓きました。そして、時には厳しい励ましのお言
葉を通して・研究者として独立するための’b構えをお教えいただきました。
本論文作成にあたり、静岡大学工学部小林純一教授、静岡大学電子工学研究
所福田安生教授、静岡大学工学部吉田 弘助教授、ならびに同山田真吉助教授
は・粗原稿を丁寧にご検討くださり、適切なるご意見を賜りました。ここに記
して、感謝の意を表します。
静岡大学工学部中村高遠助教授には一部のESR結果の解釈(第2章および
第3章)・吉田 弘助教授には高分子中の化学結合とその安定性、高分子の熱
分解(第5章)、静岡大学工学部中野義夫教授、木村元彦助手ならびに今井一
喜氏には弾性率測定(第5章)に関して、それぞれ、有益なご助言やご援助を
いただきました。
実験の遂行にあたっては、静岡大学工学部合成化学科の次の卒業生諸氏の多
大なるご協力を得ました。河北宏一、中迫繁森、吉田信幸、高野新治、野元栄
吾。共同研究者の小澤房治技官を実験の半ばに失ったことは大きな痛手であり
ました・池田和義技官は私の多忙なときの公務の一部を快く補佐してください
ました。以上の方々に心から感謝いたします。
引っ張り強度試験は静岡県浜松繊維工業試験場の大石光一氏にお願いしまし
た。PVAはユニチカ株式会社から提供していただきました。ここに、深甚な
る謝意を表します。
最後に、多くの先輩諸兄ならびに知己、さらに両親、妻の純子と二人の子供
たちの有形無形の励ましが、精神的な支えになったことを記しますe
なお、 本研究は、1987年4月から1990年3月にかけて静岡大学工学部
応川化学科において行なわれました。
89
本研究に関する主要論文
1) S.Ikoma, K. Kawakita, F. Ozawa and H. Yokoi, °Fluidity of Adsorbed
Water in Alumina Gels as Studied by ESR of CoPPer(1) Complex
Probe°, Chem. Lett., 1988[2],363−366.
2) S.1koma瞥 S. Takano, E. NomoLo and H. Yokoi, 目Comparative Studies on
the Silica Gels Doped with Polyamine CopPer(E) Complexes by
Ion−Exchange and Sol−Gel Techniques°, 」.Non−Cryst. Solids,
113[2−3],130−136(1989).
3)生駒修治、吉田信幸、河北宏一、横井 弘、 “ゾルーゲル法によってポリ
アミンニッケル(皿)および銅(ll)錯体をドープしたアルミナゲル中の
錯体分子の挙動”、日化、1990[3],337−339.
4) S.Ikoma, K. Kawakita and H.Yokoi, 恒Characterization of Polyamine
CopPcr(fi) Complex−Doped Alumina Gels Prepared by the Sol−Gei
Technique°, J.Non−Crysし. Solids, 122[2],183−192(ユ990).
5) S.Ikom’a, S. Nakasako and H. Yokoi, “Thermal Decomp白siLion of CopPer−
(il) Polyamine Complexes’, Bull.Chem. Soc.J pn., 三n press (旦旦[i2],
3692−3694(1990)掲載決定).
6)生駒修治、野元栄吾、横井 弘、 “ポリビニルアルコールーシリカ複合体
ハイドロゲルの合成と二、三の特性”、高分子論文集、印刷中(47[12],
1001一正004(1990)掲載決定).
7)生駒修治、野元栄吾、横井 弘、 “ポリピニルアルコールーシリカ複合体
の低温加熱分解”、高分子論文集、印刷中(48[1](1991)掲載決定).
90